2016年09月14日

◆ぼろ続出で“蓮舫ブーム”とはほど遠い

杉浦 正章



公選法抵触問題、首相の座も目指せない
 

蓮舫二重国籍問題のポイントは、次期代表に民進党が選出した場合に政治的なディスアドバンテージが目立つことである。1つは公選法に抵触する恐れのある議員を、党首に推戴することのマイナス。他の1つは政党の代表は大小を問わず首相の座を目指すのが憲政の常道だが、蓮舫の場合きわめて難しい。


この2つのいわば“致命的問題”を抱えて、党勢挽回が可能かということにつきる。土井たか子以来の第二党の党首になる可能性が高いが、土井ブームのような現象は生じそうもないのである。

 まず公選法問題だが、蓮舫は2004年の参院選挙公報とホームページ上に「台湾籍から帰化」と書いたが、これは二重国籍を認めた以上虚偽の記載となる。以後、3回に渡って参議院議員に当選したが、おそらく証拠隠滅を目的として2016年にHP上の記述を削除している。明らかに公職選挙法の虚偽記載となる可能性が高いからだ。

さらに首相の座を目指すことがなぜ困難かと言えば、外交・安全保障上の問題がある。人事院規則により多重国籍者は外交官に採用することを禁止されていることがポイントだ。同規則8-18(採用試験)の規定により、多重国籍の者は、外務省専門職員の採用試験は受けられない。国籍を有しない者又は外国の国籍を有する者は、外務公務員となることができないのである。ということは、この公務員を指揮監督する立場にある外相はもちろん、その上にたつ首相も、二重国籍者が就任してはいけないことになる。


憲法にはその規定はないが、事実上国政選挙で排除される可能性が高い。台湾籍を放棄すれば可能かと言えば、これも選挙民がネガティブな判断するだろう。民進党は、沈滞する党勢を拡大するため美人で雄弁で話題性のある蓮舫に期待するところが大きいが、その実は選挙向きでない党首を抱えて選挙を戦うことになるのだ。


民進党代表・岡田克也は「父親が台湾の人だからなんかおかしいような発想があるが、きわめて不健全だ。多様性を大事にするのは我が党の基本的価値観」と発言しているが問題はそこにはない。不健全であろうが、党の基本的価値観であろうが、蓮舫が二重国籍である事実と、首相にふさわしい政治家であるかの2点は別問題なのである。


それでは、仮に2大弱点を除いた場合、政党のリーダーとしてふさわしいかどうかだが、これも疑問が生ずる。その発言から見ると美人の悪い癖が垣間見える。それは二重国籍疑惑について「今そのようなうわさが流布されるのは本当に悲しい」と述べた事である。

この「悲しい」発言は、明らかに「悲しむ美人」を演出しているのだ。テレビタレント出身だけあって視聴者の同情をいかにして買うかのテクニックに長けているが、政治の世界ではこのような情緒的発言は、鼻につくし邪道だ。蓮舫の過去の政治行動を見れば女性だから美人だから許されるという判断が多い。国会内でファッション雑誌の撮影をして、参院議長から「不適切」と厳重注意を受けたのがよい例だ。


民主党政権の“おごり”の現れでなくて何であろう。「仕分けの女王」ともてはやされて、次世代スーパーコンピューターの仕分けで予算を削減したが「2位じゃだめなんでしょうか」という“名言”を吐いた。事の本質を理解していないのだ。1位を目指さない限り2位もないのだ。石原慎太郎が「文明工学的な白痴」と評したが、見事に形容している。まるでマリーアントワネットが「パンがなければケーキを食べればよい」と述べた「パー」さ加減と酷似している。

岡田は「蓮舫ブーム」を期待しているが、外国の女性党首を見るがよい。「鉄の宰相」マーガレット・サッチャーに始まって、ドイツ首相・アンゲラ・メルケル 、台湾大統領・蔡英文、英国首相テリーザ・メイ、初の米大統領になりそうなヒラリー・クリントンにいたるまで共通項は「男以上の男」であり、「色気」などは、あってもみじんも見せない。世界的にも二重国籍の指導者は少なく、ペルーの元大統領・アルベルト・フジモリくらいのものだ。

社会党党首で自民党を追い込んだ土井たか子も、若い頃は美人で筆者もあこがれたが、活躍した時期は男性ホルモンいっぱいのおばさんであった。1989年の第15回参院選では、消費税、リクルート事件の追及で圧勝、自民党を過半数割れに追い込み、「山が動いた」という名言を吐いた。与謝野晶子の詩「そぞろごと」の冒頭「山の動く日来たる」をふまえた言葉だ。


民進党が蓮舫を担ぐ背景には、紛れもなくポピュリズムが存在する。小池百合子が“ポピュリズムの自転車操業”で都政を運営しようとしているのと同じで、なんとか「蓮舫ポピュリズム」で、党勢を挽回しようとしているのだろうが、るる述べてきた理由で裏目に出つつある。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月13日

◆米韓に対北軍事強硬論が台頭

杉浦 正章



韓国紙が社説で核武装論

金正恩はもう戻れないルビコンを渡った。5回目の核実験が意味するものは、核弾頭搭載ミサイル製造のめどが立ったことである。レッドラインを超えたのだ。今後一年以内に実戦配備となる可能性が高い。従って焦点はもう無意味な国連制裁にはない。米韓が軍事行動に出て核配備を食い止めるかどうかにある。


米国内ではサージカル・ストライク(外科手術的攻撃)で、ピンポイントに金正恩と核製造施設を攻撃し、指揮系統を崩壊させるべきとの論議が再び高まりつつある。韓国では新聞が社説で核武装論を堂々と主張するようになった。東アジアにおける核ドミノ現象の兆候である。金正恩はさらなる核実験を準備しており、米軍はB1爆撃機を韓国に派遣して軍事圧力を強める。


金正恩がルビコンを渡ったことは、米韓が軍事行動のルビコンを渡るかどうかということになる。中央日報によると、朴は金正恩を呼び捨てにしたばかりか「狂人」に例えた。「金正恩の精神状態は統制不能」「金正恩の狂った核実験の敢行」と述べたのだ。韓国内では対北強硬論が台頭し始め、与党のセヌリ党内で核武装論が高まりを見せている。


次期大統領選候補の一人金武星は「韓米原子力協定の交渉などを通じ、原子力潜水艦の導入や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発、米国の戦略核兵器の配備など、取り得る全ての方策を動員すべき時だ」とFacebookに書き込んだ。米国の戦術核を再配備して北と『恐怖の均衡』を取ろうとする意見だ。


一方中央日報は社説で「北朝鮮の核武装は防げない段階まできた。韓半島(朝鮮半島)の非核化をもう維持できなくなったと解釈できる」と現況を分析。「北朝鮮の核開発に対して今まで防御的な立場で対処してきた政府の政策は限界に達した。北朝鮮の核に対するより強力な抑止力が求められる。『核には核で対応』するというレベルで、米国の戦術核を条件付きで韓半島に再配備する必要がある」と主張した。


北大西洋条約機構(NATO)では、ドイツなど加盟国の空軍戦闘機に戦術核を搭載して作戦を展開できるように組織化されていることを見習えというのだ。しかし韓国政府はこうした動きにきわめて慎重だ。連合通信によると政府関係者は、「これまで強調してきたように朝鮮半島に核があってはならず、核兵器のない世界のビジョンは朝鮮半島から始まらなければならない」と否定している。


一方韓国軍高官は初めて巡航ミサイルなど韓国独自の兵器を使って、平壌の金正恩が潜んでいる地域を地図から抹殺できる能力を独自に保持していることを明らかにした。「大量反撃報復」と名付けた。


一方米国はどうか。ホワイトハウスや国防総省があくまで“オプションの1つ”として、サージカル・ストライクを考えていないわけはないと思う。焦点は国防長官・アシュトン・カーターが何を考えているかだ。カーターは過去にTime誌に北朝鮮空爆の実施を説いた論文を投稿、米政府部内でも古くから空爆論を唱えている。


カーターは、精密誘導兵器を使用すれば北朝鮮の核施設への空爆は十分な成果を挙げられると読んだ。しかも放射能をまき散らさないで済むとの計算だったという。空爆を決行しても戦争に発展する可能性は高くないとも判断していたのだ。状況は、イスラエル空軍機がイラクのタムーズにあった原子力施設を、バビロン作戦(別名オペラ作戦)の作戦名で1981年6月7日に攻撃した武力行使事件と酷似している。

 
おそらくカーターの心中は、金正恩と核施設を攻撃するなら今しかないとの戦略がよぎっているのではないだろうか。つまり、現段階なら核ミサイルが実戦配備される状況になく、まだ北の核兵器による報復は不可能であるからだ。これが最後の空爆のチャンスであると考えているのであろう。


問題はソウルが火の海になる可能性があることだ。大量の通常兵器の砲門はソウルに向けられており、これを壊滅させることが不可欠である。通常爆弾でもそれは可能とみている。問題はそのルビコンを渡れるかということだ。金正恩は完全にオバマを見くびっており、残る4か月の任期では、軍事行動には出ないと読んでいるのだろう。しかし原子力空母ドナルド・レーガンを中心とする機動部隊は、巡航ミサイルだけでも500発の核を搭載可能であり、狂気の火遊びをしている金正恩はそこに気づいていないのだろう。


