2017年11月12日

◆TPPは暗にトランプ早期退陣を“期待”

                                 杉浦 正章



「火種」は残るが、消費者は歓迎
 

6か国が議会承認すれば発効へ
 


環太平洋経済連携協定(TPP)は2015年10月、米国アトランタで開催されたTPP閣僚会合において「大筋合意」に達して以来、会合のたびに「大筋合意」を繰り返している。今回も「本当に本当」の大筋合意かどうかが疑われるが、とにかく米国抜きの11か国では遠心力より求心力が勝っていることは確かだろう。少なくとも保護主義を臆面もなく前面に出すトランプの「圧力」を受け流す「安全弁」になったことはたしかだ。日本は先に欧州連合(EU)とも経済連携協定が合意に達しており、日本主導のTPPが加わって保護主義を排除して自由貿易を推進する態勢は一層強まった。


今後日本は一層TPPの結束を固め、この立場をフルに活用して中国主導の巨大経済圏東アジア地域包括経済連携協定(RCEP)を、より質の高い自由貿易の枠組みに発展させるよう尽力すべきだろう。
 


TPPは米国が復帰する日を夢見て、米国の主張する20項目をあえて廃棄せずに“凍結”した。それではトランプが方向を転換するかといえば、しない。しないどころかトランプは10日にTPPからの離脱を改めて正当化した演説をしている。トランプにしてみればTPP参加は自動車業界など支持企業や、選挙で公約を支持した有権者のコアの部分を失う可能性があり、ただでさえ30%台と言う支持率確保には欠かせない政策なのだ。トランプは常に“私利私欲”優先なのだ。それでも米国が復帰するのをTPPイレブン(11か国)が期待しているのは、米国の政局を見ているのだ。
 


その米政界は、ロシアゲートが佳境に入っている。ロシア政府による米大統領選干渉疑惑の捜査が進む中、新たなロシア疑惑が台頭している。トランプの娘婿など側近や商務長官ロスと関係の深い海運会社と、プーチンの側近が実質オーナーの石油化学大手との取り引きの疑惑だ。これが外遊から帰国するトランプを直撃する。


ニクソンのウオーターゲート事件をほうふつとさせる「大統領の犯罪」が暴かれかねない状況なのである。米政権はいったん成立すると大体2期8年の任期をまっとうしているが、まっとうしなかったのはニクソンだ。議会の弾劾成立直前に辞任している。トランプの場合は3年後の選挙で惨敗する可能性があり、TPP11はそれを待っているかのようである。3年などすぐに過ぎる。



さらに11内部でも火種が残っている。カナダに新政権が誕生して“手のひら返し”に動いたのだ。トルドーが新協定の署名に慎重なのは選挙基盤の中道左派自由党が反対であり、賛成すれば支持基盤が崩れかねないからだ。加えて北米自由貿易協定(NAFTA)の改定で米国との厳しい交渉にさらされており、TPPの合意がNAFTA交渉への実害を生じさせかねないという危惧がある。


ところがTPP会合でカナダの国際貿易相シャンパーニュは先陣を切って賛成している。完全なる閣内不一致を露呈した結果をもたらしており、日本なら野党から退陣を求められる事態だ。ニュージランドは政権を奪還した労働党が「外国人による中古住宅の購入禁止」を打ち出して、TPPでごねたが、最終的には推進に回った。さらにベトナムは共産党政権が労働者の権利拡充に反対、マレーシアも国有企業の優遇禁止の凍結を要求、継続協議的な対応をせざるを得なかった。
 


こうして「火種」を抱えながらのスタートとならざるを得ない結果となっているが、参加6か国が議会で批准手続きを終えればTPPは正式に発効する。従って発効することは間違いない。日本は対米説得もTPP内部の調整も自らリードして行く必要があるが、ここは長期スパンで物事を考えるべき時と言えよう。なぜなら長期的には自動車など工業製品や農産物の輸出促進につながることは間違いないからだ。工業品目では国ごとに70−100%と差はあるものの関税が即時撤廃となり、輸出産業に依存する日本にとっては大きな利点となる。


農産品の日本への輸入に対する撤廃は95%となり、農業への打撃はあるが、一般消費者にとっては選択肢の幅が広がる。総じて歓迎すべき流れとなる。対米交渉においても日本にとって有利なのは、たとえトランプが2国間交渉を迫ってきても、日本は追い詰められることはなくなった。TPPを盾にとって「TPP以上の譲歩は応じられない」と主張することが出来る。逆に米国に対して「TPPに復帰すべきではないか」と逆襲も可能とになる。

         <<今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)
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