2016年05月13日

◆げ切れるか「東京一せこい男」舛添

杉浦 正章



“屁理屈大王”のあきれた「血税」感覚
 

舛添要一をどう表現しようかと思ったが、一言で切る言葉が見当たらない。昔米国が1991年に湾岸戦争に踏み切るかどうかの時に、ある会合で「踏み切らない」と断言していた。筆者は「1月17日にやる」と主張したが「絶対にない」と言い切った。


しかし、1月17日に踏み切ったときには、何と「私が言っていた通りでしょうが」と発言、出席者をあ然とさせた。これから言うと「小ざかしい」が適当だが、まだしっくりいかない。


そうこうしているうちに今朝13日付の朝日に「東京一せこい男」と言う表現を見つけた。これだと思った。川柳欄の<安いから回転ずしに行くのにな>に選者がつけた言葉だ。さすがに茶化しのプロは違う。一言で言い切っている。
 

確かにせこいのだ。「やりいか・140円」「甘えび・240円」クラスの湯河原の回転ずしの領収書が2件で約3万円というのも怪しい。とにかく舛添は何でも領収書だ。領収書さえあれば政治資金で落とすことが可能だから、金を払うときには必ずもらう。


ところが木更津のホテルにせよ、友人にせよ簡単に舛添に不利になる証言をしてしまう。ホテルは政治資金収支報告に書いた「会議費用」を否定し、「ご家族でみえました」と家族旅行を証言。友人は「舛添さんは鍼灸院やクリーニング店にも通っていました。クリーニング代を支払う際、どんなに少額でも領収書をきちんともらうケチな人でした」だそうだ。


友人に「ケチな人」と言われてはどうしようもないが、なぜだろうか。それは舛添特有の人望の無さにあるような気がする。人に好かれない性格なのである。だからかばう人がいない。
 

この「ケチな人」は朝日の「東京一せこい男」と通ずるものがあるが、そのせこさ加減が身を滅ぼしつつある。加えて東大出で頭がいいはずなのに、弁明がなっていない。頭の悪い慶応出の筆者でもすぐに論破できるものばかりだ。


まず筆者の川柳<香港のトップ驚く5千万>だ。舛添は「香港のトップが二流のビジネスホテルに泊まりますか?恥ずかしいでしょう」と述べたが、北京の息のかかったトップが、舛添のように5千万円も使った大名旅行をしていたらいっぺんに習近平から引きずり降ろされる。あの大名旅行でひんしゅくを買った石原慎太郎の平均より1000万円も多いとはあきれて物が言えない。


大体都庁は昔から伏魔殿と言われているが、取り巻きの官僚はごますりしかいないのだろうか。慎太郎の時もそうだったが「知事これは行き過ぎです。マスコミの批判を浴びますよ」と諫める者がいないのだろうか。むしろ知事に同行していい目に会いたいという側近ばかりが、ごますり競争をしているとしか思えない。湯水のように血税を使ってである。
 

さらなる「せこい発言」は、朝日川柳の<動く知事室もう閉鎖とか>だ。年間50週のうち48週の週末を湯河原の別荘に行く神経だ。しかも公用車を使ってである。舛添は「公用車は動く知事室」というが、東京大震災が発生したら「動けぬ知事室」になるのは火を見るより明らかだ。他の府県は知事の公舎を建造する際には橋が落下することまで考えて、橋を通らないで県庁に来られる路線に作るのが常識だ。


緊急事態にトップがいなければ、自治体は機能しない。それに週末には行事がある場合が多く、舛添はこれに一切出席しないと宣言しているに違いない。そうでなければ一年中週末を別荘で過ごせるわけがない。「会議があるからスイートに泊まった」というが、緊急の会議など自室の膝詰め会議で十分こなせる。下手な言い訳も休み休み言ってもらいたいがまだある。「湯河原の風呂は足が伸ばせる」というが、自宅の風呂を自費で改造すれば足くらいいくらでも伸ばせる。
 

あきれたのは「エコノミーに乗ったって飛行機代はかかる」だ。例えば成田からニューヨークまでの料金は JALの場合エコノミーで10万円、ファーストクラス145万円で15倍の差だ。まさに舛添は“屁理屈大王”の様相だが、致命的になりつつあるのが正月の家族旅行のツケを政治資金に回した問題だ。


2013年に23万円、14年に13万円の請求を会議費で政治資金処理している。舛添は「資料を精査して全体像が分かってから説明する。ミスと分かれば返金しないといけない」と早くも“ミス”で逃げようとしているが、これが成り立たないのは明白である。


なぜなら1回だけならまだ通るにしても、2回となれば「確信犯」的になるからだ。2回も続けて正月にミスするかと言うことだ。会議と言うが正月400人以上も集めて会議をするのか。そもそも「精査」と言うが、自分の手帳を見れば少なくとも「家族旅行」または「旅行」などとメモしてあるはずだ。精査など必要ない問題を問われているのだ。逆に会議と書いてあるならそれを示せば済むはずである。
 

おそらく、政治家の常のごとく政治資金収支報告の修正と返金で逃げ切ろうとしているのだろう。13日の記者会見が注目されるが、例え今回のケースで逃げ切っても、恐らく常習的に私的経費を政治資金に回していた可能性が高く、次々に出てくる可能性がある。単なる週刊誌の報道から、マスコミ挙げての報道に変化してきている。問われているのは弱者の血税で自らの地位が成り立っているという認識が決定的に欠けている点だ。


弱者への目線がこれほどない都知事も珍しい。

【次回は旅行のため18日よりとなります】

     <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2016年05月12日

◆原爆投下はトルーマンの「ダメ押し」

杉浦 正章



米国内には当初から批判が存在した
 

時事通信にはその前身であった国策通信社の同盟通信時代から伝わる秘話がある。原爆投下以前から事実上日本が降伏へと動いていた事実と背景が伝わっているのだ。


米国元軍人などの間では広島・長崎への原爆が多くの米軍兵士の命を救ったという意見が根強くあるが、投下した大統領・トルーマンの事後宣伝がいまだに利いているようにみえる。

これが大統領・オバマが広島で「謝罪するかどうか」の論議につながっている。さらには原爆投下が必用であったかどうかの議論にも今後つながって行くだろう。筆者は果たして原爆投下が必用であったかについては強い疑問を抱く一人である。投下しようがしまいが日本は息も絶え絶えの断末魔であり、降伏寸前であった。トルーマンはとどめを刺す「ダメ押し」のように原爆投下をしたとしか思えない。
 

まず事実関係を述べれば、「全日本軍の無条件降伏」を求めたポツダム宣言が発せられたのは1945年(昭和20年)7月26日だ。アメリカ合衆国大統領、イギリス首相、中華民国主席の名で宣言された。中国の現共産党政権は全くかかわっていない。


日本政府が受諾するかどうかは明白でないまま、広島への原爆は8月6日、長崎へは同9日に投下された。その結果、8月10日には、政府による「ポツダム宣言受諾」を同盟通信の対外放送で発信。このニュースは、ロイターやAPなどの海外通信社を通じて世界中に流され、戦勝国の国民は戦争終結の喜びに沸いたが、日本国民が知るのはその5日後の玉音放送による。

しかし、既に降伏への動きは45年2月のヤルタ会談の時期から始まっていた。その翌月には外相・重光葵が東京駐在のスウェーデン公使と会って、本国政府に和平の仲介を求めている。ポツダム宣言まで日本は6か月にもわたって、和平について打診していたのだ。また無駄であったが、日本は原爆投下の2週間前に、ソ連に対して和平の方針を明らかにしていた。


しめたとばかりにスターリンは北方領土占拠に出た。トルーマンも日本の外交電文を傍受して、和平への動きを承知していたと言うのが歴史の常識だ。


ポツダム宣言発表翌日の7月27日未明、政府は、直ちに閣議を開き、対応を協議した。その結果、拒否は危険でありなお様子を見ることにしようということになった。しかし時間稼ぎと軍部への配慮もあって、首相・鈴木貫太郎は「共同声明はカイロ会談の焼直しと思う。政府としては重大な価値あるものとは認めず黙殺し、断固戰爭完遂にまい進する」とコメントした。


当時同盟通信国際局長で後の時事通信社長・長谷川才次は、鈴木が黙殺という言葉と同時に、記者団から「宣言を受諾するのか」と聞かれて「ノーコメントだ」とも言ったと述べている。この「黙殺」発言は長谷川らにより「ignore it entirely(全面的に無視)」と翻訳され送信された。


この翻訳は正しかったが、これを見たロイターとAP通信は「reject(拒否)」と短絡して報道してしまった。こうして増幅気味で、かつ微妙なニュアンスが無視されたまま方針が伝わり原爆が投下されるに到ったのだ。
 

