岩本宏紀(在仏)
オランダのこどもたちはクリスマスよりも早くプレゼントがもらえる。シント・二クラウスと黒人の召使、ブラック・ピーターが、12月はじめにスペインからやって来るのだ。
馬に乗って町を歩き回り、大きなノートにこどもの名前を書きとめていく。いい子はプレゼントがもらえ、悪い子はスペインに連れて行かれるので、この時期大体こどもは親の言うことをきいてくれる。
こどもはグラスに入った水と生の人参を、窓際(まどぎわ)に置いて寝る。シント・二クラウスの馬のためだ。寝静まると、おかあさんはその水を飲むか捨てる。そして人参を齧(かじ)る。うっかり忘れると、翌朝冷汗をかくことになる。
「どうしてゆうべはシント・二クラウスが来なかったの?」と追及されるからだ。
いよいよ当日、玄関の呼び鈴が鳴る。けれどもすぐにはドアを開けない約束になっている。
はやる気持ちを抑えてしばらく待ったあとドアを開けると、そこにはプレゼントの入った袋が置いてあり、子供たちの歓声があがるという具合だ。
ぼくも含めて日本人のおとうさんは、この日は忙しい。感づかれないようにプレゼントを車に積んで出勤し、頃合い(ころあい)を見計らって家に帰り、プレゼントを玄関に置いて呼び鈴を鳴らす。
こどもに見つからないように急いで退散し、会社に戻ってまた仕事。夜は早めに帰宅し、素知らぬ顔で「シント・二クラウスからプレゼントはもらえたかな?」などと白々しい演技をしなければならない。
演劇部を経験したぼくはともかく、一般的なおとうさんにとっては、結構負担だったのではないだろうか。
当時小学生だった娘二人も今ではすっかり大人。先日彼女たちとこの話題になった。水と人参を信じてはいたが、「人参を齧ったあとが馬にしては小さいな」「アパートは8階なのに馬はどうやって登ってくるのだろう」と素朴な疑問を感じていたという。懐かしい思い出である。(完)
2007年12月03日
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