2019年04月09日

◆一強全弱”では「安倍4選」しかない

杉浦 正章

 無風政局をあえて展望する

 来年のことを言うと鬼が笑うが、2年半先のことを言っても、言う人によっては笑わない。2年半先のこととは、首相・安倍晋三の自民党総裁4選があるかどうかだが、病気や事故または本人の辞退がない限り100%4選だ。「理由は?」などと聞かれても、理由もへったくれもない。鋭くものごとの本質をつかむ心の働きである第六勘がそうささやくのだ。本物の政治記者とは第六勘の冴えがあるかどうかなのだ。

 機を見るに敏な政治家も第六勘でしゃべっている者が多い。その筆頭は自民党幹事長・二階俊博であろう。二階は3月12日に安倍4選について「党内外や海外からの支援もある。今の活躍からすれば十分あり得る」と宣うた。「党内外」はいいにしても「海外」とは誰を指すのか。発言からすると海外の政治家が日本の自民党の党則を知っていて、「安倍4選支持」と言明しているかのようだが、いくら安倍と親しいからと言ってトランプやプーチンが総裁選など知るわけもない。だいたい総裁選で「支援」などしたら内政干渉もいいところだ。二階はどうも言葉足らずのところがある。

 なぜまだ2年半もあるのに4選かというと、二階にしてみれば、過去に安倍3選を実現するために党則で2期までだった任期を3期までに伸ばし、3選への道筋を付けた経緯があるからだろう。柳の下の二匹目のドジョウがいると見ているのだろう。3選実現の論功行賞第1位になるにはそれくらいのことをやらないと覚えめでたくならないのだ。それに加えて4選への反対論者を浮き彫りにして、攻撃対象とする意図がありありとうかがえる。総裁候補払底と書けば岸田文男には失礼となるが、岸田は周りに策師がいないためか、全くウンもスンもない状況。いずれはライオンのように吠えたいのだろうが、時にあらずと声もたてずだ。

 岸田は去年の10月に宏池会を古賀誠から受け継いだ。宏池会といえば池田勇人の流れをくむ名門派閥であり、宏池会出身の首相は池田のほか大平正芳,鈴木善幸,宮沢喜一と 4人もいる。しかし「居候三杯目にはそっと出し」ではないが、5人目ともなると本当にヤワになってしまうのだろうか。いやいや、岸田をヤワと呼んでは可哀想だ。時来たりなばきっと勝負に出ると思うべきだろう。

 安倍は3月14日に「自民党の規約は3選までで、4選は禁じられている。自民党総裁としてこのルールに従うのは当然だ」と発言した。総理総裁の発言だから額面通りに受け取るべきであろうが、筆者は長年の政局取材からみて、「政局は党則を金科玉条にはしない」と言っておきたい。政治とは生き物であり、全てが規則通りに動くものではないのだ。ましてや党内で安倍4選の見方が圧倒的に強い状況である。党則など政治のご都合で何度変更になったか知れない。

 問題はあと2年半のうちに後継の有力者が突然現れるかどうかだが、なかなか難しいと思う。要するに党内情勢は“一強全弱”が実態なのだ。かつて三木武夫は「男は1回勝負する」と佐藤栄作の3選阻止に動いたが、失敗した。岸田は三木ほど露骨ではない。むしろ、言動のはしはしから禅譲路線も選択の一つと考えているフシがうかがえる。同時に岸田派内には安倍が憲法改正に打って出るのを待つべきだとの戦術論もある。

岸田は外相時代に、憲法9条の改正について「今、9条の改正は考えない」と強調している。しかし自民党の本音は「せめて9条への自衛隊明記だけは実施したい」(桜田義孝五輪相)というところにあるのだろう。したがって、安倍が本格的に改憲を目指す方針を表明すれば、岸田の格好の論戦対象になる可能性が強い。改憲問題は4選の最重要テーマとなりうるだろう。

しかし、安倍は党内が2分するのを避けるため、ここはあえて波風を立てずに、改憲を4選後に政権の総仕上げとしてやるべきであろう。自民党は既に4項目の具体的な憲法改正案を党大会で示し「実現をめざす」との方針を採択している。 

若手では小泉進次郎が、比較的良好に育っているが、38歳では総裁候補には早すぎる。ケネディより若い。まだまだ雑巾がけをする必要がある。本人も焦らないことだ。今のところ将来の政権移譲の構図をあえて展望すれば安倍晋三→岸田文雄→小泉進次郎と言ったところだが、政界は寸前暗黒。何が起きるか分からない。

2019年03月01日

◆トランプ「破恋」の背景に「焦り」

杉浦 正章


米朝両首脳が“誤算”競争

米朝首脳会談が事実上の物別れになった背景を探れば、米朝双方に誤算が
存在したことが分かる。とりわけ北朝鮮はトランプ頼りで“誤算の山”を築
いた実態が濃厚である。トランプは自らの「ロシア疑惑」から目をそらそ
うとしたようだが、外交を性急に自らの保全に使うという馬脚が現れてし
まったようだ。2020年の大統領選再選を意識しすぎた結果が裏目となって
出たのである。

まず北の最大の誤算は経済制裁の完全なる撤回を求めたことだろう。極め
て高い要求をした背景には、どこから情報を得たのかアメリカが撤回に応
じるという情報と判断が存在していたようだ。金正恩は、寧辺(ニョン
ビョン)、にある核施設を廃棄すれば、その見返りに制裁の全面解除が得
られるという判断だったのだ。

しかし、国務長官マイク・ポンペイオの判断は寧辺の核施設だけでは十分
ではないというものであり、かねてから大統領トランプに忠告していた。
ポンペイオ自身も「寧辺の核施設は重要だが、ミサイルや核弾頭などの兵
器システムが残る」と述べている。東倉里(トンチャリ)豊渓里(プンゲ
リ)などにも核・ミサイル施設があるとみているのだ。

米側が金正恩に示した見返りは@経済協力A平壌への連絡事務所の設置B朝
鮮戦争の終結宣言C経済制裁の緩和ーなどであった。しかし金正恩は象徴
的な終戦宣言ではなく、国連制裁の実質的な緩和、エネルギー、金融分野
での制裁解除などへと要求を膨らませた。これらの課題は7回に亘る実務
者協議でも溝が埋まらなかったものであり、首脳会談なら決着が可能とみ
た金正恩の判断は甘いと言わざるを得まい。

北朝鮮が経済制裁の完全なる削除という極めて高いハードルを可能とみた
のは寧辺を取引材料に使えば、米国が応じるという判断があったようだ。
北朝鮮にとってもはや不要となった施設を高く売りつけようとしたのである。

トランプが「金正恩氏が寧辺の核施設を廃棄すると言ったが、公にしてい
ない核施設を廃棄しない限り、非核化ではなく、核保有を認めた上での核
軍縮交渉になってしまう」と述べたのはもっともである。さすがのトラン
プも「その手は桑名」なのだ。

核拡散防止条約(NPT)は1970年に締結され、アメリカ合衆国、ロシア、
イギリス、フランス、中華人民共和国の5か国以外の核兵器の保有を禁止
した条約である。

北朝鮮は核兵器開発疑惑の指摘と査察要求に反発して1993年に脱退を表明
し、翌1994年にも国際原子力機関(IAEA)からの脱退を表明したことで国
連安保理が北朝鮮への制裁を検討する事態となった。その後、北朝鮮が
NPTにとどまることで米朝が合意している。

しかし、北朝鮮はNPTなどどこ吹く風とばかりに既に核爆弾を30個保有し
ているとみられており、もう核製造施設は事実上不要となっている。これ
らの施設を廃棄したところで北が核保有国であるという、戦略的な位置づ
けに変化は生じない。不要な施設を廃棄して、経済制裁が解除されれば金
正恩にとってこんなにプラスになることはないのだ。

