2019年11月29日

◆旧アスタナを蔽う中国の影

宮崎 正弘


令和元年(2019)11月27日(水曜日)通巻6288号    

カザフスタンの首都ヌルスルタン(旧アスタナ)を蔽う中国の影
  砂漠のシルクロード拠点、「一帯一路」の要である筈だが。。。。

世界最大の内陸国家(日本の7倍の面積)であるカザフスタンを27年間統
治したのはナゼルバエフ前大統領。先月の「即位の礼」にも、国の顔とし
て出席した。

新大統領のトカエフは副首相時代を含めて2回来日しているが、まだ「国
の顔「として国際的には認知されておらず、相変わらず、ナゼルバエフ前
大統領が活躍している。大統領ポストを降りても、事実上のカザフの顔な
のである。

ヌルスルタン・ナゼルバエフを、国民は「ナゼルカーン」と俗称してきた。

ナゼルバエフは旧ソ連時代の共産党書記。ソ連が崩壊するやまっさきに独
立し、レーニン像をすぐに撤去させた。

円滑に独裁の政治を確立出来たのも、豊富な石油、ガス、稀少金属に恵ま
れるからだ。日本が重視するのも、カザフスタンのウランとレアアースで
ある。

ナゼルバエフは突如、アルマトイからアスタナへ首都を移転した。
(1997年)。
黒川紀章が設計したオアシス都市建設に邁進した。筆者はそれまで首都
だったアルマトイには2回行っているが、緑の美しい都市で、砂漠のオア
シスの典型。鉄道もモスクワと繋がっており、英語の新聞があった。
♪「月の砂漠をはるばると」のシルクロードの浪漫が浮かんでくるような
街づくりだった。

ナゼルバエフは穏健な方法での権力委譲を模索してきた。副官として忠実
に彼に使えたトカエフに大統領ポストを継がせ、政治の裏に徹して国民の
不満を和らげる。しかし、依然としてこの国を統治しているのはナゼルバ
エフ一族であり、資源輸出利権を掌握していると言われる

2019年3月、新都市アスタナを「ヌルスルタン」と改称することになる。
ヌルスルタンは、ナゼルバエフの本名。しかも議会は圧倒的な賛成で、承
認したのだった。

カザフスタンの人口は1860万人。国土が日本の7倍。人口は日本の7
分の1強。


 ▲やっぱり浸透を始めたのはチャイナだった

なぜこの国に国政的な焦点が当たっているのか。
 
旧ソ連の枢要な地位をしめてきたカザフスタンは、深く静かに中国の浸透
ぶりが見られ、それがプーチンの神経に障っている。カザフスタンの人口
の15%はロシア人である。
 
旧宗主国ソ連の中核ロシアの顔色を見ながら、中国は最初にカザフスタン
と鉄道を繋ぎ、中国企業がそろりそろりと進出していたのが2000年頃
までの図である。

中国進出のラッシュアワーがやってきた。

鉱山開発、インフラ建設、石油基地など建設分野に中国企業はどっと、う
なるように進出し、おまけに中国人労働者を大量につれてきたため、どの
国でもそうだが、かならずもつれる。

パキスタンは現地雇用が殆どなく、中国からの労働者が囚人であったこと
をパキスタン国会が問題にした。スリランカで、モルディブで現地の雇用
はほとんどなく、不満が爆発して、ときおり反中暴動がおこる。アフリカ
諸国では逆に現地人を奴隷のように酷使するので、これまた反中国暴動が
頻発する。

それでも開発途上国はチャイナマネーが欲しい。中国の投資大歓迎、
AIIB歓迎となって、気が付けは「借金の罠」に陥落していた。

ナゼルバエフは自国のGDPが比較優位にあり資源を武器に外交力も確立
したが、彼はロシアを牽制するために中国の浸透を政治的武器として利用
したのだ。地政学上のパワー・バランスを熟慮すれば、カザフスタンが生
き残る道は、それしかない。周囲をすべて外国に囲まれ海の出口を持たな
い内陸国家の宿命である。

2019年9月10日から3日間、トカエフ新大統領は北京を訪問し、習
近平の出迎えを受けた。中国とカザフスタンは「永久的総合的パートナー
シップ」を声明し、全方位、相互互恵、共同挑戦などの綺麗な語彙を並べ
て、共同で開発に勤しむことなどを内外に鮮明にした。

中国はカザフスタンへ5G,スパコン、ブロックチェーンなどの技術供与、
技術開発援助など、従来のインフラ投資を超えたレベルの投資を約束し、
またシルクロードを「光明之路」などとして、ウィンウィンの関係を強調
した。

この新事態をどう見るか。
 
中国は知的財産権の保護などと、自国が守らない条項も平気で強調した
が、5G,スパコンなどの技術開発協力は「釣り餌」である。カザフスタン
の優秀な学生達はむしろロシアでの就労機会を模索する。


 ▲「中央アジア」の一帯一路の要

カザフスタンへ300億ドルの巨額をぶち込むとアドバルーンをあげた中
国の目的は地政学的に重要な位置を占めるカザフスタンの民衆と、隣接す
る新彊ウィグル自治区のムスリムと連帯させないためだ。

両国の共同宣言には「お互いの核心利益を尊重し、それぞれの分裂活動、
独立運動を支援しない」との文言を挿入している。

実際にカザフスタンにはウィグル暴動の際に夥しいウィグル人が逃げ込ん
でいる。

カザフスタンの85%をしめるカザフ人はイスラム教徒である。東トルキ
スタン独立運動の秘密基地もあり、トルコやドイツにあるウィグル独立運
動の諸団体と連携しているため、中国はSCO(上海協力機構)でテロ対
策を第一義として、各加盟国と情報の交換などをしてきた。

しかしながら世界的に拡がった人道主義に悖る中国のウィグル弾圧批判を
うけて、さすがのカザフスタンも中国への協力に熱心ではない。

またカザフタンが不満を抱くのは環境汚染、貿易不均衡、労働者の移入な
どであり、中国人労働者との賃金格差。加えての中国の領土的野心への警
戒などがあげられる。

上層部は中国歓迎、しかし底辺のカザフ国民は中国への不満を強めている
という構造になっている。

日本とカザフスタンとの関係は良好である。とくにカザフ国民が親日的な
理由はソ連に抑留された多くの日本兵が建設したオペラホウスなどの建物
が、巨大地震にも耐えて健全なこと、トヨタの進出などによって近代化が
進み、またJICAなどの農業支援で、農作物生産が顕著に伸びたことな
どによる。

日本外交はとくに資源外交の展開に力点を置いており、閣僚クラスの往来
も頻繁である。ナゼルバエフ前大統領は五回来日している。

2006年には小泉首相が歴代初の現職総理として公式訪問した。

2015年10月には安倍首相が「中央アジア外交」の核心として公式訪
問し、ナゼルバエフ大学で講演をしたが、ナゼルバエフ大統領も陪席し
た。同大学学長は日本人である。


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