2019年07月18日

◆郭台銘、独立候補で出馬の可能性がまだある

宮崎 正弘


令和元年(2019)7月18日(木曜日)通巻第6144号  <前日発行>

 郭台銘、国民党を離党し、独立候補で出馬の可能性がまだある
 他方、韓国諭(高雄市長)は地盤の高雄でリコール運動に13万人が署名

2020年の次期台湾総統に挑戦する候補者を選ぶ国民党予備選の第一段階
(世論調査)は、国民党執行部の強い思惑、すなわち勝てる候補選びのた
めに郭台銘を外すという基本路線が貫かれた。国民党主席の呉敦義の意向
が強く反映した。

結果は韓国諭が44・8%、郭台銘が27・7%、朱立倫は1年前の本命視か
ら転落して18%弱。4位は周錫偉(6%)、5位は張亜中(3・5%)
だった。

月末の党大会で、韓国諭(高雄市長)が正式に来年1月に予定されている
総統選挙への正式候補者となる。韓国諭は台湾の向日葵学生運動が国会を
占拠した折、民主主義の価値を評価した記録がない。郭台銘に至っては
「民主主義など糞食らえ」と暴言を吐いた。

直後の世論調査をネットで調べたところ、驚くなかれ、蔡英文が77%の支
持を集め、韓国諭は僅かに23%だった。逆転を示しているのである。

訪米で多数の有力者や議会指導者と面会した蔡英文は、アメリカの無言の
蔡英文支持を背景にして「韓国諭候補は経験不足、政治力量は未知数だ」
と語った。

落下傘候補として最初は泡沫扱いだった韓国諭が、相次ぐ失政で民進党の
支持層が蔡英文からはなれ、「瓢箪から駒」で高雄市長に当選した。それ
から僅か8ヶ月。はやくも総統選挙へ出馬するとは公約違反だと高雄市民
は声をあげた。

「市長の4年間、全力を尽くす。総統選? 出るわけがない」との公約は
最初から反古だったのだ、と高雄市民は怒りに満ちて街頭に飛び出した。
 
おりからの「反送中」運動で、100万、200万の動員を果たした香港は林鄭
月峨行政長官に「やめろ」と迫り、中国共産党は深刻に事態を受け止めた。

こうした香港の動きに刺戟され、台湾の国民感情にも変化が起きた。
香港市民の行動を目撃した、台湾人の多くが香港のアンチ中国デモを支持
した。国民党のいう「1国家2制度」の末路がどうなるか、身に染みて認
識できたからだ。

ところが、韓国諭は感想を聞かれて「私にはわからない」と発言して、北
京の顔色を見るような態度に支持者から失望の声が漏れた。

やはり郭台銘とおなじように、韓国諭は北京の代理人か」。

「あれではどちらがなっても国民党は馬英九と同じ愚を繰り返すだろう」。


 ▲台南市民が韓国諭辞任運動の署名を始めた

高雄市議会は10名余の市議会議員が記者会見を開き、韓国諭の即時退陣を
求めた。「総統選に熱中し、高雄市政をおろそかにした責任は大きい」と
したため、リコールを求める署名運動はさらに燃え広がる。

韓国諭を支える筈の高雄で、基盤となる大票田が韓国諭不信ムードに切り
替わったのだ。

高雄はもともと台湾独立運動のさかんな土地柄であり、国民党はながく相
手にされなかった選挙区である。この民進党の拠点を覆したのだから、国
民党は韓国諭に過剰な期待を寄せたのも無理はなかった。世情の移り気は
迅速である。

リコールに必要なのは58万人の署名、すでに13万人が韓国諭のリコールに
賛同した。連日、雨の中、リコールの呼びかけが続いている。

また台北などでは、黄色い雨合羽をきて、「偏向マスコミ糾弾」「中共匪
賊に迎合するメディア」を激しく非難する集会が行われ、香港の熱気が台
湾に移動したようである。

国民党予備選で大敗した郭台銘は、世論調査がすべてを代弁するわけはな
いとばかり、国民党を離党し、独立候補としての総統選立候補というシナ
リオを捨てていない。

そうなれば国民党はまたまた分裂の危機をむかえることとなり、2000年に
は中華思想統一派が党を割って出馬したために「漁夫の利」が民進党に転
がり込んだ。したがって郭台銘の立候補は与党・民進党にとっては歓迎す
べき事態である。

一時は有力とさわがれた王金平(元国会議長)は、いまや「過去の人」。
立ち回り先で待ちかまえる記者は1人か2人という寂しさだ。

台北市長の何文哲も、直後の発言を拾うと、総統選挙への意気込みを感じ
させる。だから台湾メディアは何文哲単独立候補シナリオにも備えてい
る。何文哲の立ち回るところ、記者団が十数名ついてまわる。

さて「台湾のトランプ」と比喩され、立候補の表明直後は圧倒的人気だっ
た郭台銘は、なぜ途中から失速したのか?

