2016年12月02日

◆社会悪をはびこらせるカジノ法案が成立の流れ

杉浦 正章



「社会正義とモラルの党」をかなぐり捨てる公明
 

いくらアベノミクスが不振だからといって、ばくちにまで手をだしてはいけない。カジノ法案に自民党が突撃、2日の衆院内閣委員会で採決しようとしているが、これほど筋の悪い“政治”はかって聞いたことがない。


おまけに、朱に交われば赤くなるのか焦点の公明党までもが、歯止めをかけられなくなりそうだ。背景には日本維新の会を巻き込んだ自民党の国対戦術があるようだ。公明は巧妙な自民の国対戦術に追い込まれて、採決容認に踏み切った。事前に再調整するが、最終的には賛成する可能性が大きく、存在感を発揮せざるを得なくなった形だ。


それにしてもただでさえパチンコ、競馬で依存症が家庭を地獄に陥れ、社会を混乱させている現実を知らぬかのように、自民党は「ここまで来たら成立させるしかない」のだそうだ。事実、その可能性は高まった。永田町には最近内外の業者による陳情が活発化しており、業者の手が回っているのかと思いたくなる。


保守系の読売までが社説で「人の不幸を踏み台にするのか」とアベノミクスの推進材料にすることに真っ向から反対している。法案の強引な採決は、国民の反発を招くことは必至である。
 

そもそも日本人はとりわけ賭博依存症になりやすい国民性があるとされている。伝統があるのだ。日本書紀に持統3年(689年)12月8日に「禁断雙六(すごろく)」の記述がある。「双六」が中国から入って以来賭博として流行したため、財産を失う者も続出。今で言う依存症だ。そのために持統天皇が禁制を敷いたのだ。賭博禁止令が出された。


現在もパチンコ競馬など賭博依存症の疑いがある人が推計で536万人に上ることが厚生労働省研究班の調査でわかっている。成人全体で4.8%、男性に限ると8.7%を占め、世界的にみても突出している。他国の調査では、成人全体でスイスが0.5%、米ルイジアナ州で1.5%、香港で1.8%だ。
 

女性の中毒患者も多く、20歳前後でギャンブルを始め借金に手を出す。治療を受けたりやめるためのグループ療法を始めたりするが、この間に1000万2000万円をつぎ込む。依存症の主婦の多くが家計をごまかし、子どものお年玉や親の葬儀の香典にも手をつける。借金とうそを重ね、家族を精神的な病気に追い込むこともあるのだという。まさに家庭は地獄の様相を帯びてしまう。


馬鹿な自民党の推進論者は「競馬、競艇など公営ギャンブルやパチンコがあってなぜカジノが駄目なのか」というが、現在あるものだけでも社会的な問題を引き起こしているのに、さらに加速させるのがまっとうな政治かと言いたい。


自民党は刑法185条で禁止されている賭博を解禁しようとしているのだ。最高裁でも「金銭そのものを賭けることはたとえ1円であっても賭博である」という判決が昭和23年に出ている。推進派は「世界120か国で合法化されている」と主張するが、日本は数少ない合法化しない立派な国なのだ。
 

政調会長茂木敏充も「国内の観光振興からも極めて重要」と述べているが、カジノと経済の相関関係のイロハを勉強した方がいい。カジノの収益は負け金であり、負け金が勝ち金より多くなければカジノ経営は成り立たない。


一方で国民に例えば1000億円の負けが生ずれば、同額の購買力が失われる。地域の消費性向に悪影響が生ずるのだ。勢い外国からの客に依存することになるが韓国、台湾、シンガポール、マカオなどで乱立しており、飽和状態にある。そもそもカジノ経営は斜陽産業なのであり、米国では倒産も続出している。


筆者もワシントン時代にブームに沸いたアトランティックシティーに遊びに行ったことがあるが、案の定100ドルあまりだがすっからかんにさせられた。帰りのガソリン代までなくなりそうになった。なんと最近のアトランティックシティは共倒れが相次いで3分の1が閉鎖だという。
 

公明党がどうでるかが焦点だが、首相・安倍晋三は与党党首会談で、公明党代表・山口那津男に法案成立への協力を依頼している。山口は先に記者会見で夏にパナマでカジノを見学した印象を、「大勢のお客さんでにぎわっている雰囲気は感じなかった」と指摘、「観光振興の切り札とは必ずしも言えず、むしろ副作用の現実を見てきた。既存の資源で観光振興を果たすのが正攻法だ。」と述べ、慎重姿勢だった。


公明党は1日、本格的論議に入ったが、「施設の設置は地方創生にもつながる」、「施設の建設に伴う経済効果が期待できる」など、法案に賛成すべきだという意見が出た。一方で、「ギャンブル依存症対策は十分とは言えない」といった懸念や、「急いで結論を出すことには反対だ」などと慎重に対応すべきだという指摘も出て収拾が付かなくなった。


公明党は、会議としての意見集約は困難だとして、今後の対応を山口ら執行部に一任することになった。ここは山口がリーダーシップを発揮するときだが、どうも雲行きがおかしい。採決自体を容認し、採決も落ちこぼれはあっても基本的には賛成の方針のようだ。
 

公明党は一時代前は清廉潔白な党を売りにしていたが、連立政権になって以来、政権の甘い蜜におぼれ始め、冒頭述べたように自民党に対する歯止めの役を果たさなくなった。公明党の綱領は「われわれが内に求め、行動の規範とするのは、高い志と社会的正義感、モラル性、強い公的責任感、そして民衆への献身です」 と高らかにうたっており、この原点に帰るべきだが、自民と維新の共同歩調に負けた形だ。


連立なのに野党と組まれてはメンツが立たない状況に追い込まれたのだろう。採決容認によって成立へ向かう公算が一段と強まった。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年12月01日

◆年内解散は領土交渉大幅進展のケースのみ

杉浦 正章



現状なら大敗どころか自殺行為
 

民進党幹部が政治部OBとの会合で「まるで好戦姥捨賭場内閣」 と安倍政権を批判していたが、一同うなずいていたものだ。たしかにこの臨時国会で安倍政権は、南スーダンへの駆けつけ警護、年金カットや医療費自己負担増など高齢者に厳しい政策、刑法違反のばくちを公認するカジノ法案など国論を二分する政策や法案をこれでもかと言うほど実施しようとしている。


にもかかわらず読売の調査では内閣支持率は最高の61%を維持。ここは、掛け値なしの支持率調査である「衆院解散」 をやってみないと国民の真意は分からないということになるが、案の定読売の分析だと自民党は単独過半数238を維持出来ない可能性がある。そうなれば再来年の自民党総裁・安倍晋三の3選まで危うくなるのだが、首相・安倍晋三は年末解散1月総選挙に踏み切るだろうか。可能性は1割程度はあるとみなければいけないと思っている。
 