しかし、トルーマンが原爆投下を決定した背景は別のところにあるという見方が濃厚だ。投下しなくても日本の降伏は間近であったのにもかかわらず投下したのは、まず原爆開発のマンハッタン計画に当たって使用したアメリカ史上でも最高の19億ドルもの予算を、議会に事後承認させる必用があったことがあげられる。議会に「成果」を見せる必用があったのだ。


さらに戦後のソ連の台頭をにらんで核開発の予算を獲得するためにも実戦上の「効果」が必要だった事もある。もちろんスターリンに原爆保持のけん制をする必要もあった。深層心理には人種的偏見があったとする説もある。
 

このトルーマンの決断にはさすがに民主主義国家だけあって米国内部から批判が起こった。元大統領・フーバーはその回顧録の中で「トルーマン大統領が人道に反して、日本に対して、原爆を投下するように命じたことは、アメリカの政治家の質を、疑わせるものである。日本は繰り返し和平を求める意向を示していた。これはアメリカの歴史において、未曾有の残虐行為だった。アメリカ国民の良心を、永遠に責めるものである」と述べている。


また 後にアメリカの第34代大統領となった、連合軍最高司令官・ドワイト・アイゼンハワーは「日本の敗色が濃厚で、原爆の使用はまったく不必要だと信じていたし、もはや不可欠でなくなっていた兵器を使うことは、避けるべきだと考えた」と、回想している。


ホワイトハウスの報道官が10日、核廃絶に向けて「米国が特別な責任を負っている」と発言したのは、こうした時代背景の延長線上にあると解釈できる言葉と聞くべきであろう。
 

日米両国の記者はホワイトハウス詰めも官邸詰めもこうした史実を理解しないまま、「やれ謝罪だ」と騒いでいるが、浅薄だ。政治家は時にボディーランゲージを読む事が必用なのだ。オバマが慰霊碑に献花すること自体が謝罪なのである。加えて核廃絶の演説で、感極まって涙を流すことも考えられる。そうすればその涙の一滴が謝罪なのである。もちろん言葉などは必要ない。
 

ホワイトハウスは、オバマの広島訪問決定にあたって極めて慎重な態度を取った。とりわけ日本国民の反応を見極めるために、ジョン・V・ルース大使、次いでケネディ大使を「原爆の日」の平和記念式典に派遣して様子を見た。加えて最後に国務長官・ケリーに献花させた。いずれの大使からもケリーからも、日本国民からの反発が感じられないとの報告を得たのであろう。


ホワイトハウスは日本人の国民性をまだ理解していなかったのだろう。西欧も中東も半島も世界の民族はその多くが復讐のための戦争に血道を上げてきた。世界の歴史は報復の歴史だ。その尺度からすれば日本人も原爆の復讐を考えるのではないかと思うのは無理もない。


しかし日本は明治以来「復讐」の為の戦争はやっていない。加えて日本国民の感情の根底には「現状を受け入れる潔さ」とも言うべき「諦観」のDNA(遺伝子)があるのだ。これは度重なる地震や台風など大災害を経て培われたものであり、空襲も一種の大災害とうけ止める諦観である。諦観があっての上での大災害からの復興であり、戦争の荒廃からの復興であったのだ。諦観を経たうえで前向き姿勢を取る民族なのだ。


これが理解できないと「オバマを受け入れる潔さ」への解釈が困難だ。ホワイトハウスは勉強した方がいい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年05月11日

◆習近平の「同志」金への祝電の背後を探る

杉浦 正章


セピア色の戴冠式の次は軟化か
 

少なくとも北朝鮮が36年ぶりの労働党大会直前や最中に5回目の核実験をやっていたら中国国家主席・習近平の「金正恩労働党委員長」に対する祝電はなかったであろう。世界の指導者の誰もが相手にせず、プーチンですら祝電を送っていない「自作自演の戴冠式」である。


習近平はかねてから小憎らしいヤツと思っているに違いない金正恩を共産党用語の「同志」と呼んで褒めたたえた。その上で「党委員長に推戴されたとのうれしい知らせを聞いた。中国共産党中央委員会を代表して、そして私自身の名前であなたと朝鮮労働党中央委員会に熱烈な祝賀を送る」などと最大限の賛辞を送ったのだ。


これを単なる儀礼と受け取るか、裏に何かあると受け取るかは洞察力の差であり自由だが、筆者は何かあると思う。金正恩が地位を確立して、その生き残り戦略を核ミサイル一点張りから、対話局面に路線を転換する可能性があるという判断がなければこの祝電は送らない。むしろ祝電を送るに当たって当面核実験をしないことを条件にしたとすら思える。
 

金正恩の立場を推し量れば、1月以来の派手な水爆実験やミサイル打ち上げは、すべてが党大会での自らの地位確立を目指したものであったのだろう。その党大会たるや人事の刷新がないばかりか、外交内政上の政策の転換もなく、すべてが自らの求心力を高める「戴冠式」のために演出されたものであった。


そしてその演出内容は、自らを父親の金正日ではなく祖父の金日成との相似形をつくることにあった。北の歴史を見れば金日成時代とりわけ70年代までは、経済的にも軍事的にも韓国と同等であったが、94年の金日成死去で最高指導者になってからの金正日時代は国勢転落の時代であった。


一方韓国は1965年の日韓基本条約に基づき無償、有償、民間借款で合計8億ドルの賠償を得た。現在の物価換算で約1兆8000億円の資金を元に経済成長を遂げ、1人あたりの国民所得は北の20倍に達している。
 

金正恩は党大会でその父の時代でなく、栄光の祖父の時代への回帰を目指したのだ。声までだみ声を出して祖父との相似形作りに専念した。金日成のような背広を着て父の人民服とは一線を画した。要するに祖父のカリスマをフル活用して、とりわけ老齢の党幹部に「金日成の生まれ変わり」として、郷愁を生じさせ、神格化してあがめるよう仕向けたのだ。


それもあってか、まるで党大会はセピア色の写真を見ているような印象を与えるものであった。しかし祖父も太っていたが金正恩は病的に太りすぎである。中央日報が報じた韓国の専門家の分析によると金正恩は演説中、3秒に1回ずつ呼吸をしたという。一般成人男性の呼吸周期は4−6秒に1回であり、呼吸が短く荒い。「新年の辞」の演説では4秒に1回ずつ呼吸をしており、新年の辞に比べて呼吸が1秒縮まり、その荒さがさらに深刻だったという。肥満体が原因のようである。
 


こうしてまがりなりにもセピア色の写真に、はたきをかけて金日成の生まれ変わりとなった金正恩は、今後どのようなかじ取りをするのだろうか。


まずその心理状態を分析すれば、独裁者の常としていかに政権を長続きさせるかを考える。長続きさせるにはどうするかだが、普通ならようやく民生の安定を考える時だろう。そのためには通商を活発化させて、経済的な繁栄を達成する必要がある。


習近平の祝電はまさにこのタイミングを狙って、再び北朝鮮を中国の影響下に置き、政権を安定させ、自らの極東戦略の障害にならないようにしたいという思いが込められているような気がする。
 

そこで焦点となるのが米国の出方だが、気になる動きが生じている。


最近ソウルを訪れた国家情報局長官クラッパーは、米国が北朝鮮と平和協定交渉をする場合、韓国がどの程度譲歩できるかを韓国政府に打診したという。これは韓国内で、米国が現在の休戦協定を平和協定に切り替える為の方策を模索し始めたと受け止められている。


その背景には中国の影響がある。外相・王毅は2月のワシントン訪問で、「北朝鮮の非核化と平和協定議論を併行する案を模索しなければいけない」と述べ、米政府に活発な働きかけを行っている。北風作戦でなく太陽作戦で北の殻をこじ開けようというのである。クラッパーの訪韓は、その中国の主張に米国が動かされていることを物語っている。
 

この動きは韓国側の警戒心を呼び起こしており、中央日報は「平和協定または平和体制に関する議論は『パンドラの箱』になる可能性がある。一度始めれば在韓米軍撤収など我々が望まない事案が飛び出し、とんでもない議論に変質するリスクも大きい」と極めて否定的な論調である。


いずれにせよ、金正恩はその生き残りのために経済と民生の安定に向けて微妙なかじ取りをせざるを得ない情勢になりつつある。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年05月10日

◆日露会談を俯瞰すれば「中露分断」が浮き出る

杉浦正章


 
安倍外交の極東戦略が奏功
 

元外交官で評論家の三宅邦彦が首相・安倍晋三の、エネルギー開発、極東のインフラ整備など8項目の協力計画をプーチンに対する「餌(えさ)」とNHKでどぎつく表現した。筆者もそう書こうと思っていたところを言われてしまったので、多少失礼のないように「まき餌」と言い換えたい。


