2019年04月16日

<書評とコラム>

宮崎 正弘


平成31年(2019)4月15日(月曜日)通巻第6041号 

桜林美佐監修/自衛隊家族会編『自衛官が語る災害派遣の記録─被災者に
寄り添う支援』(並木書房)
L・ネヴィル著/床井雅美監訳『欧州対テロ部隊─進化する戦術と最新装
備』(並木書房)
樋泉克夫のコラム 
読者の声

書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW 

その使命は命を救うこと。生きる希望と勇気を与えること
半世紀にわたる災害救援の活動からみるヒューマニズム。

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桜林美佐監修/自衛隊家族会編『自衛官が語る災害派遣の記録─被災者に
寄り添う支援』(並木書房)
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本書は、自衛隊員の家族によって構成される自衛隊家族会の機関紙『おや
ばと』に連載された「回想 自衛隊の災害派遣」をまとめた。過去半世紀
に亘って実施された主な災害派遣と、それに従事した指揮官・幕僚・隊員
たち37人の証言が収められている。

昭和26年のルース台風で当時の警察予備隊が初の災害派遣をして以来、自
衛隊はこれまでに4万件を超える災害派遣を実施してきた。離島での救急
患者の輸送をはじめ、不発弾処理、行方不明者の捜索、医療や防疫まで、
その活動は広範に及んだ。

世界にも報じられた「阪神・淡路大震災」では当時の厚生省から被災者の
入浴支援は「公衆衛生法に反する」と指摘されたり、「地下鉄サリン事
件」では、自ら防毒マスクを外して安全を確認した化学防護隊長の証言な
どが記録された。

被災地でご遺体を搬送したら、警察から「検視前に動かすと公務執行妨害
になる」と言われたり、瓦礫の除去も私有財産を勝手に処分することが許
されるのかという問題もあった。

2016年の「熊本地震」災害派遣では、即応予備自衛官が招集され、整体師
の資格をもつ隊員が避難所で被災者のケアをし、フォークリフト技能者が
救援物資の仕分けの大活躍だった。

自衛隊の災害派遣というと、ヘリコプターなど機動力を活用した迅速な部
隊の展開、組織力を発揮した人命救助、そして行方不明者の捜索などが中
心と言われるが、救援活動の指揮能力の高さが、それを可能にしたのだ。

監修の桜林美佐氏は言う。

「手記を通して感じるのは、自衛官たちが「真心」を尽くしているという
ことです。それだけに、その誠意に応えるとともに、もっと高く評価しな
くてはなりませんし、東日本大震災当時、第1輸送ヘリコプター群第104
飛行隊長だった加藤憲司さんが触れているように、隊員たちが後顧の憂い
なく任務に専念できるように留守家族の支援を手厚くし、強化することは
不可欠だとつくづく思います。本書を通して、多くの読者に自衛隊の活動
への理解促進と、防災の一助にしていただければ幸いです。」

なお編者の桜林美佐さんは防衛問題研究家。TV番組制作などを経て防衛・
安全保障問題を研究・執筆。2013年防衛研究所特別課程修了。防衛省「防
衛生産・技術基盤研究会」、内閣府「災害時多目的船に関する検討会」委
員、防衛省「防衛問題を語る懇談会」メンバー等歴任。安全保障懇話会理
事。国家基本問題研究所客員研究員。著書に『奇跡の船「宗谷」』『海を
ひらく−知られざる掃海部隊』『誰も語らなかった防衛産業』『自衛隊と
防衛産業』(以上、並木書房)、『日本に自衛隊がいてよかった』(産経
新聞出版)、『自衛隊の経済学』(イーストプレス)、『自衛官の心意
気』(PHP研究所)、『自衛隊の実像〜自衛官24万人の覚悟を問う』
(テーミス)他

公益社団法人 自衛隊家族会は「自衛隊員の心の支えになりたい」との親
心から自然発生的に結成された「全国自衛隊父兄会」が1976(昭和51)年
「社団法人」、2012(平成24)年に「公益社団法人」として認可され、
2016年に「公益社団法人自衛隊家族会」と名称変更。現在、約7万5千人の
会員が国民の防衛意識の高揚、自衛隊員の激励、家族支援などの活動を全
国各地で活発に実施中。防衛情報紙『おやばと』を毎月発行、総合募集情
報誌『ディフェンス ワールド』を年1回発行。
         
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ヨーロッパをテロから守る警察・法執行機関最強の対テロ部隊!
 東京五輪を間近に控えて日本も本格的なテロ対策を講じなければならない

