2018年08月10日

◆サウジの「女性の運転解禁」

加瀬 英明


日本にとって危険信号となるサウジの「女性の運転解禁」

いったい、女性が自動車を運転するのが、そんなに大(おお)事なのだろうか?

6月24日から、イスラム世界において女性に対する差別と、もっとも宗教
戒律が厳しいサウジアラビアで、女性がはじめて自動車を運転することが
認められたことが、日本でも大きく報道された。

日本はサウジアラビアに石油・天然ガスの40%と、その小さな隣国のアラ
ブ首長国連合の20%を加えると、60%も依存している。日本が必要として
いる石油・天然ガスの80%が、サウジアラビアをはじめとするペルシア湾
岸から、運ばれてくる。

日本を人体にたとえたら、血液の80%がペルシア湾岸から、供給されている。

サウジアラビアで、女性が自動車の運転を許されるようになったのは、日
本に対する危険信号が灯ったようなことだ。

もし、サウジアラビアが安定を失って、周辺も巻き込んで大混乱に陥った
場合には、日本の国民生活が根元から揺らぐことになる。

昨年、82歳のサルマン国王が、モハメド・ビン・サルマン王子を世継ぎと
して擁立すると、今年、32歳の皇太子が2030年までにサウジアラビアの脱
石油経済化をはかって、近代国家につくり変える大規模な計画を、強引に
進めるようになった。

いまや、皇太子は世界の注目を浴びて、MBSの頭文字によって知られる
が、これまでサウジアラビアの政治が、1万人もいるという王子(プリン
ス)の合意によって行われてきたのにもかかわらず、ライバルの王子たち
を逮捕、厖大な財産を没収などして、独裁権を手にしている。

私はイスラム教の研究者であって、1980年代に三井物産と、日商岩井
(現・双日)の中東の顧問をつとめたが、“ビジョン2030”として知られる
大計画は、成功しないと思う。サウジアラビアは19年にイギリスが砂漠
につくった、多くの氏族からなる人工国家であって、もっとも力があった
サウド一族によって、国名を「サウジ(サウド家の)アラビア」と、定め
てきた。

 サウジアラビアは、砂漠と、棗椰子(なつめやし)と、駱駝(らくだ)の国
だが、国民は先の大戦後に外国人の手によって生産される石油が、巨富を
もたらすまでは、隊商が主な収入源で、農業に携わってきたイラク、シリ
ア、エジプトの人々の勤勉な習性を欠いており、もっとも背が高い建物と
いえば、遊牧民のテントだった。

 それが、これまで国民が湯水のような巨額の石油の収入によって、税
金、家賃、教育費、医療費、光熱費が免除され、肉体労働は外国の出稼ぎ
労働者に頼るという、まるで不労所得者のような国となっていた。政府は
サウド家に対する忠誠心が薄い、多くの氏族から成り立つ国民を、潤沢な
石油収入によって宥(なだ)めて、安定を保ってきた。

 MBSの近代国家化プロジェクトは、2014年から原油価格が暴落し た
のと、急速な人口増に加えて、世界が脱石油時代へ向かっている危機感
に駆られたものである。

 MBSは海外からの投資に、期待している。そのために、サウジアラビ
アが女性を差別しているのに対して、批判が強い両側諸国の好意を確保す
るために、女性に自動車運転を許すようになった。

 だが、サウジアラビアでは、2001年にサウジアラビア国籍のイスラ ム
過激派テロリストが、ニューヨークの世界貿易センタービルを破壊した
時にも、八年前にチュニジアで“アラブの春”が始まって、民主化の高波が
中東を襲った時にも、危機に迫られるたびに、女性の権利を小出しに拡大
してきた。

 MBSはまだ権力基盤を固めつつあるし、“2030年プロジェクト”が 失
敗すれば、この国が大混乱に見舞われることになる。

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