2020年04月05日

◆“世界終末”の詐話によって騙されまい

加瀬英明


1月にスイスのダボスで、「ダボス会議」として知られる「世界経済フォーラム」が開催された。

ダボスはスイス東部の深い渓谷の底にある保養観光地で、トーマス・マンの小説『魔の山』の舞台になった。

1971年以来、毎年、ダボスにマスコミが“グローバル・エリート”と呼ぶ、2000人以上の多国籍企業経営者や、政治家、知識人などが集まって、「世界が直面する重大な問題」を討議することになっている。

今年は「地球温暖化による気候変動」が、重要な議題だった。

17歳の“環境問題活動家”として時めいている、グレタ・トゥーンベリ嬢が基調講演を行い、「地球を救うのには、あと8年しか残されていない」と訴えた。

グレタさんは15歳で「気候のための学校ストライキ」を呼びかけ、100万人以上の学生が参加したことで有名になり、両親に二酸化炭素(CO2)を排出する飛行機旅行をやめさせたり、肉を食べないよう説得して“時代の寵児”となった。

地球に残された時間が、8年だって? だが、裏付けがあるのだろうか?

 50年前、「ローマ・クラブ」が一世を風靡した

私はグレタさんの託宣をきいて、1970年に『ローマ・クラブ』が世界の著名な科学者、経済学者、経営者などの“叡知”を集めて、『成長の限界・人類の危機』というレポートを発表したことを、思い出した。

『ローマ・クラブ』の6人の常任委員会には、日本から経済学の大宗として持て囃された、大来多三郎氏が加わっていた。

『ローマ・クラブ』の報告書は、世界が経済成長を続けてゆくと、環境汚染が悪化し、クローム、鉄、アルミ、錫、鉛、金、銀、水銀、石油などの鉱物・化石資源が枯渇するから、「経済成長をゼロ」にすべきだと主張して、一世を風靡した。

この報告書は常識から大きく逸脱した、噴飯物だった。もし経済成長をとめたら、汚染がもっとひどくなる。中学生でも環境を浄化するためには、カネがかかることが分かっている。

久し振りに『成長の限界』を読み返すと、「限界、危機、破局」というおどろおどろしい言葉を連発している。

グレタ少女による怪しい神託の類(たぐい)といえば、枚挙に遑(いとま)がない。
 最近では、2013年にケンブリッジ大学の教授が、2年後の2015年に北極の氷が消えてしまうと、警告していた。

1968年に、著名な環境学者のポール・ヒアリッヒ教授が、ベストセラーになった『人口爆弾』によって、地球人口がこれ以上増えれば、人類が滅亡すると警鐘を鳴らした。

その2年後の1970年の世界人口は、36億人だった。『成長の限界』レポートも「爆発的な人口増加」を、切迫する「人類の危機」として取りあげていた。今日、世界人口は2倍以上に増えている。

 グレタ少女は妖しい巫女だ

日本大学の季刊誌の春季号に、牧野富夫日本大学名誉教授が、グレタ少女を「スウェーデンの十代の少女グレタ・トゥーンベリさんの活動に世界が驚き注目している。

国連などで地球の危機を訴える弁舌は説得力があり、大人を圧倒する。素晴らしい。質疑でも、縦横・機敏に対応し、彼女が『自分の考え』をもっていることを、物語っている」と、手放しで激賞している。

資源が枯渇するのではなく、軽はずみな人々が絶えることがない。 

グレタ少女から『ローマ・クラブ』まで、人心を乱す邪しまな占い師だ。

私は占いを好む女友達たちに、「『占い』の語源は『裏付けがない』ですよ」と戒めている。占い師は吉か凶といって、客を脅すことを生業(なりわい)としている。

神社の御神籤(おみくじ)は遊びだから罪がないが、『成長の限界』のような報告書は、人間の脳が危ふさと、暗いことにもっとも強く反応するのに乗じている。

 私は『成長の限界』が発表された年に発表した著書で、「資源が枯渇することはない。石が枯渇したために、石器時代が終わったというのとかわらない」と批判した。青銅器時代が終わって鉄器時代に移ったのは、銅が枯渇したからではない。

青森県の三内丸山遺跡といえば、よく知られている。縄文人の集落だが、科学調査によれば、当時の気温は今日よりも2度も高かった。海面が上昇していたから、海岸線が三内丸山遺跡に接近していた。

7、8000年あまり前に、日本列島に一酸化炭素を排出する工場がひしめき、上空を旅客機が頻繁に飛んでいたはずがない。

 気候変動は自然現象

地球の気候は科学調査によれば、およそ18000年前の最終氷期の中期から温暖化が進み海水が増加して、6000年前あたりに海面が4、5メートル上昇していた。

西暦1550年から約300年にわたって寒冷な小氷期が訪れ、ロンドンのテムズ河が完全に氷結して、氷のうえに市場が開かれていた。凶作の時代だった。日本では小氷期に、1180年から81年まで「天明の飢饉」、1833年から36年まで「天保の飢饉」が起っている。

もちろん、このような気候変動は主として太陽活動によるもので、今日の地球温暖化も自然の力によるものだ。人為的にもたらされているのではない。

グレタ少女は飛行機に乗らず、肉食をいっさい拒んでいるというが、スウェーデンから鉄道にも、自動車にも乗らず、どのようにしてダボスに来たのか。革靴も履かず、皮製のソファに腰掛けないのだろうか。

牛や、羊を放牧するために森林を伐採することによってCO2が増加しているが、エビの養殖のために広大なマングローブ林が消滅しているほうが、地球環境をはるかに損ねていると非難されている。グレタ少女はエビも、口にしないのだろうか。

 「政経同志会」50周年の祝宴

この原稿を書いている途中で、都心の帝国ホテルに本部を置く、エリート経営者団体の『政経同志会』の50周年を祝う晩餐会に招かれた。

同会の奥山忠代表は、人望が高い。ホテルの大広間を埋めて、1000人あまりの善男善女がテーブルに着席して、会の半世紀を賑々しく祝った。

帝国ホテルの洋食といえば、日本で最高峰として知られる。

「黒毛和牛フィレ肉のポワレ ジュヴ・シャンベルタンのソース」を中心とするフルコースに、舌鼓をうった。

私はふと50周年というと、『ローマ・クラブ』がレポートを発表したのも、同じ半世紀前だったと思った。もし、このレポートの警告が当たっていたとしたら、この大広間の和やかな盛宴はなかったはずだった。

今日では、『成長の限界』の報告書が枯渇すると警告した鉱物資源は、すべて国際価格が暴落している。

『ローマ・クラブ』をはじめとするレポートは、人心を惑わしただけだったから、罪は重い。

 トーマス・マンの警告

トーマス・マンといえば20世紀を代表する作家だが、1933年にナチスが台頭すると57歳でドイツから亡命して、第2次大戦後、スイスに住んだ。

マンは「多くの人々が傍観していたことが、ナチス時代を招いた。『ノー』といわねばならない時には、『ノー』とはっきりといわねばならない」と警告している。

『人口爆発』や、『ローマ・クラブ』のように世間を誑(たぶら)かすレポートは、人災である。

黙って傍(はた)で見ていると、まったく不必要な混乱に手を貸すことになる。「ノー」といわねばならない。

そういえば、その後、『人口爆弾』の著者も、『ローマ・クラブ』の6人の常任委員も、1人として過ちを犯したことについて謝罪していない。良心を欠いた人たちだ。



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