2018年10月17日

◆首相は為政者の義務感から決断ー消費税10%

                                   杉浦 正章

オリンピックで景気持ち直しか

 残る任期3年を前にして最大級の決断である。為政者は誰も国民に嫌われる増税などしたくはあるまい。首相・安倍晋三の消費増税10%の決断には為政者としての義務感が濃厚に存在する。タイミングとしても絶妙であった。リーマンショック級の事態がない限り、実施は確実だ。来春の統一地方選挙や夏の参院選挙への影響を最小限に食い止めるにはこの時期を選ぶしかあるまい。

 来年10月の引き上げを1年前に公表する狙いについて、選挙への影響を最小限にとどめることを挙げる論調が多い。しかし、ことはそう簡単ではあるまい。新聞や民放はおそらく参院選を来年秋の増税に向けての選択選挙と位置づけ、絶好の反自民キャンペーンを張るだろう。従ってボーダーラインの自民党候補は落選の危機にあるとみるのが正しいだろう。野党にとっては久しぶりの追い風となる。参院選は“負け”をどこまで食い止めるかの選挙となろう。

 安倍の決断について新聞は「財務省に押し切られた」との見方が強い。確かに、財務省には来年引き上げる以上、来年度予算案の準備のためにも首相の早期表明が不可欠との見方が強かった。消費税は景気に左右されにくく、年5・6兆円の税収増は大きい。ただ一省庁の思惑で一国の首相が不人気の源となる大きな政治決断をするだろうか。これは、疑問である。

むしろ、冒頭指摘したように為政者としての義務感がそうさせたのであろう。もともと2017年の総選挙の公約は「保育・幼児教育の無償化」であり、当時からそのための財源には消費税を充てるしかないと指摘されていた。

 消費税の税率10%への引き上げについては、過去2回延期してきている。当初は15年10月に引き上げられる予定を1年半延ばした。次に17年4月に予定されていたが、2年半先送りされた。今回は3度目の正直ということになる。

 景気への影響については、今後駆け込み需要が生じるが、先が1年間と長いため分散傾向を見せるだろう。19年の税率アップで景気は一時的には下降するが、2020年の東京オリンピックは持ち直しのきっかけとなることが予想される。おそらく政府も経済界も暗雲を断ち切るためにオリンピックという明るい舞台をフルに活用することになろう。

もちろんオリンピックが終われば不況感が漂う可能性も否定出来まい。五輪特需の終了で雇用が減り、建築・不動産バブルが弾け、五輪までに目いっぱい売った商品が市場にあふれて飽和状態になる恐れがあるからだ。官房長官・菅義偉は「リーマンショックのようなものがない限り引き上げる」と不退転の決意を表明している。経済危機が来ない限り引き上げはうごかないだろう。

 各党は公明党が事実上賛成の立場だ。1日の首相との会談で代表山口那津男は増税を支持する姿勢を示し、安倍も「必ず実行する」と約束した経緯がある。その他の野党はおおむね反対で。与野党対決ムードは高まろう。

2018年10月03日

◆改憲へ大きくシフトー第4次改造内閣

杉浦 正章


時期を見て中央突破の可能性も

与野党対決ムード強まる

第4次安倍改造内閣で明らかに改憲シフトは達成され、来年の参院選への
体制作りも完了した。首相・安倍晋三としては自民党の改憲案を直近の臨
時国会に提出して、自民党結党以来の宿願達成に動き出す。

佐藤内閣の安保改正に匹敵する政治課題を安倍政権は抱えることになり、
戦後まれに見る与野党対決ムードは一段と高まりをみせるだろう。しか
し、安倍は明らかに中央突破路線を推し進める方向であり、改憲は曲折を
たどりながらも実現へと動くだろう。

まず最初の突破口が党役員・閣僚人事で開かれた。一番顕著なのは総務会
長に竹下派ながら安倍に近い加藤勝信を据え、党内の改憲シフトを印象づ
けた。

一方内閣には法相に石破派の山下貴司を当選3回生にもかかわらず抜擢し
た。改憲を進めるに当たり答弁能力や知識を買ったが、「一本釣り」の印
象は否めまい。党内野党色を強める石破への牽制球という側面もある。

加えて憲法改正の「旗振り役」となる自民党憲法改正推進本部長に元文部
科学相下村博文を起用した。これら改憲シフトは安倍の本気度を示すもの
であり、ルビコン川を渡ってローマへ進軍するシーザーではないが「サイ
は投げられた」のである。

いち早く3選支持を表明して流れを作った幹事長・二階俊博は留任。安倍
政権へのあからさまな批判を繰り返した筆頭副幹事長小泉進次郎は交代の
可能性が強いようだ。その反面政調会長・岸田文男を続投させたのは、ポ
スト安倍の候補として認定した側面がある。女性登用は片山さつき1人に
とどまったが、原因は女性の人材難だろう。

憲法改正のために必要な手続きは、衆議院で100人以上、あるいは参議院
で50人以上の賛成により、改正原案を発議できる。衆議院で発議された場
合には、本会議で総議員数の三分の二以上の賛成を得ると参議院に送られる。

参院本会議で総議員数の三分の二以上の賛成を獲得できた時点で、国会と
して憲法改正案を発議したことになる。その後に、国民投票による承認が
求められる。

国民投票で過半数の賛成が得られると憲法改正が実現する。

 安倍は「自民党としての憲法改正案を次の国会に提出できるよう、 とり
まとめを加速する。憲法改正には、衆参両院で3分の2を得て発議し、国
民投票で過半数の賛成を得るという極めて高いハードルを乗り越える必要
がある。」 と強調した。

また安倍は改憲への取り組みを「全員野球内閣でやる」と延べるととも
に、「幅広い合意を目指す」として、改憲勢力を糾合して実現を目指す考
えを明らかにした。

自民党が目指す改憲案は@9条を維持した上で自衛隊の根拠規定を加えるA
大規模災害条項を加えるB教育の無償化をうたうC参院選合区の解消ーなど
だ。与野党は9条改定で激しく対立する可能性があるが、その他の条項で
は必ずしも反対ではない内容もあり、対応はまちまちだ。

自民党内も石破茂が慎重論だ。「国民の理解なき9条改正をスケジュール
ありきでやるべきではない」と強調している。9条への「自衛隊明記」案
を前面に改憲を急ぐ首相に対し、石破は「あわててやる必要はない」と対
立を鮮明にしている。

若手の入閣で派を切り崩されたという不満が残った。与党内も現行の改正
案では公明党が難色を示しており、なお調整が必要なようだ。事を性急に
進めず、国民に対する説明を丁寧に行いつつ、進める必要があろう。

 一方野党も内閣改造について、共産党書記局長小池晃が「閉店セール内
閣」と批判、日本維新の会の片山虎之助共同代表も「自民党総裁選の論功
行賞や滞貨一掃の感じが拭えない」とこき下ろした。