しかし、世界の目は厳しい。こうした北の対応がますます、危険な国家と
しての北の位置づけを確たるものにするのであって、北の孤立化は一層深
まるだけだ。

一方韓国の文在寅政権は米朝合意を前提に@ソウルでの南北首脳会談開催A
北への経済協力事業の開始ーなど意気込んでいたが、時期尚早であった。
独自に行えば韓国が極東において孤立するだけであり、当分無理であろう。

今回の交渉で目立ったのはトランプ外交の付け焼き刃的な手法である。ト
ランプは金正恩と「恋に落ちた」と発言したが、恋した相手は、一枚上手
で、その結果は事実上の「破恋」としかいいようがない。

相手からは制裁の全面解除という不可能な要求を突きつけられては、恋に
落ちるどころではない。重要な外交課題に対してトランプの手法は「軽い」
のである。そもそも非核化の交渉は10年がかりを覚悟すべきものであり、
自らの手柄を意識してはいけない。

2019年02月22日

◆日韓は「無礼」がこだまする

                         杉浦 正章


度しがたい韓国政府・議会の反日狂想曲

どこまで感情的な国家なのだろうか。歴史的には中国から度々蹂躙され、
日本に併合され、感情的対応だけが対外交渉の武器として醸成されてし
まったのだろうか。それにしてもここに来て何でまた反日なのか。

韓国政府・議会による反日二重奏である。冷静であるべきマスコミまで
が、反日機運の盛り上げに余念がない。かくなる上は日本を失う韓国と、
韓国を失う日本とどちらが痛痒を感ずるか我慢比べをしてみてはどうか。

反日急先鋒の国会議長文喜相はかつて大統領文在寅の特使として来日して
おり首相安倍晋三とも会談している。知日派なのだ。

極東情勢は27日と28日にベトナムで開かれる米朝首脳会談を軸に、ダイナ
ミックな展開も予想されるところである。そのような国際情勢などどこ吹
く風と、文喜相は人相風体にふさわしい吠え方をした。インタビューで、
「天皇陛下が元慰安婦に直接謝罪すれば慰安婦問題は解決できる」と発
言、日本政府が反発したのに対して「謝罪する側が謝罪せず、私に謝罪し
ろとは何事か。盗っ人たけだけしい」と開き直ったのだ。

「盗人たけだけしい」とは、究極の国家批判であり、昔なら政争勃発だ。
そもそも今上天皇が、慰安婦問題に何らかの関わりをしたなどと言うこと
はあり得ない。

日本は1965年の日韓基本条約において無償で3億ドル、有償で2億ドル、民
間借款で3億ドルを支払っている。合計して8億ドルである。8億ドルとい
う額は当時の韓国の国家予算の2.3倍であり、いかに高額であったかが分
かる。戦後の韓国経済が立ち直ったのはいうまでもなく賠償金のおかげで
ある。

要するに謝りすぎるほど謝ってきたのだ。しかし、冷静かつ客観的に外交
を報ずるべき韓国のマスコミも朝鮮日報が「経済報復をちらつかせ、連日
韓国を脅かす日本」と報ずるなど被害妄想的な扇動記事を掲載し続ける。

これに対して自民党内には対韓強硬論も台頭している。自民党外交部会で
は@韓国に対する防衛関連物品の輸出の規制A大量殺傷兵器への転用の可能
性がある物品や材料の輸出に関し、韓国を「ブラックリスト」に含めるB
韓国の半導体産業に欠かせないフッ化水素などの輸出を引き続き制限す
るーなどが検討されているようだ。

一方、外相河野太郎は同日、文喜相議長について「極めて無礼だ。単に国
会議長であるだけでなく、韓日議員連盟の会長を務めた人物がこのような
話をしたのは深刻だ」と指摘した。当然の発言である。

これに対して超党派でつくる韓日議員連盟会長の姜昌一は「河野外相は逆
に非常に無礼な発言をした」と指摘した。姜は、天皇の謝罪を求めた文の
発言は「極めて常識的だ」と述べた。また、「韓日関係は良好であるべき
だ」とし、「日本の政治家は長い目で見て自重してほしい」とも述べた。
 

このように木霊がこだまを呼んで、事態はエスカレートしている。問題は
大統領文在寅だ。本来なら文喜相発言を諫める立場なのに、後ろを向いて
含み笑いをしているがごとく、なにもしない。

もはや反日とも言っておかしくない文政権が続く限り日韓関係の修復はお
ぼつかないと見るべきであろう。韓国が安易な反日路線を取る背景には経
済的な要因も少なからず作用している。対日貿易の比重が低下しているのだ。

対日輸出は2007年に7.1%で3位であったものが2¥202年には4.7%
で5位にまで低下している。韓国の貿易で“日本パッシング”が生じている
のだ。

 日本はこの際安易な関係回復などを模索する必要はない。北東アジアの
片隅で、国際外交の何たるかに疎い韓国が国際常識の通ずる国に“成長”す
るまで“優しく”見守るのが一番だろう。それよりも米朝首脳会談が大きく
進展すれば、日朝関係に好機が生ずるかもしれない。日本は対韓、対朝で
バランスを取った外交を展開するチャンスとなりうる。北の金正恩の方が
御しやすいかもしれない。

2019年02月16日

◆空虚なる「反日」の遠吠えー文喜相発言

杉浦 正章


日韓友好を大きく毀損、冷却期間が必要

隣国の病気が再発した。空虚なる「反日遠吠え病」である。それもことも
あろうに韓国国会議長・文喜相(ムン・ヒサン)が、天皇を「戦争犯罪主
犯の息子」と形容して謝罪するように要求したのだ。この度しがたい発言
に、国会で首相・安倍晋三が強い怒りを表明したのも当然である。

この発言は、戦後初代大統領・李承晩が歴史を歪曲して、国民の「恨み」
を日本に向けさせることにしたのと同様に、「病的反日」としかいいよう
がない。加えて戦後日韓両国が営々として築き上げてきた友好関係を土台
から覆すものであり、その政治的・経済的・文化的損失は計り知れないもの
がある。

米ブルームバーグのインタビューでの文喜相は、慰安婦問題に関連して日
本側の謝罪について「一言あればいい。日本を代表する首相、あるいは私
としては近く退位する天皇が望ましいと考えている。」と述べたものだ。
それも「戦争犯罪の主犯の息子が1度おばあさんの手を握って、『本当に
申し訳なかった』と一言言えばすっかり解消する」と謝罪を要求したのだ。

文喜相はこの天皇陛下を「戦争犯罪の主犯の息子」と発言をした問題につ
いて「重要な地位にある指導者の心からの謝罪を強調する流れで出た表
現」と説明した。まさに練りに練った“確信犯”的な発言である。

訪問先の米ワシントンで11日、韓国メディアに語ったもので、文は「戦犯
主犯の息子」という表現を「戦時の日本国王(天皇陛下)の息子という意
味だ」と述べた。その上で、「日本の責任ある指導者が元慰安婦に納得で
きる誠意ある謝罪を行うことが優先されねばならない」として、「日本側
は数十回謝罪したと言うが、そんなことはない」と強調したという。

一連の発言は、韓国国会議長という三権の長によるものであり、公人中の
公人の発言である。この無礼極まりない発言は、歴史的な無知と偏見にあ
ふれている。そもそも文が指摘するように昭和天皇は「戦争犯罪の主犯」
なのか。日本の戦犯が裁かれたのは極東国際軍事裁判だが、言うまでもな
く昭和天皇が被告席に座った事実などない。文の発言内容は、甚だしく
「無知」によるものであり、知性が全く感じられない。要するに度しがた
いのである。

