2018年06月25日

◆アメリカには職業の流動性がある

前田 正晶



何のことかと思われるだろうが、アメリカでは大統領になるまでに我が国
のように(議員内閣制ではないから)先ずは地方議員から始めて国会議員
となってという類いの累進出世(で良いのかな)方式がないから、故レー
ガン大統領のように映画俳優から就任された例があるし、オバマ前大統領
に僅か1期だけ上院議員を務めた弁護士が大統領になれた例があると思っ
ている。文化の違いである。

トランプ大統領は今更言うまでもなく言わば大手の不動産業者から一気に
大統領になられた方だ。我が国の歴代の総理大臣と比較するのが適切かど
うか知らぬが、政治以外の分野を長年経験されてきた非職業政治家だっ
た。この辺りに私は「職業の流動性」を見る気がするのだ。

その点では手っ取り早くW社の例を挙げれば、数人の元大学教授のマネー
ジャーもいれば、その辺りの地位か副社長からリタイヤー後に大学強に転
じていった者は多かった。

悪く言えば、我が国の政治家の在り方は「体育会制度の下に一つの競技し
か深く極めていない者が多い」のである。例に挙げては非礼かも知れない
が、レスリング界の栄和人氏のような事態が生じるのだと思う。言うなれ
ば、レスリングという競技を深く極める間に「広く世間を見る機会を自動
的に失ってしまった」ことがコインの裏面で、天上天下唯我独尊の如くに
なってしまったことが不幸だったという例だと思っている。

私はアメリカの会社に転じて、予めそういう社会だとは承知ていたが、職
業の流動性の実態に接してあらためて文化の違いをマザマザと思い知らさ
れた。その辺りを「貿易」という業務がアメリカの会社の文化ではどのよ
うに扱われているかを述べていこう。

我が国では多くの業界で「外国 部」、「海外部」、「貿易部」という組
織があると思っている。そこには 英語の能力も要求されるし、受け渡し
から始まって輸出入のドキュメント というか事務処理の能力が必須であ
ると思っている。言うなれば、国内市 場担当とは異なる一種の「特殊技
能」が求められていると言えば良いか。

ところが、1972年にアメリカの会社に転じてみてある意味で驚愕だったの
は、アメリカ国内の営業の担当者がごく当たり前のように国内と国外の得
意先を担当していることだった。当時は未だL/C(信用状のこと、念の
為)の開設が必須の時代だったし、ドキュメントが読めなければ仕事にな
らないし、貿易相手国の市場にもある程度以上通じている(勉強してる)
ことは当然だった。

そこで、大胆にも新参者の私は内勤の事務方の責任者に「それで成り立つ
のか」と切り込んでみた。答えは割りに簡単で「事務処理は我々が担当し
ているから、営業担当者は国内であろうと外国だろうと営業の仕事である
事は同じだから何の問題もない」と何らの屈託もなく割り切っていた。

一寸した驚きの文化の違いだった。そう言われて考えてみれば、私自身が
Meadのオウナーにインタービューされた際に「紙という製品の販売から原
料のパルプ販売に移ることに不安はないか」と訊かれて「どちらでも営業
であるという根本原理は同じだと思うから不安はない」と答えていた。

ここまでで言いたいことは「ある分野である程度の経験を積み、実績を残
せるだけの実力が備わっていれば、業界が変わっても通用するのだ」とい
う点である。であるから、アメリカの大手製造業界では躊躇うことなく異
業種から即戦力となる者を採用していく文化で成り立っているのだ。そこ
では、当然のように「君は以前はどういう業界にいたのか」というよう
な、当時の我が国の感覚では「失礼な」と思うことを平気で尋ねてくるの
だった。

私はこれまでに再三再四「トランプ大統領はものを知らないのか、知って
いながら知らん振りをしているのかが解らない点が怖い」と指摘してき
た。そう言う訳は、唱えられた公約や就任後に打ち出された政策の中に
「本当にそのことについて十分な知識と経験があり裏と表の事情を承知で
あれば、とても言い出せない案件が多過ぎる」からだった。そこでは「あ
る業種で蓄えた知識と経験があれば他業種でも通用する」という原則は不
動産業者からアメリカの大統領という転進には当て嵌まらないのではない
かと考えていたからだった。

しかし、トランプ氏は当選され、彼以前の大統領が手がけるというか考え
てもいなかっただろうような大胆不敵な政策を次から次へと打ち出して
いった。その辺りを未だに「知らないから出来た」のか「本当に知らない
のかどうかが解らない」と疑問に感じている勢力はあると思っている。私
は今となってはメキシコ等の南アメリカからの移民を制限するし送還する
というような政策は支持したいと思うに至っている。

だが、トランプ大統領の「アメリカファースト」を基調に置く政策は貿易
赤字を削減する為に横紙破りというか、世界の貿易の実績がマイナス成長
となるのではないかとエコノミストや一部の学者が懸念するような中国等
の対アメリカ貿易黒字国を相手にする関税の賦課という政策に突き進んで
いったのだった。

私はこういう政策を採られる背景に「何もかも承知か」 か「知らないか
らこそ打って出た」のか「これまでの知識と経験はここで も通用する」
という信念に裏打ちされているのかとも考えたが、現時点で は何とも判
断のしようもない強引さであると思っている。

トランプ大統領のような手法に対する批判は極端に言えば二つに別れると
思う。それは「これまでの因習的な決め事と習慣に囚われることなく『ア
メリカを再び偉大にする為』に世界を変えてみせる」という強固な信念の
表れか「誰が何と言おうと形振り構わずに公約した通りに邁進するのだ」
ではないかと考えている。後者にはこれまでに通用してきた手法が通じる
のだと信じている「世界における貿易とは何かを知らないが故の強さ」が
あるようにも見えるのだ。

私の議論は何処まで行っても自分で経験したことに基づいている。それは
「アメリカという国は飽くまでも基本的には輸出依存の経済ではなく、内
需で成長してきたのである」ということが重要だと思っている。

中国から の輸入が多いのは、乱暴に言えば非耐久消費財のような物は産
業界を空洞 化させて低労働コストの国で生産するようにしたのである以
上当然であ り、それを今更非難するのは手遅れだとしか思えないのだ。
更に、そこに はアメリカ国内の労務費と労働力の質にも問題があったこ
とは、私も経験 上も心得ているし、再三述べてきたように嘗ての
USTR代表のカーラ・ヒルズ大使も認めておられたのだ。

思うに、トランプ大統領は70歳までの他業種での経験というか成功と失敗
に裏打ちされた知識と経験に自信を持たれ、新しいアメリカを構築されて
「アメリカを再び偉大にする為」に「アメリカファースト」の精神で突き
進むと固く決められたのだろう。それを支えているのが好調な国内の景気
と、プーアホワイト以下に加えて知識階層にも支持者が増えているという
事実があるのだと思って見ている。


私如きにはトランプ政治の結果がどう出るかなどの予測は不可能だ。当面
の間は我が国を始めとして、EUの諸国、中国、ロシア、DPRK、アジアの諸
国等が如何に対応していくかを見守っているしかないと考えている。


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