2016年05月26日

◆G7宣言は機動的財政出動を強調

杉浦 正章



中国の「挑発的行動」への反対も表明へ
 

先進7か国(G7)首脳会議の首脳宣言は、その核心である世界経済への対応について、首相・安倍晋三の主張通り「機動的な財政出動」を前面に打ち出し、その重要性を確認する流れとなった。安倍はこの路線を25日のオバマとの会談で確認した。


この結果サミットは総じてオバマと安倍がタッグを組んで会議をリードする流れとなった。この結果、安倍が大震災や、リーマンショック並みの事態が発生しない限り予定通り実施するとしてきた消費増税については、これを延期する流れが確定的になってきた。


議長国として首脳宣言に逆行することはまず不可能であり、夏の国政選挙は消費増税延期がアベノミクスの失敗を意味するかどうかが焦点となる。一方、政府筋によると政治宣言では中国の南シナ海進出に「反対」の表明をする流れが出てきた。
 

25日夜に急きょ日米首脳会談が行われた背景は、沖縄における女性の死体遺棄事件が、日米関係のみならず、サミットとこれに続くオバマの広島訪問などに、影を落としかねない側面があったからだ。安倍は「事件」と国際政治を切り離す必用があり、首脳会談は、安倍の強い抗議とオバマの哀悼の意の表明で、事実上切り離しに成功した。政治的には区切りをつけた形だ。
 

政府筋によると経済宣言はまずすべての前提として、世界経済の下方リスクに対する強い危機感を前面に打ち出している。中国経済の悪化、石油価格の低迷による産油国経済への打撃などを背景に、宣言は「成長は依然として緩やかで、かつ不均衡であり、世界的な見通しに対する下振れリスクが高まってきている」と警鐘を鳴らしている。


さらに宣言はこの下方リスクが「通常の経済循環を超えて危機に陥る危険がある」と分析した。これは、経済活動が拡張する好況と収縮する不況とが交互に発生する周期的変動を逸脱しかねない大不況に陥る可能性もあり得るとの認識を意味する。
 

その上に立って宣言は「経済成長、雇用創出および信認を強化するため機動的に財政戦略を実施し、構造政策を果断に進めることに関し、協力して取り組みを強化することの重要性に合意する」との方針を明記した。これは日米のみならず、フランス、イタリア、カナダ、などの意向に合致したもので、財政出動を中心に、G7が協調して世界経済の成長に貢献する姿勢を打ち出したものだ。


一方で財政出動に消極的なイギリス、ドイツに関しては構造改革に言及するなどバランスを取っている。宣言はアベノミクスの3本の矢の発想から、サミット版3本の矢を打ち出した。成長を支えるために「強固で、持続可能な、かつ均衡ある成長を達成するためのわれわれの取り組みを強化することに対する3本の矢のアプローチ、すなわち相互に補強し合う財政上、金融上および構造上の政策の重要な役割を再確認する」としている。
 

これは日本国内の論調が「財政出動への足並み焦点」(朝日)などと、サミットの食い違いを強調するかのような方向へ傾くのを、戒めた形となっている。もともと世界経済の持続的な成長が重要なのであって、財政出動は構造改革とは矛盾しないことを強調しているものだ。


その証拠に「相互に補強し合う財政上、金融上および構造上の政策の重要な役割」と表現して、あくまで相互補完関係にあることを指摘した。それぞれの国が独自の政策で目的を達成すれば良いという発想だ。
 

この宣言は26日の会合で確認される方向となっている。経済宣言の大枠が固まったことで、焦点は対中関係など政治問題に移行する。オバマがまずベトナムを訪問してから来日したことが物語るように、南シナ海における中国による海洋進出が俎上(そじょう)にあがる。


ベトナムからは首相・フックが拡大会合に出席のために来日しており、安倍とも会談する。オバマと安倍はサミットで「力による現状変更」に強い懸念を表明し、ヨーロッパ諸国の同意を取り付けたい考えだ。日本としても東シナ海での現状変更の動きに直面しており、その対応についてのサミットの支持を得たい考えだ。


ヨーロッパはウクライナ問題など、ロシアによる「力による現状変更」反対では一致しており、総論としては一致する流れとなろう。さらに南シナ海における中国の進出について、日米は「挑発的な一方的行動として強く反対する」と表明する案を提示しており、サミット全体でも認められる公算が大きい。
 

ただ中国に対しては、危機感を意識する日米と、西欧諸国とは温度差があり、対中包囲網をサミットとして表明することにはならないだろう。しかし、サミットの成功自体が対中けん制になることは確かだ。


また「パナマ文書」の公開で明らかになった大企業などによる課税逃れの問題についても、税の公平性回復に向けての国際的な連携強化の方針が確認される流れだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年05月25日

◆自民は「舛添降ろし」の先頭に立て

杉浦 正章


ちゅうちょは“製造物責任”につながる
 

室町中期の「史記」の注釈書・史記桃源抄が「人といふものも居住まいによる事ぞ」と人間のあるべき姿を説いている。背筋のビシッと通った姿勢が重要だというのだ。


自民党幹事長・谷垣禎一が“舛添不祥事”に関して「首都のトップに立つものとしてそれなりの居住まいがなければならない」と述べているのは至言だ。自民党本部は夏の国政選挙に向けての危機感もあり、「舛添は既に死に体」(党幹部)と、早期辞任を求める空気が強い。


しかし、本人はまだ、「サギをカラスと言いくるめ」が通用すると思っており、自民党都連も様子見で党本部との温度差が目立つ。しかし舛添要一は絶対に外れないトラバサミにかかったのであり、ここは都連会長・石原伸晃がその影響力を行使して、早期辞任に結びつけるべき時だ。そうしなければ自民党は「製造物責任を問われる」(幹部)事に発展しかねない。
 

舛添要一の2回にわたる記者会見をつぶさに観察したが、舛添は自らの置かれた立場を依然予測できていない。この「悪あがき」のままではほぼ確実に「野垂れ死に」するという構図の理解に到っていないのだ。


核心部分は2度にわたる正月の家族旅行のツケを政治資金に回しておきながら、「当日は事務所関係者との打ち合わせがあった」と述べた点だろう。記者団から鋭い質問が出された。「奥さんは事務所関係者に含まれるか」という問いだ。図星を突かれたと見えてうろたえた舛添は「妻は家族です」と意味不明の言葉を2度にわたって繰り返し、「第三者の専門家による調査に委ねる」と述べるばかりであった。
 

この「第三者の専門家」を何と舛添は46回も繰り返したが、誰が舛添の“お手盛り”人事を信用するかだ。何も家族の旅行などは手帳を見れば済む話であり、専門家が判断する問題ではない。その弁明態度は児戯に等しく、説得力はゼロだ。舛添の政治資金流用はもはや“病的”にまで、拡大している。インターネットオークションでの美術品あさりや車二台の購入して、一台は政治活動に関係のない湯河原の別邸に置いている。次から次に暴かれ続ける構図は舛添が知事でいる限り続くのである。
 


これが意味するものは、自ら辞任しない以上、最終的にはリコールが成立することだ。朝日の世論調査によると舛添の対応が「適切ではない」は83%に達し、「適切だ」は8%だった。自民支持層の84%、公明支持層の8割も「適切ではない」と答えた。これほど都民が怒りの声をあらわにしているケースは珍しい。誰もが簡単に見破れる嘘をつきとおせると思っている知事への不信が募る一方なのだ。


首相・安倍晋三が「公私混同に厳しい批判がなされている以上、政治家は信なくば立たず」と発言している通りである。最終的にはリコールが成立することを前提に、自民党都連は動くべきであろう。つまりリコールによって都民の手を煩わせることなく、自らの自浄作用を発揮すべきである。
 

自公両党の都議会議員に舛添を担いだ事へのやましさがあるように見えるが、舛添の本質を見抜けなかったことは確かに問題がある。小泉進次カだけは見抜いており、「応援する大義がない」と執行部を批判したが、まさに図星であった。


しかし、舛添の政治資金流用の“習癖”は、週刊誌の調査報道によって判明したことであり、候補を擁立する前に検察並みのチェックを入れることは不可能である。したがって、都議会の自公両党はここでちゅうちょすべきでない。堂々と批判の論陣を張れば良いのだ。
 

今後都議会が取るべき手段としては、方法が三つある。一つは追及のための百条委員会を発足させることである。虚偽の陳述には厳しい罰則が伴う委員会であり、それでもごねれば都議会が不信任決議を上程すれば良い。3分の2の議員が出席して4分の3の同意があれば、舛添は辞任か都議会解散しかなくなる。そして最後の手段がリコールとなるが、133万人の証明を集めて、過半数の賛成があれば成立する。
 