たしかに、このところ安倍内閣はいけいけどんどんの様相が濃厚だ。周りはごますりばかりで、止めるものがいない。自民党幹部もすこしは骨のある男と思っていた幹事長・二階俊博が率先してお先棒を担いでいる。たしかに国政選挙に4回も勝つという歴代内閣にない「驚異の偉業」を成し遂げたのだから、選挙の神様は田中角栄どころか安倍がそう呼ばれるべきだろう。


党内は上から下まで安倍に任せておけば大丈夫という空気に満ちている。特に自民党291議席の4割にあたる約120人の当選1、2回の「安倍チルドレン」 に至っては、切迫感が消え、落選などあり得ないような“自信の人”が多い。風で当選した議員は、真逆に風で落選することを知らない。この油断が命取りになるのだ。
 

それに、安倍政権は70歳以上の高齢者層に支えられていると言っても過言ではない。高齢者人口は3186万人で過去最多。総人口に占める割合も25.0で最高となり、4人に1人が高齢者。その高齢者のうち60歳から79歳までの投票率はすべて70%台を超えており、中でも年金が始まる65から69歳は77.15%で8割に迫る。


その高齢者層は保守的傾向があり、とりわけ中国の膨張政策や北朝鮮の核・ミサイル実験などへの反感が激しく、これに対峙する安倍を支持し、自民党への投票行動につながっている。尖閣漁船衝突事件にうろたえた民進党政権などもうこりごりなのだ。ところが最近の中国も北朝鮮もなぜか静かになってきた結果、国民の目は内政に向かっている。
 

その内政で高齢者の神経を逆なでしている最たるものが、年金法案である。主に感情論で反発している傾向が強い。百年安心と言われて、せっせと高額な年金を支払い、やっと受け取れるようになったかと思えば、消費増税先延ばしの尻ぬぐいをさせられるという感情論だ。


しかしこの感情論は伝搬しやすいし、共感を得やすい。かつての消えた年金に匹敵した反発を招きつつある。もっともこの高齢者層の反発は、メディアが取り上げない。なぜなら新聞テレビの現役世代も、年金への不安が大きく、高齢者のことなど考慮しない傾向が濃厚であるからだ。世代間ギャップだ。従って高齢者の憤りは、潜行したまま選挙で爆発する仕組みとなっている。
 

先の参院選は野党の「環太平洋経済連携協定(TPP)は農村切り捨て」プロパガンダが成功して32の1人区では野党統一候補を善戦させてしまった。東北6県のうち秋田を除く5県や新潟など11選挙区で野党が勝った。前回はたったの2議席であったから大躍進だ。こんどは野党が「年金カット」を絶好の材料として、チャレンジすることは間違いない。


読売が、2014年衆院選の全295小選挙区で野党4党が候補者を一本化した場合の当落を試算したところ、最大で59の「逆転選挙区」が生じる可能性があることが分かった。与党は14年衆院選で326議席を獲得したが、憲法改正の国会発議に必要な定数の3分の2(317)を割り込む267議席となりそうだ。


59の逆転選挙区の内訳を見ると、公明党3に対し、自民党は56の減。自民の獲得議席数は計291(追加公認1人含む)から235まで減る計算だ。衆院の単独過半数(238)を維持できない。純粋な選挙技術的に見てこうなると予想されるのだ。これに「高齢者の反乱」が乗るから、さらにマイナス要素が加わる。 


自由党の小沢一郎は最近「年末か年始の衆院解散を前提に選挙準備を進めている。今後の1カ月で何としても野党の連帯の形をつくり上げたい」「野党4党が単純加算したら、それだけで自民党に勝つ。衆院早期解散を前提に今年中に連携を作り上げないといけない」と発言している。これは読売の調査を根拠にしたものだろう。自民党が惨敗した場合には安倍は「選挙の神様」のメッキがはげ、「ただの人」 となる。自民党内は「ポスト安倍」 勢力が動きやすくなる。
 

これを阻止する方法はただ一つある。それは15日のプーチンとの会談で北方領土が大きく前進することである。安倍は、先のプーチンとの会談の後「道筋は見えてきているが大きな一歩を進めるのは容易でない」「70年間できなかったわけでそう簡単な課題ではない」と、可能性を否定したが、これが会談の成果をプレイアップするためのフェークであった場合のみ、解散が可能になる。


日本の「2島返還、4島の帰属は日本」の主張が通れば、現議席維持も夢ではない。中曽根康弘の死んだふり解散に酷似した戦略だ。しかし、たとえ芝居であってもプーチンが参加しているとは思えない。だから解散の可能性は一割なのだ。現状維持するには解散を先延ばしにして、絶好のチャンスを待つか作り上げるしかないだろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月30日

◆次期韓国大統領選は「反日を競う」様相

杉浦 正章


慰安婦合意やGSOMIAへの影響が懸念される
 

朴槿恵は絶対外れることのない罠である「虎挟み」にかかった。遅かれ早かれ辞任することになるが、韓国政界では、早くもポスト朴に向けての動きが加速してきた。今のところ最大野党「共に民主党」前代表・文在寅(ムン・ジェイン)、来年1月に任期が終わる国連事務総長・潘基文(パン・ギムン)、城南市長・李在明(イ・ジェミョン)、第2野党「国民の党」前共同代表・安哲秀(アン・チョルス)らの戦いになる様相だ。


ただ野党が統一候補に絞る可能性もあり流動的だ。その政策は韓国大統領選に特有の「反日を競う」流れとなるだろう。首相・安倍晋三と朴槿恵がようやく築いた日韓和解という賽の河原の石積みは崩されかねない。慰安婦合意や11月23日に日韓両政府が締結した軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の履行に誰がなっても影響が出かねない情勢だ。
 

30日付け産経新聞は11月上旬の世論調査を例に取り、大統領選挙候補者の支持率は潘基文がトップと報じているが、ひどい誤報だ。記事は直近の調査で書くべきだ。韓国世論調査会社のリアルメーターが28日発表した調査結果によると有力候補の支持率は、文在寅が0.6ポイント上がった21.0%となり、4週連続で1位を維持している。潘基文は0.4ポイント下がった17.7%だった。李在明は1.0ポイント上がった11.9%となり、安哲秀を上回って初めて3位に浮上した。


潘基文は28日、国連日本人記者団との会見で「1月1日から韓国に戻り、母国のために私に何ができるかを友人や韓国社会の指導者と相談する」と述べ、出馬に含みを持たせたが、この世論調査では内心は複雑なはずだ。
 

