2017年11月15日

◆トランプ訪中で見えてきたのは

宮崎 正弘


<平成29年(2017)11月9日(木曜日)通巻第5502号>  

 トランプ訪中で見えてきたのは「お互いが腹の探り合い」
  北のレジューム・チェンジは中国の密かな野望でもあるが、カードを
見せない

訪韓、訪中を続けるトランプ大統領のもとに飛びこんできたのはヴァージ
ニア州知事選で共和党が惜敗したニュースだった。2018年中間選挙の前哨
戦として、トランプ人気が持続しているのかどうかのリトマス試験紙とも
言われたが、この手痛い敗北で、心理状態にすこし不安定要素が見られる。

韓国国会の演説では「アメリかを見くびるな、圧倒的力で解決することも
出来るのだ」と北朝鮮への決意を表明しているが、韓国の反応は冷やや
か。場外では反米集会、トランプをヒトラーに模したプラカード。その言
い分は「韓国を戦争に巻き込むな」だ。

38度線の視察が濃霧で果たせず、トランプ大統領を乗せたヘリコプターは
板門店付近から引き返した。

ソウルでの米韓首脳会談の成果とは、26分間の文在寅大統領との「商談」
であり、FTA見直しを示唆したに過ぎない。

どう客観的に見ても訪韓の成果はない。韓国が米国の路線に立ちはだかっ
たことが鮮明になっただけで、トランプ大統領の不満が鬱積したに違いない。

北京に入ってもトランプの顔は冴えなかった。

京劇を観劇したものの、紫禁城で習近平夫妻の案内に浮かぬ表情を続けて
いる。明らかに面白くないのだ。

口をついて出てくるのは「素晴らしい」と褒め言葉ばかりだが、内心、
「中国は北朝鮮でアメリカとは協力する意思がないようだ」という習の秘
めた思惑を了解できたのではないのか。お互いの腹の探り合いは、何かの
解決策を見つけたのだろうか。

現時点で米中の一致点と推定できるのは金正恩体制のレジューム・チェン
ジである。この場合、最大のポイントは北朝鮮の核施設を米軍特殊部隊が
潜入して完全に破壊してしまうのか、それより先に中国軍が占拠し、北朝
鮮の核を中国の管理下に置くのか、ということだろう。

次に問題として浮かぶのは暗殺された金正男の子、金ハンソルを次期後継
として立てようとする中国と、それを容認するかどうかの米国の思惑との
衝突と考えられる。

肝腎の金ハンソルが何処にいるのか。どちらもその居場所を突き止めてい
るはずだが、このカードを明かすことはなさそうである。

先週、北の暗殺団が中国で拘束されたというニュースが報じられたが、こ
れは韓国製の陽動情報か、攪乱情報とされ、ハンソルはオランドか、
ひょっとして米国が保護しているかという情報がいまも乱れ飛んでいる。

 いずれにせよ、トランプ訪中で劇的な成果は果たせそうになく、随行し
た商業界代表等は、中国とのビジネス拡大に忙しく、貿易交渉での得点あ
げに関心を深めているのみのようだ。

          
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◆樋泉克夫のコラム 
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【知道中国 1655回】         
――「即ち支那國は滅びても支那人は滅びぬ」――(佐藤2)
  佐藤善治郎『南清紀行』(良明堂書店 明治44年)

              ▽

佐藤は上海における日本居留民の実態を詳細に示したうえで、「以上説い
た處で分明なるが如く、上海の日本居留民は歐米人に比して甚だ資力が劣
つて居る」と結論づける。それでも「故近衞公、佐藤正氏等の發意に成り
たる對清?育の學校」である東亞同文書院については、「既に卒業して清
國各地の會社商店等に從事する者450人。頗る好評がある。現在生二百數
十にn。皆寄宿生活をなし、意氣軒高でやつて居る」と綴ることを忘れて
はいない。

欧米人については、「本邦人に比して資本を携へ來つて、茲に活動し、
又永住する者が多い」。そのうえ彼らは事業の基礎を固めている。たとえ
ば「宣?師などは支那の貧民兒童を集めて慈善?育を施し、或は?會の醵
金によりて病院を起し、美名の下に自國の?化を擴げ、勢力を張るが如
き」である。さらに学校に隣接した印刷所では、「毎朝數十の支那職工に
先づ祈?し讃美歌を唱へしめて然る後仕事に取懸るなど、なかなか基礎の
ある仕事をなし」ている。やはり彼らの「勢力の侮るべからざるものがあ
る」というのだ。

 そういえば我がジョン万次郎と同じ頃にアメリカに渡り、養子として
育てられ、印刷技術を身に着けて帰国し、やがて聖書の印刷で莫大な財産
を築きあげ、3人の娘を大財閥(孔祥熙)・革命家(孫文)・政治家
(ショウ介 石)に嫁がせたのが宋嘉樹(チャールズ・ジョーンズ・宋、
或はチャー リー・宋)である。彼は聖書印刷をテコに上海の欧米人社会
に取り入る一 方で、印刷ビジネスが生み出した莫大な資産とその資産に
よって育てられ た3人の美貌の娘を手に中国社会の最上層中枢に強固な人
脈を築いた。上 海の欧米特権階層との人脈、3人の娘婿の影響力、そして
莫大な資産―― ジョン万次郎と宋嘉樹とを比較した時、そこに中国人と日
本人の生き方の 違いを感じてしまうのだが。

アメリカで受けた恩を生涯を通じて返そうと努めたジョン万次郎に対し、
アメリカで築いた人脈をテコに中国社会でのしあがっていったチャー
リー・宋。愚直なまでのジョン万次郎に対し、実利に敏(つまりはセコ)
いチャーリー・宋。ウエットな万次郎に対し、ドライな宋。アメリカで学
んだ英語に生涯を捧げたジョン万次郎に対し、アメリカで身に着けた印刷
技術で商売を広げたチャーリー・宋。ジョン万次郎の生涯における日米関
係に対し、チャーリー・宋とその一族を通して見えて来る中米関係――ジョ
ン万次郎こと中浜万次郎に対するにチャーリー・宋こと宋嘉樹・・・アメ
リカというスクリーンに映し出された2人の生涯は、なにやら日米関係と
米中関係の歴史を物語っているようにも思える。

佐藤は上海をぶらつく。

先ずは夜の散歩。「あまり物が見えぬから本國に居る樣に思はれる。生命
財産の保護も日本と同一の樣に思はれて、閑靜なる田舎道を散歩せんと
言」うと、上海在住者に止められる。それというのも、「彼支那人は晝間
はさんざん外國人のために抑壓せられて居るが、夜陰に乘して多人數徒黨
を組んで外人の所持品を掠奪する等の事がある」からだ。「外人の所持品
を掠奪」した後、彼らは「租界外に逃げる。租界外は租界の警察權は及ば
ぬ。支那の警察へ頼んでも何にもならない。唯泣き寝入りとなるのみ」。

 そういえば政治=権力に対する彼らの対処法は「上に政策あれば、下
に対策あり」だといわれるが、「晝間はさんざん外國人のために抑壓せら
れて居る」ゆえに、夜陰に乗じて「外人の所持品を掠奪」して外国の領事
警察の警察権の及ばない租界外に逃げてしまうというのも、彼らなりの対
策というものだろう。

 街では「丈の六尺もある印度巡査が昂然」と立つ。彼らに「睨まれる
と支那勞働者は身を縮めて通る」。だが「體格はよいが、元氣が抜け、言
動は慥かに亡國人である」。
《QED》
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