2016年09月29日

◆蓮舫、トランプ並みの敗北ー党首初対決

杉浦 正章



「提案」も抽象論に終始


「蓮(はす)は泥の中からりんと茎を伸ばし花を咲かせる」とは、“イケシャーシャー”とよく言ったものだ。よほど容姿に自信がなければ出てこない言葉だ。おまけに本会議で党首が言う発言だろうか。「おんな」を国権の最高機関の本会議で“売り”にしてはいけない。国会を利用したファッション雑誌の撮影のように、なにか民進党代表・蓮舫に“舞上がり”のようなものを感じて、これで大丈夫かと他人事ながら心配になる。


幹事長・野田佳彦もそうだ。巧言令色のご仁特有の、言葉に頼ってころころ変わる悪癖が目立つ。両者の代表質問を聞く限り、3年3か月の民主党政権の大失政と、デフレに手をこまねいた実態が浮かび上がるばかりだ。外交・安保・憲法など重要課題で党論を統一できないまま、安易な質疑を繰り返す姿勢もありありと見える。
 

先ず政治記者も政治家も気がついていないが、蓮舫ははじめから想像を絶する“大矛盾”の質問を展開した。「消費増税の2度に渡る延期はアベノミクスの失敗であり、ごまかしだ」と決めつけたが、民進党が閣議決定に先だって延期を唱えたのは4か月前だ。もう忘れたのだろうか。延期を党議決定した上で、5月に代表・岡田克也が党首討論に臨み、「消費増税は延期せざるを得ない状況だ」と安倍に決断を迫ったばかりではないか。若いのに健忘症では困る。  
 

また蓮舫は22回も「提案」という言葉を使って持論の「批判より提案」を強調したが、その提案の内容が抽象的で具体性に欠けるものが多く、不発に終わった。例えば「今の時代に合った経済政策が必要だと提案する」は具体性ゼロの噴飯物だ。自らの得意の分野に安倍を引き込もうと介護・福祉問題に時間を割いたが、ことごとく安倍に数字で論破されている。


例えば安倍が所信表明演説で子供の貧困に触れていないことを指摘したが、安倍から「民主党政権時代には児童扶養手当は1円も引き上げられなかった。重要なことは言葉を重ねることでなく結果だ。100の言葉より1の結果だ」と逆襲された。「アベノミクスの3本の矢は当たりもしなかった上に、財政、経済、金融市場がすべて傷だらけになった」という極端な主張には、安倍の「雇用は大きく改善し、有効求人倍率は全都道府県で1を超え、企業収益は過去最高」と反論された。まるでクリントンに論破されたトランプのようであった。「提案政党」どころか逆に「反対政党」の本質がきわだった。
 

蓮舫質問の最大の欠陥は、細かい“重箱の隅つつき”に専念するあまり、大局を見ていない点にある。まだ岡田の方が大局を見ていた。介護・福祉はもちろん重要な政治テーマだが、政治はそればかりではない。極東の情勢を見てみるがよい。北の核武装は止まるところを知らず、中国の東・南シナ海への覇権行動は収まりそうもない。まさに極東の危機であるにも関わらず、外交・安保問題には一切言及がなかった。知らないことは聞かない姿勢で党首が務まるのか疑問だ。その点、社会党委員長・土井たか子は、外交内政ともに追及力を持っていた。最初のハブとマングースの戦いは、7対3でマングースの勝ちだ。
 

一方野田も自らの政権の時に環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に入ることを決断したにもかかわらず、真っ向から反対に転じた。NHKでの発言では、「情報開示が十分でないままだ」と不満を述べながら「勝ち取るべきものを勝ち取っていない。私が躊躇したものを飲み込んだのではないか。協定案に賛成するわけにはいかない」と発言したのだ。半世紀も政治を見ていると声の抑揚で政治家の嘘が分かるが、野田の発言も賛成から反対に回るための苦し紛れのものであろう。情報開示が十分でないのに「躊躇したものを飲み込んだ」とどうして分かるのか。首相時代に「躊躇している」との発言はなかった。


野田は本会議で憲法審査会の審議に関連して、自民党の憲法改正草案の撤回を前提とするように求めたが、安倍は「撤回しなければ議論ができないという主張は理解に苦しむ」と拒否した。だいいち自民党幹事長・二階俊博も自民党案にこだわらず議論を進めるように提案しているではないか。他党の草案を最初から撤回を求めるのはおかしい。問題の所在は民進党が自らの改憲案を未だに作れない党内事情にあるのではないのか。蓮舫質問も野田質問も政策論議の統一がないまま放置されている民進党が抱える急所を露呈している。
 

討論を見たかぎり、デフレに手をこまねいて3年3か月失政を重ねた民進党よりも、安倍政権の方がよほどましだとの考えに至るしかない。未だに3年3か月の失政のくびきから逃れるに至っていない民進党の姿はどうしようもない。 

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月28日

◆クリントン優勢が確定的にー米大統領選

杉浦 正章



トランプは無知蒙昧を露呈


まるでだだっ子を笑顔であやす母親のようであった。短慮のいらだちには微笑で返した。クリントンの勝ちだ。日米の報道機関でNHKだけが夜7時のニュースでクリントンとトランプの討論を対等との分析で報道、特派員も「五分五分の戦い」と形容したが、一種の誤報であろう。公共放送が国民の判断を大きく誤導して遺憾である。


討論内容をつぶさにメモをとって分析したがどう見てもクリントンが圧倒していた。クリントンは環太平洋経済連携協定(TPP)を巡っては守勢であったものの、外交・安保、核問題、人種問題、健康問題などではトランプを圧倒した。これまでの大統領選を見てもテレビ討論の初戦の勝利は、継続する。クリントンは11月8日の大統領選勝利に向けて、大きな地歩を気づいたといわざるを得まい。


討論の結果はメデイアがどう見るかで決まるが、米国の新聞、テレビの大勢はクリントンに軍配を上げている。ニューヨークタイムズは社説で、「討論の進展につれてトランプ氏は、クリントン氏との議論に苦しみ、挽回できなかった」とクリントン優勢を伝えた。ワシントンポストも「大統領にふさわしいのはクリントン氏だけだということが証明された」と報じた。


CNNに至っては、世論調査でクリントンの勝ちが62%だったのに対してトランプは27%と報じた。CNNは民主党寄りだが、それにしてもこの差は大きすぎる。

 
それでは項目別に勝敗を分析、点数をつけてみる。まずTPPでトランプは「クリントン氏は大統領になったら賛成するだろう。私が反対と言ってから突然反対に回った」と酷評した。これに対してクリントンは「それは事実ではない。反対意見を述べている」と反論したが、押され気味で50点対50点で引き分け。


次に人種差別問題ではクリントンが攻勢をかけた。「ドナルド(トランプ)はアメリカ初の黒人大統領をアメリカ人ではないと間違った表現をした」「73年に人種差別で司法省から訴えられた。アフリカ系アメリカ人に住宅の賃貸を拒否したからだ」と突いた。ところがトランプは、これに正面から反論できずに、訳の分からない言葉を羅列して話をそらした。これによって、黒人やイスラム教徒の票は一挙にトランプを離れ、90点対10点でクリントンの勝ち。

 
日本にも関わる対同盟国関係でもトランプは浅慮を浮き彫りにさせた。まず北大西洋条約機構(NATO)についてトランプは「NATOは時代遅れだ。米国は費用の73%も負担している」と、米大統領の伝統的なNATOとの深い関係維持を直撃した。


これに対してクリントンは「NATOは軍事同盟であり、一国への攻撃は加盟国すべてに対する攻撃と見なすことになっている」とじゅんじゅんと諭した。またトランプがたびたび日韓両国の核保有を認める発言をしていることに対して、クリントンは「トランプは東アジアで『核戦争が起きても大丈夫。楽しんでね』と言っている」と核問題をもてあそぶ姿を浮き彫りにした。その上で「韓国日本とは安保条約を結んでいる。相互防衛条約をを尊重すると約束したい」と言明した。また「世界の指導者に米国に対する疑念が巻き起こっている」と、トランプ発言で日韓両国などに対米不信が生じていることを明らかにした。


最後にクリントンは「核の拡散はテロリストに核が渡る危険がある。簡単に挑発に乗る人が核のボタンのそばにいては問題だ」と指摘して、大統領としての資質がトランプにないことを浮き彫りにさせた。


中露が力による現状変更に躍起となっており、北が危ない核の火遊びをしている現状を、トランプは理解せず、日本がアジアでの防波堤となって米国の利益になっていることなど、とんと無知であることを浮き彫りにさせた。総じて同盟関係でも核問題でもトランプの無知蒙昧ぶりとその極端な主張が露呈されて、100点対0点でクリントンに軍配。

