2007年09月08日

◆父子2代「2年首相」

                         渡部亮次郎

福田康夫を担ぎ上げて安倍を斬ってしまおうという"陰謀“は消滅していない。だが、肝腎の康夫が「迷惑千万!」といったっきり頑として「聞く耳持たない」そうだ。

先輩の古澤襄さん(元共同通信社常務理事)によると、よく分かる。

<与党の関係者と話をすると福田康夫元官房長官の待望論が根強い。その裏には安倍首相では小沢攻勢を凌ぎ切れないという危機感がある。あと2年間は福田政権で繋ぎ、その後は思い切った布陣で総選挙を戦うのだという。

だが安倍首相で凌ぎ切れないものが、福田首相で凌げるものだろうか。仮に凌いだとしても、総選挙は誰を担いで戦うのであろうか。極めてプリミテイブな疑問だが、誰も答えてくれない。

こんなことでは、当の福田氏が「迷惑千万!」と言って一笑に付すのではないか。2年間のリリーフ投手なんて軽く見られたものだと不快感を持つに違いない。もともとが誇高き男である>。

康夫は私と同じ歳。既に71歳。父親赳夫の総理就任と同じ歳になった。あの時康夫は、しばらくしておっとり刀で丸善石油の課長を棄てて総理首席秘書官になった。既にNHK国際局副部長から園田直外務大臣の秘書官になっていた私は初めて彼と顔を合わせた。

おかしな出合だった。赳夫が田中角栄と総裁のポストを争った「角福戦争」の1971−72年ごろ、私は赳夫番記者だったが、1度も康夫の顔は見ていない。政界に入る事は無いと思っていた。

赳夫の面倒を見ていたのは横手家へ養子に出た次男征夫(いくを)であり、彼が親父の後継者だろうと周囲は見ていた。それが、実際、親父が総理大臣になったら、突然、康夫が首席秘書官として割り込んできたからみんな驚いた。

実際のところ、弟の横手征夫は慨嘆したと聞いた。それでは赳夫の跡継ぎは康夫、征夫は参院議員を務めている叔父さんの後継者か、と噂しているうちに征夫は癌で急死してしまった。


赳夫が事務秘書官として最後まで使ったのは小和田亘(おわだ ひさし)である。1971年、佐藤栄作内閣の外務大臣になったとき、外務省かr秘書官として指出されたのが小和田。ご存知雅子妃のお父上である。現在国際司法裁判所判事。

赳夫が総理大臣になったときも、外務担当の秘書官は当然、小和田となった。当時小和田は宮内庁御用掛から東大教養部の講師に出ていたが、雅子は征夫の家族と交流していて、康夫の家族は知らない。

康夫の知らない決定的な事実があった。親父赳夫の任期に「2年」という条件がついていたこと。例の「大福密約」である。

これは福田も大平正芳も田中角栄の要請に応えて三木武夫政権を倒した時、どちらが後継者になるか決めていなかったことに端を発する。そこで福田側から園田直、大平側から鈴木善幸、行事役として保利茂が立会っての両者会談で取り決めたもので、文書になっている。

しかし概要は福田の総理、総裁としての任期は2年をであり、その間、大平は幹事長として補佐するの1点に尽きる。

記者として園田をよく知っていた私はもちろん数人の記者たちも園田から知らされて知っていた。だが赳夫はこのことを誰にも言えなかった。男として当然である。「俺な、70過ぎてやっと総理になったけど任期は2年だけなんだ」とは女房にも言えないだろう。

しかし、大平は密約の履行を迫るものの福田は予定通り約束が秘密である事をいいことに「反故」を決め込み、昭和53(1978)年11月1日告示の自民党総裁選挙予備選挙にあえて立候補したのである。

マスコミは福田の圧勝を予測したが大平が110票差で勝った。勝因は福田の「密約反故」に対する角栄の怒りであった。田中派秘書軍団を軍師後藤田に預けて東京選挙区を「絨毯爆撃」。エリート意識に凝り固まり、手胡坐を組んでいた福田派の敗北は自明の理だった?

このときのNHKの大平番は今参院議員の浅野勝人である。「なにツ
福田が立つツ? 話が違うじゃないかツ」と大平は突っ立ち般若の形相になった」と私に教えてくれた。

敗れたと知ったとき、赳夫は「天の声にも時には変な声がある」との迷文句を吐いて本選挙を辞退、総理官邸を去った。康夫も静かにいなくなった。

あれは29年前。何がなんだかわからないうちに官邸を去らざるを得なかった屈辱。それが今度は自分が「2年」という枠をはめられ総理になれといわれても「親父の屈辱を俺にも呑めというのか」の心境では無いだろうか。康夫への同情しきりだ。文中敬称略。
                      2007・09・08
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