2019年04月24日

◆花房晴美室内楽シリーズin上野

        馬場 伯明


2019.4.18(木)19:00〜上野の東京文化会館小ホールでコンサートが
あった。「花房晴美室内楽シリーズ:パリ・音楽のアトリエ〈第16集 ピ
アノ、西洋と日本の笛〉」だ。満席だった。

私は花房晴美氏を近くで見たことはあるが話したことはない。受付で貰っ
た「プログラムノート」から紹介する。(以下「花房さん」の呼称でお許
しいただきたい)。

《 華麗な演奏が魅力の、日本を代表するピアニストの一人。国際的にも
高く評価されている。桐朋学園高校を首席で卒業後、パリ国立音楽院で学
ぶ。エリーザベト王妃国際コンクール他、数々の国際コンクールに入賞。
国内でのリサイタルの他、NHK交響楽団をはじめとする日本の主要オーケ
ストラとの共演も数多い。CDも数多くリリース、最新CDは「フランス室内
楽作品集〜花房晴美 ライブ・シリーズV」で、レコード藝術、朝日新聞等
で高い評価を受ける。

国外の活動も活発で、2011年1月にはニューヨーク カーネギー・ホールで
ニューヨークデビュー公演を行ない、2013年3月にはマイケル・シンメル
芸術センター(ニューヨーク)にて、「西村朗:ピアノ協奏曲〈シャーマ
ン〉」をアメリカで初演し、大きな話題を呼んだ。2010年からシリーズ:
「パリ 音楽のアトリエ」をスタートさせ第17集を2019年11月15日に予定
している》。

まずお断りしておきたい。私は音楽についてはまったくの素人である。
かつて本誌に「音痴とカラオケ(2005.6.28)」を書き、とくにリズム音
痴であることの悲哀を告白した。もっと昔の大学時代、学園祭の教養部ク
ラス等対抗合唱コンクールがあり、指揮をしたバイオリニスト(京響コン
サートマスター)の同級生のM君から「馬場君、口を開け動かしてもいい
が、声は出さないでね!」と頼まれた。

青信号の前で1人だけ走りだされては困るというわけだ。私の(沈黙の)
参加によりクラスは見事に優勝した。混声合唱の女性パートはK女子大の
協力を得ていたが、ある女子学生から「優勝できよかったですね」と言わ
れ、喜怒哀楽の複雑な気分だったことを思い出す。

もう一つ。「いい音楽を聴けば眠くなる」。経験を書く。1970年大阪万博
でS・リヒテル(ソ連:当時)が初来日。当時私は倉敷市の製鉄所に勤務
していた。岡山市での公演に、友人のT君が8,000円の券を買ったが都合が
悪くなり4,000円で私に押し付けた。しかし、私は2時間演奏の半分は眠っ
ていた。つまり、単価は8,000円相当である(笑)。

だから、私には、このコンサートの「内容!」に立ち入り語る資格も評価
する能力もない。著名なピアニストである花房さんの演奏の形式的な紹介
と私的な感想を述べるだけである。当日は辛うじて睡魔に勝った。

まず、この夜のプログラムは、1.(楽器)ファゴットとピアノの共演。
ファゴット演奏はマティアス・ラッツ氏。スイス・ムーリのコンクールに
おけるファゴット部門の音楽監督、およびチューリッヒ芸術大学教授と。
2つの作品が演奏された。「フランセ:ファゴットとピアノのための2つの
小品」「サン・サーンス:ファゴット・ソナタ」。

ファゴットという楽器の単独演奏は初めて聴いた。長身のラッツ氏は長い
ファゴットを自由自在に操る。穏やかで澄み切った音色と、それを追いか
けるような花房さんのピアノの音がなじんでいた。

次は、アメリカ人のジョン・海山・ネプチューン氏。尺八奏者である。彼
も背が高く花房さんは大きく見上げるほど。日本をはじめ東南アジア、欧
米、豪などで演奏活動をしている。日本の代表的な尺八奏者の一人でもあ
り、千葉県鴨川市に住み、作曲、尺八の製作・改良も手がける、と。

演奏曲は、一柳彗(とし)氏の「尺八とピアノのための『ミラージュ』」
と海山氏の書き下ろしの「TIE TOGETHER」。「和洋楽器のこんなコラボも
あるんだ!」と私は正直驚いた。ピアノの高低音域の間を尺八の音が通り
抜け、響き合う。混然とした不思議な音が小ホールを満たした。

花房さんが190cmもありそうな大男の2人を紹介した。両手を広げた彼女の
姿は小さくは見えず、2人はお姫様のボディガード風に見えた。

花房さんのピアノの単独演奏はフランツ・リストの曲だった。一つは「二
つの伝説」。「小鳥に説教するアッシジの聖フランチェスコ」と「波の上
を渡るパオラの聖フランチェスコ」。でも、仏教徒の私にはキリスト教の
宗教音楽や聖フランチェスコとやらの説教や法話のような解説がわかるは
ずもない。ただ、花房さんのピアノの音色は心地よいものであった。