そもそも日韓両国は、2015年の日韓合意で慰安婦問題は、「最終的かつ不
可逆的」な解決で合意している。安倍はその際、お詫びと反省の気持ちを
表明している。

加えて同年12月28日にソウルの外交部で行われた外相岸田文雄と韓国の外
交部長官尹炳世による外相会談後の共同記者発表で「日韓間の慰安婦問題
が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と明確に表明してい
るのだ。

おまけに、日韓請求権協定は,日本から韓国に対して,無償3億ドル,有
償2億ドルの資金協力を約束、既に支払った。協定第2条では、請求権に
関する問題は「完全かつ最終的に解決」されており,いかなる主張もする
ことはできないと定めており,これが日韓関係の基礎である。

こうした表現は文喜相のような発言が繰り返されることを防ぐ意味合いが
あった。しかし、案の定文喜相は臆面もなく無視し、知性が感じられない
発言を繰り返した。文は「合意文書が数十あったところで、どうするのか。

被害者の最後の許しがあるまで謝罪しろと言うことだ」「天皇陛下が謝れ
ということだ」と感情的かつ支離滅裂な妄言を繰り返している。安倍が
12日の衆議院予算委員会で「本当に驚いた。甚だしく不適切、極めて遺
憾」と述べ、外務省を通じて厳重に抗議し、謝罪と撤回を要求した。これ
に対しても文は「なぜこのように大きな問題なるのか。さらに官房長官が
出てきたと思ったら、安倍首相まで出てきた。到底理解することができな
い」と反発を繰り返している。
  こうした中で日韓議員連盟の会長を務める自民党の額賀福志郎が、
13日午前、ソウルで韓国首相の李洛淵(イナギョン)と会談、文喜相の
発言に懸念を表明すると共に、悪化している日韓関係の改善に向けて意見
交換した。

しかし、具体的な改善策は見いだせなかった。逆に李洛淵は日本側の言動
を批判「日本の政治家や外交官が嫌韓の流れに迎合しようとして、信頼か
ら外れた言動を繰り返している」と反発している。双方は、両国の世論が
沈静化するのを待つ必要があり、6月に大阪で開かれる主要20カ国・地域
首脳会議(G20)までの関係改善は難しいとの認識で一致したという。

今後、両国の政治家は大衆受けの発言を慎み、冷却期間をおく必要がある
のだろう。韓国内の世論も中央日報が「日本閣僚の攻撃的な謝罪要求は天
皇を神聖視する日本世論を意識したためとみられるが、韓国国内の世論は
『謝罪すべき側が謝罪を要求した』と反発し、両国関係はさらに冷え込む
見込みだ。」と論評した。

2019年01月24日

◆北方領土で衆参ダブル選挙は無理

                          杉浦 正章


プーチンに「返還」の力なく、交渉長期化へ

ロシアの経済的疲弊がポイント

さすがに怪僧ラスプーチンの国だ。ラスの字はつかないがプーチンも怪僧
並みに狡猾だ。4島返還にこだわってきた日本が「2島+アルファ」に舵
を切ったと見ると、プーチンはハードルを上げた。首相・安倍晋三はいい
ように操られている時ではない。立場の違いが際立った以上、ソ連にどさ
くさ紛れに占領された北方の小さな島々などで焦らない方がよい。またロ
シアとは親戚づきあいなどできないと肝に銘ずるべきだ。交渉の長期化は
避けられない。

安倍が、責任上あの手この手を考えるのは当然だが、25回も会談しても、
会談したことだけに意義があるのではオリンピック精神と同じだ。プーチ
ンは、安倍が「4島返還」から「2島」に変わったとみるや、歴史認識を
持ち出した。歴史認識は文在寅のおはこで、もはや文在寅退任まで韓国と
正常な対話は無理かと思いたくなるが、これに加えてプーチンまで歴史認
識だ。戦後70年もたって、周辺国が歴史認識を取り上げるのは、誠実な日
本が反省して痛がるからだ。

これでは交渉の体をなしていない。従ってまともに応じる必要はない。安
倍はプーチンと6月に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議で再
会談するが、ロシア側が平和条約をめぐる溝を埋める動きに転換する可能
性はない。覚悟を決めて腰を据えた交渉で対応するしかない。

ロシアの基本認識は「第2次大戦の結果として北方領土がロシア領になっ
たことを認めよ」(ラブロフ外相)だ。しかし、これは認識上の誤りであ
り、受け入れることは不可能だ。

北方領土は、ずる賢いソ連が戦争直後のどさくさを絶好の機会とみて占領
したのだ。日本が1945年8月にポツダム宣言を受諾して、無防備になった
のをチャンスととらえて日ソ不可侵条約を無視して日本の領土を不法占拠
したのだ。まるでラスプーチンのように陰謀の国なのだ。

歴史認識を持ち出したことは、日本に交渉の主導権を握られないようにす
る「先手」でもある。ロシアが交渉の主導権を握るための材料なのだ。一
方で領土で譲歩すればプーチンの立場が危うくなる。

ロシア人は広大な領土を持ちながら周辺地域をなんとしてでも入手しよう
という“欲深い”民族なのである。ロシアによるクリミア・セヴァストポリ
の編入がそれだ。国際的にウクライナの領土と見なされているクリミア自
治共和国のセヴァストポリ特別市をロシア連邦の領土に加えた。1991年の
ソビエト連邦崩壊・ロシア連邦成立後、ロシアにとって本格的な領土拡大
となった。2度目の領土簒奪が北方領土だが、ウクライナと異なり日本と
いう“経済大国” が真っ向から異を唱えている。

一方で領土で譲歩すればプーチンの国内的な立場は危機的になることを、
プーチンは知りすぎるほど知っているのだ。そこに突破口を開くことを安
倍は狙わざるをえないのだ。

安倍は周辺に「大変なのは、島にロシアの自国民が住んでいることだ。
プーチンには『私が決めたことだ』と国内を抑えて、一発でやってもらわ
ないといけない」と戦略を漏らしているが、安倍もお人好しだ。わざわざ
手の内を朝日に書かれてしまっている。

たしかに唯一可能性があるとすれ ば領土でプーチンが独断で解決するシ
ナリオだが、厳しいロシア政局で反 対勢力を抑えて大統領になったプー
チンがそんなに甘いかと言えば、逆だ ろう。安倍はプーチンとの関係を
時々誇示するが、プーチンは個人的な関 係と、現実の外交とはきっぱり
と分けて考えている。

 従って安倍の訪露は、具体的な解決策を見いだせないまま終わった。領
土交渉は一筋縄ではいかない現実を露呈した。沖縄の施政権返還ですら佐
藤栄作は対米交渉で散々苦労したが、ましてや主権が伴う領土交渉であ
る。唯一進展の可能性があるのはプーチンが独断で領土問題の解決を目指
すケースだが、正直言って、プーチンはそれほど甘くはない。

プーチンは『日本の要求に簡単には応じられない。平和条約の締結が先
だ』と日ソ共同宣言に書いてある」と突っぱねている。日ソ共同宣言は、
1956年に日本とソ連がモスクワで署名し、同年12月12日に発効した。内容
は「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日
本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」とある。たしかに平和条約が「先」な
のである。

 安倍はプーチンに足元を見られている気配が濃厚だ。北方領土前進で参
院選を戦おうとしていると読まれたのだ。ラブロフに至っては北方領土の
呼称にすら、異論を唱えている。

しかし、今更北方領土が返ってこないか らといって、安倍に不平を言う
日本人はいない。ことは外交能力の問題で もない。かつてのロシアの歴
史が証明しているように、国内政治が大きく つまずき、領土の切り売り
が始まるのを待つしか方途は考えられない。