安倍がまいた「まき餌」にプーチンがどう食いつくかが今後の見所だ。報道機関によっては、「経済協力が『領土』に先行した」と誤判断しているところがあるが、これは会談の詳細を見ていない。安倍はぬかりなく条件をつけている。「プーチン大統領が訪日される時に成果を少しでも上げていきたい」と述べている。


8項目の具体化はプーチンの来日時であると言っているのだ。来日時はいまや領土問題で進展がある時と言うことになっており、経済支援の前提として領土問題での前進を要求しているのだ。


もう一つソチ会談での重要ポイントは中露戦略的パートナーシップ分断へのくさびに成功したことだ。プーチンが会談で、日露安保協力に期待を示した点にも目を向けるべきである。安倍が外交・安保、経済など様々な分野で協力を深める中で、領土問題での歩み寄りを模索することは、大局的には正しい判断だ。


この「まき餌」に対する、プーチンの心境を読み解くとすれば、ダボハゼのように食いつきたいところだろう。注意しなければならないのは「食い逃げ」の危険だ。やらずぶったくりが危惧(きぐ)されるのだ。石油価格の暴落と経済制裁で息も絶え絶えの大不況に見舞われているロシア経済にとって、安倍の提示した8項目は国民に希望の目を開かせる絶好のきっかけになり得る。


もちろん8項目はG7による制裁の範囲を逸脱していない。ロシア国営テレビの歓迎ぶりを見れば、安倍訪露に対するロシア政府の対応が如実に分かる。7日には番組トップで経済協力を詳細に報道、加えて何と「ロシアが国際的な隔離状態にないことは日本の首相に続いて、イタリア首相が6月に来ることでも分かる」と報じたのだ。


これはロシアがいかに世界的な孤立から離脱したがっているかということと、制裁がきついという“本音”を如実に物語るものだ。ロシア大統領府は安倍訪露を最大限“活用”しているのであって、北方領土の「ほ」の字も報道しなかったのは、クリミア併合でプーチンが獲得した80%の支持率を失いたくないからだ。ロシアTVの報道ぶりからはロシア大統領府の思惑が透けて見えるのだ。
 

こうしたロシアの対応は、せきを切ったような対日外交を展開する姿勢に現れてきている。6月からは次官級協議が開始され、9月にはウラジオストクで首脳会談、これがうまくいけば日本側は年内にもプーチンの来日を実現して領土問題の前進を図れる。議会も対日外交推進に傾斜している。プーチンに近い下院議長・ナルイシキンが6月に、上院議長・マトビエンコが10〜11月にそれぞれ日本を訪問する。かつてない活発な日露外交の幕が開くのだ。 
 

昨年の9月3日に北京で華々しく挙行された抗日戦争勝利70周年記念式典と軍事パレードにプーチンが参加して習近平とこれ見よがしの蜜月ぶりを誇示し、閣僚に北方領土での強硬発言を繰り返させた事とは打って変わる方針転換である。ロシア経済の停滞とその苦しさが方針を変えさせたのだ。


安倍が中露の反日戦略での一致を阻止し、逆に日露による外交・安保の緊密化を進めることに成功したことは大局的に見れば極東情勢に大きな影響をもたらすものである。北方領土も大切だが、今そこにある極東の危機への対応の方が切実で重要であることは言を待たない。
 

対中包囲網に懸命の米国はここに理解をするべきであり、安倍の中露へのくさびに感謝しこそすれ不満を抱くようなことではない。西欧諸国も、極東が安定すれば米国はその戦力をより多く欧州、中東に割けるのだ。安倍は先進国首脳会議でこの構図を説明して極東安保への理解を求めるべきであろう。安倍は北方領土と共に極東安保で一石二鳥を狙ったのである。


これに釣り込まれたのかプーチンが日露安保に言及した。中国が極東に多数の企業を進出させ、軍事面でも存在感を高めていることに、ロシア内部では警戒感が高まっている。外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)再開に向けて、実務者協議が近く開催されることになろう。
 

問題は安倍の言う北方領土への「新アプローチ」の内容だが、これこそ「群盲晋三をなでる」で正直言って本筋情報に欠ける。ただ様々な発言から洞察することは可能だ。


まず官房長官・菅義偉が9日「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結するという日本側の基本的立場に変わりはない」と述べている事からいえば、歯舞・色丹プラスアルファの国後・択捉分割論などは後退したのだろう。


過去に浮上した北方四島の「面積等分論」などはなくなった。プーチン政権は平和条約の締結後に歯舞、色丹の2島を引き渡すとした日ソ共同宣言(1956年)を軸に問題を解決する立場を変えていない。


こうした状況から隘路を見出せば、2島先行時間差返還構想が考えられる。元駐日大使アレクサンドル・パノフが7日付ロシア紙コメルサントや政府紙イズベスチヤにこれを書いている。元大使はコメルサントには「日本側には、平和条約締結後にロシアが歯舞と色丹を引き渡し、残りの2島は30〜50年など一定期間ロシアが管轄権を維持するという案がある」と書いた。


イズベスチアには日本の主権を確認後、ロシアの施政権を数十年間認める橋本龍太郎による「川奈提案」に言及し「多くの人々は、安倍首相はソチで古くて新しいこの提案を示すと考えている」などと語っている。言ってみれば沖縄の施政権返還に似た対応だ。2紙に明らかにしているのだからよほど自信があるのだろう。ロシア側政権幹部からのリークの指示があったのではないかとさえ思える。これからみれば、かつて「領土問題の解決に最も近づいた」と言われた橋下がエリツインに示した川奈提案に近いものと思われる。


しかしその後ロシアはこれを拒否しており、安倍がどのようなバリエーションを考えたのか、また全く別の提案なのかはまだ分からない。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月28日

◆日中韓が“反トランプ”で3国同盟?

杉浦正章



ヘイトスピーチに不満が募る
 

とかくいさかいを起こしがちな日中韓3国だが、最近ただ一点で共通項が出来てきた。米共和党のトランプ候補への反感の高まりである。元祖・ヘイトスピーチともいうべきトランプの差別扇動発言が極東に向いてきたからだ。


最初は笑って聞き過ごしてきた3国も、ひょっとするとひょっとすると思い始めたのかも知れない。とりわけ中韓両国からは強い反論が出始めており、“トランプ大統領”になったら“反トランプ3国同盟”が出来そうだというジョークまである。


トランプ流に暴言を吐くなら「3国同盟を作ってアメリカを潰してしまう」ということになる。大衆催眠術にかかっている米国有権者は気をつけた方がいい。早く目覚めるべきだ。
 

最近、流行っている論考が、トランプになっても大丈夫説だ。レーガンは大統領選挙中に、「中国と断交して、台湾と国交を持つ」と公言していたが、就任後中国との良好な関係を構築したという見方だ。だからトランプも政権に就けば変わるというのだが、ちょっと違うような気がする。


レーガンは俳優出身だが、もともとバランス感覚は抜群であり、狂犬病の“かみつき犬”のようなトランプとは根本的に違う。米政治学者・ジェラルド・カーティスは「共和党はトランプが本選に進出したら外交専門家をつけるだろう。プロのスタッフも送り込む」とテレビで述べているが、果たして効果が出るだろうか。
 

かみつき犬はかみつき犬であり、スタッフの隙を見てかみつくのだ。ホワイトハウスは何をするか分からない大統領を、8年間24時間見張っていなければならないことになる。


核兵器のボタンを押す大統領が、狂ってボタンを押したらすべてはおしまいだ。そのかみつかれ先は最近極東3国だが、日韓に対しては安保ただ乗り論と、核武装の勧めだ。韓国の核武装について朝鮮日報は次期在韓米軍司令官・ビンセント・ブルックスによる上院軍事委員会での証言を掲載した。「米国の核の傘がなくなれば韓国は自国の安全と独立を守る為に核武装しなければならなくなる」との発言だ。コラムでは「衝撃的なほど無知な外交政策」と酷評している。
 

またブルックは安保ただ乗り論について韓国が人件費だけで890億円負担していることを明らかにして「韓国に駐留しているのと同じ規模の軍隊が米国に駐屯したらより多くの費用が必要となる」と言明した。いわば安保ただ乗り論を裏返せば「米軍による経費ただ乗り論」であり、日本でも全く通用する話だ。