朴槿恵を巡る疑惑が浮上する前までは、潘基文が次期大統領の最有力候補として支持率トップを独走していたが、ここになって急速に陰りが出始めた。最大の理由は与党セヌリ党の朴槿恵に近い勢力がバックアップしていることが問題化しているからだ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎しの状況に置かれているのだ。セヌリ党の支持率が大幅に下がって、これまで調査で1位を維持してきた潘の支持率も共に下落しているのだ。


トップの文在寅はその分得をしていることになる。一方最近めざましく進出しているのが李在明だ。その理由は日本を「敵国」呼ばわりする徹底した反日路線にある。「我々を侵略し独島(竹島の韓国名)への挑発を続けている事実上の敵国である」と明言している。その上でGSOMIAについて「日本に軍事情報を無制限に提供する協定であり、朴槿恵は大統領ではなく日本のスパイだ」と断じている。まさに「韓国版トランプ」との異名をとるだけあって、言動は候補の中で一番激しいが、訴求力は一番あるかもしれないダークホースだ。
 

支持率トップで前回の大統領選で朴槿恵に僅差で敗れた文在寅も、今年7月25日に竹島に上陸、芳名録に「東海の我が領土」と書き、日本外務省が抗議している。ばりばりの反日政治家である。潘基文も日本にとっては最悪の候補だ。国連内部の人事も韓国人ばかりを重用、国連職員組合が批判する文書を採択する事態。


ニューズウイークが「レベルの低い国連事務総長のなかでも際立って無能」と批判した。こともあろうに去年9月3日に北京で行われた「抗日戦争勝利70年」の式典に出席している。国連事務総長としてもバランス感覚など全く欠如しており、逆に事務総長の立場をフルに活用して事前運動を繰り返している。


事務総長は概して小国の政治家がなるが、韓国では世界を左右する人と誤解され、尊敬の対象だから度しがたい。安哲秀は左派のソウル大教授で54歳という若さが売りだが、他の3候補にリードされつつある。


こうした反日キャンペーンの傾向は、今後増幅しこそすれ後退することはあるまい。なぜなら、選挙戦に入れば「反朴」の主張は皆同じであろうから訴えても効果がない。従って、大衆に一番訴えやすいのは「反日」となるのだ。各候補が「反日競争」で選挙戦を勝ち抜こうとする誘惑に駆られるのは間違いない。これは誰がなっても反日政権が誕生しそうであり、日韓外交は再び賽の河原に置かれかねないのだ。


当面問題になるのは昨年暮れの慰安婦合意が滞りなく進められるかどうか。GSOMIAの履行が順調に行われるか。12月に予定している日中韓首脳会談が実現するかどうかなどに絞られる。慰安婦合意は既に日本が出した10億円で慰安婦への支給などが始まっているが、象徴となっている日本大使館前の少女像の撤去が進展するかというと、朴退陣後はまず絶望的ではないか。外相会談でも努力目標的な表現であり、朴退陣はいよいよ難しくさせるだろう。


GSOMIAについては、朴槿恵が批判をそらそうとして合意を早めた気配があるが、これがあだとなって野党の批判を増大させた。選挙戦では撤回論が出る可能性も十分考えられる。慰安婦問題合意やGSOMIAはいずれも国家間の合意、協定であり、本来なら新しい政府になっても変えることはあり得ないが、感情的な方向転換が早い国だ。何でもありと警戒しておくべき問題だろう。


安倍は毅然とした対応をすべきなのは言うまでもない。首脳会談も朴槿恵の出席はまず不可能だし、当事者能力もない。代理でやることも考えられるが、形だけの会談をしても実りは少ない。ここは当分様子見が正解ではないか。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月29日

◆自由貿易で日中対峙は不可避の兆候

杉浦 正章
 

TPPは高度の国家戦略で長期戦を
 

トランプは米国を再び偉大な国にできない。逆に中国を偉大な国ににしてしまう。それが環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る構図だ。トランプによって早期発効は困難となり、トランプが作る自由貿易の真空地帯を中国が埋めるか、日本が埋めるかの勝負になりつつある。


人民日報は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の早期締結に向けての主張を展開し始めた。RCEPをテコに米国抜きの弱体化したTPPを巻き込み、中国主導の貿易システムの構築を図る意図を次第に明らかにし始めたのだ。これはTPPが最も嫌う社会主義市場経済を柱に据えた貿易システムが環太平洋を支配することにほかならず、首相・安倍晋三は阻止しなければ中国に主導権を完全に奪われる。米議会の諮問機関の発表によると中国が濡れ手にアワで勝ち取る経済効果は880億ドル(約9兆6千億円)に達するという。
 

早くも17日の段階で人民日報の電子版人民網が中国の今後の戦略を説き起こしている。それによると@大統領選の勝者がトランプ氏だっただけでなく、共和党が上下両院で主導権を握ることにもなった政治情勢の下、オバマ大統領が議会でTPPを発効させることは不可能になったAバトンをつなぐのは誰かといえば、世界3位の経済大国の日本は、ほぼ準備ができているようにみられ、日本はTPPをめぐってリーダーの責任を果たす意志を明らかにした


Bアジア太平洋地域の二国間・多国間の自由貿易メカニズムには、いずれもリーダー役が必要であり、米国が政治的要因でTPPをあと少しのところで挫折させた今、中国はアジア太平洋地域一体化の推進でより多くの責任を果たさなければならなくなったといえるーとの戦略論を展開している。紛れもなく中国が主導権を握るべきとする論調だ。


そして人民網は、ペルーのクチンスキ大統領が、「米国を含まない新しい環太平洋経済協力協定を構築すべきだ」と延べ、オーストラリアのビショップ外相は、「TPPが進展できないなら、その空白はRCEPが埋めることになる」と発言していることをとらえてTPP内部崩壊の兆しを予言している。
 

こうした動きをとらえてか米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は16日公表した年次報告書で、TPPが発効せず、中国が主導しているRCEPが発効した場合、中国に880億ドル(約9兆6千億円)の経済効果をもたらすとの試算を紹介した。トランプの主張するTPP脱退が逆に中国の立場を強めると警告したのだ。
 

一方選挙中「就任初日にTPPから離脱する」と主張していたトランプは、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議による「あらゆる形態の保護主義に対抗する」という宣言に、まるで当てつけるかのように「就任当日に離脱を通告する」と再度明言した。度しがたい男はいっぱいいるが、度しがたい次期大統領は初めて見た。


