2007年09月26日

◆巴里だより・微笑みの天使

 
  岩本宏紀(在仏)

教会の正面玄関にはまじめな顔をした聖人の像が並んでいるのが常だ。ところがランス(Reims 巴里の東、150Km)の大聖堂はようすが違う。

聖人に混じって天使がふたり立っている。その表情が実にいい。小首をかしげて微笑んでいる。まるでいらっしゃいと語りかけているようだ。

三度目にここを訪れた時のこと。右側の天使を眺めていたら、ミサにやってきたスーツ姿の地元のマダムが話しかけてきた。

「ボンジュール、ムッシュウ。微笑みの天使として有名なのは左のほうですよ。第二次大戦中ドイツ軍に壊されてばらばらになったけれど、破片を拾い上げつなぎ合わせてあのように復元したのです。ご覧なさい、首が切られたような跡があるでしょう」

確かに至るところにひび割れが見える。翼には補強用の鉄材が埋め込んであり、痛々しい。幸い顔の損傷は浅く、とても穏やかなやさしい表情をしている。

久し振りに今日、ランスに行ってきた。大聖堂の大きさ、外観の荘厳さ、ステンドグランスの迫力、そして見上げるほど高い天井にはたしかに圧倒される。けれどもぼくは、二人の天使を眺めているのが一番好きだ。

石でできていることを忘れさせるほど温かいこの顔をみていると、自分の表情までゆるんでくるのがわかる。(了)


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