郭の両親は国民党の敗退にともない山西省を後にして台湾へ移住し、狭い
住居で十年を雌伏した。一家はキリスト教会の慈善事業で食いつなげたと
いう。

郭は母親に借金して7500ドルでプラスチック成型器を購い、部品製造のビ
ジネスを始めた。

成功の弾みとなったのは当時、興隆していた電器部品から電子部品、スマ
ホの大発展を見通して早くに対応策を講じたからだった。

郭はアメリカ各地を見て歩き、そしてIBM、デル、アップルを直接訪ね
て、かれらの欲しがる備品を聞き出し、その需要の高い部品を製造するた
めに人件費の安い中国大陸に主力工場を次々と造った。


▲強い指導者イメージをつくるトランプ選挙の遣り方を真似たが。。。

過酷な労働、やすい賃金、奴隷のような職場と悪評さくさくでストライキ
にも遭遇したが、郭台銘すこしも怯まず、強気の経営を続け、台湾一の財
閥になり仰せた。

郭は「台湾の松下幸之助」といわれ、巨万の富を築いた王永慶を深く尊敬
しているというが、経営理論を聞いていると、ばさばさと不採算部門を切
り捨て、効率集中型重視などの理論実戦家。筆者は大前研一の論理を思い
出した。

「私はトランプ大統領とも渡りをつけたし、習近平主席とも数度面会して
いる。台湾は米中技術戦争時代にサプライチェンの架け橋になれる有利な
ポジションにいる。メディアはまだ「G20,G20」と騒いでいるが、いま
では明確にG2だけなのである」とTIMEのインタビューに答えている
(同誌、2019年7月22日号)。

郭は予備選をトランプの遣り方に模したキャンペーンで戦った。巨費を投
じたテレビCMも頻度激しく、しかし力強い印象を作り出すために語彙を
慎重に選び、専門家を回りに固め、帽子もスローガンを前面に掲げ、人脈
とコネの強さを訴えた。だが、アメリカ流のキャンペーンの遣り方は台湾
のように情緒的、家族的社会ではむしろ反発を強めた。

台湾のシッリコンバレーと言われた新竹市などでは一部IT関連者の熱狂
的支持を集めたが、一般の市井に暮らす人々からはそっぽを向かれた。
     
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書評 しょひょう BOOKREVIEW 書評 BOOKREVIEW
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 多民族国家に変貌を遂げるのか、日本の中に異国が幾つも誕生している
外国人コミュニティに生活し、かれらの日常に密着した実況中継型のルポ

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室橋裕和『日本の異国  在日外国人の知られざる日常』(昌文社)
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日本全国どんな片田舎へ行ってもフィリピンのパブがあり、韓国人のス
ナックがあり、工業都市周辺にはブラジル人のたまり場があり、高田馬場
へ行くとミャンマー人のコミュニティがある。竹の塚にはリトル・マニラ
ができており、西川口の団地はチャイナ・コミュニティに変貌した。
 
ベトナム、カンボジア、ラオスからの難民は神奈川県大和市に集中して住
み着いた。西葛西にはリトル・インディアが形成されていた。

気がつかなかったのは八潮団地にパキスタンの中古車ディーラーがあつ
まって、既に、「ヤシオスタン」になっていること、なかではカラチの方
言が飛び交っている。西池袋には、北区、豊島区に住むバングラデシュの
たまり場があり、光が丘団地にはモンゴル人のコミュニティが出来ている
とか、ともかく「多国籍化」の変化が激しい。

評者(宮崎)はアジア、南アジアそして南太平洋諸国をめぐって世界各国
に散った華僑がつくるチャイナタウンの取材をしているが、この本の著者
は逆に、日本のなかに存在する「異郷」を精力的に探訪した。磁極が反対
側の人なのだ。

銀座のホステスには近年、客あしらいがうまい中国人女性が流暢な日本語
を操り、隣の店に行くとイタリア人やらアメリカ人ホステスもいる。上野
から鶯谷界隈には中国人経営の風俗店もあるという。