これらの批判は、言葉が躍るばかりで説得力に欠ける批判だ。「閉店」ま
でにはまだ3年もあるうえに「滞貨」の人材はまだ山ほど居て、「一掃」
にはほど遠い。

もっとも安倍が性急に事を運べば、国論を二分させ、息も絶え絶えの立憲
民主党や国民民主党が国政選挙で揺り戻す可能性も否定出来ない。加えて
長期政権の与党はとかく弛みや驕りが目立つ側面があるが、引き締めを図
る必要があろう。


2018年09月28日

◆トランプのごり押しに手を拱く必要はない

杉浦 正章


日本はグローバリズムの流れを推し進めよ

EPA、TPP11の発効を急げ

「どうしてくれる」と片肌脱いで開き直っているトランプの姿はまるで超
大国ヤクザである。首相・安倍晋三との会談で「2国間交渉」をもぎ取っ
て、直面する中間選挙ばかりか2020年の大統領選まで有利に運ぼうとして
いるかに見える。

トランプのグローバリズムへのの拒絶反応は、選挙ばかりに目を奪われる
独善的な米大統領の姿を鮮明にさせ、歴代大統領が大切にしてきた世界の
リーダーとしての信望をかなぐり捨てた姿を浮かび上がらせた。

日本は EPA、TPP11の発効を急ぐ必要がある。

 米紙ワシントン・ポストは「トランプは世界の笑いものになった」との
識者のコラムを掲載した。トランプが25日の国連演説の冒頭で「2年足
らずの間に、我が政権は米国史上かつてないほど多くのことを成し遂げて
きた」と自賛すると、会場の各国首脳らからは失笑が漏れた。

まるで成金 が金歯を自慢するような演説だからだ。さすがのトランプも
しまったと 思ったのか「こんな反応は想像していなかったが、まあいい
だろう」と胸 を張り、会場のさらなる冷笑を生んだ。

国連憲章の基本を流れる精神はグローバリズムだが、トランプは臆面
もなく「我々はグローバリズムのイデオロギーを拒絶し、愛国主義を尊重
する。モンロー主義が我が国の公式な政策だ」と言ってのけた。

歴代大統 領の外交方針はおおむね独善的なモンロー主義の否定から始
まったもの だ。米国の外交主流派はこの方針採用をトランプに進言した
が、トランプ は臆面もなく無視したといわれる。演説の最中大統領補佐
官ジョン・ケ リーが「オー、ノー!」とばかりに片手で顔を覆ってうつ
むいていた。そ の写真が評判になり、ソーシャルメディアでは「全てを
物語っている」な ど絶妙なコメントが相次いだ。

 各国首脳が黙っているわけがなく、仏大統領マクロンは「身勝手な主権
を振り回し、他国を攻撃する国家主義を我々は目撃している」と手厳しく
批判。国連事務総長グテーレスは演説で、トランプを名指しこそしなかっ
たものの、「世界が20世紀史の、特に1930年代の教訓を無視して再び大衆
主義と孤立主義の道を突き進み、またしても世界的な紛争に転落していく
危険がある」と警告した。

2016年の大統領選挙でトランプと争ったクリン トンも、「トランプ大統
領の発言は危険だ」と警告した。まさに藪を突い て蛇を出し、四面楚歌
に導いたのがトランプ演説であった。

多国間貿易交渉の枠組みを重視してきた日本に対しても、トランプは 2
国間交渉で譲歩を迫った。結局安倍との首脳会談ではとりあえず2国間
の交渉に入ることで合意した。

日本はこれまで環太平洋経済連携協定 (TPP)への米国の復帰を求め
てきた。2国間交渉だと米国に有利とな るとの判断が背景にあったためだ。

しかしトランプは日本の対米貿易黒字 の6─7割を占める自動車・同部品
に目を付けており、日本側に高関税や 輸出数量規制を突きつけたよう
だ。このため日本側は交渉に入らざるを得 ないと判断に至った。当然な
がら首脳会談では交渉中は、輸入車への高関 税を日本に対してはかけな
いことで合意した。

ただ、米国が折に触れて自動車への関税をほのめかし、対日交渉を有利
に運ぼうとすることは確実であろう。このためこの際日本は対米追随だけ
でなく、トランプの「米国第一主義」に対抗するグローバリズムの旗を欧
州やアジア諸国と共に掲げる必要に迫られている。

既に進展している豪州 などとのTPP11の発効を来年早期に達成する
必要があるのではない か。世界GDPの13%、域内人口5億人をカバーし、日
本にとっては輸出や海 外展開の環境が整い、消費者にとっても食品値下
げなどの恩恵がある。

ま た欧州との経済連携協定(EPA)の発効も急ぐべきだ。自由貿易を
尊重 する国々の協力は、米国内の孤立化反対論やマスコミを勢いづけ、
変化へ と導く有効な手段となるに違いない。

2018年09月21日

◆安倍はひしめく重要日程で成果を

                        杉浦 正章


任期内解散も視野に入れよ 改憲は合区、非常事態を突破口に

自民党総裁選は今は盛りの横綱に小結がかかったようなもので、勝負は初
めからついていた。総裁・安倍晋三が石破茂の倍以上553票を獲得し、議
員票では82%に達したたことは、今後の政権運営にとって紛れもない安
定材料であり、内政・外交に亘る安倍路線に何ら支障は生じない。

20日で2461日目を迎えた安倍は2021年9月までの3年の任期中に伊藤博文
の2720日、佐藤栄作の2798日、桂太郎の2880日を越え史上最長の政権とな
る。安倍を支持した政調会長・岸田文男がポスト安倍の最有力候補とな
り、たてつく石破は今回の254票は限界だろう。岸田が出馬したら安倍支
持票の大勢は岸田に向かうからだ。

総裁選は党員・党友による地方票と合わせて開票された結果、安倍が69%
にあたる553、石破は254票となった。安倍はほとんどの派閥の支持を集
め、国会議員票(402票)では8割を超える329票に達した。その一方、地
方票(405票)では224票と伸び悩みを見せた。事務総長甘利明が55%と予
想していたが、55.3%で辛うじてクリアした。

安倍の勝因は何と言っても国会議員の大半の支持を得る流れを5年半の
政権運営で定着させ、それによって党員票も掘り起こした結果であろう。
地方票は従来からポピュリズムに流れる傾向があり、石破の「善戦」は、
政治判断力が未熟な地方党員には石破の存在が大きく映った結果であろう。

常に反安倍傾向の強いテレビ朝日、TBSなど民放番組は、悔し紛れの論評
が多かった。コメンテーターが「終わりの決まったリーダーは求心力が弱
くなる」としたり顔で述べていたが、相変わらずの素人の淺読みだ。民間
会社でも3年もの任期がある社長が軽んじられることはない。

