2008年04月29日

◆いちょうはやちゃお

                    渡部亮次郎

わがPCはいちょうと打つと公孫樹と出る。原産地中国でこう呼ぶことから、こうなったようだが、アメリカのマイクロソフト社の
発行している大百科事典「エンカルタ」は、中国での別の呼び方「やちゃお」の訛説を紹介している。

東京湾岸の猿江恩賜公園の公孫樹は雄雌100本近いが、花の時期が終わって散歩道を黄色に埋めて、掃除の人たちを煩わしている。

平凡社の世界大百科事典は古すぎて最近の事はさっぱり分からないが、古い事は正確に書いてあるから便利だ。

<中国原産で,現在,浙江省にわずかに自生するだけといわれる。観音像のある所にしばしば老樹があるので,観音像の渡来とともに
僧侶によって日本に持ちこまれたという説がある。

1690‐92年(元禄3‐5)滞日したドイツ人ケンペルによって,はじめてヨーロッパに紹介され,1730年ごろには生樹がヨーロッパに導入された。それ以後,世界の温帯地域に栽植されるようになったといわれる。>。

明治の開国と共に来日した英国の植物学者は中国にしかないと思ってきたところ、日本でも全国各地に植えられているのを見て驚いたという記事をどこかで読んだことがある。

<雌雄異株で,一般に古い雄株では枝が挙手したように上向きに伸び,雌株では水平に張る傾向にある。雌株では枝もたわわに種子がつくことがあるので,その重みで枝が水平になることもあるかもしれない。

ときに高さ30m,周囲10mに達する巨木となり,各地で天然記念物に指定されている。青森県十和田湖町法量の善正寺跡のイチョウ(周囲12m,高さ27m),岩手県久慈市長泉寺の大イチョウ(周囲14m),

岐阜県高山市国分寺の大イチョウ(周囲10m),宮崎県高千穂町下野八幡宮のイチョウ(周囲9m,高さ36m)などが巨樹として知られている。>今ではもっと成長しただろう。

問題は「やちやお」のこと。若い人々には苦手な文語文だが、たまには頭の体操をして下さい。

<『大言海』序文が語るいちょうの語源探求。

国語辞書『大言海』5冊は、著者文彦の死後、兄の大槻如電のほか、関根正直、新村出らの指導協力により、1932〜37年(昭和7〜12)に刊行された。

この辞書の特色は、出典をしめし、独特の語源解釈をこころみていることで、ここに紹介した銀杏(いちょう)の語源についての探索にもその本領がよく出ている。>

以下[出典]大槻文彦『大言海』、冨山房、1932年。による。

大槻文彦「大言海の編纂に当たりて」

銀杏(ぎんなん)の成る「いちよう」といふ樹あり。この語の語原、並(ならび)に仮名遣は、難解のものとして、語学家の脳を悩ましむるものにて、種種の語原説あり。

この語の最も古く物に見えたるは、一条禅閤(ぜんこう:兼良公、文明十三年八十歳にて薨(こう)ず)の尺素往来に、「銀杏(イチヤウ)」とある、是れなるべし。

文安の下学集にも、「銀杏異名鴨脚(アフキヤク)、葉形、鴨脚(カモノアシ)の如し」とあり。字音の語の如く思はるれど、如何(いか)なる文字か知られず。

黒川春村大人の硯鼠漫筆(けんそまんぴつ)に「唐音、銀杏の転ならむ」などあれど、心服せられず。

降りて、元禄の合類節用集に至りて、「銀杏、鴨脚子、」と見えたれど、是れも如何なる字音なるか解せられず、正徳の和漢三才図会(わかんさんさいずえ)に至りて、「銀杏(ギンナン)、鴨脚子(イチエフ)、俗云、一葉(イチエフ)」とあり。始めて、一葉の字音なること見えたり。

然(しか)れども、一葉の何の義なるか、不審深かりき。加茂真淵(かものまぶち)大人の冠辞考、「ちちのみの」の条にも、「いてふ」と見ゆ。仮名遣は合類節用集か、三才図会かに拠られたるものならむか。語原は説かれてあらず。

さて和訓栞(わくんのしおり)の後編の出でたるを見れば(明治後に出版せらる)、「いてふ、一葉の義なり、「ちえ」反「て」なり、各一葉づつ別れて叢生(そうせい)せり、因(よっ)て名とす」と、始めて解釈あるを見たり。

十分に了解せられざれど、外に拠るべき説もなければ、余が曩(さき)に作れる辞書「言海」には、姑(しば)らくこれに従ひて「いてふ」としておきたり。

然れども、一葉づつ別るといふこと、衆木皆然り、別に語原あるべしと考へ居たりしこと、三十年来なりき。  

然るに、二、三年前、支那(しな)に行きて帰りし人の、偶然の談に『己(わ)れ支那の内地を旅行せし時、銀杏の樹の下に立寄り、路案内する支那人に樹名を問ひしに「やちやお」と答へたり。

我が邦の「いちよう」と声似たらずや』と語れるを聞きて、手を拍(う)ちて調べたるに、鴨脚の字の今の支那音は「やちやお」なり。

(支那にては、この樹を公孫樹と云ひ、又、鴨脚とも云ふ)是(ここ)に於て、案ずるに、この樹、我が邦に野生なし、巨大なるものもあれど、樹齢七百年程なるを限りとす。

されば鎌倉時代、禅宗始めて支那より伝はりし頃、彼我の禅僧、相往来せり。その頃、実の銀杏を持ち渡りたる者ありて、植ゑたるにて、その時の鴨脚の宋音「いちやう」(今の支那音「やちやお」はその変なり)なりしものと知り得たり。

その傍証は、実の銀杏を「ぎんあん」(音便にて、ぎんなん)と云ふも、宋音なり。実の名、宋音なれば、樹の名の宋音なるべきは、思ひ半(なかば)に過ぐ。

畢竟(ひっきょう)するに、尺素往来の「いちやう」の訓、正しきなり。是れにて、三十年来の疑ひ釈然たり。因りて、この樹名の語原は、鴨脚の宋音にて、仮名遣は「いちやう」なりと定むることを得たり。 Microsoft(R) Encarta(R) 2006.

これについて世界大百科事典の表現は以下の通り。

<中国名は銀杏,公孫樹または鴨脚樹(ヤーチアオシユー)で,後者は葉形に由来する。これを日本でヤーチャオと聞き,さらにイーチャオと転訛(てんか),後にイチョウとなったといわれる。

また属の学名 Ginkgo は銀杏の音読みを間違って記してしまったもの>。とある。Ginkyoとすべきものだが今更直らない。
2008・04・28
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