2016年10月21日

◆経済重視で安保深入りは避けよードゥテルテ対策

杉浦 正章

 

来日は対中巻き返しの好機


7日に筆者が指摘した通り、首相・安倍晋三はドゥテルテとの来週の会談で外交技術的にもまれに見る困難な対応を迫られることになった。ドゥテルテの対中急接近で、南シナ海における対中包囲の拠点フィリピンを当面失いつつあるからだ。しかしドゥテルテの“寝返り”は日本に向けられたものではない。オバマに向けられたものだ。その辺に打開の道があるのではないか。


まず親日のドゥテルテを歓待して、習近平と同様に南シナ海問題に深入りを避け、経済関係の緊密化を前面に打ち出すべきだ。フィリピンからの輸入額は中国の倍に達し世界一の額である。日本との経済交流なくしてフィリピン経済は成り立たないのが実情であり、米比関係を日比関係を犠牲にしてまで取り持つ必要はない。まず日本が関係を維持して、クリントン外交が軌道に乗るまでつなげることしか手はない。
 

それにしても中国はこすっからい。日本が招待するのを事前に察知して、急きょドゥテルテを招待してしまった。最初か後かは、ドゥテルテに与える印象に差がつき、自国への“誘導”効果も不利となる。しかし、逆に手の内が分かるからそれを逆利用することができる。中比合意文書を精査すれば、フィリピンにとってプラス面ばかりではない。


文書では貿易や投資の拡大、鉄道などインフラ整備などを列挙したが、大部分が覚え書きである。資金の裏付けなど具体策が不明な項目が多い。中国はまだドゥテルテのやらずぶったくりを警戒している可能性がある。ここは弱点の一つだ。
 

さらに安全保障面だがドゥテルテの田舎の村長のような暴言に惑わされる必要はない。「米国にさよならを言うときが来た。軍事も経済も米国とは決別する」と対米断交を口にするかと思えば、再びオバマを「売春婦の息子」とののしる。ここまでくると並みの精神状態にないことが分かる。常に、外相や閣僚が弁明に回る。財務相・ドミンゲスは「我々は西側との関係を維持する」との声明を出したほどだ。


ブレが大きく、直感だけで動く幼稚園児のような政治家であることが分かる。世論調査でも国民は米国を「とても信頼している」と答えた指数が、66で最高だ。国民の感情とはズレがあるのだ。これは将来的に必ず政権の弱点となる。
 

ドゥテルテはただひたすら中国にこびを売るための発言を繰り返したが、こびを売られた方も悪い気持ちはしない。習近平はまさに鴨が葱を背負ってきたとばかりに対応。南シナ海問題でも「2国間対話を通して対立を管理することが中比関係の発展の基礎になる」と述べた。


加えて「すぐに合意が難しいものは棚上げできる」と語り、領有権問題の解決を先送りする意向も示した。習近平の2国間対話路線は、明らかに対中包囲網の分断に直結すると見なければなるまい。
 

こうして日米を中心とする南シナ海での対中包囲網の形成は一頓挫をすることになった。マスコミは口をそろえて対中戦略の見直しを迫られると報じているが果たしてそうか。筆者は対中戦略の基本には大筋において変化は生じてこないと見る。なぜなら中国の東・南シナ海における膨張路線に変化はないからだ。


もちろんフィリピンを引き込むため、スカボロー礁の埋め立てなど露骨な行動は当面差し控えるだろう。しかし中国はフィリピンを取り込んでしまえばスカボロー礁にこだわる必要もないわけで、ドゥテルテをおだて上げて軍事的な結びつきにまで発展させることも当然視野に入れるだろう。


従って、日米はこれまで通り、フィリピンとの関係を維持しつつ、インド、豪州、ベトナムなどと連携して包囲網を強化してゆけばよい。優柔不断のオバマと異なりタカ派のクリントンもほぼ確実に包囲網の手を緩めることはないだろう。米国がフィリピンの軍事基地を撤去することもありえない。
 

ドゥテルテは知らないだろうが、フィリピンの輸出は日本22.5%、 米国14.1 %、中国13 %、で日本が一位。輸入は中国15%、米国8.7 %、日本8%の順だ。いずれも日米合わせれば中国を凌駕する。安倍はここを突くことも必要だろう。ドゥテルテに世界経済の構造をイロハのイから教えるのだ。


フィリピンも麻薬撲滅という国家的な課題を背負っており、ドゥテルテの国内政治は手荒いことをのぞけばうなずけないものでもない。麻薬患者の更生にむけての薬品など最先端医療技術で協力姿勢を示すのもよいだろう。
 

問題は、ドゥテルテの政治姿勢がきわめて独断的で危ういことだ。四方八方に敵を作るやりかたは長続きしない。本人も動物勘が鋭いから「暗殺」の危険を常に感じていることは間違いない。地元の南部ダバオで行った演説で米国に対し「私を失脚させたいか?CIAを使いたいか?やってみろ」と述べている。米国が軍事的プレゼンスを持っている国では、不都合な指導者を排除しようとした例は歴史的にも数多い。


明白な例は南ベトナムで大統領ゴ・ディン・ジエムを排除した例だ。殺害のクーデターに荷担したと言われる。後になって国防長官マクナマラはこの反ジエムクーデターに対して「ケネディ大統領は、ジエム大統領に対するクーデターの計画があることを知りながら、あえて止めなかった」と、ケネディがクーデターを黙認したことを証言している。将来的にフィリピンは何があってもおかしくない状態になるのだろう。
 

来日の際に、ドゥテルテは天皇陛下にお会いする予定だが、天皇に関する暴言だけは事前に気をつけるよう注意しておいた方がよい。国民感情を刺激して、日比関係を大きく毀損するからだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月20日

◆総裁任期延長だが不確定要素山積

杉浦 正章



3選は対立候補が弱く安倍有利
 

自民党総裁の任期が延長となり、首相・安倍晋三に長期政権の道が開けた。現職の首相が総裁選で敗れた例は、過去にたった一度しかない。角福怨念の戦いで大平正芳に敗れた福田康夫だけだ。


1978年の総裁選は、筆者も自民党平河クラブキャップだったから忘れもしない。田中角栄の家に朝駆けすると、角栄は「今日も徹夜でやった」と多数派工作の話をしてくれた。なんと夜中に起き出して、地方の実力者に片っ端から電話するのだ。相手は寝ぼけ声で出てきても、角さんからの電話と分かると「とたんに笑顔になって」(田中)話を聞いてくれたそうだ。もちろん「大平を頼む」と電話したのだ。


当時は党員・党友の投票による予備選挙があって、これが総裁選の帰趨を左右した。角栄はそこを狙ったのだが、福田はこれに全く気がつかず、楽勝と判断していた。首相官邸の会見でも「全国津々浦々だけでなく世界が福田を求めている」「福田再選は天の声」と意気軒昂。ところがふたを開けると大平が予備選に大差で圧勝。


平河クラブで記者会見した福田は、筆者が「天の声はどうだったですか」と尋ねると「天の声にも変な声もたまにはあるな、と、こう思いますね。まあいいでしょう! きょうは敗軍の将、兵を語らずでいきますから。へい、へい、へい」と笑ってごまかした。福田は「予備選で負けた者は国会議員による本選挙出馬を辞退するべき」とかねて発言していたため、本選挙出馬断念に追い込まれた。
 

なぜ現職首相が強いのかと言えば、答えは簡単だ。一つは首相を支持しなければ自らの選挙に不利になる可能性が強いからだ。とりわけ小選挙区制になってからは、首相とその配下の幹事長の支持不支持が決定的と言ってもよいほどの影響を与える。


さらに重要なのは、多くの首相が総裁選をするまでもなく国政選挙の敗北や失政で退陣しているからである。とりわけ2006年から12年までは、7年連続で毎年首相が代わっている。小泉純一郎→安倍晋三→福田康夫→麻生太郎→鳩山由紀夫→菅直人→野田佳彦→安倍晋三といった具合だ。竹下登は「歌手1年、総理2年の使い捨て」が口癖だったが、安倍が就任する前までは1年の使い捨てであった。
 

反主流的な立場を選んだ石破茂は「政権は長くあると劣化する」と述べているが、この言葉は我田引水だ。佐藤栄作 2798日 、吉田茂 2616日 、小泉純一郎 1980日、 中曽根康弘1806日 、池田勇人 1575日、岸信介 1,241日が劣化したかと言えば、その劣化度は少ない。むしろ1年で終わった政権の劣化度の方が著しい。


