2018年11月10日

◆「新冷戦」の今、中国の正体を見誤るな

櫻井よしこ


「「新冷戦」の今、中国の正体を見誤るな」

世界はまさに「新冷戦」の時代に入っている。トランプ大統領は10月20
日、訪問先のネバダ州でアメリカは中距離核戦力(INF)全廃条約を破
棄するとこう語った。

「ロシアが我々の所にきて、また中国が我々の所にきて、口を揃えて『互
いに賢くなろう、そして我々の中の誰も、あんな武器(中距離核)を開発
するのはやめよう』と言わない限り、アメリカは(中距離核を)開発しな
ければならないだろう」

トランプ氏はさらに「ロシアが賢くなり、他国も賢くなる」こと、即ち
INFを放棄することが大事だと繰り返した。「他国」が中国を意味して
おり、その「他国」がINFを諦める可能性はほぼないと予測しているの
も、間違いないだろう。

メディアから、本当にINF全廃条約から離脱するのかと問われ、「そう
だ。離脱する(pull out)」と述べ「アメリカには7000億ドル(77兆円)
を超える軍事費がある」と強調した。中露両国を相手に、十分な核戦力を
構築できると誇示した。

INF全廃条約は、1987年にレーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産
党書記長との間で締結された。核弾頭を搭載する地上発射型の、射程
500〜5500キロのミサイルを全廃するとの内容だ。やがてソ連は崩壊しロ
シアとなったが、両国は廃棄を続け、2001年には双方がINFを全廃した
と確認した。

しかし、プーチン政権が14年に「ノバトール9M729」と呼ばれる巡航ミサ
イルを開発したとき、オバマ大統領はこれをINF全廃条約違反だと断じ
た。無論ロシア側は否定したが、今回、トランプ氏はロシアの否定を認め
ず、正面からその違反行為に対抗すると宣言したわけだ。

ちなみにトランプ氏は、7月16日にヘルシンキでプーチン大統領と首脳会
談を行ったときは、INFについては殆ど理解していなかった。それがい
ま、国防総省や安全保障問題担当大統領補佐官のボルトン氏らの助言に
従ってロシアを非難する。米国の安全保障政策は専門家らによって決定さ
れているのである。

「新しいタイプの核兵器」

トランプ氏の離脱宣言で注目すべき点は、標的がロシアだけではなく、中
国も大いに問題視されていることだ。中国はINF全廃条約の当事国では
ないことを利用して、中距離核ミサイルを含む兵器を着々と開発、配備し
てきた。結果として、中距離核ミサイルを保有していないのは米国だけと
いう状況が生じた。トランプ政権を支える安全保障問題の専門家らは、こ
の点についての懸念を深めていたのである。

今回の発言が単にトランプ氏の思いつきや暴走ではなく、政権の基本政策
であったことが、昨年12月に発表された米国の「国家安全保障戦略」と、
今年2月の「核態勢の見直し」から見えてくる。前者では中露に対して
「アメリカの軍事力、影響力と国益に挑み、アメリカの安全と繁栄を侵食
しようとしている」という非難の言葉を投げかけている。後者では、冷戦
が最も激しかった時期に較べて米国は核弾頭の85%を廃棄したとの主張を
展開し、にも拘わらず、10年の「核態勢の見直し」報告以来今日まで、
「潜在敵国」(potential adversaries)による核の脅威が高まっている
として、次のように強調した。

「米国が核兵器を削減し続けてきたこの間、中露を含む他の国々は正反対
の動きをした。彼らは新しいタイプの核兵器を作り、核戦略を充実させ、
宇宙やサイバースペースに至るまで侵略的に行動した」

非常に興味深く、また説得力もあったのが、報告書の8頁に掲載された
「2010年以降の核運搬手段」の図表である。米中露が10年以降に新たに開
発に着手した、或いは実戦配備した核運搬手段の紹介である。中露の欄に
はかなりの種類が列挙されている反面、米国の部分はほとんどが空白に
なっている。

ロシアの場合、新たに地上に配備された核ミサイルはSS27Mod2(大
陸間弾道ミサイル、ICBM)、SSC08(地上発射巡航ミサイル、
GLCM)がある。潜水艦から撃ち出される海洋配備のミサイルは
SSN32、SSN30などの4種類、空から撃ち込むものはKh102が実戦配
備されたと書かれている。

その他、開発着手済みの地上発射、潜水艦発射或いは爆撃機から撃ち込ま
れるミサイルが7種類も列挙されている。

中国も、地上発射のミサイルは実戦配備済みと開発中のものが、ロシア同
様5種類列挙され、海に関してもロシアとほぼ同じ4種類が記載されている。

一方米国は地上発射、海洋配備の新しいミサイルは10年以降、開発も配備
もしていない。米国が10年以降導入したのは戦闘機のF35Aである。

トランプ氏の決断

対照的に中国は凄まじい。核ミサイル以前に第一列島線、第二列島線を想
定済みだ。有事の際には、西太平洋に米軍の進入を許さない、台湾や尖閣
諸島攻略などの作戦の初期段階で中国が上陸し占拠して目的を達せられる
ように、米軍の進入を遅らせる戦略を描き、準備を進めてきた。

そのために彼らは非対称の戦いを考えてきた。米軍の誇る空母群に中国の
空母をあてるのでなく、弾道ミサイルを搭載した潜水艦を配備するなどが
そうである。建造費も膨大で、艦自体も巨大な空母に対して、建造費がは
るかに少なく、潜ってしまえば探知するのが非常に難しい小さな潜水艦を
あてるのである。このような考えから中国保有の潜水艦はいまや71隻もあ
る。わが国は16隻、米国は69隻である。

中国はINF条約に全く縛られることなく、すでに射程1500キロの東風
(DF)21Dを配備済みだ。これは潜水艦から発射されると、複数の弾頭
が迎撃ミサイルを回避して飛ぶため「空母キラー」として恐れられている。

他にも「DF26」ミサイルは射程3000〜5000キロ、「グアム・キラー」と
通称される。なんといっても米軍には、中露両国が保有するこれらの中距
離核ミサイルがない。

こうした事情を考えれば、トランプ氏の決断には十分な理由があると言わ
ざるを得ない。今後の展開はまだ定かではないが、米国の離脱論は消えな
いと見るべきだ。

米国の最大限の警戒心がロシアのみならず中国に向けられている現実を、
日米安保条約に依存する日本は弁(わきま)えておかなければならない。米
露、米中新冷戦は米中貿易戦争からも明らかな現実である。

英国のウィリアムソン国防相は「絶対的に揺るがぬ決意でワシントンの側
に立つ」と語った。安倍晋三首相は折りしも10月26日、日中首脳会談に臨
む。中国の本質を見誤って甘い対応をしてはならない。日本の主張をきち
んと表明することだ。

『週刊新潮』 2018年11月1日 日本ルネッサンス 第825回
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