渡部 亮次郎
日本アルゼンチン協会報を見ていたら、飛行機で二十何時間も掛かるアルゼンチンから日本への資本進出が行なわれ、鉄鋼大手の「シデルカ」とNKK(日本鋼管)の合併企業「NKK−t」の資本比率は51対49だという。あのパンパス(草原)の国に、そんな強力な鉄鋼会社があったのか。
「つい最近まで世界に冠たる鉄鋼メーカーであり、油田用パイプの最大供給源であった日本の鉄鋼会社がなぜアルゼンチンの傘下に入らざるを得なくなったのか。
「それは独り鉄鋼だけの問題ではなく、モノ造りを続け、貿易立国でしか生存できない日本にとっての深刻な課題といえよう」と協会の専務理事野村秀隆氏が警鐘を鳴らしている。
アルゼンチンの企業は、いち早く規制緩和を進め、民営化に徹した。いち早く世界規模でのマーケット戦略を展開してきた。
これに対して日本は国内マーケットに固執し、グローバルなマーケット動向を見失った、だから国際競争力を失っているのだとも野村氏は言っている。
日本から南米への移民はアルゼンチンにも多い。特に沖縄からの移民が多い。ヨーロッパからのそれはイタリアからも多いが、上層をなしているのはドイツからの移民である。だから第2次大戦後、ナチの残党の多く逃げ込んだ国がアルゼンチンだった。
アルゼンチンを私たちは太平洋の向かいの国と考えがちだが、大西洋を挟んではアルゼンチンはドイツの隣国なのである。
行けども行けども草原の国である。そこに肉牛が放し飼いされている。景色は何処まで行っても同じである。「ですから遠足をやっても意味が無いのです、と日本人学校の先生が笑っていた。
そのパンパスの中でたらふく牛肉を食べてみようとなって草原の中のレストランに入ってみた。やがて出てきた牛肉はやたら大きくて皿からはみ出していた。
だが、がっかり。さっぱり美味しく無い。調味料は塩だけ。どうにも筋っぽくて残してしまった。
日本大使が語るように米国と豪州の牛は少しはトウモロコシなど穀類を食べるがアルゼンチンのは牧草だけの放牧飼育。筋っぽいわけである。
日本の牛肉は草と穀物による人工飼育だから脂っぽく柔らかい。これに慣れて育った日本人はアルゼンチンの牛肉に慣れるのは手間が掛かるだろう。
江戸にやってきたアメリカの黒船が幕府に牛の差し入れを求めた時、えっ、アメリカ人は船の中で農作業をするのかと思ったと伝えられている。殺して食べるなんて想像もできなかった。
その日本人が表向き四足を食べるようになったのは、明治天皇が食した明治4年以降である。それも精々すき焼き。ステーキはもっともっと後である。アルゼンチンの牛肉にはまだ遠い。