都議会は6月1日に召集されるが、本会議での代表質問の段階は突っ込んだやりとりが難しい。9日からの総務委員会が焦点となりそうだ。医療法人「徳洲会」グループから5000万円を受け取った前任者の猪瀬直樹も、総務委員会での質疑で追い込まれて、最終的に辞任を決断するに到った。都議会与党は、ここは腹を据えて舛添辞任へと追い込むべきである。


評論家の中には「今辞任に追い込むと、4年後のオリンピックと選挙がぶつかるので難しい」などと悟ったような発言をする向きがいるが、馬鹿げている。例えぶつかっても選挙は出来る。今度こそ良い都知事を選んで、継続させれば問題はない。参院選とのダブルになろうと、衆参同日選とのトリプルになろうと早期辞任が良いと思う。

それも自民党が率先して辞任を実現させれば、選挙民の理解は得られるが、ちゅうちょすれば国政選挙に影響が出る。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年05月24日

◆「ややもすると解散」のきな臭さが漂い始めた

杉浦 正章



安倍はダブル選挙をまだ捨てていない
 

これはなにやらきな臭いとしか言いようがない。首相・安倍晋三がまた解散を考えているフシが出てきた。これを察知したか、自民党国対委員長・佐藤勉は「ややもすれば、そんなことになりはしないかと心配している」と23日に述べた。命名すれば「ややもすると急襲解散」だ。


安倍のことだから実行するかどうかは別として、脳裏にないわけがない。とりわけ野党が内閣不信任案を提出した場合には、全1人区で成立する可能性がある野党の候補一本化をダブルで粉砕するため、解散で逆襲する可能性も出てきた。したがって同日選挙の可能性は復活して、5分5分の見通しとなってきた。
 

とにかく安倍の解散への決断は「軽妙」としか言いようがない。2014年11月21日の衆議院解散には驚かされた。2012年の総選挙で政権獲得後2年で突然解散である。


今回は解散すれば1年半でやることになるが、衆参で勝てば、オリンピック間際までの任期となる。14年の解散の可能性を最初に明言したのは民主党幹事長・枝野幸男だ。9月の段階で解散を予言していた。ほかのことは外れるが解散に関する動物勘はどうも冴えているようだ。


今度も民進党幹事長・枝野は21日「首相が腹の中で何を考えているのかは分からないが、8割方ダブル選挙だと思った方がいい」と不気味な断定をしている。参院一人区では32選挙区すべてで、野党候補一本化の流れが強まっており、このままでは自公は厳しい戦いを強いられる可能性が大きい。これを粉砕するためには、安倍がダブル選挙を選択する事が一番得策となる。衆参で野党が共闘することはねじれが生じて困難であるからだ。


安倍はいったんは4月14日の熊本地震の被害状況を見て同日選挙を断念したかに見えた。現在でもなお7〜8万人が避難生活を続け、長期化する様相を見せている。その中で政権与党の利益だけでダブル選挙を断行すれば、批判の目は政権に向けられ衆参双方で敗北しかねない可能性があった。しかし仮に7月10日の選挙とした場合、震災から4か月たっており、粉じんもかなり治まる可能性がある。


どっちみち参院選挙は行われるのであり、これに衆院選挙を加えることは技術的に不可能ではない。問題は熊本で同日選挙が可能かどうかだ。民進党の松野頼久は国会で安倍に「選挙の管理や事務ができる状況ではない。ダブル選挙は(与野党)どちらが有利、不利かは関係なくやめてもらいたい」とクギを刺している。
 

それではダブルが事務的に可能かと言えば政府筋は「不可能ではない」と述べている。まず国政選挙に関しては、熊本地震による引越し先が国内である限り、常に選挙権がある。引っ越さない場合は地元で従来通り選挙権を行使できる。


専門家の見方は、他の区市町村に引越した場合、転入届を出した日から3か月が過ぎなければ選挙人名簿に登録されないため転出先の区市町村では投票ができないこととなる。一方で、 引越し前の区市町村で選挙人名簿に登録されていた場合は、住民票移動の手続き日から4か月を過ぎるまでは選挙人名簿に登録されている。


したがって、引越し先の区市町村の選挙人名簿にまだ登録されず、投票ができないときは、原則として旧住所地の区市町村で投票することが可能だ。また、引越し前の区市町村の選挙人名簿に登録されている場合で、引越し後の区市町村で投票を行いたい場合は、『不在者投票』の手続きを行うことで、引越し先で投票が可能となる。



したがって、安倍が決断すればダブル選挙はおおむね可能であろう。おりから、選挙の環境は政権与党にとって極めて良好である。サミットがあるうえに、27日のオバマの広島訪問は、国民の9割が支持しており、野党は寂として声なしの状況が続いている。安倍にとって絶好の晴れ舞台が続くのだ。


過去にも酷似する例がある。1986年の中曽根康弘による死んだふり解散・同日選挙だ。同年5月4日の東京サミット後の解散でダブルに持ち込み、圧勝した。


今回は伊勢志摩サミットに加えて、オバマの広島訪問が付録についている。内閣支持率も読売の調査で53%と、高止まりを続けている。政党支持率は自民党が突出している。マイナス要因としては「舛添疑惑」と、沖縄の女性遺棄事件、熊本の被災があるが、舛添疑惑は東京限定であるうえに、都知事に担いだ自公への批判はまだ高まっていない。


舛添を辞任に追い込めば世論は喝采(かっさい)する。沖縄の事件も安倍・オバマ会談などで沈静化は可能だ。熊本も、選挙をスムーズに行う段取りをしっかりとしつらえれば、7月の時点でそれほどの批判にはならないかも知れない。 
 

こうして、ダブル選挙への状況は大局的にはまさに千載一遇のチャンスという流れが生じてきている。加えて安倍が消費増税凍結か延期に踏み切れば、これで国民の信を問う口実は出来る。おまけに野党が内閣不信任案を上程すれば、安倍の性格から言って解散で切り返す可能性がある。まさに外交、内政が三つ巴、四つ巴となって、政局に大きな影響を及ぼす激動段階へと突入した。安倍がこの状況を捉え、解散するかどうかは、全く予断を許さない。


同日選挙の可能性はまだ5分5分としか言いようがない。その決断は会期末6月1日までの約1週間以内に行われる。

          <今朝のニュース解説から抜粋>(政治評論家)

2016年05月20日

◆サミットは増税延期の大舞台に

杉浦 正章



“G7版3本の矢”で下方リスク排除


 サミットをテコに消費増税を延期するという首相・安倍晋三の基本戦略は着々と進展しているように見える。26日からの主要7か国(G7)首脳会議も骨太に俯瞰すれば財政出動を含めたあらゆる手段を動員して景気の下方リスクを防ぎ、景気回復へと世界経済を牽引する方向に固まりつつある。


議長国である日本がこの潮流に逆行し、一国だけ消費増税を推進することは不可能になりつつある。これは安倍が過去に公約した、消費増税断行の発言を、撤回しうる大きな舞台回しであり、参院選挙に向けての地歩を固めることにもなる。
 

安倍の増税延期完全否定とみられる発言を観察すれば常に条件がついている事が分かる。その最たるものが「経済が失速しては元も子もなくなる」であり、直近では「適時適切に判断」である。また安倍の“ボディーランゲージ”を観察すれば、一貫して増税延期へと動いているかのようである。景気回復を目指す国際的な財政出動の推進は、まさに暗黙の延期宣言である。


さらに著名な経済学者から意見を聞く「国際金融分析会合」をなぜ開いたかといえば、消費増税の賛否の意見を聞くことにより、従来増税実施が100%常識であった水準を、賛否両論の中から二者択一の選択ができる水準へと移行させる狙いがある。
 

会合で、一番興味深かったのは超一流の学者にはオフレコが利かないことが分かった点だ。安倍が財政出動に難色を示すドイツに関してプリンストン大学教授のポール・クルーグマンに「絶対オフレコだが、どうドイツを説得すべきか」とただしたにもかかわらず、同教授はすぐツイッターで「安倍首相から聞かれた」と暴露してしまったのである。しかしクルーグマンは「彼ら(ドイツ)は全く別の宇宙に住んでいるので、緊縮財政をやめるのは難しい」と答えている。
 

別の宇宙というのは一国だけ財政黒字を享受していることを皮肉ったものだが、たしかに19日始まったG7財務相会議でも独財務相・ヴォルフガング・ショイブレが宇宙人のように「財政主導する必要は無い。ドイツとしては他の国に指示をするつもりもないが、その逆も望んでいない」と開き直っている。


イギリスの首相・キャメロンも安倍に対して「構造改革の方が良い」と述べており、安倍の狙い通りにG7が一致して財政出動を推進することはもはや不可能となったと言える。しかしサミットの常として見解が一致しない場合は、宣言でも主張を並列して文章の強弱で会議の大勢を表現する方向がとられるケースが多い。
 