経営権と人事権を握っているから社員は従来同様に従うのだ。安倍も毎年
改造して引き締め、3年の任期中での解散を断行すべきだろう。勝てば中
曽根が党規約改正によって総裁任期を1年延長した例もあり、延長しても
おかしいことではあるまい。

しかし、今後の政治日程を見れば、政局にうつつを抜かしているときは
終わった。重要政治日程がひしめいている。まず来週には日米首脳会談が
あるし内閣改造も想定内だ。安倍は25日には国連総会出席を契機にトラン
プとの首脳会談を行う方向で日程を調整している。

欧州、中国に黒字削減で厳しい要求を繰り返しきたトランプが、安倍と仲
が良いからといって日本だけ例外にする可能性は少ない。経済再生担当相
茂木敏充が、米通商代表部(USTR)代表ライトハイザーとの21日の閣
僚協議でどこまで事前調整できるかがカギだ。安倍は国連総会から帰国後
10月にも、内閣改造に着手し、安倍改造内閣を発足させる方向だ。副総
理・麻生太郎、幹事長・二階俊博、官房長官・菅義偉は続投となりそうだ。

石破派からも人材を閣僚などに起用して党内融和を取り戻すことが必要だ
ろう。小泉進次郎は、安倍批判が目立ちすぎた。そろそろ入閣待機児童だ
が、閣内不一致を招く危険がある。

30日には沖縄県知事選がある。安倍としては与党候補を勝利に導き、普天
間基地の辺野古への移転を推進したい考えだろう。訪中も重要テーマだ。
安倍は12」日、訪問先のウラジオストクで、中国国家主席の習近平と会
談、10月の訪中に向けて調整することで一致した。

10月23日が平和友好条約発効40年となるため、これに合わせて訪中するこ
とになろう。安倍は来年6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議
に合わせた習の来日を想定しているようだ。

改憲問題も安倍政権の重要テーマだ。10月26日にも招集する臨時国会で論
戦の火ぶたが切られる。安倍は「いつまでも議論だけを続けるわけにはい
かない」と、秋の臨時国会への自民党改憲案提出を明言している。

今後、改憲論議を加速させる構えだ。しかし、各種世論調査では国民の間
に改憲志向が生じていない。共同の調査によると、秋の臨時国会に改憲案
を提出したいとする安倍の提案に「反対」が49%で、「賛成」の36.7%
を12.3ポイント上回った。

日経の調査はもっと厳しく、「反対」が73%で「賛成」の17%を大き
く上回っている。国民の間には改憲イコール9条という認識が強く、改憲
内容をどうするかによって変わってくる。改憲論議は、もともと安倍が昨
年5月、9条1項(戦争放棄)、2項(戦力不保持)の規定を維持して自
衛隊を明記する案を提起したことから始まっている。改憲アレルギーを除
去するためには9条を後回しにして、石破の主張するように、参院選での
合区の解消や、大規模災害など非常事態の際に政府に権限を集中させ、国
民の権利を制限する緊急事態条項などを手始めに考えるのも良いかも知れ
ない。



2018年09月19日

◆安倍3選につけいる隙がないー自民総裁選

杉浦 正章

200票超えないと石破は沈没

 荒ぶるトランプをどうなだめるかが最初の課題

政局が自民党総裁選を軸に動き始めた。総裁・安倍晋三が20日に三選され
る方向は間違いないが、水銀柱の下降と反比例するかのようにボルテージ
が上がりはじめた。

対立候補石破茂派の農水相斎藤健が「安倍陣営から石場さんを応援するな
ら辞表を書いてやれと言われた」と「圧力」を暴露。安倍は石破とのテレ
ビ党論で「あるはずはない。そういう人がいるのであれば名前を言っても
らいたい」全面否定したが、石破は「被害者に名乗り出よというのは財務
相のセクハラ疑惑に似ている」とかみついた。

自民党幹部らが「まあまあ」とおさめたが、近頃にない“茶番”が見られ
て、茶の間は喜んだ。

それでは総裁選の展開を予想すると、石破にとっては200票を上回るかど
うかが今後の展望が開けるかの分岐点となる。総裁選は議員票405票と地
方票405票の合計810票の奪い合いとなる。

安倍の圧勝は決まっているが、得票によって政治的効果に大きな違いが生
ずる。安倍は議員票では80%350票を突破する勢いであり、石破は自派と
竹下派を加えて50票前後がよいところだろう。

地方票で安倍は、70%突破を目指すことになる。少なくとも国会議員票と
地方票の合計は70%に達したい考えだ。安倍が70%をとれなければ石破に
200票獲得を許すことになる。

安倍が55%を割った場合は石破が250票を上回り今後に存在感を示すと
言って良い。従って焦点はまず石破の200票超えが実現するかどうかだ。
しかし、石破人気が沸くにはほど遠く、超えなければ石破は政治的に大打
撃を受ける。

地方票の動向も最大の見所だ。6年前の総裁選で石破は55%を獲得してい
る。安倍選対事務総長の甘利明が「55%を超えたい」という理由はここに
ある。

しかしこのパーセントは安倍がまだ首相になっていない時点であり、首
相・総裁としての存在感を示している現在ではラインを低く設定しすぎだ
ろう。議員票で80%取っておきながら、地方票で55%そこそこでは、永田
町と一般党員との乖離(かいり)が目立つことになる。

投票結果がどうあれ総裁選後の内閣改造はあるのかが焦点となる。 安倍
は16」日のNHK番組で「来年は皇位の継承もあり、G20(主要20カ国・
地域首脳会議)と、その先に東京五輪・パラリンピックがある。しっかり
した人材を登用したい」と述べ、3選を果たした場合、内閣改造・党役員
人事を行う方針を表明した。人事をほのめかされては入閣候補らの動きは
当然安倍に向かう。巧妙なる“一本釣り”だ。

首相の信任にとって最も重要なポイントは景気の動向だが、安倍の就任以
来戦後まれにみる好景気が継続しており、石破はつけいる隙がない。昨年
末には、安倍が首相に就任した2012年12月に始まった景気回復局面が高度
成長期の「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の長さとなったことが確定
した。

今の景気回復が2019年1月まで続けば、02年2月から73カ月間続いた戦後
最長の景気回復を抜く。戦後最長の景気を維持しようとする首相を降ろそ
うとすれば、降ろす方が“悪人”となる。石破の人相はどうみても良いとは
言えず損している。

一方安倍の地球儀俯瞰外交は、歴代首相の中でももっとも活発であり、こ
れもつけいる隙がない。同外交は安全保障と経済の両面から戦略的見地に
立って推進している。

その「積極的平和主義」路線は「一国平和主義」から脱して、世界平和を
俯瞰して、必要ならば自衛隊の活用を含め貢献する形だ。しかし難題は日
米関係だ。トランプは、中国からの輸入品すべてに制裁関税を課す可能性
に再び言及した。