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L・ネヴィル著/床井雅美監訳『欧州対テロ部隊─進化する戦術と最新装
備』(並木書房)
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1972年のミュンヘン・オリンピックにおけるイスラエル人選手の虐殺は、
国際テロリズムの危険性について世界に大きな警鐘を鳴らした。とくにこ
のような事態に準備ができていなかったヨーロッパ各国政府の受けた衝撃
は大きく、それから数週間以内にドイツ、フランスなどの警察組織・法執
行機関、軍の中にテロ対処専門部隊が発足した。

 本書は主として対テロ戦の道を切り開いたイギリスのSAS特殊プロジェ
クトチーム、ドイツのGSG9、フランスのGIGNの誕生の経緯、実際の作戦
をたどりながら、これらの部隊を手本にして発足した30か国以上もの欧州
各国の対テロ部隊の現状を活写する。

ここには2015年1月にパリで起きた『シャルリー・エブド』襲撃事件、さ
らに同年11月に発生したパリ同時多発テロ事件での特殊部隊「BRI-BAC」
の対テロ作戦も紹介されている。

その後もさまざまなテロ組織から継続的な、あるいは新たな脅威に対して
対テロ部隊の戦術と装備品は進化を続けたが東京オリンピック・パラリン
ピックを来年に控え、日本もテロ警備は他人事ではない。

テロリズムと戦争の境界が曖昧になり、絶えずテロの脅威にさらされてい
る現代の世界で、日本もこの当事者だ。

監訳者・床井雅美氏はこう言う。

「本書の監訳にあたって、ドイツの対テロ部隊「GSG9」を訪問したとき
のことを思い出した。 当時、GSG9の隊長を務めていたのは本書でも紹
介されているウーリッヒ・ウェグナー氏で、取材に自ら丁寧に対応してく
れた。

対テロ任務という部隊の性格上、明らかにできないものもあっただろう
が、私の質問に対し、誠実に答えてくれたのが印象的だった。そのときの
談話の中でとくに記憶に残ったものがある。

それはGSG9隊員の選抜要件に関することで、体力・運動能力、戦闘・射
撃技能、適性などについて答えが返ってくると予想しての質問だったが、
意外なことにウェグナー氏がいちばんはじめに挙げたのは、志願者の性
格、とりわけ沈着さと辛抱強さを重要視するとのことだった。

本書にもあるとおり、隊員は国境警備隊や警察で数年の勤務経験がある者
の中から選抜される。したがって、ある一定レベルの体力的、技術的な能
力や適性はすでに備えているはずだ。ウェグナー氏の挙げた性格上の要件
は訓練で獲得されるというより、持って生まれた資質や長い成長過程をと
おして涵養されるものであろう。

さらにウェグナー氏は、選考の際に同レベルの志願者2人のうち、どちら
かを選ぶとき、1人が独身者で、もう1人が既婚者だとしたら、後者を採
用すると付け加えた。家庭を持つ者のほうが、判断や行動において、冷静
でしかも慎重な場合が多いからだとその理由を説明してくれた。

実は、このような性格こそ特殊部隊の任務に最も重要なのである。

対テロ作戦にしろボディガード任務にしろ、実力行使が開始されると数
分、長くても10分以内に敵を制圧・無力化する必要がある、さもなければ
人質や警護対象者に危害が加えられたり、事態が思わぬ方向に悪化してし
まうからだ。実力行使は現場の指揮官や隊員が勝手に判断、実行できるも
のではない。

事態解決のためのあらゆる手段が試みられ、最終的には国家指導者や政府
レベルの高度な政治判断によって実力行使の許可が出される。それまでの
間、現場に展開した部隊は、すぐに行動開始できる態勢で警戒を解くこと
なく、注意深く、そして辛抱強く待ち続けなくてはならない。だから、
ウェグナー氏は前述した隊員の資質を最重視していたのだ。」

著者のリー・ネヴィル氏はアフガニスタンとイラクで活躍した一般部隊と
特殊部隊ならびにこれら部隊が使用した武器や車両に関する数多くの書籍
を執筆しているオーストラリア人の軍事ジャーナリスト。オスプレイ社か
らはすでに6冊の本が出版されており、さらに数冊が刊行の予定。戦闘
ゲームの開発とテレビ・ドキュメンタリーの制作において数社のコンサル
タントを務めている。

また翻訳を担当した床井雅美氏はデュッセルドルフ(ドイツ)と東京に事
務所を持ち、軍用兵器の取材を長年つづける。とくに陸戦兵器の研究では
世界的権威として知られる。主な著書に『世界の小火器』(ゴマ書房)、
ピクトリアルIDシリーズ『最新ピストル図鑑』『ベレッタ・ストーリー』
『最新マシンガン図鑑』(徳間文庫)、『メカブックス・現代ピストル』
『メカブックス・ピストル弾薬事典』『最新軍用銃事典』(並木書房)な
ど多数。
  
