渡部 亮次郎
私が秘書官として仕えた外務大臣園田直(そのだ すなお)氏は神風特攻隊長として決死の出撃寸前、敗戦になった為生き残った人だった。昭和20(1945)年8月13日、北海道千歳基地を飛び立つべきところ、悪天候の為?17日に延期。ところが15日に敗戦。
助かったのですね、と言ったら「違う、一旦死を決意していたから、死ななくても良いと言われた途端、腰が抜けたよ」と言っていた。
とにかく日中事変の頃を含めて計11年、戦争の現場にいた。
進軍(徒歩)の途中、途が2手に分かれている。右に進むべきか左にすべきか。必ず悪路のほうに進んだ。良い道の先では敵が待ち構えている危険があった。そういう体験があったのである。
帰還して国会議員になって間もなく野党の独身婦人議員と恋仲になって妊娠がばれた。直ちに4人の子供を抱えた夫人と離婚、野党議員と結婚した。堕胎と言う道もあったのにといったら「困難な途を敢えてえらんだのだよ」。
なるほど選挙区の女性たちには評判が良く、選挙地盤が固まっていない時期だったにも拘らず落選はしなかった。死ぬまで14回連続当選の実績を残した。
1980年代前半までの日本の国会議員たちの大半は従軍体験を持っていた。中曽根康弘氏だって海軍主計中尉だった。田中角栄氏も陸軍2等兵でノモンハン事件に狩り出されている。
死ぬか生きるか。人間は死を覚悟した時貫禄が出来る。園田氏を観察していると、政治のどんな場面でも恐怖を感じる風はなかった。戦争で死ななかった人間が政治で死ぬわけが無いと、いつでも楽観していた。
そうした目で平成の政界を見ると、政治家に戦争体験の無いのは勿論、「失敗」の経験も少ない。受験だって「塾」で防備していて「貫禄」をつける暇も無い。
失敗で挫折を多く味わったのは小沢一郎氏ぐらいだ。だから菅も仙谷も面と向かって小沢には対決できない。仙谷は俺の合格した司法試験を小澤は落ちた、だから俺のほうが上と威張るが、落ちた小沢の貫禄にはたじたじでは無いか。
貫禄を得るためと言って戦争をする事は不可能だが、失敗を重ねた方に貫禄が出来る事は間違いないと勝手に考えている。ただし宇宙人にこれは適用できない。