3弾の関税発動を24日にも最終判断するが、早くも「第4弾」をちらつ
かせている。トランプの対中関税攻撃はとどまるところを見せない。中国
も対抗措置を取っており、貿易戦争がさらに激しくなる危険をはらむ。

日本も対岸の火災視できない。中国で製品を作って対米輸出している日本
企業も多いし、トランプは例外を認めない姿勢だ。この“荒ぶる”トランプ
をどうなだめるかは、安倍とトランプの個人的な関係が重要となるだろ
う。日米両国は首脳会談を9月25日に米国で行う方向で調整に入った。米
ニューヨークでの国連総会に首相が出席するのに合わせて開くが、これま
でにない難問を抱え、世界が注視する会談となりそうだ。

2018年09月11日

◆党員・党友票でも安倍が優勢

杉浦 正章


石破「正直・公正」撤回でつまずく

次期首相を狙う以上、安倍政治の欠陥をつき、自らの主張を鮮明にすべき
だと思うが、石破の10日の発言からはそれがうかがえなかった。むしろ
主張があいまいで「挑戦の限界」すら感ずる立ち会い演説会であった。

肝腎の改憲論にしても自衛隊条項新設の姿勢を鮮明にさせた首相・安倍晋
三に対して、石破茂は参院選の合区解消など緊急性の薄い問題を取り上げ
9条問題の本質に迫ることを避けた。相次ぐ災害など緊急事態を前にし
て、挑戦者が首相交代という“政争” ばかりにうつつを抜かせない現状を
鮮明にさせた演説会であった。

首相の座に挑戦する政治姿勢について石破は「なにものも恐れずただ国民
のみを恐れて戦っていく」と意気込みを述べたが、当初の「正直・公正」
をキャッチコピーとして打ち出すことには陣営内で個人攻撃に対する異論
が生じ、結局採用を避けた。安倍のどこが不正直でどこが不公平なのかは
指摘しにくく、もともとこのコピーには無理があり、最初からつまずいた
形だ。

安倍の「現職がいるのに総裁選に出るというのは現職にやめろと言うのと
同じだ」という主張に対しても、石破からは明確な理由の説明がなかっ
た。石破の「政治の信頼を取り戻す」と言う発言からは、意気込みばかり
が先行して、具体策に欠ける姿勢が鮮明になるだけだった。

石破は記者会見で「安定した政権運営は特筆すべきだ」と安倍政権をたた
えたが、賞賛しながら立候補という矛盾は総裁選の歴史から見ても珍しい。

焦点の憲法改正について、安倍は「あと3年間でチャレンジしたい」と、
任期中の9条改正に意欲を表明。これに対し、石破は「丁寧に説明してい
かないといけない」と拙速な動きをけん制、首相との対立軸を明確にした。

改憲論議は、もともと安倍が昨年5月、9条1項(戦争放棄)、2項(戦
力不保持)の規定を維持して自衛隊を明記する案を提起したことから始
まっている。

石破は従来「9条改正が緊急性があるとは考えていない。9条改正は国民
の理解を得て行うべきであり、スケジュールありきで行うべきではない」
との立場である。

しかし、安倍は「いよいよ憲法改正に取り組むときがきた。自衛隊が憲法
違反ではないと言いきることができる憲法学者はわずか2割に過ぎない。
自衛隊員が誇りを持って任務をまっとうできる環境を作るのは政治家の使
命だ」と9条の改正に踏み込んでおり、石破の姿勢とは異なる。憲法改正
をめぐって、安倍が意欲を示す「自衛隊の明記」について、石破は、かね
てから「緊急性があるとは思わない」と指摘している。

石破は「憲法改正は必要なもの急ぐものから取り組むべきだ」として参院
選での合区の解消や、大規模災害など非常事態の際に政府に権限を集中さ
せ、国民の権利を制限する緊急事態条項などを「喫緊の課題」とした。石
破は従来から9条改正について「国民の理解を得て世に問うべきだ。理解
なき改正をスケジュールありきで行うべきではない」と、その緊急性を否
定している。しかし、9条改正は自民党の結党以来の党是であり、改憲す
る以上は9条に取り組むべきであろう。

石破が主張している「防災省」の設置についても、安倍は「防災省を作っ
ても、自衛隊や海上保安庁、厚生労働省を動かすには総理大臣が指示しな
ければならない。そこをどう考えるかだ」と指摘するとともに、「スピー
ディに政府を糾合できるのは首相だけだ」と屋上屋を重ねることに否定的
な考えを示した。

総裁選の進展状況は、まず国会議員票で安倍が石破を圧倒的にリードして
いる。選挙は議員票405票と地方票405票で争われる。安倍陣営には党内7
派閥中、安倍の出身である細田派など5派と竹下派の一部が参加。国会議
員405人の85%は安倍支持に回るとみられている。

一方、石破に接近しているのは参院竹下派。尾辻秀久元参院副議長が選対
本部長として旗振り役を演ずる。尾辻は「武士道を真ん中に据え、正々
堂々、真正面から戦おう」と宣言しているが、広がりが見られないようだ。

石破が唯一活路を見出そうとしている地方党員・党友票についても首相が
先行しているとみられている。6年前は石破を大きく下回ったが、今回は
完勝を目指して安倍は47都道府県のうち7割超の地方議員と面会するなど
先行している。

安倍選対の事務総長を務める元経済再生担当相甘利明は10日、党員・党
友票について「6年前に石破茂元幹事長が取った得票率は超えたい」と述
べ、55%以上の得票率を目指す考えを示している。安倍の圧勝は動かない
情勢だ。

2018年09月08日

◆トランプ暴露本の波紋広がる

杉浦 正章


マティス国防長官「トランプは、小学5,6年生」

ワシントンポストの著名記者ボブ・ウッドワードが、短気で予測不可能な
トランプを制御しようと苦闘する米政府高官の実態を暴露した。11日に出
版される「Fear(恐怖)」は、米政府高官らの生々しいトランプ批判を報
じている。ウオーターゲート事件以来の内部告発である。内容はトランプ
の愚かさを告発しているが、一種の“舌禍事件”であり、政権にとってはイ
メージダウンになっても致命傷にはなるまい。

ウッドワードは74歳になるが、ウオーターゲート事件でカール・バーンス
タイン記者と共に内部告発者“デイープスロート”から数々のスクープを掲
載、ニクソンを退陣に追い込んだ。筆者はワシントンポスト紙が販売にな
る午前零時過ぎにワシントンの街角で購入、両記者の署名入りの特ダネ記
事を度々転電したものだ。

「Fear(恐怖)」の抜粋を報じたウオールストリートジャーナル紙な ど
によると、トランプ側近らが、いかにトランプを軽蔑しているかが分か
る。抜粋はまずトランプが、今年1月の国家安全保障会議(NSC)で、
在韓米軍の常駐に関し「あの地域にどうして軍事資源を投入する必要があ
るのだ」と疑問を提起。

