宮崎 正弘
<平成29年(2017)6月20日(火曜日)通算第5331号>
〜 もう一つの「一帯一路」の目玉=ミャンマーでも、もたつきが目立ち始めた
クンサ(麻薬王)も国民党残党も消滅したが、カチン、シャン、ワ族が武装
を捨てず〜
パキスタンのCPECプロジェクト(グアダール港から新彊ウィグルま
でガス、石油のパイプライン、ハイウエイ、鉄道、光ファイバーを繋ぐ回
廊)がシルクロート(一帯一路)の目玉プロジェクトであるとすれば、
ミャンマーへのテコ入れも、もう一つの習近平の目玉だ。
ミャンマー沖合の海底油田からガスと石油の770キロのパイプラインは
ミャンマーを縦断して、すでに繋がっている。
中国の「戦略的友好国」であり、隣国であるパキスタンとミャンマーは、
しかしながら中国の工業心臓部からはあまりにも遠い。マラッカ海峡を経
由しないオールタナティブとしてのルート確保が中国の戦略的目標である
ことは言うまでもない。
パキスタンの一帯一路関連プロジェクトの総額は55億ドル。「そんな巨額
を投じる価値があるのか?」と議論が中国国内でも急拡大している。
最大の理由は先週、誘拐されていた中国人教師ふたりがISによって殺害
されたからで、中国のSNSでは「ISに補償金を要求せよ。ISとの戦
争も辞せず」などの書き込みが散見される。
パキスタン重視は以前からで、6月17日からはホルムズ海峡近辺で、中国
海軍がイラン海軍との共同軍事訓練を開始した。中国海軍は駆逐艦弐隻と
補給艦、いずれもパキスタンのカラチ港から出航し、イラン側は駆逐艦に
700名の軍人が乗っているという(サウスチャイナ・モーニングポスト、6
月19日)。
中国の歴史学の御用学者がいうには紀元前3世紀の秦の始皇帝時代から
「南のシルクロード」は南アジア諸国と繋がっていたと言い張る。ちょっ
と待った。紀元前三世紀に雲南省も四川省も漢族とは無縁の国家であり、
当時は氏、キョウ、月氏、鎮(さんずい)などの豪族が統治していた。
ミャンマーもパキスタンも別の国だった。
2204キロのおよぶミャンマーの国境地帯は、嘗てビルマ共産党が支配して
いて、税金を勝手に住民から徴収し、中央政府の統治は及ばない地区だった。
このビルマ共産党を支援していたのが中国、しかも一帯の麻薬地帯はクン
サが支配し、国民党残党がいた。ややこしく輻輳していた。
このため国境貿易が可能だったのは北のシャン族支配区だけだったのである。
歳月が流れ、ビルマ共産党も国民党残党も高齢化、組織はほぼ消滅した。
前者は四つに分裂したが、いまも武力を誇るのはワ族の武装ゲリラだけで
ある。
ワ族は独自の武装組織を堅持している。
しかし西側の制裁にあって鎖国を強いられ国際的に孤立していたミャン
マーを支援し、武器を供給していたのは中国で、この間に14億ドルの武器
をあたえ、他方では秘密裏にワ族武装組織も支援していた。
親中路線いがいの選択肢はなく、ミャンマー政府はアンダマン海の島嶼の
大島(グレート・ココ)に軍のレーダー基地を設けたが、これも全面的な
中国の支援だった。
」インドは、これを脅威として国際世論に訴えたが、中国の監視所という
裏の役割をミャンマー政府は否定した。
インドが中国の一帯一路に極めつきに冷淡な理由はこのあたりにある。
▲中国一辺倒の政治経済状況は激変した
さらに時代は移り、ミャンマーの親中派だったキン・ニュン政権が2004年
に汚職容疑で失脚した後、親中派路線を修正し、中国と距離を取り始め
た。ティン・セイン前政権は、中国が支援した水力発電所の工事を中断した。
「イラワジ河は中国のものではない」とする抗議デモが公然とヤンゴンや
マンダレーで行われるようになる。
メディアにも中国批判が掲載されるようになり、華僑と中国資本が支配す
る第2の都市マンダレーでも反中感情の高まりが見られるようになった。
マンダレーは嘗てビルマの首都、王宮が残り、翡翠、色石、タベストリー
の産地として世界的に有名である。だが、流通、貿易、金融を握るのは華
僑ならびに中国からの移民の商人である(四年ほど前、宿泊したマンダ
レーのホテルで朝から飲んでいたのは中国人ビジネスマンだったことを思
い出した)。
ヤンゴンのチャイナタウンも活況はからわず、華字紙も発行されるなど言
論の自由が守られるようになり、自由選挙を実施するや、アウンサンスー
チが「大統領より偉い」政治ポジションを得た。
このスーチーを支持しているのは都会のビルマ族が中心で、地方ならびに
少数民族地区へ行くとスーチーは嫌われている。
オバマ政権でミャンマー政策が緩和され、政策がグローバルに傾くと、
どっと西側資本がミャンマーに投入され始めた。日本は工業団地をヤンゴ
ン郊外に造成し、市内には高層ビルも建設し、台湾やインドも参入してき
た。カチンもシャンもカレンも、山を下りてきた。
中国はこれではまずいとばかりにミャンマーの政治家、ジャーナリストに
北京への招待旅行攻勢をかける。一方で、武装を解かないワ族ゲリラへの
密かな武器支援は中止せず、2枚舌を続けている。
西側がミャンマー政府を非難するロヒンジャ弾圧に対して、事実上、スー
チー政権は解決策も見いだせない無能ぶりを見せた。スーチーは親中路線
に転換した様子がうかがえる。
したがって、ミャンマーの少数民族弾圧非難決議が国連に上程されると、
反対に回るのが中国という構図になっている。
恩を売りつけ、反中感情を抑え込むことに躍起なのである。
▲あの親中国家ラオスでも中国人殺人事件が続発している
2017年6月16日、ラオスにある中国大使館は在留中国人に「身の安全を確
保し、身辺に気を配れ」と警告を発した。これはラオスのサイソンブーン
県で、中国人が何者かに銃殺されたからである。
問い合わせに対して大使館は具体的な情報をだしていない。
サイソンブーン県はラオスの首都ビエンチャンから北東へ100キロほど。
モン族など少数民族が暮らす地帯で、嘗ては付近に米軍が空爆に利用した
基地があった。いまは大きな公園になっている。
2016年1月には中国人が開発する鉱山付近で2人の中国人が爆殺され、同
年3月にはルアンパパン県で一人が殺害され、7人の中国人が負傷するテ
ロ事件も起きた。
このように一帯一路の先々で中国人は「歓迎」されていないのである。