2019年04月09日

◆5G時代のテクノロジー覇権争奪戦争

宮崎正弘


平成31年(2019)4月2日(火曜日)通巻第6034号
   
5G時代のテクノロジー覇権争奪戦争、先頭は追いつかれる
  中国のベンチャー起業は90%が失敗したように

ファーウェイの製品と基地局が西側の多数の国々から排斥され、経営はい
ずれ苦境に陥ると予測されるのだが、「何を言ってるのよ。まったく大丈
夫。ファーウェイは中国という巨大市場が控えている上、廉価だから開発
途上国ではダントツの人気。そのうえ幾つかの新製品開発、とりわけ5G
技術では米国と伍すか、あるいは超えているわ」。

こうのたまわって、イアン・ブレナーのテレビインタビューに対して、ロ
ンドンスクール・オブ・エコノミクスの金刻羽・準教授(中国人女性)が
胸を張ったのが印象的だった。

実際はどうか。

先頭ランナーは必ず追いつかれる。後追いは発明にともなう創造的費用が
安上がりで、マネをすれば良いからだ。企業スパイを駆使して先端技術を
盗み出し、模倣すれば先頭集団にのし上がることが出来た。

BAT(バイドウ、アリババ、テンセント)は、皆そうである。そして国
家資本主義としての中国政府の支援、政策支援ばかりか補助金であり、そ
のうえ巨大な中国市場において中国政府が巧妙に外国企業の進出に規制を
掛けたため、悠々と利益を蓄え、R&D(研究開発費)にふんだんな投資
が出来たのだ。

先駆者の屍を超えて次世代技術開発で追い抜くことも出来る。人材も豊富
だった。

アメリカ留学の優秀なエンジニアを高給で雇用し、開発に没頭させた。し
かし先頭に立つと、こんどは追われる身になるのだ。ファーウェイは、そ
の危険性も十分に認識し始めた。

抜かれた日本が悪例のサンプルだろう。ウオークマンで、半導体で、電子
部品で世界一だった。おしみなく技術を中国に与えて、相乗効果を狙った
筈が、三洋もシャープもやぶ蛇となって、中国資本に乗っ取られる始末で
ある。

いまや家電はハイエール(海爾)など中国勢に完全に市場を取られたし、
半導体は韓国のサムソン、SKホトニクス、台湾のTSMC等に抜かれた。

巻き返しを狙う官民肝いりの「ルネサス」も東芝メモリーも、外国資本が
入り込み、覇気が感じられない。通商政策がなっていないからで嘗ての
「ノトリアス通産省」は何処へいったのだろう。

 ▲スパイの元締め、情報漏れの震源地を衝け

一方、米国は技術の死守と盗難防止、機密情報漏洩を防ぐためにZTEへ
の半導体供給を停止し、シンガポール資本を名乗る企業「ブロードコム」
の「クアルコム」買収を阻止した。

アリババが狙った「マネーグラム」買収も土壇場で差し止めた。
 
FBIは技術スパイ容疑者を次々と逮捕するか指名手配し、驚いた米国留
学中の研修生、学者4000人が慌てて引き揚げた。怪しげな財団を作ってエ
ンジニアのスカウトをしていた張首晟スタンフォード大学教授は自殺に追
い込まれ、ファーウェイCFOの孟晩舟はカナダで身柄を拘束された。一
般の留学生ヴィザも一年ごとの更新に切り替え、潜在的なスパイの浸透に
対処した。

そのうえ半導体最王手のインテルは、中国からイスラエルへ主力工場をシ
フトする。トランプ政権はファーウェイ排除戦略の背後にもっと大がかり
な次世代技術防衛を絡ませている。

▲中国のベンチャーキャピタルにも黄昏がやってきた。

ウーバーのブームは外食の配達以外、自転車シェア、バイクシェアなど破
産が続いている。

「中国では90%のベンチャーファンドが失敗の終わる」と華字紙も特集を
組みだした。

「潮が引いたとき、裸で泳いでいた自分を発見するだろう」とかねてから
ウォーレン・バフェットは予想し、中国のベンチャーへの出資には二の足
を踏んできた。それが正解だった。

バイクシェアのOFOは、2億人の会員を誇ったが、10億ドルの売り上げ
はたちまち雲散霧消し、海外投資家が投じた22億ドルも、オーストラリ
ア、チェコ、ドイツ、イスラエル、印度などで失敗し、事業を畳んだ。

米国でも大量のレイオフを出して、規模の縮小を図っている。日本では自
転車シェアの中国企業も早々と撤退した。

同業の「MOBIKE」も27億ドルの投資とともに消えてしまった。

 車(タクシー、トラックなど)を呼び出して手数料を取るオペラーター
「DIDI」は昨師走に倒産した。

560億ドルの損失だったが、直前まで株式上場を準備していた。

オンライン上の金貸しはP2P(ピエル・トゥ・ピエル)と呼ばれ、最盛
期には3500社が乱立、推定で1670億ドルのローンが組まれた、

借り手の逃亡、不正、市払い、個人破産などが続出し、大手の「魔袋」
は、当局から詐欺容疑の捜査を受けている。

かくしてベンチャービジネスも黄昏期を迎えている。ところが中国は感度
が日本人とことなる。夢を追う投機が後をただず、2018年だけでも新たに
1070億ドルが投じられた。