 
さらにクリントンは、トランプを巡る金銭疑惑も浮き彫りにした。クリントンは「これまでどの大統領候補も確定申告書を公開してきた。なぜ公開しないのか」と疑問を投げかけ、その理由について「ドナルドが言っているほど金持ちではないからか。慈善団体への寄付をしていないからか。連邦政府への所得税を一切払っていないからか」と追求した。


これに対してもトランプは話をそらして、饒舌にほかの問題を語っていた。おまけに「ヒラリーがメールを公開すれば自分も公開する」と焦点を外そうとした。クリントンの攻勢に圧倒された形で、90点対10点。私用メール問題はクリントンが陳謝をしただけで終わり、みそぎが済んだ形だ。
 

最後にクリントンの健康問題でトランプは「ヒラリーは大統領としてのスタミナがない」と痛いところを突いたかに見えた。ところがクリントンは、「ドナルドは120か国を歴訪して、停戦合意や反対派の釈放を交渉し、11時間に渡って議会で証言してから言ってほしい」と切り返した。加えてクリントンは見る限り健康そうであった。この切り返しにトランプはグーの音も出なくて70点対30点でクリントン。

 
ほとんどすべてに渡って、クリントンの圧勝に終わったが、この背景にはクリントン陣営がトランプ発言や性格の傾向などの事前分析を徹底的に行い、模擬討論を行ってまで弱点を浮き彫りにさせる作戦を展開したことが成功したと言える。


これに対してトランプはほとんど準備をせず、当意即妙ぶりを発揮しようとしたが、場当たりで大統領としての能力のなさばかりが目立つ結果となった。大統領選のプロ対公職経験ゼロのど素人の戦いの様相であった。


首相・安倍晋三はニューヨークでクリントンと会談、トランプとは会談しなかったが先物買いの先見の明があったことになる。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月27日

◆北方領土返還で「ハボシコ解散」は可能か

杉浦 正章



「4島の帰属明記」なら自民圧勝
 
首相・安倍晋三が戦後政治史でまれに見る解散・総選挙に打って出るかど
うか、永田町が固唾をのんで見守っている。歯舞・色丹の返還を軸とする
「ハボシコ解散」だ。

筆者が「安倍はどっちみち4島返還は永遠に無理なら『2島プラスα』で
妥協して、1月通常国会冒頭解散・総選挙で国民の信を問うことも考える
べきだろう」と提案したのは9月1日のこと。これが解散風のきっかけと
なったのだろう。

朝日、読売、産経、日経、週刊朝日などが最近相次いで、北方領土返還・
日露平和条約締結で国民の信を問う解散・総選挙があり得ると報じ始め
た。しかし「2島プラスα」といっても、ことは簡単ではない。

歯舞・色丹返還はあり得るとしても、焦点が国後・択捉の将来の返還に向
けてのプラスα部分に絞られるからだ。おそらく安倍が今対露交渉で躍起
になっているのは「4島の日本帰属」を明確にできるかどうかの一点に絞
られるだろう。「4島帰属明記」と「歯舞・色丹返還」なら、総選挙は
「自民党圧勝」の構図となり得る。

蓮舫はものを知らない。党首なら戦後史くらいは頭に入れておけと言いた
い。時事放談で北方領土返還と総選挙の可能性を問われて「外交案件を争
点に選挙とは違和感が残る」と発言したのだ。戦後外交を争点にした解
散・総選挙は二回ある。

一つは1969年末の解散で、佐藤栄作が悲願であった沖縄返還を成し遂げ、
その余勢を駆って行われた解散・総選挙だ。沖縄返還を確定させてから解
散したため「沖縄解散」と呼ばれており、自民党が300議席を達成した。
他の一つは72年11月に田中角栄が日中国交正常化を背景に解散したもの
だ。しかし列島改造論でインフレが進んだこともあって自民党は不振だった。

安倍が考えているとすれば「沖縄解散」の轍(わだち)をたどることだろ
う。この安倍の心中を察したか財務相・麻生太郎が最近派閥の会合で「1
月解散はあり得る。しっかり準備しておけ」と指示している。

安倍が通常1月に設定する自民党大会を3月にしたのも、1月に総選挙の
日程を入れるためとの見方がささやかれている。それでは解散風の根拠で
ある肝腎の日ロ交渉の進捗ぶりはどうなっているのだろうか。

見たところ、これまでにない高まりを内包していると判断せざるを得ない
だろう。安倍が「交渉を具体的に進める道筋が見えた」と発言すれば、
プーチンも「この問題で決定的な一歩を踏み出す用意がある」と踏み込ん
でいる。

安倍が「ロシア経済分野協力担当相」を新設すれば、プーチンは23日、日
本との経済協力を担当するポストの新設を決めた。そこには経済援助で
釣って領土の譲歩を引き出そうとする安倍と、領土で釣って経済援助を引
き出そうとするプーチンの思惑が、まさに垣間見えるのだ。

幸いにも文句をつけそうな米国のオバマはレームダック化している。次期
大統領が誕生する1月までは米国の干渉はしにくい。だいいち日露平和条
約は対中包囲網となることから、アメリカの世界戦略にもマッチする。

プーチンと安倍は既に15回の会談を繰り返しており、11月にはペルーで
開かれるAPEC首脳会議の際に会談して、12月15日の安倍の選挙
区・長門での首脳会談へとつなげる。プーチンは5日、杭州で記者団に
「ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。
そこには南の2島(歯舞・色丹)が日本側に引き渡されると書いてある。し
かし『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、
どの国の主権が保持されるのかは書いていない。」と説明したのだ。その
姿はロシア国民を一から教育し、誘導しようとする姿勢と受け取れる。


こうして日露両国首脳が発信源となって、北方領土問題が戦後70年にし
てようやく動きそうな気配となてきているのだ。この機会を逸すれば予見
しうる将来において北方領土問題の解決はないし、日露平和条約も締結に
は至らないだろう。すべては安倍とプーチンの個人的関係にかかっている
からだ。まさに崖っぷちの交渉であるといえるだろう。

 
返還を半ばあきらめつつある国民にとって2島でも返還すれば、その衝撃
は大きい。日本中が沸き立つだろう。しかし、解散・総選挙ともなれば野
党は必死にあらを探す。その焦点は、国後・択捉の返還につながるかどう
かであろう。安倍が国後・択捉へつなげられなければ、野党は「国後・択
捉を売った」と喧伝して回るだろう。これは訴求力が大きいとみなければ
なるまい。


これを阻止するのは冒頭に述べた、「4島は本来日本の領土」という「四
島帰属」を安倍がプーチンに確約させ、国後・択捉は将来に向けての交渉
課題とし、共同宣言で文書化する必要もある。つまり、帰属問題を明記し
なければならないのが基本だが、難しい外交交渉の場合、双方のメンツを
立てるため「玉虫色」で決着という手段がないわけではない。明記か玉虫
色か、玉虫色でも国民が納得できる表現となるかなどが、焦点中の焦点と
なるだろう。おそらく日露の水面下における交渉は、すさまじいせめぎ合
いとなっていることだろう。



◆北方領土返還で「ハボシコ解散」は可能か

杉浦 正章



「4島の帰属明記」なら自民圧勝
 

首相・安倍晋三が戦後政治史でまれに見る解散・総選挙に打って出るかどうか、永田町が固唾をのんで見守っている。歯舞・色丹の返還を軸とする「ハボシコ解散」だ。筆者が「安倍はどっちみち4島返還は永遠に無理なら『2島プラスα』で妥協して、1月通常国会冒頭解散・総選挙で国民の信を問うことも考えるべきだろう」と提案したのは9月1日のこと。これが解散風のきっかけとなったのだろう。


朝日、読売、産経、日経、週刊朝日などが最近相次いで、北方領土返還・日露平和条約締結で国民の信を問う解散・総選挙があり得ると報じ始めた。しかし「2島プラスα」といってもことは簡単ではない。歯舞・色丹返還はあり得るとしても、焦点が国後・択捉の将来の返還に向けてのプラスα部分に絞られるからだ。おそらく安倍が今対露交渉で躍起になっているのは「4島の日本帰属」を明確にできるかどうかの一点に絞られるだろう。「4島帰属明記」と「歯舞・色丹返還」なら、総選挙は「自民党圧勝」の構図となり得る。


蓮舫はものを知らない。党首なら戦後史くらいは頭に入れておけと言いたい。時事放談で北方領土返還と総選挙の可能性を問われて「外交案件を争点に選挙とは違和感が残る」と発言したのだ。戦後外交を争点にした解散・総選挙は二回ある。一つは1969年末の解散で、佐藤栄作が悲願であった沖縄返還を成し遂げ、その余勢を駆って行われた解散・総選挙だ。沖縄返還を確定させてから解散したため「沖縄解散」と呼ばれており、自民党が300議席を達成した。他の一つは72年11月に田中角栄が日中国交正常化を背景に解散したものだ。しかし列島改造論でインフレが進んだこともあって自民党は不振だった。