トランプほど事の重要性を理解しないで発言する次期大統領は見たことがない。トランプの主張と異なり、米国の通商関係のあらゆるデータはTPPで雇用が失われると指摘しているものは一つも無い。さらにトランプはTPPの極東安保上の戦略的意義など全く認識の外だ。TPPは自由貿易の推進に加えて非関税障壁の撤廃に重点を置いており、国営企業を中心に社会主義市場経済路線を推進している中国の路線とはまったく合致しないのだ。


合致しなくて中国が入ることができないからTPPには中国包囲網としての効果があるのだ。にもかかわらずトランプは対中強硬路線を唱えながら、TPPの撤廃を唱えており、まさに小学生でも言いはばかる論理矛盾なのだ。
 

代替措置としてトランプは2国間交渉で自由貿易を進める方針を唱え始めたが、多数を相手にしては不利になるから1国づつ個別に籠絡しようという野心がすけすけで、乗る国は少ないことは自明の理だ。中国は対米輸出制限につながるから、安易には応じないだろう。米国では「箱を開けたら死んだ猫が入っていた」というブラックジョークがはやっている。


確かに実際に就任式のふたが開いたら、何をしでかすか分からない危険性のある大統領だ。しかし、中国にしてみればトランプの反TPP路線は願ったり叶ったりであり、まさに大統領選は棚から牡丹餅の幸運を中国にもたらすかに見える。


しかし、これに待ったをかけられるのはTPP賛同諸国ではGDPトップの日本の安倍しかいない。安倍はいわば「対中自由貿易論争」の先頭を切らざるを得ない役割が巡ってきているのだ。


従って今国会でのTPP批准は絶対に避けて通れない。女の淺知恵とは差別用語だから言わないが、蓮舫のように事態の重要性を理解せず言葉尻を捉えてニワトリが自分の前の餌だけをつつく質問を繰り返すような野党党首は無視した方がよい。蓮舫は、安倍トランプ会談が会うこと自体に効果があったことを全然理解していない。
 

安倍のとるべき戦略はまずTPP加盟国の批准を促し、外交ルートを通じて中国による分断工作に乗りそうな国々への説得工作を続けることであろう。そうして団結を維持して、トランプがようやく事態の何たるかを悟るまで待つ作戦だ。熟柿を待つのだ。


ホワイトハウスという場所はこれまでトランプが得ていた与太情報とは異なり、情報のレベルと質が格段に異なる正確な情報が上がってくるところである。その情報を分析すればするほどTPPの重要性を理解せざるを得なくなるのだ。
 

加えてRCEPでも、日本代表は社会主義市場経済の欠陥を露呈させて、RCEP主導でアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)へと発展させることにくさびを打つべきであろう。FTAAPは何らかの形で米国を巻き込んで、TPP主導で実現を図るべきであろう。トランプを説得してTPPは嫌でもFTAAPはいいと言わせるのも手かもしれない。


猿にトチの実を朝に三つ、暮れに四つやると言うと少ないと怒ったため、朝に四つ、暮れに三つやると言うと、たいそう喜んだという朝三暮四戦略である。ここは長期戦に持ち込み、中国の早期実現論にくさびを打ち込んだ方がよい。まさに高度の国家戦略が今こそ必要なときはない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月21日

◆経済テコの安倍北方領土戦略に壁ー日露首脳会談

杉浦 正章



安倍は慌てず長期交渉でプーチンを追い込め
 

まず経済協力先行のロシア大統領・プーチンと、あくまで経済協力と同時に北方領土返還を実現しようとする首相・安倍晋三がぶつかり合っているというのが俯瞰図であろう。そして60年間続いてきた北方領土交渉の原点で折り合いが付かなかった。つまり戦後のどさくさに紛れて日ソ中立条約を一方的に破棄して4島を占領したソ連の主張をプーチンが依然受け継いで「主権」の存在を譲らず、安倍の「帰属の問題を解決して平和条約締結」とする主張と折り合わなかったのだ。


経済協力をテコに事態を進展させようという安倍戦略は、壁にぶつかった。しかしプーチンの北方領土での「共同経済活動」の提案に、安倍が乗らなかったのは賢明だった。まだ入り口でぶつかっているようでは、先が思いやられる。来月15日の長門会談での決着はまず困難であろう。ロシアと言えば大国に見えるがGDPは韓国に次いで12位、日本の3分の1の国だ。ここはG7の原点にかえって、大盤振る舞いなどは行わず、経済制裁で締め付ける側に回らなければロシアの熊は痛痒を感じて妥協に出てこないのかもしれない。
 

日本側の発表は控えめで内容がつまびらかではなかったが、ロシア側の大統領府報道官ペスコフの発表内容は会談が相当厳しいものであったことをうかがわせる。プーチンは「日露の貿易が今年に入って前年比36%減少した」と指摘し「これは世界経済を取り巻く情勢とともに第3国による政治的な措置の結果だ」と述べたのだ。第3国は米国を指すことは言うまでもないが、まるで安倍がオバマの言いなりになっているかのような表現であり、儀礼を欠くこと著しい。
 

9月の首脳会談後安倍は「新しいアプローチに基づく交渉を具体的に進める道筋が見えてきた」と楽観的見通しを述べた。今度は打って変わって安倍は「道筋は見えてきているが大きな一歩を進めるのは容易でない」「70年間できなかったわけでそう簡単な課題ではない」と大きく舵を切った。「大きな一歩が容易でない」とは、4島返還は当初から無理だからさておいて、2島返還すら容易でないことを意味している。


何がネックになっているかと言えば、その最大のものは「主権」問題であろう。プーチンは明言を避けているが、その配下にある上院議長ワレンチナ・マトヴィエンコは「4島に対するロシアの主権は変わらない。主権を放棄することはできないと思う」と言明している。
 

これは4島の帰属問題解決を平和条約締結の前提とする安倍の主張とは真っ向からぶつかる。つまり、古くて新しい帰属問題が依然として交渉に影を落としているのだ。安倍は「2島返還+α」の「+α」にこだわっているに違いない。+αのポイントは、歯舞・色丹返還に加えて国後・択捉返還への可能性を残すことだ。それには歯舞・色丹のみならず、国後・択捉の帰属が日本にあることをなんとしてでも明示させなければならない。将来の返還に道筋を残す重要ポイントの一つだ。


