2016年03月29日

◆安倍外交が内政密着型で再始動する

杉浦 正章



米露にらんだウクライナ大統領来日
 

予算成立と安保法施行により首相・安倍晋三がその姿勢を大きく外交へと転換させる。伊勢志摩サミット(G7)を軸に対欧米外交、対露外交、対中韓など近隣外交を展開、この成果をもとに夏の国政選挙で国民の信を問う形となる。


サミットでは世界経済を牽引してきた新興国経済の低迷で、G7が再び世界経済のリーダー役を演じなければならなくなり、サミットはテロ対策と並んでかってなく経済重視型となり、議長役としても安倍のリードが極めて重要になる。そして財政出動で景気を刺激すべきとの世界の潮流は、安倍に消費増税再延期の決断をしやすくする。まさに外交が内政に影響し、内政が外交を動かすという状況へと突入する。
 

外交日程は激動の世界情勢を反映して極めて立て込んでいる。31日から米ワシントンで開かれる核安全サミットを機会に安倍はオバマや朴槿恵と会談する。4月は5日から3日間の日程でウクライナ大統領・ポロシェンコが来日する。中旬には露外相・ラブロフが来日して外相・岸田文男と会談する。5月26日・27日のG7に先だって安倍は4月下旬からの大型連休中に欧州のG7諸国を歴訪する。安倍は訪欧に合わせて、ロシアを訪問、プーチンと会談する方向で調整している。
 

サミットはもともと75年石油危機からの建て直しを目指して仏ランブイエで行われ、筆者は三木武夫が出席した同サミットを取材している貴重なる骨董品である。以来G7は経済が中心だが冷戦を反映して対ソけん制の意味合いも濃厚であった。


今回のサミットも欧州におけるテロの頻発で政治サミットの色彩も強いが、同時に待ったなしの対応が迫られるのが新興国経済の低迷で、世界経済の牽引役としての役割である。2月の上海における20か国財務相・中央銀行総裁会議(G20)は財政刺激策を各国に求めており、この潮流は変わらないものとみられる。日本は8%への引き上げで生じた経済不振からの脱却を明示しなければならず、その方策として安倍が消費増税再延期と財政出動を選択する公算は大きい。


G7全体としては財政出動による国際協調の構築を打ち出すものとみられる。テロ対策は当然盛り込まれるが、極東におけるサミットであるからこそ「核テロどう喝国家」北朝鮮の存在についても安倍は警鐘を鳴らし、非難して対策に盛り込むべきであろう。もちろんこれに先立つ核サミットでも同様の主張をする必要がある。
 

安倍はサミットに向けて主催国トップがそうしたように、参加国を廻って事前の調整をすることになる。問題はこれと合わせてソチでプーチンと会おうとしていることに米国が渋っている点だ。

オバマは2月の安倍との電話会談で訪露をサミット後にするよう要望したが、安倍は対露外交の重要性を指摘して断った。ホワイトハウスはカチンときているに違いないが、安倍は国家安全保障局長・谷内正太郎をワシントンに急きょ派遣、3月1日に大統領補佐官・ライスと会談させたが内容は一切漏れていない。しかしその後22日になって、ウクライナのポロシェンコの来日が発表されたのは怪しい。


ポロシェンコは4月5日から3日間公式訪問する。日本ではウクライナ問題など関心が薄く、新聞はまだ気が付いていないが、これがオバマ説得のカギではないかと思う。支持率わずか17%で国内でぼろくそに言われている大統領でも利用価値があるのだ。というのも米欧諸国に対して日本もウクライナ問題ではG7と歩調を合わせているというアリバイになるからだ。


恐らく安倍は歓待して何らかの経済援助を行うであろうし、ロシアが併合したクリミア問題でもウクライナ支持を表明するだろう。逆にポロシェンコが北方領土に対する日本の主張を支持する可能性も高い。ネットによるとロシアの高等経済学院の専門家、アンドレイ・フェシュンは「プロシェンコ大統領の訪日で安倍氏は米国の激しい怒りを和らげ、自らの政治的柔軟性をそれとなくアピールしようとしているのかもしれない。


ほらね。私はやっぱりロシアに行きますけど、その代わりウクライナ大統領を招きましたよ、ということなのではないだろうか」と看破している。
 

こうして安倍は米ロ両国を意識した、巧みといえば巧み、見え見えといえば見え見えの外交を展開する流れのようだ。ここに来て、早くもロシアはけん制に出た。北方領土に海軍基地を設営するなどと言い出したのだ。安倍はプーチン来日を実現して領土問題を一歩でも前進させたい考えのようだが、ここはアメリカが怒ろうがどうしようが、「根回し済みの自主外交」を貫くべき時ではないかと思う。
 

一方、安保法施行は安倍の外交的ポジションを強化しこそすれ弱めることはあるまい。日本が集団的自衛権の行使に前向きになれば欧米諸国にとってこれほど力強いことはない。しかし、よほどのことがない限り中東派兵などあり得ないことははっきりさせる必要がある。


当面はもっぱら北朝鮮対策に集団的自衛権は行使されるべきであり、中東やアフリカに自衛隊を派遣して戦死者などを出そうものなら、この国のマスコミは気が狂ったように安倍批判を展開する。南スーダンなどへの自衛隊派遣に新法適用などは金輪際行うべきではない。


北朝鮮の核ミサイルへの備えとしては安保法は極めて強い説得力があり、選挙対策には持ってこいだ。野党の安保法破棄の動きは今後5月9日の朝鮮労働党大会に向けて暴発を続ける金正恩を利することになり、これを批判すれば願ってもない選挙対策になる。

       <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年03月25日

◆F35配備で敵基地攻撃能力を実現せよ

杉浦 正章



議論より高度の政治判断のときだ
 

要するに天から核ミサイルを降らす狂気の指導者が近隣にいるのに、天から平和が降ってくるなどという専守防衛一点張りの思想など成り立たなくなったということだ。どの国もが持つ敵基地攻撃能力をミサイル迎撃能力と併せ持って、初めて北朝鮮の核から国民の生命財産を守ることが可能となる。


これは北がミサイルに原爆を搭載したか、しつつあるとかにかかわらず必用な戦略である。北が迎撃力を上回る大量のミサイルで「飽和攻撃」を仕掛けた場合、例え1、2発でも日本に核ミサイルが到達したらどうなるかを考えてみるべきだ。


おりから日本で組み立てている敵基地攻撃能力のあるステルス戦闘機F35が11月に完成、米軍も来年1月には岩国に配備する。政府・自民党はこれと連動して高度の政治判断を下すべきであろう。


自民党は、24日国防部会を開いて敵基地攻撃能力確保の問題について議論を開始したが、イロハのイからのスタートである。選挙を前にして穏便にという自民党執行部の方針は分かるが、今頃こんな議論を繰り返しているときかといいたい。


席上、防衛省の担当者が「従来から法制上は、ほかに手段がないと認められるかぎり、基地をたたくことは自衛の範囲に含まれ可能としている。ただ、自衛隊は従来から敵基地攻撃に適した装備体系は有しておらず、必要な装備の検討もしていない」と現状を説明。

これに対し、出席した議員からは「北朝鮮は複数のミサイルを同時に発射する能力を持っており、『撃たせないようにする』とか『撃つ前にたたく』ということは当然考えなければならない」という意見が出された。

また「敵基地攻撃能力の保有を議論することが北朝鮮に対する抑止力になる」といった指摘が出され、引き続き議論していくことになったという。
 

しかし既に同国防部会は09年の北朝鮮によるミサイル実験を受けて「座して死を待たない防衛政策としての策源地(敵基地)攻撃能力が必用」との結論に達している。


こうした意向を受けて13年の防衛計画大綱には、「ミサイル発射手段への対応の在り方を検討し、必要な措置を講ずる」と初めて敵基地攻撃能力について間接的に言及しているではないか。もう議論の段階は過ぎた。対応が遅れれば遅れるほど、北の核戦略を利することになる。


ただしこの問題は、安保法制のように政権与党だけで進めず、野党も含めて国論を形成する努力も必用だ。幸い民進党右派には元外相・前原誠司のように確信的な敵基地攻撃論者がいる。これらを巻き込んで実施に移す必要がある。


北の核ミサイルの現状は定かではないが、防衛省によると18日に発射した中距離弾道ミサイル「ノドン」は、「ロフテッド」と呼ばれる通常よりも高い軌道を描いていたという。おそらく弾道ミサイルの性能向上に必要な大気圏への再突入実験などを意図した可能性があるとみられる。


