2018年06月17日

◆映画「万引き家族」   

     馬場 伯明


映画「万引き家族」に賞賛の声が巷に溢れている。第71回カンヌ国際映画
祭で最高賞のパルムドールを受賞したのだ。とは言え、中身を知らないこ
とにはモノが言えない。やはり、観たいな。

特別公開6.3(日)の朝一番、千葉市の「京成ローザ」で観た。満員だっ
た。最近の映画館はガラガラが当たり前なので、館内には異様な雰囲気が
漂っていた。子供の昔にもどったかのようなわくわく感があった。

「Film Marks」より「あらすじ」を引用・転載する。

《高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋
に、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)の夫婦、息子の祥太
(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)の4人が転がり込んで暮らして
いる。彼らの目当ては、この古い家の持ち主である初枝(樹木希林)の年
金である。足りない生活費は、万引きで稼いでいた。

社会という海の底を這うような家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、互
いに口は悪いが仲よく暮らしていた。冬のある日、近隣の団地の廊下で震
えていた幼い女の子、ゆり(佐々木みゆ)を見かねた治が家に連れて帰る。

(実親の虐待で)体中傷だらけの彼女の境遇を思いやり、信代は娘として
育てることにする。(狭い家で)「家族」は幸せに暮らしていた。しか
し、ある事件をきっかけに、「家族」はバラバラに引き裂かれ、それぞれ
が抱えていた秘密(過去)が明らかになっていく・・》(引用終わり)。

再び言う。賞賛の声が巷に溢れている。映画公式HPより抜粋・紹介する。

「ヒトは身を寄せ合う、世間から外れても、法に触れても、いのちの自然
に逆らわず、GDPなどどこ吹く風で(谷川俊太郎 詩人)」。「家族・・・
ほんとのつながりって、私にとってはなに?どこにある?とつきつけられ
た(有働由美子 キャスター)」。

「たとえかりそめでも、ここに肩を寄せ合った人々の瞳には、真実の光が
ともっている(小川洋子 作家)」。「映画を見終わって、すべての登場
人物の瞳の奥に、天からぶら下がる蜘蛛の糸のようなもの、「希望の光」
が見えた(松本隆 作詞家)」

斜め後ろからの私の感想をいくつか述べる。

(1)彼らは「万引き家族」である。しかし、大量には盗らない。生活に
必要な分だけ盗る。良心的な万引き野郎である(笑)。貧しい食卓だが彼
らには笑い声が絶えない。(実親の虐待で)体中傷だらけの少女、ゆり
(みゆ)は全身がこわばっていた。しかし、この家族の中で彼女の心は溶
け、あたたかい涙が頬を伝った。(大勢でこういう食事をしていたなあ。
家族っていいな)。

(2)名優二人。夫婦の会話はすぐれた掛け合い漫才のようだ。テンポが
いい。ある昼間、夫婦は言葉のじゃれあいから・・・あらら、SEXになっ
た。慣れたもんだ。安藤サクラ(妻)の豊かな太腿がフランキー(夫)の
小ぶりの尻の動きと好対照だった。急に誰かが玄関に、あわてて着衣、何
食わぬ顔でニヤリ。仲がいい。夫婦はこうでありたい。

(3)治(フランキー)が祥太(城)に万引きの極意を教える。「あせら
ずに店員が減るのをずっと待つのがコツなんだ」と。幼いゆり(みゆ)は
これから万引きを「学ぶ」のだろうか。しかし、祥太はしだいに成長し
「万引き」稼業に疑問を感じ始める。家族はお互いが突っかい棒である。
一人ひとりが微妙に支え合っている。そのバランスがどこで崩れてしまう
のか、それとも、持ち直すのか。観客はまったく気が抜けない。

(4)映画「万引き家族」には、現代の日本社会の底辺の「問題点」が凝
縮されているというか、「てんこ盛り」である。万引き(!)はもちろ
ん、死去老親の年金詐取、親による幼児虐待、風俗産業、非正規労働、派
遣社員、日雇い、無戸籍、独居老人、貧困・・・。その中で、是枝監督は
家族を表現する。

この映画は最高賞のパルムドールを受賞したのに、政府は、日本社会の底
辺の「問題点」を気にしたのか、無条件にベタ誉めはしなかったようだ。
映画だから国政の責任は問われない。余裕を持って誉めたらいいと思う。

是枝裕和監督は、いろいろな家族を題材に「家族を超えた人間の絆」を描
いてきた。形骸化しているともいわれる現代の家族へ逆説的に警鐘を鳴ら
す。この映画のキャッチコピーである「盗んだのは絆でした」も、けっこ
ういいな。

街角でリリー・フランキーのインタビュー記事を読んだ(The Big ISSUE
vol.336 2018.6.1「スペシャルインタビュー」飯島裕子)。家族とは、
絆とは、幸せとは何だろうか。2頁の最後に彼がつぶやく。

「家族ってとても煩わしいものですよね。・・・寂しいと思って家族をつ
くり、煩わしいと思って離婚しても、また家族をつくるわけじゃないです
か。だから、“正解の家族”ってないんだろうと思うんです。煩わしさの中
には、とても意味のある温かさがあるから」(6p)。

映画はまさに「百聞は一見に如かず」である。さあ、まだ観ていない人
は、この雑文などは無視して、すぐ映画館へ行きましょう。(2018.6.15
千葉市在住)

(追記)
林芳正文部科学相は2018.6.15の閣議後記者会見で、カンヌ国際映画祭で
最高賞を受賞した是枝裕和監督が林氏からの祝意を辞退したことについ
て、「監督の考えを尊重したい」と述べた。是枝監督は7日、「祝意を伝
えたい」とする林氏の発言に対し、自身のホームページで「公権力とは潔
く距離を保つ」として辞退を表明した。

その際、受賞作の「万引き家族」が文化庁から助成金を受け取っているこ
とに感謝の意を示した上で、「日本の映画産業の規模を考えるとまだまだ
映画文化振興の為の予算は少ない」と記した。文化庁は「万引き家族」の
制作に文化芸術振興費補助金2000万円を支出している。(2018.6.15毎日
新聞)
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