2020年12月05日

◆官邸に乗り込んだ韓国高官の赤い影

櫻井よしこ


『週刊新潮』 2020年12月3日
日本ルネッサンス 第928回

政治が激しく動くとき、怪しい勢力が暗躍するのは世の習いだ。

11月8日に来日した韓国の国家情報院(国情院)院長、朴智元(パクチウォ
ン)氏はその典型だ。朴国情院長は4日間滞在し、まず二階俊博自民党幹事
長、次に菅義偉首相に面会した。

国情院は韓国の情報機関だ。そのトップが他国の首脳に会うとき、通常は
秘密裏に行動する。ところが今回、朴国情院長は、官邸側が裏口からの来
訪を検討したにも拘わらず、正面玄関から入り、会談後に記者団の取材に
応じてみせた(「毎日新聞」11月12日朝刊)。

朴智元氏とは何者か。11月20日の「言論テレビ」でシンクタンク「国家基
本問題研究所」研究員の西岡力氏が以下のように説明した。

氏は韓国全羅道出身で金大中元大統領の同志だった。金大中政権で観光大
臣に就任、この頃に、日本の観光業界の実力者、二階氏との親交を持った
といわれている。

朴氏は金大中の密使として北朝鮮と裏交渉を行い、2000年6月の金大中・
金正日の南北首脳会談を実現させた。そのとき金大中側が4億5000万ドル
(約450億円)の現金と5000万ドル(50億円)相当の物資を金正日に貢いだ。

西岡氏の指摘だ。

「朴智元氏の北朝鮮の交渉相手は対南工作機関の統一戦線部と見られてい
ます。金大中一行の平壌入りの映像には朴氏が金正日から耳打ちされてい
る場面があります。彼が行った工作とは、金と物資を北の39号室、つまり
金正日の対南工作の中枢機関で韓国制圧を目指して、長年凄まじい攻勢を
かけ続けた機関に送ったことです。韓国への裏切りです。後に一連の悪事
が明らかになって、有罪判決を受けて収監されました」

ちなみに二階氏は08年4月22日のブログ、「がんばってます」で、収監さ
れ、病気療養で刑の執行が停止された朴氏を見舞ったこと、運輸大臣だっ
た当時、朴氏との間で「兄弟の契り」を結んだことを書いている。

義兄弟の面目躍如か、昨年8月19日、朴氏が文喜相国会議長の特使として
来日した際、朴氏は二階氏と5時間以上会談している(「読売新聞」19年8
月21日朝刊)。

2500億円の秘密文書

朴氏は金大中の系譜でありながら文在寅大統領らとは折り合いが悪かっ
た。理由は朴氏が裏金献金工作の責任をとらされて獄に下ったとき、盧武
鉉大統領は守ってくれず、文在寅氏は朴氏の選挙地盤である全羅道を乗っ
取ろうとしたからだ。ところが今年7月、文氏はそれまでの国情院長、徐
薫氏をスライドさせ、朴氏に頭を下げて国情院長就任を要請した。

「統一日報」論説主幹の洪熒氏が説明した。

「朴智元は複雑な人生を歩んできました。彼の父もその兄弟も日本統治時
代にスターリンの指令で創られた南朝鮮労働党という共産主義革命党の党
員でした。日本の敗戦で米軍が朝鮮半島に入ると彼らは獄中にあった共産
主義者を全て解放しました。朴の家族は南朝鮮労働党の党員になりました
が、1950年に朝鮮戦争が勃発すると、父もその兄弟も韓国軍に処刑された
のです。彼は韓国を深く恨んでいると思います」

朴氏はその後米国に渡り、全斗煥政権当時、米国で事実上の亡命生活を
送っていた金大中と知り合った。その後の両者の歩みは前述した。

朴氏の国情院長任命に戻ろう。国会での人事公聴会で金大中・金正日会談
に先立って、朴氏が4億5000万ドルの現金とは別に、25億ドル(2500億
円)の対北経済協力の秘密文書に署名していたことが判明した。西岡氏の
説明だ。

「署名の筆跡は本人の自筆に間違いないと鑑定されましたが、本人は知ら
ぬ存ぜぬで通しました。文氏は疑惑に蓋をしたまま、7月末に彼を国情院
長に任命しました。そして何が起きたか。南北朝鮮関係が劇的に改善され
たのです」

たとえば9月8日、文氏が北朝鮮への災害に見舞いの手紙を出すと、4日後
に「大韓民国大統領文在寅貴下」という宛名の返事が来た。

北朝鮮は元来、大韓民国を認めず、いつも南朝鮮と呼ぶ。だから文氏はへ
りくだって、2018年9月、初めての平壌訪問では、「南側の大統領文在寅
です」と自己紹介した。だが今回、金正恩氏が「大韓民国大統領貴下」と
書いてきた。驚くべき豹変である。

9月22日、韓国の公務員が海上で北朝鮮軍に殺害され遺体を焼かれた。す
ると3日後、金正恩氏の謝罪文を朴智元氏が受け取った。

何故急変したのか。韓国情報機関のトップとしてあらゆる秘密情報を手に
する立場に立った朴氏を活用して、韓国を手玉にとれると金正恩氏が考え
たからではないのか。朴氏の動きはおよそ全て北朝鮮の利益をはかるため
と考えておくべきで、その画策は対日政策にも深刻な影響を及ぼすだろ
う。朴氏の背後の勢力と見られる北朝鮮の統一戦線部は朝鮮総連の上部機
関だ。朝鮮総連の幹部が足しげく二階氏の幹事長室に出入りしていること
は深く懸念される。

最も危険な人脈

西岡氏の話だ。

「これまでは安倍前総理が北朝鮮外交を指揮していました。菅政権下で二
階氏の発言力が強まったらどうなるか。『義兄弟』と言われる情報機関の
長とどんな話をしたのか。私には分かりませんが『朝鮮日報』は東京五輪
に合わせた日米南北朝鮮の4首脳会談を画策したと報じました」

菅首相は安倍晋三前首相と同じく、拉致問題解決を最優先し、金正恩氏と
の直接会談を考えている。朴国情院長が、金氏への太いパイプがあるとい
う触れ込みで接触してきた場合、菅首相がその話に乗る可能性はあるかも
しれない。しかし、西岡氏はそれこそ最も危険な人脈だという。

「朴氏がつながっている統一戦線部は横田めぐみさんらは死亡と言い、偽
の遺骨を出してきた機関です。日朝の交渉は統一戦線部を外して首脳同士
が会い、被害者の全員帰国に向けて直談判しなければなりません。統一戦
線部に任せれば、もう一度、死亡説を主張され、日本側が納得しないなら
合同調査委員会を作ろう、東京と平壌に連絡事務所を設置しようと言い始
めるでしょう。これまでの失敗の繰り返しになります」

経済制裁で疲弊しきった金正恩氏が統一戦線部の戦略に沿って、二階氏の
巻き込みを図り、制裁の輪を緩める脱出の道として日本に狙いを定めた可
能性がある。思惑があるため拉致問題が動く可能性もある。だが、経済支
援だけをとられ、核もミサイルも開発され、拉致被害者は戻ってこないと
いう失敗を繰り返さないために、菅首相にはしっかりしてほしい。朴智元
氏のような人物を、日本政府はもっと厳しくスクリーニングする必要があ
ろう。
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