2018年01月04日

◆トランプがイラン国民を鼓舞

宮崎 正弘

平成30年(2018)1月3日(水曜日)通巻第5564号   

「残酷で腐敗した政権に民衆が立ち上がった」とトランプがイラン国民を鼓舞
  「食料欠乏、猛烈インフレ、人権無視」が「外国の陰謀」だって?

 2017年暮れからイラン各地で反政府暴動が拡大し、2018年1月2日まで
に死者が22人、拘束されたイラン人は700人に達した。ハメネイ師は、急
遽記者会見し、「これはイランを敵視する外国勢力が背後で扇動してい
る」と呼びかけた。

ロウハニ政権下で猛烈なインフレは40%台から10%台に低下したが、食料の
値上がりが相次いでおり「クリスチャン・サイエンス・モニター」(1月
2日)によれば、1200万人のイランは空腹のままベットに入る貧困の日々
を送り、3300万人が食料不足を深刻に訴えているという。

 それなのにイラン政府は、シリアのアサド政権支援のために革命防衛軍
を送り、イラクにも軍を送り、イェーメンに軍事支援をなし、挙句はガザ
のハマス、レバノンの『ヒズボラ』を大々的に支援してきた。国民が飢え
に直面しているときに、外国へ軍隊を送るなど言語道断であると反政府デ
モは叫び、ついに立ち上がった。

すかさずイランを敵視するトランプ大統領はツィッターに、「残酷で腐敗
した政権」に抗議した民衆にエールを送り、「食料欠乏、猛烈インフレ、
人権無視」が、いまのイランの政治の貧しさだと批判した。

ハメネイ師が、こうした反政府運動を「外国の陰謀」とするあたり、周辺
の茶坊主に囲まれて正確な情報が入っていないうえ、一神教の傲慢さが
漂っている。
         
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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半島は火の海となる怖れ、第三次世界大戦につながりかねない
朝鮮半島事情、ロシアの不気味な介入、中国という鵺、米国の関心の低さ

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柏原竜一『北朝鮮発 第三次世界大戦』(祥伝社新書)
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本書の題名はそのものずばり。たしかに刺激的であり、分かりやすい。間
もなく北朝鮮をめぐって半島は火の海となる怖れが強まり、それが第三次
世界大戦につながりかねないという危機状況を多角的に解説し、われわれ
の直面している未曽有の危険度を伝える。

本書では朝鮮半島の危機のほかに、中東など多方面の動向をユニークな視
点で解説している。

意外性と列強の思惑の交錯が複雑に絡んでいることがわかる本である。

しかしながら、世界史のプレーヤーを自ら降板してしまった日本には、そ
れなりの情報も入らない。

外交というのは軍事力と情報力の背景が必要だが、この2つの死活的要素
を欠く日本には、まともなインテリジャンス機関さえない。したがって本
書のような情報満載の書籍からか、或いは欧米のシンクタンク筋や当該方
面に明るい個人の情報に依拠せざるを得ない。

柏原氏は世界のインテリジェンス戦争の研究で知られる学究である。
 「水と安全保障はタダ」(イザヤ・ベンダサン)と思っている日本人
は、くわえて情報もタダだと思っているから始末に負えない。

情報とは、謀略、諜報、調略、防諜などの工作活動の上になりたち、スパ
イが命がけで集めてくる。

データベース、ハッキングなどからも精度の高い情報は収集できるが、そ
れらにはタイミングの問題と、人間の血の通った判断力がないため、宝の
もち腐れになるケースも多多ある。

さて題名の北朝鮮と朝鮮半島事情、ロシアの不気味な介入、中国という
鵺、そしてアメリカの無関心、そのアメリカに安全保障を依拠する日本と
いう構図があるが、本書では、これらに加えて中東の情報分析にかなりの
ページを割かれている。

評者(宮崎)が注目したのは下記の経緯の指摘だった。
 それは2015年のことだった。

 「イラク南部で鷹狩りをしていたカタールの首長家メンバーを含む多数
のカタール人が、何者かに誘拐される事件が起きました。イラクでも大き
く報じられたこの事件が解決したのは2017年の4月でしたが、『フィナン
シャルタイムズ』によれば、10億ドルの身代金が支払われ、その相手がイ
ランであり、アルカイダの関連組織であったというのです」(220p)。

つまりサウジアラビアの対カタール断交の芽が胚胎したのは、この誘拐事
件だった。
 
ビン・ラディンのアルカィーダに多額の献金をしていたのはサウジであ
る。秘密協定でサウジには手を出さないことが決められたという。9・11
実行犯の多くが、しかもサウジアラビア人だったことは私たちの記憶に新
しいが、柏原氏は、これが原因でカタールがアラブ諸国に浮き上がったと
いうファイナンシャルタイムズの記事に賛同してはおらず、むしろ2017年
5月のリヤド会議ではないかという。