日本の負担は「思いやり予算」として今後5年間に9465億円を払う約束をしている。年間1848億円であるが、それとは別に基地周辺対策費、施設の借料、土地の賃料などを加えると年間なんと6710億円の支払いとなる。ちょっとアバウトだが、トランプでも分かるように四捨五入すれば年間1兆円だ。米軍が世界一の規模を維持出来るのは、この「経費ただ乗り」があるからに他ならない。まさにトランプは安保でも「衝撃的な無知」を地でいっているのだ。
 

カーチスは「トランプが大統領になっても対日政策は変更させないが、中国の方が大変だ」とのべているが、その中国はというと確かに大変だ。トランプは「北朝鮮問題を解決しなければ中国を潰してしまえ」と発言したが、環球時報は「トランプ氏の当選は大規模テロに匹敵する」と酷評した。


読者は「頭のおかしいヤツに大統領になって欲しい。米国への罰だ」と反応している。さらにトランプは「大統領に就任した初日に中国を為替操作国に認定する」「中国製品に45%の関税をかける」などと致命的な経済制裁に言及した。


これに対しては財政相・楼継がトランプを「非理性的なタイプ」と批判し「米中は相互に依存していることを認識すべきだ。両国の景気サイクルはつながっている」と警告した。環球時報は「世界経済の毒針だ」とうまい表現を使った。
 

日本の経済攻勢批判に到ってはまさに時代錯誤の極みだ。年を取ってぼけてくると若い頃うけた強烈な印象で物を言う癖がつくが、日本のバブル時代にトランプは自ら狙いをつけたニューヨークの数々の不動産を、日本企業に横取りされた原体験が忘れられないと見える。日米貿易摩擦時代の視点で物事を見ている。1970年代から90年代にいたる日米摩擦を今語っているのだ。


今や日本車は米国内生産だ。3国ともヒラリーが大統領に当選して欲しいという空気でも共通している。
 

こうした中で米国で絶えないのがそのヒラリーがトランプを擁立したという途方もない臆測だ。タブロイド版ではなくワシントンポストやBBC、CNNなど大手マスコミが昨年からことあるごとにこの陰謀説を報じている。


もともとトランプはクリントン夫妻とも親交を重ねてきており、ビル・クリントンとはゴルフを共にする仲だ。そこからクリントンがトランプをおだて上げ、共和党から出馬させて、同党を大混乱に落とし入れるという説がまことしやかに語られている。いわばクリントンがトランプをトロイの木馬に仕立て上げたという説だ。よくできた話だが、ことは筋書き通りに運んでいるから面白い。
 

結局民主党はクリントンが候補になることが確定的となった。共和党はトランプ優位であるものの、指名獲得に必要な全米の代議員過半数1237人に到達するには、テッド・クルーズとの接戦が予想される5月3日のインディアナ州予備選などでの勝利が必要とされている。


とにかくこんなに面白くてスリルのある大統領選はかつて見たことがないが、結局は米国の良識が勝つだろう。本選挙の動向予測の世論調査では依然としてクリントンの方がトランプより強い。

【筆者より】明日から連休に入ります。再開は5月10日。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月27日

◆北外相による“対話の模索”は失敗

杉浦 正章



労働党大会向けにさらなる核実験準備
 

近ごろ訝(いぶか)しいのは北朝鮮外相・李洙墉(リスヨン)の訪米だ。どうでもよい国連の署名式出席を“口実”に米国に滞在していたが、帰国の途についた。李は米朝対話模索の動きを垣間見せたのか、単なる対話へのアリバイ作りだったか不明だが、訪米が対話へと前進することはなかった。


北は帰国を待ちかねたかのように核実験や中距離弾道ミサイル・ムスダンの発射へと威嚇のレベルを上げようとしている。来月上旬の労働党大会にむけて金正恩の身分不相応の“大見得”が佳境に入ろうとしている。
 

筆者のように古いジャーナリストは米国による「置いてけぼり」外交に警戒心を抱く癖がついている。なぜなら米中頭越し外交によって1972年の首脳会談を出し抜かれた苦い経験があるからだ。ニクソンの特別補佐官キッシンジャーは隠密外交で日本無視の米中国交回復を実現した。韓国メディアも同様であり、今回の李の訪米を“警戒する”論調が見られた。米国は大戦略があればそれを優先させるために何をするか分からない国だ。
 

確かにこのところ北と米国双方に微妙な発言が相次いでいた。北の国防委員会報道官は4月4日に「軍事的圧力より交渉の準備が根本的な解決策」と米国との対話の可能性をほのめかした。


一方米国務長官・ケリーも11日広島で「北朝鮮が核を議論すれば相互不可侵条約を含む平和協定の議論が可能だ」と述べていた。李もAP通信のインタビューに応じて「アメリカが韓国と合同で行っている軍事演習をやめれば核実験を中止する用意がある」と言明した。李の訪米中唯一の重要発言であり、李はこれを言うために訪米したと言っても過言ではあるまい。


しかしこれに対してオバマはドイツで「真剣に受け止めていない」と、にべもなく拒絶した。逆に警戒感をあらわにする発言をした。北の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験について「発射実験は失敗しているとはいえ、北朝鮮は確実に知識を蓄えている。我々は北の挑発に懸念している」と述べたのだ。


そもそも北の核保有など米国が認めるわけがない。認めれば日韓の離反を招きかねない。それどころか日韓の核武装を招きかねない。朝鮮半島の核廃絶は米国の基本戦略なのだ。
 

こうして李の訪米の目的はもろくも崩れたが、もしオバマが応じていたらどうなっていたかである。北は核実験が取引材料になると誤解して、36年ぶりの労働党大会で金正恩は「米国は我が国の核ミサイルに屈服した」と胸を張るだろう。


オバマがその手に乗るわけはないのだ。そもそも北朝鮮は中国の核保有の歴史に学んでいる公算が大きい。中国は1964年に原爆実験、67年に水爆実験、70年に人工衛星を打ち上げ、大陸間弾道弾も製造可能となった。


これに慌てた米国は上記のキッシンジャーによる隠密外交を展開、中国は米国公認で核大国への道を歩み始めたのだ。筆者は1963年当時外交部長だった陳毅が「中国はたとえズボンをはかなくとも、完成された核兵器を製造するであろう」と発言したことを覚えている。


さしずめ北朝鮮には「ズロース」と言いたいが「下品」と言われるから「着た切り雀になっても」核・ミサイルを手放さないだろうということだ。米国と対等で交渉することを本気で夢見ている異常な国なのである。
 

SLBMもその一貫だ。通常「貧者の核」は毒ガスなどを指すが、かつてパキスタンの原爆実験が「乞食の実験」と評されたように、似たり寄ったりである。しかし貧者であれ乞食であれ、こけの一念は恐ろしい。SLBMは30キロしか飛ばないから失敗とされているが、日本の北朝鮮評論家たちのネタ源であるジョンズ・ホプキンス大学の北朝鮮サイト「38ノース」は、もともと30キロ分しか固形燃料を登載していなかったと報じている。


10トンや20トンもの燃料を登載したら頭上に落下するというのだ。べこべこのブリキ細工のような新浦級潜水艦から発射されたとみられているが、発射装置はロシアから輸入されたと言われている。


ミサイルは、旧ソ連のゴルフ級潜水艦に搭載したSN-6-Nミサイルと類似しているといわれる。「38ノース」は北朝鮮が固形燃料を使った潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を2020年までに実戦配備する可能性があるとの見方を明らかにしている。
 

国民の生活など「知ったこっちゃない」とばかりに金正恩は狂ったように核実験、ミサイル実験を繰り返す。李が帰国すれば労働党大会に向けて5回目の核実験をするだろう。


極東情勢は、過去最大の北朝鮮制裁も痛痒を感じないがごとく、北の暴発に次ぐ暴発が継続する。労働党大会で気勢を上げる金正恩は、「支持しなければ死刑になるから大会の圧倒的な支持」を受けて気をよくして、ますます増長する。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月26日

◆北方領土問題をサミットで協議せよ

杉浦 正章



 「力による現状変更」反対の声明を


 来日したロシアのラブロフ外相の発言から見ると、北方領土問題でのロシアの姿勢はかたくなであり、日本は一見外交上のアドバンテージをを持っていないかに見える。


しかし、首相・安倍晋三との会談におけるロシア大統領・プーチンの出方によっては、ロシアはますます孤立化の様相を呈するのが今後1か月の外交展望だ。有り体に言って首相・安倍晋三にはサミット議長国として、国際社会の世論に大きな影響を及ぼす事が可能であり、米欧の対露強硬姿勢に火をつけることもできないわけではない。


