2019年04月05日

◆整形外科治療の光と影 (4)

                           小池 達也(医師)


<関節リウマチ治療編>

関節の滑膜が異常に増生し、関節を破壊する病気が関節リウマチです。真の原因は現在も不明ですが、関節破壊が生じる機構はかなり解明されてきました。

日本で、最近急激に普及したのが、生物製剤と呼ばれる新しい治療法です。ヨーロッパではすでに10年以上の歴史があるのです。

生物製剤とは、タンパク質で出来た薬剤で、化学合成で作るのではなく遺伝子工学を用いて合成されるため、このように呼ばれます。現在、日本で使用できるのは商品名でレミケードとエンブレルです。

前者は点滴製剤で、後者は皮下注射で投与されます。どちらも標的とする物質は同じで、腫瘍壊死因子(TNF)の働きを抑制することを目的としています。

TNFが関節リウマチにおいて、炎症のもとになっていることが明らかになってきたことから、直接的にTNFをターゲットとした薬が開発されてきたわけです。では、これまでのリウマチの薬はどうであったかというと、なぜ効果があるのか不明のまま使用されてきた薬剤も多く、リウマチの関節破壊を抑制できる薬はほとんどありませんでした。

では、生物製剤が良く効くのかというと、9割くらいの人には驚くほど良く効きます。

私が処方した患者さんの中には、病室にて歩行器で歩くのがやっとだった方が、たった2回の点滴で1時間の散歩が出来るようになったほどです。他にも、「生まれ変わりました」とか「なんでもっと早くにしなかったんやろ」という言葉も聞きました。

しかし、欠点もあります。まず、値段が高いこと。レミケードでは1回の点滴で20万円以上します。もちろん、保険適応ですので、その3割程度の負担ですが、それでも結構な値段です。しかも、そんなに高いのに1割の人にはあまり効果がありません。この効果がない人を事前に知る方法がないのが一つの問題点です。

生物製剤には、もう一つの問題点があります。

TNFという物質は関節リウマチの炎症の元凶ですが、別の仕事もしています。こちらは正常な作用で、名前の通り腫瘍の増殖を抑制し、感染防御機構の一翼を担っています。したがって、TNFを極端に抑制すると、腫瘍が大きくなったり、感染症を引き起こす可能性が高くなります。

実際に、アメリカで市販後に、結核の発生が予想以上に多いことが判明し、日本で発売する際にはかなりの注意が喚起されました。日本では現在、これらの生物製剤を投与されているリウマチ患者は2万人を超えるところまで来ましたが、おかげで結核予防薬を投与された方からは1例も結核発症は認められていません。

ところが、最近の論文で、やはり生物製剤を投与されている人では、投与されていない関節リウマチ患者に比べて、悪性腫瘍や重症感染症の発生率が多いことが報告されました。

効果不十分患者の存在・感染症などの問題・長期効果の不透明感・生物製剤の恩恵を受けていない人の存在(地方に住んでいたりするため知識がない等)が挙げられていました。確かに多くの解決すべき問題は存在します。

しかし、関節リウマチの治療法が川の流れが変わるが如く変化したのは確かです。そして、この新しい流れを止めることは出来ません。なぜなら、川の流れの向こうには、関節リウマチの治癒という夢のような楽園が存在するかもしれないからです。

6回にわたり愛読いただきましたが、私の執筆は今回で終了します。ありがとうございました。(再掲)
(大阪市立大学大学院医学研究科リウマチ外科学)

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