「この会議の場でトランプ大統領は、カタールを名指ししてヌスラ戦線
(スンニ派の過激組織)の後身組織である「ファター・アル・シャム」に
資金を提供していると非難しました」

カタールの沖合ガス田は、じつはイランとの共有である。カタールはイラ
ンとの関係を緊密にせざるを得ず、同時にカタールには米軍の大規模な軍
事基地がある。

そのうえでカタールはロシアに急接近し、ロフネフツの大株主となって米
国を刺激した。つまりサウジのカタール断行の裏にはアメリカの戦略的意
思がある、と本書の著者が分析している。

カタールの孤立を救ったのがモロッコ、トルコであり、割り込んで得点を
挙げたのがプーチンだった。つまり米国は外交的に躓きを演じたというの
がこれまで経過である、とする。

 このほか驚くような情勢分析が本書ではさりげなく述べられているの
で、どのページもおろそかにはできない。

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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1681回】           
――「全く支那人程油斷のならぬ者はない」――(中野1)
  中野孤山『支那大陸横斷遊蜀雜俎』(松村文海堂 大正2年)

               ▽

先ず冒頭に掲げられた「緒言」と「外遊の動機」から、本書執筆に至る経
緯を探ってみたい。

 「光輝ある四千年の?史を有し、而も廣大なる境土を以て世界に卓絶
し」、「五億の生民を有し、堂々たる一統國を形成し」、「天然の沃野壤
土を以て天下に目せられ、天然物の豐富なるを以て世に誇れる」中華民国
であればこそ「世界各国に羨望せらるる」。「支那4百餘州の死活を制
し、世界の運命を左右せんとするものは、中原貫流の揚子江」である。

「世界潮流の現況を達觀」すると、「英米佛獨諸強を始め、其の他の列國
が、此所の活動飛躍を競ふこと頗る熾」しい。それというのも「實に世界
的殖産興業の中樞は、此の流域に存す」からであり、それゆえに「世界の
大事業は、近き将來に於て此所に一大發展を見るべし」。世界経済の将来
を左右するは「此の流域」とは、なんとも示唆的で刺激的な主張だ。

そんな揚子江流域において「天富の豐饒なる點に於て其の最も優勢なる
ものは、往昔の巴蜀、現今の四川省なり」。だが、そこは天然の要害に囲
まれた「噫交通至艱!!! 噫交通至難!!!」の地であり、他地域との
交流が困難であることから、「充分の發達を見るに至」っていない。それ
ゆえに「中華民國が常に各國の侮りを受くる」のである。これこそ「噫豈
一大耻辱と謂ぶべ」きだ。

「東洋啓發を以て天職とする我が日本」は、「渠と土壤を接すること最も
近く」、「其の人種」「其の文字」を「同ふする」がゆえに、「之が啓發
の義務」を持ち、「東洋の平和を永久に保維し、相提携して倶に共に富強
を期せんとする」。「啓發の義務」を負う日本人であればこそ、「中央支
那の事情を知るは、現時の急務」といえよう。

中野は四川省総督・錫良が教育振興のために募集した「教育家の招聘撰
擇」に応じ、「奮然決起し身命を抛ちて、此の寶庫の一端を開き、聊か國
恩に報ひん」として、広島県立中学校の職を辞し、「家族は東都に遺し、
挺身行李を携ひ、生國を後にし」て、「崑崙の麓、長江の源、遠く成都
(蜀)の地に赴くこと」になった。

以上から、「東洋啓發を以て天職とする我が日本」の立場から「世界各
国に羨望せらるる」はずながら「常に各國の侮りを受くる」中華民国を眺
め、同文同種・一衣帯水の関係にあるゆえに中華民国を「啓發」すること
は日本に課せられた「義務」である。その「義務」を全うし、「東洋の平
和を永久に保維し、相提携して倶に共に富強を期せんとする」という中野
の決意を読み取ることができそうだ。

これは中野だけが抱いたというより、当時の日本における前途有為な若者
の間にみられた考え、敢えていうなら素朴極まりないアジア主義といえる
のではなかろうか。

さて中野は、「玄海の荒波を渡り、渺々、茫々たる大洋に浮んで、東洋の
パリーと目せらるゝ上海」に上陸するのだが、「客は上陸の準備に取亂
れ、實に雜踏を極める。此時が實に油斷のならぬ時で、少し注意を怠れば
重要な荷物の行衞を失ふといふのである」から、安閑としてはいられない。