議長声明で北方領土に強く言及するチャンスでもある。したがって5月6日の日露首脳会談は5分と5分の渡り合いになる。
 

比較すれば首相・安倍晋三の対露外交姿勢には“善意”が見られるが、プーチンのそれにはロシア外交独特の“策略”が感じられて不快感が先行しがちだ。安倍との会談についてプーチンは記者団に「米国を中心とする圧力にもかかわらず、日本は対露関係を維持しようとしている」と発言したが、これは早くもG7分断に出たかと感じさせるものだ。


安倍は北方領土の進展に積極的であり、度重なる会談を通じてプーチンにその熱意は伝わっている。相手の力を利用するのが柔道の基本だが、プーチンはその手を使ってG7を分断して、自らの置かれた窮地から脱出しようとしているかに見える。まさに「溺れる者はわらをもつかむ」が如き姿勢が読み取れる。
 

クリミア併合で達成した爆発的な支持率を維持したいプーチンの本音を読み解けば、いま返還の「への字」すら言えないときであろう。領土は支持率に直結すると思い込んでしまっているのだ。


支持率は最近の国内経済の悪化を反映して80%から10ポイント下落したが、それでも歴代大統領と比較すれば雲泥の差がある。それほどクリミア併合はロシア国民のナショナリズムを刺激したのである。したがって、北方領土で安倍に「甘い言葉」は出すに出せないのが現状であろう。
 

それではなぜ安倍がソチに行くかであるが、世界情勢を大局的に見ているからであろう。極東は大国化した中国の東・南シナ海への進出、北朝鮮の核ミサイルによる威嚇によって極めて厳しい環境に置かれている。辛うじて対露関係だけは安倍・プーチンの個人的関係によってそれほどのあつれきは生じていない。


もし対露関係が悪化して、北方からの軍事脅威まで発生すれば自衛力は分断され、日本の安全保障情勢は最悪の状態に陥る。安倍はそこを見て対露関係を維持しようとしているのであり、これはとりもなおさず中露分断にもつながる大きな効力を持つ。北方領土も大切だが、現在の状況はまず極東の緊張緩和が何より必用なことであろう。これに米国が反対する理由もないのである。
 

北方領土は先に来日した外相・ラブロフの発言から見て大きな進展は難しい。外相・岸田文男がラブロフとの会談後「交渉に弾みを与える前向きな議論が行えるようになった」と発言したが、またまた日本の政治家が陥る罠(わな)にはまったかのように見える。


北方領土交渉の歴史は外相・三木武夫が首相・コスイギンから「中間的な措置」を約束してもらったと騒いで、ぬか喜びに終わった事が象徴するように、ロシア側が振りまく“幻想外交”に振り回されてきた。安倍は抜かりはないと思うがこの“幻想外交”の罠にはまってはなるまい。

プーチンの「引き分け」発言も幻想めいている。むしろロシア側にシベリア開発の“幻想”をほのめかすくらいの対応が、鈍感なロシアの熊を分からせるのには必用かも知れない。


翻って、国際情勢の大局を見れば、合い言葉は「力による現状変更」である。世界は中国の東・南シナ海への進出、とりわけ南シナ海の埋め立てと軍事基地化、北の核ミサイル開発、そしてロシアのクリミア併合と武力を前提にした現状変更の時代に突入している。ラブロフがいみじくも北方領土に関して「第2次大戦の結果、北方四島は戦勝国ソ連のものになった。敗戦国日本には、口を出す権利はない」と発言しているのは“元祖力による現状変更”をイケシャアシャアと言っているに過ぎない。語るに落ちているのだ。
 

したがって5月26、27日のサミット議長として安倍はここに目をつけるべきであろう。世界が守るべき大原則に言及するのだ。


ウクライナ危機でロシアが踏み込んだ「力による現状変更」は西欧諸国のみならず、日本としても決して容認できないし、北方領土も、中国の東・南シナ海進出も全く同様である。議長声明でG7の総意としてこれらの問題を力による現状変更として指弾するのだ。


既に過去のサミットは北方領土問題を話し合っている。1990年のヒューストン・サミットの議長声明では「日ソ関係正常化の上で不可欠な措置としての北方領土問題の早期解決を支持する」と言及。1991年 ロンドン・サミットも議長声明で北方領土問題の解決が望まれる旨が強調された。1992年ミュンヘン・サミットでも北方領土問題がグローバルな重要性をもつG7全体の共通の関心事項であることを確認した。


海部俊樹と宮沢喜一が残した数少ない成果の一つであった。サミット議長国はこうした力をより強力に発揮できるのであり、GDP世界10位の“大国”ロシアに強いけん制球を投げる姿勢が不可欠なのであろう。オバマが大喜びすることは間違いない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月22日

◆タックスヘイブンがサミットの焦点に

杉浦 正章


大胆で実効性のある対策が不可欠
 

世界的な「パナマ文書疑惑」が来月26,27日のサミットに向けて最高潮に盛り上がる流れを見せている。

プーチン、習近平、キャメロンら政治家のみならず、租税回避地に設立された約21万4000社の会社名や株主、役員などの企業データベースを国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が5月前半に公表する方針だからだ。

これまでもサミットは事務当局レベルで租税回避問題を取り上げてきたが、今回は首脳レベルの議論と意見集約に“昇格”せざるを得まい。効果の伴う国際的な課税逃れ対策に向けて議長役の首相・安倍晋三の手腕が問われる事態となってきた。大胆で実効性のある方針をいかに打ち出すかが焦点だ。
 

パナマ文書をめぐる報道でいつも思うのだが、世界を直撃して、資本主義の根幹を揺さぶる文書がどのような経路で南ドイツ新聞に廻ったのかが全く不明な点だ。筆者がすぐに思い浮かぶのはロッキード事件の発端となった「誤配事件」である。

ロッキード社にとっては絶対、部外者には見せられない極秘書類の小包が、なぜこともあろうに多国籍企業のお目付け役である米上院外交委多国籍企業小委員会(チャーチ委員長)事務所に届けられたのだろうか。現在でも不明だ。筆者は田中角栄と仲が悪い国務長官・キッシンジャーがCIAを使って行った陰謀であったと思うが、証拠はない。アメリカはそうした細工を極めて巧妙にやる国である。
 

パナマ文書もCIA説がある。なぜなら米国や同盟国日本の政治家名は一切出さずに専ら中国、ロシアの指導層を狙っているように見えるからだ。キャメロンや辞任したアイスランド首相はお飾り程度の意味しかない。怒り心頭に発したプーチンは「政権への不信感を社会に植え付けて、ロシアを内部から揺さぶる試みだ」と述べているが、親しい友人ばかりの名前が挙がっていることが不思議だ。クロだと思う。

慌てふためいたのは習近平だ。自ら先頭を切って腐敗撲滅運動と称する政敵撲滅を推進してきた張本人習の義兄が引っかかってはどうしようもない。タックスヘイブンの場合親戚とか友人とかの名前が出るが皆本人とみた方が分かりやすい。実際に本人の代わりにやっている事であろうからだ。

習近平はお得意の言論統制に出た。NHKの報道はシャットダウンされるし、ネットの検索も不可能だ。姉の夫が関与しているから、中国語の義兄である「姐夫」での検索も不可能だ。中国の場合は富裕層が海外に資産を移して、将来政治状況が変われば逃亡しようとしているという社会的構造があり、「義兄」は氷山の一角に過ぎない。プーチンも習近平も民主主義国であったら致命的なスキャンダルであっただろう。
 

G7に関連してくるのはキャメロンだ。国民の間に亡父のファンドに投資して利益を上げたことを認めたキャメロンへの辞任要求の声は高く、満身創痍(そうい)でのサミット出席である。ただ本人が法的責任を問われる可能性は少なく、辞任に到る確率も低い。キャメロンはタックスヘイブン問題では企業の情報開示の推進など課税逃れ対策を強化しようとしている。

結局パナマ文書が提起した問題は議長・安倍がオバマとタッグを組んで推進するべき問題であろう。いくらキャメロンが引っかかっているからと言って、手を抜くようなことがあれば世界中の目がその動向に集中しているときである。いいかげんな対応ではサミットの存在感を問われる結果となりかねない。いかにストライクのボールを投げるかが問われている。
 

既に主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は15日、タックスヘイブンを使った課税逃れ対策を共同声明で、@国際的な情報交換の仕組みにすべての関係国が遅延なく取り組むA銀行口座などの情報を交換し合う枠組みに参加するすべての国が、2017年のG20首脳会合までに一定の導入水準を満たすー事などを求めている。


G7はG20の動きを支持すると共に、金融口座の情報を自動的に交換する協定の締結を目指して一致した行動をとる流れとなりそうである。各首脳の発言も極めて注目されるところであろう。問題は新たな規制策が打ち出されれば、金融マフィアはその裏をかくといういたちごっこがこれまで繰り返されてきたし、これにどう歯止めをかけるかがキーポイントとなりそうである。いかにして大胆で実効性のある方針を打ち出すかが焦点だ。