したがって親戚付き合いを目指すような甘い顔は見せないことだ。もちろ
ん 2度目の会談をしても、夏の参院選挙を北方領土をテーマにすること
など は無理であり、ましてや北方領土で衆参同日選挙を行うことも、
「無条件 返還」などよほどのテーマが出ない限り困難だ。ここは成果を
急ぐ必要は ない。より一層のロシアの経済低迷が、変化を生じさせる時
を期待し、 粛々と正道を歩むべき時だ。

2019年01月18日

◆波乱含みの今年の極東情勢

                         杉浦 正章


2回目の米朝会談が焦点

今年の極東情勢を太筆書きで展望すれば、まさに波瀾万丈とも言える要素
に満ちている。米国と中国の覇権争いは貿易摩擦からハイテク分野にまで
拡大、冷戦に近い様相を示そうとしている。日本は好むと好まざるとにか
かわらず米中双方をにらみながら立ち位置の決定を迫られる。逆に日本の
立ち位置が、米中対立を激化させるか緩和させるかの要素となりうる情勢
でもある。

中国の経済力の拡大で世界情勢は歴史的な転換が始まろうとしている。中
国はやがては米国経済に追いつき追い越すエネルギーを秘めており、かつ
ての秦・漢・隋・唐・宋・元・明・清がその興隆期には世界帝国の様相を
示したように、多かれ少なかれ極東のパワーとしての存在感を強めるだろ
う。中国のインターネット人口は、およそ8億人に達し、現在人口の57.7%
が頻繁にインターネットを利用している。中国は事実上のネット王国と化
しており、今後のIT世界での影響力は増大こそすれ、縮小しないだろう。

米国が現在保持している圧倒的な覇権を脅かす要素は中国だけだろう。し
かし日米同盟が強固である限り、中国のパワーは減殺されるだろう。トラ
ンプが昨年末以来指向している世界的な貿易戦争は深刻化する様相があ
り、日本としても対応が迫られる。日米貿易協定交渉について、トランプ
政権は自動車分野で対米輸出の数量規制を要求する可能性が高いとの見方
がある。

米政府筋は「日本が数量規制に応じないなら、追加関税を発動する可能性
も排除できない」とすごんでおり、油断はできない。

日本としての対応策は規制の範囲を物品以上に広げないように、ヨーロッ
パと連携して対米交渉に臨むことだろう。ただ米国の貿易赤字の47%は
対中貿易によるものであり、日本は9%にすぎない。中国の深刻さに比べ
れば、日本は安倍とトランプの会談に持ち込めば、政治決着がつく可能性
が強い。大騒ぎしすぎて、不必要な波紋を巻き起こすことは避けなければ
なるまい。

朝鮮半島情勢は韓国大統領文在寅の対北融和路線で変質してきており、米
国の圧力も利かなくなりつつある。こればかりは一国の外交方針であり、
干渉しようがない。そのうちにロマンティスト文在寅が描く夢が、現実の
壁にぶつかるのを見守るしかあるまい。日韓関係の悪化は戦後繰り返して
きたことであり、特異な現象ではない。相手が折れるのを待つのが歴史が
証明する最良の方法だ。「半島民族は悪い」と言ったのは田中角栄だが、
半島民族の複雑な感情は常に外交に反映される要因だろう。

対露関係はラブロフが漏らした本音に尽きる。ロシアの本音とは4島返還
どころか、2島も難しいという立場だ。もともと戦争で獲得した領土が返
還された例など、世界的に希有なことであり、沖縄返還くらいしかない。

対米関係だからこそ返還が可能になったのである。対ロシアでは、とても
一筋縄ではいかない。返還されるとすればロシアが国家として疲弊して、
日本に売りつけるような場合だろう。さもなくば中ロ関係が極度に悪化し
て、日本に支援を求めるような情勢になった場合だろう。

極東情勢を見つめた場合、中国は北朝鮮の戦略的価値が致命的に重要であ
ることに気付いている。従って北が日本や米国に接近することをあらゆる
手段を使って阻止するだろう。朝鮮労働党委員長金正恩は10日までの訪中
で習近平と会談し、2回目の米朝首脳会談に向け、「国際社会が歓迎する
成果を得るために努力する」と意欲を表明した。習はこれを評価し、後ろ
盾として支援する姿勢を鮮明にした。対外強硬路線を取るトランプ米政権
と対等に渡り合いたい中朝両国の思惑が一致したかたちだ。対米的に連携
を誇示しているかのようである。

しかし、米朝会談を行っても非核化での進展は困難だろう。昨年6月のシ
ンガポール会談では、トランプが記者団に、「非核化のそのプロセスをす
ぐに始める」と述べたものだが、半年たっても何らの進展もない。北はト
ランプをまんまとだまして時間稼ぎをしたのであり、しびれを切らしたト
ランプが対話モードから対決モードへと切り替える可能性も否定出来ない。

日本としてはこの米朝関係の展開を注視して、もし進展への流れが生じた
ら、タイミングを逃さずに日朝対話に踏み切る必要があろう。20年は米大
統領選挙の年であり、再選を目指すトランプが外交攻勢に出る可能性があ
る。というのも内政では民主党が下院で多数を握っており、大きなことが
できないからだ。

外交・通商での成果を狙う可能性が高いとみなければなるまい。その際、
派手な展開ができるのは極東外交であり、動向から目を離せない。米
CNNテレビは14日、米朝の協議に詳しい関係者の話として、トランプか
ら朝鮮労働党委員長の金正恩にあてた書簡が先週末、ピョンヤンに届けら
れたと伝えた。

トランプは今月初め、2回目の米朝首脳会談について「そう遠くない将来
に設定する」と意欲を示している。さらにCNNは、北朝鮮の金正恩側近の
金英哲副委員長が訪米して、2回目の米朝首脳会談の調整にあたる可能性
があると報じた。何らかの展開が予想される。これに先立ち国務長官ポン
ペオは13日の米CBS番組のインタビューで、米朝再会談の時期について
「いま私たちは詳細を詰めているところだ」と述べている。


2019年01月08日

◆今年の政局は波瀾万丈

杉浦 正章


解散説も出たり引っ込んだりの危険水域に

亥年だからどうなるなどと言う馬鹿馬鹿しい話しは民放正月番組に
任せるとして、今年の政局を見通せば内外とも波乱要素に満ちている。首
相・安倍晋三が目指す北方領土返還も憲法改正も、具体論に入れば国論は
2分3分する。あえて火中の栗を拾い政権の根幹を揺るがす必要があるの
かといえば、疑問だ。それよりも統一地方選、参院選をこなさなければな
らず、まさに正念場だ。野党はここを先途とたたみかける。場合によって
は安倍が衆参同日選挙で斬り返す事態も予想される。政治決戦の年になる
ことは間違いない。

まず大局を見れば、近い将来国民が現自民党政権維持から野党政権への選
択をする可能性はゼロだろう。なぜなら安倍自民党政権の6年は、日本繁
栄の6年であり、失業率実質ゼロの状態維持は戦後の政権において存在し
ない。安倍にとっては赤壁の戦いではないが、天の利、地の利、時の利、
人の利があったのであり、その余韻は残る任期3年にも多かれ少なかれ及
ぶだろう。6年の実績を見て国民の大勢は、現状維持指向に向かうだろう。

