2017年02月03日

◆生殖補助医療の進歩

渡部 亮次郎



知り合いの弁護士が昨年、最高裁判所の判事に任命されて、2006年9月4日に凍結保存した夫の精子で夫の死後に妊娠、出産しても法律上の父子といえるかどうかが争われた裁判に判決を出した。

判決は妊娠前に既に父親が生存していない子の出生を、法律上も認めることについては、「本来、子は両親が存在して生まれてくる」「親の意思と自己決定を過大視したもの」と述べている。

凍結保存した夫の精子で夫の死後に妊娠、出産しても法律上の父子とはいえない、つまり現行の法体系では実子とは認められないとの判断を示した。原告の母親(西日本)は敗訴した。

しかし同時に判決は、「立法によって解決されるべき問題だ」と指摘した。。問題は司法にあるのではなく、国会が新事態に対処する法律を早く作るべきだと言っているのである。
生殖補助医療の進歩に、どう対処すべきか。最高裁が、新たな法制度の整備を求める一歩踏み込んだ判断を示したものといえる。さすがである。

現在の民法では死後の生殖を想定していないとし、「法律上の親子関係は認められない」と結論付けているのは常識的ではあるが、その上で法体系の整備を助言したところを評価したい。

もともと控訴審の高松高裁は一昨年、血縁上の親子関係があるうえ、夫も生前、この手法に同意していたとして、法律上の父子関係を認めていた。

これに対し、同種の訴訟で、東京、大阪の両高裁は認知することを否定しており、高裁により判断が分かれていたもので、最高裁の判断が待たれていた。

遺伝上の父子なら、たとえ父親の死後でも、法律上の父子と認めてやりたいと考えるのは人情だ。とはいえ、現行の法体系では親子関係を立証できないのだから、人情論は貫けなかったのは当然と言うことにはなる。

しかし、判決には裁判官の補足意見として、今回のような妊娠は「自然の摂理に反する」との見方も付けられているものの判決が、この問題にとどまらず、生殖補助医療の現状に危惧(きぐ)を表明し、助言したところが注目点だ。

死後生殖だけでなく、他の夫婦の子を代わって宿す代理母、第3者からの精子や卵子の提供、妊娠前と妊娠中の遺伝子診断による妊娠継続の判断技術など、さまざまな手法が普及している。

しかし、法律は事態に遅れたまま、何ができて、何が許されないかは、医学界や、個々の医師の自己規制に委ねられているのが現状である。

判決の補足意見は、これについて「医療行為の名において既成事実が積み重ねられてゆくという事態を放置することはできない」と批判しているわけだ。

厚生労働省や法務省は、この問題で法整備を検討したことがある。厚労省が2003年にまとめた報告書は、死後の生殖を規制することを含め、生殖補助医療の全般に一応の見解を示している。

だが、理解は広まらず、法制化は頓挫したままだ。最高裁は、こうした行政と立法の姿勢に疑問を呈したわけで、異例とも言える。しかし事態は法体系を超えて進展している。医学の進歩に国会や政府が付いて行けない状態になっているのだ。それを考えれば、至極まともな判決だった。

結婚したカップルの10組に1組が生殖補助医療で妊娠、出産する時代といわれる。生まれてくる子のためには、どんな法整備が必要か。政府、国会は本格的に論議を始める必要がある。急げ!


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