翻って日本との関わり合いが5月の発表でどの程度出るかメディアは固唾をのんで注目している。地方創生相・石破茂はテレビで政治家などの名前が出ないことについて「5000万円を超える所得を海外に持つ人は確定申告書に添付する必要があり、これが利いている」と述べている。

しかしタックスヘイブンを活用している企業名や役員の名前が公表されれば、当然政治家への献金が問題となり道徳的にも指弾される可能性はある。また北朝鮮との関係が問われる企業名が出される公算が強く、これも問題化しよう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月21日

◆「ダブル選挙なし」のスクープの裏側

杉浦 正章


 
地震で「奇道」の選択不可能に
 

政治状況をいち早く掌握、洞察して伝えることは政治報道の基本だが、今回筆者が先陣を切った政局原稿「会期末解散・同日選挙は事実上不可能に 熊本地震で政治日程も地核変動」は、乾坤一擲(けんこんいってき)の大勝負であった。


100%自前の「1人通信社」でも、解散の判断で間違っては、政治報道の真価が問われるからだ。筆者の原稿は他のサイトでも無料で自由に使わせており、無礼にも無断で使っているサイトを含めれば推定では毎朝10万人を超える読者がいると思われる。サイトによっては見出しの強烈さにちゅうちょしたのか、当たり障りのない見出しに差し替えると言う判断をしたケースも出てきたほどだ。


筆者の場合官邸にも政党にも情報源はあるが、ほとんど必要ない。表面化した情報を一日がかりで集めて、分析して、洞察して、払暁までに1人判断して書くのが基本だ。
 

筆者の判断は、全国紙が後追いして正しさが立証されるのが常だ。今回も本格的な政局原稿としては、産経が20日朝刊トップで「首相、同日選見送りへ」、日経が21日朝刊で「首相、衆参同日選見送り 震災復旧・景気テコ入れ優先」と報じ、通信社も共同が20日午後1時に「政府、与党内で同日選見送り論」と追いかけ、時事も午後10時過ぎ「衆参同日選、見送りで調整」と書いた。


朝日は抜かれて恥ずかしいのか4面で「同日選慎重論に傾く」。読売も4面で「同日選与党から回避論」と書きながら「首相サイドは両にらみ」と未練たらたらの記事だ。
 

これまで、筆者もマスコミ各社も「ダブル選挙あり」を前提に政局原稿を組み立ててきた。首相官邸からの発信が常にダブルに向かっているように見えたからだ。


新年早々に首相・安倍晋三も夏の参院選について、自民、公明両党だけでなく、おおさか維新の会など一部野党も含めた改憲勢力で、憲法改正の国会発議に必要な参院の3分の2議席を目指すとの考えを示している。これが意味することは通常の参院単独選挙でなく、ダブル選挙を狙っている事を意味する。


選挙情勢を分析すれば参院単独では達成が不可能な議席であり、衆院の3分の2を維持したうえで参院の3分の2を確保するには、相乗効果が可能となるダブル選挙しかあり得ないからだ。とりわけ2月25日に筆者だけが発信した安倍の「世界経済の大幅な収縮」発言を「消費増税先送りへの新条件」ととらえ、解散に結びつけた見方は、全紙が2日遅れで追いかけて政界に定着した。
 

こうしてダブル選挙への流れはよほどの天変地異でも生じない限り不可避と見られる状況に到った。ところが熊本大震災である。天変地異が発生してしまったのである。こればかりは天の裁量としか思えない事態である。


筆者は10万人が避難生活という事態を前にして、まずダブルは不可能になったと直感した。東日本大震災の時は被災地での統一地方選挙ですら延期となった。それに塗炭の苦しみに国民が置かれているのに、党利党略の権化のようなダブル選挙を実施する為政者はまずいないと判断した。しかし滔滔(とうとう)として続くダブルへの流れは止められるだろうかとも思った。


その時、かつて田中角栄から教わった重要なる教訓を思い出した。「政治のすべては一般庶民のためにある。杉浦君も国民目線で政局を判断しなさい」と述べた言葉だ。
 

そうだこれだと思って書いたのが「震災後1か月半で国会を解散するのは憲政の常道から言っても不可能の類いである。震災の粉じんも治まらず、塗炭の苦しみに国民が置かれている状況下で、政権与党の優位のみを目指して解散することは、困難であるうえに、国民の間に怨嗟の声が湧き起こる可能性が大きい」の文章である。


これを「同日選不可能」の判断の根幹に据えた。憲政の常道とは政治の常識を意味する。ダブル選挙は「奇道」であり、通常の政治状況なら許されるが、この事態では「お天道様が許さねぇ」の事態となるのである。こうして潮流に真逆に棹(さお)さす1人通信社の大スクープが誕生したのだ。「ダブル」でも先行、「ダブルなし」でも先行したのだ。1人通信社だから特ダネ賞は出ない。1人悦に入るだけだ。
 

安倍政権は奇道を選ばずに常道に戻った。会期を参院の任期7月25日まで延長すれば、粉じんも治まりダブルの復活もあり得たが、延長せずが大勢となった。安倍が中曽根康弘の真似をして死んだふりをして会期末に解散することもあり得ない。前から指摘しているとおり、北海道5区の衆院補選の動向など、全く政局を左右する要素にはならない。


翻って考えれば安倍には何と言っても衆院291議席がある。圧倒的多数であり、今後の国政選挙は衆参とも単独選挙が基本となる。安倍は衆院の議席を大切に守って長期政権を維持する流れとなろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年04月20日

◆オスプレイは熊本地震にどんどん活用せよ

杉浦 正章
 

新聞・野党が災害時まで反米イデオロギー
 

半世紀以上報道に携わっているが熊本大震災に際して朝日、毎日両紙と民進、共産両党が展開しているオスプレイ反対論ほど異質なものを知らない。異質というのは10万人が避難生活を送り、一刻も早い支援を待っている今この時に、救出の“手段”にまで反米のイデオロギーを持ち出すのかということだ。


同じ日本人かと思う異質さだ。まるで救急車が危険だから大八車を使えという議論だ。これこそ国民の生命の危機を政治利用していることになる。政府・与党は堂々と反論すべきであり、米軍の“オスプレイ支援”をちゅうちょなく受け入れ、継続させるべきだ。
 

まず朝日は19日の朝刊で「被災地にオスプレイ」の見出しに「必要性疑問の声」「政治的な効果」という中見出しで疑問を提起。共産党の書記局長・小池晃をけしかけて「オスプレイに対する国民の恐怖感をなくすために慣れてもらおうということで、こういう機会を利用しているとすれば、けしからんことだ」と語らせている。


一方毎日も同日の紙面で「熊本地震、オスプレイ物資搬送『政治利用』の声も」との見出しで「オスプレイの風圧で2015年のネパール大地震で住宅の屋根が破損したとの報道もあった」などと批判的記事を展開している。
 

さらに朝日は民進党常任幹事会議長・原口一博の「オスプレイはハワイの事故で、砂を吸い込んで落ちている。防衛省の資料を見ると、我が国の航空機がヘリコプターを含めたくさん活躍している。わざわざオスプレイをもってきて、避難している皆さんも非常に不安に思われている。砂を吸い込んで落ちるものが、噴煙に対して大丈夫なのだろうか」という談話を掲載。


一方共産党の畠山和也は国会で、「懸念されるのはオスプレイを活用されること。廃棄熱での火災や民家の屋根が吹き飛んだとの報告もある。二次災害の危険性はないのか」と反対論を展開している。まずいのはこれがデマゴーグとして日本中に流布されていることだ。
 

これら左傾化メディアと左翼政党の反対論は戦後の反米イデオロギーに根ざしたものであり、オスプレイの米軍導入に対する反対闘争をこともあろうに大震災の粉じんが収まらない中でぶり返そうとしている姿勢がありありと見える。


だいいちに原口の言うように被災者からオスプレイに懸念の声が本当にあがっているのか疑わしい。朝日と毎日の記者は恐らく防衛省詰めの社会部記者だろうが、あきれるのは防衛省側が反対論調を助長するような“ミスリード”をしていることだ。


その証拠を挙げれば、朝日によれば、防衛省関係者が「米軍オスプレイの支援は必ずしも必用ではないが、政治的な効果が期待できるからだ」と述べたという。毎日も「省内でオスプレイを政治的に見せつける作戦との冷ややかな見方も出ている」と報じている。あ然とするような防衛省の広報ぶりであり、両社記者に“おもねる”防衛官僚の姿を露呈している。防衛省は大丈夫かと言いたい。
 