しかし米韓軍事演習に対抗して実施した上陸演習や、ミサイル再突入実験は、まさに噴飯物もいいところだった。米上陸用舟艇を真似したのかゴムボートのうえに張りぼてのような被いをつけて上陸したまでは良いが、降りる兵士は皆シャベルを持っていた。よほど古色蒼然の銃器など見せたくなかったかのようである。


再突入実験も先進国では高熱を出せる特殊な風洞を作って行うが、ガスバーナーを集めてレンガ製のの弾頭に炎を吹きかけるという「前代未聞の装置で行った」(専門家)という具合だ。


恐らく金正恩が思いついて急きょ映像を準備させたのだろうが、世界中の専門家によっていっぺんに見抜かれることまで考えが及んでいない。金の知識と判断力のレベルがうかがえるパフォーマンスだった。まさに精一杯背伸びする「弱者の選択」に懸命なのだろうが、馬脚が現れるとはこのことだ。


北はミサイルの発射が液体燃料注入でばれると判断してか、固体燃料の開発に成功したと発表したが、これも眉唾ものだ。しかし核兵器を開発しだして10年になる。先進国の開発は小型化に5,6年で成功しており、かなりのレベルに達していないとは言えない。


日本を狙うノドン200発に核を搭載すれば、まさに極東の戦略を左右する重大事態となる。冒頭述べたように飽和攻撃をかけられたらイージス艦や地上配備の迎撃ミサイルをすり抜ける公算が高い。核兵器を搭載した200発のノドンが日本に向けて発射されれば、迎撃が利かない飽和状態となり、必ずすり抜けるミサイルが出てくるのだ。
 

こうした狂気の行動にでかねない金はまさにルールを知らない指導者であり、彼による予測不能の事態に対処するには万全の対応をするのが国家戦略のイロハだ。国の安全保障は常に最悪のケースを想定して行われるべきものなのだ。


こうした事態に直面してマスコミにも敵基地攻撃を重視する論調が出始めた。産経が社説で「敵基地攻撃能力の保有検討を始めよ」と主張しているのはあり得ることだが、読売も加わった。社説で「迎撃システムだけで、すべてのミサイル攻撃を防ぐのは事実上不可能だ。巡航ミサイルなど、敵基地攻撃能力の保有についても本格的に検討する時期ではないか」と強調している。
 

安倍は昨年夏の安保国会では「武力行使の新3要件を満たせば法理上は認められる」との認識を表明したものの、「我が国は敵基地攻撃を目的とした装備は保有しておらず、想定していない」と語っている。しかし次期戦闘機F35は敵基地攻撃が可能である。米軍が岩国へのF35配備を決めたのも北への先制攻撃を意識したものとみられる。


これまで米国は日本の独走を警戒するあまり、敵基地攻撃能力を日本が持つことに消極的であったが、北は米本土を攻撃するミサイル開発に成功しつつある。事態は大きく変わってきているのであり、ここは日米韓協調の態勢確立へと急ぐべきであろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月24日

◆小沢・共産の「野合路線」が早くも空回り

杉浦 正章
 


安保反対も北の暴挙で共感呼ばず:野党戦略
 

まるで関ヶ原決戦を前にした西軍の分裂のような状態を野党が呈し始めた。生活の党代表の小沢一郎は共産党委員長・志位和夫との対談で「共産党とは組めないとか小沢は嫌いだと言っているようでは、安倍さんになめられる。その他の野党の器量の問題だ」と発言、民主党代表・岡田克也を暗に“器量”が無いと批判した。


確かに岡田は西軍の将・石田三成のように狭量なところがあり、野党全軍の将の器となれるか疑問だ。一方東軍の将・安倍晋三は選挙を「自公対民共の戦い」とクリアカットに位置づけ「決して負けるわけにはいかない」と旗幟を鮮明にさせた。


加えて注目すべきは政府が22日共産党を「現在においても破壊活動防止法に基づく調査対象団体である」「共産党の『いわゆる敵の出方論』に立った『暴力革命の方針』に変更はない」と改めて指摘する答弁書を閣議決定したことである。あきらかに共産党に接近する民主党に打撃となるうえに分断を狙った決定である。


若い人は知らないだろうが、共産党が1950年にスターリンの指示と資金を受けて事実上武装蜂起して火焔瓶闘争を展開したのは有名である。これを再びむしかえし、指摘したのだから、誰が見ても東軍の戦略の方が「家康風」で狡猾である。


西軍は小沢がやきもきするように安保関連法や消費増税といった重要政策で分裂の傾向を呈している。とりわけ小沢の「消費税延期先取り戦略」は、狡(こす)っ辛さここに極まれりであるのみならず、野党内に亀裂を生みかねない側面がある。


 
昨年夏の安保法制審議などをきっかけに小沢・志位会談は水面下でこれまでたびたび行われているが、雑誌の対談はその内容が分かる意味で貴重だ。この中で小沢は志位の参院選改選1人区で候補を取り下げるなど野党共闘を推進する姿勢を「日本の歴史を変えるきっかけになる」と褒めちぎった。まさに“一大よいしょ”を展開したのだ。


何としてでも共産党の集票力を確保して、政権交代の夢よもう一度と言う策略であり、目的のためには「悪魔」とでも組むという、なりふり構わぬ野合路線の露呈だ。


政局見通しについても「多分ダブル選挙になる」との見通しを述べ、志位も同調した。そして争点を「国民の多数が反対している」(志位)安保法破棄に絞ることでも一致した。


この場で目立ったのは小沢が、安倍の検討している消費増税再延期について「安倍政権より先に延期を打ち出すべきだ」と“延期先取り”を主張したことだ。大衆受けする政策ならなりふり構わず、生き馬の目を抜くがごとくに先手を打とうとする「小沢ポピュリズム」の面目躍如たるところが見える。  
 

27日に結党大会を開く民進党は他の弱小政党にも働きかけて、合併を促す方針だが、小沢に対してはどうも入党を拒否する流れが強まっている。小沢アレルギーが依然として根強く、岡田が党内をまとめられないからだ。


前首相・野田佳彦に到っては去る3日の連合の春闘決起大会で「方針が決まってもゴチャゴチャ言うのが民主党の悪いクセだ。一番ゴチャゴチャ言ったのは元代表だ」と名前こそ出さなかったが小沢批判を展開。それでも言いたりないのか野党糾合問題について「一番(私の)足を引っ張った(小沢)元代表さえ来なければ、あとは全部のみ込もうと思っている」とまで述べた。露骨なまでの小沢外しだ。


さらに党内では右派を中心に共産党アレルギーも根強く、元外相・前原誠司は共闘について「あり得ない。逃げる票の方が多い」と全面否定。京都選挙区で共産党と戦ってきた前原は「共産党の本質はシロアリ」とテレビで発言、侵入を放置すれば屋台骨ががたがたになることを強調した。小沢・共産の野合路線がまさに空回りの図である。
 

いまや共産党賛美の小沢はこうした民主党内の空気にしびれを切らしたと見えて、23日夜には何と民主党抜きで野党4党党首の会合を主催した。この場で小沢は志位との対談で持ち出した消費増税凍結法案の今国会提出を提案、会合は民主党に持ちかけることで一致した。


既にこの小沢の凍結案は民主党に吸収される維新の党でも代表・松野頼久が党内で、野党共同で国会提出する方針を表明している。しかし民主党内は安倍の検討している消費増税延期の方針について、政調会長・細野豪志らが既に「財政規律を重視する立場を打ち出し、延期を批判した方が戦いは有利」とする立場から「先延ばしするのであれば、安倍政権そのものが退陣するのが筋ではないか」と反対論を展開している。


幹事長・枝野幸男も慎重論であり、松野が復党して主張しても受け入れられる雰囲気にはない。早くも合流を前にして政策のずれが表面化する兆しを示している。
 

また安保法破棄を旗印とする路線が国民の共感を呼ぶかどうかも疑問だ。なぜなら安保法の正しさは北朝鮮の何をするか分からないトップの動向が日々立証しているからだ。狂ったようにミサイルを撃ち続ける姿を目の辺りにして国民は安保法がなかった場合の日本の姿に思いをいたさざるを得ないだろう。


簡単に言えば米国に向かうミサイルを無視したら、日本に向かうミサイルを米国が打ち落とさない可能性があったのだ。この緊迫した極東情勢下で、共産、民主に扇動された“安保天降り病”患者がまだ日本にいる方が奇跡だ。政局の焦点である消費税延期をめぐる思惑の相違も、野党の選挙共闘の柱となる政策が成り立たなくなる恐れがある。


