2018年10月16日

◆マティス国防長官、近く辞任観測

宮崎 正弘


平成30年(2018年)10月15日(月曜日)通巻第5858号   

 マティス国防長官、近く辞任観測
  ロシア政策でボルトン補佐官と対立、トランプの暴走発言にも嫌気

かねてから辞任の観測が燻っていたが、中間選挙を前に政権が内部で揺れ
ることは得策ではないとマティス国防長官 vs ボルトン大統領補佐官
の対立は表面化していなかった。

ボルトンは、もっとも強硬なタカ派イメージだが、その基底にあるのは戦
略的原則を守ることにあって、原理を代えないという姿勢だ。それゆえ全
米の保守陣営からは信頼されている。

一方、マティスも「狂犬」というニックネームは別にして、軍人出身者に
は珍しい読書家であり、歴史を語れる。自宅には7000冊の蔵書、独身。軍
のエリートは、米国ではやはりエリート。相当の知識人でもある。なによ
りも重視するのは秩序、そして軍人は何事にも慎重である。

ボルトンは「イランとの核合意」に一貫して反対してきた。

またブリーフィングも簡潔で分かりやすく、くどくど説明されることが嫌
いで、苛立ちを隠さず、長い長い演説のような情勢解説をしたマクマス
ター補佐官を馘首して、ボルトンに代えた経緯がある。

トランプはボルトンを信頼しているが、ふたりの意見が食い違うのはロシ
アへの姿勢で、なんとかロシアを反中国陣営に引き入れようとするトラン
プと、核戦略政策における確執からロシアとは距離を置くべきとするボル
トンの差違。しかしボルトンは20年も歴代政権から干されていた経歴か
ら、譲るところは譲り、もっとも大統領に影響力を行使できる立場を確保
しようとしている。

ボルトンは周知のように沖縄に駐留している米国海兵隊を台湾に移動せよ
と主張する台湾擁護派のトップでもあり、日本に関しても拉致問題にもっ
とも関心がある政治家だから、その動向に注目している。

ところでドイツのメルケルの牙城バイエルンで、メルケル与党が大敗北を
喫した。

これは「番狂わせ」というよりメルケル時代の終わりを告げる選挙結果だ。

中間選挙まで3週間となって米国でも、反トランプ陣営の旗手、民主党応
援団長格のジョージ・ソロスが、中間選挙では「民主党はまた敗北するだ
ろう」と予測していることが分かった。
     
☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆⌒☆書評 しょひょう 
BOOKREVIEW 書評BOOKREVIEW
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「西尾幹二流・ツァラトゥストラ」。LIBERTY と 
FREEDOMの差違。

自由な精神世界に、私たちは本当に生きているのだろうか?  

  ♪
西尾幹二『あなたは自由か』(ちくま新書)
@@@@@@@@@@@@@@@@@@

意表を突かれた、この題名に。

これまで「自由」と思ってきた概念も、状況も、じつは自由ではない。本
当の自由から、わたしたちは不自由な世界にいるのか、いやそれとも異次
元の自由世界に身を置いているのだろうか?

議論はまず、自由はLivertyか、Freedomか、から始まり、
「自由」と「平等」の差違をギリシアの歴史にまで遡及する。本書は随筆
ではなく、やさしい哲学の書である。

冒頭から3分の1あたりまで読み進むうちに、まず評者(宮崎)の脳裏を
去来したことは、「日本人が変わってしまった」という不思議な感覚だった。
 自由が際限なく拡大解釈され、平等は無限の政治的力を発揮し、そして
日本という存在そのものを脅かしている。

「平等」の誤認が{Me#Too}とか、外国人留学生特待とか、少数派
が強く、何でも予算化されるという政治風土を培っている。

その上「新自由主義」とかいう、つかみ所のない、空恐ろしい市場原理主
義の暴走を一方に見ながら、人間本来のもつ、規律が壊れていくのを日々
目撃している。

道徳的に言えば、戦後日本人から徐々に失われてしまった倫理観。著者の
西尾氏は終戦時にはっきりと自意識に目覚めていた世代だから、伝統的な
道徳の喪失、価値観の転換、人間の変節を目の当たりに目撃し、体験して
きた世代である。

評者は戦後生まれだから、その倫理観、道徳観にちょっとした感覚的差違
があることは自然なこととしても、これは「世代感覚の違い」という範疇
で説明できる。

評者は、日教組教育の直撃的な洗脳を受けてしまった世代だが、それでも
「蛍の光」、「仰げば尊し」を唱って、涙した。

小学校の校庭か玄関にはかならず二宮金次郎の像が置かれていた。


 ▼自由を律する「神の見えざる手」は不在になった

「三歩さがって師の影を踏まず」という道徳律を教わって、それが当然の
道徳、行動規範だと思ってきた。大学へ入って最初の衝撃は学生が先生に
噛みつき、ぼろくそに批判し、殴りかかっていたことだった。道徳、倫理
がそこにはなかった。

日本の何かが崩壊している!