これに対してマティス国防長官は「我々は第3次 世界大戦を防ぐために
やっている」と米軍のプレゼンスの重要性を説いた が、トランプの退席
後、側近に「行動も理解力も、まるで小学5年生か6 年生だ」と漏らし
たという。

この席でトランプはあきれたことに「我々は 愚かなことをしなければ、
もっと金持ちになれる」など発言して、不満気 であったという。「金持
ち」になることが政権運営の尺度であるとは恐れ 入った。

 トランプはダンフォード統合作戦本部長に対して北朝鮮への先制攻撃計
画を策定するよう指示するという、驚くべき行動もとった。 政権発足当
時から問題になったロシア疑惑に関しても、マーラー特別検察官の事情聴
取を想定して弁護士と打ち合わせたが、事実認識が全くなく、作り上げで
お茶を濁そうとして、弁護士をあきれさせた。

こうしたトランプについて、「Fear(恐怖)」は、トランプの側近や閣
僚からも不満の声が漏れ聞こえるようになっているという。大統領首席補
佐官のジョン・ケリーまでがトランプを「ばか」「錯乱している」「かれ
に何かを理解させるのは無理」と述べたという。

これについてケリーは声 明で、自身がトランプ氏をばか呼ばわりしてい
たというのは事実ではない と打ち消した。「トランプ氏との関係は強固
で率直に何でも言い合える」 とも述べ、不和説の打ち消しに懸命になっ
ている。トランプも4日のツ イッターで「Fear(恐怖)の証言は嘘ばか
りで国民をだますものだ」と憤 りをあらわにした。

 この舌禍事件はトランプ政権の裏側を余すことなく伝えていて興味深い
が、その本質はニクソン政権が倒れたウオーターゲート事件とは天地の違
いがある。ウオーターゲート事件は1972年6月17日にワシントンD.C.の民
主党本部で起きた盗聴侵入事件に始まったアメリカの一大政治スキャンダ
ルである。

盗聴、侵入、司法妨害、証拠隠滅、特別検察官解任、大統領弾 劾発議、
大統領辞任と続いたが、盗聴、侵入は犯罪であり、今回の側近の 不平不
満とは性格を異にする。久しぶりに名前が登場したウッドワード も、老
記者の健在ぶりを示したが、本人が「この本で政権は終わる」と予 言す
るほど簡単には政権は倒れまい。ただ2か月後に控えた議会の中間選 挙
には民主党が下院で過半数を取る可能性が出てきており、そうなればト
ランプの政権運営は苦しくなる。

2018年08月27日

◆石破立候補は“消化試合”か

杉浦 正章


3年後には「岸田の壁」

「我が胸の燃ゆる思ひにくらぶれば煙はうすし桜島山」ー首相・安倍晋三
の桜島を背景にした出馬表明を聞いて、筑前(現在の福岡県)の勤王志
士・平野国臣が詠んだの短歌を思い起こした。

安倍が意図したかどうかは別として、薩長同盟が明治維新という歴史の舞
台を回転させたことを意識するかのように、激動期の難関に立ち向かう政
治姿勢を鮮明にさせたのだ。日々水銀柱の高止まりに連動するかのように
安倍批判を繰り返している石破茂に対して頂門の一針を打ち込んだ形でも
ある。今後9月20日の総裁選に向けてボルテージは高まる一方となった。
 
安倍の26日の演説は、総じて「格調」を重視したかのようであった。堰を
切ったように「まさに日本は大きな歴史の転換点を迎える。今こそ日本の
あすを切り開く時だ。平成のその先の時代に向けて、新たな国造りを進め
ていく。その先頭に立つ決意だ」と3選への決意を鮮明にさせた。その背
景には自民党国会議員の大勢と、地方票の多くが安倍に向かうとの自信が
あるようだ。

既に固まっている議員票は自派の細田派(94)を筆頭に麻生派(59)、岸
田派(48)二階派(44)衆院竹下派(34)をほぼ確保。さらに73人いる無
派閥へと浸食しつつある。

今回は議員票405票、地方票405票合計810票の争奪戦だ。前回12年の総裁
選では石破に地方票で大差を付けられたことから、安倍は夏休み返上で地
方行脚を続けている。しかし地方票が前回のような石破支持に回るかと言
えば、そうではあるまい。

地方票は議員票に連動する傾向が強いからだ。前回石破に地方票が流れた
のは安倍が首相になる前であったからだ。現職の総理総裁は、油断しなけ
れば地方票の出方を大きく左右させるだろう。総裁選後足を引っ張られな
いためにも最低でも半分以上は取る必要がある。

これに対して石破は自派20と反安倍に動く元参院議員会長・青木幹雄の支
援を得て参院竹下派の大勢の支持を得つつある。しかし、議員票は不満分
子を含めてもせいぜい50票弱を獲得するする方向にとどまるものとみられ
る。石破は愛知県での講演で「自由闊達(かったつ)に議論する自民党を
取り戻さなければいけない」と首相の党運営を批判した。

この石破の置かれた立場を分析すれば将来的な展望がなかなか開けないこ
とに尽きる。なぜならポスト安倍の本命は岸田と受け止めるのが党内常識
であるからだ。岸田が今回の総裁選に立候補しなかったのは3年待てば安
倍支持グループの支持を得られるという計算がある。

従って今後安倍が3年、岸田が2期6年やった場合、10年近く石破政権は
実現しないことになる。立ちはだかる「岸田の壁」は今後ことあるごとに
石破を悩ますだろう。石破派幹部は佐藤3選阻止に立候補した三木武夫
が、田中角栄の後政権についた例を指摘するが、田中の場合はロッキード
疑惑に巻き込まれて短期政権にとどまったのであり、慎重な岸田が高転び
に転ぶ可能性は少ない。


いずれにしても、今回の総裁選は野球で優勝チームが確定してから行う
“消化試合”のような色彩が濃厚である。なぜなら例えば石破が地方票の半
分を確保しても安倍が票の過801半数を確保する流れに変化は生じないか
らだ。石破が得をしていることと言えば、軽佻浮薄な民放テレビ番組が、
まともな対立候補として取り上げ、面白おかしくはやし立てることしかない。

世論調査で石破支持が安倍を上回るケースがある理由は、民放番組にあ
る。安倍陣営は気にする必要はない。石破はなんとかしてテレビ討論を実
現したいようだが、軽々に応ずる必要はない。石破を実体以上に大きく見
せてしまう。やるなら両者が日本記者クラブと会見して、それをテレビが
中継すれば良い。

