2017年04月29日

◆「テロ等準備罪」は国際常識、成立を急げ

櫻井よしこ



「テロ等準備罪」について「朝日新聞」や「東京新聞」などが相変わらず
全面否定の論陣を張っている。
 
テロ等準備罪を新設する組織犯罪処罰法の改正案は、日本が「国際組織犯
罪防止条約」を批准するために必要な国内法である。
 
日本周辺の国際情勢の厳しさを見れば、なぜいま同条約を批准しなけれ
ばならないのかがわかるはずだ。北朝鮮の脅威、不安定さの中で左傾化す
る韓国情勢などが懸念されるが、2020年の東京五輪に向けて、日本を狙っ
たテロや犯罪が国内外で発生する危険は高まり続けるだろう。テロや犯罪
防止に最も必要なのはなんといっても情報である。情報は、国際社会との
協力の中でこそスムーズに交換される。
 
こうした事情から、各国は相互に協力し合ってきた。その枠組みが国際組
織犯罪防止条約である。国連加盟国の96%、187か国が締結しており、未
締結国は日本を含めて11か国のみである。
 
政府は同法案を3月21日に閣議決定し、6月中にも成立させたい方針だ
が、国会は森友学園問題などに日程を取られ、議論が進んでいない。

「朝日」をはじめとするメディアは法案の趣旨を歪曲して報道し続ける。
同紙は3月22日、1面トップで「『共謀罪』全面対決へ」との見出しを掲
げた。政府提案の「テロ等準備罪」という名称さえ、「必要に応じて使
用」はするが、「犯罪を計画段階で処罰する『共謀罪』の趣旨が盛り込ま
れて」いるために、「共謀罪」と呼び続けると宣言した。
 
同紙は「内心の自由 踏み込む危険」という小見出しも掲げたが、も
し、今回の法案に個々の人間の内心の自由を抑圧する内容が本当に盛り込
まれているのであれば、私とて許容できない。だが、法案をきちんと読め
ば、その懸念は払拭されている。
 
11年前、自民党と公明党が、「共謀罪」を国会に提案したとき、私は衆議
院法務委員会で参考人として意見を述べた。当時は、現在、朝日が報じて
いるような懸念が、実はあった。従って私は率直に法案に対して抱いてい
た危惧について語った。

明確な歯止め
 
私の発言は主として2点に絞り込める。➀共謀罪は必要である、➁但し、
個々人の心の中にまで入り込んで規制し、言論の自由や思想信条の自由を
阻害する余地のないように、目に見える歯止め、外形的要件を定めるべき
である。そのために与党は民主党(現民進党)の修正案を受け入れるのが
よい。
 
11年前、民主党は立派な修正案を出しており、朝日も民主党と同じような
主張をしていたのだ。
 
改めて当時の私の発言を、議事録を取り寄せて読んでみた。逮捕や強制
捜査が無闇に行われ、内心の自由が脅かされる危険性を、私はとても気に
している。言論人として、そうしたことは受け入れ難いと強調し、捜査や
逮捕に至る外形的要件を定めるよう、求めている。その気持ちは今でも全
く同じである。
 
興味深いことに、私も朝日も、さらに民主党も、捜査権や逮捕権の暴走
に歯止めをかけよと同じように主張していたことになる。
 
但し、私と、朝日及び民主党の間には、共謀罪が日本にとって必要か否か
という点において、決定的な違いがあった。私は必要だと、当時も今も考
えている。現に11年前の発言録では、共謀罪は必要だということを、私は
計6回も繰り返している。
 
さて、11年後の今、政府が提出したテロ等準備罪新設法案は、当時の共謀
罪のものとは大きく異なる。最大の違いは、11年前には「重大な犯罪を行
おうと具体的に合意したこと」を罪に問えた。

ところが今回は、「合意に加えて実行準備行為があること」が、処罰の要
件とされた。私が要望し、朝日も求めていた明確な歯止めが施されたの
だ。民主党の要求も容れられた。朝日が言う「内心の思い」だけでは処罰
されない。今の政府案は以前と全く変わっていないとの朝日の主張は明確
な間違いだ。
 
前回は処罰の対象となる犯罪数は615だったが、今回は277に絞り込まれ
た。インターネット配信の「言論テレビ」で3月31日、参院議員の佐藤正
久氏が語った。

「共謀罪の対象となるのは死刑または4年以上の懲役、禁錮の罪に相当す
る犯罪です。その基準で全てを洗い出して数えたら676もあった。けれど
その中には公職選挙法違反なども含まれていた。

これは全く組織犯罪には当たらない。それで、組織的犯罪集団が関係しそ
うな麻薬やマネーロンダリングなどに関わる犯罪に絞り込んで、277にな
りました。労働組合などは捜査対象組織とはならないことが、以前より、
ずっと、はっきりしました」

現行法では無理
 
それでも、朝日も民進党も納得しない。現在、日本にある種々の犯罪取締
法で十分取り締まれると主張する。本当にそうか。佐藤氏は、現行法では
無理だと断言する。

「私がテロリスト集団の一員だと仮定します。仲間が刑務所にぶち込まれ
た。救い出したい。そこで一般人を人質に取って、刑務所の仲間と交換し
ようと考えた。今の法律では、テロリストたちがそんな計画を立てても、
手を出せない。彼らが人質を取るために武器を購入しても捕まえられな
い。武器を携行して狙った人のいる家の近くまで行っても逮捕できないの
です。なぜって、まだ犯行に及んでいませんから」
 
日本国の法律では、犯人たちが武器を持って狙った家に侵入した段階で
はじめて、逮捕できるというのだ。しかしそれでは遅すぎる。人質を救う
こと自体、どれだけ大変なことか。犠牲者がでる危険性も十分にある。だ
が日本の法律は、基本的に犯行後に対する処罰であり、本来守れるものも
守れない。
 
佐藤氏は別の事例を語った。

「テロリストが水源に毒を入れて多くの人を殺害し、社会に混乱を起こそ
うと計画したと仮定します。現行法では計画を立てても、毒を購入しても
逮捕できません。毒を持って水源地に行っても何もできません。現行法で
逮捕できるのは、彼らが水源に毒を投げ入れた瞬間なのです」
 
水源はどうなるのか。環境は汚染され、人々は死に追いやられる。そん
な事態が予測されても、事件が起きるまで取り締まれない現行法で万全な
はずはないだろう。

「テロ等準備罪の下では、犯人たちが人質を取るための武器を買ったり、
水源地を汚染する毒を入手した段階で逮捕、取り調べができるようになり
ます。テロ等準備罪が現行法の重大な穴をふさぐ機能を果たすのです」
と、佐藤氏。
 
96%の国々が締結している条約を日本が批准すること、そのための法整備
を進めることが、なぜ、受け入れられないのか。朝日も民進党も反対のた
めの反対はやめるべきだ。
『週刊新潮』 2017年4月13日   日本ルネッサンス 第748回

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