安倍が考えているとすれば「沖縄解散」の轍(わだち)をたどることだろう。この安倍の心中を察したか財務相・麻生太郎が最近派閥の会合で「1月解散はあり得る。しっかり準備しておけ」と指示している。安倍が通常1月に設定する自民党大会を3月にしたのも、1月に総選挙の日程を入れるためとの見方がささやかれている。それでは解散風の根拠である肝心の日ロ交渉の進捗ぶりはどうなっているのだろうか。


見たところ、これまでにない高まりを内包していると判断せざるを得ないだろう。安倍が「交渉を具体的に進める道筋が見えた」と発言すれば、プーチンも「この問題で決定的な一歩を踏み出す用意がある」と踏み込んでいる。安倍が「ロシア経済分野協力担当相」を新設すれば、プーチンは23日、日本との経済協力を担当するポストの新設を決めた。そこには経済援助で釣って領土の譲歩を引き出そうとする安倍と、領土で釣って経済援助を引き出そうとするプーチンの思惑が、まさに垣間見えるのだ。


幸いにも文句をつけそうな米国のオバマはレームダック化している。次期大統領が誕生する1月までは米国の干渉はしにくい。だいいち日露平和条約は対中包囲網となることから、アメリカの世界戦略にもマッチする。


プーチンと安倍は既に15回の会談を繰り返しており、11月にはペルーで開かれるAPEC首脳会議の際に会談して、12月15日の安倍の選挙区・長門での首脳会談へとつなげる。プーチンは5日、杭州で記者団に「ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。そこには南の2島(歯舞・色丹)が日本側に引き渡されると書いてある。しかし『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、どの国の主権が保持されるのかは書いていない。」と説明したのだ。その姿はロシア国民を一から教育し、誘導しようとする姿勢と受け取れる。


こうして日露両国首脳が発信源となって、北方領土問題が戦後70年にしてようやく動きそうな気配となてきているのだ。この機会を逸すれば予見しうる将来において北方領土問題の解決はないし、日露平和条約も締結には至らないだろう。すべては安倍とプーチンの個人的関係にかかっているからだ。まさに崖っぷちの交渉であるといえるだろう。

 
返還を半ばあきらめつつある国民にとって2島でも返還すれば、その衝撃は大きい。日本中が沸き立つだろう。しかし、解散・総選挙ともなれば野党は必死にあらを探す。その焦点は、国後・択捉の返還につながるかどうかであろう。安倍が国後・択捉へつなげられなければ、野党は「国後・択捉を売った」と喧伝して回るだろう。これは訴求力が大きいとみなければなるまい。


これを阻止するのは冒頭に述べた、「4島は本来日本の領土」という「四島帰属」を安倍がプーチンに確約させ、国後・択捉は将来に向けての交渉課題とし、共同宣言で文書化する必要もある。つまり、帰属問題を明記しなければならないのが基本だが、難しい外交交渉の場合、双方のメンツを立てるため「玉虫色」で決着という手段がないわけではない。明記か玉虫色か、玉虫色でも国民が納得できる表現となるかなどが、焦点中の焦点となるだろう。おそらく日露の水面下における交渉は、すさまじいせめぎ合いとなっていることだろう。

   <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月16日

◆破蓮(やれはす)にならないことを祈る

杉浦 正章

 

「おんな」が売りではすぐ化けの皮が・・
 

俳句で秋の季語に破蓮がある。蓮池や蓮田一面を覆った大きな葉が晩秋、風などで吹き破られた景は無残である。プロの句にもその無残さを詠んだものと、けなげにも立派な葉を維持しているさまを詠んだ句がある。


敗荷(やれはす)の中の全き一葉かな     清崎敏郎
破蓮となりて水面に立ち上がり        片山由美子


といった具合だ。蓮舫はその名前の由来について「ハスの花は平和の象徴。ハスの花の船をいくつもつないでいけるよう、台湾の祖母が『蓮舫』という名前をくれた」と初めて明らかにした。「舫」は「もやい」であり、船と船をつなぎ合わせることを意味する。将来政治家としての成長を予想したかのような祖母の命名である。
 

蓮舫は自らを「泥沼の中でりんと開く花」と形容したが、たしかにその白一色の装いといい、新鮮さといい、48歳と老いてなお衰えぬ色香といい、今のところはそう自慢されても仕方があるまい。


問題はその泥沼の方の光景はどうか。民主党政権時代の大失政から依然として立ち上がれず、国民の支持率は読売の最新調査で安倍政権が62%に達したのに対して、民進党は低迷の8%だ。その民進党がなぜ蓮舫を選んだかといえばジャンヌダルクのような救世主であることを求めたからに他ならない。この「泥沼」の状況から抜け出すために、「蜘蛛の糸」でもすがりたいのだ。
 

だから数々の「難点」にも目をつむった。最大のものが、二重国籍問題である。同問題について前原誠司は「リーダーになる人はうそをついてはいけない。全てを国民に明らかにしなければ、党の顔になった時にその党は立っていられない。代表の仕事はそれぐらい重い」と手厳しく批判した。


新聞は報道しないから皆気づいていないが、小生のように気づいた民進党幹部もいたのだ。蓮舫が二重国籍を発表したのは地方党員などの選挙が完了した13日になってからである。前日台湾代表処 から「台湾籍があった」と連絡を受けたとして、「急きょ」二重国籍を発表したが、地方票に関しては後の祭りであった。それを蓮舫が狙った公算があるから、前原は「うそつくな」と言ったのだ。


だから代表選挙の正当性に疑問が生じている。党内に大きなしこりを残したばかりでなく、自民党も臨時国会審議で最大の弱点として突く構えだ。阿部知子も「民主党は新たな船出だがタイタニックかもしれない」と不吉な予感を述べた。蓮舫自身が持つ危うさがあるからだ。
 

首相・安倍晋三は臨時国会の党首ディスカッツションなどで、蓮舫とやり合うことになる。安倍は15日「党首同士で正々堂々の議論をさせてほしい」と受けて立つ構えだ。「安倍Vs蓮舫」の戦いを予想すれば、安倍が6対4で勝つだろう。


安倍と蓮舫は常にハブとマングースの戦いを展開してきた。昨年夏の安保国会では、蓮舫質問の細かさに業を煮やした安倍が、自席から「まあいいじゃん。そんなこと」とやじって、紛糾した。じっさい蓮舫の質問は白いスピッツのようにキャンキャンとうるさいばかりで、重みがない。


一見頭をよく見せるためか早口と回転の良さが“売り”だが、国会議員はしゃべればしゃべるほどいいタレント司会者ではない。究極は判断力が最重要なのだ。すぐ見破られるような「うそ」をついてはだめだ。判断が甘いのである。ただ判断が正しい唯一の発言がある。それは民進党前代表・岡田克也を「つまらない男」と形容したことである。今年の流行語大賞に推挙したい。
 

臨時国会で焦点となる環太平洋経済連携協定(TPP)にしても、そもそも民主党が着手した問題であり、これを米国の対応が分からないからと言って「反対」を言うのはおかしい。奇異に感じたのは極東が危機的な情勢にあるにもかかわらず、民主党代表選挙ではほとんど争点になっていない。


蓮舫が主張するのはもっぱら内政ばかりである。これは党では弱みになる。党首ディスカッツションでは、安倍からも質問ができる。安倍は、得意分野でもある外交・安保の論議に引き込み、蓮舫の浅薄さを浮き彫りにするチャンスが到来したことになる。
 

蓮舫の戦略の基本は「保育園落ちた日本死ね」にある。保育園に落ちても我慢と苦労で歯を食いしばって働く女性が美しいのだが、これが浮動層には受ける。蓮舫路線は、紛れもなきポピュリズム路線であり、今後、子育て介護など女性が活躍できる社会実現を“売り”にして、安倍政権の欠陥をほじくり出そうとするだろう。


しかし見誤ってはいけない。人手不足の活況を作ったのは安倍政権であり、民主党政権で子育て問題が発生しなかったのは、女性に職場がなかったからである。もちろん、活況が生んだひずみの是正は安倍政権の責任で処理すべきであるが、派生問題だけを金科玉条のごとく掲げても訴求力は少ない。当初のうちは目新しさと、女性の支持で民進党の支持率は上昇する可能性が高い。


しかし、限界がある。近頃の女性は高学歴である上に、自立心と判断力が格段に強くなってきており、本質を見破る。女は怖いのだ。蓮舫が「おんな」を売りにしても長続きはしないのだ。本当に枯れてうなだれる「破蓮」にならないことをみんなで祈ろう。


