2017年03月06日

◆万全な目配りが必要な日米関係の構築

櫻井よしこ



大統領補佐官の辞任は政権内の闘争か 

ドナルド・トランプ米大統領の政策や決定を評する中で最も頻繁に使われ
る語彙が衝動的、或いは直感的という言葉である。
 
CNNの政治討論番組で、論者の1人がトランプ氏を見ているとベーブ・
ルースを思い出すと言った。アメリカ野球界の英雄、ベーブ・ルースはあ
る日「なぜそんなにホームランを打てるのか」と問われ、「ただ直感的に
打っているのさ」と答えたそうだ。トランプ氏も、なぜこのような決定を
したのかと問われると、「直感的に決めたんだ」と答えることが多いとい
うわけだ。
 
この主張に対して別の論者が、「直感的に打ったベーブ・ルースだって、
空振りは多くあったよね」と皮肉った。
 
国家安全保障担当、マイケル・フリン大統領補佐官の辞任をこんなジョー
クで語るのは適切でないかもしれない。また元々、共和党には批判的で、
かつ、トランプ政権には非常に強い反感を示している米国のリベラルなメ
ディアの報道をそのまま受けとめるのも適切ではないだろう。
 
だが、その点を考慮したうえでも尚、実感するのは、政権発足からひと月
も経たない2月13日のフリン氏の辞任は、トランプ政権内の権力闘争や一
貫性を欠く不合理な政策の象徴なのではないかという思いであり、政権の
未来展望に疑問を抱かざるを得ないということだ。
 
共和党の多数がトランプ氏を批判していた大統領選の最中から、トランプ
氏支持を打ち出したフリン氏は、大統領に最も近い人物の一人だ。
 
その人物が、昨年12月29日、まだバラク・オバマ氏が大統領だった時に、
複数回にわたって駐米ロシア大使と電話で語り合い、対露制裁見直しの可
能性を話し合ったのではないかとの疑惑が報じられた。
 
当初、フリン氏は疑惑を否定したが、「ワシントン・ポスト」紙が、2月9
日、フリン氏は「トランプ政権発足後、制裁を見直す方針だ」とロシア大
使に伝えていたと、複数の人々の証言を元に報じた。会話の録音も存在
し、司法省はフリン氏がロシアから脅迫を受ける危険性があることまで、
「政権」に報告していたというのである。
 
フリン氏はロシア大使と電話会談した時点ではまだ「民間人」だ。民間人
は外国政府と外交を協議することを法で禁じられており、フリン氏は違法
行為をしていたことになる。その証拠を当局が録音していたことも驚きで
ある。
 
トランプ大統領はフリン氏辞任の翌日、「なぜこんなに多く違法の情報
リークが起きるのか」とツイッターで怒りを表明した。
 
ホワイトハウス内の人間関係を見ると、大きく分けて2種類の人々が混在
している。1つのグループが今回辞任したフリン氏をはじめとするいわば
伝統的な政治権力とは異質の人々である。その1人はトランプ大統領が突
然、ホワイトハウスに首席戦略官として招じ入れたスティーブ・バノン氏だ。

両氏と対照的な人々に大統領主席補佐官のラインス・プリーバス氏、マ
イク・ペンス副大統領がいる。いわば伝統的な政治勢力に属する人々だ。
情報リークがこうした人間関係の中から生じている可能性は少なくない。
 
日本政府は安全保障問題に関してフリン氏とのパイプに多くを託してき
た。氏は昨年10月11日、菅義偉(よしひで)官房長官と対談した。トラン
プ政権誕生を全く想定していなかった日本側にとって、11月に氏が大統領
補佐官に指名されたことは、ひとつの安心材料になった。その後、河井克
行首相補佐官が訪米しフリン氏と会談するなど交流を深めてきた。
 
2月10日の日米首脳会談でもフリン氏は国家安全保障局長の谷内正太郎氏
のカウンターパートだった。その人物の辞任である。トランプ政権を待ち
受ける波は高く、日米関係の構築には万全の目配りが必要だ。

『週刊ダイヤモンド』 2017年2月25日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1171
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