加えてダブル選挙となった場合、野党は数々の選挙区で衆参のまた裂き状態に置かれることになる。一方で協力し一方で反目する混乱だ。政策で混乱した揚げ句のまた裂きでは、野党統一の選挙戦略そのものが根本的な打撃を受けかねない状態でもある。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月23日

◆サミット終了会見で「増税延期」表明か

杉浦 正章



反対論の公明はしょせん“転ぶ”
 

政界も財界も市場も消費増税先送り・衆参同日選挙をすべての前提として走り出した。この流れを止められるのは首相・安倍晋三一人だけだが、本人は「今年は大切な年になる。あえて申し上げないが皆様大体想像つくのではないか」と思わせぶり発言で、逆にあおっている。


自民党内各派は既に資金調達パーティーで同日選に向けた選挙資金調達に躍起になっている。各政治家たちも資金は会期末には底をつき、早く解散をの声は悲鳴に近くなる。安倍はサミット後に決断をするとしているが、国際経済情勢の流れは増税になく財政刺激策にある。

筋書きは、議長国として最終日5月27日の記者会見に日本としても増税延期と財政で国際経済好転に貢献すると表明、解散断行を最終的に表明することになりそうだ。これが筋書きだろう。
 

新年早々の原稿で増税延期で麻生太郎と財務省幹部の首を切らざるを得なくなる可能性を指摘したが、麻生が18日閣議後の記者会見で見せた醜態が財務省と首相官邸の確執を物語る。


何と麻生は消費税先送りと衆参同日選挙で紙面を全面展開した読売新聞の記者に向かって「お前、勝手に自分の話を作るな。いかにも政府が言っているような話に書き換えている。読売の得意とするところだけど、あんまり上品なやり方じゃないな。そろそろやめた方がいいぜ」と斜に構えて、まるで山口組幹部でも最近はしない口ぶりで脅しにかかったのだ。


学習院出身にしては余りの品位の無さにあっけにとられたが、読売は1面、2面、3面、4面、社説を使った全面展開をしており、明らかに社の全力を挙げた取材に基づく記事である。それをたかが財務省担当の一記者を「お前」呼ばわりしたうえに「やめたほうがいいぜ」はない。文句なるならナベツネに言うべきことだろう。麻生発言は言論出版妨害の最たるものである。
 

読売の記者も社への侮辱に黙って見過ごすことはなかった。「受け止めを」などとコメントを求めず、麻生発言の非を突くべきであったが、突然の攻撃に即対応することは難しいことも確かである。もっともこの発言はテレビカメラの前で行ったのであり、読売批判と同時に読売に情報を流した官邸への当てつけとも受け取れる。


それでは麻生は開き直った以上、延期になったら辞職覚悟で発言しているのだろうかと言えば、そうでもあるまい。財務省向けに俺は怒っていると言うポーズを見せたのでもあろう。事々左様に軽いのである。
 

こうして消費増税実施派は追い込まれて、逃げ場を失いつつある。テレビを見ても発言は筆者が新年以来指摘してきたことを、さも自分の意見であるかのように発言するコメンテーターばかりだ。目明き千人、めくら千人と言うが、いまではめくらは約1人だけとなった。


政局が苦手と見えるコメンテーターだが、その1人が「延期すればアベノミクスの失敗を認めることになる」と民進党と同様の発言をしている。冗談ではない。アベノミクスがなければ史上最高の企業利益や完全雇用は実現していなかった。大成功だ。その大成功を維持、発展させるために、世界中どの国もやったことがない民主党政権の負の遺産である消費税倍増などというとてつもなく馬鹿げた方針を遅らせようとしているだけなのだ。


あくまでアベノミクスを完成させ、デフレからの脱却を達成することにある。解散の大義はまずここにある。コメンテーターは「増税の収入を国民に給付金で全額返せば良い」などと荒唐無稽なことを言ったが、芸人の司会者から「それなら最初から上げない方がいい」と言われ失笑を買う始末。とにかく反対論には国際経済情勢の無知からか、国内政局ばかりを見ている発言が多い。
 

公明党がいい例だ。公明党代表・山口那津男は22日「不確定なことを軽々に言うべきではない」と真っ向から否定。さらに「政府・与党ともに、日本経済の基礎的条件はしっかりしているという認識を持っており、経済状況を理由に先送りするという判断には、今のところならない。


社会保障のさきざきを見据え、中長期的に安定的な財源を確保するという大局的な意義を見失ってはならない」と発言したが、これこそ国際情勢の大局を見誤っている最悪の事例だ。


国際経済はノーベル賞学者のスティグリッツが今年は最悪の去年より悪化すると述べている。またクルーグマンも22日の国際金融経済分析会合で、消費税をやるべきでないと主張、財政刺激の必用を強調した。これで会合の大勢はほぼ決した形だ。


山口は経済がデフレに戻れば、社会保障がもろに打撃を受ける危険を知らない。山口はせめてG20の共同声明くらい読んだらどうか。「機動的な財政政策を進めよ」と強調していることくらいは勉強すべきではないか。
 

筆者は公明党の反対はこれまで同様ぎりぎりで方向転換すると見ている。だいいち増税延期と連動する同日選挙に関しては支持母体の創価学会幹部の間から、「1回でやる方が2回やるより楽だ」という声が出ている。知らないのは山口だけだ。公明党は何より「自公政権命」なのであって、いくら超重要テーマでも連立解消を覚悟で最後まで押し通す度胸はあるまい。


こうして流れは決まりつつあるが、段取りとしては自民党議員の“勘”が大きく作用する。言い換えれば動物本能である。フツーの代議士なら「安倍はダブルに踏み切る」と判断して全力疾走するのであり、この潮流は誰も止められない。愚かな代議士だけが「選挙はない」などと言い続けて落選するのだ。


幹事長・谷垣禎一は増税延期を否定しているが愚かではなく過熱を冷やしているだけだ。官邸が「最終判断をサミット後にする」としているが、これには訳がある。サミットを俯瞰すれば、G20の通り各国首脳が財政刺激策の必用で一致することになろう。これはとりもなおさず増税路線とは真逆の方向であり、日本は財政出動を約束することになる公算が大きい。


安倍は議長国としてまとめ役にならざるを得ず、日本1国だけ消費増税を断行するという選択肢はない。これが本稿冒頭のサミット終了記者会見での発言につながると予想される根拠なのだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年03月18日

◆核をもてあそべば北は自滅の道

杉浦 正章



金正恩は核戦略のイロハを知らない


オオカミ少年の寓話は子供の自滅だが、一国の指導者の自滅の話が面白い。昔、周の幽王(ゆうおう)が全く笑わない絶世の美女褒姒(ほうじ)を溺愛していたが、あるとき手違いで敵襲を知らせる狼煙(のろし)が上がってしまった。


すると空振りを食わされて慌てた諸侯の様子を見て褒姒が笑った。これに喜んだ幽王は度々嘘の狼煙を上げた。その後、実際に敵襲があったが誰も狼煙を信じる者がなく、幽王は褒姒ともども殺されてしまったというものだ。


まさに北朝鮮の核ミサイルをもてあそぶがごとき発言をくりかえす金正恩と、これに盲従する軍幹部の言動がこの運命を物語るかのようである。


北の狙いは“心理戦”であろうが、金正恩のヒトラーやスターリンに通ずる狂気の全体主義者的体質が、あり得ない話をあり得るものとしかねないところがまさにポイントなのだ。
 

たしかに北からは気違いじみた発言が続く。金がミサイルの大気圏突入実験に成功したと発表し「アメリカが我々の生存権を核で襲おうとするときは容赦無く核で先手を打つ」と核先制攻撃を明言。ついで国防委員会声明は「米本土を標的とする強力な核攻撃手段が常に発射待機状態にある」と威嚇する。


加えて人民軍参謀部声明に到っては「侵略者を射程圏内に入れた吾が軍隊は懲罰の発射ボタンを押す時刻だけを待っている」のだという。最新の大陸間弾道ミサイルKN08に核爆弾を登載して今にも発射するぞという、“やくざ国家”の脅しが続いている。専門家によるとこれを実行に移す場合は第一ターゲットが韓国大統領府。第二ターゲットが在日米軍基地とワシントンなのだそうだ。
 

こうした脅迫を裏付けるかのように、金は「核弾頭の爆破実験と様々な種類の弾道ミサイルの発射実験を断行する」と言明した。その時期がいつになるかだが、金日成や金正日と異なり金正恩のやることは、常々異常性がみられるが故に予測が極めて難しい。4月いっぱい続く米韓軍事演習の最中でもやりかねない気配がある。