たった一年で劣化してしまったから交代になったのだ。世界的に見ても米国大統領は8年、ロシア大統領は12年、中国主席は8年、ドイツ首相の任期は4年だが任期に制限がなく名宰相メルケルは12年も務めている。


オバマやプーチンやメルケルが劣化したかというと、全く劣化していない。劣化するしないは人によるのだ。国際外交的にも新座者の指導者が一目置かれるまでには時間がかかる。サミットの席順が物語るように在任期間が長い指導者ほどよい場所を占める。国際外交の世界では、指導者同士の面識が1番重要なのであり、日本のように1年ごとにころころ変わる首相は、注目されないのだ。
 

自民党総裁の任期は2期6年から3期9年までか、または無制限となる。副総裁・高村正彦が最終判断する。この結果安倍は再来年18年の総裁選挙に立候補できることになった。外相・岸田文男も最初のうちは「3年間の任期のさらに先のことを話すのは気が早い」とぶつくさ渋っていたが、形勢悪しと見てか、無駄な抵抗はやめようという姿勢に転じた。禅譲路線が選択肢だが、安倍にさらに5年もやられては先は見通せない。野田聖子も依然泡沫候補気味だ。
 

もし仮に再来年の総裁選で安倍が勝利し、任期すべてを務めた場合、第1次政権と合わせた在任期間は3500日余りとなる。戦前最長の桂太郎や戦後最長の佐藤栄作を超えて歴代最長となる。しかしこればかりは捕らぬ狸の皮算用。政治的には総裁選の前に国政選挙に勝つことが先決である。


安倍の支持率は高いが、1月の総選挙を狙った場合、TPP(環太平洋経済連携協定)、PKOへの駆けつけ警護付与、北方領土問題と重要課題がひしめいており、国論分裂の様相が強くなる。これを乗り越えて1月総選挙で自民党290議席、公明党と併せて3分の2の多数を維持出来るかどうかは全く未知数だ。


従って再来年の総裁選はいまのところ安倍に有利ではあるが、その実は不確定要素も多いのだ。また3選された後の政権が3年の任期を全うしてオリンピックを無事こなせるかどうかの予測などは、鬼が笑うどころかあきれるだろう。安倍丸はこれからがまさに波瀾万丈の海域にさしかかるのだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年10月19日

◆クリントン外交は中露と対峙のタカ派路線

杉浦 正章



親日のキャンベルを重要ポジションに起用か
 

先を読んでほとんど外さない筆者が、半年前から断定的に予想していた通りに米大統領選はヒラリー・クリントンの勝利が間違いない情勢だ。来月8日まで半月となって期日前投票が始まった州もある。この段階で米ウォール・ストリート・ジャーナル紙などが発表した最新の世論調査によると、大統領選での支持率は、クリントン50%、ドナルド・トランプ40%で、クリントンがトランプを10ポイント上回っている。逆転はないだろう。


史上最悪・最低の大統領候補トランプは、もう敗北宣言をした方がいい。日本外交も誰が大統領になるかどうかなどでなく、クリントン外交の出方を集中的に検討した方がいい。基本路線はオバマのアジア重視路線を継承するだろうが、ニクソンがキッシンジャーを使ってやったように、日本頭越しで対中接近をはからないとはいえない。
 

大統領選は538人の選挙人を選ぶ方式であり、その過半数は270人。既にクリントンは210人は確保したと言われており、残る60人を接戦中の州から確保すればよい。大接戦のフロリダ、東部ペンシルバニア両州ではクリントンが制しそうであり、残るオハイオはトランプが有利とされるが、一州だけではトランプは勝てない。従ってクリントンが有利なことは間違いない。そのトランプは唾棄すべき女性蔑視発言や行為が祟って落ち目となり、自ら「大統領選は八百長」などと妄言を世にさらしている。


注目すべきは、米大統領の命令に従って核ミサイルの「発射ボタンを押す」担当をかつて受け持っていた元米軍関係者10人が13日、トランプを大統領に就任させるべきではないと訴える連名の書簡を公表した点だ。10人はこの中で「大統領が核兵器の発射を命じれば拒否できない。誤算、衝動的な決定、まずい判断の結果は破滅的だ」と指摘して、トランプを全面否定している。衝動的で何をするか分からない男をホワイトハウスに入れてはならないのだ。
 

そこでヒラリーの外交だが、ヒラリーは民主党内でも最もタカ派と見られており、「リベラル・ホーク」を基本とするだろう。リベラル・ホークとは、政治的にはリベラルだが、外交においては介入主義的な政策を支持する政治ポジションだ。米民主党のタカ派議員などに多く、NATOや日米同盟を基軸に、アメリカの強い軍事力によって自由主義的価値観を、世界に広めて世界の秩序を安定させる方針を主張している。時には軍事力を使うこともためらわない。


このため共和党の支持者も多く、親日派外交官のリチャード・アーミテージもヒラリー支持を公言している。その安全保障政策への信頼から軍需産業の献金を最も受けているのも、ヒラリーであるといわれる。
 

例えば対中外交を取ってみると、尖閣問題でクリントンは既に国務長官時代に外相・前原誠司に「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用対象範囲内である」との認識を示し、外相・岸田文男にも「日本の施政権を損なういかなる行為にも反対する」と発言している。基本的には対中対峙を前面に出すだろう。国務長官としての最初の外遊は日本、インドネシア、韓国、中国の順でアジア重視の姿勢を示している。このアジア重視の姿勢からいって、おそらく親日派外交官のカート・キャンベルを重要ポジションに起用することになろう。


キャンベルは夫のビル・クリントン政権ではアジア・太平洋担当国防副次官補であった。米国のアジア政策の要と言うべき存在であり、オバマ政権ではクリントンとともにアジア重視の「リバランス(再均衡)」戦略を推進した。知日派でも有名であり、日本政府や経済界が、クリントンの大統領就任を期待するのはこのためでもあるほどだ。豪紙オーストラリアンは、同国の元外相・ボブ・カーが「次期国務長官候補と述べた」と伝えているが、その実現性はともかくとしてクリントンの外交ブレーンになることは間違いあるまい。
 

対露外交の姿勢も、オバマのように煮え切らないものではあり得ない。クリアカットとなり、プーチンには手強い相手となろう。対北朝鮮外交も、金正恩の目指す核による恫喝外交に巻き込まれることはないだろう。オバマより厳しい政策を打ち出す可能性もある。ただ冒頭挙げたニクソンの例に見られるように、とかく米国の新大統領は、局面転換を目指そうとする傾向があり、同盟国としてはその一挙手一投足を注視しなければならないことは言うまでもない。
 

沖縄問題では、かつてクリントンが普天間の早期移設を求めたことがあり、オバマと違って早期実現を求める可能性もある。TPPについては、選挙中メディアが「反対」と報道しているが、発言には微妙なニュアンスがある。選挙中の主張がクリントン政権の政策になるとは限らないのだ。TPPが、クリントンの求める雇用の増加、賃金の増加、安全保障の強化に役立つことは言うまでもなく、安倍政権が条約承認を先行させれば、最終的には推進せざるを得なくなると見る。


それを見越してオバマが自分の政権在任中に議会の承認を取り付けようとしており、クリントンも陰に陽にオバマを助けることにならざるを得まい。

       <今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2016年10月18日

◆1月総選挙戦略に「国論分裂」が暗雲

杉浦 正章



管が“オオカミ老年”の解散風沈静化に動く
 

長期政権というのはどうしてもひずみが出てくるもので、そのひずみを是正するには絶妙なタイミングで解散するしかない。佐藤栄作政権が最長不倒距離を維持したのはそのリセットを巧みに繰り返したからだ。とりわけ沖縄返還解散で300議席取ったのが大きい。


首相・安倍晋三も時期はともかく解散リセットが不可欠なのだろう。1月の解散・総選挙は大きな可能性ではあるが、思い込みは禁物だ。なぜなら@環太平洋経済連携協定(TPP)A南スーダンでの駆けつけ警護B北方領土問題の“三大国論分裂要素”に囲まれているからだ。国論が割れるということは息も絶え絶えの野党が、割れた片方の支持を得ることであり、多くが野党にプラスに作用する。従って政治記者は自民党幹事長・二階俊博がまるでオオカミ老年のように「解散だ」と騒ぐことは、怪しいと感じる感性がなければならない。
 

