2020年08月08日

◆健康百話・治療前にまず予防

                 向市 眞知 


医療が「治療」をおこなうだけでなく、「治療」の前に「予防」を、そしてそのあとに「社会復帰」という概念を位置づけるようになってだいぶ経ちました。 そのため医療は、在宅生活にも意識を向けるようになりました。

今では入院患者に対して「退院に向けて心配なことはありませんか?」と、医療の側から患者の療養生活にまで援助を行なう時代になりました。

 定年後奥さんと2人暮らしをしておられた人が、脳梗塞で倒れ入院してこられた時の例です。この患者は、集中治療室で管理をうけて意識も回復し、幸い10日後一般病棟に移ることができました。ですが、「一命をとりとめた」とホッとしたその瞬間、「これからどうなるのだろうか?」という今後の心配に奥さんはとらわれたのです。

「どこまで回復できるのだろうか?」「家に連れて帰れるのだろうか?」「このままでは私ひとりでは介護できない」「入院費はどのくらいかかるのだろうか?」と不安なことが次々と表れてきます。

 病院では、医師や看護師、ソーシャルワーカーが、「退院後のくらしについて心配はありますか?」と、家族にたずねて、退院計画を一緒に立てるシステムをとっています。 「右半身マヒは残りますが、杖歩行ができるようリハビリを頑張ってください」と担当医が回復のゴールについて説明します。

でもこれだけの話だけではこれからの生活をイメージすることはできません。
「お風呂は入れるのかしら?」
「トイレは1人で行けるかしら?」
「食事は1人で食べられるのかしら?」
「階段は登れるのかしら?」など、わからないことだらけです。考えれば考えるほど、家族はパニックになってしまい「こんな状態では連れて帰れない」と逃げ出したくなってしまいます。

そこで退院調整担当者が、患者や家族と相談することになります。時々、「早く退院させようとしているのではないか」と、家族の方から勘違いされることがありますが、全くそんなことはありません。

自宅のお風呂の構造、トイレまでの距離、玄関段差などを聞き、リハビリテーションの計画に取り入れますし、手すりをつけたり段差解消をしたり、住宅改修も考えてゆけば、身体にマヒがあっても自立した生活が可能になるからです。

もちろん、家族の体調や希望も無視できないことです。たとえば奥さんが腰痛の場合や、息子さんと同居していても仕事があり、昼間は「独居」ということもあるからです。
 
家族から得た情報も含め、病院の関係者でカンファレンスを開きます。そして、リハビリテーション計画と看護計画を立てることになります。早期の計画・立案は入院治療の有効活用の第一歩です。

お風呂の入り方、衣服の着脱練習、食事の工夫、介助方法の工夫が、訓練士、看護師、栄養士により実施されることになります。スタッフがバラバラにかかわるのではなく、目標をきめて、その目標に向けて協同でかかわることが有効です。

かなり早い時期から、退院に向けてのお話をすすめて行くことになりますが、退院計画は早期に立てる必要があることを理解していただけたと思います。また、退院計画は一方的に病院側が決めるものではありません。患者の希望の「どこでどのように暮らしたいか」を基本に、病院側が「療養プラン」をアレンジしていくことになります。

退院計画は病院側と患者側との協同で立案するものです。その意味で病院に話しても仕方ないとか、病院では聞いてもらえないと早合点せずに、ご自宅の生活の様子やご希望を病院にお話し下さることが適切な計画を立てる一助となると思います。病院にある相談室やソーシャルワーカーをご利用されるのが一番話しやすい方法です。    (完)                      大阪厚生年金病院 前ソーシャルワーカー

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