日本もミサイル3発を排他的経済水域(EEZ)に撃ち込まれて、「核を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核3原則維持などとは言ってられなくなるだろう。少なくとも「持ち込ませず」は困難な状況になりつつある。よりミサイル防衛体制を強化するために高高度防衛ミサイル(THAAD)を導入することも喫緊の課題だ。


こうした準戦時状態というような事態が生じつつあるのは、ことごとく中国の責任だろう。英国チェンバレンの融和策が、ヒトラーを増長させたように、甘い対応は独裁者を勢いづけるだけだということを分かっていない。


3月の国連決議の際に筆者は、北は何の痛痒も感じまいと予言したが、その通りだった。中朝国境の豆満江にかかる2つの橋は連日車両のラッシュが続いており、貿易量は制裁前を上回っているとの見方さえある。これは中国が金正恩に核爆弾製造を奨励しているようなものだ。北の崩壊は、中国自身の体制崩壊につながるという、基本戦略に凝り固まっているからだ。


従って中国は、実効性のある国連決議には今後も常に反対という立場を貫くだろう。とりわけ北との取引に応じている中国企業を対象とする制裁には、金輪際応じないだろう。しかし、5回目の核爆発はジレンマも生じさせた。韓国や日本が米軍の核搬入を公然と認めるようになれば、中国自身の安保戦略を直撃するからだ。極東の軍事バランスの均衡は中国不利の方向に崩れるのだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)  

2016年09月09日

◆安倍がドゥテルテ対策で米の失策をフォロー

杉浦 正章

 

日比関係構築で、中国傾斜を阻止
 

取材記者らは専ら中国の領有権を否定した仲裁裁判所の判決が共同声明に具体的に文字として盛り込まれるかどうかが焦点のように報じ続けたが、大局を見ていない。浅薄すぎる。とりわけ朝日は9日「南シナ海仲裁判決焦点にならず閉幕」と相変わらずの中国が大喜びしそうな報道ぶりだが、実際は焦点になったのだ。その上、文中で「フィリピンのドゥテルテ大統領も判決に言及しなかった」と大誤報をしている。


時事電では具体的に言及している。大会議の取材は本筋をつかむことが難しいが、首相・安倍晋三とオバマと比大統領・ロドリゴ・ドゥテルテなどが中国大敗北の判決に言及すれば十分だ。総じて、中国の首相・李克強は安倍の“攻勢”にたじたじの様相であった。


安倍の中国封じ込めの国際世論喚起は杭州でのG20に続いて、紛れもなく成功したのだ。当分中国は静かにするだろうが、習近平は南シナ海制覇の野望を捨てていない。焦点のスカボロー礁の埋め立てへと動くのは時間の問題だろう。
 

忘れてはならないのはASEANというのは、異論は異論として認め合う極めてゆるやかな結束なのである。対中関係も領有権でぶつかってきたフィリピン、ベトナムと、中国から多額の援助をうけているラオス、カンボジアとは全く相いれない外交を展開してきている。したがって安倍やオバマが中国による南シナ海の軍事基地化を阻止しようとしても、もともとASEAN諸国は足並みを揃えて賛同するわけがないのだ。


こうした中で予想外のハプニングが生じた。“暴言王”ドゥテルテが、オバマを「売春婦の息子め」と記者会見で侮辱する発言を繰り返し、ついにオバマが怒って会談を拒否してしまったのだ。さっそく李克強は会議でドゥテルテに接近、「鉄道敷設で力になる」と甘言ですり寄っている。
 

ドゥテルテは外交・安保など全くのど素人であり、動物的な直感だけで対応している。オバマが2000人近い麻薬密売者を殺害している現況を捉えて、人権問題として戒めようとしたのに過剰反応したのだ。一代で大会社を築き上げたワンマン社長によくみられる、自信過剰と独善性を兼ね備えた人物であり、自分の琴線に触れる発言は許そうとはしないのだ。


対中関係では毅然(きぜん)たる態度を取ってきたアキノとは大違いであり、米国にとっては大誤算であった。下手をすれば肝心のフィリピンを中国側に追いやることになりかねないからだ。ここはオバマがぐっと自分のことは我慢して大局から判断し、会談を実現して説得することが正解であり、オバマにしては珍しい失策となった。
 

そこに大きな貢献をしたのが安倍だ。詳細は報じられていないが、安倍はドゥテルテと会談、南シナ海をめぐる問題について,法の支配の重要性等について意見を交換,調停仲裁の判断も踏まえ,紛争の平和的解決に向け,協力関係を強化していくことを確認したのだ。


安倍が中国の海洋進出の危険性について、「一から教えるように諭した」(外務省筋)のだ。さらに安倍は約165億円の円借款で大型巡視船2隻を新たに供与、海上自衛隊の練習用航空機を貸与することも改めて確認した。ドゥテルテからは感謝の表明と「日本とフィリピンは常に良好なパートナーであり、今後とも協力関係を深化させたい」との発言があった。


また,安倍はドゥテルテの“泣き所”もうまく突いた。ドゥテルテが幼少時代から育って7期も市長を務め、愛してやまないダバオ市の都市インフラ開発計画策定への支援を表明したのだ。ドゥテルテは「日本はダバオ市の発展に多大な貢献をしており感謝している。日本のJICAの支援の目的は地域の発展であり、フィリピンとしてその役割に信頼を寄せている」旨述べた。こうして安倍はドゥテルテと新たな関係を築くことに成功したのだ。
 

安倍の説得を受けたドゥテルテは朝日の誤報とは逆に東アジア首脳会議で仲裁判決に言及した。時事によるとドゥテルテは、仲裁判決について「今や海洋分野に関する国際判例の一部となっている」と指摘。仲裁判決や国際法に合致した「ルールに基づくアプローチ」で、南シナ海紛争の平和的解決を模索する考えを示したのだ。こうして対中封じ込めの日米タッグマッチは、オバマの失策を安倍がフォローして事なきを得た形となった。
 

したがって、安倍とドゥテルテの新たな関係が今後中国の南シナ海への理不尽な進出を止めるくさびとして作用する流れとなった。フィリピンの目と鼻の先のスカボロー礁の中国軍事基地化阻止は、日米の対中戦略の要である。オバマのレームダック化で次期米大統領が登場するまでは、何としても安倍が対フィリピン関係で役割を果たさなければなるまい。早期にドゥテルテを日本に招待して一層の関係を築くくべきだろう。
 

中国はASEAN諸国との間で、法的拘束力を持つルール「行動規範」の策定に向け、来年中ごろまでの枠組み合意を目指して交渉を加速させることで一致したが、これは、“空証文”にすぎないとみる。規範は各国の行動を法的に規制し、紛争防止を図るものだ。しかし、それまでの間スカボロー礁に中国が進出しないという約束はないし、ずるがしこくも米海軍の巡視を口実に「行動規範どころではない」と先延ばしにする可能性も十分にある。


要するに南シナ海の問題は、日米を中心とする海洋進出阻止の動きと、中国の既成事実化の動きのせめぎ合いであり、この構図は予見しうる将来変わらないだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月08日

◆紛れもない極東の危機に専守防衛の時か

杉浦 正章



敵基地攻撃とTHAADで盾と矛を備えよ


空しく響くばかりだ。またも国連の北朝鮮非難声明である。非難声明を出す度に無力な国連の姿をさらけ出している。一方で日本攻撃用弾道ミサイル・ノドン3発を同時発射させた金正恩は、醜い高笑いを繰り返している。最貧国指導者の危険な火遊びと、狂気の高笑いである。ロシアが止めても中国が止めるふりをしても、全く暴走を止めない。そうこうするうちに発射技術は向上の一途だ。日本に核攻撃した後も高笑いするのだろう。


歌の文句なら「もうどうにも止まらない」だ。何をするか分からないから“狂気”なのであって、日本はもう専守防衛の時代ではない。やむにやまれず国民を核の脅威から守る自衛策を打ち立てなければならない。それは敵基地先制攻撃能力の確立であり、高高度防衛ミサイル(THAAD)の導入である。
 

首相・安倍晋三が習近平に「中国が主催する20カ国・地域(G20)首脳会議開催中に強行したのは許しがたい暴挙だ。責任ある国連安保理常任理事国としての中国の建設的な対応を期待する」とねじ込んだのは、中国への抜きがたい不信感が背景にある。度重なる国連の制裁決議を無視するかのように中朝国境の豆満江にかかる二つの橋は、中国と北朝鮮の交易で毎日ラッシュ状態。ミサイルの材料だろうが、核転用の材料だろうがどんどん入ってきて、北はいささかの痛痒も感じない。


その豆満江に台風によって観測史上最大の洪水が発生、約4万4千人が屋外生活を強いられているにもかかわらず、北の太った大王はミサイルと核開発に専念だ。近く5回目の核実験をする兆候がみられる。
 

