2018年01月31日

◆極東情勢を見据えた訪韓決断

                              杉浦 正章

 米WHからの働きかけも考慮
 
「恨」を背景に“ちゃぶ台返し”の文
 
首相訪韓に否定的であったお膝元の官邸の思いと安倍は、180度違う決断である。安倍が9日のオリンピック開会式に出席の方針を明らかにした。韓国大統領文在寅にとっては思わぬ順風が吹いたことになる。文は日米中露の「周辺4強国」に出席を求めたが、米中露はトップが出席しないため、安倍の訪韓でメンツが立つからだ。日韓関係のみならず、日米関係にとってもプラスになる。しかし、安倍にとって注意が必要なのは、保守系の支持者のコアの部分を毀損しかねない要素があることだ。

自民党合同部会は反対が圧倒的で、賛成の声はゼロ。首相就任以来始めて“反乱”が起きたことになる。一般議員らは、その判断において、幹事長ら幹部と大きな温度差を見せている。リスクをとる訪韓自体も、首脳会談の重要ポイントでは事実上の平行線に終わる公算が高く、場合によっては訪韓の意義を問われる。安倍にしてみれば「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の心境だろうが、韓国の虎穴に虎児はいるかと言えば、見つけるのは難しい。「寅」はいる。


まず、訪問される側の韓国の新聞論調は歓迎一色かといえば、むしろ裏を読んで懐疑的だ。中央日報は24日、「安倍首相が平昌行きを決めるうえでの最後の障害物は、自身を支持する保守層の強い反対論だったはずだ。

24日の朝刊で安倍首相の平昌行きを報じたのは保守系の産経新聞と読売新聞だけだった。その中でも特に産経新聞のインタビューを通じて自身の決断を詳しく明らかにしたことについては、保守層の支持者に向けて一種の説得を試みたと解釈出来る」と分析。朝鮮日報も「安倍首相が述べたように、文大統領との会談で慰安婦合意をめぐる韓国政府の新方針に抗議することで韓日関係が今以上に悪化するのか、または関係改善の糸口となるのか」と懐疑的だ。
 
たしかに、安倍は「会談で言うべきことはいう」旨宣言している。その言うべきこととは、「慰安婦問題をめぐる日韓合意について韓国が一方的にさらなる措置を求めることは受け入れることはできない。」である。また、在ソウル日本大使館前の慰安婦像撤去についても「当然強く主張することになる」としている。日本国民としては当然支持するだろう。しかし、韓国民はその民族的な性格の根底に「恨(はん)」というゆがんだ感情をもっており、周辺の大国よりおおらかではない。従って首相発言がこの反日感情をかき立てる側面は否定出来ない。

韓国紙も手ぐすね引いて待ち構えており、安倍発言は、感情的な反発を煽る可能性がある。それをすり抜けるのはラクダを針の糸に通すほどむづかしい。知恵の出しどころだ。
 
安倍が決断に至った、重要な要素はトランプからの働きかけがあったとされる。トランプ周辺から、「アメリカは副大統領を出席させる。安倍さんも出席して韓国大統領を北になびかせないように一緒に警告と説得をしようとの話があった。」という事のようだ。日韓のみならず、日米関係も視野に入れた決断であった。背景には極東情勢全般を見据えた総合判断があったような気がする。
 
しかし、安倍が訪韓して何を言おうと、朴槿恵との間でかわした日韓合意順守の線にまで文が戻ることはないかもしれない。「最終的不可逆的合意」などは文にしてみればどこ吹く風だ。文の新方針は、日韓合意には内容及び手続き面で重大な欠陥があるとして、「日韓合意では問題の解決がなされない」との立場だ。ただ「日韓合意は公式な合意だった事実は否定できない」として日本政府に合意の再交渉を求めないとししつつ、慰安婦の尊厳の回復や心の傷を癒す努力を続けることを日本政府に要求している。

さらに日本政府が支払った10億円は韓国政府の予算から充当するという。施しは受けないというわけだ。文は「日本が心をこめて謝罪してこそ被害者も日本を許すことができ、それが完全な慰安婦問題の解決だと思う」と述べている。要するに日韓合意をちゃぶ台返しして、またも「謝れ」と言っているのだ。
 
このスタンスは文の支持率が73%と高い最大の要素となっており、安倍の訪韓で、方針を変えることはあり得ない。これは、文が確信犯的な左翼思想の持ち主であり、北との和解で、日米韓連携にあえてひびを入らせている事実から見ても分かる。したがって両者の会談は平行線をたどる可能性が高い。韓国側からすれば安倍の訪韓が韓日関係正常化の証拠となり、国内的にもプラスの要素が多い。
 
ただし、両者共、首脳会談を失敗に終わらせる印象となることは避けるだろう。その打開策としては日韓首脳の対話の継続だろう。既に両者は昨年7月の会談で相互にトップが訪問するシャトル外交を決め、最初は文が同年中に訪日することになっていた。にもかかわらず安倍訪韓が先行するのは文にとっても悪い気はしまい。日韓シャトル外交は2004年7月の済州島を手始めに始まったが、中断している。今度は文に訪日の時期を明示させることが肝要だ。

さらに安倍は、文を北朝鮮への傾斜から日米韓の連携に戻したいのだろう。内容はともかく「連携重視」といった“合い言葉”ではまとまるだろう。
 
皮肉なことに韓国側は、安倍が産経に開会式出席を表明した23日に、女性家族部長官の鄭鉉栢が「慰安婦合意」によって組織された「和解・癒やし財団」を年内に解散させ、「慰安婦歴史館」を発足させる方針を表明するなど、政府レベルでの反日行動を維持する方針を明らかにしている。これを知っていたら安倍は訪問をちゅうちょしたかも知れない。官邸の情報収集機能の問題でもある。要するに一筋縄ではいかないのだ。

こうした状況を自民党の一般議員らは、親韓の二階ら幹部と異なりよく理解しており、24日に開いた「日本の名誉と信頼を回復するための特命委員会」と外交部会の合同会議では、五輪開会式への安倍の出席について反対意見が噴出した。

席者からは「国民の多くが慎重論なのに首相が訪韓すると、国民の支持が離れていく」との発言が出された。確かに、安倍の支持率にとっては訪韓はマイナスに作用するだろう。保守層のコアの部分の神経を逆なでする可能性が高いからだ。さらに部会では「訪韓の成果が見込まれない。国民を説得できない」との声が上がったが、これももっともだ。安倍の文への大接近を選挙民に説得する事は難しい。「政治利用されるだけだ」との認識も説得力がある。

出席した約40人から訪韓を支持する意見は出なかった。安倍は二階や公明党の訪韓論に惑わされて、一般議員らの慎重論を見逃していることになる。官邸は今後一般議員との接触を密にして、説得に力を傾注すべきだろう。


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