2018年06月15日

◆トランプの「軍事演習中止」発言の浅薄さ

杉浦 正章


「カネ節約」と商売人根性丸出し 安倍は日朝首脳会談も視野に

群盲象をなでるというか、百家争鳴というか。トランプと金正恩の会談を
めぐって議論が百出している。その理由はトランプが「詰め」を怠った結
果だ。

アバウトで危うい「合意」が、混乱や困惑を世界中にまき散らしているこ
とをトランプ自身も分かっているのだろうか。首相・安倍晋三も金正恩と
の首脳会談を実現し、極東の安全保障を確立させるための直接対話を実現
させるべきだが、それには拉致問題の成果もある程度見通せるようになる
必要がある。

日米は非核化で北朝鮮から大きな譲歩を引き出せない限り、軍事的な圧力
を弱めるべきでないことは言うまでもない。

トランプの高揚感は、自己顕示欲もともなってすさまじい。会談後「金委
員長と私はたった今、共同声明に署名した。

彼はその中で『朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない決意』を再確認し
た」と、記者会見で“成果”を強調した。「われわれはまた、合意実現のた
めできるだけ早期にしっかりした交渉を行うことで一致した。

彼(正恩氏)がそれを望んでいるのだ。今回は過去とは違う。一度もス
タートすることなく、それゆえやり遂げることもなかった政権とは違う」
と述べた。どうもトランプは過去の政権との比較を臆面もなく持ち出す傾
向が強いが、オバマをはじめ歴代大統領なら、現状に合わせた対応は当然
している。トランプこそ唯我独尊の露呈を戒めるべきだ。

トランプと金正恩が決めた合意文書自体は「朝鮮半島の平和と繁栄に貢献
する」ことを約束し、「トランプ大統領は(北朝鮮に)安全の保証を提供
することを約束した」となっている。極めて大まかな合意である。

金正恩の述べた「朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない決意」は立派だ
が、その非核化の時期や方法、具体的な対象についての細部は文書に存在
しない。

トランプは記者会見でこれを「時間がなかった」せいにした。だが、極め
て重要な意味を持つのはその細部なのだ。というのも過去に米政権が細部
を詰めなかった結果、北朝鮮は何度も約束をほごにしてきた。

北の「やらずぶったくり」路線は、毎回成功してきたのだ。合意文書に
は、正恩がトランプの主張する内容を確実に実行することを示す部分はほ
とんどない。

会談での譲歩に加えて、トランプは米韓軍事演習を「ウォーゲーム」と軽
視するかのような発言をして、交渉が順調に進んでいる間は中止する意向
を表明した。北が「極めて挑発的」と非難を繰り返してきた演習は、裏を
返せば効果があるのであり、独断で中止してしまえるようなことではある
まい。「会談後最初の重大かつ一方的な譲歩」(ウオールストリート
ジャーナル)を行ったのだ。

非核化の道筋すらおぼろげなのに、クリヤーカットに軍事演習中止の「見
返り」を与えてしまうとは恐れ入った。欧米メディアは非核化の具体的な
手法や期限が決められなかったことについて懸念する見方が多い。

トランプは「ウオーゲームの中止で、カネを大幅に節約できる。ウオー
ゲームは挑発的だ」と述べている。ここでカネの節約を言うとは商売人根
性丸出しで、安全保障の重要性を理解していない。

まるでベニスの商人のごとく、方向性を間違っている。米韓軍事演習は北
朝鮮に対する圧力のシンボルであり、これが実施され、米軍の装備が白日
の下に照らされるからこそ、北が南進を思いとどまってきている現実を分
かっていない。

日本に関係の深い拉致問題については国務長官ポンペオが「大統領は複数
回にわたって取り上げた。拉致家族の帰国のための北朝鮮の義務を明確に
伝えた」と言明した。トランプに対して金正恩は「分かった」と述べたと
言われる。

しかし金正恩が具体的な反応をした形跡はない。トランプは安倍との電話
協議で「金委員長は日朝会談にオープンだ」という趣旨の説明をしたという。

政府は北朝鮮の動向を慎重に見極めながら交渉の機会を模索する方針で
あり、政府部内には早ければ7月か8月の首脳会談もありうるとの見方が
ある。夏がない場合、9月にロシア・ウラジオストクで開かれる「東方経
済フォーラム」に金正恩が出席すれば、安倍との会談を実現させる構想も
あるようだ。

実現すれば2004年の小泉純一郎訪朝以来となるが、安倍は金正恩との会談
について「ただ話しをすれば良いのではなく、問題解決につながる形で実
現しなければならない」と、慎重な姿勢であり、情勢を見極める構えだ。

拉致問題は被害者家族にとっては極めて重要だが、まずは極東安保という
大事を最優先させ、その結果として拉致問題の解決につなげることが重要
だろう。安倍が発言したように日本は拉致問題に関しては「主体的」に対
応するしかない。



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