米韓両国は大王の寝首をかく合同演習に続いて、最近はコンピューターシュミレーションによる演習で、韓米連合軍は、平壌北側まで進撃して北の指揮部を壊滅させることができるという結論に至った。もはや準戦時状態のような様相である。


この事態を目前にして、日本は国民の生命と財産を守るにはどうすればよいか。天から核ミサイルを降らす狂気の指導者が近隣にいるのに、天から平和が降ってくるなどという専守防衛一点張りの思想などもう成り立たなくなったということをまず国民は認識すべきだ。


その戦略としては盾と矛の両面作戦しかあるまい。従来日米の軍事協力は盾が自衛隊で守りに専念、矛が米軍で攻撃を受け持つ形だ。しかし、米国はかつてのスーパーマンではなくなった。米ソ冷戦時代に展開された盾と矛分担作戦は、北の狂気の指導者によってもう古色蒼然たるものと化した。日本も矛の役割を分担しなければ、この危機は乗り切れないのだ。
 

それにはまず憲法上可能と政府が判断している敵基地攻撃能力の確立だ。北のノドンの200発は、日本攻撃を主眼に置いており、ミサイル防衛システムだけではとても核ミサイルを同時に撃ち落とす事は無理だ。これ見よがしに金正恩が3発を同時に発射させ、日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させたことは、「日本は防ぎきれないぞ」というどう喝に他ならない。対抗するにはどの国もが持つ敵基地先制攻撃能力をミサイル迎撃能力と併せ持って、初めて北朝鮮の核から国民の生命財産を守ることが可能となる。
 

既に韓国は米国の反対を押し切るかのように巡航ミサイルなどによる敵基地攻撃能力を備えてきた。日本は着弾まで10分間の時間があるが、韓国はほとんど時間がない。ミサイル発射準備が整ったと見れば発射前に叩くしか国民の命を守れないのだ。


日本の軍事専門家の中には移動式ミサイルは把握できないと述べる半可通がいるが、韓国の専門家は、移動する場所も限られており、無人偵察機などで十分に識別可能だとしている。幸いにも日本の場合航空自衛隊が次期戦闘機として42機の導入を決めている最新鋭ステルス機「F35A」の最初の4機が、今月中に引き渡される。


政府はこのF35Aに敵基地攻撃能力を備えさせるべきだろう。空中給油なしでも朝鮮半島、ロシア、東シナ海まで戦闘行動が可能であり、『合同空対地長距離ミサイル』(JASSM)も備えることが可能だ。このミサイルの射程距離は約370キロであり、これをつければ敵基地攻撃能力は十分可能だ。加えて艦船から発射できる巡航ミサイルも装備すべきだろう。
 

一方発射されたノドンから国民を守る盾は、現在のところ大気圏外で迎撃できるミサイル「SM3」を搭載したイージス艦と、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」だ。従来の「SM3」より射程を大幅に伸ばした新型迎撃ミサイルをアメリカと共同で開発に取り組んでいる。


しかし複数のミサイル攻撃には、これでも撃ちもらしが生ずるとされる。従ってTHAADが必要になる。韓国にも配備されるが、日本はその要となっているXパンドレーダーを京都府京丹後市と青森県の米軍車力通信所に配備しており、これに迎撃ミサイルを連動させることで、THAADを実戦配備することが可能とみられる。
 

それにしてもこの高性能レーダーと最先端のそうりゅう型潜水艦は、北の地上と水中からのミサイル発射を捉えているのだろうか。秘密保護法を恐れるあまりその動きを外部に出せないのだろうか。血税を使ったこれらの新兵器の活躍ぶりは、国民に安心感を与えるために随時政治家がリークすべきではないか。
 

こうした中で米国はオバマが核の先制不使用を断念した模様だ。ワシントン・ポスト紙によると安倍は「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として、先制不使用政策への懸念を米側に伝えたという。安倍自身は全面否定しているが、日本の意向は何らかの形で伝わったのだろう。


オバマもするに事欠いて北のみならず中ソからまで馬鹿にされる対応は、いくらレガシーを残したいからといってもやめた方がよい。極東の現実にそぐわない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月07日

◆プーチンが北方領土で国内世論誘導を始めた

杉浦正章



日本も2島先行返還での妥協がよい
 

ウラジオストクでのプーチンとの2人だけの会談で一体何が話し合われたのかが焦点だが、こればかりは最高機密で漏洩がない。しかしテレビに出る学者や評論家は、やれ「ブレークスルーだ」やれ「突破口だ」と早くもやんやの喝采をしている。中身を知らないままである。


2日の首脳会談の時間は3時間10分であったが、そのうち55分間が両首脳に通訳だけが加わる2人だけの会談だった。安倍が情報を漏らさない以上推理で対応するしかない。山より大きいイノシシは出ないから、情報の山から分析すれば、恐らく「歯舞・色丹2島先行返還」 で、国後・択捉は「継続協議」的な色彩を帯びる可能性が高い。その段階で平和条約を締結できるかが焦点だろう。


まず今後の段取りは、11月にペルーで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で日露首脳が会談、それを経て12月15日安倍の選挙区・長門での首脳会談となる。それまでの間水面下の根回しが進むが、安倍もプーチンも下の官僚機構に降ろさなければ事は進まないから、いずれはリークする。それに両首脳とも国内の世論対策が最も重要だ。安倍は好むと好まざるとにかかわらず、次期総選挙の焦点が北方領土問題になるから、どのような「2島プラスα」を打ち出せるかで政権の命運が決まると言っても過言ではない。


とりわけプーチンは、何と国民の78%が北方領土返還反対であり、これをどう説得するかが極めて重要だ。プーチンの支持率80%以上というのはクリミア併合で熱狂的喝采を受けた結果だが、今度は領土を手放すわけだから、これも支持率激減に直結しかねない。
 

日本国内には、「プーチンは高い支持率があるから決断できる」という学者がいるが、どの国の政治家が自らの支持率を落としてまで他国にいい顔をしようと思うだろうか。逆だ。支持率を維持するには国内の説得が必用だ。そこでポイントとなるのが、今後プーチンがロシア国内の世論対策に乗り出すかどうかであり、これがプーチンの真剣度を図るメルクマールとなるのだ。ロシアウオッチャーは、ここが1番肝心なので見落としてはならないのだ。案の定プーチンは開始した。まず「2島」から始めている。
 

5日、杭州で プーチンは「思い出しておきたいのだが、ソ連はこの領土を第2次世界大戦の結果として手に入れ、国際法文書により登録された。ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。そこには南の2島(ハボマイ シコタン)が日本側に引き渡されると書いてある。しかし、この場にいるのは全員が法律家ではないため、私は法律家として次のことを言うことができる。


つまり、『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、どの国の主権が保持されるのかは書いていない。」と説明したのだ。
 

ロシアの国民も、マスコミも北方領土問題の事実関係など知らないから、まず事実関係から説き起こしたのであろう。2島返還は持論ではあるものの7月の日露首脳会談以降はなかったこのプーチン発言が意味するところは、少なくとも2島返還の可能性がある方向をロシア国民に印象づけ、誘導しようとしていると見ることが出来る。


今後は自らが絶賛する日本の8項目の経済協力などの包括的な極東ロシア発展プランを、どのように国民にアピールしてゆくかが着目点だろう。日本の協力により、シベリアに夢と希望が湧いてきたことを国民にアピールして、国後、択捉での譲歩が可能かどうかを探る必要があるからだ。


日本にしてみれば、歯舞・色丹で「はい終わり」とされてはたまらない。過去のすべての交渉が、このネックで失敗に終わっているのだ。56年の歯舞・色丹返還に関する共同宣言のあと、93年は「4島帰属の問題を解決して平和条約を締結する」と東京宣言が出されたがそのまま。98年には橋本龍太郎がエリツインに「4島の北に国境線を引き、当面はロシアの施政を認める」 という「川奈提案」を提示。2001年に森喜朗がプーチンに歯舞・色丹と国後・択捉を分けて話し合う同時並行方式を提案。いずれもうやむやに終わっている。
 

安倍はこれらの方式を超越したかのような「新しいアプローチ」を提案、わざわざロシア経済分野協力担当相を新設して、プーチンに“本気度”を示した。ウクライナ問題での制裁と原油安で国内経済が低迷して苦境の極みにあるプーチンを“おいしい話”で釣り上げようとしているのだ。百戦錬磨のプーチンも、世界的な孤立と、閉塞感の中で一筋の光が差し込んでいると感ぜざるを得まい。


今後の焦点は、そうしたプーチンが国後・択捉で妥協に出るかどうかだ。様々な解決策が模索されているが、まず面積等分論は極めて難しく、プーチンも否定的だ。2島返還後国後・択捉を共同統治する案も、世界史上例は多いが、国家関係はいつ何が起きるか分からず、返って摩擦の原因になりかねない。そう見てくると、日本にとって何が最良かと言えば、「4島の帰属は日本」と明記した上で、歯舞・色丹を先行的に返還を実現。平和条約を締結する。


国後・択捉はロシアの施政権を認めて、軍隊の駐留も容認したうえで交渉を継続する案が考えられる。対露経済協力と人的交流の活発化でロシア側をメロメロにしたうえで、沖縄と同様に交渉により後日施政権の返還を実現するのだ。
 