立憲民主党代表枝野幸男は「衆参同日選挙はあり得るとの前提で準備した
い」との見通しを新年早々述べている。しかし安倍はよほどの好機と見な
ければやるまい。よほどの好機とは北方領土問題の大きな進展である。し
かし、ずる賢いプーチンが4島を返して、米軍に有利になる極東情勢を認
める可能生はゼロであり、せいぜい2島返還の可能性があるが、一部の期
待のように4島への足がかりなどにはなりそうもない。

2島で打ち切りというのが現実だろう。戦争で取られた領土が全て返るこ
となど世界史的にも希有なことであり、2島がせいぜいであろう。その2
島の是非で総選挙をぶちかませれば、野党やマスコミのの絶好の攻撃材料
となり、極右も何をするか分からない。現在の改憲勢力で3分の2の議席
の維持などはまず不可能となるだろう。北方領土は光明が見えているよう
で、本筋は依然として無明の闇といってよい状況なのだ。従って対露外交
の重要度はは2の次3の次でよい。

ここで今年の重要日程をみれば、今月通常国会が招集され、下旬には日露
首脳会談。4月には統一地方選挙があり、同月30日には天皇の退位があ
る。5月1日には新天皇が即位し、改元となる。6月28,29両日大阪で20
か国・地域首脳会合(G20)が開催され、中国国家主席習近平が来日する
予定だ。6月か7月には参院選挙、10月1日には消費税が10%に引き上げ
られる。

今年の政局展望にとって最大のくせ者がその消費税引き上げだ。なぜなら
消費税を引き上げた直後に解散・総選挙をすれば、確実に大敗する。従っ
て総選挙は引き上げのかなり前か、国民の怒りが収まる2020年後半以降し
かない。そもそも前回16年の参院選挙は、自民、公明、大阪維新で3分の
2を上回った。今回の参院選で自民、公明、日本維新の改憲勢力は90議席
弱。3分の2を維持するにはこの90弱をなんとしても死守しなければなら
ない。前回が勝ちすぎているのであり、減少を避けるのは極めて難しいのだ。

 こうした事態を回避するためにささやかれているのが、夏の衆参ダブル
選挙だ。一種の大ばくちだが、安倍は度胸があるからやりかねない。ダブ
ルについて安倍は「私自身は全くの白紙だ。頭の片隅にもない」と完全否定
している。しかし昔から解散と公定歩合に関しては首相の嘘が許されるこ
とになっている。元首相野田佳彦も「私も総理大臣になったときに大先輩
たちから、解散と公定歩合はウソをついてもよいと、言われ続けた。

そうはいっても、ウソをついてよいテーマが特定分野にだけあっていいと
は思えなかった。だから、(2012年に)『近いうちに解散』と言った後
は、葛藤した。今の安倍(晋三)総理がどう考えているかはわからない
が、人それぞれだと思う」と述べている。

やるかどうかは別として、今後安倍が「解散は考えていない」と発言した
ら、やる可能性があるのだなと疑った方がよい。首相が解散で嘘をついて
良いのなら、メディアも解散時期については独断と当てずっぽうが許され
ることになる。もっとも昔民放記者で、ことあるごとに「解散だ〜」と叫
びまくっているのがいて「解散小僧」と命名されたことがあったが、解散
判断には政治記者としての判断の蓄積と洞察力が不可欠であり、解散小僧
だけはいただけない。しかし、夏以降は何があってもおかしくない“危険
水域”に政局が突入すると心得た方がよいことは確かだ。



2018年12月07日

◆トリプルプル選は危険な賭けー来年の政局

杉浦 正章


失敗すれば自民党に大打撃

 五里霧中の改憲成否 来年の干支は己亥(つちのとい)で足元を固めて
次の段階を目指す年だが、国内政局は首相・安倍晋三の推進する「憲法改
正路線」をめぐって与野党が激突ムードを高めるだろう。

しかし改憲に関する国内の論議はまだ定まるに至っていない。なぜなら改
憲は戦後自民党が結党して以来の悲願だが、これまで「お題目」として唱
えても、国民の間に現実論として定着していないからだ。よほどの説得力
がない限り、改憲展望は五里霧中であり、失敗すれば自民党に大打撃とな
ると言わざるを得まい。

自民党は自衛隊の根拠規定の明記など改憲四項目については今国会の提出
を断念したが、来年の通常国会には提示する方針であり、政府・与党がま
なじりを決した対応ができるかどうかが成否を決める。  

既に実態から見れば、現行憲法第9条2項の「陸海空軍その他の戦力は、
これを保持しない」などはいまや空文に等しい。なぜなら米軍事力評価機
関の「Global Firepower」一つとっても、自衛隊を世界7位と位置づけて
おり、いざというときの工業力を計算に入れれば、日本の潜在的軍事力が
もっと高位に入るのは常識だからだ。

もはや吉田茂の言う「戦力なき軍隊」の時代はとっくに終わり、野党が仏
壇の奥からはたきをかけて、改憲反対論を持ち出しても、説得力に欠ける
傾向を強めているのだ。

安倍首相は「自衛隊が違憲かも知れないという議論が生まれる余地をなく
すべきと考える」と発言しているのは、保守派政治家としてイロハのイを
説いているにすぎない。

そのための改憲について安倍は「2020年を新憲法が施行される年にしたい」
と言い切り、期限まで区切っている。

憲法改正の手続きは、衆院は100人以上、参院は50人以上の賛成で改正原
案を国会に提出して始まる。その後、衆参両院の憲法審査会で審査し、そ
れぞれの本会議で総議員の3分の2以上の賛成を得れば、憲法改正を発議で
きる。発議後60〜180日以内に国民投票を実施し、有効投票総数の過半数
の賛成を得れば承認される。  

自民党保守派が現在を改憲の絶好のチャンスと判断するのは、衆参で3分
の2の改憲勢力を糾合し得ることから、来年の通常国会で改憲を発議し、
参院選挙と同時に国民投票にかけるという戦術があり得るからだ。

同党の一部には、参院だけの民意を問うのではなく、衆院の解散で衆院の
民意も問うべきだという“スジ論”が存在しており、そうなれば「衆院選・
参院選・改憲国民投票」という「トリプル選挙」の可能性が浮上しても不
思議はない。
過去1980年と86年に行われた衆参同時選挙は与党自民党に有利に作用して
いる。衆参の候補が補完し合う傾向が生じたからだ。これに改憲が加わっ
ても与党有利は変わらないという判断が自民党内には存在する。

しかし、来年春は地方選挙が行われるが、地方議員らは自分の選挙が終わ
れば、他人事の参院議員の選挙に身が入らない傾向が生じかねない。おま
けに亥年の参院選挙は過去5回行われているが、なぜか自民党は1勝4敗
で不利な戦いを強いられている。

12年前の参院選に至っては過半数割れ の惨敗をきっしている。民主党代
表小沢一郎が、小泉政権下で自民党に見 捨てられたと感じた地方層に訴
える戦略を活用して07年の参議院選挙に勝 利、参院の多数を握って「ね
じれ国会」をもたらした。  

自民党改憲案 は@自衛隊の根拠規定の明記A緊急事態対応条項B参院選の合
区解消C教育の 充実ーなどの項目となっており、保守層にとっては自衛隊
の根拠規定は悲 願とも言える。

来年の政治日程を見れば1月に通常国会召集、改憲案の提 示。4月に統
一地方選挙、予算成立後は参院選に向けて対決ムードが高ま る。5月1
日に新天皇即位、6月28,29日大阪でG20首脳会合。6月 か7月に参院選
挙、10月1日に消費税引き上げーなどとなっている。  

このうち与野党対決必死の改憲案発議は、戦後まれに見る保革対決の核
となり得るが、公明党が参院選前の発議に否定的なのは、「衆院議員の任
期半ばでの衆参同日選挙をやる以上は、必ず勝つ選挙でなくてはならな
い」(党幹部)と言う現実政治上の判断があるからだ。  