まず解散・総選挙の決断は、自民党290議席の4割にあたる約120人の当選1、2回の「安倍チルドレン」をいかにして当選させるかにかかっている。これを増やすのは無理としても、せめて減らさないことが首相たる者の判断の根底となる。公明党と併せて衆院で3分の2議席を確保出来るかどうかはすべてチルドレンの当落にかかっているのだ。従って次回の選挙は攻めと言うより守りの選挙にならざるを得ない。
 

では守れるかというと、すべてが今後2年の間にいつ解散を断行するかにかかっている。普通幹事長でも解散問題は首相専権事項として発言しないものだが、二階俊博だけは別だ。口を開けば「解散」だ。それも過去半月で3〜4回も立て続けに発言している。この結果年内「11月30日解散説」まで囁かれはじめるに至った。二階の狙いはあきらかに選挙を知らず、安倍が当選させてくれると他力本願のチルドレンを自覚させることにある。
 

しかし解散風も煽りすぎると、かえって国政がそっちのけになる。絶妙のバランス感覚を持つ官房長官・菅義偉が、水をかけ始めたのはそのためだ。政局への理解能力のない駆け出し記者は、菅発言まで解散を煽ったものと受け止めたが、その真の狙いは沈静化を狙ったものだ。


菅発言のポイントは「参議院選挙で私たちは信を得ることが出来た。私たちは国民のみなさんに約束した経済対策をしっかりと実現できるように全力で取り組んでいくことがまず大事だと思っている」にある。駆け出し記者は「解散風というのは偏西風みたいなものだ。偏西風は1年間、吹きっぱなしだ。」 をとらえたが、これは一般論だ。むしろ「解散より経済が大事」と受け取るべきだろう。
 

“三大国論分裂要素”を考えたら菅も慎重にならざるを得まい。まずTPPは参院選で実証済みだ。野党の「農村切り捨て」プロパガンダが成功して32の1人区では野党統一候補を善戦させてしまった。東北6県のうち秋田を除く5県や新潟など11選挙区で野党が勝った。前回はたったの2議席であったから大躍進だ。野党は衆院選でもTPPを最優先課題の一つに掲げることは間違いない。16日の新潟知事選で敗北したこともTPPが少なからず作用している可能性が濃厚だ。
 

次に、紛れもなくばりばりの右寄りである防衛相・稲田朋美の起用が物語るように、安倍が従来のバランスを失って、右に傾きすぎているのが、PKOの駆けつけ警護だ。任務を付与するにしても12月の着任直前になるから、1月総選挙なら戦死者は出ていない段階だろうが、それでも分裂要素だ。


比較的保守指向の有権者でも、いくらなんでも、アフリカくんだりで、戦死を覚悟の危険を冒すのかという疑問はぬぐえまい。新たに右ウイングが分裂するという要素が加わってしまうのだ。これも野党の思うつぼにはまることになる。集団的自衛権の行使の「実績作り」にしては、政権に与える損害が甚大すぎる。
 

そして北方領土問題だ。これは成功すれば他の二つの分裂要素をカバーして再び300議席も夢ではない結果をもたらすが、問題は沖縄返還のようにクリアカットではないことだ。ロシアのスタンスは4島の主権がロシア側にあるとの立場から、歯舞・色丹は日本に「贈与」するくらいのところであろう。それを安倍が押し戻して、4島の帰属は日本と確認し、歯舞・色丹は贈与でなく「返還」、「国後・択捉は継続協議」に持ち込むところまで持って行けるかどうかがポイントだろう。


それなら300議席は無理でも現状維持は可能だ。しかし高支持率だけで生きているロシア大統領・プーチンがそうやすやすと、譲歩するかどうかは疑わしい。プーチンにとってみれば安倍が選挙で大勝するような結果をもたらせば、自分の基盤が危うくなるのだ。
 

こうして“三大国論分裂要素”は、どれ一つをとってもプラスには作用しにくい。それでも選挙に踏み切るとどうなるか。敗北すれば、3月の党大会でたとえ総裁任期を延長か、無期限にできても、再来年9月の総裁選で安倍3選がなるかどうかはおぼつかなくなる可能性もある。


従って二階がオオカミ老年を演ずるのはよいが、そのまま解散・総選挙が1月に実現するかどうかはそう簡単ではない。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月14日

◆脱北者続出でも金体制は維持される

杉浦 正章



中国の極東戦略が最大の支え
 

まさに沈没船からネズミが逃げ出すような状態である。脱北者が増加傾向をたどり、韓国在住の脱北者総数は11月で3万人を超える状況になるという。このため韓国大統領・朴槿恵は、受け入れ体制の整備と偶発事態に備えて万全の準備をするよう指示した。


脱北者の傾向はこれまでの食糧難から政治体制への不満、よりよい暮らしを求めてという流れに変化してきており、高級官僚の脱北者も現れ始めた。金正恩の圧政が国民の忍耐の限度を超えつつあることを物語っている。しかし、北の体制が直ちに崩壊する傾向にはなく、在韓米軍司令官・ヴィンセント・ブルックスも「現在のところ政権崩壊につながるほどの不安定さは感知されない」と言明している。
 

朴槿恵はさる1日「国軍の日」記念式典で演説し、北朝鮮住民に対し「いつでも韓国の自由な地に来ることを望んでいる」と呼びかけた。前代未聞の発言である。さらに11日の国務会議(閣議)で、脱北者の増加を「統一に向けたテスト」と述べた上で、「脱北者が韓国社会への定着に成功することは、暴政に苦しむ北朝鮮住民への大きな希望になる」と訴え、受け入れ態勢の強化を指示した。


こうした韓国政府の方針は、あらゆる手段で北の住民に届けられており、最近ではドローンを使って農家の庭へと届けられるケースもある。内容は宣伝ビラやビデオ、CD-ROMなどで、閲覧する機器も含まれている。これらの情報や機器は北朝鮮内で高値で売られているようだ。
 

こうした宣伝工作もあってか、8月に在英大使館ナンバー2の公使が亡命したのには驚かされた。直接の原因は脱北を恐れた金正恩が外交官に25歳以上の子弟を帰国させるようにとの通達をだしたことにあるとされる。


それよりもっと驚いたのは、金体制防御の要であるスパイ・工作組織国家保衛部の局長クラスが昨年脱北していたことが分かったことだろう。保衛部では平壌市民の動向を察知する役職に就いていたといわれ、韓国政府に住民監視システムに関する秘密情報を伝えたという。保衛部幹部の脱北は初めてであり、「平壌の民心は熱い」と述べているという。「熱い」とは反金正恩感情のことを指す。
 

さらに北京の北朝鮮代表部所属の幹部が家族とともに韓国へ亡命した。金正恩一家の専用医療施設を担当する保健省出身で、金の健康状態を伝えた可能性が高いとみられている。労働者・農民ではサンクトペテルブルクに派遣された労働者10人が亡命。豆満江の洪水の水が引いた結果、農民などの脱北が急増した。


中国は脱北者を見つけ次第強制送還しているが、この送還は明らかに人道上の問題がある。国連は座視すべきではあるまい。それにもかかわらず送還するのは、北との関係悪化を懸念していること。加えて見せしめにしないと雪崩を打って脱北者が続出しかねないからだろう。北の収容施設は満杯の状況であるという。
 

韓国の統一部は最近の脱北の原因・傾向を調査した。この結果2001年当時と比べて14〜16年にかけての脱北は「経済的困難」が66.7%から12.1%へと減少。逆に「自由へのあこがれ」「政治体制への不満」などが33.3から87.8%へと伸びている。


金が叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長を処刑して以降、北朝鮮で中核をなす階層の脱北が増え、それが体制内に不安が広がっていることを裏付けている。処刑は日常化しており、金正恩政権に入り約140人の幹部が処刑されたとの見方がある。
 

金正恩は躍起になって亡命防止策を講じている。最近ではロシアや欧州を担当してきた外務次官・弓錫雄(グン・ソクウン)が、家族とともに地方農場に追放された。駐英公使が今夏に韓国に亡命した事件の責任を問われた形である。


傑作なのは朴の亡命の呼びかけに対して北は「堂々たる核保有国であり人民の地上の楽園として強盛繁栄するわが共和国の威力に戦慄した生ける屍の悲鳴」と声明を発表して強く非難したが、こうした動きは国民に亡命急増の事実を認めることになり、かえって亡命を煽る結果となっている。まさに焼け石に水のような状態である。
 