ここは日本も何らかの妥協を考える必要がある。領土問題は時効に持ち込まれたら終わりだ。急がなければならない。日露の接近は対中けん制の意味でもキーポイントとして重要である。また米国はオバマがレームダック中であり、あまり文句をつけられないだろう。それより日露が平和条約を結べば、米国の軍事力は中国だけを見ていればよくなる。米国の世界戦略上もプラスに作用するのだ。ここは日露双方が妥協により関係を正常化することが大局的には不可欠であろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2016年09月06日

◆日中“緊張緩和”は「砂上の楼閣」

杉浦 正章



安倍・習暗闘は7対3で安倍の勝ち


あのブロードウエーも顔負けの、けばけばしい「白鳥の湖」はどうだ。習近平はまるで悪趣味の田舎芝居の座頭(ざがしら)の様であった。G20の場を真摯な国際外交の場から、政治ショーの場へと変質させ、国内向けのプロパガンダを張ったが、13億の中国国民の目を奪っても、世界のメディアからはそっぽを向かれた。


逆に首相・安倍晋三は全体会議と個別会談の双方で東・南シナ海問題と鉄鋼のダンピング輸出問題を取り上げた。習の“経済限定作戦”は安倍とオバマのリードで、脆くも崩れて、首脳宣言にも鉄鋼問題が明記された。全体俯瞰図で見れば安倍と習近平の暗闘は7対3で安倍の勝ちだ。日中首脳会談での“対話促進”の合意も一時的な緊張緩和であっても、その実態は「砂上の楼閣」であろう。
 

まさに国際外交の国内政治への“活用”であった。来年秋には習体制の2期目の人事があり、汚職摘発で恨みを買って国内政局は必ずしも盤石ではない。習はG20の場でど派手な演出で「世界の皇帝」ぶりを国民に示して、政権基盤の強化に出た。1200億円もかけて会場を整備し、テロを防ぐために外出を制限して、杭州の町はゴーストタウンのようであった。その代わりテレビを使って、習の一挙手一投足を報じさせ、ひたすら国内基盤の確立に努めた。
 

真実は細部に宿る。田舎芝居は外国の貴賓最上位にあるオバマにも及んだ。タラップを用意せず、赤絨毯も敷いてない。オバマは備えつけのタラップで専用機後方の扉から降りた。到着早々から安倍ほか各国首脳とは全く違った待遇であった。


オバマは「よくある」と意にもかけないそぶりであったが、怒りと言うよりあまりの露骨さにあきれた事であろう。露骨すぎて、開いた口が塞がらない“接待”ぶりであった。オバマはレームダック化が著しく、元気がなかったが、安倍は歩き方から見てもこれまでになく堂々としていて、その発言も毅然(きぜん)としていた。
 

習は何が何でも会議の議題を経済問題1本に絞って、政治問題は論議しない立場を貫こうとした。各国が政策総動員で経済停滞を乗り切る方向を打ち出したのだ。しかし自らのもたらした鉄鋼のダンピング輸出問題と為替の安定化が世界経済のアキレス腱であるという認識に欠けていた。中国のことわざで言えば「自分の頭のハエを追え」ということなのだ。


安倍は全体会議でその急所を突いた。もちろん 欧州連合(EU)のユンケル委員長が事前に鉄鋼の過剰生産問題を巡り、「欧州で万単位の雇用が失われている。受け入れられない」と発言した事なども意識したに違いない。


安倍は「国際貿易・投資」をテーマにした討議の中で発言、「鉄鋼などの過剰生産については補助金等の支援措置で市場がわい曲されていることが根本的な問題だ。主要生産国が参加する対話を通じ、市場メカニズムに則した構造改革を促したい」と強調した。そして中国など主要生産国が参加する「グローバル・フォーラム」を設けて、対応などを話し合うことを提案、宣言に盛り込まれた。
 

この安倍のオピニオンリーダー的な役割は中国の海洋進出問題にも及び、「大航海時代以降、海洋貿易は世界を結び、平和な海が人類の繁栄の礎となった。国際交易を支える海洋における航行および上空飛行の自由の確保と法の支配の徹底を再確認したい」と述べ、各国に賛同を求めた。習が1番恐れていた問題をあえて取り上げたのだ。


会場の多くが賛同したことはいうまでもない。習が失礼にも安倍との会談をするかしないか、最後の最後まで明確にしなかったのは、安倍が会議の席上でこの発言をすることを恐れてのことだった。簡単に言えば「発言しなければ会ってやる」というのだ。それを知りつつ安倍は、あえて発言したのだ。


国際司法裁判所で中国完敗の判決が出たことをG20首脳が知らないわけがなく、フィリピンやベトナムはもちろん多くの国々が、終了後「よく言ってくれた」と反応したのは言うまでもない。安倍は7日からビエンチャンで開かれるASEAN首脳会議でも東・南シナ海への進出問題を取り上げる方針を記者会見で明らかにした。
 

こうして会議は習近平の思惑を崩壊させ、共同宣言も安倍ペースでまとまった。会議終了後に習近平は安倍と会談したが、わずか30分。通訳を入れて、実質15分にすぎない。対話が実現したとは思えないが、海空連絡メカニズムの運用開始などで今後対話を促進する方向となった。


しかし、4年間も実現していない問題が早期に実現するかは疑問がある。だいいち、中国はG20の最中であるのにかかわらず、スカボロー礁埋め立ての準備行動に出るという、驚くべき執着ぶりを示した。


フィリピン米軍基地から200カイリあまりの目と鼻の先であり、恐らく行動を実施に移せば米国は黙認しないだろう。同環礁をパラセル諸島、スプラトリー諸島と結べば、中国による南シナ海制覇の3角形が構成されるのだ。もちろん、尖閣諸島への公船出没もやがてはまた活発化するだろう。


こうして、せっかくの安倍・習会談での緊張緩和も、いつ崩れてもおかしくない砂上の楼閣の色彩を濃くしてゆくだろう。緊張関係はまるで習慣病のように出たり引っ込んだりしてゆく。


安倍の正式訪中や習近平の正式訪日など、緊張緩和を担保する動きはまだかすみの先だ。当面自民、公明両党による議員外交で、徐々に関係改善を進めてゆくしかないだろう。

2016年09月01日

◆安倍は毅然として東・南シナ海問題を提起せよ

杉浦 正章
 


G20ではオバマも対中けん制をするだろう
 

最近あっけにとられた発言は4日からの中国・杭州におけるG20首脳会議に関して外相・王毅が「客はホストの意向に沿ってその務めを果たせ」と発言したことである。首相・安倍晋三に大昔の朝貢外交のように皇帝・習近平にひざまずけと言っているのだ。しかし他国はともかく日本はそう簡単ではありませんぞえ。


歴史的に聖徳太子の書簡、「日出る処の天子、書を没する処の天子に致す」といいう文言が煬帝を激怒させたように、一筋縄では行かない「周辺国」でござる。もう一人一筋縄ではいかない大統領もいる。オバマだ。オバマはG20での訪中で手ぐすねを引いて南シナ海問題で対中批判に出ることを考えているのだろう。


安倍は、かまったことはない。たとえG20が経済を議題にする場であろうとなかろうと、オバマと組んで毅然(きぜん)として東・南シナ海での中国の暴挙をやり玉に挙げるべきだ。

 
一連の安倍外交を分析すれば、中国の海洋進出への防波堤構築に大きな主眼を置いていることが分かる。そして、現状はその路線が功を奏してきている。中国は封じ込められつつあるのだ。南シナ海では国際司法裁判所が中国の海洋進出を巡り、中国が主権を主張する独自の境界線「九段線」に国際法上の根拠がないと認定、訴えたフィリピンの全面勝利となった。


習近平は中国外務次官・劉振民に同裁定を「紙くずに過ぎない」と言い捨てさせたが、国際社会のひんしゅくを買って、中国を法と秩序を守らない国と印象づけた。
 

北東アジアでも孤立化は著しい。最も顕著なものは、韓国が米国の伝家の宝刀THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配備を受け入れたことだ。韓国がようやく日米軍事同盟側に戻った。小国は変わり身が早い。THAAD配備は北の核ミサイル対策だが、北京を飛ぶ鳥まで見える能力を有している。圧倒的に極東における対中軍事バランスを変えた。


最大の原因は中国が北朝鮮の暴挙を、極東戦略上有利と判断して野放しにしたことにあり、まさに自業自得ということになる。東・南シナ海における中国外交の完敗である。
 

こうして、対中封じ込め作戦が進んでいるが、もう一つある。安倍が粘り腰で、プーチンの12月来日にこぎ着けたことだ。北方領土交渉が前進して、日露が平和条約締結に動けば、中国は腹背から囲まれることになりかねない。安倍はどっちみち4島返還は永遠に無理なら「2島プラスα」で妥協して、1月通常国会冒頭解散・総選挙で国民の信を問うことも考えるべきだろう。