しかしロシア側は4島すべての主権はロシアにあると主張して譲らない。歯舞・色丹も「返還」ではなく、56年宣言にあるとおり「引き渡す」なのだ。つまり「贈与」である。
 

プーチンは10月27日「期限を決めるのは不可能で、有害ですらある」と領土交渉が長引くことを示唆していたが、リマ会談の流れはその色彩をいっそう濃くするものなのであろう。プーチンはかつて経済的苦境のあまり領土交渉を「引き分け」と発言、柔道用語で日本側を誘い込んだが、最近では相手を釣り揚げて投げる釣り込み腰や、相手の力をフルに利用する巴投げなどを駆使し始めた。さすがに一筋縄ではいかない政治家である。そのこすっからさは群を抜いている。
 

この変化というよりは本音の露呈の背景には、主権問題に加えて、国後・択捉は、中国の軍艦が北極海航路でヨーロッパへと向かうことから、安保上の要衝となり始めたことが挙げられる。国後・択捉には軍隊を常駐させている上に、今後は軍港を建設する方針であり、ロシアにとって地政学上の重要性は増しこそすれ減少することはない。
 

さらに米国大統領選の結果が作用している可能性がある。プーチンはトランプのプーチン礼賛を評価しているのだ。トランプは9月7日に「プーチン氏が、私について良いことを語ってくれるなら、私もそうする。プーチン氏はわれわれの大統領よりもはるかに優れた指導者だ」と賞賛している。プーチンはこれを日本を引き込んでG7分断を図る必要もないと受け取ったフシがある。露米関係が好転すれば、西欧もこれに続くから、領土返還という政治的リスクをおかしてまで日本を利用する必要もないというわけである。


しかしトランプはその後10月5日に、「(プーチン氏を)愛していないが、ひどく嫌ってもいない。どういう関係になるのか、そのうちわかる」「良い関係を築けるかもしれないし、ひどい関係になるかもしれない。その中間かもしれない」と軌道修正していることに気付いていないのかもしれない。
 

さらにロシア側の主張は法的にも困難を伴うものが多い。例えば北方領土での経済協力先行論だが、返還または主権の確認なしにロシア領土で経済協力をする馬鹿はいない。ロシアの領有権を認めることになるからだ。これは日本が一番気をつけなければならない問題でもある。事実プーチンは安倍に「共同経済活動をしたい」と提案したが、安倍は応諾しなかったようだ。
 

まだ12月15日の会談で何らかの進展する可能性は否定出来ないが、いきなりエベレスト登頂を達成することは容易ではないだろう。安倍の深刻な表情は、長門会談でのサープライズ効果を狙った演技と見るにはほど遠いものであった。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年11月19日

◆トランプ外交にキッシンジャーの陰

杉浦 正章



 日米対中包囲網に懸念材料


TPPは“熟柿作戦”となろう
 

首相が外交指向であると言うことはいかにプラスが大きいかの左証となった。一年交替の首相では、外交は外務省ペースのみとなる。まず、安倍は世界の指導者に先駆けてトランプの本質を見極めたといえる。トランプの本質を見極めなければ世界で最初に会談するような“度胸”が出るわけがない。事実トランプは、打って変わった紳士的かつ礼儀をわきまえた会談であったと言う。


会談は安倍が「ともに信頼関係を築いていくことができると確信の持てる会談だった。私はトランプ次期大統領は信頼できる指導者であると確信した」と述べただけで、大きな成果があったとみるべきであろう。日本の株価が一時18000円を突破したことがすべてを物語る。これに日米同盟重視の方針が加わったことは間違いない。両者の笑いがそれを物語る。
 

この安倍による「信頼できる指導者」発言は世界を駆け巡った。選挙中の暴言で、外交的にも国内的にも「四面楚歌」であったトランプにとってみれば、救いの神であったに違いない。米国内でも日本は好感度の高い国であり、その指導者の発言となれば、少なからぬ影響を及ぼしたであろう。安倍は個人的信頼関係を世界の指導者に先駆けて得たことになる。習近平も韓国外交も顔色なしということであろう。
 

安倍は記者会見で日米同盟を基軸とする日本の外交安全保障政策など、基本的な考え方を説明したとしたうえで、「さまざまな課題について話をした」と述べた。この言葉から探れば、まず極東の安全保障問題に言及した可能性がある。中国の海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル実験、韓国の政情不安など同盟関係を揺るがす激動期にある北東アジアに関して、安倍が「解説」抜きで終わらせたことはあり得まい。


トランプもおそらく外交・安保がテーマになることを意識したのであろう。数少ない同席者に元国防情報局長で国家安全保障担当大統領補佐官への就任が予定されるマイケル・フリンを選んでいる。中東専門家でアジア情勢のプロではないが最近の来日で、状況は把握している。安倍は対中包囲網堅持の戦略にも言及した可能性がある。
 

トランプがどう答えたかも藪の中だが、一つ推測の道がある。それは、トランプがニクソン政権時代の特別補佐官で、1971年には対中隠密外交で米中和解への道筋を付けたキッシンジャーを師と仰いでいることである。キッシンジャーは、ニクソン外交を取り仕切り、国務省などと激しい権力闘争に勝って、ニクソン政権では国家安全保障会議(NSC)が外交政策の決定権を独占した。


トランプはそのキッシンジャーの自宅を今年5月18日に訪問、米国の外交・安保方針について勉強している。訪問以前も訪問後もたびたび電話で教えを乞うている。傍若(ぼうじゃく)無人のトランプがキッシンジャーに関してだけは「キッシンジャー氏を尊敬している」と述べている。その発言がキッシンジャーの発言とも微妙な一致を見せているのも無理はない。
 

まず最近のキッシンジャーが何を言っているかだが、読売とのインタビューで安倍について「安倍首相は強力な指導者だ。日本も他の国と同様、勢力均衡の新たな変容を受け、外交を適応させていくことになる。首相のもとで日本外交は、より幅を広げていくことになるだろう」と発言している。おそらくトランプにもそう語ったに違いない。影響を受けて遊説中にトランプは「安倍は米国経済にとって“殺人者”だ。ヤツはすごい」と発言している。「強力な指導者」がトランプ語では「ヤツはすごい」となるのだ。
 

北朝鮮に関してトランプが金正恩について、「彼は頭がおかしいか天才か、どちらかだ」と分析しているが、これもキッシンジャーの分析ではないか。トランプはロイターとのインタビューで5月17日に「私は金正恩と話をしたい。何の問題もない」と発言しているのは、周恩来との秘密会談で、日本の頭越しのニクソン訪中を実現させ、米中和解へと導いたキッシンジャーの手法に酷似している。行き詰まりをトップが自ら解決する手法だ。
 

そこで、対中政策についてキッシンジャーが何を語っているかだが、読売には「中国を囲む国々を見ると、それぞれ米国と協力することで均衡を保てる状態である。むろん、日本とインドは、強力な国だが。米国は今後も、アジア太平洋の国として扱うべきであろう。ただ、私は中国に対して、包囲網を作ることには反対する。米中関係のみを基軸とした外交政策にも賛同しない」と、述べている。


