2020年08月12日

◆カレーライスと海軍

渡部亮次郎


「北海道カレー会議」というグループが一時はあって、事務局を
札幌市に置いて北海道の産物のすべてをカレーライスにして食べ尽くそうと呼びかけていた。2006年現在は休止している。

そのホームページによると

<カレーライスは「印度のカリー」を原点とし、「英国」・「仏蘭西」などを経て「日本」にもたらされた。特に明治期の「英国式シチュー風カレー」が旧帝国海軍のメニューとして採用され、軍人を通じて日本への大きな影響を与え、その後「日本の米」と出会うことにより、独特の「ライスカレー、カレーライス」を作り出したといわれている。

この、明治期の日本海軍によるカレーライス導入こそ国民食への始まりとする見方も有力である。
しかし、明治9年頃、既に我が札幌農学校には「生徒ハ米飯ヲ食スべカラズ」という寮則があったことや、「但シライスカレーハ是ニ非ズ」と言ったといわれていることを知る人は少ない。

この一文を起こした人こそ、あのクラーク博士であり、近代日本の黎明期を支えた多くの偉人達が大志を胸に、日々カレーライスを食していたのだ。日本で、最も早くカレーライスを常食化した地こそ、この北海道であることは疑いもない史実なのだ。近代日本の英知を育んだ「北海道のカレーライス」は偉いのだ。>となっている。

明治政府の富国強兵策による軍隊の増強とともに,脚気は兵営に急速に増加し,明治初年には陸軍で兵士の5分の1から3分の1がこれを発症し,日清・日露の戦時には前線将兵のほぼ4分の1が脚気となり,それは総傷病者数の2分の1というありさまであった。

脚気の病因については,当時なお中毒説・伝染説・栄養障害説がこもごも論ぜられ,治療のきめ手を欠いていたが,イギリスの衛生学を学んできた海軍の高木兼寛は,いちはやく脚気対策の重点を食に置き,兵食改良に着手し,海軍では兵食を米麦混食にしてから脚気は急速に減少した。 

もともと脚気は江戸時代の元禄〜享保年間(17世紀末〜18世紀初め)に江戸で大流行した。この年代は日本人の米食がそれまでの玄米または半つき米から精白度の高い白米に移行した時期と一致している。

また寛政年間(1789‐1801)には京都,文化年間(1804‐18)には大坂で流行した記録がみられ,〈江戸煩い〉あるいは〈大坂腫れ〉などとよばれた。明治になると都市人口の激増や貧困層の増大につれ,食生活の低下とくに青年層における栄養の相対的低下が著しくなり,脚気の急増を招くことになった。

高木兼寛 1849‐1920(嘉永2‐大正9)たかぎかねひろ

明治・大正期の軍医。宮崎県生れ。幼名藤四郎。石神良策,W.
ウィリスに医学を学び,1872年(明治5)海軍省出仕。75年ロンドンのセント・トマス病院医学校に留学し,80年帰国,東京海軍病院長となる。81年成医会をつくり,成医会講習所(京橋区鎗屋町、現在の銀座4丁目)の所
長となる(東京慈恵会医大はこれを原点としている)。

翌82年有志共立東京病院(同大学付属病院の前身)を設立し,85年同院に看護婦養成所を設立し,日本最初のナイチンゲール式近代看護教育を開始した。成医会講習所は何回かの名称・組織の変更を経て今日東京慈恵会医大に至るが,ドイツ医学主流の当時にイギリス医学を導入した。85年には海軍軍医総監となる。

海軍軍陣医学の近代化への貢献は大きいが,とくに脚気減少のために努力した。開化期の先端的文化人としての活躍(鹿鳴館のバザー,神前結婚,オーナードライバー,洋装のすすめ)も忘れることができない。

日露戦争と脚気をテーマとして書かれた吉村昭の小説「白い航跡」(講談社文庫)では海軍軍医総監として、理屈はまだ分からないけれど、とにかく肉や麦(パン)、カレーライスを食べさせれば脚気は治るんだから良いという高木。 

対する陸軍軍医総監森 林太郎(鴎外)はドイツ派医学の代表として脚気黴菌説のパスツールにしたがって農村出身の次男、三男たちに白米をたらふく食べさせ、結果として脚気患者を大量に出現させた。そればかりか、高木を、いわば学無き者として、罵詈雑言を浴びせて非難した。

明治天皇がこれに注目された。皇后が脚気を患っておられた。そこで
高木を陪食に招き、栄養の話を聴かれた。その結果、脚気は治癒した。天皇は高木を4度も陪食に招かれた。鴎外は1度もなし。鴎外が「勲章なぞ貰うな」と遺言して死んだのは腹癒せではないかと私は思ってしまう。      

もともと英国海軍はシチューに使う牛乳が日持ちしないため、代わりに日持ちのよい香辛料のカレーパウダーを入れたビーフシチューとパンを糧食にしていた。しかし、日本人はシチューはともかくパンでは力がでない、と白米にかけた。