確かに「同日 選先にあり」の政局判断は無理筋の部分があり、負けた場
合には政権を直 撃する要素となり得る。 己亥(つちのとい)で足元を固
めて次の段階を 目指すこととは、ほど遠い結果になりかねない。

安倍首相の任期はまだ3年弱 あり、政治も経済も安定状態に入ったよう
な状況が続いている。これと 言った後継者も育っていないことから、場
合によっては中曽根康弘のケー スのように、総裁任期延長の可能性もな
いわけではあるまい。あえてトリ プル選挙という危険な“賭け”に出る必
要は、よほどのことがないかぎりあ るまい。

2018年11月29日

◆難問山積、激動の極東情勢

杉浦 正章


「米中第2次冷戦」は長期化へ

北方領土「五里霧中」、邪道の韓国

今年もはや師走が目前となったが、日本を取り巻く環境は地殻変動を起
こす前触れのような様相を見せている。まず大きな潮流を見れば米中関係
の潮目が変わり、米中両超大国が「第2次冷戦」ともいうべき状況に突入
した。

日本は多かれ少なかれ影響を受ける。一見、首相・安倍晋三との関係が良
好に見えるロシア大統領プーチンは、核心の領土問題で一歩も譲らぬ姿勢
をあらわにした。隣国韓国の大統領文在寅は、人気が落ちそうになると竹
島・慰安婦で対日世論を煽る邪道路線だ。

まさに「四面楚歌」のごとき様相だ。来年の干支は己亥(つちのとい)で
足元を固めて次の段階を目指す年だが、次の展望は五里霧中と言わざるを
得まい。

米ソ冷戦に勝った米国は、トランプが「一国主義」を前面に打ち出し、
「アメリカ・ファースト」で国を率いると宣言。この方向は一方の超大国
中国を刺激し、習近平は「一帯一路」構想を合い言葉に、臆面もなく地球
俯瞰型の勢力拡大に打って出た。

中国の歴代皇帝がそうしたように、「皇帝」習近平は陸路と海路で西進を
開始した。2017年10月19回の共産党大会で採択された党規約には、「共に
話し合い、共に建設し、共に分かち合うという原則を遵守して『一帯一
路』建設を推進する」と明記した。覇権主義が芬芬(ふんぷん)とにおう
大方針である。

9月30日には「航行の自由作戦」遂行中の米艦船に中国の艦艇が45メー
トルまで接近するという異常事態を現出させた。

こうした動きをとらえて米副大統領ペンスは、2017年の国家安全保 障戦
略の「中国は米国の安全と繁栄を侵食することで我々のパワー、影響 力
に挑戦している」との立場を再確認。同時にペンスは「中国は米国の最
先端技術を盗み、西太平洋地位域から米国を排除して、同盟国支援を妨げ
ようとしている」と強く批判した。これらの発言は、明らかに敵対国同士
の応酬段階のように見える。

こうして米中対立は長期化する可能性が高い情勢となって来た。米政 府
はキッシンジャーの隠密外交で1971年から始まったニクソン政権に よる
対中融和策から転じて、対決路線に大きく舵を切った。

ここで注目されるのは目前に迫ったブエノスアイレスでの主要20か国 首
脳会議である。G20は11月30日から12月1日の2日間開かれるが、米中は
水面下で首脳会談の下準備をしている模様だ。

この米中首脳会談が決裂す れば米中対立は修復不能の状態となることが
確実であり、両国とも薄氷を 踏むような調整をしているに違いない。し
かし、中国が一帯一路路線を転 換する気配はなく、唯一の超大国として
君臨してきた米国も、トランプが そう簡単には引き下がるとは思えな
い。大きな構造的な潮流は、米中冷戦 の継続だろう。

一方、安倍との個人的な関係を棚上げするかのようにプーチンは北方領
土で強硬姿勢を貫く構えだ。ロシア国内でのプーチン人気を押し上げるこ
とになったのは、紛れもなくクリミア・セヴァストポリの編入である。ロ
シアの領土は世界の総陸地の11.5%を占め世界第一を誇るが、大地主が境
界線に異常なこだわりを見せるのと同じで、国家も土地があるほど卑しく
固執する傾向がある。おまけに極東安保上の戦略が絡む。これに対して安
倍は4島のうち歯舞・色丹の2島先行返還でゆく方向に舵を切ったかのよ
うに見える。

とろろがプーチンはここにきてちゃぶ台返しに出た。安倍との首脳会談
でプーチンは、「日ソ共同宣言には日本に島を引き渡すと書かれている
が、どの国の主権になるかは書かれていない」と言い出したのだ。まるで
日本に引き渡しても主権はロシアにあるという、荒唐無稽な屁理屈であ
る。これは事実上プーチンに返す意図がないことを物語っている。

安倍が これに対して何も言わなかったのは、「2島先行返還」でも、な
んとか実 現にこぎ着けたいとの思惑があるからだろう。「安倍さんは2
島で腹をく くった」という説まである。

しかし、情勢は2島といえども容易でない感じが濃厚だ。なぜならクリ
ミア・セヴァストポリ編入で高まった人気で味を占めたプーチンが、自ら
の保身を考えたら、2島といえどもロシア人が3000人も住んでいる 「領
土」を返したら一挙に人気が瓦解すると思ってもおかしくないから だ。

こうして北方領土問題は五里霧中となったのが実情だろう。安倍と プー
チンは3年以内に平和条約を結ぶことで合意した。安倍の任期は 2021年
9月までだから任期中にと言うことだろう。安倍は「戦後70 年以上残さ
れた課題を次の世代に先送りすることに終止符を打つという強 い意志を
完全に共有した」と発言したが、ここで期限を切っては、事実上 歯舞・
色丹2島にとどまり、残る国後・択捉2島は永久に棚上げとなる心 配が
ある。

一方、竹島では韓国の国会議員が上陸した。上陸について、外相・河野太
郎は、上陸にあたっては政府が関与している可能性もあるとして、韓国政
府の責任も問いただす必要があるという考えを示した。

韓国大統領文在寅 は人気が落ちそうになると、竹島・慰安婦で日本の神
経を逆なでして、国 民を煽り、人気を取る癖があり、こんな大統領を相
手にまともな会談など できるわけはない。安倍は当分「無視」 すべきだろ
う。ただ河野の言う 「文在寅の責任」については、当然追及すべきこと
だろう。

2018年11月15日

◆危うい歯舞、色丹の「2島先行返還論」

杉浦 正章


プーチンは国後、択捉の現状固定狙う

日露首脳会談の焦点は言うまでもなく、北方領土問題であったが、首相・
安倍晋三の成果を急ぐ姿勢が目立ち、プーチンに「技あり」を取られかね
ない側面が生じた。なぜかと言えば日本が「四島返還」より「歯舞、色丹
の2島先行」に傾斜したと受け取れるからだ。

安倍は56年の日ソ共同宣言の「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行
い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡す」に回帰し
て、とりあえずは二島返還で平和条約交渉を先行させる構えを垣間見せて
いる。しかし、したたかなプーチンが先行返還と言っても他の2島を返還
する可能性はゼロに近いと見るべきだろう。

問題は、56年共同宣言に盛られた北方領土は「歯舞群島と色丹島」だけで
あり、国後、択捉への言及がないことだ。ロシアの「二島での食い逃げ」
は当然予想できることである。にもかかわらず2党返還で平和条約を締結
することになれば、ロシア側は日本の譲歩と国内的に喧伝する意図があり
ありだからだ。なぜならプーチンはかねてから「国後、択捉は議論の対象
にならない」と主張してきており、それが実現したと受けとれるからだ。