この見解をトランプがインプットされているとすれば、安倍に語ったかどうかは分からないが、トランプは対中包囲網に消極的である。これは極東の安全保障体制の一大転換に直結する流れとなるが、国務・国防両省はほとんど確実に路線変更には大反対であろう。実現するかどうかはまず困難と見る。
 

さらに安倍の言う「さまざまな課題」の一つがTPPであっただろう。安倍の説明は極東安保に不可欠な存在としてもTPPの必要性を強調した可能性が高い。中国の力を過大なものにしてしまうという懸念である。しかし、「就任初日にTPPから離脱する」と発言していたトランプは、おそらく聞き置くことにとどめたかもしれない。


ここは鮮明に立場を打ち出す場面ではあるまい。米国抜きでもTPPを推進することは可能だし、トランプがどう出るかについては「変化」への選択肢を安倍が示したことは間違いない。従ってこればかりは“熟柿作戦”でいくしかあるまい。

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年11月17日

◆米国で始まった“暗殺者”との戦い

杉浦 正章



どこから弾が飛ぶか分からない事態
 
撃たれた大統領ロナルド・レーガンが手術前に医師たちに「あなた方がみな共和党だといいんだがねえ」とジョークを飛ばし、医師は「大統領、今日一日は我々は皆共和党です」と答えた逸話は有名で記憶に新しい。その物騒なアメリカで第45代大統領になるドナルド・トランプに対する暗殺予告がツイッターなどネットに次々に投稿されている。昔筆者が愛読したニューヨークの大衆紙ポストは「急増する暗殺予告にシークレットサービスが、一つ一つ捜査に乗り出している」と報じている。


本当かどうかつぶして回っているらしい。実際トランプは遊説中のネバダ州で、演説中に群衆に狙われSPに保護された映像がYouTubeに公開された。聴衆の1人が「ガン!」と叫んだのが切っ掛けで、トランプは演説を中断、SPに囲まれるようにして演壇を離れた。


物語るのは今回の大統領選の作り出した米国の憎悪と分断の構図が戦後の政治史上類を見ないほど高まっていることであろう。ニューヨークのトランプタワーの前には連日デモが押しかけ、カリフォルニア州など各地で暴力沙汰に発展している。全米各地でトランプに投票したというだけで、殴られるという暴力事件が多発している。そうした中で一部異常者の中には、大統領暗殺で後世に名前を残したいという“願望”が一段と募っていることが、ネットへの書き込みの多さからうかがえるのだ。
 

トランプは防弾チョッキを常時着用しているといわれ、トランプタワーから半径3.7キロは飛行機もドローンも進入禁止となっている。もちろんシークレットサービスも大統領並みの警護を展開している。


シークレットサービスが大統領候補の警備を本格化させたのは、1968年に大統領選でジョン・F・ケネディの弟ロバート・ケネディが、キャンペーン中のカリフォルニア州ロサンゼルスで暗殺されて以来といわれる。実際米国の政治史は「大統領が暗殺者と戦う歴史」でもある。


米国史上暗殺された大統領は4人いる。第16代のエイブラハム・リンカーンに始まって、第20代のジェームズ・ガーフィールド、第25代のウィリアム・マッキンリー、そして第35代のケネディに至る。凶弾を受けて助かった大統領は2人で、第7代のアンドリュー・ジャクソンと第40代のロナルド・レーガンだ。2人を含めた暗殺未遂事件は10件。発覚した暗殺計画を加えれば16人が狙われている。
 

レーガンは医師に「共和党か」と尋ねたが、暗殺された大統領4人のうち、民主党のケネディをのぞく3人が共和党だった。それに奇妙なことに5代ごとに凶弾を受けている。第20代のガーフィールド以降は第25代、第30代は飛ばして、第35代と続き、第40代はレーガンだ。そしてトランプは第45代となるのだ。まさに4度あることは5度あるかもしれないと思えてくる運命のいたずらだ。
 

選挙期間中は逆にトランプに対してクリントン側が「暗殺を教唆扇動した」と激怒する事件が起きている。なんとトランプが8月9日のノースカロライナ州の集会で、銃規制を推進しようとしているクリントンを批判して「銃保有の権利を支持する人々が、民主党候補クリントン氏の当選を阻止するために、できることがあるかもしれない」と発言したのだ。


トランプは演説の中で、クリントンが本選挙で勝ち、大統領としてリベラル派の最高裁判事を指名すれば、「武器所有の権利を認める米国憲法修正2条は廃止されるだろう」との見解を表明。その上で「そうなったら、もうお手上げです。でも修正第2条の廃止に反対の人々にはできることがあるかもしれない、私にはわからないけれど」と述べたのだ。まさに映画ゴッドファーザーでマフィアの親分が抗争相手の殺害を子分に言い渡す時のように、それとなく表現している。
 

こうしてシークレットサービスやFBI、CIAなど捜査当局と暗殺者との戦いは幕開けとなった。戦いは長期化するが、今回の場合の特徴は国論の分裂が深刻かつ根深く、どこから弾が飛ぶか分からないことだ。警備の警官や軍人だって何をするか分からない事態である。


武器は銃社会だけあって、これまではすべて拳銃かライフルであったが、多様化している。スナイパーライフルM24の有効射程は800〜1500メートルで、M82の有効射程は1800メートル。相手が見えないところから弾が飛んでくるのだ。ホワイトハウスのガラスはもちろん防弾だ。トランプタワーのガラスも防弾にするだろうが、ロケット弾という手法も考えられる。


加えて航空機など空からの攻撃や、ドローンが一般化しており、攻撃に利用することもあり得ないことではない。それこそトランプは枕を高くして眠れない日々が続くのだろう。

【筆者より 明日から28日まではニュース次第で随時送稿します。午前7時頃までに送稿がなければ、その日の送稿はありません。再開は29日から。】

      <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年11月16日

◆安倍、トランプと同盟重視・自由貿易維持を確認へ

杉浦 正章



TPPは対中戦略から説得の構え


「君子は豹変すだ。国や国民のために、メンツを捨てて判断することが指導者に求められる姿勢だ」 ー首相・安倍晋三は参院でトランプの変わり身の早さをこう表現した。確かにトランプは当選以来がらりと現実路線に転換し始めている。安倍はそのトランプと主要国首脳ではおそらく初めて17日に会談する。会談がどうなるかはまだ推測しかできないが、首相の国会答弁とトランプの現実路線転換を根拠にすれば、おそらく安保問題では日米同盟の重要性を確認、対中包囲戦略は維持の方向となろう。