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樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 樋泉克夫のコラム 
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樋泉克夫のコラム
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【知道中国 1878回】            
 ――「『私有』と言ふ點に絶大の奸智を働かす國である」――竹内(4)
竹内逸『支那印象記』(中央美術社 昭和2年)

                 ▽

建国直後の1951年11月から52年8月にかけて、毛沢東は「三反・五反運
動」と称する運動を全国展開して「公私混淆の惡弊打破」を訴えたが徒労
に終わった。

1978年末の開放政策に踏み切った後の1980年8月、トウ小平は「幹部らは
職権を乱用し、現実からも一般大衆からも目を背け、偉そうに体裁を装う
ことに時間と労力を費やし、無駄話にふけり、ガチガチとした考え方に縛
られ、行政機関に無駄なスタッフを置き、鈍臭くて無能で無責任で約束も
守らず、問題に対処せずに書類を延々とたらい回しし、他人に責任をなす
りつけ、役人風を吹かせ、なにかにつけて他人を非難し、攻撃し、民主主
義を抑圧し、上役と部下を欺き、気まぐれで横暴で、えこひいきで、袖の
下を使えば、他の汚職にも関与している」(『現代中国の父 トウ小平』
エズラ・F・ヴォ―ゲル 益尾知佐子・杉本孝訳 日本経済新聞社 2013
年)と獅子吼したが、とどのつまりは徒労に終わった。

1989年6月、共産党独裁反対を掲げて天安門広場に集まった若者たちは幹
部による「公財私用」に反対の声を揚げたが、解放軍の力に由って圧殺さ
れてしまった。

 習近平は政権掌握から程なく「反四風運動」の旗を掲げ、幹部の綱紀粛
正を打ち出した。「反四風運動」とは、幹部による形式主義・官僚主義・
享楽主義・贅沢主義の四つの作風(四風)――具体的には公金を使っての派
手な宴会、カラオケ・レストランのみならずナイトクラブまで併設したよ
うな贅沢極まりない庁舎の建設、個人的な贅沢なパーティー、はたまた企
業接待による浪費など――に反対し、幹部の身勝手極まりない振る舞いを厳
禁することで、農村と都市、都市における富む者と貧しい者の格差の拡大
が引き起こす仇富感情を抑え、社会的安定を確立させ、政権への求心力を
高めようとした。

 これに加えて外出訪問の簡素化、分不相応な大人数での歓送迎禁止、客
を迎える際には絨毯を敷かない、外出訪問時の随員の制限などを定めた
「反浪費八項目規定」も用意されたとか。いわば、なべて平等を旨とする
社会主義政権の最高指導者としては、「これでは人民に示しがつかないで
はないか」という『大苦言』といったところだが、現在までのところ政権
の一強化は進むものの、「反四風運動」は雲散霧消化。暖簾に腕押し、糠
にクギ。

ういえば今から7年ほど前に雲南省を旅した時、「中国で最もインド洋に
近い都市」をキャッチコピーにしていた芒市の市政府役所の壁に「国家工
作人員十条禁令」がデカデカと張り出されていたことを思い出した。

それには麗々しく

一、本来の職務を遂行せず、職務を疎かにすることは厳禁。
二、ウソで固め、上司を騙し部下を誑かし、業務を執行せず、引き伸ばす
ことは厳禁。

三、物資購入の際に横流し、公共工事入札の際に手心を加えることは厳禁。

四、職務権限をタテに相手業者に金銭、食事を強要することは厳禁。
五、賭博に加わることは厳禁。
六、公共の場での麻雀は厳禁。
七、飲酒でイザコザを起こし、業務に支障をきたすことは厳禁。
八、勤務時間中に本来業務を怠ることは厳禁。
九、公金を高額遊興費に流用することを厳禁。
十、如何なる理由があれ薬物の使用を厳禁」
と10項目が。

ということは、この種の「公私混淆の惡弊打破」を特に厳禁とせざるをえ
ないほどに「公私混淆の惡弊」が横行しているに違いない。

 じつは江澤民もまた最高権力者であった当時、「永做人民公僕(永遠に
人民の公僕たれ)」の6文字を掲げていたはず。つまり、この6文字を持
ち出さねばならないほどに「公私混淆の惡弊」が横行していたというこ
と。いや、そうに決まっている。

  福沢諭吉の「門閥制度は親の仇」に倣って「公私混淆の惡弊」を「民
族の仇」と言いたいが、やはり「公私混淆の惡弊」は『民族的業病』と諦
めるしかない・・・デスね。《QED》
 
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