      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月15日

◆「北の核」が大統領選テレビ党論の焦点に

杉浦 正章


 
クリントン、トランプの外交・安保音痴を突く
 

佳境に入ってきた米大統領選の論戦テーマに急浮上してきたのが北朝鮮の核実験に端を発した極東の安全保障問題だ。クリントン、トランプ両候補はいよいよ26日から3回行われるテレビ党論で雌雄を決するが、このテレビ党論はニューヨークタイムズが76%で優勢と報じたクリントンが、劣勢のトランプにとどめを刺すものになるか、あっと驚く逆転劇の場になるか。2人とも相手に向けて「大きな落とし穴」を掘る競争をしているかのようである。 
 

テレビ党論となると必ず指摘されるのが60年の大統領選挙におけるニクソンとケネディの勝負だ。まだ白黒テレビで、テレビ党論も初期であったが、両人ともそれまでのラジオ討論と比べて「テレビ映り」が鍵を握るということは知っていた。このため入念なメーキャップを施したが、ケネディの方が上手(うわて)だった。


カメラテストで着ていた白シャツが映えないと知り、急きょ青シャツを事務所から取り寄せて着替えた。そのうえたっぷり休養をとって日に焼けた顔でリラックスした姿を強調した。一方でニクソンも無精ひげが目立たないように念入りに化粧をしたが、ドーランを塗りすぎてテレビに映った姿はまるで病人。母親が討論後「病気ではないか」と電話してきたほどであった。


この印象が討論を決定ずけ、ケネディが勝ったと受け取られた。以来テレビは内容より見栄えが大事な報道機関として、とりわけ日本でも“成長”したのだ。ちなみにラジオで討論を聞いた多くの有権者はニクソンが勝ったと思ったといわれている。
 

まさにテレビ党論には魔物が住んでいるのだ。些細なことが致命傷になる。だからクリントンも油断はできない。クリントンは討論を通じてトランプの“本性を” 暴く戦術に出るだろう。これまでは別々の場所で一方通行の非難合戦を繰り返してきたが、テレビでは相手を誘導することができる。


クリントンはおそらくトランプの知性の欠如、無知蒙昧、短絡指向を露呈させて、このような人物がホワイトハウスで核のボタンを持つ危険性を指摘することになりそうだ。とりわけ、クリントンはトランプが対北朝鮮対策で日韓の核武装論を展開したことを取り上げる可能性がある。
 

既にクリントンは日韓の核武装論などに関連して「トランプ氏は自分で何を言っているかも分かっていない」と辛辣な批判をしているが、さすがにまずいと思ったかトランプは「私が日本の核武装を望んでいるという彼らの言い分は真っ赤な嘘だ」と反論。公開の場で繰り返し発言したことを「真っ赤な嘘」とイケシャーシャーと否定できる人物は珍しい。


おまけに「金正恩が訪米するなら会談する」とも述べた。これは極東で起きていることを全く理解していないことを物語る。米韓で暗殺作戦が練られている張本人が米国に来るわけがないことすら理解していないのだ。
 

しかし誰の入れ知恵かトランプは「クリントン氏は国務長官時代に北朝鮮の核開発を止めると約束したが、核開発は強さを増して複雑化した。」と痛いところを突いてはいる。両候補ともオバマの「戦略的忍耐」路線から外交、軍事両面でより積極的な対応をしようとするだろう。


テレビ討論では軍事力行使か否かのきわどいやりとりがされることもあり得る。もちろん北が核ミサイルを発射するような兆候がある場合には、先制攻撃に出る事では一致する可能性がある。さすがにクリントンは北に関するすべての鍵を中国が握っていると事の本質を理解するに至っており、「戦略の再考も必要だが、一刻も早く中国を説得する必要がある」とも述べている。オバマ時代は外交の力が示されなかったという認識では一致している。
 

一方対中外交だが、中国が両候補をどう見ているかというと、いずれも敬遠している。中国メディアはトランプを「大口たたきの人種差別論者」とこき下ろしているが、中国製品に45%もの関税をかけられてはたまらないということだろう。


専門家は「中国指導層としてはくみしやすいだろう。なぜなら自尊心が強く自己中心的な人物はチベットやウイグルに腐るほどいて、扱いなれている」と分析する声もある。クリントンについては環球時報がかつて国務長官であったクリントンの訪中を「歓迎しない」と報道したことがある。「中国人はクリントン氏の弁護士的な性格が苦手。トランプ氏よりはるかに手強い」との分析もある。


いずれにしても、テレビ党論では、北の核実験と絡んで対中批判が強く前面に出ることが予想される。もちろんクリントンはトランプの最大の弱点である外交・安保音痴の実態をさらけ出そうとするだろう。対日関係では臨時国会の焦点となる環太平洋経済連携協定(TPP)に対して両候補とも反対の方針を明らかにしているが、クリントンが大統領になった場合を意識して柔軟な見解を表明するかどうかが注目されるところだろう。


 加えてクリントン重病説がトランプ陣営から流布されているように、大統領と健康の問題が取り上げられる公算が大きい。クリントンはテレビを通じて国民に健康であることを証明する必要に迫られている。そうかといってトランプも70歳であり、クリントンの反撃に遭う可能性もある。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月14日

◆ぼろ続出で“蓮舫ブーム”とはほど遠い

杉浦 正章



公選法抵触問題、首相の座も目指せない
 

蓮舫二重国籍問題のポイントは、次期代表に民進党が選出した場合に政治的なディスアドバンテージが目立つことである。1つは公選法に抵触する恐れのある議員を、党首に推戴することのマイナス。他の1つは政党の代表は大小を問わず首相の座を目指すのが憲政の常道だが、蓮舫の場合きわめて難しい。


この2つのいわば“致命的問題”を抱えて、党勢挽回が可能かということにつきる。土井たか子以来の第二党の党首になる可能性が高いが、土井ブームのような現象は生じそうもないのである。

 まず公選法問題だが、蓮舫は2004年の参院選挙公報とホームページ上に「台湾籍から帰化」と書いたが、これは二重国籍を認めた以上虚偽の記載となる。以後、3回に渡って参議院議員に当選したが、おそらく証拠隠滅を目的として2016年にHP上の記述を削除している。明らかに公職選挙法の虚偽記載となる可能性が高いからだ。

さらに首相の座を目指すことがなぜ困難かと言えば、外交・安全保障上の問題がある。人事院規則により多重国籍者は外交官に採用することを禁止されていることがポイントだ。同規則8-18(採用試験)の規定により、多重国籍の者は、外務省専門職員の採用試験は受けられない。国籍を有しない者又は外国の国籍を有する者は、外務公務員となることができないのである。ということは、この公務員を指揮監督する立場にある外相はもちろん、その上にたつ首相も、二重国籍者が就任してはいけないことになる。


憲法にはその規定はないが、事実上国政選挙で排除される可能性が高い。台湾籍を放棄すれば可能かと言えば、これも選挙民がネガティブな判断するだろう。民進党は、沈滞する党勢を拡大するため美人で雄弁で話題性のある蓮舫に期待するところが大きいが、その実は選挙向きでない党首を抱えて選挙を戦うことになるのだ。


民進党代表・岡田克也は「父親が台湾の人だからなんかおかしいような発想があるが、きわめて不健全だ。多様性を大事にするのは我が党の基本的価値観」と発言しているが問題はそこにはない。不健全であろうが、党の基本的価値観であろうが、蓮舫が二重国籍である事実と、首相にふさわしい政治家であるかの2点は別問題なのである。


それでは、仮に2大弱点を除いた場合、政党のリーダーとしてふさわしいかどうかだが、これも疑問が生ずる。その発言から見ると美人の悪い癖が垣間見える。それは二重国籍疑惑について「今そのようなうわさが流布されるのは本当に悲しい」と述べた事である。

この「悲しい」発言は、明らかに「悲しむ美人」を演出しているのだ。テレビタレント出身だけあって視聴者の同情をいかにして買うかのテクニックに長けているが、政治の世界ではこのような情緒的発言は、鼻につくし邪道だ。蓮舫の過去の政治行動を見れば女性だから美人だから許されるという判断が多い。国会内でファッション雑誌の撮影をして、参院議長から「不適切」と厳重注意を受けたのがよい例だ。


民主党政権の“おごり”の現れでなくて何であろう。「仕分けの女王」ともてはやされて、次世代スーパーコンピューターの仕分けで予算を削減したが「2位じゃだめなんでしょうか」という“名言”を吐いた。事の本質を理解していないのだ。1位を目指さない限り2位もないのだ。石原慎太郎が「文明工学的な白痴」と評したが、見事に形容している。まるでマリーアントワネットが「パンがなければケーキを食べればよい」と述べた「パー」さ加減と酷似している。

岡田は「蓮舫ブーム」を期待しているが、外国の女性党首を見るがよい。「鉄の宰相」マーガレット・サッチャーに始まって、ドイツ首相・アンゲラ・メルケル 、台湾大統領・蔡英文、英国首相テリーザ・メイ、初の米大統領になりそうなヒラリー・クリントンにいたるまで共通項は「男以上の男」であり、「色気」などは、あってもみじんも見せない。世界的にも二重国籍の指導者は少なく、ペルーの元大統領・アルベルト・フジモリくらいのものだ。