ゼロより歯舞、色丹が返還されれば、後は長期交渉に委ねた方が良い。従って2日のウラジオストクでのプーチンとの“予備会談”は極めて重要性が増してきた。
 

加えて中国は安倍が第6回アフリカ開発会議(TICAD)を成功に導いたことに、極めて神経を尖らせた。外務省副報道局長・華春瑩は「日本はアフリカ各国に自らの考えを強要し、私利を追求して、中国とアフリカの間にもめごとを起こさせようとした」とまるで“被害妄想”の発言をしている。自分の“強欲”は棚に上げてだ。背景には、安倍の地球俯瞰外交が順調なことへのいら立ちがある。
 

こうして、着々と中国包囲網は形成されつつあるが、焦点の一つはG20の際に日中首脳会談が実現するかどうかだ。中国外交が失礼なのは、米国には早々と習がオバマと会う日程を提示しておきながら、日本には例によって“じらし”作戦をとっていることだ。


国家安全局長・谷内正太郎が最近の訪中でどのような結果を安倍に伝えているかが注目される。しかし、過去の例を見れば首脳会談は会うことにしか意義を見いだせない。別に恩着せがましく会ってもらわなくてもよいのだ。
 

2年前に鳴り物入りで開催された日中首脳会談は4項目の合意にこぎ着けたが、中国はその内容と真逆の対応をとってきている。合意のポイントは「双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」である。


しかし、内容は、日本の領土である尖閣諸島に「異なる見解」の存在を認め、主権を守り抜く主張をする上で支障になった。「不測の事態の発生を回避する」と約束しているが、8月に中国が漁民と称する民兵が乗った漁船を尖閣周辺に300隻も押しかけさせ、これを取り締まるとして公船が領海内にまで侵入するという事態となった。避暑地に首脳が集まる「北戴河会議」の最中であり、おそらく習が「東シナ海でも頑張っておる」と言いたいための演出であろう。


不測の事態は回避どころか、公船のみならず海軍レベルまで対峙を拡大しそうな空気だ。本格的な海戦となれば自衛隊の方が圧倒的に優勢であり、中国海軍が殲滅させられれば、日露戦争が共産主義革命を導いたように、北京に民主革命が発生しかねない事態になり得ることを、中国共産党首脳は分かっていない。


しかし、今後中国は尖閣進入を既成事実化させる作戦を継続することは目に見えており、南シナ海でもほとぼりが冷めれば軍事基地化を推し進める事が予想される。大人しくしているのはG20が過ぎるまでだと考えていた方が良い。従って首脳会談などはしてもしなくても同じなのだ。


いたちごっこは続くが、日本は堪忍袋の緒が切れるまで我慢に我慢をして軍事衝突だけは避けなければなるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2016年08月31日

◆稲田は民主政権の時限爆弾に近寄るな

杉浦 正章



南スーダンで「戦死者」を出す愚挙
 

親しい自衛隊元幹部が筆者に「我が国防衛のための戦死ならともかく、地の果てのアフリカまで行って戦死では隊員は浮かばれませんよ」と漏らした。いま自衛隊が防衛相・稲田朋美の命令により駆けつけ警護と宿営地の共同警護などを前提にした新任務の訓練を始めている。


内戦状態になっている南スーダンで、新任務を遂行すれば確かに隊員は戦死を覚悟しなければならない。戦後初の戦死者が出る危険がある。1人2人なら稲田の首が飛ぶくらいで済むが、多数の死傷者を出した場合内閣を直撃する可能性が高い。息も絶え絶えの反戦論者を勢いづかせる。民主党の野田佳彦政権が深く考えもしないで自衛隊派遣という時限爆弾を置き、それが爆発しかねない状況なのだ。


稲田は9月中旬に南スーダンを訪れ現地視察する方針のようだが、現場の実態をよく把握して判断すべきだ。

 
南スーダンは日々緊迫感を増しており、国連は国連平和維持活動(PKO)のための軍隊4000人の増派を決め合計1万7000人近くが活動に当たることになる。日本政府は12年1月から陸上自衛隊施設部隊を順次派遣し、首都ジュバで道路建設などのインフラ整備にあたっている。規模は350人であり、その交代時期が11月に到来する。それを機会に、稲田はその派遣部隊に昨年成立した安保法制に基づき、実戦訓練を行うように指示したのだ。


しかし、防衛にど素人の稲田は南スーダンでの駆けつけ警護が何を意味するか分かっているのだろうか。「部隊の派遣準備訓練を始めます。この訓練は平和安全法による新たな内容を含むことになります」 といとも簡単に言ってのけたが、テレビで見る限り官僚の作文を口写しに言っているだけで、分かっている風には見えなかった。

いまのところ訓練はするが、現場で実施するかどうかの判断は派遣直前になる可能性が高い。いわば政府は稲田に観測気球を上げさせて世論の反応を見る動きに出たのかも知れない。最終的には首相・安倍晋三が判断することになろうが、やめた方がよい。


なぜやめた方がよいかを説明すれば、簡単に言えば自衛隊員を戦死させ、国内政局を直撃させるほどの戦いをする“義理”は日本にないからだ。そもそも南スーダンに軍隊を派遣している国は、国連の支払う外貨目当ての発展途上国ばかりである。内乱が自国に及ぶことを警戒する周辺国が多く、加えてインド、モンゴル、ネパール、バングラデシュ、韓国、中国などであり、その「外貨」はどこの国が出しているかと言えば、世界第2位の分担金を支払っている日本が大きく貢献していることになるのだ。


G7で派遣している国はゼロだ。旧宗主国のイギリスですら敬遠している。なぜかと言えば、アフリカにおける泥沼の内乱状態を知り尽くしているからだ。触らぬ神にたたりなしとばかりに見て見ぬ振りをしている。


日本は先進国から出している非常にまれな例である。野田政権がなぜ出したかといえば、事務総長・潘基文から頼まれたからのようだが、ろくろく政府部内で議論もせずに決めてしまったのだ。将来自衛隊に戦死者が出るなどということは考えが及ばなかった模様だ。なぜなら安保法制が成立したのはその後であり、実際、日本は“別格”として、前線には出ずに「お客様扱い」(自衛隊幹部)されているのだ。


野田が派遣した根底にはアメリカに135億ドルもふんだくられて、全然評価されるどころか侮辱された湾岸戦争のトラウマが依然残っている。このトラウマが、こともあろうに泥沼の南スーダンまで自衛隊を行かせたのだ。


当時、防衛省は現地の治安を不安視して消極的であったが、国連平和維持活動 (PKO) 参加を外交カードとしたい外務省が押し切った経緯がある。しかし、外交カードは国連分担金だけで十分だ。これまでの自衛隊のPKO活動の中でも最も過酷なカードを切っても、ろくろく評価されていないではないか。

 
散発的にゲリラが出る状況ならまだしも、稲田は内戦と言ってもよい状態の国にのこのこ派遣して、戦後初の戦死者が出かねない軍事行動を本気でさせるつもりなのだろうか。いくら右寄り思想でもそれはやり過ぎではないか。反政府勢力は何と10歳そこそこの少年兵に武器を持たせて戦わせている。1万3千人はいる反体制派の少年兵を相手に戦うことになりかねないのだ。


自衛隊員は自分の息子のような少年兵に銃を向けて引き金を引けるのだろうか。それとも少年兵でも引き金を引ける訓練をするというのか。自衛隊が行う戦後初めての戦争は「子供の戦争」になるのか。スジの悪さにおいては札付きの場所である。

 
元陸上自衛官の参院議員・佐藤正久は「自分の部隊が道路整備中に襲われ、助けてくれと言う無線が入っても今は助けにいけない」 と、安保法制実行の必用を説くが、まず第一にその危険があるところで道路整備などする必要も義理も無い。また正当防衛は認められており、反撃すればよいのだ。「日本の民間人が助けてくれと言っても助けられない」というが、はっきり言ってリスクを承知で商売する方がおかしい。


要するに外貨目当ての1万7千人ものPKO国連部隊が、治安に当たるのだから、350人の自衛隊が“出る幕”をあえて作る必用がどこにあるかということだ。過ぎたるはなお及ばざるが如し。後方で書類整理でもさせるか、早期撤退を検討すべき時だ。

 自衛隊員の心境を察すれば、日本防衛のために自衛官に応募したのであり、周辺国の侵略には命をかけるのも厭わないが、アフリカの泥沼状況下で訳の分からぬ戦いで戦死することは全く不本意であろう。家族もそう思っているに違いない。戦死者が出るようになれば国論は必ず2分する。反戦論者が有利になり、これが物語るものは内閣支持率がエレベーターのように急落することだ。総選挙で大敗しかねない要素だ。


安倍は内政・外交共にやるべきことが山積しており、民主党政権の置いた時限爆弾などに近寄る必用など全くない。いうまでもなくPKOは平和維持活動により、新政府を支援して民主主義国家を樹立するという崇高な目的がある。南スーダンの人道危機も重要だ。


しかし、戦争による“殉職馴れ”している国と、戦後一発も銃弾を発射していないばかりか戦死者ゼロの日本のケースは別次元の問題だ。世界にはリスクの取れる国とリスクを取れない国があるのだ。