外国人コミュニテイィはすっかり日本の「日常の風景」となって、いまや
我が国では珍しくもない。

大相撲力士はモンゴル人が横綱、三役にはグルジア人とか、曙はハワイか
ら、武蔵丸はトンガ人だった。いまテニス、短距離、バスケットボールに
「日本国籍」の外国人、あるいは日本人との混血選手がいるが、だれも違
和感を感じていないようだ。

いや、彼らを声援し「日本、頑張れ!」と大声出して応援しているではな
いか。

こうなると、多民族国家に変貌を遂げる日がちかいのではないか?

ンビニの店員と居酒屋は、ほとんどが外国人。それも或る居酒屋チェーン
は特定のネパール人ばかりの店舗があり、コンビニは福建出身者が多いよ
うだ。福建省は広く北側の福州市より福清市からの中国人が目立つ。

「全国区的」に有名なのは新大久保のコリアンタウン、周辺には韓国系ば
かりか、いまでは「アジアのごった煮」状況となった。

北池袋のチャイナタウンには中国語だけで運転免許取得可能をうたう自動
車学校、24時間営業の保育所。在日許可延長、国際結婚斡旋の法律事務所。

本書では、これまで知られていなかった蕨市にいつのまにかクルド人が集
まり、「ワラビスタン」と言われていること。茗荷谷にはインド人シーク
教徒寺院があってインド人の社交場にもなっていることも書かれている

(評者、インドのヴィザの申請と受領に茗荷谷のインド・ヴィザセンター
に何回か行った経験があるが、なるほど茗荷谷にもインド人コミュニティ
が出来ていることは知らなかった)。

静岡県御殿場市の変化。富士山観光に来る中国人が、買い物を愉しむアウ
トレットがずらーり並んでいるのだが、300人の中国人店員が、中国語で
中国人ツアー客に対応しているというではないか。

彼らは逆に日本人店員に気を遣うというのだから、そんなことありか、と
驚いてしまった。

実際に筆者の室橋氏はタイに10年を暮らし、帰国後も大久保の外国租界の
ような町に暮らして、朝から晩まで外国人の日常生活をみてきた。そして
現状を細密に紀行文的に観察したのが本書。ユニークな文化論の登場と相
成った。

日本の中にいつの間にか形成されていた異国の実情をこれほど生々しく伝
えたルポは労作であり、初めて知る事柄が多かった。
        
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読者の声  どくしゃのこえ READERS‘ OPINIONS 
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(読者の声1)日本経済新聞に「ワカタケル」という小説を連載中の池澤
夏樹ですが、いよいよ化けの皮が剥がれてきたと思います。

古事記の雄渾な浪漫を基盤にして大王ワカタケルの統治をダイナミックに
描いてきたのですが、このところは各地の豪族のワカタケルからの離心、
アマテラスオオミカミの系列に卑弥呼がいたという珍奇な設定になり、女

王の統治をほのめかすという、おかしな筋立てになってきました。

歴史解釈の隘路に陥ったのではないか。いや地が出てきたのでしょうか?
 いつぞや貴誌のコメントで宮?さんも、この小説に注目されていると書
かれておられましたので、お尋ねします。池澤夏樹はやっぱり「向こう
側」の作家でしょうか?(TY生、岡山)


(宮崎正弘のコメント)彼の父親は福永武彦で、『日本書紀』の現代語訳
もしています。

池澤は古事記、日本書紀を基盤に独自のイマジネーションを膨らませてい
ますが、ご指摘のように途中から左翼史観がちらつく場面が増えてきました。

雄略天皇は大和言葉でワカタケル、豪放な天皇として知られます。

参考のため、池澤は『科学する心』(集英社)というエッセイ本のなかで
昭和天皇に対して何と言っているかを紹介します。

「天皇であることと科学者であることはほぼ異なる資質ということが出来
るから、以下ではいささか不謹慎ながら慣例に反してこの人を裕仁さんと
呼ぼう」(中略)「やがて裕仁くんが長じて即位した」(同書
12p〜14p)。
 
この「さん」から「クン」呼びが次には「裕仁氏」となって、畏れ多くも
天皇陛下に対して、滅茶苦茶な呼称を羅列している。

その無神経な感覚で、古事記、日本書紀を読んだのだろうから、小説の成
り行きも先が見えてきたのではありませんか。
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