現に10日午前、日本海に向けてスカッドミサイルとみられる短距離弾道ミサイル2発を発射している。3月31日からはワシントンで核サミットがあり、2014年の核サミットの際は直後にノドン2発を日本海に発射している。また2012年のソウル核サミットの際も、ミサイルを発射している。
 

しかし金の言う核弾頭の爆破と弾道ミサイルの発射実験については、専門家の大方の見方は5月上旬ではないかというものが多い。いくら金でも史上最大の米韓軍事演習の最中に実験をやって、米軍の攻撃に結びつくことは避けたいという“理性”が働くであろうというわけだ。


5月上旬である理由は、金が指導権確立を目指す36年ぶりの朝鮮労働党大会が上旬に予定されているといわれ、それに先だって行われる可能性が高いというのだ。
  

今度は金の言う核と弾頭の両方の実験となりかねない側面もあるようだ。金の狙いはかねてからの金王朝の理想がそうであったように、核弾頭登載の大陸間弾道ミサイルを入手することにより、米国に脅しをかけて韓国を放棄させ、朝鮮半島の統一を図るというところにある。しかし先祖はこの構図による統一など信じていないところがあったが、金はこれを信じ切っているところに危うさが存在するのだ。


しかし戦略核の使用について、これまで核大国が実行できなかった法則があることを金はまだ“学習”していないかのようである。それは核には核の報復があり自らも存在し得なくなるという単純明快な法則である。これが広島・長崎以来、どんなに情勢が緊迫しても核の使用がなかったことが物語る。金はイロハを知らないで騒いでいるのである。
 

考えてもみるが良い。北が核ミサイルを発射しかねないような緊迫した状況下において、発射台にミサイルが準備されれば確実に米国は核による先制攻撃を断行するだろう。移動式発射台の場合は発射をとらえ難い側面があるが、それでも発射されればミサイル防御網を突破しようがしまいが、北は核攻撃にさらされるのだ。


この場合中国もロシアも手を出すことをためらう可能性が高い。発射の場所を特定しにくければ北朝鮮全土に絨毯爆撃的な核攻撃が断行されるだろう。韓国大統領・朴槿恵が「北朝鮮が挑発を続ければ自滅の道をたどることになる」と述べているのはそういう事なのだ。だれか刈り上げ頭のドンにこの核戦略のイロハを教えてやって欲しいものだ。

【筆者より 21日が休日のため再開は23日です】

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月17日

◆米教授、首相の設定課題を次々クリア

杉浦 正章



増税“先送りカード”へ理論武装


民進党幹事長の枝野幸男が16日、「スティグリッツ氏から指摘されるまでもなく私も言っている」と得意げに発言しているが、カラスがライオンの吠え声を真似しても説得力は無い。首相でもないのに公明党の政調会長・石田祝稔が「今のところ予定を変える環境にない」と僭越にも発言しているが、これも超高度な経済判断が出来ないことを自ら露呈しているだけの話だ。


事々左様にノーベル経済学賞を受けた“権威”の発言というのは重いのだ。その重い発言をジョセフ・スティグリッツから引きだした首相・安倍晋三は、着々と消費増税“先送りカード”を切る準備に着手したかのようである。


そうでなければわざわざ「国際金融経済分析会合」などを設置する必要も無い。歴代首相と比較しても実に巧みな「政局運営」をするものである。急がば回れの政治手法なのである。
 

安倍の設定した消費増税再延期へのハードルが、次々に除去されたのが16日の会合だ。まず「リーマンショック並みの事態が起きない限り延期しない」は、スティグリッツが「2015年は08年の金融危機以降最悪の状況だったが、16年はさらに弱体化する」と述べた事によりクリアされた。


08年はリーマンショックのその年であり、現状は「リーマンショック並み」なのである。さらに安倍の条件「世界経済の大幅な収縮」についてはスティグリッツが「大低迷」と表現してクリアだ。


さらに重要なのは安倍が会合の冒頭で「伊勢志摩サミットでは世界経済情勢が最大のテーマになる。議長国として各国首脳と突っ込んだ議論を行い、世界経済の持続的な力強い成長に向けて明確なメッセージを発出したい」と発言した問題だ。


この「議長国の責任」は新たに設置したハードルだが、これもスティグリッツは「日本は非常に強い金融政策を実施して景気を刺激してきたが、それはもう限界に達しており、次に財政政策を取るということが重要だ。問題の根本的な原因の1つが総需要の不足であり、伊勢志摩サミットでは需要を刺激するような政策について各国で議論してほしい」と述べた。
 

これは財政出動の勧めであり、発言は2月に上海で開かれた主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議(G20)の共同声明に沿ったものといえる。同声明は「金融政策のみでは均衡ある成長につながらない。機動的に財政政策を実施するべきである」と強調している。


このスティグリッツ発言も、安倍にとっては、消費増税再延期を決断する後押しになるものに他ならない。消費税引き上げはまさにG20の声明に逆行するものになるからだ。サミット議長国としては世界経済の潮流を無視することはできまい。
 

スティグリッツは「現在のタイミングで消費税率を引き上げるのは間違った方向になる。世界経済がこんなに弱くなることを予想できていた人はおらず、経済情勢が変わったなら、政策もその変化に対応していかなければならない」と言明したが、これも安倍にとっては我が意を得たりの発言に違いない。


安倍は「景気が失速したら元も子もなくなる。日本を含めて世界の需要を作って行くことが重要だ」と応じている。毒づき枝野が増税再延期を「自らの経済運営の大失敗だと認めること」と批判しているが、民進党幹部は世界情勢の変化を度外視して、自ら想定すらしていなかったデフレからの脱却を安倍が成し遂げつつあることを、無視してはいけない。


誰も想定外の経済情勢なのであり、民主党政権でデフレ脱却、企業の史上最高の利益、事実上の完全雇用を実現出来たかということだ。野党は派遣と正社員の格差を突くが、派遣すら雇用できなかった自らのふがいなさを恥じるのが先決だろう。
 

こうして筆者が新年早々予言した政局展開、つまり増税再延期と衆参同日選挙に向けて安倍が着々と布石を打っている形が濃霧の中から浮き出るようになってきた。もちろん分析会合には慎重論も出ることが予想されるが、22日にはスティグリッツと同様にノーベル経済学賞受賞者で14年の消費増税延期決断に決定的な役割を演じたポール・クルーグマンが延期論を展開することになろう。


これで分析会合の流れは決まる。どこかの半可通記者が増税延期と同日選挙を「憶測」と書き立てているが、臆測とは「物事をいいかげんに推し量ること」であり、今の政治状況で使う用語ではない。教えてやれば少なくとも「観測」であろう。朝日も読売も産経も用語に注意する新聞は「観測」としている。


         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家) 

2016年03月11日

◆エネルギー政策を崩す「暴走裁判官」は左遷せよ

杉浦 正章



最高裁は司法の内部分裂を引き締めよ
 

下級審が常軌を逸した判断で原発の運転を差し止め、別の裁判官や上級審でこれを正常軌道に戻す。まさに原発稼働をめぐって司法が割れるという醜態を示している。やっと動き始めた3号機は10日夜全面停止した。


今回の大津地裁の停止命令は、稼働中の原発をストップさせるものであり、悪質極まりない。原子力規制委員会による世界最高水準の厳しい基準をクリアして、やっと稼働し始めた原発を、科学的知見ゼロの法匪の如き裁判長がストップさせる。


国家のエネルギー政策の根本概念のみならず、原発事故以来二酸化炭素を排出し続けて来た環境問題までも無視する決定だ。


大津地裁裁判長・山本善彦による独善的な暴走判断といわざるを得まい。これは司法の暴力に他ならない。人事権を握る最高裁は恐らく山本を左遷させるであろうが、はじめから原発問題を抱える地域への人事を慎重に行えば済むことである。
 

メディアの報道ぶりを分析すれば、判決大歓迎の朝日、毎日と極めて批判的な読売、産経にくっきり2分された。


とりわけ昔から放射能アレルギーとも言うべき朝日は鬼の首を取ったような紙面展開をしている。我が意を得たりの気持ちは分かるが、この仮処分決定はまず100%覆される。朝日が喜ぶ決定は必ず、否定されるのが運命なのだ。


古くは四国電力伊方原発訴訟で原告側を全面支持した朝日の主張は1992年の最高裁判決で完膚なきまでに否定された。判決は以後の原発裁判を左右する重要なもので、その内容は「原発問題は高度で最新の科学的、技術的な知見や、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」としている。