四囲を見ると苦力、苦力、苦力である。彼らの「風習と來ては、一目して
ぞつとする。手も足も垢で特別の皮膚を作り、腫物が全身に滿ち、襤褸を
纏うて、ノソリノソリと、客室をのぞき廻り、或は客膳の殘肉をハキダメ
から探し出して、舌打鳴らしてゐる。其の不潔さを見ては誰しも一驚せぬ
ものはない」。「蓋し華人は、不潔を意とせず、大小便は所きらはず、鼻
汁を無暗に何所へでも摺りつけ、喀痰を無暗にするからであらう。其の不
潔さ推して知るべきである」。

そんな彼らと、どうやって「相提携して倶に共に富強を期せんとする」の
か。《QED》
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  樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1682回】                    
――「全く支那人程油斷のならぬ者はない」――(中野2)
  中野孤山『支那大陸横斷遊蜀雜俎』(松村文海堂 大正2年)

                ▽

上海では「内地奥深く旅行するには、先ず支那式を經驗するが好都合であ
らう」と考え、わざわざ「支那式を選んで純粹の支那旅館に投宿」するも
のの、便所の「甚だ風違ひ」に驚く。

「起床して直に便所に行つた、所が支那人が1人最早先がけして、一つ
の壺に跨りて、眼を圓くして?を膨らし滿身に力を入れてやつてゐるので
退却して來た」。暫くして出かけると、「此度は2人並んでやつてゐる」
ので、また「退却して來た」。暫くしてまた行くと、「此度は四人も並ん
で煙草を吸ひながら、ゆつくりと平氣でやつている」。なにせ日本式に個
室ではないわけだから、さぞや困ったことだろう。

 以下、中野の綴る上海の街の風景をいくつか。
 「食器を拭く布巾も、靴臺や、腰掛を拭く雜布も、區別がない。手鼻を
かんだ手を着物になする。其の着物で食器を拭く、斯の如きは、支那人の
特徴で彼等は少しも氣にせぬが、我より見れば、不潔でたまらない」。一
切合切が「不潔千萬なのには、驚くの外はない」。

 「市街は晝夜雜沓してゐる」。茶館はひどく賑わっているが、「殊に
妙なのは、荒物屋、八百屋、呉服店、菓子店、其他雜貨店等の店先にも、
夜は娼妓が顔見せしてゐる。茶館には、階上階下、常に客と娼妓で滿ちて
ゐる」。

「舶來品は、總べて日本より價が安い」。「各國商品競爭實に盛に行はれ
てゐる。商業上何が勝を制するか、獨逸の如きは我を大敵と見て甚だ努め
てゐる。大いに心すべきことである」。どうやら上海に、いや中国におけ
る日本の敵は「我を大敵と見て甚だ努めてゐる」というドイツ・・・昔も
今も。

「市中一番に繁華の街は、(中略)すべて家屋は、宏大に煉瓦にて疊ま
れてゐる。街道は、廣?で蒲鉾形に作られてある。人出は多く、常に賑わ
うてゐる」。

「商人は、各國各省から蝟集してゐる、人情、風俗、混然錯綜して一樣
でない。然し土人は、勤勉で商業を重んじて、善く外人に接し、大利を計
つて小利に安んじない、專ら營利に汲々としてゐる、だから人情浮薄毫厘
の爭ひに情誼を顧みない、風俗奢侈?飾を貴ぶのである」。

「各商店は軒を連ね、朱塗、?塗の大看板を掲げ、美事に飾られて」はい
るが、「唯道路の狹隘と路上の修繕行屆かず、雨水常に溜りて、池をな
し、糞尿之に混じて、臭氣鼻を衝く、嗅官爲めに麻痺する。實に余輩外人
には久しく堪へられない」。

「居留地には、巡査が辻々にゐる。大概印度人を採用してゐる。其容貌、
魁偉頭髪を束ねて、赤い布を醤油樽の箍の如く纏頭して外觀甚だ異様なる
風態をしてゐる」。元を辿れば英国東インド会社の門番として連れてこら
れたインド人のターバンを「醤油樽の箍の如」しとは、言い得て妙。

さて、いよいよ長江を遡航する船旅に出発となる。「すると案内のもの
は、出帆の延期を申込んで來る」。すったもんだの挙句に強引に出帆の準
備を進めた。どうやら「支那人は、上海に歸り辮髪を垂れると本性を現は
して、仲々我々の言ふ事を取り用ひない」らしい。

かくて中野は彼らには彼らなりの計算があって出航延期を申し出たはずと
考えた末に、「抜け目のないのは支那人だ。支那人に欺かれて、隨分困難
をしたものが、あつたとのことであるが、全く支那人程油斷のならぬ者は
ない」と悟った次第である。

宿舎から船まで「荷物運搬を數多の苦力に託」すも「油斷をすれば、彼等
苦力に竊み去らるゝの恐れがあるので」、「嚴重に監督しつゝ波止場に行
つて、船の倉庫に積み込んでしまふ迄」は見張りをし、それから船に乗り
込んだ。さぞや骨が折れたことだろう。
《QED》
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