カレー味のシチューに小麦粉でとろみ付けしてかけたところ好評を得て海軍カレーライスが誕生したのである。よって、インド風カレーとは一線を画すものであり、小麦粉のねっとりとしたルーに多数の具を加味し、日本米との絶妙なコンビネーションを遂げるよう工夫されている。肉と小麦粉でビタミンB1が補給されて脚気も治った。

日露戦争当時、主に農家出身の兵士たちに白米を食べさせることとなった帝国海軍・横須賀鎮守府が、調理が手軽で肉と野菜の両方がとれるバランスのよい食事としてカレーライスを採用、海軍当局は1908年発行の海軍割烹術参考書に掲載し、その普及につとめた。

肉は主に牛肉、太平洋戦争時には食糧事情の変化で豚肉も使われた。

その後、復員した兵士がこれを広めたため、カレーライスは全国に広がった。

戦後の復興期、カレーの普及に着目した食品メーカーなどが、海軍カレーに準拠するカレー粉を製造・販売したため、日本のカレーの由来は海軍カレーであるということができる。

現在も海上自衛隊では毎週金曜日にすべての部署でカレーライスを食べる習慣となっている。これは単調な海上勤務で、曜日の感覚を取り戻すためというほか、余っても基地から外出せず週末に居残った者が手軽に食べられるという現実的な理由もあったらしい。

海上自衛隊で食べられているものは「海上自衛隊カレー」と呼ばれる。

現在は、各艦艇・部署ごとに独自の秘伝レシピが伝わるため、作られるカレーは艦艇・部署ごとに異なっている。

従って今日の海上自衛隊のカレーには単一の味・レシピは存在しない。「×××スーパーカレー」というような呼び方をする。×××には艦艇番号などが入る。

なお、カレーライスだけでは不足するカルシウムと葉酸を補うため、牛乳でカルシウムを、サラダで葉酸を補充、さらにタンパク質補強に卵、ビタミンC補強に果物、を加えるなど、栄養学的に献立に工夫を加えることは、海上自衛隊での通例となっている。

護衛艦は優れた冷凍貯蔵設備(戦時には遺体安置室となる噂もある)を有し、食材はほぼ一般家庭と同程度の鮮度が保障されている。海上自衛隊カレーは、味、コク、香り、ボリュームの4拍子すべてが高レベルであり、一般の洋食屋にあるカレーの味では追従を許さない。

海上自衛隊カレーには各部隊、各艦艇で独特の隠し味がありたとえば赤ワイン、ミロ、ゆであずき、インスタントコーヒー、コカコーラ、ブルーベリージャムなどさまざまである。


実際海上自衛隊カレーの味に惹かれて海上自衛隊に入隊するものもあり、その中には自らの職種を給養として、海軍カレーの伝統継承に人生を投じるものまでいるのである。

給養員は勤務において実務経験を得ることができ、調理師、栄養士などの資格取得も可能である。海上自衛隊の給養員として勤務し、その後独立して店を構えたものもいる。

神奈川県横須賀市は、「よこすか海軍カレー」というキャッチフレーズを用いて海軍カレーの振興につとめている。これは、日本海軍横須賀鎮守府が海軍カレーを採用していたことから、カレーライスは横須賀から全国に広がったととらえたためである。

横須賀市のウェブサイトに「カレーの街よこすか」というホームページを設け、地元の商工会議所や飲食店などで「海軍割烹術参考書」などを基に海軍カレーのオリジナルレシピを再現するなど、町おこしを行なっている。

ところで脚気である。ビタミン B1の欠乏によって起こる栄養障害性の病気。ビタミン
B1は酵母,穀類の胚芽,もやし,豆類に多量にまれているので,日本人の標準的な食事をとっているかぎり,B1欠乏になることは少ない。

しかし,精米して胚芽をとり除いた白米にはB1はほとんど含まれていないので,白米ばかり食べていると
B1欠乏となる可能性がある。江戸時代の中ごろから白米食の習慣が普及したため,脚気の病因がつきとめられ,その対策がとられるようになる大正時代ころまでは,脚気は日本全国において多発し,毎年2万人以上が脚気のために死亡した
という。

昭和になってからは脚気とビタミン
B1との関係についての知識が一般にも普及し,胚芽米,七分づき米,強化米(B1添加米)などが奨励されて脚気は激減し,それによる死亡例などはほとんどみられなくなった。

ところが1973年以降,高校生(男子に多い)を中心に脚気と思われる症
例の多発が気づかれ,学会に報告されて問題となっている。

多発の理由としては,(1)白米食の普及,(2)即席食品,加工食品,保存食品の増加,(3)清涼飲料水,菓子類などからの糖質の多量摂取,(4)偏食による
B1摂取量不足,(5)激しい運動,発汗,などがあげられている。

糖質の分解にはビタミンB1が必要なので、甘いものを
多食すると欠乏症になりやすい。
(産経新聞2006・5・14及び平凡社「世界大百科事典」、ウィキぺディア等を参照)2006.05.16
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