朴は韓国軍に対して、「偶発的な状況に対する万全の準備をしなければならない」と指示した。実際に米韓両軍は、北朝鮮体制の急変に対処する「作戦計画5029」を作成したといわれる。ただ、これによって北が体制崩壊に直面しているかと言えば早計であろう。韓国の東亜日報は社説で、専門家が「性急な北朝鮮崩壊論に基づいた北朝鮮政策は合理性に欠ける」と指摘していることを紹介している。
 

こうした、北の体制維持は中国の極東戦略が大きく作用している。東亜日報は北朝鮮と中国が、平壌と北京で開かれた中国建国67周年記念式典に自国の大使を互いに出席させたことなどを挙げて、「5回目の核実験後に冷えていた関係を修復しつつある」と分析している。


中国は北の体制が崩壊し、韓国が半島を統一して、国境線豆満江で米国と対峙することを「悪夢」としており、この基本戦略が変わらない限り、北の体制が圧政だろうが暴政だろうが維持し続ける構図といってよいだろう。


金正恩はこの中国の姿勢を見抜いており、恐怖政治の手を緩める気配はない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月13日

◆日米首脳“連動”でTPP推進の構図

杉浦 正章
 


強行突破してでも批准せよ
 
14日から国会は環太平洋経済連携協定(TPP)を巡って本格的な攻防段階に入る。通常国会で継続審議となったが安倍としては、審議を強行してでも今月中に衆院を通過させ、たとえ参院がストップしても「30日以内に参議院が議決しない場合、衆議院の議決が国会の議決となる」という憲法61条の条約批准条項で会期末の11月30日までの批准にこぎ着ける方針だ。


一方、大統領候補・クリントンまでが反対をを表明している米国の出方が注目されるが、オバマは11月8日の大統領選直後から議会説得工作を本格化させ、任期の終わる1月までに議会での批准を終わらせる方針である。オバマにとって議会を動かすために、日本の批准が欠かせない構図となっている。このためTPPは日米首脳が“結託”して連動するという、戦後未曾有の展開を見せそうである。


日米結託の構図は既に9月から明らかになってきている。オバマは同月6日、ラオスで行ったアジア政策についての演説で「TPPが前進しなければアジアにおけるアメリカのリーダーシップが疑われる事態になる」と述べ、来年1月までの自らの任期中にアメリカ議会を説得し承認を目指す考えを示したのだ。


一方安倍も9月23日キューバで「アメリカのオバマ大統領はことし中の議会通過に向け尽力しており、バイデン副大統領ともTPPの早期発効に向け、日米双方が努力を続けていくことで一致した。日本の国会の承認が得られれば、早期発効の弾みとなる。臨時国会でTPPの承認が得られ、関連法案が成立するよう全力で取り組む」と言明した。オバマとしては日本に参加を促した建前からも、責任を感じて任期中に処理する考えのようだ。
 

この構図は野党が長年米国追随外交として自民党政権を批判してきたことに逆行する珍しい例であり、安倍はTPP閣僚会議でも「他国に先駆けてTPPを承認し、早期発効の弾みをつける」と米国に先行する方針を言明している。問題はオバマが11月8日にクリントンが当選した後、通常なら完全にレームダック化することにある。


しかし政府筋によると「クリントンも選挙対策で振り上げた拳を下ろせないから、オバマに陰で協力してオバマ政権での批准に動くのではないか」という観測も強まっている。問題は野党・共和党のライアン下院議長が、「現状では賛成が得られず、協定を修正する必要がある」と述べ、国内の反発が強い知的財産の保護などの項目が修正されなければ議会で採決しない方針を表明していることだが、この辺をめぐる駆け引きが焦点となる。
 

一方日本の国会では輸入米を巡る調整金の疑惑がにわかに浮上している。価格を国内米より高く設定するための売買同時入札(SBS)制度に悪のりした商社からのリベートで、卸売業者が安く輸入米を販売していた可能性が生じていることだ。

この調整金自体は違法ではないうえに、総計800万トンの国内米の0.1%程度であり、政調会長・茂木敏充が「1キロの象のしっぽで800キロの胴体を振り回すことはできない」と述べているとおり、価格全体に影響を及ぼした可能性は少ない。農水省はこのリベートを禁止したが、同省がこのリベートを見て見ぬふりをしていたのか、本当に知らなかったのかなど疑惑が残る。
 

野党はこの問題をかさにかかって取り上げて追及する姿勢であり、TPP特別委員会の審議には応じそうもない。自民党内からは早くも衆院特別委理事の福井照が9月29日に、「この国会ではTPPの委員会で強行採決という形で実現するよう頑張らせていただく」と“本音”を吐露。自民党は辞任させて早期の火消しにかかったが、野党の姿勢は堅い。


その理由は衆院選挙を目指しての農村票の獲得にある。参院選で自民党は、東北6県の選挙区のうち秋田を除く5県で敗れた。与党は先の国会でTPPの承認を見送ったにも関わらず第1次産業が強い地域では政権批判票につながったとみられる。このため、野党は強行採決させて衆院選で農村票を獲得しようとしているのだ。
 

国会の議論を聞いても野党は重箱の隅をつつく議論に終始しており、TPPがなぜ必要かの議論がない。TPPの交渉に入ったのは民主党の野田政権であり、野田は2011年11月11日の記者会見で「貿易立国として活力ある社会を発展させていくためには、アジア太平洋地域の成長力を取り入れていかねばならない」と高らかにTPPの意義を訴えている。


それが野党になったからといって難癖をつけて阻止を図るのは、まさに「巧言令色」で生きている政治家であることを物語る。民進党は何でも反対の野党に先祖返りするのか。
 

TPPは、これまで自由貿易で生きてきたし、今後も生きていかなければならない日本にとってまさに絶好のチャンスととらえるべきである。国の統計調査によれば水稲収穫農家の数は1965年には489万戸あっが2010年には約116万戸と、45年間で4分の1にまで減少。農業就業者の平均年齢は65.8歳 となった上に、65歳以上6割、75歳以上が3割となっている。


もちろん国の政策としては弱者切り捨ては邪道であり、米農家は最後の最後まで面倒を見なければならないが、貿易立国による繁栄がなければその面倒も見ることができなくなる。
 

加えてTPPには日米のアジア戦略が紛れもなく存在する。安倍もオバマも対中封じ込め戦略が根底にあるのだ。米国追随を批判してきた野党は、戦後初めて安倍が米国をリードする立場となったことを、“賞賛”してもおかしくない。逆に米国に追随しないからと批判するのはおかしい。

自民党は自公と賛同する野党も加えて、複数政党で強行突破してでもTPP実現に動くべきだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家) 

2016年10月12日

◆ジュバが安全なら新任務付与は不要

杉浦 正章



南スーダンで政府に論理矛盾
 

物言えば唇寒しか。自民党内に反対論は内在するが、「殿」を諫(いさ)める勇気のある忠臣はいないかのようにみえる。安保法制成立1年たったいま首相・安倍晋三が南スーダンへの「駆けつけ警護など新任務」の付与へと傾斜しているかのようであるが、党内は寂として声なしだ。


防衛相・稲田朋美は8日ジュバで「市内は落ち着いている」と強調したが、その日にジュバ近くで市民21人が反政府勢力に襲撃され死亡しており、やや“ぬけている”姿をさらした。まだ最終判断は12月の着任寸前になりそうだが、悪いことは言わない。アフリカの地で万が一にでも「戦死」を出す義理はない。やめたほうがよい。
 

安倍が新任務を付与しそうな兆候はいくつかある。一つは9月12日の自衛隊高級幹部への訓示で、集団的自衛権の行使を容認した安保法制について「仕組みは出来た。制度は整った。後は、これらを、血の通ったものとする。積極的平和主義の旗を高く掲げ、世界の平和と安定、繁栄に、これまで以上に貢献していく。今こそ、実行の時だ。」と述べたこと。


他の一つは11日の参院予算委での質疑だ。安倍は7月に発生した大規模な戦闘について「法的な意味での戦闘ではなく衝突だ」と答えて、ことさら南スーダンが戦場ではないことを強調した点だ。大統領派と副大統領派の大規模な衝突が起き、300人の死者が出ても、「戦闘」ではなく「衝突」なのだから、自衛隊への新任務は、PKO5原則から見ても問題ないと言いたいのだろう。


しかし7月の戦闘では中国兵2人が殺害されている。「戦闘」ではなく「衝突」は、内閣法制局の三百代言的解釈の典型だが、まるで戦時中ガダルカナル島「撤退」を「転進」、アッツ島「全滅」を「玉砕」と言い換えたような言葉のテクニックだ。紛れもなく南スーダンは「内戦」とも言えなくもない状態であり、実態はPKO参加5原則に抵触しかねないすれすれの状況ではないか。


