2017年10月31日

◆トランプ大統領見誤ってはならない 

   加瀬 英明

トランプ大統領のアメリカを見誤ってはならない

私はこのままゆけば、トランプ大統領が2020年に再選される可能性が、高
いと思う。 

日本ではトランプ大統領のもとで、アメリカが解体しかねないとか、弾劾
されてじきに罷免されようという議論が、さかんだ。今日のアメリカにつ
いてまったく無知な見方が、大手を振って罷り通っている。

アメリカで国を2つに割って、壮絶なカルチャー・ウォア――文化戦争と訳
すべき戦いが繰り広げられている。毛沢東のもとで行われた「文化大革
命」に匹敵するものだといえよう。

大混乱だ。伝統的なアメリカを融解させようとする、ニューヨーク、カリ
フォルニア州を中心とする急進(リベラル)勢力と、「ミドル・アメリカ」
と呼ばれるアメリカ中西部諸州を中心とする旧守勢力が戦っている。

ヒラリー・クリントン支持は何か

急進(リベラル)勢力は昨年の大統領選挙でヒラリー・クリントン候補をあ
げて支持した、知的エリートに従う市民層、大手新聞・テレビ、グローバ
リゼーションを追求する大企業などだが、“台風の目”は、LBGTQや、
男女差、人種、不法移民などに対する、いっさいの差別を排除し、自己主
張を何よりも尊ぶ「アイデンティティー・ポリティクス」である。

LBGTはレズビアン、バイセクシュアル、ゲイ、トランスセクシュアル
の頭文字で、日本でも知られているが、“Q”はqueer(クイアー)で、
LBGTの総称でもあったが、このあいだまでは変態、変人を意味する罵
り言葉だった。ところが、いまでは真当な言葉とされている。

「私はクイアーだ(アイム・クイアー)」と胸を張って、いえるようになっ
ている。もし、そういわれたら、敬意をこめた表情をして、頷かねばなら
ない。

ニューヨークや、カリフォルニア州などの幼稚園や小学校では、入園、入
校する児童に「男の子として扱われたいの、女の子として扱われたいの」
と、たずねなければならない。

昨秋、『ニューヨーク・タイムズ』紙の一面に「ミスター、ミセス、ミス
は性差別に当たるから、Mxと呼ばなければならない」という、大きな記
事が載った。
 

私はその直後に、アメリカ大使館の女性の公使と夕食会で同席した時に、
「Mxはどう発音するんですか」と質したところ、そんなことも知らない
のかという、冷い眼差しをして、「ミックス」と教えてくれた。

1960年代から「チェアマン」(議長)「マンカインド」(人類)は女性差
別だから、「チェアパーソン」「ヒューマンカインド」と言い替える“言
葉狩り”が始まったが、民主党のオバマ政権のもとで、いっそう酷くなった。


トイレの男女別を無くした

オバマ大統領は政権最後の年に、「自分が信じる性別に従って」、男女の
トイレのいずれを使ってもよいという、大統領令を発した。大統領令は法
律だが、さすがにいくつかの州が憲法違反として、連邦最高裁に提訴した。

私が昨年ワシントンを訪れた時に、レストランの中に、トイレの男女別の
表示を撤去した店があった。もっとも、今年6月に戻ったところ、トラン
プ政権のもとで男女の別が再び取りつけられていた。

進歩(リベラル)勢力は、自分たちが「正常(セイン)」で、「ミドル・アメ
リカ」の州民をはじめとする旧守勢力が「未開(バックワード)」だとか、
「知的発達障害(リターテッド)」を患っているとみて、蔑(さげす)んでいる。

LBGTQの権利を主張する運動は、かなり前から始まっていた。アメリ
カのネットで「セックス・アンド・ジェンダー」を取り出すと、性別が
LBGTだけではなく、さらに63に細分化されることが分かる。

「ジェンダー」は日本語にないが、「文化・社会的な役割としての性」を
意味している。長いリストを読んでゆくと、肉体的特徴から性の嗜好まで
分かれ、それぞれ尊重しなければならない。