社会党党首で自民党を追い込んだ土井たか子も、若い頃は美人で筆者もあこがれたが、活躍した時期は男性ホルモンいっぱいのおばさんであった。1989年の第15回参院選では、消費税、リクルート事件の追及で圧勝、自民党を過半数割れに追い込み、「山が動いた」という名言を吐いた。与謝野晶子の詩「そぞろごと」の冒頭「山の動く日来たる」をふまえた言葉だ。


民進党が蓮舫を担ぐ背景には、紛れもなくポピュリズムが存在する。小池百合子が“ポピュリズムの自転車操業”で都政を運営しようとしているのと同じで、なんとか「蓮舫ポピュリズム」で、党勢を挽回しようとしているのだろうが、るる述べてきた理由で裏目に出つつある。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月13日

◆米韓に対北軍事強硬論が台頭

杉浦 正章



韓国紙が社説で核武装論

金正恩はもう戻れないルビコンを渡った。5回目の核実験が意味するものは、核弾頭搭載ミサイル製造のめどが立ったことである。レッドラインを超えたのだ。今後一年以内に実戦配備となる可能性が高い。従って焦点はもう無意味な国連制裁にはない。米韓が軍事行動に出て核配備を食い止めるかどうかにある。


米国内ではサージカル・ストライク(外科手術的攻撃)で、ピンポイントに金正恩と核製造施設を攻撃し、指揮系統を崩壊させるべきとの論議が再び高まりつつある。韓国では新聞が社説で核武装論を堂々と主張するようになった。東アジアにおける核ドミノ現象の兆候である。金正恩はさらなる核実験を準備しており、米軍はB1爆撃機を韓国に派遣して軍事圧力を強める。


金正恩がルビコンを渡ったことは、米韓が軍事行動のルビコンを渡るかどうかということになる。中央日報によると、朴は金正恩を呼び捨てにしたばかりか「狂人」に例えた。「金正恩の精神状態は統制不能」「金正恩の狂った核実験の敢行」と述べたのだ。韓国内では対北強硬論が台頭し始め、与党のセヌリ党内で核武装論が高まりを見せている。


次期大統領選候補の一人金武星は「韓米原子力協定の交渉などを通じ、原子力潜水艦の導入や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発、米国の戦略核兵器の配備など、取り得る全ての方策を動員すべき時だ」とFacebookに書き込んだ。米国の戦術核を再配備して北と『恐怖の均衡』を取ろうとする意見だ。


一方中央日報は社説で「北朝鮮の核武装は防げない段階まできた。韓半島(朝鮮半島)の非核化をもう維持できなくなったと解釈できる」と現況を分析。「北朝鮮の核開発に対して今まで防御的な立場で対処してきた政府の政策は限界に達した。北朝鮮の核に対するより強力な抑止力が求められる。『核には核で対応』するというレベルで、米国の戦術核を条件付きで韓半島に再配備する必要がある」と主張した。


北大西洋条約機構(NATO)では、ドイツなど加盟国の空軍戦闘機に戦術核を搭載して作戦を展開できるように組織化されていることを見習えというのだ。しかし韓国政府はこうした動きにきわめて慎重だ。連合通信によると政府関係者は、「これまで強調してきたように朝鮮半島に核があってはならず、核兵器のない世界のビジョンは朝鮮半島から始まらなければならない」と否定している。


一方韓国軍高官は初めて巡航ミサイルなど韓国独自の兵器を使って、平壌の金正恩が潜んでいる地域を地図から抹殺できる能力を独自に保持していることを明らかにした。「大量反撃報復」と名付けた。


一方米国はどうか。ホワイトハウスや国防総省があくまで“オプションの1つ”として、サージカル・ストライクを考えていないわけはないと思う。焦点は国防長官・アシュトン・カーターが何を考えているかだ。カーターは過去にTime誌に北朝鮮空爆の実施を説いた論文を投稿、米政府部内でも古くから空爆論を唱えている。


カーターは、精密誘導兵器を使用すれば北朝鮮の核施設への空爆は十分な成果を挙げられると読んだ。しかも放射能をまき散らさないで済むとの計算だったという。空爆を決行しても戦争に発展する可能性は高くないとも判断していたのだ。状況は、イスラエル空軍機がイラクのタムーズにあった原子力施設を、バビロン作戦(別名オペラ作戦)の作戦名で1981年6月7日に攻撃した武力行使事件と酷似している。

 
おそらくカーターの心中は、金正恩と核施設を攻撃するなら今しかないとの戦略がよぎっているのではないだろうか。つまり、現段階なら核ミサイルが実戦配備される状況になく、まだ北の核兵器による報復は不可能であるからだ。これが最後の空爆のチャンスであると考えているのであろう。


問題はソウルが火の海になる可能性があることだ。大量の通常兵器の砲門はソウルに向けられており、これを壊滅させることが不可欠である。通常爆弾でもそれは可能とみている。問題はそのルビコンを渡れるかということだ。金正恩は完全にオバマを見くびっており、残る4か月の任期では、軍事行動には出ないと読んでいるのだろう。しかし原子力空母ドナルド・レーガンを中心とする機動部隊は、巡航ミサイルだけでも500発の核を搭載可能であり、狂気の火遊びをしている金正恩はそこに気づいていないのだろう。


日本もミサイル3発を排他的経済水域(EEZ)に撃ち込まれて、「核を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核3原則維持などとは言ってられなくなるだろう。少なくとも「持ち込ませず」は困難な状況になりつつある。よりミサイル防衛体制を強化するために高高度防衛ミサイル(THAAD)を導入することも喫緊の課題だ。


こうした準戦時状態というような事態が生じつつあるのは、ことごとく中国の責任だろう。英国チェンバレンの融和策が、ヒトラーを増長させたように、甘い対応は独裁者を勢いづけるだけだということを分かっていない。


3月の国連決議の際に筆者は、北は何の痛痒も感じまいと予言したが、その通りだった。中朝国境の豆満江にかかる2つの橋は連日車両のラッシュが続いており、貿易量は制裁前を上回っているとの見方さえある。これは中国が金正恩に核爆弾製造を奨励しているようなものだ。北の崩壊は、中国自身の体制崩壊につながるという、基本戦略に凝り固まっているからだ。


従って中国は、実効性のある国連決議には今後も常に反対という立場を貫くだろう。とりわけ北との取引に応じている中国企業を対象とする制裁には、金輪際応じないだろう。しかし、5回目の核爆発はジレンマも生じさせた。韓国や日本が米軍の核搬入を公然と認めるようになれば、中国自身の安保戦略を直撃するからだ。極東の軍事バランスの均衡は中国不利の方向に崩れるのだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)  

2016年09月09日

◆安倍がドゥテルテ対策で米の失策をフォロー

杉浦 正章

 

日比関係構築で、中国傾斜を阻止
 

取材記者らは専ら中国の領有権を否定した仲裁裁判所の判決が共同声明に具体的に文字として盛り込まれるかどうかが焦点のように報じ続けたが、大局を見ていない。浅薄すぎる。とりわけ朝日は9日「南シナ海仲裁判決焦点にならず閉幕」と相変わらずの中国が大喜びしそうな報道ぶりだが、実際は焦点になったのだ。その上、文中で「フィリピンのドゥテルテ大統領も判決に言及しなかった」と大誤報をしている。


時事電では具体的に言及している。大会議の取材は本筋をつかむことが難しいが、首相・安倍晋三とオバマと比大統領・ロドリゴ・ドゥテルテなどが中国大敗北の判決に言及すれば十分だ。総じて、中国の首相・李克強は安倍の“攻勢”にたじたじの様相であった。


安倍の中国封じ込めの国際世論喚起は杭州でのG20に続いて、紛れもなく成功したのだ。当分中国は静かにするだろうが、習近平は南シナ海制覇の野望を捨てていない。焦点のスカボロー礁の埋め立てへと動くのは時間の問題だろう。
 

忘れてはならないのはASEANというのは、異論は異論として認め合う極めてゆるやかな結束なのである。対中関係も領有権でぶつかってきたフィリピン、ベトナムと、中国から多額の援助をうけているラオス、カンボジアとは全く相いれない外交を展開してきている。したがって安倍やオバマが中国による南シナ海の軍事基地化を阻止しようとしても、もともとASEAN諸国は足並みを揃えて賛同するわけがないのだ。


こうした中で予想外のハプニングが生じた。“暴言王”ドゥテルテが、オバマを「売春婦の息子め」と記者会見で侮辱する発言を繰り返し、ついにオバマが怒って会談を拒否してしまったのだ。さっそく李克強は会議でドゥテルテに接近、「鉄道敷設で力になる」と甘言ですり寄っている。
 