2016年08月30日

◆自民は国益の大局から「安倍3選」を目指せ

杉浦 正章



政治の空白を作るときではない
 

“総裁”任期は「制限なし」とせよ


 失礼にも自民党幹部が飲み会で「今のところ太っちょと痩せぎすと青二才と女が反対している」と漏らし、爆笑を買った。総裁任期の延長問題である。察するところ太っちょは石破茂、痩せぎすは外相・岸田文男、青二才は小泉進次カ、女は野田聖子の皆様のことらしい。筆者はちゃんと「様」付けした。


なぜ反対するかの理由を考えれば首相・安倍晋三の任期の延長につながることに反対しているのだ。しかしここには“史上空前”の誤解がある。任期延長は「総裁」の任期であり「安倍」の任期ではないことが皆目分かっていないのだ。安倍を含めてフェアに総裁選挙をやって、総裁を選出する事が延長論の趣旨なのだ。大相撲で言えば初日から千秋楽までの2週間を3週間に延長するだけである。横綱が優勝するとは限らないのだ。


したがって事は議論を待たない。総裁の任期は延長すべきだ。憲法と同様に制限なしでもよい。なぜならそれが結果的に安倍の任期延長につながって国益にかなってくるからだ。もっとも延長推進派は、今後年末の方針決定まで総裁選に臨むほどの意気込みがなければ大失策を起こすことを肝に銘ずるべきだ。


 反対者たちよ、よく考えても見るがよい。戦後これほど日本を活性化した首相がいたか。企業収益は戦後最高、働きたいものは有効求人倍率が物語るように引く手あまたの人手不足。アフリカへの驚がくの3兆円官民投資の先見性。オリンピックは、ロシアが28個失ったことが作用したが史上最多のメダル数。国政選挙に衆院も参院も連続2回ずつ大勝して、前人未踏の4連覇を成し遂げた。


オリンピックで4連覇が国民栄誉賞になるなら、自民党も安倍に「自民党栄誉賞」を与えて“永代総裁”に据えてももおかしくない。陣笠どもは当選させてもらった恩をすぐに忘れてはいけない。民主党政権が中国、韓国、ロシアから領土で嫌がらせを受けたように、他国は隙あらばと狙っている。弱体政権は極東情勢の危機を招くのだ。


いま極東の情勢激変に対処出来る首相がいることは、日本にとって僥倖(ぎょうこう)以外の何ものでもない。この首相をあと2年で辞めさせて、有象無象が首相になって、また1年で交代を繰り返す時代に戻っていいのか。


 主要国の指導者の任期を見てみるがよい。米国大統領は8年、ロシア大統領は12年、中国主席は8年、ドイツ首相の任期は4年だが任期に制限がなく名宰相メルケルは12年も務めている。サミットの席順が物語るように在任期間が長い指導者ほどよい場所を占める。国際外交の世界では、指導者同士の面識が1番重要なのであり、日本のように1年ごとにころころ変わる首相は、一目置かれないのだ。この際、ドイツのように任期を制限なしとするのもいいのではないか。


 それでは余すところ2年もあるのになぜ今延長かを、反対論者にじゅんじゅんと説くことにしよう。要するに安倍の任期があと2年と限られれば、もう政局は「ポスト安倍」へと動き出すのだ。自民党内の目は石破と岸田の動向に注がれ、その一挙手一投足が注目の的となる。


これに軽佻浮薄なメディアが加わり、早くも総裁選が始まったかのような様相を呈するのだ。政治家も官僚もこの首相は長期に続くと見るから、従うが、任期が決まっていれば手のひらを返すのだ。要するに政治の空白が生じて、安倍は求心力を失い政治力を十分発揮できない事態に陥る。これは国益を棄損する以外の何ものでもない。


 石破はテレビで「権力は長くあるとどうしても劣化する」と述べているが、それは人による。佐藤栄作やメルケルやオバマが劣化したかと言いたい。同じテレビで民主党の藤井裕久は安倍を「独裁色が濃い」とまるでヒトラーのように形容するが、ヒトラーを「ヒトラーちゃん」と呼んだことがあるか。安倍は「安倍ちゃん」と「ちゃん」付で呼ばれており、独裁者とはほど遠い。安倍が独裁などというまともな政治評論は聞いたことがない。人間年を取ると、判断力まで衰えるのかと思うと、75歳の筆者も注意せねばなるまい。


 この政局を快刀乱麻を切るごとくに切った人物がいる。何を隠そう藤井と同じ元民主党幹部で前衆院副議長の鹿野道彦だ。鹿野は、代表選出馬の挨拶に来た前原誠司に「今の政界でただ1人命がけでやっているのは安倍さんだ。お前も命がけでやれ」と、激励したのだ。俳句でいい句が出来るときは打座即刻の句と言うが、鹿野発言はまさにぽんと膝を打ちたくなるような人物評である。

 石破は消費税についても「10%に上げるのは早ければ早いほどいい」と発言したが、閣議決定に同意しておいて後から言うのはおかしい。遠吠えではないか。そんなことをすれば国民の怨嗟を買って、確実に自民党は議席を大幅に減らす。議席を減らす総裁を歓迎するかだ。それでは他の反対論を分析する。岸田は時期尚早論だ。「3年間の任期のさらに先のことを話すのは気の早いこと」と反対している。


これは自民党幹事長・二階俊博がまるで「安倍の任期延長」と受け取られるような発言をしたからいけないのであって、岸田も焦点は「総裁任期の延長」であることに目覚めるべきだ。下手をすると佐藤栄作の3選に反対した三木武夫のように、切られることになりかねないぞ。佐藤は三木を外相にしたことを「不明の至り」として、切ったのだ。


小泉ジュニアの発言は、「なぜ今、議論するのか、率直に言って分からない」と石破と岸田の受け売りのようなものだ。「その次ぎの次ぎの次ぎ」を狙うなら、安倍に付いた方がいいのに、まだ雑巾がけが足りない。分からないのなら分かるように修業せよ。野田は「かつて相当人気があった小泉純一郎元首相ですら任期を守った。安倍首相も任期を守る人だから、必ず18年には総裁選をやる」と発言しているが、当たり前だ。総裁選はやるのだ。やっても人望がなくて本人は泡沫並みであることを知るべきだ。

 いずれの発言も「安倍の後は自分」という、利己主義に根ざしたものであり、国家観に欠ける。反対のおのおの方は大局を見据えるべきだ。るる述べてきたように国内経済は胸突き八丁、極東情勢は緊迫の一途という状況だ。自民党は政争を再燃させている時ではない。

しかし二階も発言した以上は、延長を達成しなければならない。腰折れすれば幹事長のこけんに関わるどころか辞任につながることを肝に銘ずるべきだ。また安倍の周辺も年末に総裁選が前倒しされたというくらいの意識で、陰に陽に結束して事に当たるべきだろう。油断をすると安倍が高転びに転ぶことになりかねないぞ。

2016年08月03日

◆石破が下野、“ポスト安倍”で地方行脚へ

杉浦正章



「二階幹事長」は“長期政権”への布石
 

虎を野に放ったのか、単なる野良猫になったのかは微妙だが、安倍改造人事の最大の“目玉”は「石破下野」 だ。石破茂は「私のような者でも政権を担う事が望ましいということならそれを目指したい」と、事実上の総裁選への立候補を表明した。


今まで首相・安倍晋三を翼賛する政治家ばかりだった自民党内に、まぎれもなく反主流の動きが生じたことになる。反主流の存在は、通常の政権では当然しごくのことであり、ない方がおかしかったのだが、かえって緊張感が生まれて、政権が活性化する。今後石破は18年9月の総裁選挙に向けて党内で多数派工作に専念することになるが、その突破口は地方票の獲得である。
 

安倍は一強体制維持を目指して、石破を農水相で優遇しようとしたが、石破派内の情勢がこれを許さなかったようだ。その証拠に1日夜の石破派の会合は、石破下野にやんやの喝采で盛り上がったようだ。石破の今後の戦略を分析すれば、「政権は戦い取るもの」という基本に戻ることだろう。ライバルの外相・岸田文男が安倍に忠誠をつくしての「禅譲」狙いであるのとは好対照だ。


安倍はもともと人事でも石破を伴食大臣に置いて、岸田を重用しており、岸田としては悪くはない待遇だ。しかし巷間ささやかれていたように岸田を幹事長にしなかったのは、事実上「後継」として定着してしまうのを避けたのだ。禅譲と言っても首相任期が延期になれば5年後であり、岸田にはそれまで待てるかという問題もやがては生ずる。いくら強い政権でも長期政権の末期はぼろぼろになるものであり、かつて佐藤栄作が福田赳夫に禅譲しようとして、田中角栄の反乱にあって、出来なかったことが好例だ。
 

読売によると石破は「これからは地方を回る。回った数だけ票になる」と漏らしているという。これは総裁選に当たって田中角栄が本筋の衆院の票より、参院と地方票を極めて重視した戦略と同じであり、田中は自らの総裁選のみならず、キングメーカーとしての地位を維持した。石破はこれを“学習”したのであり、既に実践している。11年に政調会長を外され、下野したとき、専ら地方を回って地方票を発掘した。これが12年の総裁選挙の結果となって如実に表れ、安倍の心胆を寒からしめた。
 