2018年08月14日

◆首相、「改憲」軸に政局運営へ

杉浦 正章


求心力維持し、来年発議の構え

総裁3選後をにらんで、自民党総裁・安倍晋三が12日、憲法改正戦略を一
層鮮明にした。改憲案の「次の国会提出」を明言したのだ。安倍の5年半
を超えた政権では経済は長期にわたり景気を維持し、外交安保でも積極路
線で日本の存在感を高めており、大きな失政もない。

自民党内は3選で政権を継続させることに依存も少ない。9月の総裁選
は、石破茂が立候補しても安倍の圧勝となる方向は事実上確定しており、
求心力は「改憲」軸に維持されよう。

新聞や民放はただ一人の対立候補石破が安倍総裁との一騎打ちになるとは
やし立てるが、「一騎打ち」とは 敵味方ともに1騎ずつで勝負を争うこと
である。結果としてそうなったにしても彼我の力量の差は歴然としてお
り、アリが巨像に向かう事を一騎打ちとは言うまい。

なぜアリ対巨像かといえば、まず自民党内の議員勢力に雲泥の差がある。
安倍支持は自派の細田派(94人)を筆頭に、麻生派59人、岸田派48人、二
階派44人、石原派12人と圧倒している。

石破支持は同派の20人と参院竹下派の21人程度に過ぎない。前回安倍が大
敗した地方票も、安倍自身の地方行脚で基礎を固めており、支持も広がっ
ている。陳情一つとっても石破では話が通じないからだ。今回の総裁選
は、まるでプロスポーツの“消化試合”の様相だ。

長期政権はその求心力をいかに維持するかが最大の問題となる。7年半続
いた佐藤栄作政権は「沖縄返還なくして選後は終わらない」をキャッチフ
レーズに求心力を維持した。

安倍の叔父の佐藤栄作は72年5月の沖縄返還実現を見て、同年7月に退陣
している。安倍はここに来て自民党結党以来の悲願である憲法改正を推し
進める姿勢を鮮明にしている。

日の講演で「憲法改正は全ての自民党員の悲願であり、その責任を果たし
て行かなければならない。いつまでも議論だけを続けるわけにはいかな
い」と改憲発議への姿勢を明確に打ち出した。改正の焦点は「陸海空軍そ
の他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」という9
条2項だ。まぎれおなく羹(あつもの)に懲りた米占領軍の影響下にある
条項だが、独立国の常識としてまさに噴飯物の内容を構成しているといえる。
 自民党は今年の春に戦力不保持を定めた9条2項を維持した上で、「9
条の2」を新設して自衛隊を明記する案を固めた。これは安倍のかねてか
らの主張に沿ったものだ。安倍は2項を維持した上で、自衛隊の合憲を明
確にするとしている。

自衛隊を憲法に明記して古色蒼然たる違憲論争に終 止符を打とうとする
ものだ。国内の違憲論争に決着を付ける意味は大き く、世界の標準に合
致することになる。

これに対して石破は「2項を削除 して自衛隊の保持を明記し、『通常の
軍隊』と位置づける」としており、 首相と「維持と削除」で決定的な差
がある。石破の削除案には党内右派の 一定の支持はあるが、首相案の方
の支持が大勢の流れとなっている。加え て大規模災害時などに政府によ
る国民の生命・財産の保護義務を明確にす る緊急事態条項も創設される
方向だ。

自民党が総裁選での最大の焦点に改憲問題をテーマとするケースは珍し
い。これは自民、日本維新の会など改憲勢力が衆参両院で必要な3分の2
を占めていることが、現実味を帯びさせているのだろう。

安倍戦略は、9 月の総裁選を機に改憲への基盤を固め、秋以降の国会を
改憲にとって千載 一遇のチャンスと位置づけ、自民党の改憲案を提示
し、通常国会での発議 に持ち込む構えであろう。2020年の新憲法施行へ
とつなげたい 考えのようだ。

この結果、最大の政治課題は、既定路線の3選そのものにはなく、3選
後に何をやるかに焦点が移行しつつあり、改憲は佐藤が沖縄返還で最後ま
で求心力を維持したこととオーバーラップする。ただ、連立を組む公明党
は来年の参院選を控えて慎重論が強く、安倍の憲法改正発言に警戒を強め
ている。今後折に触れ、クギを刺したり、横やりを入れる動きを見せそう
だ。野党も立憲民主党や国民民主党を中心に警戒論が高まろうとしている。

2018年08月09日

◆竹下派、「自主投票」と言う名の「分裂投票」

杉浦 正章


竹下(亘)の力量不足が主因ー自民総裁選

名門竹下派の総裁選への対応が空中分解して、自民党総裁・安倍晋三の事
実上独走態勢が固まった。安倍は9月の総裁選挙で所属国会議員8割以上
の支持を受けて3選される流れとなっている。安倍3選は筆者がもともと
「決まり」と報じてきたが、ますます「決まり」となった。

国会議員の安倍支持勢力は細田派94人、麻生派59人、岸田派48人、二階派
44人、石原派12人の大勢となる見通しだ。405票ある国会議員票の8割近
くを安倍がまとめつつある。

一方竹下派の参院議員は大勢が元幹事長・石破茂を支持する方向だ。立候
補の意欲を見せる石破は、自派と参院の竹下派21人程度の支持で、せいぜ
い50票弱を獲得するする方向にとどまる。

石破の狙いは3年後の総裁選にあるが、安倍の圧勝は、立候補を見送り安
倍支持に回った前外相・岸田文男に勝てない流れを生じさせそうだ。岸田
が立候補する際には安倍派が岸田に雪崩を打つからだ。

竹下派の内部事情は衆参で月とすっぽんほど異なる。その原因は総務会
長・竹下亘の指導力欠如に如実に表れている。同派の衆院側は、経済再生
担当相・茂木敏充、厚生労働相・加藤勝信ら8割超が安倍支持へ動いている。

一方参院は元参院議員会長・青木幹雄が反安倍路線であり、政界引退後も
影響力を保持している。その理由は極めて個人的で、青木の長男一彦がは
2016年参院選から合区された「鳥取・島根」選挙区で、石破の手厚い
支援を受けていることだ。青木としては、石破の協力を得て、一彦の選挙
基盤を盤石にしたい思惑があるのだ。

竹下はこのほど同派衆参両院議員らから総裁選への対応を聴取したが、衆
院23人が安倍支持を表明、石破支持は竹下自身を含めて6人程度にとど
まっている。

参院側は21人の大半が石破支持であり、青木の影響を感じさせる。「鉄の
結束」を誇り、遠く佐藤栄作派に源流を置く竹下派も、近年では総裁選で
自派候補を出せないままとなっている。

異母兄に当たる故竹下登と亘の政治力の差が如実に出ているのだろう。竹
下は自分自身が石破支持のようであり、この方向で派内をまとめようとし
たが、安倍支持勢力の反発を食らい、力量の不足を見せつけた。8日の幹
部会でも竹下は一本化を試みたが、実現に至らなかった。結局竹下派は
「自主投票」という名の分裂投票に突入するしかない方向となって来た。