ドゥテルテは外交・安保など全くのど素人であり、動物的な直感だけで対応している。オバマが2000人近い麻薬密売者を殺害している現況を捉えて、人権問題として戒めようとしたのに過剰反応したのだ。一代で大会社を築き上げたワンマン社長によくみられる、自信過剰と独善性を兼ね備えた人物であり、自分の琴線に触れる発言は許そうとはしないのだ。


対中関係では毅然(きぜん)たる態度を取ってきたアキノとは大違いであり、米国にとっては大誤算であった。下手をすれば肝心のフィリピンを中国側に追いやることになりかねないからだ。ここはオバマがぐっと自分のことは我慢して大局から判断し、会談を実現して説得することが正解であり、オバマにしては珍しい失策となった。
 

そこに大きな貢献をしたのが安倍だ。詳細は報じられていないが、安倍はドゥテルテと会談、南シナ海をめぐる問題について,法の支配の重要性等について意見を交換,調停仲裁の判断も踏まえ,紛争の平和的解決に向け,協力関係を強化していくことを確認したのだ。


安倍が中国の海洋進出の危険性について、「一から教えるように諭した」(外務省筋)のだ。さらに安倍は約165億円の円借款で大型巡視船2隻を新たに供与、海上自衛隊の練習用航空機を貸与することも改めて確認した。ドゥテルテからは感謝の表明と「日本とフィリピンは常に良好なパートナーであり、今後とも協力関係を深化させたい」との発言があった。


また,安倍はドゥテルテの“泣き所”もうまく突いた。ドゥテルテが幼少時代から育って7期も市長を務め、愛してやまないダバオ市の都市インフラ開発計画策定への支援を表明したのだ。ドゥテルテは「日本はダバオ市の発展に多大な貢献をしており感謝している。日本のJICAの支援の目的は地域の発展であり、フィリピンとしてその役割に信頼を寄せている」旨述べた。こうして安倍はドゥテルテと新たな関係を築くことに成功したのだ。
 

安倍の説得を受けたドゥテルテは朝日の誤報とは逆に東アジア首脳会議で仲裁判決に言及した。時事によるとドゥテルテは、仲裁判決について「今や海洋分野に関する国際判例の一部となっている」と指摘。仲裁判決や国際法に合致した「ルールに基づくアプローチ」で、南シナ海紛争の平和的解決を模索する考えを示したのだ。こうして対中封じ込めの日米タッグマッチは、オバマの失策を安倍がフォローして事なきを得た形となった。
 

したがって、安倍とドゥテルテの新たな関係が今後中国の南シナ海への理不尽な進出を止めるくさびとして作用する流れとなった。フィリピンの目と鼻の先のスカボロー礁の中国軍事基地化阻止は、日米の対中戦略の要である。オバマのレームダック化で次期米大統領が登場するまでは、何としても安倍が対フィリピン関係で役割を果たさなければなるまい。早期にドゥテルテを日本に招待して一層の関係を築くくべきだろう。
 

中国はASEAN諸国との間で、法的拘束力を持つルール「行動規範」の策定に向け、来年中ごろまでの枠組み合意を目指して交渉を加速させることで一致したが、これは、“空証文”にすぎないとみる。規範は各国の行動を法的に規制し、紛争防止を図るものだ。しかし、それまでの間スカボロー礁に中国が進出しないという約束はないし、ずるがしこくも米海軍の巡視を口実に「行動規範どころではない」と先延ばしにする可能性も十分にある。


要するに南シナ海の問題は、日米を中心とする海洋進出阻止の動きと、中国の既成事実化の動きのせめぎ合いであり、この構図は予見しうる将来変わらないだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月08日

◆紛れもない極東の危機に専守防衛の時か

杉浦 正章



敵基地攻撃とTHAADで盾と矛を備えよ


空しく響くばかりだ。またも国連の北朝鮮非難声明である。非難声明を出す度に無力な国連の姿をさらけ出している。一方で日本攻撃用弾道ミサイル・ノドン3発を同時発射させた金正恩は、醜い高笑いを繰り返している。最貧国指導者の危険な火遊びと、狂気の高笑いである。ロシアが止めても中国が止めるふりをしても、全く暴走を止めない。そうこうするうちに発射技術は向上の一途だ。日本に核攻撃した後も高笑いするのだろう。


歌の文句なら「もうどうにも止まらない」だ。何をするか分からないから“狂気”なのであって、日本はもう専守防衛の時代ではない。やむにやまれず国民を核の脅威から守る自衛策を打ち立てなければならない。それは敵基地先制攻撃能力の確立であり、高高度防衛ミサイル(THAAD)の導入である。
 

首相・安倍晋三が習近平に「中国が主催する20カ国・地域(G20)首脳会議開催中に強行したのは許しがたい暴挙だ。責任ある国連安保理常任理事国としての中国の建設的な対応を期待する」とねじ込んだのは、中国への抜きがたい不信感が背景にある。度重なる国連の制裁決議を無視するかのように中朝国境の豆満江にかかる二つの橋は、中国と北朝鮮の交易で毎日ラッシュ状態。ミサイルの材料だろうが、核転用の材料だろうがどんどん入ってきて、北はいささかの痛痒も感じない。


その豆満江に台風によって観測史上最大の洪水が発生、約4万4千人が屋外生活を強いられているにもかかわらず、北の太った大王はミサイルと核開発に専念だ。近く5回目の核実験をする兆候がみられる。
 

米韓両国は大王の寝首をかく合同演習に続いて、最近はコンピューターシュミレーションによる演習で、韓米連合軍は、平壌北側まで進撃して北の指揮部を壊滅させることができるという結論に至った。もはや準戦時状態のような様相である。


この事態を目前にして、日本は国民の生命と財産を守るにはどうすればよいか。天から核ミサイルを降らす狂気の指導者が近隣にいるのに、天から平和が降ってくるなどという専守防衛一点張りの思想などもう成り立たなくなったということをまず国民は認識すべきだ。


その戦略としては盾と矛の両面作戦しかあるまい。従来日米の軍事協力は盾が自衛隊で守りに専念、矛が米軍で攻撃を受け持つ形だ。しかし、米国はかつてのスーパーマンではなくなった。米ソ冷戦時代に展開された盾と矛分担作戦は、北の狂気の指導者によってもう古色蒼然たるものと化した。日本も矛の役割を分担しなければ、この危機は乗り切れないのだ。
 

それにはまず憲法上可能と政府が判断している敵基地攻撃能力の確立だ。北のノドンの200発は、日本攻撃を主眼に置いており、ミサイル防衛システムだけではとても核ミサイルを同時に撃ち落とす事は無理だ。これ見よがしに金正恩が3発を同時に発射させ、日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させたことは、「日本は防ぎきれないぞ」というどう喝に他ならない。対抗するにはどの国もが持つ敵基地先制攻撃能力をミサイル迎撃能力と併せ持って、初めて北朝鮮の核から国民の生命財産を守ることが可能となる。
 

既に韓国は米国の反対を押し切るかのように巡航ミサイルなどによる敵基地攻撃能力を備えてきた。日本は着弾まで10分間の時間があるが、韓国はほとんど時間がない。ミサイル発射準備が整ったと見れば発射前に叩くしか国民の命を守れないのだ。


日本の軍事専門家の中には移動式ミサイルは把握できないと述べる半可通がいるが、韓国の専門家は、移動する場所も限られており、無人偵察機などで十分に識別可能だとしている。幸いにも日本の場合航空自衛隊が次期戦闘機として42機の導入を決めている最新鋭ステルス機「F35A」の最初の4機が、今月中に引き渡される。


政府はこのF35Aに敵基地攻撃能力を備えさせるべきだろう。空中給油なしでも朝鮮半島、ロシア、東シナ海まで戦闘行動が可能であり、『合同空対地長距離ミサイル』(JASSM)も備えることが可能だ。このミサイルの射程距離は約370キロであり、これをつければ敵基地攻撃能力は十分可能だ。加えて艦船から発射できる巡航ミサイルも装備すべきだろう。
 

一方発射されたノドンから国民を守る盾は、現在のところ大気圏外で迎撃できるミサイル「SM3」を搭載したイージス艦と、地上配備型の迎撃ミサイル「PAC3」だ。従来の「SM3」より射程を大幅に伸ばした新型迎撃ミサイルをアメリカと共同で開発に取り組んでいる。


しかし複数のミサイル攻撃には、これでも撃ちもらしが生ずるとされる。従ってTHAADが必要になる。韓国にも配備されるが、日本はその要となっているXパンドレーダーを京都府京丹後市と青森県の米軍車力通信所に配備しており、これに迎撃ミサイルを連動させることで、THAADを実戦配備することが可能とみられる。
 

それにしてもこの高性能レーダーと最先端のそうりゅう型潜水艦は、北の地上と水中からのミサイル発射を捉えているのだろうか。秘密保護法を恐れるあまりその動きを外部に出せないのだろうか。血税を使ったこれらの新兵器の活躍ぶりは、国民に安心感を与えるために随時政治家がリークすべきではないか。
 