同総裁選は石破が地方票165、国会議員票34で1位となったのだ。安倍は地方票87、国会議員票54で2位となり、両者とも過半数に達さなかったため国会議員による再投票で安倍が108票、石破が89票で、辛くも安倍が勝った。


この経験値で石破は2年後に向けて、まず地方票から積み上げる戦術を取ろうとしているのだ。深謀遠慮というのだろうか、石破は幹事長時代に総裁公選規定を地方票重視の制度に変更している。内容は決選投票に地方票を加算し、地方票を国会議員票と同数にするというもので、これが実施されれば石破が有利になる可能性がある。
 

しかし安倍の4回にわたる国政選挙の圧勝で、国会議員の数が増加しており、安倍に当選させてもらった議員も多い。よほどの失政でも起きない限り、2年後の総裁選挙では安倍が勝つだろう。だから石破は「5年間は準備にかかる」と側近に漏らしており、長期選の構えではある。「禅譲の岸田」か、「戦い取る石破」かはまだまだ予断を許さないところであろう。
 

もう一つの目玉が二階俊博を幹事長に据えた人事だ。二階の場合は岸田と違って77歳という年齢が安倍に安心感を与えた。幹事長に据えてもまず総裁を狙う危険がないからだ。二階も猟官運動が巧みだ。安倍の長期政権は揺るがないと見て、常に安倍側に立った発言を繰り返してきた。一見こわもてだから、発言に重みがある。


田中派1年生の頃から知っているが、当時は極めて誠実な議員という印象を持った。これにこわもての年輪が加わって、実力者へと成長した。昨年の総裁選前には安倍再選を唱え、消費増税先送りでは安倍の意向を汲んで先送りの提言をした。先月19日には、安倍の任期延長発言の先頭を切った。いずれも早い者勝ちの発言であり、2番目に言っても効果がない。
 

まさに機を見るに敏であり、安倍をくすぐり続けたのだ。まさか谷垣禎一が事故でずっこけるとまでは予想していまいが、そろそろお鉢が回ってきてもおかしくないと、思っていたに違いない。


党は副総裁・高村正彦と総務会長・細田博之、政調会長・茂木敏充という布陣となったが、長期政権を視野に入れた安定・重厚型の布陣である。二階は旧田中派伝統の親中派議員であり、中国との関係修復に貢献しそうだ。さっそく二階は安倍の総裁としての任期を2期6年から3期9年へとする動きを始めるだろう。来年1月の党大会で決定する流れだろう。
 

一方サプライズ人事は稲田朋美の防衛相だが、名にし負うタカ派議員の起用となった。これは二階の起用とは逆の「対中けん制」の意味合いがある。稲田は憲法改正論者であり、それも9条改正論だ。「9条をこのまま変えないでいる事の方が、憲法を空洞化させる」と発言しており、国会で野党の集中攻撃の的となる可能性がある。


防衛には素人だが、NHK討論を聞いても、答弁のコツは心得ており、問題は生じまい。むしろ将来の女性首相候補の第一歩となる人事であろう。

【筆者より=明日から月末まで第2次夏休みに入ります。重要問題が発生すれば随時書きます】

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年08月02日

◆小池Vs内田のデスマッチは白熱化

◆小池Vs内田のデスマッチは白熱化
杉浦 正章



安倍とは近く“手打ち”の方向
 

中央紙は都知事選の本質の報道を怠っているが、戦いは都議会の“黒い疑惑”を伴ってこれからも続く。ネットとテレビを味方につけた新都知事・小池百合子と都議会のドン・内田茂の戦いの構図は延長戦に持ち込まれたのだ。決着までは長期戦となりそうだが、小池が最終的には勝つだろう。


小池を全面的にバックアップするのは徳洲会事件で失脚した元知事・猪瀬直樹。これは猪瀬が都知事時代から続く内田との怨念の戦いが再開することでもある。焦点はオリンピック受注工事をめぐる「疑惑」の存否だ。事が猪瀬の思惑通りに運べば都議会自民党は、「オリンピック疑獄」に巻き込まれる可能性すら内包している。小池は都議会自民党幹部に抜き身の匕首(あいくち)を突き付けながら、議会運営が出来る構図でもある。
 

まず日程に上るのは官邸と小池の“手打ち”だ。首相・安倍晋三は早期に増田寛也に見切りをつけて、小池への刺激を避け、これを小池も受け止めて正面切った自民党批判の言動を避けてきた。この構図が意味するものは、下村博文ら一部議員が主張している小池への処分はまずあり得ないということだ。


処分は小池に投票した都民を敵に回すことにもなり、丸損だ。安倍は夾雑物が混入する前に一刻でも早く一切を水に流して、小池と会談して、最大の国事であるオリンピックの成功に向けての態勢を確立すべきだ。次期幹事長に決まった二階俊博は、小池とは自民党が野党に転落して以来たびたび行動を共にしてきた仲であり、手打ちにはもってこいの役割を演じるだろう。


こうした“手打ち”の動きとは別に、小池が「ブラック・ボックス」と指摘する都議会の疑惑は、ネット先行型で展開している。猪瀬はツイッターでの指摘に加えて、ついにテレビに出演して内田の名前を公然と出して本格的な追及を開始した。1日の日テレではバレーボール会場となる「有明アリーナ」をめぐる疑惑について「内田氏は受注した東光電気工事の監査役をやっており、地方自治法92条に違反する可能性がある」と発言した。


92条2項の兼職禁止に抵触するというのだ。さらに猪瀬は「今後は都議会の闇をどう暴くかだ。闇だから権力があるのであり、光を当てると闇は消える。これはじっくりと始まる戦争だと思っている。小池さんいは協力する」とまさに“宣戦布告”をした。猪瀬は今後小池別動隊として、都連幹事長である内田の追い落としに専念することになるだろう。


焦点となるのはやはり有明アリーナの競争入札だろう。東光電気工事の入札は業界紙が「逆転落札」と報じたほどの逆転劇だった。その逆転劇に政治が関与した可能性があると猪瀬は見ているのだ。


小泉純一郎が「最近は女も度胸がある」と発言したが、これももちろん都議会のドンに挑戦する小池の姿を意識したものである。小池の選挙戦術も一貫してブラックボックス摘発に焦点を置いた。小池は「都連・都議会の『ドン』が都政を不透明なものにしている」と内田への攻撃を展開した。


中でも圧巻であったのは、内田にいじめられ自殺したとされる元都議・樺山卓司の妻にまで応援を求め「内田さんのひどい態度が、夫を死に追いやった」と訴えさせた。また樺山が「内田は許さない。人間性のかけらもない。来世で必ず報復します」と書いた遺書を残したことまで明らかにした。


こうした抜き差しならぬ対決の構図を残して、小池が都庁という「伏魔殿」に乗り込むことになるが、猪瀬の陽動作戦と、小池の都議会対策は一対のものとなる。猪瀬は今後せきを切ったかのようにテレビに登場して次々に内田と都議会自民党が抱える黒い霧を暴き始めるだろう。


一方小池は都議会定数127人中、自民党56議席、公明党23議席という圧倒的な与党対策をまず強いられる。手始めに副議長を選任しても、与党の支持がなければ承認されない。かつて自民党会派などと対立していた青島幸男が都提出の条例案をことごとく否決されたことがあるように、対決だけでは知事職を果たせないジレンマを抱えることになる。是是非非の対応が必要となろう。


小池としてはまず安倍、二階ら党本部と和解し、その影響力を都議会に及ぼすと共に、都議会にある反内田勢力と結んで内田包囲網を作るしかあるまい。一方で「利権追求チーム」を設置して、内部告発も受け入れる。元東京地検特捜部副部長で衆院議員の若狭勝の支援も受ける。この“戦争”は長引くが、世論の支持を取り付ければ弾みが付く可能性もある。


一番簡単なのは党本部が都連会長の石原伸晃と内田ら都連幹部の早期引責辞任を実現することかも知れない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年08月01日

◆安倍「変化球」、岡田「敵前逃亡」の裏を読む

杉浦正章



「厚化粧」に「袖カバー」が完敗
 
都知事選挙を国政面から分析すると、解せぬ「不可思議現象」が二つ生じている。一つは首相・安倍晋三が終始増田寛也の応援で街頭に立たなかったこと。他の一つは民進党代表・岡田克也が突如投票日前日になって代表選不出馬を宣言したことである。安倍は首相就任以来常に攻めに徹してきたが、都知事選はパスした。


いわば不作為の作為であり、初めての“逃げ”の姿勢をみせたのだ。これは一体なぜなのか。一方、「敵前逃亡」といわれた岡田の“逃げ”の原因はどこにあるのか。


まず、安倍の場合の最大の理由は、増田の第一声を聞いて「党内が愕然とした」(自民党選対幹部)ことにある。なぜ愕然としたかと言えば、擁立した増田に全く「華」がなかったのだ。増田は虚勢と自己顕示の有象無象の世界であるテレビ・コメンテーターの中では、ただ1人まともなことをしゃべる知性派であった。


しかし、第一声で街頭に立った姿は、まるで黒い「袖カバー」(腕抜き)をつけて村役場の受付に立つ係長の如きであった。都知事選はミニ大統領選の様相があり、ある程度の「色気」がなければ票を集めることは出来ない。