例外はアント・フィナンシャル社(アリペイの子会社)で、140億ドルの
資金はシンガポール政府系のテマサク、マレーシア政府系ファンド
KHAZANAH、そしてカナダの年金基金、米国のウォバーグピンカス
などが出資に応じた。

混沌状態に陥ったことだけは確かなようだ。

   
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIE 
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 日本人を奴隷として売買したポルトガル船、イエズス会
  なかには傭兵として大暴れした日本人もいた

  ♪
ルシオ・デ・ソウザ著、岡美穂子訳『大航海時代の日本人奴隷』(中央公
論社)
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支倉常長が遣欧使節団として伊達政宗から派遣されたルートは、大航海時
代のスペイン、ポルトガルが開拓した航路だった。マニア、メキシコのア
カプルコ、キューバを経てポルトガルのリスボンへ入港した。

伊達使節団の随員は乗組員を入れて200人前後もいたが、経由地のマニ
ラ、アカプルコなどで多くが脱落、あるいは逃亡、あるいは現地女性と結
婚し住み着いた。

後に高山右近らがマニラに追放されると、そこにはすでに2000人もの日本
人コミュニティが形成されていた。

支倉常長がスペイン各地を回ったときの随行は30人に減っていた。もっと
も当初から全員が西欧を目指したわけではなく、なかにはマニラへ帰国す
るポルトガル商人や宣教師、武器商人、そして奴隷売買の仲買人らも乗り
込んでいた。

本書はこの奴隷について教会の記録を丹念にしらべた、歴史の裏側の真実
である。

大航海時代とキリスト教バテレンの関係は、よく歴史書でも語られてきた
が、日本人奴隷に関しての研究はほとんどなかった。秀吉が発令した、後
に鎖国の前哨となるキリシタン追放は、この宣教の陰に隠れた闇商売に怒
りを発したことが大きかった。

この時代のイエズス会を活写した白眉は渡辺京二『バテレンの世紀』である。

スペインの教会に残る婚姻記録などから、最初の東洋人奴隷の消息が分か
るのは、早くも1551年だという。

まだ信長の出現はなく、種子島への鉄砲漂着は1543年だから、南の島々に
は、海賊にくわえて奴隷商人も出没していたことになる。

本書の調べでは、1570年代には夥しくなり、名前から判断して日本人と推
察できる。年代的に言えば信長が切支丹伴天連の布教を大々的に認めた時
代に合致する。その後の研究でも奴隷の出身地が豊後に集中している記録
がある。

これまでは伴天連大名として有名な大友氏が積極的に領民を売買してきた
とされた。ところが本書では薩摩との戦闘に敗れた大友氏の領内から薩摩
が拉致し、マカオから来ていた奴隷売買船に売り渡したのではないかという。

ゴアからマラッカ、マカオ、マニラが重要航路だった。そこにはイ エズ
ス会の影響が強く存在していた。

イエズス会が『イエズス軍』という性格を併せ持ったことは拙著『明地光
秀 五百年の孤独』のなかでも書いた。

しかもポルトガルを追われたユダヤ人の改宗者が大量に紛れ込んでいた。
初期のころ、かれらが奴隷を購入し、家事手伝いなどに従事させた。そし
て改宗ユダヤ人が宣教使節にも出自を偽って紛れ込んでいた。伊達をそそ
のかして政変を企てたソテロも、改宗ユダヤ人だった(田中英道説)。こ
れらの事実経過も拙著には書き込んだが、その時点で本書の詳細な記録を
読んでいなかった。

天正少年使節の遣欧団はヴァリアーノ(イエズス会宣教師、法螺吹きの一
面があった)の斡旋でポルトガル、スペイン、ローマを訪問したが、各地
で彼らは日本人奴隷を目撃している。なかには売春窟に売られた日本人女
性もいた。

「1560年代に来日した多くのポルトガル船は女性奴隷を乗せて出港し、彼
女たちはマカオへ送られた後、さらにマラッカやゴアまで運ばれていっ
た」(72p)。

その後、ポルトガル、スペインに残る教会の記録にも夥しい日本人が発見
された。

「1570年代の後半には、ある程度まとまった集団的な(日本人コミュニ
ティの)観察が可能なほどに、リスボンには日本人や中国人が居住してい
た」(153p)。

イエズス会は表面的には奴隷貿易に反対したとされた。

 しかし「イエズス会は奴隷売買のプロセスにおいて、紛れもなく一機能
を担っており、それを秀吉は見逃さなかった」(175p)。
 本書はじつに貴重な歴史への証言である。
      
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