こうした中で米国はオバマが核の先制不使用を断念した模様だ。ワシントン・ポスト紙によると安倍は「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として、先制不使用政策への懸念を米側に伝えたという。安倍自身は全面否定しているが、日本の意向は何らかの形で伝わったのだろう。


オバマもするに事欠いて北のみならず中ソからまで馬鹿にされる対応は、いくらレガシーを残したいからといってもやめた方がよい。極東の現実にそぐわない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年09月07日

◆プーチンが北方領土で国内世論誘導を始めた

杉浦正章



日本も2島先行返還での妥協がよい
 

ウラジオストクでのプーチンとの2人だけの会談で一体何が話し合われたのかが焦点だが、こればかりは最高機密で漏洩がない。しかしテレビに出る学者や評論家は、やれ「ブレークスルーだ」やれ「突破口だ」と早くもやんやの喝采をしている。中身を知らないままである。


2日の首脳会談の時間は3時間10分であったが、そのうち55分間が両首脳に通訳だけが加わる2人だけの会談だった。安倍が情報を漏らさない以上推理で対応するしかない。山より大きいイノシシは出ないから、情報の山から分析すれば、恐らく「歯舞・色丹2島先行返還」 で、国後・択捉は「継続協議」的な色彩を帯びる可能性が高い。その段階で平和条約を締結できるかが焦点だろう。


まず今後の段取りは、11月にペルーで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で日露首脳が会談、それを経て12月15日安倍の選挙区・長門での首脳会談となる。それまでの間水面下の根回しが進むが、安倍もプーチンも下の官僚機構に降ろさなければ事は進まないから、いずれはリークする。それに両首脳とも国内の世論対策が最も重要だ。安倍は好むと好まざるとにかかわらず、次期総選挙の焦点が北方領土問題になるから、どのような「2島プラスα」を打ち出せるかで政権の命運が決まると言っても過言ではない。


とりわけプーチンは、何と国民の78%が北方領土返還反対であり、これをどう説得するかが極めて重要だ。プーチンの支持率80%以上というのはクリミア併合で熱狂的喝采を受けた結果だが、今度は領土を手放すわけだから、これも支持率激減に直結しかねない。
 

日本国内には、「プーチンは高い支持率があるから決断できる」という学者がいるが、どの国の政治家が自らの支持率を落としてまで他国にいい顔をしようと思うだろうか。逆だ。支持率を維持するには国内の説得が必用だ。そこでポイントとなるのが、今後プーチンがロシア国内の世論対策に乗り出すかどうかであり、これがプーチンの真剣度を図るメルクマールとなるのだ。ロシアウオッチャーは、ここが1番肝心なので見落としてはならないのだ。案の定プーチンは開始した。まず「2島」から始めている。
 

5日、杭州で プーチンは「思い出しておきたいのだが、ソ連はこの領土を第2次世界大戦の結果として手に入れ、国際法文書により登録された。ソ連は1956年に長く粘り強い交渉のあと、日本と宣言に調印した。そこには南の2島(ハボマイ シコタン)が日本側に引き渡されると書いてある。しかし、この場にいるのは全員が法律家ではないため、私は法律家として次のことを言うことができる。


つまり、『引き渡される』とは書いてあるが、どのような条件で引き渡され、どの国の主権が保持されるのかは書いていない。」と説明したのだ。
 

ロシアの国民も、マスコミも北方領土問題の事実関係など知らないから、まず事実関係から説き起こしたのであろう。2島返還は持論ではあるものの7月の日露首脳会談以降はなかったこのプーチン発言が意味するところは、少なくとも2島返還の可能性がある方向をロシア国民に印象づけ、誘導しようとしていると見ることが出来る。


今後は自らが絶賛する日本の8項目の経済協力などの包括的な極東ロシア発展プランを、どのように国民にアピールしてゆくかが着目点だろう。日本の協力により、シベリアに夢と希望が湧いてきたことを国民にアピールして、国後、択捉での譲歩が可能かどうかを探る必要があるからだ。


日本にしてみれば、歯舞・色丹で「はい終わり」とされてはたまらない。過去のすべての交渉が、このネックで失敗に終わっているのだ。56年の歯舞・色丹返還に関する共同宣言のあと、93年は「4島帰属の問題を解決して平和条約を締結する」と東京宣言が出されたがそのまま。98年には橋本龍太郎がエリツインに「4島の北に国境線を引き、当面はロシアの施政を認める」 という「川奈提案」を提示。2001年に森喜朗がプーチンに歯舞・色丹と国後・択捉を分けて話し合う同時並行方式を提案。いずれもうやむやに終わっている。
 

安倍はこれらの方式を超越したかのような「新しいアプローチ」を提案、わざわざロシア経済分野協力担当相を新設して、プーチンに“本気度”を示した。ウクライナ問題での制裁と原油安で国内経済が低迷して苦境の極みにあるプーチンを“おいしい話”で釣り上げようとしているのだ。百戦錬磨のプーチンも、世界的な孤立と、閉塞感の中で一筋の光が差し込んでいると感ぜざるを得まい。


今後の焦点は、そうしたプーチンが国後・択捉で妥協に出るかどうかだ。様々な解決策が模索されているが、まず面積等分論は極めて難しく、プーチンも否定的だ。2島返還後国後・択捉を共同統治する案も、世界史上例は多いが、国家関係はいつ何が起きるか分からず、返って摩擦の原因になりかねない。そう見てくると、日本にとって何が最良かと言えば、「4島の帰属は日本」と明記した上で、歯舞・色丹を先行的に返還を実現。平和条約を締結する。


国後・択捉はロシアの施政権を認めて、軍隊の駐留も容認したうえで交渉を継続する案が考えられる。対露経済協力と人的交流の活発化でロシア側をメロメロにしたうえで、沖縄と同様に交渉により後日施政権の返還を実現するのだ。
 

ここは日本も何らかの妥協を考える必要がある。領土問題は時効に持ち込まれたら終わりだ。急がなければならない。日露の接近は対中けん制の意味でもキーポイントとして重要である。また米国はオバマがレームダック中であり、あまり文句をつけられないだろう。それより日露が平和条約を結べば、米国の軍事力は中国だけを見ていればよくなる。米国の世界戦略上もプラスに作用するのだ。ここは日露双方が妥協により関係を正常化することが大局的には不可欠であろう。

     <今朝のニュース解説から抜粋> (政治評論家)

2016年09月06日

◆日中“緊張緩和”は「砂上の楼閣」

杉浦 正章



安倍・習暗闘は7対3で安倍の勝ち


あのブロードウエーも顔負けの、けばけばしい「白鳥の湖」はどうだ。習近平はまるで悪趣味の田舎芝居の座頭(ざがしら)の様であった。G20の場を真摯な国際外交の場から、政治ショーの場へと変質させ、国内向けのプロパガンダを張ったが、13億の中国国民の目を奪っても、世界のメディアからはそっぽを向かれた。


逆に首相・安倍晋三は全体会議と個別会談の双方で東・南シナ海問題と鉄鋼のダンピング輸出問題を取り上げた。習の“経済限定作戦”は安倍とオバマのリードで、脆くも崩れて、首脳宣言にも鉄鋼問題が明記された。全体俯瞰図で見れば安倍と習近平の暗闘は7対3で安倍の勝ちだ。日中首脳会談での“対話促進”の合意も一時的な緊張緩和であっても、その実態は「砂上の楼閣」であろう。
 

まさに国際外交の国内政治への“活用”であった。来年秋には習体制の2期目の人事があり、汚職摘発で恨みを買って国内政局は必ずしも盤石ではない。習はG20の場でど派手な演出で「世界の皇帝」ぶりを国民に示して、政権基盤の強化に出た。1200億円もかけて会場を整備し、テロを防ぐために外出を制限して、杭州の町はゴーストタウンのようであった。その代わりテレビを使って、習の一挙手一投足を報じさせ、ひたすら国内基盤の確立に努めた。
 

真実は細部に宿る。田舎芝居は外国の貴賓最上位にあるオバマにも及んだ。タラップを用意せず、赤絨毯も敷いてない。オバマは備えつけのタラップで専用機後方の扉から降りた。到着早々から安倍ほか各国首脳とは全く違った待遇であった。


オバマは「よくある」と意にもかけないそぶりであったが、怒りと言うよりあまりの露骨さにあきれた事であろう。露骨すぎて、開いた口が塞がらない“接待”ぶりであった。オバマはレームダック化が著しく、元気がなかったが、安倍は歩き方から見てもこれまでになく堂々としていて、その発言も毅然(きぜん)としていた。
 