あきれたことにプーチンは、歯舞群島と色丹島についても「日本に引き
渡された後の2島に日露どちらの主権が及ぶかは共同宣言に書かれていな
い。今後の交渉次第だ」と、引き渡した後もロシアの主権が及ぶという姿
勢を貫こうとしている。したたかにも交渉のハードルを上げてロシアの主
権を主張する意図がありありだ。クリミア併合で国内の評価が急上昇した
“甘い汁”を北方領土でもう一度という魂胆が垣間見える。

プーチンは国際的にウクライナの領土と見なされていたクリミア自治共和
国、セヴァストポリ特別市をロシア連邦の領土に加えることに成功した。
1991年にソビエト連邦が崩壊し、ロシア連邦が成立した後、ロシアにとっ
て本格的な領土拡大となった。北方領土で譲歩すればクリミアで得た国民
の評価を、一挙に灰燼に帰することになるのが構図だ。

さらに重要なのはロシアには北方領土を日本に渡せば、米軍が常駐しない
までも、一朝有事の際は島々が米軍の不沈空母となりかねないと言う危惧
がある。地政学的には極東における日米の安全保障上の立場を強化するこ
とになる。当然予想される事態だ。

 最近の対露交渉で懸念されるのは、プーチンの「食い逃げ」である。
プーチンの狙いは、日本の経済協力であり、その発言から見る限り領土問
題での譲歩は、そぶりすら見せていない。日本側には通算22回も会談する
のだから「めどくらい立つだろう」との期待が強いが、表だって目立つの
はプーチンのしたたかさだ。安倍の会談の目的は領土問題だが、プーチン
には会談すること自体を重視しているかに見える。

加えて、プーチンは10月に公的な会合で「日露間に領土問題は存在してい
ない」と言明、交渉姿勢を分析すれば「ゼロ回答」ばかりが透けて見え
る。今後安倍は、月末のブエノスアイレスでの主要20か国首脳会議でも首
脳会談を行うし、来年には早い時期に訪露する方針である。

ロシア経済は原油価格の低迷によって2015年、16年と2年連続で景気後退
に陥ったものの、価格の持ち直しで2017年の同国の実質国内総生産が前年
比で1.5%増え3年ぶりのプラス成長を達成。2018年も2年連続のプラス成長
が見込まれている。

したたかなプーチンは堅調なロシア経済を背景に強気の外交姿勢を維持す
るものとみられ、突き崩すのは容易ではあるまい。安倍としては、来年夏
には参院選があり、急進展があれば別だが、対露外交はよほどの進展がな
い限り選挙のプラス材料にはなりにくいのが実情だ。

2018年11月08日

◆下院舞台に攻防段階へ突入

杉浦 正章


唯我独尊政治が極東外交にも影

中間選挙の結果米国は、民主党が下院を奪還し、多数党が上院は共和党、
下院は民主党という「ねじれ議会」となった。この大統領と下院の多数派
が異なる政治状態は、戦後の議会ではレーガン政権、ブッシュ政権、オバ
マ政権で生じている。

とりわけオバマ政権の2期目は、「決められない政治」で有名だが、トラ
ンプも多かれ少なかれ「決められない」状況に落ち込むだろう。2年後の
大統領選は、奇跡の逆転でトランプ再選がないとは言えないが、その可能
性は低い。勢いづいた民主党が反トランプの攻勢をかけることは必定であ
り、大統領弾劾の事態もあり得ないことではない。米国の政治は流動化の
傾向を強くする。

民主党にとっては8年ぶりの下院奪還であり、ねじれを利用してトランプ
政権への攻勢を強め、大統領の弾劾訴追も視野に入れるとみられる。その
ための圧力は、法案の成立数となって現れるだろう。米議会における法案
成立数は毎年通常400〜500本で推移しているが、議会がねじれた政権では
その数が著しく減少する。レーガンの成立率は6%、ブッシュ4%、オバ
マ2%といった具合だ。

法案は通常、上下両院でそれぞれ同時期に審議され、内容が一本化されて
成立の運びとなる。民主党は今後ポイントとなる重要法案の成立を阻むも
のとみられ、トランプは議会対策で苦境に陥る公算が強い。とりわけ下院
が主戦場となる。民主党の狙いは言うまでもなく2年後の大統領選挙でト
ランプを引きずり下ろすことにある。2年間でトランプをボロボロにし
て、再起不能にしようというのだ。

民主党はトランプの弱点を突く戦術を展開するものとみられる。弱点は山
ほどある。外交では北朝鮮の金正恩やロシアのプーチンとの親密ぶりばか
りを露骨に誇示して、同盟国である日本やカナダをないがしろにして、高
関税をちらつかせる。

内政では元女優との不倫に口止め料を支払ったのが露呈したかとおもう
と、女性やマイノリティに対する侮辱的な発言。議会が指摘する「嘘つき
政治」は日常茶飯事である。

よくこれで大統領職が務まると思えるほどの問題ばかりが山積している。
他国に対する制裁関税も、製造業が大不況で息も絶え絶えのラストベルト
地帯にこびを売るものにほかならない。トランプは国全体を見る視野よ
り、自分への支持層だけを大切にしているかに見える。

「我々はグローバリズムを拒絶し、愛国主義に基づき行動する」という発
言は、国際協調路線とは決別しているかに見える。現実に環太平洋経済連
携協定(TPP)や、地球温暖化対策の「パリ協定」からの離脱表明は、
釈迦も驚く唯我独尊ぶりだ。

この結果、米国民に分断傾向が生じている。国内に医療制度や移民問題を
めぐって対立が生じているのだ。もともと共和党支持層は地方の有権者や
白人が多く、民主党は若者や、有色人種、女性が支持する傾向が強い。本
来なら複雑な社会形態を統合するのが米大統領の重要な役割だが、トラン
プは分断が自らを利すると考えているかに見える。

よくこれで大統領が務まると思えるが、米国政治の懐は深く、弾劾などは
よほどのことがない限り実現しそうもないのが実態だ。米国では大統領と
議会の多数派が異なることを分割政府(divided government)と言う。

米国の政治制度の特質は、大統領と議会の多数派が異なる分割政府の常態
化を前提として政治運営や立法活動が複雑な駆け引きの下に行われる。大
統領が利害調整を行はざるを得ない場面が過去の政権でも見られた。

その傾向が常態化するのであろう。さすがに心配なのかトランプはさっそ
く「ねじれ」状態を踏まえ、「いまこそお互いが一緒にやるときだ」と
べ、民主党に連携を呼びかけたが、ことは容易には進むまい。

トランプの政治姿勢が続く限り、西欧や日本などの同盟国の国民は心理的
な離反傾向を強めかねない。そうすれば喜ぶのはプーチンや習近平だけで
あろう。トランプの対中対立路線が原因となる米中離反は、中国による対
日接近姿勢を強めており、国家主席習近平の来年の訪日など今後交流が強
まる傾向にある。

トランプの唯我独尊政治は、単に米国内にとどまらず、極東外交にも大き
な影を落としているのだ。しかし大統領が誰であれ、日米関係は重要であ
り、同盟関係を堅持し、通商関係の維持向上を図るべきであることは言う
までもない。


2018年10月30日

◆中国の対日大接近は「強国路線」の一環

杉浦 正章


米中は「新冷戦時代」突入 日本は“ラジエーター役”も

単なる貿易戦争と言うより米中二大超大国の覇権争いが始まったとみるべ
きだろう。中国は米国との冷戦状態に入ったが、日本とは関係改善に動く
など二股柔軟路線だ。

加えて今年は日中平和友好条約締結40周年の節目の年であり、首相・安倍
晋三訪中の極東安定に果たした役割は大きい。背景には米中貿易戦争が、
中国の態度に変化を促したことがあるのは確かだろう。