重要なのはサミットは中国経済の減速と、原油安を背景にした資源国の景気悪化などにより世界経済に下方リスクがあるという認識では完全に一致する事である。これに基づいて各国がそれぞれ世界経済を成長軌道に乗せるための施策を打ち出す方針を確認すれば、立派なG7の宣言になるのだろう。


安倍は衆院予算委で欧米各国歴訪の感触として「財政政策が効果を及ぼすという考え方においては日本も米国もカナダもイタリア、フランスもEUも共有している」と述べており、G7の大勢は財政出動是認論なのである。


したがって最近安倍が目指していると言われるのは、財政出動だけではなく、金融政策と構造改革を含めて「サミット版3本の矢」を推進する構想だ。これを基にサミットが再び世界経済の牽引効果を発揮することは十分可能だ。
 

一方、対中関係で興味深いのは欧州連合(EU)の議会が中国を世界貿易機関(WTO)協定上の「市場経済国」と認定することに反対の決議を賛成多数で可決したことだ。WTOは生産活動や為替などを統制してきた国を「非市場経済国」と位置づけ、そこと貿易する国がダンピング(不当廉売)を認定しやすくしたり課税率を厳しく算定したりすることを認めている。


背景には、中国製の鉄鋼製品が世界中にあふれる過剰供給問題がある。中国は2001年に15年間は非市場経済国と扱われることを受け入れたが今年12月に失効する。これを再度「非市場経済国」に位置づけるべきなのだ。オバマも喜びそうな構想だ。たしかに中国の無秩序な通商政策は世界経済の波乱要因であり、サミットでも東・南シナ海の問題と共に協議の対象とすべき問題であろう。
 

さらに日本での開催でもあり、北方領土問題も討議の対象とすると共に、議長声明などでも言及する必要がある。既に1990年のヒューストン・サミット、1991年 ロンドン・サミット、1992年ミュンヘン・サミットで議長声明として取り上げている。安倍はプーチンとの関係もあろうが、世界世論に常に訴え、占拠を既成事実化しないためにも、クギを刺しておく必要がある。


サミットは成功しないサミットはないと言われている。参加国首脳が「協調」で常に一致しているからだ。安倍は議長国として重要な役割を果たすことになるが、一方で国内政治を見れば、「成功」すなわち「消費増税延期」となりうるのだ。延期を参院選後に延ばすなどと言う噴飯物の見方があるが、これは選挙敗北を宣言するようなものであり、馬鹿馬鹿しくて話にならない。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年05月19日

◆「増税延期」が安倍の手のひらで踊っている

杉浦 正章



政界が固まった背景に“官邸リーク”


 党首討論をめぐるマスコミの論調は首相・安倍晋三が民進党代表・岡田克也による消費増税延期の奇襲攻撃に遭って敗れたというトーンが圧倒的だ。特に報道ステーションのコメンテーター後藤謙次は嬉しげに「(安倍首相は)完全に岡田さんの土俵で相撲を取らされましたね」と述べたが、果たしてそうか。


この見方は浅薄で、逆だと思う。土俵は誰も気付かぬようにもっと広く設定されていたのだ。したがって筆者は岡田の増税延期論は窮鼠が猫をチクリとかんだだけで、かんだネズミは猫の手のひらで踊らされているだけだと思う。なぜなら裏には安倍の巧妙なる増税回避への世論操作があるからだ。その証拠に安倍は増税延期がやりやすくなったのである。
 

これまで安倍は一つ覚えのように「リーマンショックや大震災のような出来事が起こらない限り予定通り引き上げる」と繰り返してきたが、それにもかかわらずこれまで新聞が次々にトップで、消費増税延期を報じてきたのはなぜか。官邸筋を通じて意図的なリークが繰り返されたからに他ならない。


安倍が裏で延期のリークをさせなければ、野党が政府に先んじようと消費税凍結法案を提出したり、民進党内に延期を求める声が高まることはなかった。安倍は裏表を使い分けてきたのだ。安倍は、岡田の増税延期への転換を奇貨として、堂々と延期ばかりか凍結、増税断念まで視野に入れることが可能になったのだ。


そのリークに基づき増税延期説を報道してきた朝日が、19日は見出しで「増税延期迫られる首相」とやっているが、安倍の巧妙なる“手順”を見逃していて、深味がない。裏で延期を迫ってきたのは安倍本人に他ならない。
 

それにしても安倍が幹事長・谷垣禎一に「岡田さんの提案には驚いた」と漏らしたのは、確かに機先を制せられた感があるからだろう。


安倍は、サミット後に自らが延期を宣言した後に、岡田がついてくるしかないと思っていたフシがある。岡田が奇襲攻撃に出たのは、やむにやまれぬ選挙対策が基本にある。共産党など他の野党は消費増税凍結で一致しているにもかかわらず、副総理として消費増税に向けての3党合意の当事者であった岡田は、一転して延期に踏み切ることはできにくいと考えていたのだ。


しかし共産党と、野合のような共闘がどんどん進展し、最重要選挙テーマになる消費増税問題が共闘の支障となってきた。党内には代表代行・江田憲司が16日「今の時点で消費増税ができるような状況ではない」と述べるなど、延期論が強まる気配となってきた。もともと岡田は消費増税推進では選挙を戦えるとは思っていなかったのであり、早かれ遅かれ共闘を優先して方向転換せざるを得なかったのだ。
 

この民主党の臆面もない共産党寄りの姿勢を、党内右派がどう見るかだ。不満がうっ積してゆくことは間違いない。加えて財政規律を後生大事にして安倍を追及してきた岡田が、赤字国債に財源を頼るという方針を堂々と、しかも唐突に表明したのは、自己矛盾の露呈に他ならない。党内でちゃんと議論した上の提案とは思えず、なりふり構わぬ選挙優先の姿勢を露呈させたことになる。
 

一方で、岡田の方針転換により一番がくぜんとしたのは公明党代表・山口那津男であろう。庶民の党とも思えぬ消費増税推進論者が、一挙に孤立化しかねない状況に置かれたのだ。山口は17日「首相や担当大臣の判断だけで決められるものでは当然ない」と指摘、「政府・与党での議論を経て結論が導かれていくものだ」と安倍をけん制していた。


山口は党首討論終了後に安倍と会った後も、岡田の発言に「出来もしないことを掲げ、赤字国債で当面賄えというのは全く無責任」とかみついた。しかし今後山口が追い込まれてゆくのは歴然としている。そうかと言って、連立を解消する度胸はなく、これまでの重要課題と同様に結局安倍に妥協するしかないのであろう。
 

安倍にしてみれば、自ら山口を説得する必要も無く、政治状況が山口の方向転換を求める形となり、内心「岡田様様」といいたくなるところであろう。岡田は、意図はしないまま安倍に塩を送った結果となるのである。さらに民進党は、安倍が増税延期を打ち出せば、「アベノミクスの失敗であり退陣すべきだ」と増税延期とアベノミクスを結びつけようとしているが、これも無理筋の論理だ。


失業率が史上最低、中小企業へのトリクルダウンまで生じ初めている事が物語るようにアベノミクスは成功しているのである。自ら出来なかったことを棚に上げて何でもアベノミクスのせいにするのはやめた方がよい。
 

岡田は意図してか偶然か消費増税の2019年4月までの延期を提案した。安倍の総裁としての任期は2018年9月であり、それを越えている。問題は安倍が延期を宣言する場合、時期を区切れるかどうかである。1年延期はまずあり得ないから任期の先まで安倍が言及することが可能かと言うことになる。


安倍は消費増税に関しては3%増やしただけで十分責務を果たしたのであり、ここは、延期を言うより期限なしの凍結を宣言して、問題を後の経済状況に委ねた方が良いのではないか。短期に5%増税などと言うことをやり遂げた首相はいないのであり、財務省に踊らされ続けていることもない。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年05月18日

◆民進の安倍を攻めようがない理由

杉浦正章


「男尊女卑」発言が象徴する“すり替え”
 

国会内の議員発言は責任を問われない免責特権があるにせよ、民進党政調会長・山尾志桜里が衆院予算委で首相・安倍晋三に面と向かって「男尊女卑政権」と発言したのはひどすぎる。この議員特有の論議のすり替えと自信過剰の断定癖が露呈したものと言える。


もしこの国の政権が「男尊女卑」であったら、明らかに「性別によって差別されない」とする憲法14条違反であり、憲法違反の政権自体はなり立たないことになる。検事出身議員の言う言葉ではない。当選2回生の山尾の起用は代表・岡田克也の起死回生の人事だが、就任早々に政治資金規正法違反問題が露呈、国会質問の脆弱さが目立つ。


