2021年02月24日

◆【変見自在】朝日の他人こと

高山 正之
 

 新聞社の社長はだいたい新聞記者上がりがなる。

 そうでないのに産経新聞の鹿内(しかない)信隆がいた。台湾の知識人を
皆殺しにした蔣介石を褒め称え、「南京大虐殺はあった」と語らせた『蒋
介石秘録』まで出した。

 その点、記者上がりは社会の木鐸意識がある分、彼よりはかなりましだ。

 90年代末に朝日の社長になった箱島信一も経済部出身で、まあまともな
方の一人だった。

 彼が就任して2カ月。いつものように自社の新聞を開いて仰天した。

 一面トップに東京高検の検事長、則定衡(のりさだまもる)が銀座のクラ
ブホステスと2度も公費で浮気出張したこと、彼女を身籠らせて知り合い
の業者に処置させたことなどが書かれていた。

 高検検事長と言えば次は検事総長にもなろうかというポストだ。

 その不行跡には目を剝くが、箱島が仰天したのはそっちではなく、記事
の書き出し部分にあった。

 そこには「今日発売予定の月刊誌『噂の真相』によると」とあった。

 出たばかりの、それも「現代のカストリ誌」風に言われる雑誌の記事を
そのまま載せるとは一体どういう料簡か。朝日の名が泣くと青筋3本も立
てた。

 岡留安則の名誉のために言えば「噂の真相」は並みの雑誌じゃあない。

 彼の取材に付き合ったことがある。銀座のお店に入るとママも女の子も
寄ってくる。

 他愛ないあんな話こんな話を聞いて小一時間で次の店に行く。

 そこもわっと女の子が寄ってくる。

 彼はそんなネタを掘り下げ、裏を取っていく。大方は各ページの欄外1
行記事として載る。

 そうやって数多のネタを掘っていけば、ときに則定みたいな金脈にもぶ
つかる。裏を取るのに1年かかるネタもあった。

 それにネタ元がバレればお店を潰しかねない。そこまで店にも女の子に
も信用され、愛される岡留を羨ましく思ったものだ。

 箱島も思いは同じだったと思う。カストリ誌をただコピペするなど論外
だ。ネタは自分の足で取ってこいと発破をかけた。

 ただ朝日の記者の9割9分は取材無精だ。歩くことも裏を取ることもな
い。それでコピペが駄目なら尤もらしく作るしかない。

 かくて本田雅和は「安倍晋三と中川昭一がNHKに圧力をかけて慰安婦
番組の内容を改変させた」という話を作り上げた。

 NHKは赤い。魚心で平仄(ひょうそく)を合わせると思ったものだが、
本田の話には穴が多すぎた。NHKも見捨てて全否定に回った。

 箱島は朝日が飼い慣らしてきた学者を急ぎ搔き集め、第三者が一人もい
ない第三者委員会を設置。捏造の原因は悪意でなく、本田の取材不足と結
論させた。ほんの微罪にした。

 ホットする暇はなかった。今度は長野支局の西山某記者と本社政治部の
曽我豪次長が「田中康夫と亀井静香が長野県下で会談を持ち新党立ち上げ
を話し合った」と報じた

 これも取材をしないで書いた偽り記事だった。朝日は支局員だけを解雇
にして幕引きをした。

 箱島は一時の怒りで記者に自力取材を求めたことを深く悔いた。

 取材に不慣れな者への無理強いが記事捏造を生んだのなら、それを防ぐ
にはコピペ容認しかなかった。涙の決断だった。

 先日の朝日の社説は「菅首相 人ごとではない」の見出しで、東北新社
に勤める首相の息子が所管の総務省役人を接待したことを取り上げていた。

 「息子はもう別人格」と逃げる首相を厳しく糾弾するのはいいが、ただ
糾弾ネタがすべて「週刊文春によると」だった。

 社説も週刊誌コピペとは笑えるが、もう一つ。

 箱島が捏造記事でクビなったあとの秋山耿太郎時代。彼の息子が大麻現
行犯で捕まった。

 秋山は「息子は別人格」と傲然言い放って辞任も謝罪もしなかった。

 「他人(ひと)ごとではない」とはこっちが言いたい。



出典:『週刊新潮』 令和3年(2021)2月25日号

    【変見自在】朝日の他人ごと

著者:高山 正之
『週刊新潮』 令和3年2月25日号


松本市 久保田 康文さん採録 

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