2008年03月09日

◆「あたる」前に「かする」

            石岡 荘十

ベテラン俳優若林豪さん(68)が5日、倒れた。若林さんは小林幸子特
別公演「天勝物語」で小林扮する天勝の師匠松旭斎天一役で、今月1日
から名古屋の御園座に出演していた。

しかし、若林さんの体調は思わしくなく、「セリフもよく入っていなか
った」という。この日も昼の部に出演したが、「右手がしびれる」など
の症状が出て、本番を終了直後に病院に向かった。

医師の診察を受けて「左側慢性硬膜下血腫」と診断され、緊急手術が行
われた。

病名「慢性硬膜下血腫」というのは、脳を覆っている硬膜とその下の脳
との隙間に血(血腫)が貯まる病気で、血腫が脳を圧迫し「様々な症状」
がみられる。

http://square.umin.ac.jp/neuroinf/patient/37.html

病名は違うが同じ脳疾患で、脳の血管がつまったり、破れたりして、そ
の先の細胞に栄養が届かなくなる「脳卒中」の場合も、

・片方の手足がしびれる、

・持っているものをポロリと落とす、

・思っていることが言葉に出てこない、

・ろれつがまわらなくなる---などなど、12項目の「危険な前ぶれ」があ
るという(東京都厚生会中央病院 高木誠院長)。

昔から、脳卒中で倒れることを業界では「あたる」といい、一過性の前
ぶれを「かする」という。つまり「あたる」前に必ず「かする」前兆が
ある。

したがってこの段階で、“適切な”治療を受けていれば、頭蓋骨を開く
というような恐ろしい経験をしなくとも済むかもしれないのだ。

話を若林さんの件に戻す。


新聞やテレビの報道を総合すると、座長の小林幸子さん(54)は、「2
日ほど前、若林さんが小林の楽屋に顔を出し、セリフが引っかかっちゃ
ってゴメンネと謝りに来た。

その時は、『長いセリフで大変でしょう』ってお話しはしました。それ
が、まさかこの前兆だったと思うと言葉もありません」と話したという。
テレビの芸能ニュースでは「右肩がなんとなく下がっているような気が
した」と語っている。

このやり取りから判断すると、68歳の本人も54歳の座長もいい年、つま
り心臓疾患や脳疾患の適齢期だというのに、これが重大な病気の前ぶれ
だと判断する知識をまったく持ち合わせていなかった。

したがって、舞台を降りてでも病院に行くという発想には行き着かなか
った。「舞台に穴を開けられないと頑張ったのでは」と有名な仲間の芸
能人が若林さんの芸人根性を褒めたつもりで感想を洩らしていたが、バ
カ丸出しだ。

もし「あるいは---」と感じながら、無理を通そうとしていたのなら、この年代にとって人生で何が一番大切なことか、プライオリティーについて発想の転換が出来ていなかったということだろう。

慢性硬膜血腫は通常、高齢で男性に多く見られる。一般的には軽微な頭
部外傷(時には外傷の事実がはっきりしない場合も少なくない)の後の
慢性期(3週間以降)に頭痛、片麻痺(歩行障害)、精神症状(認知症)などで発症する。

高齢社会のなかで症例は増加する傾向にあり、急激な脳卒中のようなも
のもあれば,頭痛,精神症状,片麻痺をはじめ多彩な症状を呈する、と
されている。

慢性硬膜血腫の年間発生額度は人口10万人に対して1〜2人とされている
が、脳卒中で倒れる人は年間40〜50万人。死者数は癌、心臓疾患につい
で多く、13万人に上っている。

変な言い方だが、ポックリいければまだいい方で、166万人が半身マヒや言語障害という後遺症で苦しんでいる。(平成17年度 厚生労働省患者調査)。

救いは、心臓も脳も「あたる」前に「かする」、これだ。振返ると、思
った以上に多くの高齢者が膝を叩くに違いない。さてあなたは?
20080307             
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