民主党にとっては弱り目にたたり目であり、18日の党首討論でも、岡田の“不振”は今からでも予想できる。肝心の消費増税の是非で他の野党と共同歩調を取って「凍結法案」に同調できないからだ。
 

民進党は政調会長の“教育”をし直した方が良い。そうでないといきり立った顔で鼻の穴の大きさばかりが目立つ質問を繰り返すことになる。こっちが男尊女卑と怒られるから言っておくが美人なのに勿体ないから言っているのだ。


男尊女卑発言は山尾の唯一の得意分野である介護・福祉問題で、保育士の待遇問題に絡んで飛び出した。いつも思うのだが、この議員は女性特有とは言わないが、木を見て森を見ない質問に終始する傾向がある。なぜなら山尾は「アベノミクスは失敗した。退陣すべきである」と主張したが、保育士の問題はアベノミクスが成功した結果生じた派生的問題であることに気付いていない。
 

失敗なら女性の就業率が安倍政権発足後の2013年で過去最高の62.5%に達し、維持するだろうか。産業別では医療福祉への就業率が大きく増加し、169万人増となっている。保育士は女性がほとんどであり、その待遇問題が派生しているのだ。


安倍政権は2017年度から保育士の給与を月額2%(約6000円)引き上げるのに加え、保育技術の高いベテラン保育士に給与を手厚く配分する方針だ。最高で月給4万円程度上がる方向。山尾はこの待遇改善が民進党案の一律5万円でないからけしからんと噛みついている。


しかし、世の中介護士だけしか存在しないわけではない。安倍が「段階を追って引き上げると言うことだ。一気に全部と言うことは簡単ではない。簡単ならなぜ民主党政権でやらなかったのか」と反論して勝負はついた。キーッとなった山尾は「男尊女卑」と言いきった。その後もテレビで「取り消さない」と息巻いていた。


法廷なら裁判長が検事に「口を慎むように」と注意を促し、それでも繰り返せば「退廷!」と宣言するケースだ。検事でも強制捜査の段ボール運び専門ではなかったかと思いたくなる。
 

山尾は民放テレビで民主党が煮え切らないままの消費増税の是非を聞かれた際にも、狡猾にも論点をすり替えた。「はっきりしている」と述べたから固唾をのんだが何と「軽減税率を前提にした消費増税は認められない」と発言したのだ。誰も軽減税率のことなど聞いてはいない。民主党が他の野党と同様に消費税増税凍結に踏み切るかどうかを聞いたのだ。
 


一政調会長の素質など、どうでもいいが民進党の支持率が発足直後から低迷している。新党発足直後にはご祝儀相場で上がるものだが、日テレの調査で支持しないが59.7%。読売の調査で政党支持率は自民党が37%(前回37%)、民進党が6%(同6%)と依然として自民圧勝。なんと安倍内閣の支持率は53%で3%上昇。


こんな数字が3年以上も継続する例は戦後の歴代内閣でも見たことはない。紛れもなくアベノミクスは成功と国民の多くが思っている証拠である。一時はトリクルダウンがないと批判されたが、大企業の収益が過去最高なのに続いて、中小企業の収益も過去最高になってきた。トリクルダウンしているのである。


何よりも失業率は18年ぶりの低水準、求人倍率は24年ぶりの高水準の1.3だ。GDPだけでアベノミクス失敗の判断は出来ない。国民生活に密着した指標の方が重要だ。
 

こうした傾向を反映してか、民進党の政権批判は専ら「重箱の隅作戦」しかない状況だ。外交・安保では安倍の親米路線が好感を持って迎えられており、野党は追及のしようがないのが実情だ。とりわけ安倍がもたらしたオバマとの信頼関係は、オバマの広島訪問で結実しようとしている。オバマ訪問を「評価する」はなんと93%に達した。外交・安保など全く知らない山尾が質問しないのは無理もないが、オバマ訪問で反米野党から寂(せき)として声なしの状況はどうしたことだろうか。
 

岡田は正直言って攻めようがないのが実情だろう。唯一の追及点は安倍が消費増税延期で態度を明らかにしていない点だが、民進党も安倍の出方待ちしか手がないというジレンマがある。安倍がサミット直後に延期を表明すれば直ちに「アベノミクスの失敗。退陣せよ」と言う戦術だ。


山尾が既にこれを述べている。しかし増税延期をアベノミクスの失敗と結びつけるのはだれが見てもこじつけだ。民主党のように状況の変化にに対応できない政権が国を滅ぼすのだ。サミットは景気刺激策の必用では一致し、財政出動も大きなテーマとなる。議長国の安倍がこれに逆行出来るわけがなく、消費増税は延期して参院選挙というのが安倍の残された「サプライズ効果」であろう。


民進党はこれに反対して「増税賛成」で選挙が出来るのだろうか。とにかく国民の間には過去の「民主党政権」の羮(あつもの)に懲りてなますを吹く状態がまだまだ20年は続くのだ。国民が本当に信用していないのだ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>     (政治評論家)

2016年05月13日

◆げ切れるか「東京一せこい男」舛添

杉浦 正章



“屁理屈大王”のあきれた「血税」感覚
 

舛添要一をどう表現しようかと思ったが、一言で切る言葉が見当たらない。昔米国が1991年に湾岸戦争に踏み切るかどうかの時に、ある会合で「踏み切らない」と断言していた。筆者は「1月17日にやる」と主張したが「絶対にない」と言い切った。


しかし、1月17日に踏み切ったときには、何と「私が言っていた通りでしょうが」と発言、出席者をあ然とさせた。これから言うと「小ざかしい」が適当だが、まだしっくりいかない。


そうこうしているうちに今朝13日付の朝日に「東京一せこい男」と言う表現を見つけた。これだと思った。川柳欄の<安いから回転ずしに行くのにな>に選者がつけた言葉だ。さすがに茶化しのプロは違う。一言で言い切っている。
 

確かにせこいのだ。「やりいか・140円」「甘えび・240円」クラスの湯河原の回転ずしの領収書が2件で約3万円というのも怪しい。とにかく舛添は何でも領収書だ。領収書さえあれば政治資金で落とすことが可能だから、金を払うときには必ずもらう。


ところが木更津のホテルにせよ、友人にせよ簡単に舛添に不利になる証言をしてしまう。ホテルは政治資金収支報告に書いた「会議費用」を否定し、「ご家族でみえました」と家族旅行を証言。友人は「舛添さんは鍼灸院やクリーニング店にも通っていました。クリーニング代を支払う際、どんなに少額でも領収書をきちんともらうケチな人でした」だそうだ。


友人に「ケチな人」と言われてはどうしようもないが、なぜだろうか。それは舛添特有の人望の無さにあるような気がする。人に好かれない性格なのである。だからかばう人がいない。
 

この「ケチな人」は朝日の「東京一せこい男」と通ずるものがあるが、そのせこさ加減が身を滅ぼしつつある。加えて東大出で頭がいいはずなのに、弁明がなっていない。頭の悪い慶応出の筆者でもすぐに論破できるものばかりだ。


まず筆者の川柳<香港のトップ驚く5千万>だ。舛添は「香港のトップが二流のビジネスホテルに泊まりますか?恥ずかしいでしょう」と述べたが、北京の息のかかったトップが、舛添のように5千万円も使った大名旅行をしていたらいっぺんに習近平から引きずり降ろされる。あの大名旅行でひんしゅくを買った石原慎太郎の平均より1000万円も多いとはあきれて物が言えない。


大体都庁は昔から伏魔殿と言われているが、取り巻きの官僚はごますりしかいないのだろうか。慎太郎の時もそうだったが「知事これは行き過ぎです。マスコミの批判を浴びますよ」と諫める者がいないのだろうか。むしろ知事に同行していい目に会いたいという側近ばかりが、ごますり競争をしているとしか思えない。湯水のように血税を使ってである。
 

さらなる「せこい発言」は、朝日川柳の<動く知事室もう閉鎖とか>だ。年間50週のうち48週の週末を湯河原の別荘に行く神経だ。しかも公用車を使ってである。舛添は「公用車は動く知事室」というが、東京大震災が発生したら「動けぬ知事室」になるのは火を見るより明らかだ。他の府県は知事の公舎を建造する際には橋が落下することまで考えて、橋を通らないで県庁に来られる路線に作るのが常識だ。


緊急事態にトップがいなければ、自治体は機能しない。それに週末には行事がある場合が多く、舛添はこれに一切出席しないと宣言しているに違いない。そうでなければ一年中週末を別荘で過ごせるわけがない。「会議があるからスイートに泊まった」というが、緊急の会議など自室の膝詰め会議で十分こなせる。下手な言い訳も休み休み言ってもらいたいがまだある。「湯河原の風呂は足が伸ばせる」というが、自宅の風呂を自費で改造すれば足くらいいくらでも伸ばせる。
 