状況証拠はまだある。安倍が「比較的安全」と発言してきたものを、稲田がジュバ視察後「安全」と言い切った点だ。さらに稲田は「駆けつけ警護は部隊が対応可能な限度において行うものであり、あらたなリスクを伴うものではなく、安全を確保した上での派遣することになる」とも発言している。
 

ここで根本的に理解不能なのは、安全なのになぜ集団的自衛権の行使にこだわるのかということだ。安全なのになぜ、民間人の危機への駆けつけ警護と、宿舎防衛の新権限を付与するかだ。安全ならば付与する必要もないではないか。9日付けの朝日によれば新たな任務として付与する場合、活動範囲を首都ジュバ周辺に限定する方針を固めたという。ジュバ市内が落ち着いているのに新しい任務がなぜ必要かと言うことだ。背景には安保法制への“実績作り”があるような気がしてならない。


南スーダンを作った米英が知らぬ顔の半兵衛を極め込んでいるのに、日本が頑張らなければならない理由が解せないのだ。英フィナンシャル・タイムズ紙は社説で、「自決に道を開く05年の和平合意にスーダン政府が署名したのは、米国、英国、東アフリカ諸国によるトップレベルでの一貫した関与があったからにほかならない」と強調「状況が悪化した今、彼らは目をそらしていた罪を免れない」と述べているが至言だ。
 

新聞の社説も割れている。朝日は9日付けの社説「駆けつけ警護、新任務の付与を焦るな」で 「政府は、PKO参加5原則は一貫して維持されているとの立場を崩していないが、ほんとうにそう言えるのか。」と疑問を投げかけている。一方読売は12日の社説で新任務付与を政府に促すとともに「万一に備えて新任務を実施する選択肢を確保しておくことは、人道的見地から意義深い。日本に対する国連や他国の信頼も高めよう」 と推進論だ。


産経も9月17日付けの社説で「陸上自衛隊の部隊が、『駆け付け警護』と『宿営地の共同防衛』の実動訓練を始めた。新任務として付与できる態勢を整えてほしい」と主張している。推進論はいずれも浅薄で、外交知識もない。


読売のように「国連や他国の信頼」など高まるわけもない。1万7千人の国連派遣部隊が存在する中で、緊急時に350人が何をしようと目立つことではない。万一戦後初の「戦死者」が出た場合に政権がどのような立場に置かれるかなどには言及していない。社説子はそこまで深く考えが及ぶ能力がないとみえる。まさに贔屓(ひいき)の引き倒しをやっていることが分かっていない。
 

君子危うきに近寄らずである。安倍はぎりぎりまで現地情勢を見極めた上で、11月中に付与を決定するかどうかを決断することになるようだ。もし付与を決断すればこれは野党にとって絶好の選挙テーマとなる。安倍が1月総選挙を考える限りプラスには作用しまい。


これまで安倍の右寄り路線は北朝鮮と中国の攻勢もあり選挙にプラスに作用したが、新任務付与は「危うき」そのものだ。野党は過度な右傾化の露呈と喧伝することは間違いない。だいいち場所が悪い。北東アジアでの集団的自衛権の行使で戦死者が出たのなら、多くの国民に支持されるが、アフリカ“くんだり”はあまりにも国民にとって縁遠い。戦争による“殉職馴れ”している国と、戦後一発も銃弾を発射していないばかりか戦死者ゼロの日本のケースは別次元の問題だ。


世界にはリスクなれした国とリスクを取りにくい国があるのだ。すぐそこにあるリスクに専念した方がいい。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家

2016年10月07日

◆安倍はドゥテルテ取り込みに秘術を尽くせ

杉浦 正章



中国傾斜阻止が喫緊の課題に
 

就任以来「反米親中露」に傾斜してゆくフィリピン大統領・ドゥテルテをいかに思いとどまらせるか。それができるのは世界で首相・安倍晋三しかいないという状況ができつつある。オバマはレームダックの足下を見られて、在任中の米比関係改善は無理だろう。クリントンに託すしかあるまい。その意味で今月下旬のドゥテルテ来日はきわめて重要な一歩となるが、問題はドゥテルテが中旬に訪中した後の訪日であることだ。


中国国家主席・習近平はしめたとばかりに舌なめずりして、“超国賓”待遇でもてなすだろう。ドゥテルテは舞上がっての来日となる。南シナ海の安全保障と絡んで、外交技術的にも戦後まれに見る難しい対応が不可欠となるのが安倍・ドゥテルテ会談だ。中国の実効支配を完成させてしまってはならない。
 

オバマが失敗したのはドゥテルテ発言の「売春婦の息子め」を、ぐっと我慢してジョークで紛らわせてでも、米比首脳会談を実現させることにあった。それにもかかわらず、発言をまともに受け取って首脳会談を拒否した。これがたたって4日には「オバマは地獄に行け」発言をするまでに至り、米比軍事演習を「最後の演習になる」。しまいには「米国とは縁を切る」などなど、決定的な言動につながってしまった。


国連事務総長・潘基文まで「ばか」と罵倒したが、これだけはうなずけなくもない。オバマはドゥテルテを軽く見た。一代で財を築き上げた中小企業のワンマン社長的な対応をしようとしたのだ。その側面はあるが、加えてドゥテルテの本質は「革命児」であることには気づかなかった。
 

ニューヨークタイムズがその姿を見事に報じている。同紙はドゥテルテ政権のマルティン・アンダナール広報官が、「フィリピンの体制は芯まで腐りきっている。新しい大統領はこの体制を改革し、全土で革命を起こそうとしているのだ」と強調するとともに「フィリピンには“再起動”が必要だから、人びとはドゥテルテを大統領に選んだ。


初めの段階では混乱も起きるが、混乱がこのままずっと続くわけではない」と説明しているという。支持率91%という国民の圧倒的な支持を背景に、ドゥテルテはマニラの既存エリート政治家たちが放置した麻薬組織の壊滅しかフィリピンの生きる道はないと信じ込んで、自ら命がけの対マフィア作戦を展開しているのだ。 
 

中小企業のワンマン社長であると同時に、「革命児」として自らを位置づけているのだ。その革命の最中にオバマが欧米の道徳観で、ドゥテルテ批判をした。超法規的な麻薬犯殺害に異議を唱え「我々は常に正当な法の手続きのもと、国際的規範と一致するやり方で麻薬取引と戦う必要がある」と発言したのだ。


これがドゥテルテを心底怒らせてしまった。ワンマン社長は自信過剰で、他人の言うことなど頭から聞かない。加えて革命児は「使命感」に燃えている。芯まで腐りきった体制を覆そうとしているのに、オバマが内政干渉をしてきたというのが、ドゥテルテの失望と怒りの根源にあるのだ。
 

オバマはドゥテルテの性格分析を誤り、反米に追いやってしまったのだ。ワンマン社長も革命児も、良好な関係を築くにはまずおだてにおだて上げることが必要なのだ。意見を聞かれても直接反論せず、「こういう意見を言う人もいる」と言った具合に、自らの意見でなく他人の意見として諭すのだ。小浜とは対照的に安倍は、ドゥテルテとの9月6日の会談を見事に成し遂げた。おそらく優秀な外務官僚の分析・判断が根底にあったのだろう。


日比関係をよりプラス指向なものとした。南シナ海問題でも,法の支配の重要性等について意見交換を行い,仲裁判断も踏まえ,紛争の平和的解決に向け協力関係を強化していくことを確認している。オバマが壊しそうになった南シナ海における安全保障の構図をかろうじて首の皮一枚で維持出来たのだ。
 

しかし、中国の駐比大使がぬけぬけと「暗雲が消え太陽が昇ってきた」と発言しているように、ことは簡単ではない。これからだ。まさに中国は笑いが止まらない事態であろう。中国の基本戦略は東のパラセル諸島と南のスプラトリー諸島に築きあげた人口島を東のスカボロー礁にまで広げて南シナ海を覆う逆正三角形の軍事要塞を築き上げることにある。


当面はフィリピンとの関係を重視して、控えるかもしれないが、確実に南シナ海制覇の野望を実現しようとするだろう。その焦点がフィリピン沖のスカボロー礁なのだ。そのためにドゥテルテをあの手この手で懐柔して、ドゥテルテが述べているように「在任中に米国との関係を絶つ」ところまで関係悪化をさせようとするに違いない。下手をするとドゥテルテが中国との間で軍事同盟でも結べば、スカボロー礁ですら必要でなくなりかねない。
 