経済では少なくとも自由貿易体制維持の方向を確認できるだろう。関連して環太平洋経済連携協定(TPP)の扱いが焦点になるが、トランプ側は柔軟ともとれる兆しを見せ始めている。当選後「就任初日にTPPから離脱する」と言う表現は影を潜めた。
 

気をつけなければならないのは、安倍がトランプと会談する最初の首脳となれば会談内容は米メディアも注目し、報道されるだろう。しかし米国社会は分断状態にあり、日系人までが「国に帰れ」と迫害を受けるケースも生じている。安倍が送った祝辞のように、トランプをベタ褒めすれば、日系人や米国駐在の日本人がとばっちりを受けかねない情勢であり、会談内容の発表は慎重にした方がよい。
 

トランプが「君子」かどうかは別として大きく現実路線にかじを切りつつある。まるで有権者を裏切る“選挙サギ”のようである。


まず選挙中の「不法移民は全員送還」は「犯罪歴のあるものやギャングは国外退去。残る移民はすごくいい人」。「メキシコ国境に壁」→「フェンスも認める」。「中国製品の関税45%」→習近平に「米中関係はウインウインが実現できる。あなたとの関係を強化したい」。「日本や韓国が核兵器を持つことを容認」→「私はそんなことを言ったことはない。言ったなどということはなんと不誠実なことだ」などといった具合だ。
 

就任後最初に離脱するといったTPPが焦点だが、ホームページから離脱の文字を削除した。政権移行チームが発表した政権公約概要にはTPPは盛り込まれていない。これらの“兆し”が、方向転換を意味するものか、妥協策かはまだ不明だが、少なくとも日本の学者や三流コメンテーターが口をそろえて「もう駄目」と言っている状態ではない。


安倍も「たいへん厳しい状況だが、まだ終わっているわけではない」と延べ、なお日本主導の発効へと努力する方針だ。TPP加盟国の“巻き返し”も始まっている。まず、ニュージランドが議会で批准した。オーストラリア首相のターンブルが、電話で、トランプに「TPPは、アメリカの国益につながる」と再考を促した。メキシコのように発効要件を変更して「米国抜きの発効」論も出始めている。ペルーには「中国ロシアを含めた協定」を主張する動きがある。少なくとも加盟国は保護貿易主義の排除では一致しつつある。


安倍としてはペルーでのASEAN首脳会議の際にTPP加盟国首脳会合を開催、オバマとともに大きな流れをTPP再構築に向けて取り戻す方針だ。こうした中で、安倍が対トランプでどう動くかがTPP発効に向けての最大の焦点となるが、15日のTPP特別委の発言を見ればかなりスタンスが明確となっている。日本維新の会石井章が巧みな質問で内容を引き出している。
 

まず安倍は会談後公表するかどうかは別として、TPPでトランプを説得する姿勢だ。「TPPは米国にとっても極めて有意義との理解が広がることを期待する。ぜひ米国にも批准してほしい」と述べ、トランプを説得する意向を示した。さらに安倍は基本戦略として中国主導の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)へと重心が移行することに懸念を示した。


日本はもともと将来的な構想として、TPPとRCEPとを合わせた「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)」の実現を目指しているが、TPPが挫折すればその主導権を中国に取られかねない懸念がある。安倍は「民主主義を共有する国が決めたTPPがスタンダードになることが望ましい。そうなならなければ重心がRCEPに移行し、果たしてTPPで決めた国営企業制約のルールなどが入るかどうか。基本的にはTPPが発効してRCEP、FTAAPへと発展することが望ましい」 と発言したのだ。
 

この基本的構図は、TPPでのトランプ取り込みの基本戦略となる可能性があるのだ。トランプは複雑な事情は知らないだろうが、安倍は構図をまず植え付けて、中国の出方をけん制する必要があるのだ。トランプが中国寄りに米国の路線を転換させてしまえば、TPPのみならず東・南シナ海での日米共同歩調の安全保障体制にも大きな影響が生じ、中国は事実上海洋進出を成し遂げてしまう危険がある。


従って安倍はトランプとも日米同盟の重要性を確認して、対中包囲網の継続を推進するよう説得することになろう。トランプも同盟の重要性は理解する方向であろう。その意味で安倍がトランプと習近平より先に会談することは大きな意義がある。最初から強調しているようにジミー・カーターも、自らの公約として掲げた在韓米軍の全面撤退を1年半にわたって実行に移そうとしたが、国務・国防両省と議会の反対にあってあきらめている。外交を知らないレーガンも、見事な外交を展開した。


ホワイトハウスとはどんな人間の特異性も制御し、全体のバランスを重視するフツーの大統領に“育成”する特異の場所なのだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月15日

◆“実績”優先の南スーダン新任務

杉浦 正章



普通の大国は“物見番”しか出していない
 

あえて火中の栗を拾うことになる。政府は15日の閣議で南スーダンに派遣する部隊への安保法制を適用することを決める。駆けつけ警護である。運用基準は、何重にも「あれはしない。これもしない」とまるで「何もしない」方針を打ち出している。しかし、先進7カ国(G7)が軍隊派遣をためらい、専門家の多くがジェノサイド(大量殺戮)が起きると予言する内乱状態の国で、戦後初の「戦死」 を覚悟の新任務付与であることは間違いない。


筆者が大賛成した安保法制は極東の危機なら、いくらでも適用すべきだが、地の果てで、泥にまみれて安保法制適用の既成事実を打ち立てるのは、実績作りが先行しているとしか思えない。一見、“普通の国”への変貌を目指しているかのようにも見えるが、普通の大国は“物見番”の類いしか出していない。これでは“普通の国” どころか“特殊な国”になってしまう。
 

13日NHKの討論で防衛相・稲田朋美が発言した事実誤認というか我田引水には驚いた。「今62か国が南スーダンの国作りに参加していて、一国たりとも撤収していない」 と発言したのだ。これはあたかも62か国すべてが軍隊を出しているかのような国民誤導発言だ。政府の作成した「派遣継続に関する基本的な考え方」 でも「国連 安保理常任理事国の米国、英国、ロシア、中国」を派遣国ととして高らかにうたっている。


しかしその実態は米国は軍事要員3人、警察官9人、英国は軍事要員9人、カナダは、軍事要員4人、専門要員4人、ロシアは軍事要員3人、警察官20人だ。いわゆるG7の中では、日本だけが数百人規模で軍事要員を出している。おおむね外貨稼ぎの発展途上国の軍隊だ。
 