あきれたのは「エコノミーに乗ったって飛行機代はかかる」だ。例えば成田からニューヨークまでの料金は JALの場合エコノミーで10万円、ファーストクラス145万円で15倍の差だ。まさに舛添は“屁理屈大王”の様相だが、致命的になりつつあるのが正月の家族旅行のツケを政治資金に回した問題だ。


2013年に23万円、14年に13万円の請求を会議費で政治資金処理している。舛添は「資料を精査して全体像が分かってから説明する。ミスと分かれば返金しないといけない」と早くも“ミス”で逃げようとしているが、これが成り立たないのは明白である。


なぜなら1回だけならまだ通るにしても、2回となれば「確信犯」的になるからだ。2回も続けて正月にミスするかと言うことだ。会議と言うが正月400人以上も集めて会議をするのか。そもそも「精査」と言うが、自分の手帳を見れば少なくとも「家族旅行」または「旅行」などとメモしてあるはずだ。精査など必要ない問題を問われているのだ。逆に会議と書いてあるならそれを示せば済むはずである。
 

おそらく、政治家の常のごとく政治資金収支報告の修正と返金で逃げ切ろうとしているのだろう。13日の記者会見が注目されるが、例え今回のケースで逃げ切っても、恐らく常習的に私的経費を政治資金に回していた可能性が高く、次々に出てくる可能性がある。単なる週刊誌の報道から、マスコミ挙げての報道に変化してきている。問われているのは弱者の血税で自らの地位が成り立っているという認識が決定的に欠けている点だ。


弱者への目線がこれほどない都知事も珍しい。

【次回は旅行のため18日よりとなります】

     <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2016年05月12日

◆原爆投下はトルーマンの「ダメ押し」

杉浦 正章



米国内には当初から批判が存在した
 

時事通信にはその前身であった国策通信社の同盟通信時代から伝わる秘話がある。原爆投下以前から事実上日本が降伏へと動いていた事実と背景が伝わっているのだ。


米国元軍人などの間では広島・長崎への原爆が多くの米軍兵士の命を救ったという意見が根強くあるが、投下した大統領・トルーマンの事後宣伝がいまだに利いているようにみえる。

これが大統領・オバマが広島で「謝罪するかどうか」の論議につながっている。さらには原爆投下が必用であったかどうかの議論にも今後つながって行くだろう。筆者は果たして原爆投下が必用であったかについては強い疑問を抱く一人である。投下しようがしまいが日本は息も絶え絶えの断末魔であり、降伏寸前であった。トルーマンはとどめを刺す「ダメ押し」のように原爆投下をしたとしか思えない。
 

まず事実関係を述べれば、「全日本軍の無条件降伏」を求めたポツダム宣言が発せられたのは1945年(昭和20年)7月26日だ。アメリカ合衆国大統領、イギリス首相、中華民国主席の名で宣言された。中国の現共産党政権は全くかかわっていない。


日本政府が受諾するかどうかは明白でないまま、広島への原爆は8月6日、長崎へは同9日に投下された。その結果、8月10日には、政府による「ポツダム宣言受諾」を同盟通信の対外放送で発信。このニュースは、ロイターやAPなどの海外通信社を通じて世界中に流され、戦勝国の国民は戦争終結の喜びに沸いたが、日本国民が知るのはその5日後の玉音放送による。

しかし、既に降伏への動きは45年2月のヤルタ会談の時期から始まっていた。その翌月には外相・重光葵が東京駐在のスウェーデン公使と会って、本国政府に和平の仲介を求めている。ポツダム宣言まで日本は6か月にもわたって、和平について打診していたのだ。また無駄であったが、日本は原爆投下の2週間前に、ソ連に対して和平の方針を明らかにしていた。


しめたとばかりにスターリンは北方領土占拠に出た。トルーマンも日本の外交電文を傍受して、和平への動きを承知していたと言うのが歴史の常識だ。


ポツダム宣言発表翌日の7月27日未明、政府は、直ちに閣議を開き、対応を協議した。その結果、拒否は危険でありなお様子を見ることにしようということになった。しかし時間稼ぎと軍部への配慮もあって、首相・鈴木貫太郎は「共同声明はカイロ会談の焼直しと思う。政府としては重大な価値あるものとは認めず黙殺し、断固戰爭完遂にまい進する」とコメントした。


当時同盟通信国際局長で後の時事通信社長・長谷川才次は、鈴木が黙殺という言葉と同時に、記者団から「宣言を受諾するのか」と聞かれて「ノーコメントだ」とも言ったと述べている。この「黙殺」発言は長谷川らにより「ignore it entirely(全面的に無視)」と翻訳され送信された。


この翻訳は正しかったが、これを見たロイターとAP通信は「reject(拒否)」と短絡して報道してしまった。こうして増幅気味で、かつ微妙なニュアンスが無視されたまま方針が伝わり原爆が投下されるに到ったのだ。
 

しかし、トルーマンが原爆投下を決定した背景は別のところにあるという見方が濃厚だ。投下しなくても日本の降伏は間近であったのにもかかわらず投下したのは、まず原爆開発のマンハッタン計画に当たって使用したアメリカ史上でも最高の19億ドルもの予算を、議会に事後承認させる必用があったことがあげられる。議会に「成果」を見せる必用があったのだ。


さらに戦後のソ連の台頭をにらんで核開発の予算を獲得するためにも実戦上の「効果」が必要だった事もある。もちろんスターリンに原爆保持のけん制をする必要もあった。深層心理には人種的偏見があったとする説もある。
 

このトルーマンの決断にはさすがに民主主義国家だけあって米国内部から批判が起こった。元大統領・フーバーはその回顧録の中で「トルーマン大統領が人道に反して、日本に対して、原爆を投下するように命じたことは、アメリカの政治家の質を、疑わせるものである。日本は繰り返し和平を求める意向を示していた。これはアメリカの歴史において、未曾有の残虐行為だった。アメリカ国民の良心を、永遠に責めるものである」と述べている。


また 後にアメリカの第34代大統領となった、連合軍最高司令官・ドワイト・アイゼンハワーは「日本の敗色が濃厚で、原爆の使用はまったく不必要だと信じていたし、もはや不可欠でなくなっていた兵器を使うことは、避けるべきだと考えた」と、回想している。


ホワイトハウスの報道官が10日、核廃絶に向けて「米国が特別な責任を負っている」と発言したのは、こうした時代背景の延長線上にあると解釈できる言葉と聞くべきであろう。
 

日米両国の記者はホワイトハウス詰めも官邸詰めもこうした史実を理解しないまま、「やれ謝罪だ」と騒いでいるが、浅薄だ。政治家は時にボディーランゲージを読む事が必用なのだ。オバマが慰霊碑に献花すること自体が謝罪なのである。加えて核廃絶の演説で、感極まって涙を流すことも考えられる。そうすればその涙の一滴が謝罪なのである。もちろん言葉などは必要ない。
 

ホワイトハウスは、オバマの広島訪問決定にあたって極めて慎重な態度を取った。とりわけ日本国民の反応を見極めるために、ジョン・V・ルース大使、次いでケネディ大使を「原爆の日」の平和記念式典に派遣して様子を見た。加えて最後に国務長官・ケリーに献花させた。いずれの大使からもケリーからも、日本国民からの反発が感じられないとの報告を得たのであろう。


ホワイトハウスは日本人の国民性をまだ理解していなかったのだろう。西欧も中東も半島も世界の民族はその多くが復讐のための戦争に血道を上げてきた。世界の歴史は報復の歴史だ。その尺度からすれば日本人も原爆の復讐を考えるのではないかと思うのは無理もない。


しかし日本は明治以来「復讐」の為の戦争はやっていない。加えて日本国民の感情の根底には「現状を受け入れる潔さ」とも言うべき「諦観」のDNA(遺伝子)があるのだ。これは度重なる地震や台風など大災害を経て培われたものであり、空襲も一種の大災害とうけ止める諦観である。諦観があっての上での大災害からの復興であり、戦争の荒廃からの復興であったのだ。諦観を経たうえで前向き姿勢を取る民族なのだ。


これが理解できないと「オバマを受け入れる潔さ」への解釈が困難だ。ホワイトハウスは勉強した方がいい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年05月11日

◆習近平の「同志」金への祝電の背後を探る

杉浦 正章


セピア色の戴冠式の次は軟化か
 

少なくとも北朝鮮が36年ぶりの労働党大会直前や最中に5回目の核実験をやっていたら中国国家主席・習近平の「金正恩労働党委員長」に対する祝電はなかったであろう。世界の指導者の誰もが相手にせず、プーチンですら祝電を送っていない「自作自演の戴冠式」である。


