2017年06月16日

◆安邦保険トップ拘束で

宮崎 正弘



<平成29年(2017)6月15日(木曜日)弐 通算第5328号> 

 〜安邦保険トップ拘束で、株価45億元が蒸発
  「紅二代」への手入れにより中国バブル崩壊の序曲〜

(承前)
6月14日、香港A株に上場されている安邦生命保険の株価が暴落し45億
2400万元(邦貨換算728億円強)が1日で蒸発した。

中国全土に3万人の従業員、保険契約者は3500万人。総資産は1900億元。
投資家はパニック状態である。

すでに米国で買収したウォルドルフ・アストリアホテル、スターウッド・
ホテルチェーンなど在米資産の売却も噂されはじめている。

同集団の在米資産は60億米ドル(6699億円)という見積もりもある。

また2016年11月に呉小輝(安邦集団のボス)がトランプ大統領の女婿ク
シュナーと面会したことも伝えられた。

ニュージャージー州のトランプタワー分譲案件は、このクシュナーの親族
が「永住ビザに有利」と売り出していたため、安邦集団が主導し、中国人
投資家がごっそりと購入し、米国でも問題視されてきた。

 中国メディアが大騒ぎしているのは、この呉小輝が、トウ小平の孫娘と
結婚して、紅二代に成り上がり、エスタブリシュメントには絶対に捜査の
手が伸びないとされていたが、にも関わらず王岐山主導の「反腐敗キャン
ペーン」チームが、彼を拘束し、「聖域」に挑戦したからである。

保険契約者はプレミアムの支払いが行われるかどうか疑心暗鬼に陥った。
銀行なら取り付け騒ぎに発展しかねない。

 単に保険会社のボスの拘束ではなく、これは北京中南海の陰湿な権力闘
争の荒波のなかから派生した汚職事件であり、これから株価崩落がさらに
下落方向へ突き進めば、バブル崩壊の序曲が奏でられたことになる。

     
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書評 しょひょう BOOKREVIEW  
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   中国の権力状況を、この一冊が見事に描き出した
  明るい未来のシナリオは不在。習近平政権の余命は尽きかけてきた

             ♪
福島香織『米中の危険なゲームが始まった』(ビジネス社)
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あまたある中国関連書物のなかで、群を抜く面白さ、そして卓越した分析
力。この本を読まずして現代中国は語れない。それほどに中国の現在の権
力状況が手に取るようにわかる内容である。

副題が「赤い帝国 中国崩壊の方程式」とあって、しかしながら中国が大
国として生き延びるシナリオのひとつが、トランプという何をしでかすか
わからない米国大統領によって、もし、『米中蜜月』がもたらされるとす
れば、それこそ日本にとっては恐怖のシナリオになるだろう、という。

表紙のデザインもまた卓抜である。『ゲーム』というタイトルが示唆する
ように、これを列強のパワーゲームとたとえ、麻雀の卓を囲む4人はトラ
ンプ、習近平、プーチン、そして安倍晋三。トランプはにんまり、プーチ
ンは横目、なぜなら習近平が見せつけるカードが『金正恩』牌だからだ。
安倍首相が脂汗をかく構図となっていて、この漫画は日本で活躍し、米国
へ亡命した辣椒がみごとに描いた。

さて習近平の権力の在りようだが、実態は日本のメディアが分析すること
とは、まったく異なっている。

既に『朋友』とされた王岐山は、習近平との共闘関係から大きく距離を置
いているため「仲良しクラブ」は事実上、空中分解しているという。曾慶
紅はいうまでもなく江沢民の懐刀、国家副主席だった。

習近平に裏切られた曾慶紅が、静かに、そして陰湿に、だが着実に党内の
根回しに動いている。裏切られた怨念が次の復讐への執念を生むわけだ。
 そもそも曾慶紅が党内および長老を根回しをして習近平を総書記に押し
上げたのに、いまや恩人を敵視し、曾や江沢民人脈を汚職追放と称して、
次々と失脚させたことを忘恩の行為ととらえているわけである。

しかし、特別驚くに値しない。それが中国の伝統ではないか。

曾慶紅の復讐戦は任志強事件、郭文貴事件、そして令完成事件に飛び火
し、防御策を講じる習近平は江沢民派の金庫番だった肖健華を香港から拉
致拘束した。

そういえば、胡錦濤も江沢民も、ときどき公衆の面前に姿を現し、政治的
パフォーマンスを演じているという動静が伝わってくる。習への牽制と露
骨な嫌がらせである。

 ▲習近平は「ひとりぼっち」。友人も同士も去った

 評者(宮崎)は、本書を通読したあと、なぜか連想したのは小林秀雄の
石原慎太郎への助言だった。

古い話かもしれないが、な昭和43年(1968)、石原が参議院全国区から立
候補して政治家になるというと「君の周囲に君のために死ねる人は何人い
るかね? 君のために死ぬ人間がたくさんいれば、君は政治家として成功
するだろう」と予言的な言葉だった。

三島由紀夫にはともに死ぬ同士があまたいた。しかし石原にはおらず、晩
節を汚すことになった。

習近平には、かれのために死ぬ同士が不在である。
 
第19回大会を無事に乗り切るには、強引な指導力で派閥を糾合する必要が
あるが、すでに習には、その求心力がない。暴力装置を党内に持たず、し
たがって習には強い味方がおらず、友達も同士もいない。裸の王様でしか
なく、独りぼっちである。王琥寧も栗戦書も劉鶴も、習から距離を置き始
めている。

さらには太子党の、強い兄貴分だった劉源が去り、軍部は習の茶坊主たち
の異様出世状況を見て、不満が爆発している。これを抑える政治力は、す
でに習近平にはない。

すると今後の中国はいったいどうなるのか。

福島さんは、いくつかの蓋然性を提示しているが、なかにはフルシチョフ
的失脚。あるいは全党融和を図らざるを得なくなり、李源潮、王洋、胡春
華、孫政才ら共青団を大量に政治局常務委員に登用せざるを得なくなると
見立てる。

あるいは党の核心なる幻像を自ら誤見しているとするなら、戦争に打って
出るしか残るシナリオはないと指摘する。

フットワークの強さと中国内の情報網を通じて得たフレッシュな情報とに
裏打ちされて福島さんの力作、群書圧倒のパワーを醸し出している。
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