2019年01月24日

◆北方領土で衆参ダブル選挙は無理

                          杉浦 正章


プーチンに「返還」の力なく、交渉長期化へ

ロシアの経済的疲弊がポイント

さすがに怪僧ラスプーチンの国だ。ラスの字はつかないがプーチンも怪僧
並みに狡猾だ。4島返還にこだわってきた日本が「2島+アルファ」に舵
を切ったと見ると、プーチンはハードルを上げた。首相・安倍晋三はいい
ように操られている時ではない。立場の違いが際立った以上、ソ連にどさ
くさ紛れに占領された北方の小さな島々などで焦らない方がよい。またロ
シアとは親戚づきあいなどできないと肝に銘ずるべきだ。交渉の長期化は
避けられない。

安倍が、責任上あの手この手を考えるのは当然だが、25回も会談しても、
会談したことだけに意義があるのではオリンピック精神と同じだ。プーチ
ンは、安倍が「4島返還」から「2島」に変わったとみるや、歴史認識を
持ち出した。歴史認識は文在寅のおはこで、もはや文在寅退任まで韓国と
正常な対話は無理かと思いたくなるが、これに加えてプーチンまで歴史認
識だ。戦後70年もたって、周辺国が歴史認識を取り上げるのは、誠実な日
本が反省して痛がるからだ。

これでは交渉の体をなしていない。従ってまともに応じる必要はない。安
倍はプーチンと6月に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議で再
会談するが、ロシア側が平和条約をめぐる溝を埋める動きに転換する可能
性はない。覚悟を決めて腰を据えた交渉で対応するしかない。

ロシアの基本認識は「第2次大戦の結果として北方領土がロシア領になっ
たことを認めよ」(ラブロフ外相)だ。しかし、これは認識上の誤りであ
り、受け入れることは不可能だ。

北方領土は、ずる賢いソ連が戦争直後のどさくさを絶好の機会とみて占領
したのだ。日本が1945年8月にポツダム宣言を受諾して、無防備になった
のをチャンスととらえて日ソ不可侵条約を無視して日本の領土を不法占拠
したのだ。まるでラスプーチンのように陰謀の国なのだ。

歴史認識を持ち出したことは、日本に交渉の主導権を握られないようにす
る「先手」でもある。ロシアが交渉の主導権を握るための材料なのだ。一
方で領土で譲歩すればプーチンの立場が危うくなる。

ロシア人は広大な領土を持ちながら周辺地域をなんとしてでも入手しよう
という“欲深い”民族なのである。ロシアによるクリミア・セヴァストポリ
の編入がそれだ。国際的にウクライナの領土と見なされているクリミア自
治共和国のセヴァストポリ特別市をロシア連邦の領土に加えた。1991年の
ソビエト連邦崩壊・ロシア連邦成立後、ロシアにとって本格的な領土拡大
となった。2度目の領土簒奪が北方領土だが、ウクライナと異なり日本と
いう“経済大国” が真っ向から異を唱えている。

一方で領土で譲歩すればプーチンの国内的な立場は危機的になることを、
プーチンは知りすぎるほど知っているのだ。そこに突破口を開くことを安
倍は狙わざるをえないのだ。

安倍は周辺に「大変なのは、島にロシアの自国民が住んでいることだ。
プーチンには『私が決めたことだ』と国内を抑えて、一発でやってもらわ
ないといけない」と戦略を漏らしているが、安倍もお人好しだ。わざわざ
手の内を朝日に書かれてしまっている。

たしかに唯一可能性があるとすれ ば領土でプーチンが独断で解決するシ
ナリオだが、厳しいロシア政局で反 対勢力を抑えて大統領になったプー
チンがそんなに甘いかと言えば、逆だ ろう。安倍はプーチンとの関係を
時々誇示するが、プーチンは個人的な関 係と、現実の外交とはきっぱり
と分けて考えている。

 従って安倍の訪露は、具体的な解決策を見いだせないまま終わった。領
土交渉は一筋縄ではいかない現実を露呈した。沖縄の施政権返還ですら佐
藤栄作は対米交渉で散々苦労したが、ましてや主権が伴う領土交渉であ
る。唯一進展の可能性があるのはプーチンが独断で領土問題の解決を目指
すケースだが、正直言って、プーチンはそれほど甘くはない。

プーチンは『日本の要求に簡単には応じられない。平和条約の締結が先
だ』と日ソ共同宣言に書いてある」と突っぱねている。日ソ共同宣言は、
1956年に日本とソ連がモスクワで署名し、同年12月12日に発効した。内容
は「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日
本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」とある。たしかに平和条約が「先」な
のである。

 安倍はプーチンに足元を見られている気配が濃厚だ。北方領土前進で参
院選を戦おうとしていると読まれたのだ。ラブロフに至っては北方領土の
呼称にすら、異論を唱えている。

しかし、今更北方領土が返ってこないか らといって、安倍に不平を言う
日本人はいない。ことは外交能力の問題で もない。かつてのロシアの歴
史が証明しているように、国内政治が大きく つまずき、領土の切り売り
が始まるのを待つしか方途は考えられない。

したがって親戚付き合いを目指すような甘い顔は見せないことだ。もちろ
ん 2度目の会談をしても、夏の参院選挙を北方領土をテーマにすること
など は無理であり、ましてや北方領土で衆参同日選挙を行うことも、
「無条件 返還」などよほどのテーマが出ない限り困難だ。ここは成果を
急ぐ必要は ない。より一層のロシアの経済低迷が、変化を生じさせる時
を期待し、 粛々と正道を歩むべき時だ。
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