習近平はかねてから小憎らしいヤツと思っているに違いない金正恩を共産党用語の「同志」と呼んで褒めたたえた。その上で「党委員長に推戴されたとのうれしい知らせを聞いた。中国共産党中央委員会を代表して、そして私自身の名前であなたと朝鮮労働党中央委員会に熱烈な祝賀を送る」などと最大限の賛辞を送ったのだ。


これを単なる儀礼と受け取るか、裏に何かあると受け取るかは洞察力の差であり自由だが、筆者は何かあると思う。金正恩が地位を確立して、その生き残り戦略を核ミサイル一点張りから、対話局面に路線を転換する可能性があるという判断がなければこの祝電は送らない。むしろ祝電を送るに当たって当面核実験をしないことを条件にしたとすら思える。
 

金正恩の立場を推し量れば、1月以来の派手な水爆実験やミサイル打ち上げは、すべてが党大会での自らの地位確立を目指したものであったのだろう。その党大会たるや人事の刷新がないばかりか、外交内政上の政策の転換もなく、すべてが自らの求心力を高める「戴冠式」のために演出されたものであった。


そしてその演出内容は、自らを父親の金正日ではなく祖父の金日成との相似形をつくることにあった。北の歴史を見れば金日成時代とりわけ70年代までは、経済的にも軍事的にも韓国と同等であったが、94年の金日成死去で最高指導者になってからの金正日時代は国勢転落の時代であった。


一方韓国は1965年の日韓基本条約に基づき無償、有償、民間借款で合計8億ドルの賠償を得た。現在の物価換算で約1兆8000億円の資金を元に経済成長を遂げ、1人あたりの国民所得は北の20倍に達している。
 

金正恩は党大会でその父の時代でなく、栄光の祖父の時代への回帰を目指したのだ。声までだみ声を出して祖父との相似形作りに専念した。金日成のような背広を着て父の人民服とは一線を画した。要するに祖父のカリスマをフル活用して、とりわけ老齢の党幹部に「金日成の生まれ変わり」として、郷愁を生じさせ、神格化してあがめるよう仕向けたのだ。


それもあってか、まるで党大会はセピア色の写真を見ているような印象を与えるものであった。しかし祖父も太っていたが金正恩は病的に太りすぎである。中央日報が報じた韓国の専門家の分析によると金正恩は演説中、3秒に1回ずつ呼吸をしたという。一般成人男性の呼吸周期は4−6秒に1回であり、呼吸が短く荒い。「新年の辞」の演説では4秒に1回ずつ呼吸をしており、新年の辞に比べて呼吸が1秒縮まり、その荒さがさらに深刻だったという。肥満体が原因のようである。
 


こうしてまがりなりにもセピア色の写真に、はたきをかけて金日成の生まれ変わりとなった金正恩は、今後どのようなかじ取りをするのだろうか。


まずその心理状態を分析すれば、独裁者の常としていかに政権を長続きさせるかを考える。長続きさせるにはどうするかだが、普通ならようやく民生の安定を考える時だろう。そのためには通商を活発化させて、経済的な繁栄を達成する必要がある。


習近平の祝電はまさにこのタイミングを狙って、再び北朝鮮を中国の影響下に置き、政権を安定させ、自らの極東戦略の障害にならないようにしたいという思いが込められているような気がする。
 

そこで焦点となるのが米国の出方だが、気になる動きが生じている。


最近ソウルを訪れた国家情報局長官クラッパーは、米国が北朝鮮と平和協定交渉をする場合、韓国がどの程度譲歩できるかを韓国政府に打診したという。これは韓国内で、米国が現在の休戦協定を平和協定に切り替える為の方策を模索し始めたと受け止められている。


その背景には中国の影響がある。外相・王毅は2月のワシントン訪問で、「北朝鮮の非核化と平和協定議論を併行する案を模索しなければいけない」と述べ、米政府に活発な働きかけを行っている。北風作戦でなく太陽作戦で北の殻をこじ開けようというのである。クラッパーの訪韓は、その中国の主張に米国が動かされていることを物語っている。
 

この動きは韓国側の警戒心を呼び起こしており、中央日報は「平和協定または平和体制に関する議論は『パンドラの箱』になる可能性がある。一度始めれば在韓米軍撤収など我々が望まない事案が飛び出し、とんでもない議論に変質するリスクも大きい」と極めて否定的な論調である。


いずれにせよ、金正恩はその生き残りのために経済と民生の安定に向けて微妙なかじ取りをせざるを得ない情勢になりつつある。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年05月10日

◆日露会談を俯瞰すれば「中露分断」が浮き出る

杉浦正章


 
安倍外交の極東戦略が奏功
 

元外交官で評論家の三宅邦彦が首相・安倍晋三の、エネルギー開発、極東のインフラ整備など8項目の協力計画をプーチンに対する「餌(えさ)」とNHKでどぎつく表現した。筆者もそう書こうと思っていたところを言われてしまったので、多少失礼のないように「まき餌」と言い換えたい。


安倍がまいた「まき餌」にプーチンがどう食いつくかが今後の見所だ。報道機関によっては、「経済協力が『領土』に先行した」と誤判断しているところがあるが、これは会談の詳細を見ていない。安倍はぬかりなく条件をつけている。「プーチン大統領が訪日される時に成果を少しでも上げていきたい」と述べている。


8項目の具体化はプーチンの来日時であると言っているのだ。来日時はいまや領土問題で進展がある時と言うことになっており、経済支援の前提として領土問題での前進を要求しているのだ。


もう一つソチ会談での重要ポイントは中露戦略的パートナーシップ分断へのくさびに成功したことだ。プーチンが会談で、日露安保協力に期待を示した点にも目を向けるべきである。安倍が外交・安保、経済など様々な分野で協力を深める中で、領土問題での歩み寄りを模索することは、大局的には正しい判断だ。


この「まき餌」に対する、プーチンの心境を読み解くとすれば、ダボハゼのように食いつきたいところだろう。注意しなければならないのは「食い逃げ」の危険だ。やらずぶったくりが危惧(きぐ)されるのだ。石油価格の暴落と経済制裁で息も絶え絶えの大不況に見舞われているロシア経済にとって、安倍の提示した8項目は国民に希望の目を開かせる絶好のきっかけになり得る。


もちろん8項目はG7による制裁の範囲を逸脱していない。ロシア国営テレビの歓迎ぶりを見れば、安倍訪露に対するロシア政府の対応が如実に分かる。7日には番組トップで経済協力を詳細に報道、加えて何と「ロシアが国際的な隔離状態にないことは日本の首相に続いて、イタリア首相が6月に来ることでも分かる」と報じたのだ。


これはロシアがいかに世界的な孤立から離脱したがっているかということと、制裁がきついという“本音”を如実に物語るものだ。ロシア大統領府は安倍訪露を最大限“活用”しているのであって、北方領土の「ほ」の字も報道しなかったのは、クリミア併合でプーチンが獲得した80%の支持率を失いたくないからだ。ロシアTVの報道ぶりからはロシア大統領府の思惑が透けて見えるのだ。
 

こうしたロシアの対応は、せきを切ったような対日外交を展開する姿勢に現れてきている。6月からは次官級協議が開始され、9月にはウラジオストクで首脳会談、これがうまくいけば日本側は年内にもプーチンの来日を実現して領土問題の前進を図れる。議会も対日外交推進に傾斜している。プーチンに近い下院議長・ナルイシキンが6月に、上院議長・マトビエンコが10〜11月にそれぞれ日本を訪問する。かつてない活発な日露外交の幕が開くのだ。 
 

昨年の9月3日に北京で華々しく挙行された抗日戦争勝利70周年記念式典と軍事パレードにプーチンが参加して習近平とこれ見よがしの蜜月ぶりを誇示し、閣僚に北方領土での強硬発言を繰り返させた事とは打って変わる方針転換である。ロシア経済の停滞とその苦しさが方針を変えさせたのだ。


安倍が中露の反日戦略での一致を阻止し、逆に日露による外交・安保の緊密化を進めることに成功したことは大局的に見れば極東情勢に大きな影響をもたらすものである。北方領土も大切だが、今そこにある極東の危機への対応の方が切実で重要であることは言を待たない。
 

対中包囲網に懸命の米国はここに理解をするべきであり、安倍の中露へのくさびに感謝しこそすれ不満を抱くようなことではない。西欧諸国も、極東が安定すれば米国はその戦力をより多く欧州、中東に割けるのだ。安倍は先進国首脳会議でこの構図を説明して極東安保への理解を求めるべきであろう。安倍は北方領土と共に極東安保で一石二鳥を狙ったのである。


これに釣り込まれたのかプーチンが日露安保に言及した。中国が極東に多数の企業を進出させ、軍事面でも存在感を高めていることに、ロシア内部では警戒感が高まっている。外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)再開に向けて、実務者協議が近く開催されることになろう。
 