福田康夫の任期途中での総裁辞任に伴う2008年総裁選挙でも、派内の 支
持は3候補に分断されている。自民党内7派閥のうち態度を表明してい
なかった石原派12人は9日の幹部会合で安倍支持を打ち出す方向だ。


2018年08月02日

◆竹下派が“分裂総裁選”へ

                                  杉原 正章


“ラスプーチン”も暗躍

自らの将来を思うと暗然とした気分にならざるを得ないのが元幹事長・石
破茂だろう。依然として自民党総裁、すなわち首相への道は見えてこない
と言わざるを得ないからだ。ジタバタすればするほど、先が見えなくなる
のが石破の置かれた立場のように見える。

それにもかかわらず参院竹下派が、たった21人とはいえ石破支持に動くの
も解せない。どうも暑さで政治家も、意識が朦朧として判断力が鈍ってい
るかのようだ。

竹下派は保守本流を行く名門派閥だ。遠く吉田派に端を発し、佐藤→田中→
竹下→小渕→橋本→津島→額賀→竹下派と続いてきたが、常に時の政権の基盤
となる動きが目立ったものだ。

ところがここにきて9月の総裁選で参院側が各派のトップを切って総裁選
への態度を決定、石破を推す流れとなった。参院竹下派は31日、幹部8人
が会合、石破支持の方向を確認したのだ。「反旗」をかかげたが、一方
で、竹下派の衆院議員は、経済再生担当相茂木敏充らをはじめ首相支持派
が8割以上に上る見込み。同派は分裂投票となる。

派閥会長竹下亘は、板挟み状態となった。判断力が試されている。総裁選
の大勢は、事実上細田、麻生、岸田、二階の4派の支持を取り付けている
安倍の圧倒的優位は変わらない。

新聞はすぐにこうした動きを「森友・加計を抱える安倍への国民の不信
感」に結びつけたがるが、森友・加計は1年半たっても何も政権直撃の疑
惑など生ぜず、朝日と野党の結託が生じさせた虚構にすぎない。

加えてこの参院竹下派の動きの背景には政局と言えば顔を出す怪僧ラス
プーチンの暗躍がある。政界引退後も竹下派に影響を持つ元参院議員会
長・青木幹雄だ。

今回の青木の“仕掛け”は極めて個人的な原因に根ざしているようだ。鳥取
出身の石破が、前回の参院選における「鳥取・島根」合区選挙区で青木の
長男、一彦の再選に尽力したことへの“返礼” の意味があるといわれてい
るのだ。

引退後も“参院のドン” は健在ということになる。竹下派の参院議員らも
「石破を支持して安倍に圧力をかける」と威勢は良いが、この選択は得る
ものが少ないことを分かっていない。

というのも大きな政局の流れは安倍の3選が確実であり、安倍政権はあと
3年継続する。安倍の後は岸田が本命であり、岸田政権は6年は続くだろ
う。当然安倍の後を石破も目指そうとするだろうが、安倍支持グループの
大勢が石破を推すことはまずあり得ない。岸田を推す者が多いだろう。

そうなれば、石破派と支持グループは、かれこれ10年冷や飯を食らうこと
になりかねないのだ。10年の冷や飯ということは、政治家にとっては夢も
希望も失せるのであり、致命傷だ。従って石橋支持の選択肢はいずれ潰れ
るのが落ちだ。

青木も「真夏の夜の夢」を見るのは自由だが、議席を失ってまで政局に口
を出すのは「年寄りの冷や水」と心得た方がよい。

こうした中で幹事長二階俊博が31日、ソウルで「安倍総理への絶対的支
持を表明する。国民が真のリーダーシップを託せるのは安倍総理をおいて
他にない」と支持を表明。

衆参で総裁選対応が割れる可能性が出てきた竹下派についても、「私らの
グループはこっちが安倍さんを支持し、そっちが誰かを支持するとか、そ
んな器用なことはやらせたことはない。そんなのは派閥とは言えない」と
酷評した。確かに総裁の選択という重要局面で衆参の判断が異なるとは、
派閥の体をなしていない。名門竹下派も凋落したものだ。

こうした中で派閥間の動きも活発化しはじめており、31日夜には岸田、石
破、前経済再生相・石原伸晃、元防衛相・中谷元が会合。石破が岸田に
「私が立候補の際はよろしく」と支援を要請するなど、水銀柱の上昇と比
例するかのように生臭さが一段と強まってきた。


2018年07月25日

◆石破の仕掛けは“無理筋”だ

杉浦 正章


地方党員票でも“劣勢”の可能性

オリンピックの始祖クーベルタンではないが、元自民党幹事長石破茂も
「参加することに意義がある」のか。9月7日告示、20日投開票予定の総
裁選が岸田文雄の不出馬宣言で、自民党総裁・安倍晋三と石破の一騎打ち
となる。

一騎打ちと言っても、国会議員票はもちろん地方議員票も大勢は安倍支持
であり、石破が大逆転を起こす可能性はゼロだ。石破は次につなげる狙い
だが、次は安倍の支持を得るであろう岸田が圧倒的に有利であり、石破へ
の展望は開けない。要するに石破は“無理筋”の仕掛けをしようとしている
のだろう。一方、女だてらに出馬への意欲を見せる野田聖子は、推薦人も
ままならずもともと無理。

焦点は最近3回行われた安倍・岸田会談だ。特に23日夜のすぐにばれた
“極秘会談” が岸田不出馬の決め手となったのだろう。自民党内ではこの
場で3年後の禅譲を自民党総裁・安倍晋三がほのめかしたとの噂がある
が、疑わしい。

そもそも首相が禅譲を明言した例は過去にも少ない。よく知られている例
は1946年敗戦後の占領下で鳩山一郎から吉田茂の間で政権移譲の約束
が交わされた例がある。有名なのは福田赳夫と大平正芳による いわゆる
「大福密約」だ。

禅譲約束が少ないのは首相が禅譲をいったん表明してしまったら、政治は
次に向かって動き始めてしまうからだ。まだ3年も任期があるのに、安倍
が自らの手足を縛ることはあり得ない。

ただここで岸田が「出馬せず」を選択したことは、ポスト安倍の総裁候補
としての道を開いたことは確かだ。自民党内の大勢はそう見ている。出馬
すれば、安倍に敗退して「非主流派」への転落が不可避であり、選択はそれ
しかなかったにせよ、結果としては安倍に「恩を売る」ことになるからだ。

また岸田が地方選で石破に負けて、3位になる場合もあり得るし、これも
まずい選択だ。3位では将来への弾みになりにくいからだ。岸田派内では
不出馬について侃々諤々(かんかんがくがく)の賛否両論があったが、結
果的には派閥の結束を優先しつつ安倍支持しか方途はなかった。

