2019年01月12日

◆国柄を考える、平成最後の天皇誕生日

櫻井よしこ


12月23日、平成の時代最後の天皇陛下のお誕生日を祝って、わが家でも朝
早くから国旗を掲揚した。いつ見ても日章旗は清々しく美しい。白地に赤
い日の丸。無駄がなく、これ以上ないほどすっきりした構図である。

この日、皇居は3度にわたって日の丸の小旗の波で埋まった。誰しもが天
皇ご一家のお出ましに感動し、平成の30年をしみじみと振りかえったこと
だろう。

各紙朝刊で陛下のお言葉を読んだ。お誕生日に先立って行われた皇居宮殿
での会見で、天皇陛下が読み上げられたお言葉には国民に対する慈愛が溢
れている。常に国民に寄り添いたいとのお言葉どおり、両陛下の視線はあ
くまでも弱い人々、犠牲になった人々に、まず向けられている。とりわけ
沖縄の人々に対しての思いを、このように語られている。

「沖縄は、先の大戦を含め実に長い苦難の歴史をたどってきました。皇太
子時代を含め、私は皇后と共に11回訪問を重ね、その歴史や文化を理解す
るよう努めてきました。沖縄の人々が耐え続けた犠牲に心を寄せていくと
の私どもの思いは、これからも変わることはありません」

「先の大戦」の激戦地への慰霊の旅については、「戦後60年にサイパン島
を、戦後70年にパラオのペリリュー島を、更にその翌年フィリピンのカリ
ラヤを慰霊のため訪問したことは忘れられません」と語られた。

『朝日新聞』の皇室担当特別嘱託の岩井克己氏が特に言及していたが、明
治・大正・昭和から続く歴代天皇の中で、今上陛下は一度も軍服を着るこ
となく、また在位中に戦争のなかった例外的存在である。

犠牲者に対して常に深い思いを語られるのは、そのようなお立場もあって
のことだろうか。御自分の御世について「平成が戦争のない時代として終
わろうとしていることに、心から安堵しています」と述べられたくだり
は、今上陛下の平和に対する強い思いが反映されている。

ご結婚から60年

国内で発生した自然災害の犠牲についても多くを語られ、困難を抱えてい
る人々に「心を寄せていくことも、私どもの大切な務め」とされたくだり
では、自然に、今上陛下と共に各地に行幸啓なさった美智子皇后のお姿が
浮かんでくる。

国民の心にもしっかりと焼きついている美智子さまの、国民への深い思い
やりと共に、民間から皇室に嫁がれた特別の体験、ご結婚から2019年で60
年になる長い道を立派に歩んでこられたことについて、天皇陛下はお心の
こもった労いの言葉を語られた。

「振り返れば、私は成年皇族として人生の旅を歩み始めて程なく、現在の
皇后と出会い、深い信頼の下、同伴を求め、爾来(じらい)この伴侶と共
に、これまでの旅を続けてきました。天皇としての旅を終えようとしてい
る今、私はこれまで、象徴としての私の立場を受け入れ、私を支え続けて
くれた多くの国民に衷心より感謝するとともに、自らも国民の一人であっ
た皇后が、私の人生の旅に加わり、60年という長い年月、皇室と国民の双
方への献身を、真心を持って果たしてきたことを、心から労いたく思います」

時折お声を詰まらせながら語られた皇后陛下への「労い」は、まさにお二
人で支え合って重ねてこられた年月の尊さを私たちに示してくださってい
る。家族の大切さどころか、およそどの国の憲法にもある家族条項の一文
字さえない現行憲法の下で戦後の70余年をすごした日本人にとって、両陛
下のご夫婦としてのお姿はこの上なく立派なお手本となる。

今上陛下の慈愛に満ちたお心、天皇皇后お二人の生き方を見せていただい
ていること、さらに平和な日本の国民に生まれたことを、有難く思うばか
りだ。

「来年春に私は譲位し、新しい時代が始まります」「天皇となる皇太子と
それを支える秋篠宮は」「皇室の伝統を引き継ぎながら、日々変わりゆく
社会に応じつつ道を歩んでいくことと思います」。

天皇陛下はこのように御代替わりへの期待を示された。

皇太子さまが新天皇に即位なさる19年は、御代替わりの諸行事に加えて選
挙やW杯、G20などの国際会議、消費増税など、政府にとっても国民に
とっても大変な年だ。さらに国際社会においては、トランプ大統領、習近
平国家主席、プーチン大統領、金正恩委員長や文在寅大統領らが油断も隙
もない外交戦略を展開中だ。

安倍晋三首相は新年1月4日に配信される「言論テレビ」の番組収録で、こ
れら手強い外国首脳との外交においては、「率直に話をすること、約束を
守ること」が大事だと語った。

嘘も含めた駆け引きこそ外交だと心得ている国々が少なくない中で、日本
国の首相の唱える道は王道である。そうした王道を歩み続けるのが日本の
国柄である。

神道の価値観

そこで、私たちはこの御代替わりに際して、改めて日本の国柄について考
えたい。日本の国柄の核は皇室である。皇室の伝統は神話の時代に遡り、
それは神道と重なる。神道については経典や聖書に相当するものがないた
めに、これを評価しない人々がいる。しかし、博覧強記の比較文化史家、
平川祐弘氏は『神道とは何か』(共著・錦正社)でこう書いている。

「神道の力は、教えられようが教えられまいが、神道的感受性が多くの日
本人の中に生きている、という点にひそんでいると思います」

理屈ではない感性のなかに神道の価値観は深く根づいている。その価値観
は穏やかで、寛容である。神道の神々を祭ってきた日本は異教の教えであ
る仏教を受け入れた。その寛容さを、平川氏はモーゼの十戒の第一条、
「汝我ノホカ何物ヲモ神トスベカラズ」と較べて、際立った違いを指摘す
るのだ。

神道と他国の一神教は正反対であり、日本書紀、古事記の時代から一人一
人の人間を大切にするわが国の伝統も特徴だ。

このような価値観を、皇太子さま、秋篠宮さまに受け継いでほしいと、今
上陛下は仰った。

世界が混沌とする中で、19年の日本は恐らく、自らの足下を、あらゆる意
味で強化することが求められる。そうしなければ国際社会の大変化を生き
抜いていけないような局面も生まれてくる。

そのときに日本が日本らしく生き続けるために必要な力は、日本がどのよ
うな文化文明、伝統に由来するか、民族の原点を認識することから生まれ
るのではないか。世界情勢が急速に変化する中で、皇室に期待される役割
は、さまざまな意味で大事である。平成最後の天皇陛下のお誕生日も夕方
になり、私は掲げた日の丸を取り込み、大切に丁寧に畳んだ。

『週刊新潮』 2019年1月3日・10日号 日本ルネッサンス 第834回
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