問題は安倍の言う北方領土への「新アプローチ」の内容だが、これこそ「群盲晋三をなでる」で正直言って本筋情報に欠ける。ただ様々な発言から洞察することは可能だ。


まず官房長官・菅義偉が9日「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結するという日本側の基本的立場に変わりはない」と述べている事からいえば、歯舞・色丹プラスアルファの国後・択捉分割論などは後退したのだろう。


過去に浮上した北方四島の「面積等分論」などはなくなった。プーチン政権は平和条約の締結後に歯舞、色丹の2島を引き渡すとした日ソ共同宣言(1956年)を軸に問題を解決する立場を変えていない。


こうした状況から隘路を見出せば、2島先行時間差返還構想が考えられる。元駐日大使アレクサンドル・パノフが7日付ロシア紙コメルサントや政府紙イズベスチヤにこれを書いている。元大使はコメルサントには「日本側には、平和条約締結後にロシアが歯舞と色丹を引き渡し、残りの2島は30〜50年など一定期間ロシアが管轄権を維持するという案がある」と書いた。


イズベスチアには日本の主権を確認後、ロシアの施政権を数十年間認める橋本龍太郎による「川奈提案」に言及し「多くの人々は、安倍首相はソチで古くて新しいこの提案を示すと考えている」などと語っている。言ってみれば沖縄の施政権返還に似た対応だ。2紙に明らかにしているのだからよほど自信があるのだろう。ロシア側政権幹部からのリークの指示があったのではないかとさえ思える。これからみれば、かつて「領土問題の解決に最も近づいた」と言われた橋下がエリツインに示した川奈提案に近いものと思われる。


しかしその後ロシアはこれを拒否しており、安倍がどのようなバリエーションを考えたのか、また全く別の提案なのかはまだ分からない。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月28日

◆日中韓が“反トランプ”で3国同盟?

杉浦正章



ヘイトスピーチに不満が募る
 

とかくいさかいを起こしがちな日中韓3国だが、最近ただ一点で共通項が出来てきた。米共和党のトランプ候補への反感の高まりである。元祖・ヘイトスピーチともいうべきトランプの差別扇動発言が極東に向いてきたからだ。


最初は笑って聞き過ごしてきた3国も、ひょっとするとひょっとすると思い始めたのかも知れない。とりわけ中韓両国からは強い反論が出始めており、“トランプ大統領”になったら“反トランプ3国同盟”が出来そうだというジョークまである。


トランプ流に暴言を吐くなら「3国同盟を作ってアメリカを潰してしまう」ということになる。大衆催眠術にかかっている米国有権者は気をつけた方がいい。早く目覚めるべきだ。
 

最近、流行っている論考が、トランプになっても大丈夫説だ。レーガンは大統領選挙中に、「中国と断交して、台湾と国交を持つ」と公言していたが、就任後中国との良好な関係を構築したという見方だ。だからトランプも政権に就けば変わるというのだが、ちょっと違うような気がする。


レーガンは俳優出身だが、もともとバランス感覚は抜群であり、狂犬病の“かみつき犬”のようなトランプとは根本的に違う。米政治学者・ジェラルド・カーティスは「共和党はトランプが本選に進出したら外交専門家をつけるだろう。プロのスタッフも送り込む」とテレビで述べているが、果たして効果が出るだろうか。
 

かみつき犬はかみつき犬であり、スタッフの隙を見てかみつくのだ。ホワイトハウスは何をするか分からない大統領を、8年間24時間見張っていなければならないことになる。


核兵器のボタンを押す大統領が、狂ってボタンを押したらすべてはおしまいだ。そのかみつかれ先は最近極東3国だが、日韓に対しては安保ただ乗り論と、核武装の勧めだ。韓国の核武装について朝鮮日報は次期在韓米軍司令官・ビンセント・ブルックスによる上院軍事委員会での証言を掲載した。「米国の核の傘がなくなれば韓国は自国の安全と独立を守る為に核武装しなければならなくなる」との発言だ。コラムでは「衝撃的なほど無知な外交政策」と酷評している。
 

またブルックは安保ただ乗り論について韓国が人件費だけで890億円負担していることを明らかにして「韓国に駐留しているのと同じ規模の軍隊が米国に駐屯したらより多くの費用が必要となる」と言明した。いわば安保ただ乗り論を裏返せば「米軍による経費ただ乗り論」であり、日本でも全く通用する話だ。


日本の負担は「思いやり予算」として今後5年間に9465億円を払う約束をしている。年間1848億円であるが、それとは別に基地周辺対策費、施設の借料、土地の賃料などを加えると年間なんと6710億円の支払いとなる。ちょっとアバウトだが、トランプでも分かるように四捨五入すれば年間1兆円だ。米軍が世界一の規模を維持出来るのは、この「経費ただ乗り」があるからに他ならない。まさにトランプは安保でも「衝撃的な無知」を地でいっているのだ。
 

カーチスは「トランプが大統領になっても対日政策は変更させないが、中国の方が大変だ」とのべているが、その中国はというと確かに大変だ。トランプは「北朝鮮問題を解決しなければ中国を潰してしまえ」と発言したが、環球時報は「トランプ氏の当選は大規模テロに匹敵する」と酷評した。


読者は「頭のおかしいヤツに大統領になって欲しい。米国への罰だ」と反応している。さらにトランプは「大統領に就任した初日に中国を為替操作国に認定する」「中国製品に45%の関税をかける」などと致命的な経済制裁に言及した。


これに対しては財政相・楼継がトランプを「非理性的なタイプ」と批判し「米中は相互に依存していることを認識すべきだ。両国の景気サイクルはつながっている」と警告した。環球時報は「世界経済の毒針だ」とうまい表現を使った。
 

日本の経済攻勢批判に到ってはまさに時代錯誤の極みだ。年を取ってぼけてくると若い頃うけた強烈な印象で物を言う癖がつくが、日本のバブル時代にトランプは自ら狙いをつけたニューヨークの数々の不動産を、日本企業に横取りされた原体験が忘れられないと見える。日米貿易摩擦時代の視点で物事を見ている。1970年代から90年代にいたる日米摩擦を今語っているのだ。


今や日本車は米国内生産だ。3国ともヒラリーが大統領に当選して欲しいという空気でも共通している。
 

こうした中で米国で絶えないのがそのヒラリーがトランプを擁立したという途方もない臆測だ。タブロイド版ではなくワシントンポストやBBC、CNNなど大手マスコミが昨年からことあるごとにこの陰謀説を報じている。


もともとトランプはクリントン夫妻とも親交を重ねてきており、ビル・クリントンとはゴルフを共にする仲だ。そこからクリントンがトランプをおだて上げ、共和党から出馬させて、同党を大混乱に落とし入れるという説がまことしやかに語られている。いわばクリントンがトランプをトロイの木馬に仕立て上げたという説だ。よくできた話だが、ことは筋書き通りに運んでいるから面白い。
 

結局民主党はクリントンが候補になることが確定的となった。共和党はトランプ優位であるものの、指名獲得に必要な全米の代議員過半数1237人に到達するには、テッド・クルーズとの接戦が予想される5月3日のインディアナ州予備選などでの勝利が必要とされている。


とにかくこんなに面白くてスリルのある大統領選はかつて見たことがないが、結局は米国の良識が勝つだろう。本選挙の動向予測の世論調査では依然としてクリントンの方がトランプより強い。

【筆者より】明日から連休に入ります。再開は5月10日。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月27日

◆北外相による“対話の模索”は失敗

杉浦 正章



労働党大会向けにさらなる核実験準備
 

近ごろ訝(いぶか)しいのは北朝鮮外相・李洙墉(リスヨン)の訪米だ。どうでもよい国連の署名式出席を“口実”に米国に滞在していたが、帰国の途についた。李は米朝対話模索の動きを垣間見せたのか、単なる対話へのアリバイ作りだったか不明だが、訪米が対話へと前進することはなかった。


北は帰国を待ちかねたかのように核実験や中距離弾道ミサイル・ムスダンの発射へと威嚇のレベルを上げようとしている。来月上旬の労働党大会にむけて金正恩の身分不相応の“大見得”が佳境に入ろうとしている。
 

筆者のように古いジャーナリストは米国による「置いてけぼり」外交に警戒心を抱く癖がついている。なぜなら米中頭越し外交によって1972年の首脳会談を出し抜かれた苦い経験があるからだ。ニクソンの特別補佐官キッシンジャーは隠密外交で日本無視の米中国交回復を実現した。韓国メディアも同様であり、今回の李の訪米を“警戒する”論調が見られた。米国は大戦略があればそれを優先させるために何をするか分からない国だ。
 

確かにこのところ北と米国双方に微妙な発言が相次いでいた。北の国防委員会報道官は4月4日に「軍事的圧力より交渉の準備が根本的な解決策」と米国との対話の可能性をほのめかした。