安倍はこの構図にいかに突破口を開くかだ。いずれにしても米比関係はクリントンが作り直すしかないし、米新政権でも優先度の高い課題となるだろう。したがって、当面は安倍が米比関係を仲介する必要はあるまい。まず、ドゥテルテ訪日を奇貨として日比関係をさらに充実、緊密化させる方向を確立させなければなるまい。経済、文化、人的交流をこれまで以上に強化しなければなるまい。言うまでもないが革命児だからと言って、ちやほやする必要はない。


安倍は日本の革命児だから堂々と対応すればよい。それが信頼関係につながる。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月06日

◆蓮舫質問は政治の基本構造を理解していない

杉浦 正章



キャスター的な浅薄さ露呈


「総理逃げないでください」「総理、そういう答弁恥ずかしくないですか」「そういう大臣に危機感を覚える」などなど。一般視聴者や駆け出し政治記者が聞くとさも見事に追及しているように感じさせるテクニックだが、政治分析のプロから見ればむなしく聞こえるばかりだ。

注目された民主党代表・蓮舫の参院予算委における質問は、憲法問題にせよ政策課題にせよ、民放キャスター的な浅薄さが際立った。これは政治の基本的な構造に対する理解の欠如から来ている。代表になってからの民進党支持率も依然低迷しており、とてもこの代表では政権を追い込むことなどできないと感じた。前原誠司の方が格段と追及能力があった。民進党は判断を誤った。
 

まず蓮舫が執拗に追及したのが憲法問題で、安倍が自民党改憲草案に対する逐条的なコメントを拒否している問題だ。蓮舫は「なぜ予算委で憲法の審議をしないというのか」と、押し問答のように繰り返した。安倍は「行政府として答える立場にない」と拒絶した。蓮舫は執拗に安倍に見解を迫ったが、はっきり言って八百屋でタコをくれと言っているようなことであることが分かっていない。


自民党副総裁・高村正彦が正確にコメントしている。高村は「内閣は憲法改正については何の機能もない。予算委で答弁を強要するのはナンセンスだ。首相に憲法改正の答弁を強要するのは、お門違いだ」とこき下ろしたが当然だ。
 

蓮舫は憲法自体を読んでいない。改正はそもそも96条で「国会の発議により行う」となっている。加えて99条で首相は現行憲法を「尊重擁護」する義務があるのだ。現行憲法順守の義務が課せられている以上、政府側から改正内容の発議もできないし、意見も述べにくいのだ。この基本構造を理解しないまま、蓮舫はまるで一般の法改正であるかのように制度を誤解し、追及している。政治の構造を理解していない証拠だ。
 

さらに蓮舫は自民党の憲法改正草案にある家族条項にもかみついた。「家族は自然かつ基本的な単位として尊重される」の部分だ。「これは妻と夫が不平等の時代へと戻る」というのが批判の理由だ。戸主に家の統率権限を与えていた明治憲法下の民法における「家制度」へと逆戻りしてしまうというのである。


しかしこれも曲解以外のなにものでもない。自民党案は世界人権宣言16条や国際規約23条にある「家庭は、社会の自然かつ基礎的な集団単位であって社会及び国の保護を受ける権利を有する」に準拠したものにほかならない。むしろ家族の平等性は担保されており、蓮舫の邪推のような批判は当たらないのだ。ここでも政治の基本構造を理解していないで、デマゴーグ作りに専念する姿勢が現れている。
 

固唾をのんで議論の展開が見守られたのが「女の戦い」だ。衆院で辻元清美が稲田を泣かせた例もあり、蓮舫は今度は号泣させるとばかりに、「稲田いじめ」に取りかかった。辻元も蓮舫も、年増女のいじめはあの手この手で底意地が悪く、嫁いびりのようでいやらしい。


稲田が野党時代に月刊誌で「子ども手当をそっくり防衛費に回せば軍事費の国際水準に近づく」と述べた事を鬼の首でも取ったかのように追及した。しかし稲田は安倍の手ほどきを受けたのか、民主党政権時代のていたらくと関連させて答弁するという“逆襲”に出た。「政権が変われば、野党時代に言ったことは何でも関係ないということか」との追及に「『日本列島は日本人だけのものではない』という方が首相になられ、辺野古(移設)について『最低でも県外、国外』と言われたいへん混迷し、尖閣で中国の船が衝突して大混乱になっていた。当時の政権に危機感をもって指摘した」と反論。蓮舫は「そういう大臣に危機感を覚える」と切り返したが、こじつけの的外れであった。


稲田は民主党政権がマニフェストで子ども手当を創設するとしながら財源がなく空約束にとどまったことを指摘して「財源のない子ども手当を主張するくらいなら、軍事費を増やすべきではないかと言った。財源がない中での発言だった」と切り返した。
 

蓮舫は稲田が主張した核保有論についても追及したが、稲田は「現在全く考えていない」とかわした。総じて稲田は答弁技術を身につけ始めた。蓮舫もたじたじとなって、「気持ちがいいくらいの変節だ」と毒針を吹いたが、この捨てゼリフからみても6対4で稲田の勝ちだった。蓮舫は就任以来批判より提案を重視する方針を明らかにしたが、本会議に次いで予算委でも提案といえるものはなかった。逆に揚げ足取りが目立った。


追及に精一杯で、余裕は感じられなかった。高村が「批判100%、提案0%だ。こういう姿勢を早く変えてほしい」と指摘するのも無理はない。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月05日

◆米露関係悪化が領土交渉直撃の危険性

杉浦正章



安倍は針の穴にラクダを通せるか
 

米国がシリア停戦に向けたロシアとの協議を停止すると発表し、米ロ関係の悪化が現実のものとなったが、これが日ロの領土・平和条約交渉を直撃、冷水を浴びせる可能性が生じている。


これまでも米国は領土交渉に向けての日露の緊密化が大統領選での政権の移行期に行われることを内心苦々しく感じていたようだが、米ロ関係の悪化は日米同盟の機微に触れる問題でもあり、首相・安倍晋三は対米関係を取るか、ロシアとの交渉を予定通り推進するかで板挟みになる危険性が出てきた。


ここは対米関係を重視して、過度の対露経済協力への深入りは、ペンディングにするべきかもしれない。さらに日露接近は米国の対中戦略にも合致することを繰り返し説得する必要も出てきた。
 

政治記者たちは見過ごしたが、さすがに民進党の前原誠司は、予算委でポイントを突く質問をした。「私の皮膚感覚では米国の政権移行期に対露交渉を進めることはよいとは思わない。安倍首相が対米関係を軽視しているとは思わないが伝えておく。」などと言明したのだ。


あくまで自分の考えとして質問したが、「伝えておく」という表現や、その他の口ぶりから見ても明らかに自らの米国ルートから相当なクレームが入っていることを物語っている。安倍は「米国の国内情勢に合わせてしか対露交渉ができないとなれば、日露交渉の前にアメリカとの交渉が必要となる。今後新しい政権移行チームに我々のスキームを説明する」と答弁、オバマにも方針を説明して了承されていることを明らかにした。 
 

この日露交渉と対米関係について安倍は前外務次官の斎木昭隆を次官時代に訪米させて、説明に当たらせている。斎木はワシントンで大統領次席補佐官・ブリンケンと会談、「日ロ関係が進展した方が、北東アジアの安全保障環境にとってプラスになる」と説明している。また安倍は別のルートで米国に対露交渉をウクライナ問題と切り離す方針を伝えていると言われる。


確かに北方領土交渉が進展すれば極東の安全保障にプラスになることは間違いない。というのも、一見良好に見える中ロ関係が最近微妙な影を落とし始めているからだ。中国の石油買いたたきがロシアの感情を害している上に、中国が東・南シナ海に加えて北極海にも進出し始めているからだ。中国の戦艦が最近頻繁に大連から日本海を抜け千島を横切って北極海経由でヨーロッパに向かうケースが生じている。


これを安保上の問題ととらえてロシアは、千島列島中部のマトゥア島(日本名は松輪島)で新しい海軍基地の建設を今年中に着手する方針を決めている。国後・択捉に3500人駐屯させている軍隊も増強する方向のようだ。中国の覇権へのけん制が主目的であるとみられている。これは領土交渉へのマイナス要素として作用する。
 

