2018年03月07日

◆トランプ式“関税爆弾”は“恐慌”を招く

                          杉浦 正章


同盟国まで敵に回す国際戦略の欠如
 
米国内に同盟国免除論

米大統領ドナルド・トランプが世界を相手に投げかけた“関税爆弾”は、70余年間続いてきた自由貿易体制崩壊の危機を生じさせている。欧州連合(EU)と中国は、連日のように米国による鉄鋼・アルミへの課税に対して独自の課税品目をちらつかせ、まさに貿易戦争も厭わぬ状況を現出させている。トランプの意図には秋の中間選挙対策の匂いがふんぷんと感じられる。報復合戦→貿易戦争→景気悪化→恐慌といういつか来た道すらほうふつとさせる。


日本も打撃を被るが首相安倍晋三は6日、オーストラリアのターンブル、カナダのトルドー両首相と相次いで電話会談し、緊密に連携して対応することを確認した。米国以外の11カ国による環太平洋連携協定(TPP)についても引き続き協力し、自由貿易圏の拡大に取り組むことで一致した。外務省の秋葉剛男事務次官は6日、ハガティ駐日米大使に対して、「日本からの鉄鋼やアルミニウムの輸入が米国の安全保障に悪影響を与えるものではない」とトランプの方針を批判した。


それにしても、どうしてトランプという大統領は、自分の行為が及ぼす結果への予測が利かないのだろうか。今回の事例で分かったことは側近までが同調しており、殿のご乱心を止められないということだ。トランプは自由貿易をまるでゼロサムゲームとでも考えているかのようである。世界の自由貿易体制を一人が総取りするようなゲームと見間違えてはならない。


貿易は世界中の何千万という売買行為によって成り立っている。米国の赤字は膨大な量の自由貿易の結果であり、トランプは、この貿易にストップをかければ米国の雇用が増えるなどという妄想にとらわれているとしか思えない。行き着く結果は自給自足経済となり、最終的には投資の崩壊と恐慌を招くのだ。


それにもかかわらずトランプは度しがたい発言を繰り返している。
2日朝のツイートは「米国が取引しているほぼ全ての国との貿易で何十億ドルもの損失を被っている時には、貿易戦争はいいことであり、勝つのは簡単だ。例えば、われわれがある国との取引で1000億ドルを失っている時にその国が厚かましい態度に出るなら、もう取引をやめよう。そうすればわれわれの大勝利になる。簡単なことだ」だそうだ。そこには度しがたい独善主義しかない。



現にブルームバーグ通信は2日の社説で、「1930年に米国がスムート・ホーリー関税法の施行後、世界的な報復関税によって大恐慌に見舞われ、世界経済も崩壊した」と指摘し、「トランプ大統領は貿易戦争で果たして何を得るつもりか」と詰問した。ノーベル経済学賞受賞者であるロバート・シラー・エール教授も、「大恐慌当時に起きたのと同じ状態だ」と指摘している。ライアン米下院議長はアルミニウムと鉄鋼に対する関税案の撤回を求める姿勢を和らげ、代わりに貿易システムを乱用する国々に絞った措置を取るようホワイトハウスに促した。


こうした状況を受けて米国の複数のメディアは、「トランプ大統領は行政命令署名までの残りの数日以内に、せめて重要な同盟国を除く必要がある。」と提案した。ワシントンポスト紙も、社説で、「数十年間構築してきた同盟関係と相互互恵的自由貿易秩序が、米大統領の気まぐれで傷つけられるようになった。カナダ、日本、韓国、ドイツなどの同盟国を、新しい関税措置から免除しなければならない」と主張した。


さらにニューヨークタイムズ紙も、「トランプ大統領は、中国の過剰生産を減らすことに興味があるなら、中国を圧迫するためにEU、カナダ、日本、韓国と協力すべきだったにもかかわらず、同盟国を怒らせた」と指摘した。米マスコミの大勢は対中制裁はやむを得ないとするものの、同盟国まで敵に回すトランプの洞察力と国際戦略の欠如に警鐘を鳴らしているのだ。

 
米国は2002年には日本からの鉄鋼製品に高度な関税をかけ、その結果、日本の鉄鋼を原材料に製品を作る自動車部品メーカーなどに収益の悪化ををもたらした。一方的な措置でツケを払わせられるのは一般国民にほかならないのだ。米国の経済専門家からは長期的には米国経済にマイナスであるとの見方が生じているが当然である。


 一方中国との貿易関係は今年に入ってから暗雲が漂う気配が生じていた。1月に中国からの太陽光パネルに高関税をかけたのだ。それにもかかわらず同盟国まで一括して含めてしまったのは戦略上の大失策だろう。現に欧州連合(EU)は委員長ユンケルが、「ハーレーダビッドソン、バーボン、リーバイスのジーンズを含めた米国製品に関税をかける準備をしている」と語った。


米メディアによると、こうした措置の対象は総額35億ドル(約3700億円)規模になるという。これに衣類や化粧品、トウモロコシ、オレンジジュースなども加わる方向だ。一方、全人代報道官張業遂は「中国の利益が損なわれることを座視するわけにはいかないが、貿易摩擦の正しい処理は協議を通じて解決方法を探ることだ」とクールダウンに出ている。


 頭に血が上ったトランプをいかに懐柔するかだが、今週TPP(環太平洋経済連携協定)11はパートナーシップ協定に各国が署名する段取りとなっている。チリの首都サンティアゴで8日(日本時間9日)に署名式を開く。日本からは経済再生相茂木敏充が出席する。参加各国の署名で最終合意となり、協定文書が正式に確定する。まさに自由貿易の砦となるものであり、かつては自由主義貿易の旗手であった米国が打ち出した“禁じ手”に、どう対応するかが焦点だ。


政府は、トランプ大統領の最終署名までの残り時間に、外交力を総動員して、世界経済の崩壊を食い止めなければなるまい。トランプ式“自給自足経済”は“恐慌指向”としかいいようがないからだ。
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