高度な専門性が求められる原発の安全性の判断は政府に任せて、科学的知見のない司法がかかわりすぎるべきではないとしているのだ。全国で起きている原発訴訟で、大半の地裁はこの判例に基づいた決定を下している。


山本の決定もこの最高裁判例に言及はしているものの。出した結論は「停止命令」で真逆だ。最高裁判決を事実上無視している。とりわけ噴飯物なのは決定の核心部分で「関電は説明責任を果たしていない」と断定していることだ。


愚かにも規制委の対応を根本から見誤っている。規制委は2年3か月もかけて関電が出した10万ページにもわたる申請書を詳細に検討して、ゴーのサインを出したものである。これを山本はたった4回の審尋で結論に到っているが、逆に「審査責任」を果たしているのかということになる。あまりにも軽い判断なのである。
 

全く同じ例は福井地裁が出している。福井地裁裁判長・樋口英明によるものだ。樋口は高浜3,4号機の「運転再開差し止め」を命じており、これが原因で4月1日付で名古屋家庭裁判所に左遷された。しかし継続審理のため職務代行が認められて再び「再稼働など認めぬ」という決定を下したのだ。


まるで今回同様に最高裁の判例に楯突くような決定である。その8か月後に裁判長・林潤が決定を取り消した。 


今回の大津の決定で地裁が原発稼働を差し止めたのは3回になり、そのうち2回は樋口が行った。この例から見て「原発停止」判断は多分に裁判長個人の特異な性格が反映されたものという見方が成り立つ。地裁の判事のレベルの低さ、大局観の無さをまさに露呈したものとなった。


最高裁は過去にもこうした判事を左遷してきている。最も良い例が自衛隊の合憲性が問われた長沼ナイキ訴訟だ。一審の札幌地裁は初の違憲判決で処分を取り消したが、札幌高裁は一審判決を破棄、最高裁も上告を棄却した。この事件の裁判を担当していた地裁の裁判官は最高裁事務総局によって他県の家庭裁判所へ左遷されている。


判決が上級裁判所の意向にそぐわなければ裁判官本人も高確率で下位の勤務地へ左遷されるのが通例だ。家裁への転勤が司法の場では左遷の相場になるのだ。
 

一見権威の象徴のような司法もどろどろとした、人事をめぐる確執があるのだ。したがって山本善彦も左遷必至であろう。


問題は61歳の山本が65歳の定年を前にして、なぜ暴発したかだが、「売名」を指摘する専門家もいる。つまり弁護士に転職した場合名前が知れていることは極めて重要であるからだが、こればかりは本人に聞いてみないと分かるまい。


思うに最高裁は、司法の醜態をさらけ出す前に、エキセントリックな裁判官を原発のある県や隣接県に赴任させないことが重要だろう。


国の政治の根幹を阻害するような判決が次々に出されるようでは、司法による行政の妨害だけが目立つことになる。これでは3権分立が危うくなり、ひいては民主主義の根幹を脅かす事態へと発展しかねない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月10日

◆朝鮮半島に火薬のにおいが充満

杉浦 正章



一触即発のまま推移している
 

朝鮮王朝の統治理念として用いられた儒教の学問体系・朱子学について司馬遼太郎が的確な指摘をしている。「朱子学というのは大義名分を論じ始めると、カミソリのような薄刃を研ぎにといで、自傷症のように自らを傷つけ、 他を傷つけたりもするイデオロギーだ」というのだ。


最近の北朝鮮の“舌戦”とその“口撃”ぶりを見ていると、まさにまず論戦で勝つという儒教の影響を受けた朝鮮民族の特性を見事に言い当てていることが分かる。労働新聞が韓国大統領・朴槿恵を「老いぼれの気の狂った雌犬」。オバマを「戦争怪獣」と表現するといった具合だ。

しかし、事が「核兵器の先制攻撃」に及んでは、ただならぬ様相としか言いようがない。中国外相・王毅が「朝鮮半島に一触即発で火薬のにおいが充満している」と述べる状態なのだ。


折から米韓両軍はオーストラリアやニュージランドも交えて史上最大の軍事演習を韓国で展開している。展開していると言ってもその大半は場所すら公表せずに実施しているのだ。演習の内容は@南北が戦争に突入した場合を想定したものA北朝鮮の崩壊を想定したものB核基地を先制攻撃して無力化するものC斬首作戦に分けられる。


斬首作戦とは言うまでもなく金正恩の首をはねるという物騒なものであり、米韓両軍の特殊部隊が金王朝の建造物の建物まで想定して、実戦さながらの演習をしている。ビンラディンを殺害した米海軍の特殊部隊Navy SEALsが、今度は独裁者・金正恩の寝首をかく演習をしているのだ。それも作戦開始から30分で殺害する作戦だという。明らかに金の気弱な性格を見抜いた上での心理作戦である。
 

これを伝え聞いた金正恩が、震え上がったのか、天才バカボンの拳銃を発射しまくる巡査のごとくわめき始めた。9日には「核弾頭を軽量化し、弾道ロケットに適した標準化、規格化を実現した」と発言した。


また「国家防衛のために実戦配備した核弾頭を任意の瞬間に発射できるよう常に準備しなければならない」と核ミサイル配備を公言。さらには「核弾頭をいつでも発射出来るよう準備する。軍事対応を先制攻撃的な方式にすべて転換する」と、何と核兵器による先制攻撃にまでけん制が及んだのだ。米ソ冷戦時にも見られない発言だが、このような発言は相手国の核先制攻撃を招くから、普通の国はしないが、ど素人が指導者の国はする。
 

これが儒教の“口撃”にとどまるのか、本気なのかは誰も分からない。ただ北に狂気の指導者がいて、「やるぞやるぞ」と危険極まりない発言を繰り返していることは事実だ。普段なら見過ごすが、4月いっぱい続く「史上最大の演習」の最中である。


恐ろしいのは金の発言に対して米国務省報道官・カービーが「これらの威嚇を真剣に受け止めている」と反応していることだ。これを平たい言葉に言い換えるなら、「やるならやってやるぞ」ということになる。だから一触即発なのだ。


もっとも米国は国防総省報道官・クックが「北朝鮮が核弾頭を小型化するのを見たことがない」と発言しているが、これは甘いかも知れない。もちろん米大陸に届く大陸間弾道弾に関しては、再突入技術を獲得するに到っていないから米国へのミサイル攻撃はまだ無理だ。しかし、韓国や日本に届く中距離ミサイル・ノドンなどに登載不可能かと言えば必ずしもそうではあるまい。
 

北の核開発期間は、2006年の最初の実験以来10年間あり、相当進んでいるとみられる。低開発国の核兵器開発も、中国の開発の歴史を見れば小型化は一定期間あれば可能であると見るべきだろう。核搭載のノドンはソウルはもちろん釜山に到るまで、また東京や大阪にまで到達は可能である。


金の得意用語「火の海にしてやる」事が可能となるのだ。したがって、米国はノドンによる攻撃準備が整ったと判断すれば、核基地への先制攻撃も辞さないだろう。そういう事態に陥っているのが実体なのだ。核の傘があることを明示しなければ、韓国のみならず日本まで核武装しかねないからだ。
 

とりわけ金正恩は5月に36年ぶりとなる朝鮮労働党の党大会を控えており、米国に屈しない姿勢を大会前に示しておく必用に駆られる危険がある。


ここで重要になるのは中国の態度である。王毅は「中国は隣国として朝鮮半島の安定が根本的に破壊され、中国の安全や利益が理由もなく損なわれるのを座視しない」と発言した。「座視しない」とは第2次朝鮮戦争があり得るということになる。


中国は義勇兵を繰り出して米軍を釜山まで追い詰めた。一時は釜山陥落も危惧される情勢となり、韓国政府は日本の山口県に6万人規模の人員を収用できる亡命政府を建設しようとし、日本側に準備要請を行っているほどだ。


しかし、習近平が嫌いに嫌っている金正恩が核を使用するのを食い止める米軍の先制攻撃は、まさに国際正義の遂行であり、「座視しない」と言い切れるかだ。米中が事実上結託して金正恩を暗殺する事態となれば別だ。その場合金体制は倒しても、労働党政権は維持することを密約しなければ、中国は乗らないだろう。38度線死守は中国の極東戦略の要でもあるからだ。


いずれにしても瀬戸際路線を突っ走る金正恩が、“口撃”から踏み出すかどうかをかたずをのんで見守るしかあるまい。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月09日