中国が日本との関係を強化しようとするのはパワーバランス上の狙いがあ
るからであり、喜んでばかりはいられない。日本は米中のはざまで、ただ
でさえ流動化している極東情勢が波乱の激動期に突入しないようラジエー
ター役を好むと好まざるとにかかわらず求められるからだ。

 日中関係は安倍訪中により戦後まれに見る良好な関係へと入りつつあ
る。安倍との会談で習近平は「この歴史的なチャンスをつかみ中日関係発
展の歴史的な指針とすべきだ」と強調した。

さらに加えて習は「日本訪問を真剣に検討する」と来年の訪日を確約し
た。過去には日本など眼中にないとばかりに、安倍と会っても何かくさい
臭いでも嗅いだかのような表情をしていたが、こういった態度をがらりと
変えたのだ。

これに先立ち下準備のために来日した首相李克強も関係改善 の必要を説
いており、中国の対日大接近は習政権挙げての大方針として固 まってい
たことが明白だ。首脳会談で安倍が「競争から協調へ、日中関係 を新た
な時代へと導いて行きたい」と応じたのは、まさに日中蜜月時代の 到来
を予測させるものであった。

世界も安倍訪中を固唾をのんで見守っており、仏の国営ラジオ放送局
RFI(ラジオ・フランス・アンテルナショナル)は27日、中国語版サイト
で、日中関係について「米中の関係悪化により日中は対抗状態から抜け出
す」とする記事を掲載した。

記事は、「米国と中国との間の貿易戦争が、 世界の『長男』である米国
と『次男』中国との関係を全面的に悪化させ た。一方で『次男』の中国
と『三男』の日本が手を差し伸べ合うことを促 し、日中関係を7年間に及
ぶ低迷期から抜け出させた」と明快に分析して いる。

 日中関係は1972年の国交正常化で極めて良好な関係に入ったが、以来、
絶えず起伏があった。とりわけ、2012年から13年にかけては、尖閣問題や
歴史問題で最悪の状態にまで冷え込んだ。安倍は今回経済界リーダー500
人を率いて訪中し、500件を超える協定に署名し、「その価値は計26億ド
ル(約2900億円)に達する」とした。

中国の態度激変の背景には、米中貿易戦争のエスカレートがある。貿 易
戦争の結果経済は悪化しており、安全保障の分野にまで対立の構図がで
きつつあり、長期化する様相を見せている。筆者がかねてから指摘してい
るように中国と米国は、「新冷戦時代」に突入しているのだ。

こうした背 景を見れば対日接近が、経済的利益につながると同時に対米
牽制の狙いが あることは明白であろう。日米関係にくさびを打ち込もう
という狙いが透 けて見えるのだ。

この超大国の覇権争いに多かれ少なかれ日本は巻き込まれるだろう。地
政学上から言っても、それが宿命だ。だが、日米同盟の絆はいささかも揺
るがしてはならない。中国ばかりでなくロシアのプーチンまでが喜ぶこと
になりかねないからでもある。米中貿易戦争は始まったばかりであり、米
国は矛先を緩める状態にはない。

対中関係を過剰に緊密化すれば、良好なる安倍・トランプ関係にも影響
が生じかねない要素である。その線上で、日米関係が悪化すれば習近平の
思うつぼにはまることになる。安倍は日米同盟関係を維持しながら、対中
関係改善で経済的利益を最大化するという、サーカスでの“空中ブランコ”
を演じなければならないのである。

時には習近平の「強国強軍路線」とい う「新覇権主義」に手を広げて
「まった」をかける必要も出てこよう。国 連の場などを通じて世界世論
に働きかける手段なども必要となろう。


2018年10月25日

◆サウジの米、トルコとの軋轢深刻化

杉浦 正章


トランプは二律背反状態

なんともはやアラビアンナイトの千夜一夜物語を読むような凄惨さであ
る。サウジ人記者ジャマル・カショギ殺害事件は、サウジ皇太子ムハンマ
ド・ビン・サルマンの意向と深い関係なしでは考えられない。

本人は「下の者がやった」と日本のヤクザの弁明のような発言をしている
が、信ずる者はいまい。目撃者も多く真相はやがて確実に日の光を見るだ
ろう。当然国連でも採り上げるべき問題だろう。

サウジは最も重要な同盟国である米国、および中東で有数の軍事力を誇る
トルコ双方との間で大きな軋轢を抱えることとなった。米国はサウジとの
同盟関係を維持しつつ、皇太子の暴挙を批判しなければならない二律背反
状態に陥っている。

サウジ側の声明ではカショギが「けんかと口論の末殺された」としている
が、59歳の分別あるジャーナリストが、多勢に無勢のけんかを本当にした
のか。トルコ当局によると「殺害されその場で死体はバラバラにされた」
としているが、死体の解体によって隠ぺいできるという判断自体が幼稚で
度しがたい。実行犯は15人でそのうち5人が皇太子の護衛であったとい
う。護衛と言えば戦闘訓練を積んだプロであり、素人の殺人事件とは性格
を異にする。

外相アデル・ジュペイルは「皇太子はもちろん情報機関の幹部も感知して
いない」と関与を頭から否定しているが、信ずる者はいない。カショギは
従来から皇太子の独裁的な手法を非難してきており、殺害はその報復と見
て取れるからだ。ムハンマドも「自分は事件とは関係なく、下のレベルで
行われた」と述べているがこの発言も語るに落ちた。「下のレベル」とは
部下だからだ。

大使館内とはいえ国内で事件を起こされたトルコの大統領エルドアンは
「情報機関や治安機関に責任を負わせるのでは誰も納得しない」と、サウ
ジ側の発表に強い不満を表明している。加えてエルドアンは「殺害は偶然
ではなく、計画的なものだ。我々は動かぬ証拠を握っている」とも発言し
ている。

米大統領トランプも「目下のところ現地では皇太子が取り仕切っている。
上層部の誰が関与したかと言えば彼だろう。史上最悪の隠ぺいを行った」
と述べていたがその姿勢は揺れに揺れてる。

関係者のビザ取り消しなど厳しい対応を示唆したかと思うと、サウジへの
武器輸出は推進。しまいには「下の者がやったと皇太子は言っていた」皇
太子を擁護までした。

まさに右往左往の醜態を示した。米CIA(中央情報局)は、まさに活躍
の場を得たとばかりに、膨大な情報をホワイトハウスに送り込んでいるに
違いない。トランプは皇太子の発言を信ずるかCIAを信ずるかと言え
ば、いうまでもなくCIAだ。

一方米議会からは「米国の基本的な価値観は自由を守り民主主義を維持す
ることであり、マスコミ関係者を殺害するという行為を認めるわけにはい
かない」とのスジ論が巻き起こっている。

米国にもジレンマがある。もし制裁で武器輸出を禁止した場合には、喜ぶ
のはプーチンと習近平だからだ。サウジをロシアや中国からの武器輸入に
追いやることはなんとしても避けなければならないのだ。

なぜなら中東安定の構図にマイナスの要素が入り込むからだ。しかし、米
国内世論は圧倒的に皇太子への何らかの制裁を求める空気が濃厚であり、
トランプは中間選挙を目前にして苦しい選択を強いられる状況だろう。 

ムハンマド皇太子は24日、国際社会から激しい批判を浴びる中、サウジ政
府として、犯人を裁く考えを示した。皇太子は、「忌まわしい出来事で、
正当化されるものではない」と語っているが、今後国連などでのサウジ批
判噴出は避けられず、皇太子は外交面で困難な状況に直面した。


広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。