一方米国務長官・ケリーも11日広島で「北朝鮮が核を議論すれば相互不可侵条約を含む平和協定の議論が可能だ」と述べていた。李もAP通信のインタビューに応じて「アメリカが韓国と合同で行っている軍事演習をやめれば核実験を中止する用意がある」と言明した。李の訪米中唯一の重要発言であり、李はこれを言うために訪米したと言っても過言ではあるまい。


しかしこれに対してオバマはドイツで「真剣に受け止めていない」と、にべもなく拒絶した。逆に警戒感をあらわにする発言をした。北の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験について「発射実験は失敗しているとはいえ、北朝鮮は確実に知識を蓄えている。我々は北の挑発に懸念している」と述べたのだ。


そもそも北の核保有など米国が認めるわけがない。認めれば日韓の離反を招きかねない。それどころか日韓の核武装を招きかねない。朝鮮半島の核廃絶は米国の基本戦略なのだ。
 

こうして李の訪米の目的はもろくも崩れたが、もしオバマが応じていたらどうなっていたかである。北は核実験が取引材料になると誤解して、36年ぶりの労働党大会で金正恩は「米国は我が国の核ミサイルに屈服した」と胸を張るだろう。


オバマがその手に乗るわけはないのだ。そもそも北朝鮮は中国の核保有の歴史に学んでいる公算が大きい。中国は1964年に原爆実験、67年に水爆実験、70年に人工衛星を打ち上げ、大陸間弾道弾も製造可能となった。


これに慌てた米国は上記のキッシンジャーによる隠密外交を展開、中国は米国公認で核大国への道を歩み始めたのだ。筆者は1963年当時外交部長だった陳毅が「中国はたとえズボンをはかなくとも、完成された核兵器を製造するであろう」と発言したことを覚えている。


さしずめ北朝鮮には「ズロース」と言いたいが「下品」と言われるから「着た切り雀になっても」核・ミサイルを手放さないだろうということだ。米国と対等で交渉することを本気で夢見ている異常な国なのである。
 

SLBMもその一貫だ。通常「貧者の核」は毒ガスなどを指すが、かつてパキスタンの原爆実験が「乞食の実験」と評されたように、似たり寄ったりである。しかし貧者であれ乞食であれ、こけの一念は恐ろしい。SLBMは30キロしか飛ばないから失敗とされているが、日本の北朝鮮評論家たちのネタ源であるジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮サイト「38ノース」は、もともと30キロ分しか固形燃料を登載していなかったと報じている。


10トンや20トンもの燃料を登載したら頭上に落下するというのだ。べこべこのブリキ細工のような新浦級潜水艦から発射されたとみられているが、発射装置はロシアから輸入されたと言われている。


ミサイルは、旧ソ連のゴルフ級潜水艦に搭載したSN-6-Nミサイルと類似しているといわれる。「38ノース」は北朝鮮が固形燃料を使った潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を2020年までに実戦配備する可能性があるとの見方を明らかにしている。
 

国民の生活など「知ったこっちゃない」とばかりに金正恩は狂ったように核実験、ミサイル実験を繰り返す。李が帰国すれば労働党大会に向けて5回目の核実験をするだろう。


極東情勢は、過去最大の北朝鮮制裁も痛痒を感じないがごとく、北の暴発に次ぐ暴発が継続する。労働党大会で気勢を上げる金正恩は、「支持しなければ死刑になるから大会の圧倒的な支持」を受けて気をよくして、ますます増長する。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月26日

◆北方領土問題をサミットで協議せよ

杉浦 正章



 「力による現状変更」反対の声明を


 来日したロシアのラブロフ外相の発言から見ると、北方領土問題でのロシアの姿勢はかたくなであり、日本は一見外交上のアドバンテージをを持っていないかに見える。


しかし、首相・安倍晋三との会談におけるロシア大統領・プーチンの出方によっては、ロシアはますます孤立化の様相を呈するのが今後1か月の外交展望だ。有り体に言って首相・安倍晋三にはサミット議長国として、国際社会の世論に大きな影響を及ぼす事が可能であり、米欧の対露強硬姿勢に火をつけることもできないわけではない。


議長声明で北方領土に強く言及するチャンスでもある。したがって5月6日の日露首脳会談は5分と5分の渡り合いになる。
 

比較すれば首相・安倍晋三の対露外交姿勢には“善意”が見られるが、プーチンのそれにはロシア外交独特の“策略”が感じられて不快感が先行しがちだ。安倍との会談についてプーチンは記者団に「米国を中心とする圧力にもかかわらず、日本は対露関係を維持しようとしている」と発言したが、これは早くもG7分断に出たかと感じさせるものだ。


安倍は北方領土の進展に積極的であり、度重なる会談を通じてプーチンにその熱意は伝わっている。相手の力を利用するのが柔道の基本だが、プーチンはその手を使ってG7を分断して、自らの置かれた窮地から脱出しようとしているかに見える。まさに「溺れる者はわらをもつかむ」が如き姿勢が読み取れる。
 

クリミア併合で達成した爆発的な支持率を維持したいプーチンの本音を読み解けば、いま返還の「への字」すら言えないときであろう。領土は支持率に直結すると思い込んでしまっているのだ。


支持率は最近の国内経済の悪化を反映して80%から10ポイント下落したが、それでも歴代大統領と比較すれば雲泥の差がある。それほどクリミア併合はロシア国民のナショナリズムを刺激したのである。したがって、北方領土で安倍に「甘い言葉」は出すに出せないのが現状であろう。
 

それではなぜ安倍がソチに行くかであるが、世界情勢を大局的に見ているからであろう。極東は大国化した中国の東・南シナ海への進出、北朝鮮の核ミサイルによる威嚇によって極めて厳しい環境に置かれている。辛うじて対露関係だけは安倍・プーチンの個人的関係によってそれほどのあつれきは生じていない。


もし対露関係が悪化して、北方からの軍事脅威まで発生すれば自衛力は分断され、日本の安全保障情勢は最悪の状態に陥る。安倍はそこを見て対露関係を維持しようとしているのであり、これはとりもなおさず中露分断にもつながる大きな効力を持つ。北方領土も大切だが、現在の状況はまず極東の緊張緩和が何より必用なことであろう。これに米国が反対する理由もないのである。
 

北方領土は先に来日した外相・ラブロフの発言から見て大きな進展は難しい。外相・岸田文男がラブロフとの会談後「交渉に弾みを与える前向きな議論が行えるようになった」と発言したが、またまた日本の政治家が陥る罠(わな)にはまったかのように見える。


北方領土交渉の歴史は外相・三木武夫が首相・コスイギンから「中間的な措置」を約束してもらったと騒いで、ぬか喜びに終わった事が象徴するように、ロシア側が振りまく“幻想外交”に振り回されてきた。安倍は抜かりはないと思うがこの“幻想外交”の罠にはまってはなるまい。

プーチンの「引き分け」発言も幻想めいている。むしろロシア側にシベリア開発の“幻想”をほのめかすくらいの対応が、鈍感なロシアの熊を分からせるのには必用かも知れない。


翻って、国際情勢の大局を見れば、合い言葉は「力による現状変更」である。世界は中国の東・南シナ海への進出、とりわけ南シナ海の埋め立てと軍事基地化、北の核ミサイル開発、そしてロシアのクリミア併合と武力を前提にした現状変更の時代に突入している。ラブロフがいみじくも北方領土に関して「第2次大戦の結果、北方四島は戦勝国ソ連のものになった。敗戦国日本には、口を出す権利はない」と発言しているのは“元祖力による現状変更”をイケシャアシャアと言っているに過ぎない。語るに落ちているのだ。
 

したがって5月26、27日のサミット議長として安倍はここに目をつけるべきであろう。世界が守るべき大原則に言及するのだ。


ウクライナ危機でロシアが踏み込んだ「力による現状変更」は西欧諸国のみならず、日本としても決して容認できないし、北方領土も、中国の東・南シナ海進出も全く同様である。議長声明でG7の総意としてこれらの問題を力による現状変更として指弾するのだ。


既に過去のサミットは北方領土問題を話し合っている。1990年のヒューストン・サミットの議長声明では「日ソ関係正常化の上で不可欠な措置としての北方領土問題の早期解決を支持する」と言及。1991年 ロンドン・サミットも議長声明で北方領土問題の解決が望まれる旨が強調された。1992年ミュンヘン・サミットでも北方領土問題がグローバルな重要性をもつG7全体の共通の関心事項であることを確認した。


海部俊樹と宮沢喜一が残した数少ない成果の一つであった。サミット議長国はこうした力をより強力に発揮できるのであり、GDP世界10位の“大国”ロシアに強いけん制球を投げる姿勢が不可欠なのであろう。オバマが大喜びすることは間違いない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)