◆スティグリッツの「再延期論」が増税派直撃か

杉浦 正章



自民・官邸に発言への期待論高まる
 

消費増税反対派経済学者の招致はまさか推進派の根城、財務省が進める訳がないし、だれの指名かと思っていたが、やはり首相・安倍晋三本人の指名であったらしい。


事実上増税延期かどうかに決定的な影響をもたらす16日からの国際経済分析会合にノーベル経済学賞受賞者で米コロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツを招くのは、極めて政治的な意味合いが深い。


スティグリッツは従来からアベノミクスの支持者であり消費増税に真っ向から反対している。超大物経済学者を同会合冒頭に呼ぶのは、その後の論議への波及効果が大きい。まるで財務省の代弁者であるかのような東大経済学派を黙らせることが出来る。自民党内にも発言への期待が生じている。「消費増税再延期・衆参同日選挙」への弾みとなる公算も出てきた。
 

興味深いのは14年11月の10%消費増税延期の際と同じコースをたどっていることだ。同年11月6日に安倍はやはり延期論を唱える米プリンストン大教授・ポール・クルーグマンと会談している。


この席でクルーグマンは「アベノミクスを支持する。しかし今度の消費税引き上げは慎重にいくべきだ。そうしなければ景気が腰折れしてしまう。となればデフレから脱却できず、経済再生、財政再建もおぼつかない」と安倍に延期を勧めている。


安倍は熱心に耳を傾けており、事実上この発言が決定的な役割を果たしたといわれている。45人の有識者から意見を聞く点検会合も開かれていたが、同会合は過半数が賛成論だったにもかかわらず、安倍はこれを無視してクルーグマンの主張を受け入れたのだ。
 

今回の会合でスティグリッツがどう発言するかが極めて注目されるところだ。その内容は朝日の13年のインタビューからうかがえる。まずアベノミクスについては「3本の矢、すなわち大胆な金融緩和と財政出動、成長戦略を組みあわせた包括的な政策は、日本経済を立ち直らせる正しい取り組みだと思う。欧米が学ぶべきものだ」と賞賛している。


さらに巨額の財政赤字と財政の引き締めとの関連については「経済を成長させてこそ、国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率を下げることができる。財政再建を優先し経済成長を犠牲にするやり方では、財政赤字を減らせない。歳出削減と増税を急ぐ緊縮財政は、つねに失敗してきた。弱含みの経済を悪化させ、税収を減らす」と強調している。
 

まさに今年に入ってからの経済状況をも言い表しており、官邸や自民党に多い増税再延期論と軌を一にしている。そして消費増税については「だい一になすべきことは成長を回復することであり、増税はそれから考えることだ」と述べている。


かつてクルーグマンは「私としては『インフレ率が2%程度に達してから引き上げる』といった条件付きの延期の方が望ましいと考える」と述べているが、スティグリッツはこれとほぼ同様の考えのようである。自民党幹部の1人は「スティグリッツがこの時期に登場してくれることは有り難い。スティグリッツ様さまだ」と漏らしている。
 

第2回会合は17日、米ハーバード大教授デール・ジョルゲンソン、元日銀副総裁の岩田一政から意見を聞く。


ジョルゲンソンの発言は資料が乏しいが、かつては「消費税の役割を大きくしていくことも必要になるだろう」と増税に前向きな姿勢を表明している。しかし株安と消費が冷え込む現段階でも「必用」と言うかどうかは、疑問がある。岩田は増税1%論だ。1%ずつ2回に分けて行えば良いとしている。
 

恐らく今回も賛否両論が出されるだろうが、先に指摘したように5月26日からの伊勢志摩サミットは、世界経済の現状を色濃く反映したものとなるだろう。


サミットで重要なのは、10年間国際経済をリードした中国、ブラジルなどの新興国に代わって再びG7がいかに世界経済リードの手綱を握るかにある。議長である安倍の責任は重大であり、日本は8%への引き上げで生じた経済不振からの脱却を明示しなければなるまい。


G7が協調して実体経済の底上げとマーケットの安定化を図る方向を打ち出す必要がある。議長国としてはまるで「アベノミクスの断念」「デフレ回帰」となるような消費増税は再延期するしか方策がないのではないかと思われる。
 

安倍は「世界経済の大幅な収縮が起こっているかどうかだが、専門的な見地から行われる分析も踏まえて、その時の政治判断で決める事柄だ」とこれまでの「リーマンショック並み」という再延期の条件に「専門的な見地」という“新条件”を加えている。


その専門家の発言の最たるものが「スティグリッツ発言」となる可能性は大きいのだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2016年03月08日

◆中国構造改革は丁半五分の賽の目ばくち

杉浦 正章



経済失速か構造改革達成か 
 
著名な投資家とはいえ、たかがハゲタカファンドのトップの発言に国家が総力で足掛け3か月にわたり反論を繰り返している。


ジョージ・ソロスの1月のダボス会議での「中国のハードランディング(底割れ)は不可避」「私は予想しているのではなく実際に目にしている」との発言が、中国国家主席・習近平以下中国首脳らを飛び上がらせた。


首相・李克強が自ら反論に出たのはもちろん、国営放送、新華社、新聞などをフル動員して対ソロス戦を展開。6日になっても経済政策を統括する国家発展改革委員会主任の徐紹史が「中国経済がハードランディングすることはあり得ない」と強調、「予言は必ず外れる。中国経済を合理的な範囲で運営する能力が我々にはある。中国が世界経済の足を引っ張ることもあり得ない」とかみついている。
 

中国首脳はおそらく英国イングランド銀行の悪夢の再来を感じ取ったに違いない。悪夢とは、ソロスが1992年にイングランド銀行に通貨戦争を仕掛け、同銀行は防戦しきれずに敗退したことである。


しかし、著名でいくら世界最大規模の投資家とは言え、その資金は300億ドル程度。中国の外貨準備高は15年に5000億ドル減少したもののまだ3兆ドルある。恐らく通貨戦争の経験に乏しい習近平ら中国首脳の“ナイーブ”さが、日本から見ると異常なまでの過剰反応を見せているということであろう。


無理もない、その背景には待ったなしの中国経済の落ち込みがある。全人代最大のテーマは経済失速か構造改革かという、共産党1党独裁体制の存続にまで及びかねない大勝負の推進にある。


中国政府はいよいよ構造改革の第一段として「ゾンビ企業」の淘汰(とうた)に乗り出す。習近平も昨年来明言しており、全人代はその具体化が焦点となっているのだ。李克強も「長年蓄積してきた矛盾とリスクが一段と顕在化し、経済の下押し圧力が増している」と危機的状況を認めている。


中国経済の足を引っ張っているのは、過剰な生産設備と大量の在庫、そして、実質的に破綻しているものの地方政府の補助金などで生き延びてきた“ゾンビ企業”である。この淘汰(とうた)に手をつけるのだが、鉄鋼、石炭、ガラス、セメント、アルミニウムの5業種が「ゾンビ企業」の代表格。当初は主に炭鉱と鉄鋼が焦点となる。


中国政府はとっかかりとして石炭・鉄鋼セクターで180万人をレイオフすると明らかにしたが、全体では最終的に600万人が2年以内に失業する可能性が強いとみられている。問題はこの世紀の大リストラがうまくいくかどうかだ。


出稼ぎ労働者の失業と異なり、炭鉱や鉄鋼の労働者が組織的に全国で反乱を起こせば、政権を直撃しかねない事態となる。これを回避するために政府は産業界のリストラに伴う労働移動のための費用として2年間で1000億元(2兆円)を割り当てる方針を明示した。まさに政府挙げての失業対策であるが、体制への不満が噴出しかねない要素もある。鬼が出るか蛇が出るかは予断を許さない。
 

一方で構造改革では全国で約100社ある石油、電力、航空など大型国営企業にもメスを入れる。企業の合併や買収のM&Aを展開するのに加えて、株式会社化するなどして40社程度に絞って利益を出す。スケールメリットを狙っている。


市場メカニズムに任せる問題を、国家が強権的に一種の国家資本主義的な独占体制を築く。しかしこれも多分に恣意的に決めるため、存続する企業とそうでない企業が出て、政権への反発が生じ得る要素でもある。早くも存続のために賄賂が飛び交うといううわさが生じている。
 

さらに加えて中国政府は貧困にあえぐ農民を中間層にして、消費の拡大を図るために全国で130か所にわたる「新型都市」の建設に着手した。農村部を無理矢理都市化して、農民を移住させて別の職業に就かせ消費層を拡大するのだ。