習は何が何でも会議の議題を経済問題1本に絞って、政治問題は論議しない立場を貫こうとした。各国が政策総動員で経済停滞を乗り切る方向を打ち出したのだ。しかし自らのもたらした鉄鋼のダンピング輸出問題と為替の安定化が世界経済のアキレス腱であるという認識に欠けていた。中国のことわざで言えば「自分の頭のハエを追え」ということなのだ。


安倍は全体会議でその急所を突いた。もちろん 欧州連合(EU)のユンケル委員長が事前に鉄鋼の過剰生産問題を巡り、「欧州で万単位の雇用が失われている。受け入れられない」と発言した事なども意識したに違いない。


安倍は「国際貿易・投資」をテーマにした討議の中で発言、「鉄鋼などの過剰生産については補助金等の支援措置で市場がわい曲されていることが根本的な問題だ。主要生産国が参加する対話を通じ、市場メカニズムに則した構造改革を促したい」と強調した。そして中国など主要生産国が参加する「グローバル・フォーラム」を設けて、対応などを話し合うことを提案、宣言に盛り込まれた。
 

この安倍のオピニオンリーダー的な役割は中国の海洋進出問題にも及び、「大航海時代以降、海洋貿易は世界を結び、平和な海が人類の繁栄の礎となった。国際交易を支える海洋における航行および上空飛行の自由の確保と法の支配の徹底を再確認したい」と述べ、各国に賛同を求めた。習が1番恐れていた問題をあえて取り上げたのだ。


会場の多くが賛同したことはいうまでもない。習が失礼にも安倍との会談をするかしないか、最後の最後まで明確にしなかったのは、安倍が会議の席上でこの発言をすることを恐れてのことだった。簡単に言えば「発言しなければ会ってやる」というのだ。それを知りつつ安倍は、あえて発言したのだ。


国際司法裁判所で中国完敗の判決が出たことをG20首脳が知らないわけがなく、フィリピンやベトナムはもちろん多くの国々が、終了後「よく言ってくれた」と反応したのは言うまでもない。安倍は7日からビエンチャンで開かれるASEAN首脳会議でも東・南シナ海への進出問題を取り上げる方針を記者会見で明らかにした。
 

こうして会議は習近平の思惑を崩壊させ、共同宣言も安倍ペースでまとまった。会議終了後に習近平は安倍と会談したが、わずか30分。通訳を入れて、実質15分にすぎない。対話が実現したとは思えないが、海空連絡メカニズムの運用開始などで今後対話を促進する方向となった。


しかし、4年間も実現していない問題が早期に実現するかは疑問がある。だいいち、中国はG20の最中であるのにかかわらず、スカボロー礁埋め立ての準備行動に出るという、驚くべき執着ぶりを示した。


フィリピン米軍基地から200カイリあまりの目と鼻の先であり、恐らく行動を実施に移せば米国は黙認しないだろう。同環礁をパラセル諸島、スプラトリー諸島と結べば、中国による南シナ海制覇の3角形が構成されるのだ。もちろん、尖閣諸島への公船出没もやがてはまた活発化するだろう。


こうして、せっかくの安倍・習会談での緊張緩和も、いつ崩れてもおかしくない砂上の楼閣の色彩を濃くしてゆくだろう。緊張関係はまるで習慣病のように出たり引っ込んだりしてゆく。


安倍の正式訪中や習近平の正式訪日など、緊張緩和を担保する動きはまだかすみの先だ。当面自民、公明両党による議員外交で、徐々に関係改善を進めてゆくしかないだろう。

2016年09月01日

◆安倍は毅然として東・南シナ海問題を提起せよ

杉浦 正章
 


G20ではオバマも対中けん制をするだろう
 

最近あっけにとられた発言は4日からの中国・杭州におけるG20首脳会議に関して外相・王毅が「客はホストの意向に沿ってその務めを果たせ」と発言したことである。首相・安倍晋三に大昔の朝貢外交のように皇帝・習近平にひざまずけと言っているのだ。しかし他国はともかく日本はそう簡単ではありませんぞえ。


歴史的に聖徳太子の書簡、「日出る処の天子、書を没する処の天子に致す」といいう文言が煬帝を激怒させたように、一筋縄では行かない「周辺国」でござる。もう一人一筋縄ではいかない大統領もいる。オバマだ。オバマはG20での訪中で手ぐすねを引いて南シナ海問題で対中批判に出ることを考えているのだろう。


安倍は、かまったことはない。たとえG20が経済を議題にする場であろうとなかろうと、オバマと組んで毅然(きぜん)として東・南シナ海での中国の暴挙をやり玉に挙げるべきだ。

 
一連の安倍外交を分析すれば、中国の海洋進出への防波堤構築に大きな主眼を置いていることが分かる。そして、現状はその路線が功を奏してきている。中国は封じ込められつつあるのだ。南シナ海では国際司法裁判所が中国の海洋進出を巡り、中国が主権を主張する独自の境界線「九段線」に国際法上の根拠がないと認定、訴えたフィリピンの全面勝利となった。


習近平は中国外務次官・劉振民に同裁定を「紙くずに過ぎない」と言い捨てさせたが、国際社会のひんしゅくを買って、中国を法と秩序を守らない国と印象づけた。
 

北東アジアでも孤立化は著しい。最も顕著なものは、韓国が米国の伝家の宝刀THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の配備を受け入れたことだ。韓国がようやく日米軍事同盟側に戻った。小国は変わり身が早い。THAAD配備は北の核ミサイル対策だが、北京を飛ぶ鳥まで見える能力を有している。圧倒的に極東における対中軍事バランスを変えた。


最大の原因は中国が北朝鮮の暴挙を、極東戦略上有利と判断して野放しにしたことにあり、まさに自業自得ということになる。東・南シナ海における中国外交の完敗である。
 

こうして、対中封じ込め作戦が進んでいるが、もう一つある。安倍が粘り腰で、プーチンの12月来日にこぎ着けたことだ。北方領土交渉が前進して、日露が平和条約締結に動けば、中国は腹背から囲まれることになりかねない。安倍はどっちみち4島返還は永遠に無理なら「2島プラスα」で妥協して、1月通常国会冒頭解散・総選挙で国民の信を問うことも考えるべきだろう。


ゼロより歯舞、色丹が返還されれば、後は長期交渉に委ねた方が良い。従って2日のウラジオストクでのプーチンとの“予備会談”は極めて重要性が増してきた。
 

加えて中国は安倍が第6回アフリカ開発会議(TICAD)を成功に導いたことに、極めて神経を尖らせた。外務省副報道局長・華春瑩は「日本はアフリカ各国に自らの考えを強要し、私利を追求して、中国とアフリカの間にもめごとを起こさせようとした」とまるで“被害妄想”の発言をしている。自分の“強欲”は棚に上げてだ。背景には、安倍の地球俯瞰外交が順調なことへのいら立ちがある。
 

こうして、着々と中国包囲網は形成されつつあるが、焦点の一つはG20の際に日中首脳会談が実現するかどうかだ。中国外交が失礼なのは、米国には早々と習がオバマと会う日程を提示しておきながら、日本には例によって“じらし”作戦をとっていることだ。


国家安全局長・谷内正太郎が最近の訪中でどのような結果を安倍に伝えているかが注目される。しかし、過去の例を見れば首脳会談は会うことにしか意義を見いだせない。別に恩着せがましく会ってもらわなくてもよいのだ。
 

2年前に鳴り物入りで開催された日中首脳会談は4項目の合意にこぎ着けたが、中国はその内容と真逆の対応をとってきている。合意のポイントは「双方は、尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し、対話と協議を通じて、情勢の悪化を防ぐとともに、危機管理メカニズムを構築し、不測の事態の発生を回避することで意見の一致をみた」である。


しかし、内容は、日本の領土である尖閣諸島に「異なる見解」の存在を認め、主権を守り抜く主張をする上で支障になった。「不測の事態の発生を回避する」と約束しているが、8月に中国が漁民と称する民兵が乗った漁船を尖閣周辺に300隻も押しかけさせ、これを取り締まるとして公船が領海内にまで侵入するという事態となった。避暑地に首脳が集まる「北戴河会議」の最中であり、おそらく習が「東シナ海でも頑張っておる」と言いたいための演出であろう。


不測の事態は回避どころか、公船のみならず海軍レベルまで対峙を拡大しそうな空気だ。本格的な海戦となれば自衛隊の方が圧倒的に優勢であり、中国海軍が殲滅させられれば、日露戦争が共産主義革命を導いたように、北京に民主革命が発生しかねない事態になり得ることを、中国共産党首脳は分かっていない。


しかし、今後中国は尖閣進入を既成事実化させる作戦を継続することは目に見えており、南シナ海でもほとぼりが冷めれば軍事基地化を推し進める事が予想される。大人しくしているのはG20が過ぎるまでだと考えていた方が良い。従って首脳会談などはしてもしなくても同じなのだ。


いたちごっこは続くが、日本は堪忍袋の緒が切れるまで我慢に我慢をして軍事衝突だけは避けなければなるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)