2回目の米朝会談が焦点
今年の極東情勢を太筆書きで展望すれば、まさに波瀾万丈とも言える要素
に満ちている。米国と中国の覇権争いは貿易摩擦からハイテク分野にまで
拡大、冷戦に近い様相を示そうとしている。日本は好むと好まざるとにか
かわらず米中双方をにらみながら立ち位置の決定を迫られる。逆に日本の
立ち位置が、米中対立を激化させるか緩和させるかの要素となりうる情勢
でもある。
中国の経済力の拡大で世界情勢は歴史的な転換が始まろうとしている。中
国はやがては米国経済に追いつき追い越すエネルギーを秘めており、かつ
ての秦・漢・隋・唐・宋・元・明・清がその興隆期には世界帝国の様相を
示したように、多かれ少なかれ極東のパワーとしての存在感を強めるだろ
う。中国のインターネット人口は、およそ8億人に達し、現在人口の57.7%
が頻繁にインターネットを利用している。中国は事実上のネット王国と化
しており、今後のIT世界での影響力は増大こそすれ、縮小しないだろう。
米国が現在保持している圧倒的な覇権を脅かす要素は中国だけだろう。し
かし日米同盟が強固である限り、中国のパワーは減殺されるだろう。トラ
ンプが昨年末以来指向している世界的な貿易戦争は深刻化する様相があ
り、日本としても対応が迫られる。日米貿易協定交渉について、トランプ
政権は自動車分野で対米輸出の数量規制を要求する可能性が高いとの見方
がある。
米政府筋は「日本が数量規制に応じないなら、追加関税を発動する可能性
も排除できない」とすごんでおり、油断はできない。
日本としての対応策は規制の範囲を物品以上に広げないように、ヨーロッ
パと連携して対米交渉に臨むことだろう。ただ米国の貿易赤字の47%は
対中貿易によるものであり、日本は9%にすぎない。中国の深刻さに比べ
れば、日本は安倍とトランプの会談に持ち込めば、政治決着がつく可能性
が強い。大騒ぎしすぎて、不必要な波紋を巻き起こすことは避けなければ
なるまい。
朝鮮半島情勢は韓国大統領文在寅の対北融和路線で変質してきており、米
国の圧力も利かなくなりつつある。こればかりは一国の外交方針であり、
干渉しようがない。そのうちにロマンティスト文在寅が描く夢が、現実の
壁にぶつかるのを見守るしかあるまい。日韓関係の悪化は戦後繰り返して
きたことであり、特異な現象ではない。相手が折れるのを待つのが歴史が
証明する最良の方法だ。「半島民族は悪い」と言ったのは田中角栄だが、
半島民族の複雑な感情は常に外交に反映される要因だろう。
対露関係はラブロフが漏らした本音に尽きる。ロシアの本音とは4島返還
どころか、2島も難しいという立場だ。もともと戦争で獲得した領土が返
還された例など、世界的に希有なことであり、沖縄返還くらいしかない。
対米関係だからこそ返還が可能になったのである。対ロシアでは、とても
一筋縄ではいかない。返還されるとすればロシアが国家として疲弊して、
日本に売りつけるような場合だろう。さもなくば中ロ関係が極度に悪化し
て、日本に支援を求めるような情勢になった場合だろう。
極東情勢を見つめた場合、中国は北朝鮮の戦略的価値が致命的に重要であ
ることに気付いている。従って北が日本や米国に接近することをあらゆる
手段を使って阻止するだろう。朝鮮労働党委員長金正恩は10日までの訪中
で習近平と会談し、2回目の米朝首脳会談に向け、「国際社会が歓迎する
成果を得るために努力する」と意欲を表明した。習はこれを評価し、後ろ
盾として支援する姿勢を鮮明にした。対外強硬路線を取るトランプ米政権
と対等に渡り合いたい中朝両国の思惑が一致したかたちだ。対米的に連携
を誇示しているかのようである。
しかし、米朝会談を行っても非核化での進展は困難だろう。昨年6月のシ
ンガポール会談では、トランプが記者団に、「非核化のそのプロセスをす
ぐに始める」と述べたものだが、半年たっても何らの進展もない。北はト
ランプをまんまとだまして時間稼ぎをしたのであり、しびれを切らしたト
ランプが対話モードから対決モードへと切り替える可能性も否定出来ない。
日本としてはこの米朝関係の展開を注視して、もし進展への流れが生じた
ら、タイミングを逃さずに日朝対話に踏み切る必要があろう。20年は米大
統領選挙の年であり、再選を目指すトランプが外交攻勢に出る可能性があ
る。というのも内政では民主党が下院で多数を握っており、大きなことが
できないからだ。
外交・通商での成果を狙う可能性が高いとみなければなるまい。その際、
派手な展開ができるのは極東外交であり、動向から目を離せない。米
CNNテレビは14日、米朝の協議に詳しい関係者の話として、トランプか
ら朝鮮労働党委員長の金正恩にあてた書簡が先週末、ピョンヤンに届けら
れたと伝えた。
トランプは今月初め、2回目の米朝首脳会談について「そう遠くない将来
に設定する」と意欲を示している。さらにCNNは、北朝鮮の金正恩側近の
金英哲副委員長が訪米して、2回目の米朝首脳会談の調整にあたる可能性
があると報じた。何らかの展開が予想される。これに先立ち国務長官ポン
ペオは13日の米CBS番組のインタビューで、米朝再会談の時期について
「いま私たちは詳細を詰めているところだ」と述べている。