こうした論調が間違いなのはオスプレーの実績から見れば明白だ。


まず2013年11月に超大型台風がフィリピンを襲った際も、米軍が普天間基地からオスプレイを派遣、大活躍した。救出した被災者は2万人近くにも及ぶという。共産党が取り上げたのは2015年のネパール大地震で住宅の屋根が破損したことだろうが、一体どんな屋根か。もともと地震で破損しているブリキ屋根ではないのか。小さな事を主張して大きな方向を見誤ることを「木を見て森を見ない」と言うがまさに左翼の論調はそれだ。
 


オスプレイは時速500キロと普通のヘリの2倍以上のスピードがあり、航続距離は3900キロだ。朝日は、「ほかにヘリコプターがある」と指摘しているが、災害救済能力には格段の差がある。東日本大震災に投入されたヘリは空自のCH-47、陸自のUH-60、海自のSH-60などで人命救助に大活躍したが、惜しいのは燃料切れが早く、涙をのんで基地に引き返さざるを得なかったケースが多く出た。


オスプレイは空中給油も可能で、全国何処にでも急派できる。長時間に渡る救援活動が可能であり、東日本大震災の前に運用が始まっていれば、多くの人命が救えたことは間違いない。専門家も「被災地上空を飛び回るマスコミのヘリより安全だと」指摘している。
 

朝日、毎日が、政府によるオスプレイの「政治利用」を指摘しているが、防衛省のミスリードはともかくとして、事の本質はオスプレイ反対の編集方針にある。編集方針は勝手であり、報道は自由だ。愛読する読者がいるから書くだけだが、両社にはこういった記事を書く記者が良い記者であるという独特の雰囲気があるに違いない。


結果的に見れば、「災害の政治利用」をしているのは両社と左翼政党であり、大災害時においても人命よりイデオロギーを先行させる姿勢にはあきれ返るとしか言いようがない。関東大震災や南海地震への備えもあって政府はオスプレイを18年度に17機調達するが、もっと数を増やして大都市周辺に展開させておくべきだ。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月19日

◆会期末解散・同日選挙は事実上不可能に

杉浦 正章



熊本地震で政治日程も地核変動
 

熊本を襲った大震災は、会期末解散・衆参同日選挙など首相の重要政治日程を組み替えざるを得ない状況に直面させている。


また消費増税の再延期または凍結も不可避となった。さらに大震災に対応する2016年度補正予算案も喫緊の課題となり、通常国会会期内で成立を図るか、延長国会で成立させるかも検討課題となっている。会期は参院議員半数の任期である7月25日まではぎりぎりまで延長することも不可能ではないが、高度の政治判断を要する問題となっている。
 

首相が通常国会を1月4日召集で閉会を6月1日としたことは、会期末解散、7月10日同日選挙を意識したものと解釈されてきた。しかし4・14熊本大震災の発生は、大局から見て政局展望をがらりと変えざるを得ないものとした。政局も地殻変動である。


同日選挙もいわば党利党略であり、通常の政治状況ならあり得る戦略であったが、震災後1か月半で国会を解散するのは憲政の常道から言っても不可能の類いである。震災の粉じんも治まらず、塗炭の苦しみに国民が置かれている状況下で、政権与党の優位のみを目指して解散することは、困難であるうえに、国民の間に怨嗟の声が湧き起こる可能性が大きい。
 

政府の熊本大震災への対応は1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災の経験をもとに、手抜かりのないものであり、自衛隊員2万5000人の投入など立ち上がりは迅速であった。首相・安倍晋三以下首相官邸の対応も落ち着いており、菅直人の原発事故でのうろたえぶりと比較すれば民主党政権とは雲泥の差がある。


しかし地震対策の正念場はこれからであり、会期末までの政治日程は極めて立て込んでいる。G7サミットが5月26、27両日開催される予定であり、そこへ向けて首相の連休中の欧州、ロシア訪問などが予定されている。サミットの延期は困難と見られるし、予定通りの実現は可能だ。


しかし外遊日程そのものは流動性を帯びるかもしれない。外相など代理の派遣でしのごうとしても、サミット諸国は突発事態を考慮して了解するだろう。しかしロシア訪問は北方領土問題で極めて重要な位置づけとなっており、結局予定通り首相は訪欧日程をこなすことになりそうだ。
 

ここに来て重要なのは災害対策の補正予算案である。首相・安倍晋三は18日の国会答弁で「補正予算も必要では」との問いに、「あらゆる手段は講じていきたい」と述べ、補正予算案の編成検討に含みを持たせた。


3・11東日本大震災の時は第1次災害対策補正予算4兆153億円を4月22日に閣議決定、同28日に国会提出、5月2日に成立させている。2か月弱で成立にこぎ着けた。今回もその段取りで行けば会期末ぎりぎりか、延長国会での成立を目指すことになる。
 

政治日程はサミットを挟んで極めてタイトであり、環太平洋連携協定(TPP)などの成否にも影響が生じる会期延長をどうするかが問題となる。自民党幹事長・谷垣禎一は15日の記者会見で、6月1日までの会期を延長する可能性について「ないとは言っていない。日程は非常にタイトだとは繰り返し申し上げてきた」と含みを持たせている。


谷垣が「タイト」と言うのは参院選があるからだ。参院選挙の年は通常会期の延長は行わない。公選法32条1項で参院選は任期の終わる日の前30日以内に行うとなっているからだ。しかし同2項では任期切れが会期中となった場合の日程を定めている。したがって今回は参院議員の任期満了が7月25日となっており、それを越えて国会を延長することは出来ないが、同日までの延長は不可能ではない。


しかし政府としては地震対策に忙殺されるうえにサミットなど山積する外交課題がある。これに国会対策が加われば、政治力を分散されることになり、官邸には延長に慎重論が強い。
 

一方で延長すれば最大で約2か月の余裕をもたせることが出来、その場合の参院選は8月下旬となりそうだ。


しかし平成に入ってからの参院選は会期を延長した場合なぜか自民党が敗退している。89年は宇野宗佑が女性問題で惨敗。社会党委員長・土井たか子を「山が動いた」と喜ばせた。98年には橋本内閣が惨敗、退陣に直結している。07年には第1次安倍内閣で歴史的惨敗となり、参院自民党は民主党に第1党の座を譲った。


仮に安倍が7月25日までの延長を断行した場合、いったん断念したダブル選挙が再浮上しないとは言えない。その意味からも政治日程上の選択肢は広がることになる。
 

加えて政策面では来年4月の消費増税が極めて困難となった。安倍は18日「リーマン・ショック級、大震災級の事態にならなければ、予定通り引き上げていく」と従来の答弁を繰り返したが、もうその段階ではない。「大震災級の事態」は、今そこに発生しているのである。


大震災に増税の追い打ちをかける政治はあり得ない。14日に開かれた20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議も各国が金融政策、財政出動などを動員して成長を目指す方向で一致しており、サミット議長の安倍としてもこの潮流を踏襲せざるを得まい。したがって消費増税は延期か凍結の流れがいよいよ強まった。

    <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年04月15日

◆朴は「反日カード」を切らないだろう

杉浦 正章
 


日米韓安保は維持、慰安婦履行は足踏み続く 
 

韓国の総選挙で与党過半数割れの大番狂わせがあったから、日韓慰安婦合意の挫折など日韓関係に大きな影響が出るという見方が生じているが、果たしてそうだろうか。物事はそう短絡的に見ない方が良い。


大統領・朴槿恵は政権担当4年目に入っても依然4割台の高支持率を維持しており、基盤の弱体化は当面支持率で補って行くだろう。韓国を取り巻く情勢は北朝鮮の核・ミサイル実験で緊迫化の一途をたどっており、3月31日の日米韓トップ会談での安保連携合意の構図の重要性に変化はない。


朴がこれを停滞させることはないだろう。しかし韓国側が努力を約束した大使館前の慰安婦像撤去など慰安婦合意の具体化には影を落とさざるを得まい。
 

総選挙の展望について大統領府は、完全に読み間違えていたようだ。朴側近の中にはセヌリ党が300議席の過半数割れの143−145議席になると予想する向きがいたようだが、マイナス25議席の122議席まで落ちるとは予想していなかった。セヌリ党幹部に到っては180議席を予想、全く時流の変化を読めていなかった。


結果を左右したものは若年層の票であった。大学を出ても職はなく若者の就職率は極めて低い。貧富の差は開く一方だ。この不満が野党への投票行動につながったのだ。韓国国会は野党の「共に民主党」が123議席で第1党に躍り出たものの過半数には達せず、「国民の党」が38議席でキャスチングボートを握った形となった。大統領府は複雑な議会対策を余儀なくされるだろう。
 

