2017年04月28日

◆北朝鮮に通じるか、トランプの手法

櫻井よしこ



4月6、7の両日、フロリダで開かれた米中首脳会談で、米中関係はどこま
で進展したのか。そのことについてヒントになる事例が目についた。マイ
ク・ペンス米副大統領のソウル訪問に合わせて、4月16日、ホワイトハウ
スが同行記者団に行ったブリーフィングである。
 
ホワイトハウス高官はアメリカが急いできた韓国への高高度防衛ミサイル
(THAAD)の配備及び運用開始の時期について、作業を急がないと
語ったという。「まだいくつか必要な作業があり、韓国の新大統領が決ま
るまで流動的だ」「配備は次期大統領が決定すべきで、5月前半が適当
だ」などと発言したと報じられた。
 
これまで、次期大統領が選ばれる前に、何としてでもTHAAD配備を完
了し、運用を開始して、実績を作りたいとしてきたアメリカが、なぜい
ま、このように変化したのか。北朝鮮のミサイル発射や核実験の危険性は
少しもなくなっていない。
 
中国問題に関して一目も二目も置かれている産経新聞外信部編集委員、
矢板明夫氏は、北朝鮮問題で中国の協力を要請したアメリカが、中国の前
向きな反応を得て、彼らに配慮した可能性を指摘する。アメリカは今も昔
も中国は北朝鮮抑止に力を発揮できると考えている。他方、習近平氏はと
りわけいま、アメリカの協力を必要とし、対立関係に陥ることを最大限回
避している。合意の下地があるということだ。
 
習氏がどれだけアメリカとの対立を回避したかったかは、4月12日に行わ
れた国連安全保障理事会で、シリアのサリンガス攻撃についての調査に関
する決議案の採決を、中国が棄権したことにも見てとれる。

ロシアは拒否権を行使してアサド大統領を守った。中国もこれまで6回、
ロシアと共に拒否権を行使してきたが、今回は棄権にまわった。トランプ
大統領は決議案採決の前日に電話会談で習氏に協力を依頼したと語ってい
る。中国はロシアと距離をおき、アメリカに接近したのだ。

20世紀の個人崇拝

「過去6回もシリアのために拒否権を行使して、アメリカに反対した中国
が、今回、アメリカに従ったことが明確になりました」と矢板氏。
 
氏はさらに説明した。

「米中首脳会談を、どうしても成功させなければならない立場に、習氏は
ありました。8月には最も重要な北戴河会議が、秋には党大会がありま
す。それが終わるまで、アメリカには問題を起こしてほしくない。そのた
めにはトランプ氏とよい関係を構築しなければならない。これが習氏が訪
米した背景です」
 
習氏はいま党組織改革を目論んでおり、8月に河北省の避暑地、北戴河で
開かれる中国共産党長老たちの会議で了承を得なければならない。習氏は
昨年秋、自身を毛沢東に匹敵する党の「核心」として位置づけた。今年の
組織改革では、政治局常務委員会を無力化し、党主席、つまり習氏1人に
権力を集中させる「中央委員会主席」という役職を新設すると報じられて
いる。
 
21世紀の中国を20世紀の個人崇拝の時代に引き戻すと懸念されている組織
改革には、まず長老たちの間に強い反対の声があると言われている。長老
の反対論を抑え、党大会の了承を得るために、習氏は全ての問題を巧く取
り仕切らなければならない状況にある。
 
韓国へのTHAAD配備には、中国全体がとりわけ敏感になっている。
国をあげて韓国製品の不買運動を展開している最中である。旅行者も制限
して韓国を締め上げ、配備を止めさせようとしているのが中国だ。
 
そうした習氏の思惑や中国の事情をトランプ氏が取り引きの材料に使った
のか。
 
習氏が目指した訪米の目的が、党大会まで、アメリカに大人しくしてい
てもらうことだったのであれば、THAAD配備の先延ばしは明確な成果
であろう。しかし、夏、或いは秋まで延ばすことは、北朝鮮のミサイル迎
撃という観点からは考えにくい。となると、アメリカ側は中国の北朝鮮対
策を見ながら、配備のタイミングを調整する可能性もある。
 
このように推測する理由に、トランプ氏の対中国発言が首脳会談後、大い
に和らいでいることがある。4月13日、「ウォール・ストリート・ジャー
ナル」(WSJ)紙は氏の単独インタビューに基づく複数の記事とコラム
を掲載した。「トランプと習、緊張転じて合性よし」というコラムにはト
ランプ氏のこんな発言がある。

「我々の合性は抜群だ。私は彼がとても好きだ。彼の妻もすばらしい」
 
トランプ氏はさらに語っている。

「冒頭の初顔合わせは10分か15分の予定だった。それが、3時間も話し込
んだ」「翌日、また10分のところが2時間も会話した。本当に気が合うんだ」

北朝鮮への支援
 
中国や習氏に対するこの熱く高い評価は、暫く前の発言とは正反対だ。
WSJは、トランプ氏が次々に政策を反転させていると指摘したが、プー
チン氏への評価は負の方向に大逆転させた。
 
70分間のインタビューでトランプ氏は、メディアはプーチン大統領との関
係を書きたてるが「私はプーチンのことなど知らない」と素っ気なく繰り
返している。
 
トランプ氏はかつて為替操作国だとなじった中国に、もはやそのような
レッテルは貼らないと変化した。アメリカの輸出入銀行は不要だと切り捨
てていたのを、中小企業支援のためにこれからも支えるとした。NATO
は無用だと悪口雑言だったのが、いまは非常に重要な同盟だと評価する。
なぜ変わるのかと質問されて、トランプ氏は答えた。

「全ての事案の重要性はとてつもなく大きく、全ての決定がとてつもなく
大きい。わかってるだろ、生か死かの問題なんだ。うまくディールできる
かどうかの話ではないんだ」
 
トランプ氏は、中国は簡単に北朝鮮問題を解決できると考えていたが、習
氏の説明に「最初の10分間で、それほど容易なことではないとわかった」
と語っている。それでも恐らく中国は約束したのではないか。トランプ氏
は中国が直ちに北朝鮮をコントロールできなくとも、暫く待つ姿勢を示し
ているのではないか。もしそうならうまく行かないと、矢板氏は見る。

「中朝関係は制裁では動かない。経済的に締め上げてもダメ。お金を与え
れば別ですが」
 
中国はこのことをよく知っている。アメリカが要求するように北朝鮮へ
の支援を止めれば、そこにロシアが介入して、北朝鮮をロシア陣営に引き
込む。従って中国は支援を止められない。北朝鮮抑止を中国に任せること
自体、何度も失敗してきた。そのことをトランプ政権は、いまから学ぼう
としているのか。
『週刊新潮』 2017年4月27日号  日本ルネッサンス 第751回


    

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