SNSも自己主張に充ちているために、人々の細分化をいっそう促している。


8月に首都ワシントンの隣のバージニア州シャーロットビルで、州当局の
決定に従って、南北戦争の南部の英雄ロバート・リー将軍の銅像を撤去し
ようとしたところ、撤去に反対する旧守派市民と、急進派(リベラル)市民
が衝突する騒ぎになった。反対派に白人至上主義のKKK(クークラクス
クラン)や、ナチスの鉤十字旗(スワスチカ)を掲げた者がいた。

「アンティファ」と称する過激派

トランプ大統領が双方の暴力行為を非難したところ、アメリカの大手新
聞・テレビが「白人至上主義者」を擁護したといって、こき下ろしたが、
公正を欠いていた。


急進派(リベラル)のなかに「アンティファ」(アンチ・ファシストの略)
と称する、黒い覆面に黒装束の過激派がいて、投石や暴行を働いた。アン
ティファは大統領選挙中も、トランプ大統領就任式に当たっても、映像に
登場していた。

南部諸州では、南部連合旗の掲揚を禁じ、銅像の撤去、公共の場所、施設
名を変えることが進んでいるが、南部だけに限られない。

ニューヨーク・マンハッタンのセントラル公園(パーク)に建つ、クリスト
ファ・コロンブス像の撤去を求める運動や、全米で10月第2週の月曜日が
「コロンブス・デイ」として祝日とされてきたが、「コロンブスがアメリ
カを発見した」というのは、白人至上主義だとして廃止するところが、相
次いでいる。

名門プリンストン大学では、第1次大戦時のウィルソン大統領が白人至上
主義者だったといって、ウィルソン研究所(センター)を改名しようという
運動が進んでいる。このような例は、枚挙に遑(いとま)がない。

ワシントン大統領も、『独立宣言』を起草した、3代目大統領のジェ
ファーソンも、アメリカの「建国の父(ファウンディング・ファーザー
ズ)」のほぼ全員が奴隷所有主だったことから、首都の名からすべて改め
なければならなくなってしまう。このまま「歴史浄化(ピューリフィケー
ション・オブ・ヒストリー)」が進めば、アメリカが解体してしまおう。

もっとも、アメリカのどの世論調査をとっても、歴史上の人物の銅像を撤
去したり、街路、公園、施設、市町村などの名を変えるのに対する反対
が、半数を超えている。アメリカの建国そのものを、否定するものだ。


私は1950年代にアメリカで学んだが、アメリカ人はジョークを好む“笑い
の民”だったのに、このところ「アイデンティティー・ポリティクス」が
暴威を振っているために、何であれ、笑いの対象にできなくなったため
に、笑いが失われるようになっている。

 
自由競争が建国の精神だ

この脇で、民主党は新しいリーダーも、理念も打ち出せず、2020年の 大
統領選挙をどのように戦えるのか、見当がつかない。

民主党ではクリントン候補を脅した、サンダース上院議員によって代表さ
れる、貧富の格差をなくそうと訴える社会主義が、力を持つようになって
いる。経済的平等を求めることは羨望から発しており、建国の精神である
自由競争に基く市場経済を、否定するものだ。

トランプ大統領は連邦議会と衝突しているが、旧守派の国民は議会を共和
党の幹部議員を含めて、リベラルだとみて喝采している。

たしかに、トランプ大統領は口が軽く、衝動的であるために、自分自身が
最大の敵となっている。それでも、アメリカの伝統社会の守護神となって
いる。

 本年6月、62%が中流階級以上だと回答

アメリカでは、トランプ政権発足後、自分を中流階級としてみる者が急増
している。


レーマン・ショック前の2006年のギァロップ調査では、国民の60%が中流
かそれ以上と答え、38%が労働者階級とみていたのに対して、2015年には
51%が中流以上、48%が労働者階級と答えていた。

今年6月には、62%が中流以上だと答えている。トランプ政権のもとで経
済の行方を楽観する者が増えている。

 リベラル派市民のなかに経済が上向いていると感じている者が多いもの
の、「未開明な」トランプを評価することが、絶対的なタブーとなってい
るために、トランプに対する支持に結びつかない。

 民主党と急進派(リベラル)は、自ら墓穴を掘っている。
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