しかし農民を都市労働者にする構造改革は容易ではあるまい。農民は土地への愛着が強く、また転職しにくい職種でもある。社会不安に通ずる可能性も否定出来ない。ただでさえ中国も人口減の時代に入った。過疎化を過度に推進すれば食糧危機が生ずる可能性も否定出来ない。これも大きな不安定要素となり得る問題である。
 

こうして多くの政権直撃材料を抱えながらの構造改革だが、習近平体制が、本気でやりきれるかどうかは疑問がある。李克強は「この関門さえ突破すれば、中国経済は必ずや不死鳥のごとくよみがえり、再び光り輝くことができる」と意気軒昂な発言で強気だ。


しかしソロスの予想通りに人民元は下落基調にある。外国の資金は、海外に逆流している。国内総生産も6.5〜7%と幅を持たせた強気の目標を設定したが、目標割れを回避するための苦肉の策という意味合いが強い。アナリストの分析では「実体は4〜5%がよいところ」というのが見通しだ。


こうした状況から見て、構造改革は、のたうつドラゴンが打ち出した起死回生の策と言えるが、その結果は丁とでるか半と出るか賽の目ばくちに似た様相を呈している。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月04日

◆中国に制裁の実効性を求めても無駄

杉浦 正章



安保理決議で浮き上がる“抜け穴”


 厳しい国際情勢に対して国連に何が出来るかという疑問は1970年代前半にニューヨークで国連を担当して以来持ち続けているが、今も変わらない。北朝鮮に対する今回の国連決議も、はっきり言って米中妥協の産物であり、抜け道が多すぎて実効性を疑う。


オバマはレームダックという足元を見られて、「石油禁輸」など重要ポイントで主張を貫けなかった。北朝鮮が過去においてこの種の決議に屈したことはなく、例え米国連大使が主張するように今回の決議が過去と比較して最も厳しいものであっても、屈することはないだろう。


逆に核実験やミサイル実験などを継続して、“気勢”を上げるだろう。7日からの米韓軍事演習に際して、中距離ミサイルなどを打ち上げる可能性が高い。したがって金正恩の核とミサイル実験の暴走を止めることは出来ない。
 

決議内容を見ただけで米中折衝で何が焦点であったかなどは手に取るように見える。決議の新たな部分は@北朝鮮への航空燃料輸出禁止A北朝鮮からのチタン、レアアースなど輸入禁止B石炭、鉄鋼石の輸入制限などである。また従来の分野の制裁も強化され、港や空港などでの北朝鮮貨物の検査をこれまでは「疑いのあるものだけ」だったのが今後は「全てに義務づける」ことになった。


学者は「決定という言葉をかってなく多用しており、これに加盟国が従わなければ国連憲章違反になる」などと馬鹿な指摘をしているが、「決定」であろうとなかろうと現実の国際外交は別次元で動く。国連憲章違反など中国もロシアも意に介するわけがない。事実上、実効性のすべてのカギを握るのが中国である。その中国は過去の制裁と同様に「抜け穴」作りに懸命であった。
 

中国は日本や韓国は相手にせず事実上米国とのみ交渉した。そしてまず米国が主張した石油取引の禁止を一蹴した。ついで米中折衝は北の輸出の50%を占める鉱物資源の輸出をめぐって激しいやりとりがあったようだ。米国は全面輸出禁止を主張したが、中国は「北の暴発を招く」としてこれに応じなかった。この結果鉱物資源については、端的に言えば中国の“裁量”に委ねられることになった。


民生目的なら許可し、核・ミサイルの製造に利益をもたらす輸出なら禁止することになった。国連独特のワーディングによる妥協である。誰でも感ずることだが、一体どのようにして中国は鉱物の「輸出」が民生目的であるか、核・ミサイル製造目的であるかを識別するのだろうか。


これは極めて恣意的に判断出来ることであり、金正恩が中国の言うことを聞かなければ「核・ミサイル製造」となり、言うことを聞けば「民生」とすることも可能だ。米国連大使は「この20年間で最も強力」と自分の手柄のような発言をしているが、その実体はこの点一つをとっても中国に手玉に取られた形だ。
 

北朝鮮貨物の「全面検査」にしてみても、これは“手心”を加えることの出来ることの最たるものである。北朝鮮の貿易は90%が対中貿易であり、一方貨物検査は中国の主権に属する問題である。たしかに国境の鴨緑江は丹東から北に到る丹東大橋が物流の中心となっており、たもとには双方の税関があるが、中国の税関は中央政府の言いなりで動くのは常識である。


最初のうちは衛星監視への“ジェスチャー”で、貨物トラックを渋滞させても、月日がたつうちにゆるゆるになるのは火を見るよりも明らかだ。おまけに既に完成して北側の税関整備を待つ新丹東大橋は、片道2車線なので中朝貿易も渋滞なくどんどん活発化する方向だ。
 

航空貨物の検査といっても北唯一の国営航空会社・高麗航空の就航先は中国とロシアだけであり、その2国が制裁に消極的であったことからすれば、チェックをしても最初のうちだけという構図がすぐに見えてくる。貨物船も中朝間の往来がほとんどである。


したがって、例え日米韓が完全検査を行っても北が痛痒を感ずるような効果は出ないだろう。加えて北と中国は1300キロにわたる国境線があり、闇ルートでの物流がかなりあることは周知の事実だ。
 

要するにダダ漏れとまではいわないが、今回も過去と同様に抜け穴だらけの安保理決議なのである。また決議は中国にとって「使える」手段でもある。貨物検査にしても、鉱物の輸入にしても中国の“裁量”である以上、北の刈り上げ頭の独裁者をコントロールすることに使えるのである。


言うことを聞かなければ検査を厳しくすれば良い。したがって当面は厳しくするかも知れない。しかし従順になれば、手を緩めることができるのだ。他の国連加盟国の検査もアフリカなどは北との貿易の利益を考えて見て見ぬ振りをする可能性もある。
 

北は自らの存在が中国の極東戦略にとって必要不可欠であることをよく理解しており、中国が金王朝崩壊にまで導くことはないと確信している。北は中国にとって対米防波堤なのであって、北の政権が滅びれば、極東の勢力関係は一挙に中国が不利となる。習近平は金正恩を小憎らしい小僧と思っても、とことん追い込んで崩潰に導けば確実に自らの地位に跳ね返ってくることをよく理解している。


こうして独裁者・金正恩は日本だけでなく極東の安全、しいては米国の安全にとって危険性を増す一方となるのである。野党の「安保法案破棄」はこうした国際感覚が全くないことを物語っている。
 

今回の決議は確かにかってなく強いものであるが、日米韓にとっては、仮にも中国とロシアが安保理で一致した決議を軽んずれば、外交上の攻撃材料と、国際的批判へと主導する道筋を獲得したことにはなる。外交的なアドバンテージは日米韓が握ったことになる。


いずれにしても北の核・ミサイルの開発は安保理決議では解決出来ない。これを政治的、外交的解決への出発点と出来るかどうかは、日米韓の結束維持にかかっていることでもあろう。しかし6か国会議すら開催できないようでは、前途は厳しい。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月03日

◆安倍のボルテージが三段上がった

杉浦 正章
 


岡田、小沢が急きょ秘密会談
 

予算が年度内成立の流れとなって、首相・安倍晋三の発言のボルテージが「一段」どころか「三段」上がった。その際たるものが「憲法改正を在任中に成し遂げたい」と2日言い切ったことだ。


さらに「参院選は自公対民共の対決」と断定、保革決戦を表明した。半世紀以上現役政治記者をやっていれば選挙を前にした政治家の「闘志」を本能的にひしひしと感ずる感覚が身につくが、安倍から伝わるものは強すぎる。どうも参院選だけでは治まらないような勢いを感ずる。


本人は口が裂けてもまだ言う段階ではないが、衆参同日選狙いでなければ感じないような高揚感がある。野党幹部筋によると警戒感を強めた野党は、民主党代表・岡田克也と生活の党代表・小沢一郎が2日夜極秘裏に会談、ダブル選対策を練った。


この時期の政治家の発言は一字一句見逃してはならない。筆者だけが発信した安倍の「世界経済の大幅な収縮」発言を「消費増税先送りへの新条件」ととらえ、解散に結びつけた見方は、全紙が2日遅れで追いかけて政界に定着した。


