2020年01月18日

◆中国が覇権を握ると、世界はこうなる

櫻井よしこ


令和2年、日本の道は平坦ではあり得ず厳しい1年になるだろう。世界の秩序を揺るがす二大国の前で日本の覚悟が求められている。

米国がアメリカ第一主義を追求し続け、中国がその真空を埋め続けるとしたら、中国主軸の世界はどんな世界になるのか、そのとき日本の対応はどうあるべきなのか。

中国が米国にとって代わる可能性は決して高くない。だが、そのときの世界を想像してみよう。ケ小平以降、江沢民、胡錦濤の歴代指導者と交流があり、中国共産党の考えや性格を深く理解していたシンガポール建国の父、故リー・クアンユー元首相はこんなことを語っていた。

「産業化し力をつけた中国は東南アジア諸国に1945年以来の米国のように慈悲深く接するだろうか。シンガポールは確信が持てない。ブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ・ベトナムなども同じだろう。中国がより自信に満ちており、強硬な構えをとりたがっているのを、我々はすでに承知している」(グラハム・アリソン他著『リー・クアンユー』BCSIA)。

リー氏は次のようにも語っていた。

「中国は我々シンガポール人に、自らの影響力が強くなるにつれてもっと敬意を払うよう求めた。大小にかかわらずどの国も対等で、中国は覇権を求めないと言った。しかし我々が彼らの気に入らないことをすると、13億人に不快な思いをさせた、立ち位置をわきまえろと言う」(同)

どれ程美しい言葉で飾ったとしても、中国には「どの国とも対等」という考え方はないのである。

リー氏がまだ健在で子息のシェンロン氏に首相職を譲る2004年、シェンロン氏が首相就任前に「個人的かつ非公式に」台湾を訪問した。それ以前にも訪台したことがあり、本人は中国の本当の恐ろしさを読みとれていなかったのだ。次期首相の行動に中国側は激しく反応し、「重大な結果を招く」と恫喝した。

怯えた氏は、同年8月の独立記念集会の演説で「台湾独立を支持しない」と宣言した。

習氏が訪日

10年のASEAN地域フォーラム(ARF)外相会議では、当時の楊潔篪外相が他の国々の外相を睨みつけながら言い放った。「中国は大国で、他の国々は小国だ。それは厳然たる事実だ」と。

リー氏が15年3月に死去し、同年5月にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議では、「覇権を求めない」はずの中国が覇権国の強圧的な振る舞いを暴露してしまった。

当時、オバマ政権の無策が続き、中国が凄まじい勢いで南シナ海を埋め立てていたため、基調演説をする立場にあったシェンロン氏は南シナ海問題に言及せざるを得なかった。国際社会が注目する中、氏は中国の大規模埋め立ては非難せず、ベトナムやフィリピンの小規模な埋め立てを非難した。中国の怒りを恐れての演説だったのは明らかだ。

その前年の5月には、習近平国家主席が「アジア信頼醸成措置会議」(CICA)で47カ国の代表を前に「アジアの安全はアジアの人民が守らなければならない」、「いかなる国家も安全保障を独占し、他国の正当な権益を侵害することはできない」と語った。世界人口の約6割を占めるアジアの覇権は中国が握るとの宣言であり、米国のアジア太平洋重視のリバランス(再均衡)政策を牽制したのである。

17年10月には中国共産党第19回全国代表大会で、習氏が「中国の特色ある社会主義」を掲げ、「偉大なる中華民族の復興」を公約した。建国100年には、中国が世界の諸民族の中にそびえ立つとも誓った。

そのとき、中国はどんな国になっているのだろうか。豊かで強くなった中国は民主主義国になっていると思うかと問われたリー氏は、即座に「ノー」と答えている。民主主義が中国共産党の支配を崩壊させるのは明らかだからだ。

中国の歴史にはかつて一度も民主主義の要素など存在しなかった、中国人民は民主主義など求めていない、ともリー氏は指摘している。

いま私たちが認識しなければならないのは、このような中国の異質さである。私たちの価値基準で中国人を推し測るのは愚かなことだ。

今年春には習氏が訪日する。日中両政府は両国関係が非常に良くなっていると讃え合うが、現実は全く異なるのではないか。

両国間には多くの問題が存在する。中国の異常な軍拡、尖閣諸島、東シナ海ガス田、靖國神社、歴史認識、知的財産権の窃盗、日本人不当拘束など、まさに問題山積である。

中でも日本人拘束と尖閣諸島の両問題は18年10月の安倍首相と習氏の首脳会談以降、19年6月、11月、12月の首脳会談で安倍首相の側から問題提起し続けてきた。それに対して中国側はどう対応してきたか。日中関係が「非常に良好」だと言えるような対応だろうか。

安倍首相の要請を無視

安倍首相は18年10月に訪中して習氏と首脳会談を行った。その後の19年11月4日、12月23日の首脳会談でも、拘束されている邦人の解放を求めている。が、習氏の側からは何ら回答がない。

それどころか、安倍首相の要請を無視して、中国政府は次々に、拘束した日本人に有罪判決を下し続けた。

18年12月には二人を実刑とした。札幌市の男性に懲役12年、元中国人で日本に帰化した女性に懲役6年である。

19年5月には別の3人に最高15年の実刑を下した。

同年10月、伊藤忠商事の男性社員に懲役3年の実刑判決を出した。

同年には新たに50代の日本人男性が拘束されたが、同件は11月末になって公表された。また9月には、中国政府のシンクタンク、中国社会科学院の招きで訪中した北海道大学教授が拘束され、11月に解放された。

加えて信じ難いのは、どの件でも中国側は判決文を公表しないことだ。日本側としては、一体どんな罪なのか、どんな根拠があるのかなど、一切わからない。

安倍首相が直接、習氏に問題提起した後でも、こんな不透明で不条理な拘束がなされ、実刑が下されている。対日関係改善への中国首脳の熱意も誠意も感じられない。日本に対する敬意などおよそないのではないか。

尖閣の海にほぼ毎日中国艦が侵入していることは今更言うまでもない。これで日中友好などと言えるのだろうか。中国の支配する世界はこのような事態が基調となるのであろう。

米中がせめぎ合う中、日本は自由と民主主義の価値を重視する米国との協力、連携に全力を尽くすべきだ。憲法改正を急ぎ、軍事力を強化し、経済力を強めることだ。

『週刊新潮』 2020年1月16日号日本ルネッサンス 第884回

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