リストの演奏のもう一つは「『超絶技巧練習曲』より第4番『マゼッ
パ』」。私は入口通路右手の席(自由席)だったので、身体全体の動きも
手元の指の動きもよく見えた。「目にもとまらぬ早業」とはこういうこと
を指すのだろう。超高速で寄せては返すアルペジオ。何という忙しさ。終
盤、天が落ちてくる心配(杞憂)をしなければならないような轟音であ
る。すごい〜〜〜。でも、この轟音はunder controlなのである。

花房さんは紅いドレスの裾をひらりと翻し椅子に掛ける。黒いアンダー
ウェア・タイツの奥が見えるかのような勢いだ。ドレスはふわりと宙を舞
い椅子を覆った。「さあ、弾きますよ!」。強い意思が漲る。花房さんの
「細腕繁盛記」だ。白い「細腕」から魔法の音が紡がれる。その技術と体
力・・・その能力に驚嘆する。その力はどのようにして蓄積されたのか。

演奏者は曲目が終わる毎にお辞儀をする。お辞儀と言えば思い出す。
2018.9.9三笠宮彬子妃殿下が、トルコのケマル・アタチュルク廟に献花さ
れた後の所作(お辞儀)がトルコ国内のweb siteで大きな反響となった。
「私たちの英雄にあんなに心のこもった敬礼をしてくれたプリンセス!」
「なんてエレガントで美しいのでしょう」と。

花房さんのお辞儀は彬子妃殿下のそれに勝るとも劣らないものであった。
でも、会場は撮影禁止だから、花房さんのお辞儀を見るためには現場へ行
くしかない(笑)。次の2019.11.15公演までお待ちください。

花房さんとともに歳を重ねてきたのであろう。ホールには年配の人が多
かった。たまたま私の横には若い女性が座った。休憩時間に話せば中国か
ら来ている揚琴奏者(Yang Qin Player)という。弦を叩いて鳴らす中国
の伝統的打弦楽器。尺八奏者ネプチューン・海山氏とは知己らしい。

ところで、「花房」って何だろう。「1. (花の)萼(がく)の異称。2.
総状をなして咲く花(広辞苑)」。枕草子にもある。「めでたきもの 唐
錦。飾り太刀。(中略)色あひよく、花ぶさ長く咲きたる藤の、松にかか
りたる」(第九十二段・能因本 枕草子全注釈 二 田中重太郎)。 

【通釈】「すばらしくてりっぱなもの。唐の錦。飾りを施した太刀。(中
略)色あいがよく、花房が長く咲いている藤(の花)が、松の枝にかかっ
ている風情(もすばらしい)」。

それでは、ここで、私の腰折れ(歌)を一つ。長崎県雲仙市の実家の小庭
には古い藤棚がある。

ふるさとの花房の藤咲きしとふ
縁に顕(た)ちくるたらちねの亡母(はは)

藤の花房は晴れやかで美しい。鳴りやまぬアンコールに応え花房さんがピ
アノの前で挨拶をした。身体は細いが見目麗しく洋風の艶やかな容姿であ
る。ところが、話しぶりは、少女のようにはにかみかわいらしい。

「(超絶技巧練習曲の)音の洪水(!)でしたので、ショパンを(笑)」
と。心が洗われるようなピアノの音色だった。そして、花房さんは、会場
の拍手に惜しまれつつ退出。コンサートは静かに幕を閉じた。

プログラムノートに《″巨匠ピアニスト名鑑のHの項に、クララ・ハスキ
ル、ウラディーミル・ホロヴィッツ(Horowitz 1903~1989)に並んで、い
ずれ花房晴美の名が刻まれるであろう″ハイファイステレオ誌》とあった。
1980年頃の(大胆な)記事らしいが、ぜひ、そうなってほしい。
(2019.4.21千葉市在住)

(追記)日経電子版「ビジュアル音楽堂」2016.4.16より抜粋する。
《・・・「日本では印象派をはじめフランス近代絵画がすごく人気なの
に、同時代のフランスの音楽はなぜあまり聴かれないのか。そんな疑問が
出発点です」。東京都心の花房さんの自宅。地下2階なのに陽光も取り込
める広々とした練習室で、彼女は“パリ・音楽のアトリエ”のシリーズ公演
を続ける理由を話し始めた。三方を鏡の壁に囲まれた西欧風の部屋にスタ
インウェイやヤマハのピアノが5台並ぶ。香水や壁掛けの絵画、食器や写
真などに彼女のフランス趣味が感じられる。・・・(池上輝彦)》
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。