2020年12月31日

◆「統一朝鮮の核、日本の真の危機だ」

櫻井よしこ


『週刊新潮』 2020年12月24日号
日本ルネッサンス 第931回

日本が位置する北東アジア地域はいまやミサイルの密度でいえば欧州より
も高く、世界一危険な地域である。核兵器についても同様だ。

中国、ロシア、そして北朝鮮。全て核保有国だ。

一番近い半島国家、韓国と北朝鮮が万が一にでも統一すれば、南北合わせ
て180万の軍隊が出現する。しかも核とミサイルを保有し、日本を射程に
とらえている。統一朝鮮は政治的には米国よりも中国に近くなるだろう。
南北朝鮮が反日感情を国家統一の軸のひとつにすることは容易に考えられ
る。日本に対しては今よりずっと激しい敵意を燃やすのではないか。

もしこんな状況が生まれるとしたら、日本は如何にして国民・国土を守る
のか。米国が同盟国だからといって米国に頼ってばかりでよいのか。

この種の問題提起はこれまで散々なされてきた。その度に日本が自力で国
民と国を守れるように、軍事的基盤の強化や憲法改正の必要性が強調され
た。直近の議論で言えば、イージス・アショアの見直しに関連して、わが
国は敵基地攻撃能力を持たなければならないという議論が生まれかけた。
国際社会では当然の考え方だ。しかし、その議論はいつの間にか消えてし
まったのではないか。憲法改正についても、何年も何年も、何も起きずに
今日に至っている。

そんなとき、米国防総省の副次官を務めたリチャード・ローレス氏が雑誌
「Wedge」12月号に、「核保有国の北朝鮮と日本」と題して、重要な
提案をした。日本は今すぐにでも、日本国の生き残りのために戦略の大転
換を考えなければならない、米国の中距離核戦力(INF)システムの導
入を検討せよという、生々しくも危機意識に溢れた内容である。

日本も米国も中国の脅威の増大に目を奪われがちで、北朝鮮の核・ミサイ
ル開発については警告を発しつつも、それを抑え込む決定的手立てを講ず
ることができないまま、彼らの核保有を許してしまった。

へつらい外交

その結果、北朝鮮は在日米軍のみならず、グアム、ハワイの米軍基地も弾
道ミサイルで核攻撃できる能力を持つに至った。そのため米国は西太平洋
における政治・軍事戦略の全面的見直しを迫られていると、ローレス氏は
指摘する。

氏はまた、南北朝鮮統一のシナリオと、その影響を日本も米国も真剣に考
えよと警告する。日本にいてもはっきりと韓国政治の混乱は見てとれる。
文在寅大統領は、南北統一を実現するためなら米韓同盟も捨てかねず、朝
鮮戦争で韓国を守った米国よりも中国に接近を図っているのは明らかだ。

北朝鮮に対しては信じ難い程に卑屈で従属的だ。今年6月16日、北朝鮮の
金与正氏が南北朝鮮の友好の象徴である南北連絡事務所を爆破し、韓国側
を「ゴミども」「駄犬」などと罵ったとき、文氏は南北関係の溝を埋める
べく国家情報院長の徐薫氏を送ると申し出た。北朝鮮側はその申し出をピ
シャリと拒否した。すると文氏は北朝鮮の回し者と言っていい朴智元氏を
国情院長に任命したのである。

朴智元氏はまさに北朝鮮の工作機関、統一戦線部と一心同体の人物であ
る。その危険な人物を、文氏が韓国の国情院長に任命したことは、韓国を
北朝鮮に売り渡したに等しい。民主主義国の旗を掲げながら、文氏が実際
に行っていることは専制独裁者の金正恩氏への従属外交でしかない。中国
の習近平国家主席に対するへつらい外交も同じである。

南北関係では、北朝鮮に多くの選択肢がある一方で、韓国には相手を宥
(なだ)めるしか手立てがない。韓国の弱さが北朝鮮の挑発を誘い、北朝鮮
は核の切り札を使って韓国を意のままに操る。文政権は明らかに米韓同盟
維持に熱心ではない。むしろ破棄を望んでいると見て差しつかえないだろ
う。文氏は恐らくその先に、北朝鮮に物心両面で尽くして民族統一を成し
遂げたいと願っている。

韓国が米国と共に、北朝鮮の核・ミサイル放棄を迫ることなど考えられな
い。北朝鮮は核を絶対に諦めない。結果、南北朝鮮は統一し、北朝鮮の核
技術に韓国の経済力と技術力が加わって、核を保有する人口7500万の統一
朝鮮が誕生するのは避けられないとローレス氏は言っているのだ。

氏はまた、日本はこの迫り来る危機を察知して、準備せよと言っている。
誰しもが日本が早急に手をつけるべきことは日米同盟の強化だと考える。
ローレス氏は、日米関係の緊密さ、日米同盟には微塵の揺らぎもないこと
を、南北朝鮮及び中国にきちんと見せていくことの重要性を説く。

具体的には、日本は国内に米国の中距離核ミサイルの配備、INFシステ
ムの導入を求めるべきだというのだ。ミサイルの発射は日米の合意による
とし、双方は単独では行動しないことも明確に定めるとする。

核の使用に踏み切る可能性

これは冷戦時代、米欧がソ連に対峙するために取った政策そのものだ。ソ
連が欧州諸国を狙う中距離核を突然配備したのに対し、西ドイツのシュ
ミット首相が米国の中距離核ミサイルを欧州に配備してほしいと要望し
た。当時中距離核ミサイルを保有していなかった米国は大急ぎで製造し、
配備し、ソ連に抑止をかけた。結論を言えば米ソはその後、核軍縮交渉に
入り、両国ともに中距離核ミサイルを全廃した。いま世界で最も多く中距
離核ミサイルを保有しているのは中国である。

中国及び北朝鮮の核ミサイルは間違いなく日本を狙っている。とりわけ北
朝鮮の場合、その挑発行動がエスカレーションを招き、歯止めのきかない
行動の連鎖によって核の使用に踏み切る可能性があると、ローレス氏は指
摘する。その場合、日本には国民と国を守る力はない。ならば米国と共同
で守るしか解決法はないという考えの先に、INFシステム導入という具
体案が提示されたのである。

ローレス提案をどう見るか。氏は北朝鮮の困窮極まる実態や、日本が一文
字の憲法改正もできていないことには触れていない。

北朝鮮の金正恩体制は経済的に追い詰められ危機に直面している。彼が文
大統領を従えて南北統一を主導することは容易ではない。中国と米国がど
う動くか。双方共、黙って見ていることはないだろう。しかし、長期的に
見れば、朝鮮半島が中国の影響下に引き摺りこまれつつあるのは否定でき
ない。

他方、日本は北朝鮮のみならず、中国の脅威に関しても当面日米同盟に依
拠するしかない。その場合も、しかし、今のままの日本を米国は同盟国と
して受け入れ続けるだろうか。日米豪印4か国の協力体制(クアッド)を
北大西洋条約機構のような軍事同盟にせよとの声もある。だが、憲法改正
もできていない日本にそんな議論は絵に描いた餅だ。日本の課題ばかりを
痛感させられたローレス論文だった。

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