安倍は領土返還につなげる対露経済協力はあくまでG7 (主要7か国)の制裁の枠内としているが、一方で北方領土担当の世耕弘成には「できることは何でもやれ」と指示している。こうした安倍の方針を歓迎してか元駐日ロシア大使のパノフは5日付朝日とのインタビューで「安倍氏の言葉や行動は日本が西側の対露制裁網から事実上離脱したことを物語っている。G7で日本だけだ。」と大歓迎している。


ロシアはG7分断に成功したとの判断だ。明らかにロシアは対日領土交渉をG7分断のプロパガンダに使おうとしている。これは気をつけなければならない問題だ。今年はG7の議長国でもある日本が、自ら足並みを乱したとなれば、米欧からひんしゅくを買うことは必定だ。
 

すべては9月2日のウラジオストクにおける55分間にわたる2人だけの会談で安倍とプーチンが何を語り合ったかが重要だ。気になるのは、このあとプーチンが杭州で記者団に「思い出しておきたいのだが、ソ連はこの領土を第2次世界大戦の結果として手に入れ、国際法文書により登録された。ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。そこには南の2島(ハボマイ シコタン)が日本側に引き渡されると書いてある。


しかし、この場にいるのは全員が法律家ではないため、私は法律家として次のことを言うことができる。つまり、『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、どの国の主権が保持されるのかは書いていない。」と述べている点だ。 
 

おそらく「どの国の主権が保持されるのかは書いていない」とするプーチンのポジションは、4島の帰属・主権がロシア側にあることを前提にして、2島返還するときにも「歯舞・色丹は返還でなく引き渡す」というポジションを貫こうとする可能性が高い。もちろん国後・択捉における日本の主権も認めないままであろう。


その場合に重要なのはささやかれている1月総選挙との絡みだ。筆者が見たところ選挙で勝てるのは「ロシアに4島の主権を認めさせ、国後・択捉は交渉継続として、歯舞・色丹の返還を得る」方法しかあるまい。4島がロシアの帰属で、2島を日本に「与える」という形では、野党を勢いづかせて選挙には不利だ。


パノフは「11月15日の山口会談で両国首脳が今後の出発点となるような合意ができれば、平和条約まで持って行くことは十分可能だ」と述べているが、米露関係の悪化で安倍は対米関係も意識しつつ、ラクダを針の穴に通すようなサーカス芸を求められることになる。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年10月04日

◆「小池新党」は無理筋だ

杉浦 正章



地方自治になじまない


「騎虎の勢い」は誤用されるケースが多いが、本来の意味は「虎に乗った者が途中で降りると虎に食われてしまうので降りられないように、やりかけた物事を、途中でやめることができなくなること」を意味する。都知事・小池百合子は、まさにポピュリズムという虎の背にまたがって突っ走っている。


小池新党を振りかざすかと思えば、知事の給与半減。コンクリが悪で盛り土が善。その勢いは飛ぶ鳥をも落とすかのようである。ポピュリズムであれ何であれ、都民が幸福になればよいことだが、小池政治の弱点は、ポピュリズムの材料が無限に存在しないことにある。自転車操業なのである。


ポピュリズムに生きる政治家はやがてポピュリズムで倒れるという危うさを内包しているのだ。自民党幹事長代行で都連会長・下村博文は「小池氏のうまさは、何でも『ありそうなシチュエーション』を作っていくことだ」と述べているがまさに至言であろう。
 

その「小池新党」だが本当にできるのだろうか。30日に開講式を行う「希望の塾」に関して小池新党の布石だという説が飛び交っている。民進党の前原誠司までまともに受け取って「小池新党と橋下徹さんが結びついて、人気が出て新党ブームになる。民進党はいろんなところで埋没するだろう」と指摘。その上で「野党第一党の民進党という枕詞(まくらことば)がなくなるような状況、危険性があるという危機意識を持つべきだ」と強調している。小池新党の国政進出への危機感を抱いているのだ。


維新と小池新党の連携ができれば 民進党にとって悪夢だというのだ。事実、前維新共同代表・橋下徹も秋波を投げかけているという説がある。小池新党が国政に進出することへの危機感は民進党ばかりではない、自民党にもある。総選挙に間に合わされれば、自民党議席も食われることは確実だ。だから1月解散説が勢いを増していると言う話もある。
 

もっとも小池新党は元々都議会勢力確保を狙っての小池の発案であり、知事選前後から論議が盛り上がった。小池自身も「一つの選択肢」と明言している。しかしここに来てややトーンダウンしてきている。そもそもの狙いが、自民党を中心とする都議会勢力の分断にあり、小池の言う「 ブラックボックス」と呼んできた都庁内の意思決定プロセスの不透明さとの戦いである。


自民党都連に院政を敷く前幹事長・内田茂との戦いでもある。従って、自民党が小池になびけば、問題は除去されるのだ。小池はまるで山姥(やまんば)が包丁を研いでいるような姿を見せつけて、脅しにかかっているのだ。
 

この小池の騎虎の勢いにまともにぶつかっては当分勝ち目はないと判断したのが、自民党執行部である。首相・安倍晋三が選挙後小池に会って「一本とられました」と甲(かぶと)を脱いでみせれば、自民党幹事長・二階俊博も「撃ち方やめ」を宣言した。二階は、小池の側近で都知事選で党の方針に従わず小池を支援した衆院議員・若狭勝(比例東京)を「厳重注意」にとどめたのみならず、衆院東京10区補欠選挙で公認候補とした。補選勝利には小池との連携が不可欠と判断したためだ。自民党本部にしてみれば小池と対決することの得失を考慮した結果であろう。
 

都議会自民党も一部を除いては小池との対決を避けつつある。小池が都議会で行った所信表明演説のあと、自民党幹事長・高木啓以下が拍手をしたほどである。自民党都連にはなお反小池感情がくすぶっており、それが小池応援の区議7人を除名勧告処分にする方針を決めるという、独断行動を導いた。党本部の意向を無視した関東軍的な動きである。


これに対して若狭は「即刻撤回すべきだ。1週間ほどで処分が撤回されなければ離党も辞さない」と牽制球を投げている。しかし若狭も本気ではあるまい。ネットのインタビューで「新聞が大きく書いて一人歩きしている」とも述べている。都連が除名勧告を取り下げればすむという話だ。
 

小池の優秀なブレーンでもある若狭は小池新党に関して「新党を作ると自民党の中で小池さんの主張を正論だと思う人が、新党に加わることを躊躇すると思う。だとすると作らなくて都議会自民党でこれから小池知事のことをきちんと支えていこうという人が仮にいるんだとすれば、ソフトな柔軟な形で都議会の構成を小池支持派で増やしていくということも選択肢じゃないかと思う」と発言している。実にまっとうな見方だ。


「自民党が対決姿勢を表せばすぐに小池新党になっていくと思う」とも述べており、要するに小池新党は出刃を研いでいるだけで、これを使うかどうかは自民党の出方次第という訳だ。
 

本来中央政治と異なり、地方自治体の長と議会は基本的には対峙の中からベストの選択を生み出す民主主義のシステムであり、別々の選挙で選出される。したがって議院内閣制をとる中央政治とは異なる。与党が内閣を握るようなシステムではないのだ。小池が多数のシンパ獲得を目指して新党を作ることは地方自治にはなじまない。無理筋でありやめた方がいいことだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月30日

◆ガラパゴス国会に新風を吹き込め

杉浦 正章
 


スタンディングオベーションはどんどんやれ
 

最近スタンディングオベーションで感動したのは高畑淳子主演の舞台「雪まろげ」で、観衆が総立ちになってカーテンコールをしたことだ。「頑張れ」の声援もとんだ。高畑は涙でこれに応えた。息子の不祥事にもかかわらず民放テレビが「高畑いじめ」を執拗に繰り返すのを見て、苦々しく思っていたが、同じ感情を抱く人が多かったことが分かった。


最近は感動したら日本でもスタンディングオベーションをするようになってきた。小澤征爾の指揮に感動して立ち上がったことがあるが、クラシックファンですらそうだ。スタンディングオベーションなど米議会では日常茶飯事だ。
 

翻って日本の国会を見るとガラパゴス化が進んでいるとしか思えない。ガラパゴス化というのは日本市場で独自の進化を遂げた携帯電話を指す。孤立した環境で「最適化」が著しく進行すると、エリア外との互換性を失い孤立して取り残されるのだ。