岸田は次の総裁選で細田、麻生、二階3派の支持を得る戦略を選択したの
だろう。

自民党総裁選挙は新規定により国会議員票405票と党員票も同じ405票で争
われる。安倍支持は第1派閥の細田派(94人)、第2派閥の麻生派(59
人)、第4派閥の岸田派(48)、第5派閥の二階派(44人)が明確にしつ
つある。これに石原派や谷垣グループも大勢が支持して300票を超える圧
倒的な多数を形成しようとしている。態度表明が遅れている竹下派も、安
倍支持の幹部が多く大勢は安倍に回るだろう。
 
これに対して石破派は2015年に旗揚げしたときは、石破を含めて20人で
あったが、それ以来増えていないのである。立候補するには本人を除いて
20人の推薦人が必要だが、誰か派閥以外から引っ張り込まないと立候補
できない。今後石破は必死の勧誘をする方針だが、推薦人の数が確保出来
ても議員票で優位に立つ可能性はゼロだ。石破としては、負けを承知で
「3年後」につなげるための総裁選と位置づけざるを得ないのだ。
 焦点は地方票の動向に絞られる。来年は統一地方選挙と参院選が行われ
る年であり、地方党員にとっても、誰を選挙の顔の総裁にするかが重要と
なる。今回も地方票がどの程度石破に向かうかが興味深いところだ。

2012年の総裁選では石破が党員票165票を獲得して、87票の安倍 の心胆を
寒からしめた。安倍が議員票で押し返して総裁に選出された。 従って石
破は、夢よもう一度とばかりにこのところ地方行脚を活発化して いる。

目の付け所は悪くはないが、地方党員が前回のように石破を支持す るか
と言えば、ことはそう簡単ではない。地方党員は選挙を意識して、物 心
両面での支援を党執行部に求める傾向があるのだ。

安倍だけでなく、党 幹部や派閥首脳の応援が必要となるのであり、これ
は政権側が強い。石破 は一人で孤立気味だ。したがって、石破が地方票
に突破口を求めても、実 情はそう簡単ではない。石破は国会議員票でも
地方党員票でも劣勢を余儀 なくされているのだ。こうして由井正雪の変
ならぬ「石破の変」は、「安 倍幕藩体制」を揺るがすほどの事態に陥る
ことはあり得ず、安倍政権は9 月の自民党総裁選で3選すれば来年2月
に吉田茂、20年8月に佐藤栄作 をそれぞれ抜いて超長期政権となる流
れだ。


2018年07月18日

◆原発ゼロで結託、しらける自民内

杉浦 正章



真夏と言えば怪談話だが、最近永田町の柳の影から夜な夜な「政権交代だ
ぞ〜」という幽霊が現れるようだ。あの懐かしい仕掛け人二人だ。一人は
「変人」と呼ばれる元首相の小泉純一郎。他の一人はいまや「政権交代の
権化」ともいえる自由党代表小沢一郎だ。

この“小・小コンビ”は、全く波風が立たない政界に、これもとっくに忘れ
去られている「原発ゼロ」を合い言葉に政権交代を目指して結託してい
る。首相・安倍晋三の足をなんとしてでも引っ張りたい朝日はこの動きを
とらえてはやし立てるが、野党はおろかな低俗民放ですら無視。とても政
権揺さぶりの“うねり”など、生ずる気配もない。

 小沢、小泉の両人とも共通した特性がある。年を取っても若い頃が忘れ
られず「血が騒ぐ」のだ。政治家の発想の原点などは単純なもので、小泉
は安倍が、政治の師でもある自分の在任期間である1981日を5月に抜き、
9月の自民党総裁選で3選すれば来年2月に吉田茂、20年8月に佐藤栄作
をそれぞれ抜く超長期政権となる流れとなっているのが口惜しくてたまら
ないかのように見える。小沢は何が何でも政局化の人だ。

その小沢と小泉が“小・小コンビ”でくっついたのだから、政界は面白
い。小沢は16日、東京都内で開かれた自らが主宰する政治塾で講演し、
「野党が政権の受け皿を形成しなければ、いつまでも安倍政権、一強多弱
の状況が続く」と述べた。

さらに小沢は15日に政治塾で講師を務めた小泉と、同日夜に会食したこと
も紹介。小泉が「野党が一つになって『原発ゼロ』で勝負すれば必ず選挙
で勝てる」と発言し、小沢は「その通りだ」と応じたという“陰謀”を明ら
かにした。

反安倍の“野合”も勝手だが、安倍にはなかなか隙が見つからない。
2012年以降の安倍政権は、戦後日本政治史の中でも珍しい強靱(きょ
うじん)性」を発揮しており、小沢や小泉も突くに付けないのが実態なの
であろう。だから仏壇の奥からはたきをかけて原発ゼロなどと言うキャッ
チフレーズを持ち出さざるを得ないのだ。

しかし、いまやマスコミは原発ゼロなどには新鮮味を感じない。2011年の
福島原発の事故は、日本の科学技術力によって「沈静化」されたのであ
り、小沢や小泉が“血気”にはやっても、朝日以外のマスコミは乗らないのだ。

朝日は16日付けの記事で「小沢氏増す存在感」「3度目の政権交代へ最後
の挑戦」となりふり構わぬ“よいしょ”を小沢に送った。

「小沢氏が約50年に及ぶ政治家人生でめざした政治主導の一つの帰結
が、この政治状況だけに舌鋒(ぜっぽう)は鋭い」だそうだが、この政治
状況とは何か。政権が揺らいでほしいのは分かるが、意味不明の浅薄な表
現では読者は戸惑う。

さらに朝日は「参院選を1年後に控えて意識するのは、第1次安倍内閣の
退陣の引き金になった07年参院選だ。民主党を率いて年金記録問題などの
政権不祥事を追及し、民主単独で60議席を得た。

対する自民は37。衆参の多数派が異なるねじれ状態に持ち込み、政権交
代の素地をつくった」だそうだ。この表現の根幹にあるのは来年の参院選
への特異な期待であって、公正な選挙情勢や政治状況の分析ではない。

政権を野党やマスコミが突くには経済状況の悪化が一番だが、官房長官・
菅義偉がいみじくも「ようやくデフレでない状況まで日本の経済を築き上
げることができた」と発言しているとおり、今日本経済は戦後まれに見る
活況を呈しているのであり、経済状況につけいる隙はない。

小沢や小泉が“老人性血気”にはやっても、自民党内はよほどの偏屈しか付
いてゆかないのだ。自民党総裁に誰がふさわしいかという朝日の調査をみ
れば、国民の空気は一目瞭然だ。安倍が28%でトップ、石破23%、野田
7%、岸田5%だ。政界は寸前暗黒が常だが、それにだけこだわっては政
局を読むことはできない。