とつとつと政策を述べる姿は真面目で、好感は持てても「女賭博師」のような小池百合子にかかっては、とても太刀打ちできない。たとえば小池から「岩手県知事を3期務めて借金を倍にした」と痛いところを突かれても、言い訳に終始して切り返しが出来なかった。この「増田に愕然」の現実を如実に反映して、自民党が選挙前に行った世論調査で小池がややリードするものの拮抗(きっこう)していた支持率が、日を重ねるにつれて拡大してしまったのだ。フタを開けたら、演説する度に票を減らすタイプであったのだ。

これを見た安倍は、街頭演説をしても「無駄」と判断したに違いない。猪瀬直樹や舛添要一の都知事選挙の場合は、勝つことが間違いないから街頭演説に立ったが、負けることが分かっている候補を応援しても、プラスはないと判断したのだ。それに長期展望をすればオリンピックに向けて、都庁との関係を悪化させるのは得策ではない。


もともと安倍は当初から小池でいいと考えていたフシがあり、増田一辺倒の都議会とは一線を画していたのだ。安倍は周辺に「小池でもいいじゃないか」と最近漏らしている。こうして首相になって以来攻めを続けて来た安倍が初めて「変化球」を投げるに到ったのだ。


一方岡田の「敵前逃亡」の場合は、やはり事前の世論調査の結果が大きく作用している。もともと鳥越俊太郎は民進党東京都総支部連合会会長・松原仁が隠し球として持っていたもので、岡田は相談にあずかっていなかった。その上鳥越の演説を街宣車上で聞けば、原発にしても何にしても共産党の政策一色。おまけに島嶼(しょ)部の消費税を「5%に下げる」などという、支離滅裂な政策まで独断で打ち出し、岡田にとっては苦々しいこと限りがない。

世論調査ではさすがにガバナビリティに欠ける都民もあきれたのか、3候補のビリを走っていることが判明したのだ。もともと9月の代表選挙に出馬しない意向を固めつつあった岡田にしてみれば、鳥越如きが敗れたから責任を取って代表を辞めると受け取られては不本意極まりない。だから投票日前日になって急きょ、代表選不出馬を表明したのだが、この場合はトップに立つものとして無責任のそしりを免れないだろう。自己都合も甚だしい公私混同だからだ。


松原が「なぜ四党の束ね役の岡田さんが直前に出処進退に言及したのか理解に苦しむ」と怒りをあらわにしたが、無理もない。しかし松原も鳥越を担いだ責任があることは否定出来まい。岡田は自らが推進してきた民共共闘の限界を知ることになった。

 
かにかくして、自民、民進両党のトップの微妙な心境が、はからずも露呈されたことになるが、それにつけても小池のしたたかさはただ者ではない。石原慎太郎から「大年増の厚化粧の女に都政を任せるわけにはいかない」とこき下ろされても、「今日は薄化粧で来ました」と壇上に立って池シャーシャーと発言、笑いを誘った。


明らかに小池はその狙いの焦点を「既成政党の不信の構図との対決」に絞った。「政党の推薦なし」を逆手に取った戦いが成功したのだ。師匠の小泉純一郎が「自民党をぶっ壊す」と対決の構図を鮮明にさせて成功したのと全く同じ図式である。

この既成政党への批判の姿勢は、小池がNHKの出口調査で自民党支持層の50%、民進党の40%、公明党の20%、無党派層の50%を獲得するという党派を超えての得票となって現れたのだ。自民党も安倍が動かなければ、票は拡散するしかない。とりわけ都議会自民党は昔から伏魔殿と言われ、汚職のうわさが絶えず飛び交う傾向にある。五輪をめぐる黒いうわさも絶えない。「冒頭で都議会を解散する」という小池の無知に根ざした発言も、自らが“邪悪”と戦う姿勢を鮮明にさせるものであったのだろう。


しかし小池には既に政治資金をめぐる疑惑が出ているように、場合によってはその姿勢がブーメランのように帰ってくる可能性を否定することは出来まい。ポピュリズム選挙に成功したからといって、都政までポピュリズムに徹すれば手痛いしっぺ返しを受けるだろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年07月14日

◆THAADと判決で中国一段の孤立化

杉浦 正章

 

極東は日米中Vs中露北の冷戦構図
 

矛盾の語源は韓非子にある。「どんな盾も突き通す矛」と「どんな矛も防ぐ盾」を売っていた楚の男が、客から「その矛でその盾を突いたらどうなるのか」と問われ、返答できなかったという話に由来する。


しかし米韓両国が13日韓国南部の星州郡に配備すると公表した「盾」の「THAAD(サード)」は北朝鮮ミサイルの「矛」を通さないばかりか、レーダーで北京を飛ぶカブトムシすら見える透視能力を持ち、ミサイル撃墜の「矛」となる。ただでさえ日米韓が優位に立っていた極東の軍事情勢を、圧倒的な有利に導くものでさえある。北の核ミサイル第一撃をTHAADでかわせば、後は北の滅亡があるのみと言う戦略上の激変を極東にもたらす。
 

さらなる米国の戦略的目標は、中国・ロシアを念頭に置いた極東の軍事バランスの優位確立にある。とりわけ南シナ海で仲裁裁判所判決によって中国封じ込めへの「矛」を入手した米国は、THAADにより東シナ海、極東でも封じ込めを可能とした。この結果南シナ海→東シナ海→日本海と続く第一列島線で対中、対露封じ込めの構図が描けることになるのだ。
 

こうした図式を察知した中国はロシアを巻き込んで猛反発の連打を打ちまくっている。まず習近平とプーチンは先月25日の会談における共同声明で「THAADは地域の国々の戦略的な安全と利益に深刻な害をもたらす」と噛みついた。外相・王毅も「サードの配備は朝鮮半島の防衛上の需要を遙かに超えるものであり、どのように弁明しても無力だ」と発言した。
 

それではこの高高度防衛ミサイルシステムの能力はどのようなものなのだろうか。従来、韓国も日本もパトリオットPAC-3などのミサイルに頼っていた。しかしパトリオットのシステムは、比較的小規模で展開しやすいかわりに、射程が短いため、高速で突入してくる中距離弾道ミサイルなどへの対処が難しかった。このため、パトリオットよりも高高度、成層圏よりも上の高度で目標を迎撃するために開発されたのがTHAADである。


在韓米軍に配備されるTHAADは1個部隊で、発射台6基とミサイル48発などで構成される。高度150キロでの迎撃も可能だ。注目点はTHAADで配備されるXバンドレーダーである。通常は600`、機能を拡大すれば1800キロの範囲まで探知が可能とされる。このレーダーは、すでにグアムや京都府と青森県にも配備されている。
 

興味深いのは当初は対中関係を考慮してTHAAD配備をためらっていた朴槿恵が、なぜ習近平を捨てるかのように導入に踏み切ったのだろうか。その第一には北への恐怖心がある。北の最近の核・ミサイル実験はすさまじく、とりわけ中距離ミサイルムスダンの実用化が間近になってきている。にもかかわらず中国は、事実上国連決議などは無視して北の開発を野放しにしており、朴はようやく習近平が頼りにならないと分かったのだ。
 

次に経済関係で中国に大きく依存してきた韓国は、最近の中国の長期経済低迷で拡大が期待できなくなった事があげられる。貿易も日米を軸に多様化した方が良いと考えたのだろう。こうして朴槿恵は昨年末の慰安婦合意で対日関係を是正し、対中蜜月を放棄して対米関係復活に大きくかじを切ったのだ。米国にしてみればもともとTHAADの配備は、韓国と中国を分断する絶好の道具としての意味もあり、朴槿恵に“踏絵”を迫り続けたのだ。今後は日米韓の一層の連携強化に向けて米国はリードするだろう。
 

こうしてTHAADは来年末までに配備されることになった。米国の狙いは対中、対露戦略が絡む。THAADは北京やハバロフスクはもちろん遠くは西安から南は上海までXバンドレーダーでお見通しとなる。軍隊の動き、人員配置などが手に取るように分かってしまうのだ。


この相手に見られているが相手の様子は分からないという状況は、国の安保防衛にとって極めて不安感を強くする。このため極東のパワーバランスの変化に対応するため中国、ロシア、北朝鮮の3国は接近せざるを得ない状況に立ち至った。
 

とりわけ習近平は北の刈り上げ頭のあんちゃんを毛嫌いしているが、今後は関係改善に動く可能性が強い。観測筋の間では7月27日の、朝鮮戦争休戦協定署名63周年に向けて接近の動きが生ずるとの見方がある。北のあんちゃんは、自分への中国のニーズが生ずる事になって、笑いが止まらない状況かも知れない。自分が行っている、核とミサイルの実験の効果が思わぬところから出てきたと愚鈍にも鼻高々かもしれない。実際にも、金正恩体制は早期崩壊がないことにもなる。


こうして日米韓と中露北の対峙は、筆者が前から指摘している極東冷戦の構図を一層深めてゆくものとみられる。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

◆【筆者より明日から第1次夏休みに入ります。都知事選前には浮上する予定です】