政局への感性を持って分析すれば、2日の発言も怪しい。自民党内は同日選をにらんで党内各派のすべてが政治資金パーティーを予定しているが、その先頭を切った額賀派のパーティーで「7月に参院選がある。何としてでも勝利して、安定的な基盤のうえに政策を前に進める」と発言したのだ。


駆け出し記者は見逃すが、この「7月に参院選」と述べたのが怪しい。これまで7月とつけたことはなかったと思うからだ。参院選は6月でも8月でも可能だが7月と特定したことは、日程上通常国会会期末6月1日の解散があり得ることを意味する。


発言でミスしたことのない安倍はダブル選を考慮に入れていることなどおくびにも出さないが、注意深く観察すれば心中がぽろりと漏れて出ることがあるのだ。心の片隅にダブルの選択があるから出た言葉だ。
 

さらに怪しいのは冒頭に挙げた「在任中の改憲」発言だ。2018年9月までの任期中に改憲を成し遂げるには、参院でも改憲発議に3分の2が必用でありそれをどう達成するかだ。3分の2議席を達成するには自民、公明、おおさか維新などで78議席が必用だ。2013年には自公だけで76議席を獲得しているから通常ならまんざら不可能ではないが、今回は野党統一候補に共産党の「2万票」が付く。
 

おまけに今回の参院選は自民党の慢心に「お灸」が据えられかねない要素が山積している。政権選択に関わりない参院選では有権者が「お灸」の選択をする可能性があるのだ。したがって任期中に改憲をするには今回の参院選で極めて達成が困難な3分の2を達成しなければならない。


しかしそれが出来るかというと至難の業だ。だからダブルで野党共闘を粉砕してしまうことが必要になるのだ。任期中ということはそういう事を意味する。安倍は事務当局が用意した文書でなく、アドリブで「任期中」を挿入しており、これはダブルもあり得るという気持ちがなくてはなかなか出てこない言葉であろう。


閣僚の国会答弁でもこれまで慎重だった環境相・丸川珠代が被ばく線量1_・シーベルト発言で開き直るような姿勢に転じており、安倍の意向が働いている可能性が強い。要するに安倍は完全に「戦闘モード」に入ったのだ。
 

こうした中で野党は、かねてから行われるとささやかれていた「岡田小沢会談」が参院副議長・輿石東を交えて行われた。岡田は維新との合流にあたって生活などとも合流したい意向を表明している。会談で岡田と小沢は、安倍が同日選を狙っている可能性が高いとの見方で一致した。


小沢は共産党委員長・志位和夫と最近深いつながりを持つが、その共産党票をいかに野党統一候補に効果的に作用させるかが、具体的選挙区名をあげて話し合われたという。また野党選挙協力の効果が参院選単独ならともかく、安倍がダブルに打って出てきたら雲散霧消しかねない点についても話し合われた。


小沢は野党が事前に詳細な衆参で選挙協力の調整をしておけば、ダブルでもしのげる可能性があることを主張したと言われる。民主党内にアレルギー反応が強い小沢のカムバックについては、岡田が認めたのか、「申し訳ない」と断ったのかは、まだ不明である。
 

こうして予算成立がせきを切ったかのように、与野党対決のボルテージが上がりつつある。安倍が「自公対民共」の戦いと定義づけたのは、有権者に自公が極左との戦いに臨んでいるとのイメージをもたらすことを狙ったもので、実にうまい戦略だ。


安倍は年初来の金融市場の急変を受けて「国際金融経済分析会議」を開催すると表明したが、ここで専門家が「世界経済の大幅な収縮」を確認すれば、消費増税の見送りとダブルは確定的となる。


どこかのコメンテーターが「死んでもラッパを話しません」と言うがごとく「ダブルはない」とラッパを吹きまくっているが、主要紙の紙面はその逆で構成されてきた。朝日「同日選・改憲、にらむ首相」、読売消費「増税、先送りの兆候?…首相の発言に変化」、産経「永田町はダブル選に照準」、日経「消費増税先送りと衆参同日選」といった見出しが躍っている。


安倍の心中はまだ分からないが、潮流はナイヤガラ瀑布のようにとうとうとダブルへと向かっているかのようである。

      <今朝のニュース解説から抜粋>      (政治評論家)

2016年03月02日

◆本選挙ならクリントンが有利の傾向

杉浦 正章



トランプ、クリントンが勝利へ:スーパーチューズデー
 

米大統領選の行方を占う天王山とも言うべきスーパーチューズデーで大きな流れが見えてきた。共和党の指名争いは異端の・実業家ドナルド・トランプが圧勝の流れとなった。

一方民主党は前国務長官・クリントンが南部7州で全勝の勢い。この勢いで行くと両者が指名を獲得して11月8日の本選挙の決戦に臨む公算が強まっている。しかし、本選挙でどうなるかの世論調査ではヒラリー・クリントン有利の流れが生じており、米国民の理性が働く可能性が強い。
 

今回の大統領選挙を俯瞰すれば、既成の政治エリートに対して独自の思想を持つアウトサイダーとの戦いの潮流が強く出た。共和党はトランプがそれであり、民主党はクリントンに対抗する社会主義者バーニー・サンダースが部外者的な戦いで一定の成果をおさめている。

わずか1%の資産家が残りの米国民と同等の資産を有するという貧富の差への不満、米国社会の持つ構造的な歪みへの失望感、毎週のように発生する銃器による大量殺人などがアウトサイダー候補の原動力となっているかのようである。

とりわけトランプ支持の流れは、日本で言えば“一揆”や“打ち壊し”の側面を持っている。既成の政治秩序に対する米国民の不満が噴出しているのであろう。加えて共和党の既成の政治家にカリスマ的な人気を有する候補がいなく、共和党員は二重三重の失望感を味わってまるで破れかぶれのような投票行動に出ているのかもしれない。
 

それにしてもトランプ旋風はとどまるところを知らない。日本としてみれば「同盟国にも投票権をくれ」と悲鳴を上げたくなるのが、その主張である。まず絶望的なのは安全保障に関する感覚が全くないことである。シリア問題にしても「爆撃せよ」といったり「ロシアに任せよ」と言ったり、支離滅裂だ。


マルコ・ルビオは尖閣諸島の主権まで日本のものだと主張しているが、トランプは島の名すら知るまい。おまけに日米同盟は、微妙な安保観の違いを認め合う関係で成り立っているが、トランプが大統領になれば土足で座敷にずかずかと上がるような態度で登場し、「自衛隊を上海に上陸させよ」「北にミサイルを撃ち込め」などと言いかねない。
 

最大の危惧は世界最強の軍隊の指揮権をトランプが握るだけでなく、核のボタンを彼が押すことが可能となることだ。要するに何をするか分からない男が大統領になることへの不安は日本だけでなく、同じ同盟国のNATO諸国も同様であろう。


北京もモスクワも恐らく今回ほどかたずをのんで選挙の行方を見守るケースはないだろう。生涯に3回結婚し、4回倒産しており、ルビオが「希代の詐欺師」と呼ぶような男がこともあろうに米国の大統領になるのはまさに悪夢である。

しかし最大のポイントであるテキサス州では、テッド・クルーズの地元であるにもかかわらず肉薄しており、ここでトランプが勝てばもちろん、たとえ互角の勝負でも共和党の候補選びはゲームオーバーになるのだろう。


一方クリントンは夫のビル・クリントンが「最初の黒人大統領」と言われたくらいに、黒人層への浸透が深く、南部での戦いを有利に進めている。南部7州で全勝する可能性が出てきている。


遊びで出馬したとは言わないが、軽い気持ちで出馬したサンダースは学生層や貧困層の支持が高く、資金も豊富で善戦している。全く予想外の健闘であるが、地元のバーモント州では圧勝、ミネソタ、マサチューセッツ両州で接戦が予想されるものの、ここに来てクリントンの巻き返しが激しく、全体ではクリントンの勢いを止められないだろう。


問題は、クリントン対トランプの一騎打ちの本選挙になった場合、どっちが大統領になるかだが、恐らく米国人は「トランプ催眠術」からはっと我に立ち返るのではないか。早くもその流れが世論調査に現れてきている。

CNNテレビは1日、本選ではトランプが不利となるとの世論調査結果を発表した。クリントンに投票するとの回答は52%、トランプに投票するとの回答は44%だった。

一方、共和党の指名候補がルビオ上院議員やクルーズ上院議員になった場合は、クリントンが僅差で敗北するとの結果だ。共和党員が冷静ならトランプは選ばないだろうが、もうどうにも止まらない様相が強まっている。クリントンにしてみれば、トランプが出てくれば一番戦いやすい相手であろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)