対日関係で好都合なのは、朴も日本政府も慰安婦問題が総選挙の争点化することを避け、刺激的な言動を控えたことであった。この結果慰安婦合意に野党は反対であるものの、公約に書いて戦うまでに到らなかったのだ。しかし朴が対議会対策においてはレイムダック化の様相を色濃くしてゆくことは避けられまい。


韓国では任期が1年を余す段階に入ってレイムダック化するのが普通であるが1年8か月を残してレイムダック化は珍しい。レイムダック化した大統領は過去に反日カードを切って、しのぐという動きに出るケースが多かった。李明博のように竹島上陸というパフォーマンスをするのだ。政権末期の反日がお家芸の国である。
 

しかし朴が反日に戻るかと言えばそうとも言えない。なぜなら就任以来3年という長期にわたる「告げ口外交」がもたらしたものは、対日経済関係の悪化と、目を覆わんばかりの不況であった。


昨年12月の慰安婦合意は対中関係を第一義に据えていた朴が、日米韓の関係重視に戻ったことを意味する。歴史認識に固執した“代償”は極めて甚大であったことは間違いない。これは自ら選んだ大転換であり、容易に反転できる構図にはない。安倍と朴はおりにふれ電話会談するに到り、その関係良好化の頂点が、対北朝鮮をめぐって日米韓首脳会談で確認した極東安保で協調強化の合意である。


今後北はそれこそ何をするか分からない異常な指導者の下で緊張感をあおり続ける事が予想され、軍事協力の必要は増加しこそすれ減退する流れにない。
 

逆に言えばこの極東安保の構図が慰安婦問題を律している側面があるのだ。したがって議会が過半数を割ったからといって、朴がそれではすぐ反日というわけにはいかないのだ。しかし現実問題として慰安婦問題での象徴である慰安婦像の撤去が促進されるかというとそう簡単ではない。


安倍が撤去なしに慰安婦支援の団体に10億円を拠出することも考えられまい。したがって朴政権による慰安婦団体への説得工作の可非が依然として焦点となる。合意の具体化が長期化することは避けられないものとみられる。朴は自分の任期中に合意を達成する努力を重ねるものとみられる。 
 

一方で、日韓安保関係では北朝鮮の核・ミサイルなどについて機密情報を共有できる軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結などが課題だが、現在生じている促進の機運を双方とも維持発展させなければなるまい。基本的には信頼関係の構築を図りつつガラス細工のような日韓関係を発展させてゆく必要があるのだ。
 

朴のレームダック化は次期大統領選への動きを公然化させる可能性が強い。ここで問題なのが、日本にとってばかりか韓国国民にとっても最悪の候補・国連事務総長潘基文の登場だ。今年末の任期切れをいいことに早くも事前運動に精を出している。


先の朴訪米に際しては4日間で7回も朴と会談や接触をしている。セヌリ党に有力候補がいないことをよいことに、露骨な「後継」への売り込みだ。しかし潘基文の国連事務総長としての評判は掛け値なしで史上最悪だ。米上院外交委員長コーカーは13日、公聴会で国連が平和維持活動(PKO)の要員らによる性的暴力が多発している問題に対処できていないとして、「いかにして国連の無能な指導者に我慢するかが問題なのだ」と酷評。
 

国連内部の人事も韓国人ばかりを重用、国連職員組合が「親類縁者や友人を頼った求職」を批判する文書を採択する事態まで生じた。ところが韓国民はこれらの愚行を知らない。むしろ英雄視しており、実家は観光コースになっている。


次期大統領候補としては最高の21%の支持率だ。狡猾にも韓国内の評判を狙って対日関係でも反日すれすれの国連外交を繰り返している。公平であるべき事務総長としてあるまじき行為だ。このような人物が大統領になった場合に極東情勢に与える影響は極めて憂慮されるところだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年04月14日

◆補選ごときがダブルを左右するという噴飯論議

杉浦 正章



オバマ広島訪問など好材料は山ほどある
 

確かに政治に大きな影響を与えた補選が過去に2度ある。いずれも政権が打ち出した消費増税が原因だ。


まずは何と言っても岩手参院補選ショックだ。87年3月前年のダブル選挙圧勝に勢いづいた中曽根康弘が打ち出した売上税に対する反対運動が盛り上がる中で、補選が行われ、反対を掲げた社会党候補が圧勝した。89年2月の参院福岡補選では、有権者が当時の竹下登が進めていた「消費税導入」に嫌気して、社会党候補が自民党候補に完勝した。中曽根も竹下も程なく退陣している。


たしかに補選が政治に影響を与えるケースは多いが、今回の北海道5区の衆院補選が、一部新聞の書き立てるほどの影響を持つかと言うと、ちょっと違うような気がする。今回は補選が大局を左右することは少ないと思う。
 

とかく政治記者は短絡的に政局の動向を断ずる傾向がある。駆け出しほどそうだ。駆け出しは、読みが出来ないから、記事より自己顕示欲が先行して、考えないで突っ走る。今回も補選に勝てばダブル選挙、負ければ参院シングル選挙という判断が、一部政治部の弱い報道機関から出されているが、強いところはさすがにそう断じてはいない。


読売も朝日も決定的な表現を避けている。そもそも「解散様」は一番偉いのであり、補選が如きに左右されてはならないのだ。地方の一選挙区が中央政治のすべてを左右する構図はいけないのだ。だいいち誰も分かっていないが、5区で万一自民党が破れても、大接戦だ。ダブルを断行すれば相乗効果で3か月で議席を奪還できる。


もっとも補選に負ければ新聞の論調を首相・安倍晋三が逆に“活用”して、いったんダブルのムードを抑える可能性はある。そうしておいて、サミット後に解散断行を宣言するのだ。中曽根がやった「死んだふり解散・ダブル選挙」だ。アナウンスメント効果を狙うならこれだ。憎らしいことに中曽根は後で「定数是正の周知期間があるから解散は無理だと思わせた。死んだふりをした」と得意満面で語ったものだ。
 

補選に負ける話ばかりをしているが、接戦でせり勝つという分析もある。安倍は補選候補を勢いづかせるために、消費税延期か凍結の判断を先送りせずに、いま行ってしまう選択もある。方向は定まっているのであり、断言でなくても事実上延期の感じでもいい。


安倍がこれを打ち出せば、追い風になることは間違いない。しかし中途半端な表現でなく、新聞のトップを狙う表現でなければならない。20日に予定されている党首討論あたりの“活用”がいいかもしれない。
 

勝った場合はダブルへの流れは決定的になってゆくだろう。負けた場合でも政治状況を展望すれば、これを補える要素は腐るほどある。だいいちに安倍の支持率が50%前後と驚異的に高い。竹下の場合は89年には3%まで下がった。中曽根も売上税で下がったが、断念して上昇した。さらに、消費増税延期・凍結を歓迎しない国民はいない。


野党は民進党が“ハムレットの悩み”でもたもたしており、絶好の選挙用の材料だ。加えて外交だ。ここに来て“神風”が吹き出した。それはオバマの広島訪問が一段と現実味を帯びる流れとなってきていることだ。実現すればプラハの核兵器廃絶演説に勝るとも劣らない演説をしようとしているに決まっている。


これは歴代自民党政権が維持し、いまや国是となっている「もたず、つくらず、もちこませず」の非核3原則にもマッチする。日米首脳協調の核廃絶宣言は、ダブル選に向けて野党の顔色を失わせる絶好の材料となる。
 

加えてサミットでは景気対策が主眼となる。大きな世界的な潮流は中国など新興国の不振をG7が一致して財政出動することにより回復しようという方向であり、議長国として安倍はこの方向に棹さすわけにはいかない。既に実施に移った予算の前倒しに加えて、消費税延期・凍結と10兆円規模の補正を秋に実現する流れを作れば景気に大きなプラスとなるだろう。


ただでさえアベノミクスを契機に事実上の完全雇用が達成され、企業の収益大好調の状況がある。補選に負けようが勝とうが、小さい小さい。大状況は安倍にとって有利なものばかりだ。
 

こうした潮流に警戒の色を隠さないのが野党だ。共産党書記局長・小池晃は正直にも本心を吐露している。「衆参同日選挙なんてあまりにも邪道過ぎる。今回の補選の結果がこうした無謀な企てを止めさせる方に動く結果となる」のだそうだ。民共選挙協力を分断されるダブルが「怖い怖い」と言っているのだ。

また民進党も幹部が「衆参ダブル選挙になれば野党の協力は分断される。補選に勝ちダブルを阻止したい」とこれまた正直に述べている。いずれもダブルだけはしないでくれと嘆願しているようでもある。嘆願されても安倍は許さないことが大事だ。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)