2018年04月12日

◆マレーシアも「中国の罠」に陥落したのか?

宮崎 正弘


平成30年(2018年)4月11日(水曜日)
        通巻第5668号 

 マレーシアも「中国の罠」に陥落したのか?
  ナジブ首相が中国主導のプロジェクトにのめり込む面妖な背景

マレーシア総選挙は5月9日と決定した。

前回の選挙で大幅に得票を減らした与党連合「UMNO」はマレー人主体
だが、華僑の政党、インド系も加わっている。得票率は47%、しかし議席
は60%を確保した。

次の選挙では野党への期待が高まっており、事前の世論調査では与党敗北
の信号が灯っていた。

したがってラジブ首相率いる与党と野党連合の対決は大接戦なると見られ
ていたが、土壇場へ来て選挙区の区割り変更など、狡猾な手段でナジブ政
権は野党の票田を分裂させ、しかもマハティール元首相が主導する野党連
合「希望連合」からイスラム政党を離脱させるなどの分裂を策した上で、
活動停止処分とするなど悪質な妨害が目立つようになった。

ナジブは独立後2代目首相ラザクの息子であり、いってみればマレーシア
の「太子党」を代弁する利益集団のトップ、末端の国民からは好かれてい
ない。

マレーシア独立以後、はじめて政権交代、与党敗北色濃いという事前予測
が主流となった背景には「マレーシアも中国の経済植民地となるのか」と
いう未曾有の危機感があったからだ。

いかなる経緯があったか。

第一に中国の進める「一帯一路」プロジェクトにナジブ政権は或るスキャ
ンダルを境目に、突如、興奮するかのように乗り気となり、熱烈な協力者
となった。その理由は国家ファンド「1MDB」が抱えた巨額の不良債権
という闇のファクターが存在する。
 
2015年に発覚した1MDBの負債は1兆4000億円といわれ、しかも、その
うちの使途不明金850億円が、なんとナジブの個人口座に振り込まれて
いたという疑惑が取りざたされ、マレーシア政界を震撼させた。

この穴埋めにナジブ政権は中国の一帯一路に相乗りして、資金を穴埋めに
つかおうというのが中国への急傾斜の動機だとクアラランプールの情報筋
は言う。


▲なぜマレー半島の東海岸を縦断する鉄道が必要なのか

中国が提示するマレーシア関連のプロジェクトには東海岸の6600キロに敷
設する鉄道建設がある。しかもこの鉄道建設は中国企業が主導する。

長期的には雲南省昆明からラオス、カンボジア、タイを経てマレーシアを
通過し、シンガポールまでの長距離。

ところが東海岸鉄道は旅客が望み薄であり、既にバス路線が発達している
ため、マレーシアではなく、中国のための鉄道ではないかという不満が渦
巻く。
中国の軍事戦略では南シナ海のシーレーンが脅かされた場合のバックアッ
プ・ルートしてマラッカ海峡ルートを確保しておくという戦略があるからだ。

あたかも江戸幕府が東海道に対しての中仙道を重視したように、あるいは
日本軍参謀本部の東海道線の代替ルートとしての中央本線という位置づけ
と対比すれば理解できるだろう。

この鉄道に付随してクアンタン港の整備、マラッカ海峡の諸都市にある港
湾の整備、ボルネオ島北部の拠点=コタキナバルへの中国軍艦寄港など中
国の「海のシルクロート」に協力的なプロジェクトが並ぶ。

またマレーシアにおける中国企業の躍進も凄まじく、華為技術と中興通訊
(ZTE)の二社はマレーシア通信事業に大々的に参入した。

マレーシアの国民車として親しまれるプロトン社の49・9%の株式は中国
の吉利集団が購入した。

エドラ発電は中国廣核集団に売却し、バンダルマレー株の60%を中国中
鉄に売却するなど、旗艦産業も外国資本に売り渡すような政策は「売国
奴」だという野党側の批判に発展した。

しかし、中国の投資はますます巨大化し、民間でも巨大投資はジョホール
バルの四つの島を埋め立てて建設する「フォレストシティ」である。これ
は中国不動産企業のトップを走る「碧佳園」がゼネコン&デベロッパーと
なって完成間近だ。現場の労働者は80%が中国から、残りをパキスタンな
どから連れてきた。

中国から6割、4割は地元の雇用という約束は反故にされた。

ナジブ政権は、フォレストシティ建設プロジェクトの契約に際して、例外
的に外国人の土地所有を認めた。

ここには70万人の中国人が移住するために、マハティール元首相は「ナジ
ブは国土を中国に売り渡した」と激しく攻撃し、ひろく国民の間にも、
「反中ナショナリズム」が燃えあがっていたのである。


▲近年になかった保革逆転の予測が二転三転

こうした状況でマレーシアの政治は「ナジブ政権 vs マハティール元
首相」という対決構造となり、マハティールが野党を結成し、野党連合を
組織して、選挙に出馬すると声明を出して、準備に入った。

与党敗北予測がメディアに目立つようになると、狼狽したナジブは、この
マハティール野党に解散命令を出し、(書類不備の難癖)、さらに特急作
業で「反フェイクニュース法」を制定し、事実上、ナジブ政権批判を封じ
込めた。

そのうえで、222の小選挙区の区割りを与党有利に再編し直し、ナジブ首
相は、なりふり構わずに議会解散を強行した。マレーシアの選挙法では議
会解散から60日以内に総選挙がおこなわれるという規定があり、4月10
日になってマレーシア選挙管理委員会は5月9日を投票日と決めた。

この与党の電光石火の早業によって、イスラム政党が野党連合から離脱、
マハティールは無所属でも立候補すると記者会見した。

世論は圧倒的に反ナジブだが、政権批判のメディア二紙が休刊を命じら
れ、他方ではナジブ首相が選挙目当てのバラマキ、駆け込み施策をおこ
なって人気の回復を図った。大票田を固めるために公務員、年金受給者へ
の現金支給。最低賃金の上乗せ、燃料価格安定のための補助金支給、そし
て選挙公約では消費税廃止も謳っている。


マレーシアは伝統的な多民族国家であり、マレー系に華僑、インド系の3
大民族構成というのはあまりに単純な図式である。

「華僑」と一口にいっても、多くは福建省、広東省出身であり、ついで潮
州出身が多く、彼らには北京語は通じない。

マレーシア華僑を代表するのはシャングリラ・ホテルの経営者ロバート・
クォク(郭?年)が有名だろう。郭は香港の老舗「サウスチャイナ・モー
ニングポスト」を買収して論調を北京寄りとしてから、マードックに売り
抜け、さらにマードックはアリババの馬雲に譲渡した経緯がある。

この多重的な華僑の列に「海峡華僑」という「倭寇」の末裔とされる人々
がいて、英語しか喋れないため「英語系華僑」とも言われる。シンガポー
ルのリークアンユー前首相も、この海峡華僑の流れをくむ。(倭寇は前期
倭寇に日本人もいたが、後期倭寇はシナ人の海賊だった)。

インド系マレーシア人はタミル語族であり、インド・アーリア系列ではな
く、ベンガル流域から流れ込んだ。したがって言語もタミル語である。 
 ともかく上記のような複雑な、多民族国家の未来が次の選挙にかかって
いる。
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