日本の国会を半世紀見ているとそう感ずる。古い慣習や独特の「文化」に縛られて空気がよどんでいる。新しいことをやると何かと過去に慣例がないと否定される。スタンディングオベーションくらいで自民党が「反省猿」になってどうする。


若い小泉進次郎まで自分で立ち上がっておきながら反対では先が思いやられる。何でもっと素直に物事を受け取れないかと言いたい。その上何でも政党間の争いのテーマにしたがる。それも事実関係をねじ曲げようとする。
 

首相・安倍晋三が、領土を守る決意を述べたあと、海上保安庁、警察、自衛隊に「今この場所から、心からの敬意を表そうではありませんか」と呼びかけた。事前の根回しもすんでいたと見えて、若手を中心にスタンディングオベーションが行われた。


これに対し野党の反応は何でも政局化の小沢一郎が「北朝鮮みたいだ」と述べれば、ガラパゴス国会の象亀のような民進党も、しめたとばかりに動いた。蓮舫は29日「与党のおごりでしかない。厳しく臨んでいきたい」となお追及の構えだ。


朝日もうれしがって、天声人語で「同調圧力という言葉がある。空気を読んで周りの行動にあわせるよう、強いられることをいう」と、インテリ・イグアナのようにもっともらしくかみついた。「多くの職業のなか、なぜこの人たちだけをたたえるのか釈然としない。あの場で議員たちは、気持ち悪いと思いながらも圧力を感じて起立したのだろうか。あるいは、ためらいや疑問もなく体が動いたのか」と反対世論をリードにかかった。
 

しかし、民進党も自分のやったことを棚に上げてはいけない。2009年10月26日に臨時国会で、同様のスタンディングオベーションが発生している。ネットテレビで見返したが首相・鳩山由紀夫の演説に、当選したばかりの小沢チルドレンが興奮してスタンディングオベーションをやっているではないか。自分の党の首相、しかもルーピーで世界的に有名な首相には立ち上がって拍手をしてもよくて、自衛隊員らに拍手してはいけないのか。


朝日は天声人語でこのルーピーへの礼賛を「同調圧力」と批判したか。してないだろう。「多くの政治家の中でなぜルーピーだけをたたえるのか釈然としない」と書くべきだったのではないか。それとも社是で民進党ならやってもよくて、自衛隊礼賛はけしからんとなっているのか。
 

安倍は29日の参院本会議で野党が「軍隊優先という考えが潜んでいるからではないか」と指摘したのに対して「所信表明演説では、困難な状況の中、国民のため、それぞれの現場において厳しい任務を全うする海上保安庁、警察、自衛隊の諸君に対し、心からの敬意を表そうと申し上げたものだ。また、国民よりも、海上保安庁、警察、自衛隊が優先するなどという考えは、根本的に間違っているだけでなく、彼らの誇りを傷つけるものだ」と反論した。


至極もっともだ。安倍が音頭をとったのは、災害や、防衛で国のために命がけで働いている自衛隊員や警察官、海上保安官をたたえるためであり、天声人語の解釈のように、自らをたたえよと言ったわけではない。演説に感動してスタンディングオベーションをやって何が悪い。慣習がないのなら作ればいいのだ。

 
誰も気がついていないが、このスタンディングオベーションからみても安倍は1月解散・総選挙を意識しているフシがある。陸海空自衛隊員25万票、警察官28万票、海上保安官1万3千票の囲い込みだ。家族、友人の票をプラスすれば300万票はかるくいく。今後国会でスタンディングオベーション批判が野党から出されるたびに、自民党へと票が流れる構図だ。それなのに自民党幹部が反省しては元も子もなくなる。ばかとは言わんが利口ではない。


安倍の読みは意外と深いのだ。選挙が近くなったらどんどん職業別にスタンディングオベーションをやればよい。これは冗談だ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月29日

◆蓮舫、トランプ並みの敗北ー党首初対決

杉浦 正章



「提案」も抽象論に終始


「蓮(はす)は泥の中からりんと茎を伸ばし花を咲かせる」とは、“イケシャーシャー”とよく言ったものだ。よほど容姿に自信がなければ出てこない言葉だ。おまけに本会議で党首が言う発言だろうか。「おんな」を国権の最高機関の本会議で“売り”にしてはいけない。国会を利用したファッション雑誌の撮影のように、なにか民進党代表・蓮舫に“舞上がり”のようなものを感じて、これで大丈夫かと他人事ながら心配になる。


幹事長・野田佳彦もそうだ。巧言令色のご仁特有の、言葉に頼ってころころ変わる悪癖が目立つ。両者の代表質問を聞く限り、3年3か月の民主党政権の大失政と、デフレに手をこまねいた実態が浮かび上がるばかりだ。外交・安保・憲法など重要課題で党論を統一できないまま、安易な質疑を繰り返す姿勢もありありと見える。
 

先ず政治記者も政治家も気がついていないが、蓮舫ははじめから想像を絶する“大矛盾”の質問を展開した。「消費増税の2度に渡る延期はアベノミクスの失敗であり、ごまかしだ」と決めつけたが、民進党が閣議決定に先だって延期を唱えたのは4か月前だ。もう忘れたのだろうか。延期を党議決定した上で、5月に代表・岡田克也が党首討論に臨み、「消費増税は延期せざるを得ない状況だ」と安倍に決断を迫ったばかりではないか。若いのに健忘症では困る。  
 

また蓮舫は22回も「提案」という言葉を使って持論の「批判より提案」を強調したが、その提案の内容が抽象的で具体性に欠けるものが多く、不発に終わった。例えば「今の時代に合った経済政策が必要だと提案する」は具体性ゼロの噴飯物だ。自らの得意の分野に安倍を引き込もうと介護・福祉問題に時間を割いたが、ことごとく安倍に数字で論破されている。


例えば安倍が所信表明演説で子供の貧困に触れていないことを指摘したが、安倍から「民主党政権時代には児童扶養手当は1円も引き上げられなかった。重要なことは言葉を重ねることでなく結果だ。100の言葉より1の結果だ」と逆襲された。「アベノミクスの3本の矢は当たりもしなかった上に、財政、経済、金融市場がすべて傷だらけになった」という極端な主張には、安倍の「雇用は大きく改善し、有効求人倍率は全都道府県で1を超え、企業収益は過去最高」と反論された。まるでクリントンに論破されたトランプのようであった。「提案政党」どころか逆に「反対政党」の本質がきわだった。
 

蓮舫質問の最大の欠陥は、細かい“重箱の隅つつき”に専念するあまり、大局を見ていない点にある。まだ岡田の方が大局を見ていた。介護・福祉はもちろん重要な政治テーマだが、政治はそればかりではない。極東の情勢を見てみるがよい。北の核武装は止まるところを知らず、中国の東・南シナ海への覇権行動は収まりそうもない。まさに極東の危機であるにも関わらず、外交・安保問題には一切言及がなかった。知らないことは聞かない姿勢で党首が務まるのか疑問だ。その点、社会党委員長・土井たか子は、外交内政ともに追及力を持っていた。最初のハブとマングースの戦いは、7対3でマングースの勝ちだ。
 

一方野田も自らの政権の時に環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に入ることを決断したにもかかわらず、真っ向から反対に転じた。NHKでの発言では、「情報開示が十分でないままだ」と不満を述べながら「勝ち取るべきものを勝ち取っていない。私が躊躇したものを飲み込んだのではないか。協定案に賛成するわけにはいかない」と発言したのだ。半世紀も政治を見ていると声の抑揚で政治家の嘘が分かるが、野田の発言も賛成から反対に回るための苦し紛れのものであろう。情報開示が十分でないのに「躊躇したものを飲み込んだ」とどうして分かるのか。首相時代に「躊躇している」との発言はなかった。


野田は本会議で憲法審査会の審議に関連して、自民党の憲法改正草案の撤回を前提とするように求めたが、安倍は「撤回しなければ議論ができないという主張は理解に苦しむ」と拒否した。だいいち自民党幹事長・二階俊博も自民党案にこだわらず議論を進めるように提案しているではないか。他党の草案を最初から撤回を求めるのはおかしい。問題の所在は民進党が自らの改憲案を未だに作れない党内事情にあるのではないのか。蓮舫質問も野田質問も政策論議の統一がないまま放置されている民進党が抱える急所を露呈している。
 

討論を見たかぎり、デフレに手をこまねいて3年3か月失政を重ねた民進党よりも、安倍政権の方がよほどましだとの考えに至るしかない。未だに3年3か月の失政のくびきから逃れるに至っていない民進党の姿はどうしようもない。 

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)