現代の若者を見ていると、これらの価値観をみごとに失っている。卒業式
で蛍の光も仰げば尊しも唱わない。歴史を何も知らないから赤穂浪士の蹶
起の意味が分からない。平気で「太平洋戦争」とか「天皇制度」とかコミ
ンテルンやGHQボキャブラリーを使う。先輩・後輩の秩序を重視するの
は体育会系くらいで、年長者を敬うという感覚はほとんど喪失している。

象徴的なのは電車やバスで年寄りに席を譲る若者が殆ど居ないことだ。

自由をはき違えている結果である。弱者が平等をいい、それを擁護拡大し
たのがオバマだったが、自由とは激烈な競争のことを意味すると古代から
の原則を主張したのがトランプだった。アメリカは両者の価値観がせめぎ
合う、と西尾氏は言う。

そうこう思索しながら読み進んでいくとハンナ・アーレントや、ソルジェ
ニーツィンの箴言を考察していくチャプターに行き当たり、なるほどこの
本は帯に書かれているように、「西尾幹二流・ツァラトゥストラ」であ
る。ということは西尾氏の思索の原点はニーチェなのである。

唐突に評者は或る不思議な感覚に囚われた。

三島由紀夫の4部作『豊饒の海』の第3巻『暁の寺』のなかで、インドの
ベナレスの描写に衝撃を受け、評者が最初の海外旅行先をインドに決めた
のはおよそ半世紀近く前のことだった。

三島は「さるにても恐るべきインドだった」と書いた。聖なるガンジスで
沐浴し、歯を磨き、排便をする人々と、その隣で遺体を燃やし、遺灰をガ
ンジス河に散布する無常な光景を三島由紀夫は活写した。ベナレスでは聖
と俗、崇高と卑猥、あらゆる森羅万象が「聖なる河」に溶け込んで流れ、
去る。なんという巨大なるニヒリズム!

いや、ここでこそヒンズー教徒は社会的束縛からも宗教的ドグマからも離
れて「自由」になるのだ。

ベナレスを死地と決めて、インドの津々浦々からやってくる人々の列があ
り、かと言って市井の日常生活にはヒンズーの神々の小祠が辻々にかざさ
れているが、ほかに取り立てての特異性もなく、早朝、日の出の僥倖に与
ろうと、夜明け前にゲートに集まる人たちが引きも切らない。

評者も、太陽の輝く瞬間をガンジスの河に浮かべた船の上から見ようと、
小型のボートを雇い、河の中央から望遠レンズを向けて、大いなる虚無と
崇高と卑猥と猥雑を撮影し、灯籠流しの小型模型を買い求め、願いを込め
て流した。

まさにこの光景は、文明から隔絶した、宗教の死生観を基礎としての営為
だが、そこには一篇の合理主義もなければ科学的客観性などという近代文
明の病理からも解放された空間が、古代から永遠にそうであったように時
間を超えてベナレスに存在していた。ベナレスに、輪廻転生はたしかに存
在する。

永劫回帰、そうか、ニーチェの思想の原点は、この人間の永遠の営みか
ら、絞り出された思考なのか。そう思いながら、ホテルに戻って、旅行鞄
から携行してきた、ニーチェを論じた西尾幹二氏の新書本を開いたのだった。

 ▼「自由は光とともに闇だ」

前置きが長くなった。

「自由は光とともに闇です」と西尾氏は言う。

この場合、「光」と「闇」は自由と不自由の比喩的な意味であり、「自由
は量的概念ではもとよりなく、質と量の対立概念でもありません。光と闇
も同じことで、両者は重なっているのです。光は同時に闇なのです」
(255p)。

「現代人はとかく何かを主張するのに、何か別のものに依存するのではま
だ真の自由ではないなどと言いたがる。(中略)完全な自由などというも
のは空虚で危険な概念です。素っ裸の自由はありえない。私は生涯かけて
そう言い続けてきました。『個人』が自律的であるのは『社会』からの解
放や自由や独立を意味してはいません」(204−205p)

この議論は繰り返されて説かれる。

「自由と平等というのはある種の相反概念です。と同時に相関概念でもあ
ります。自由というのは単独では成り立たないからです。しかし、平等は
自由の反対概念ではありません。自由の反対概念は必然、または宿命で
す。自由と平等は相互に対応する対概念です」

西尾幹二氏は、『自由は物狂いの思想』であり、平等は『狂気の思想』で
ある、と言われる(124p)。

現代は自由を律した『神の見えざる手』を失なくした。

「ベルリンの壁の崩落のあと、西側は自己規律を失ったのです。果てしな
い『自由』の拡大を目指して暴走し始めた。東側も釣られるようにその後
を追った」

「開かれた自由は社会、物質の量と情報の速度が果てしなく拡大していく
われわれの現代社会は、自由が自己崩壊に面していることを告知していま
す」(99p)

深刻な精神の危機に現代日本人は直面している。

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