こういう世論誘導は政府の信頼にも関わる問題であり、政治が最も慎まなければならないことであるのは言うまでもない。しかし世界でも最も知性に長けた国民世論はこうした誘導には引っかからない。NHKの世論調査では、「賛成」が18%、「反対」が42%、読売の調査も駆けつけ警護などの新たな任務を、「加えるべきだと思わない」が56.9%で、 「加えるべきだと思う」の27.0%の倍以上となった。


国民の意識の根底には何で自衛隊員という国民の1人を南スーダンくんだりで、少年兵に向かって弾を打ち、身の危険をさらさせなければならないのかという疑問があるのだ。
 

政府は南スーダンの情勢について「副大統領は国外に逃亡しており、副大統領派は国に準ずる組織ではなく、大統領派との武力紛争は当面予想されない」との立場である。「紛争」となれば憲法9条の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」にもろにぶつかるから“紛争”であってはならないのである。


首相・安倍晋三はあくまで「衝突」であるとしている。しかし、たった7時間の滞在で「視察」を終えた稲田と異なり、現地を見た専門家の反応は全く見解を異にする。
 

現地調査を行った国連の事務総長特別顧問アダマ・ディエンは、11日、首都ジュバで記者会見し「対立は激化しており、民族紛争が起きかねない状況だ」と述べた。加えて、このままでは「政治的に始まった争いが変容し、全面的な民族紛争になる恐れがある。民族間の暴力行為が激しくなり、ジェノサイド(大量虐殺)となる危険がある」と警告した。さらに「7月に首都ジュバで起きた政府軍とマシャール前副大統領派の衝突以降、異なる部族間で極端な対立が生まれていることが確認できた」と指摘している。


一方スタッフを現地に派遣して調査した国際協力NGOセンター理事長谷山博史はNHKで、現地の事態は「紛争と認める」と述べるとともに7月のジュバでの紛争については「鶏を殺すように子供を殺した。実際の死者は300人どころか1000人に上る」と指摘している。要するに法的解釈は「紛争」ではないにしても、その実態は紛争である色彩が濃厚だ。少なくとも現状ではPKO派遣5原則がすれすれでセーフとなっても、すぐに抵触しかねない状況に発展しうるのが実情であろう。安倍は「戦死などというおどろおどろしい事態にない」としているが、「おどろおどろしい事態」はこれから始まりそうなのである。
 

実績作りを目指す政府も「政権直撃」を回避するため、必死になって自衛隊が「何もしない」方針を徹底しようとしているかに見える。


まず活動範囲を首都ジュバとその周辺に限定する。武装集団が国連職員を襲った場合は、現地治安当局とPKOの他国歩兵部隊が対応する。他国の軍隊や軍人を救出する事態を想定しない。宿営地の共同防護は、自然的権利であるとして実施計画には盛り込まないが、自衛隊のリスクを軽減するので付与することを確認する。などなどであるが、邦人保護には当たるとしている。


しかし邦人には避難命令が出ており、大使館職員などに限定されることになるだろう。安倍は渡るべき「危ない橋」に二重三重の“補強工事”をして、何が何でも実績作りに邁進する方針だ。こうして地の果て発の「政権揺さぶり材料」が、一つ増えることになる。あらぬ方向からタマが飛んでくる可能性があるのだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月11日

◆安倍はTPPで「トランプ教育」の先鞭をつけよ

杉浦 正章



保護主義は米国経済の命取りだ
 

たしかに世の中には道理のわかる者もいるが 、分からない者もいる。「盲千人目明き千人」とはよく言ったものだ。トランプと野党だ。これに古来まれな野党による“対米追随路線”が加わってはどうしようもない。


環太平洋経済連携協定(TPP)の衆院本会議採決で民主党代表・蓮舫が「TPPがどうなるか分からないのに強行採決するのは恥の上塗り」、幹事長・野田佳彦も「新大統領にけんかを売ることになりかねない。世界の笑いものになる」と発言。共産党委員長・志位和夫に至っては「地球儀俯瞰(ふかん)外交と言いながら、世界の動きが全く見えていない」と首相・安倍晋三を“侮辱”した。


筆者から言わせれば、これらの発言こそが「恥の上塗り」「世界の笑いもの」「全く見えていない」 そのものだ。TPPの採決で批准のめどが立ったことは、日本が世界の自由貿易体制推進の“旗頭”となったことを意味する。野党はそれが今後の重要な展開を内包していることが分かっていない。安倍は対米追随から離脱して、信念に基づいた行動をしたのだ。これはトランプに対する大きなプレッシャーにもなる。
 

もちろんTPPの前途は定かではない。トランプが「就任初日にTPPから離脱する」と発言すれば、米上院共和党トップの院内総務マコネルは9日の記者会見で、TPPについて、「年末の議会で採決することは、まずない」と述べた。


これはオバマが極秘裏に安倍に約束した任期中の処理がきわめて難しくなったことを意味する。だからといって日本までが批准を断念したらどうなるか、自由貿易の火は消え、世界は保護主義の波に覆われ、世界経済に甚大な影響が生じるのだ。そういう寸前暗黒の海原に日本は灯台の灯をともしたのだ。
 

民進党は世界の経済史を勉強し直した方がよい。自由貿易の推進役が必ずしも米国ではないことが分かる。アジア太平洋経済協力会議(APEC)は日本の提唱によって結成されたものである。APECは開かれた地域協力によって経済のブロック化を抑え、域内の貿易・投資の自由化を通じて、多角的自由貿易体制を維持・発展させてきた。アメリカは当初は関係していない。「アジア太平洋」という概念が最初に打ち出されたのは、日本財界の雄として国際的な民間経済外交に先鞭をつけた永野重雄が1967年に発足させた太平洋経済委員会である。


これに基づき1978年、時の首相大平正芳が就任演説で「環太平洋連帯構想」を打ち出したのだ。これにオーストラリア首相のマルコム・フレイザーが賛同、両者で推進した結果、APECへと発展したのだ。アメリカは「日本に追随」して後から付いてきたのだ。
 

従って気まぐれトランプが離脱すると言ったからといって、これを金科玉条として反対することは、米国に対する盲目の追随でしかない。だいいち最初に交渉を決断したのは野田自身であることを忘れてはいけない。ご都合主義は野党の特徴だが、これほど手前勝手な反対論は聞いたことがない。
 

トランプが愚かなる自らの主張が、米国経済を直撃するものであることに気付くまで待つ必要もない。安倍はアメリカ抜きで経済圏を形成してゆけばよいのだ。TPPのバリエーションはいくらでもある。昨日も書いたが、安倍のイニシアチブでTPPを米国抜きで見切り発車させるのも一方法だ。日米の存在が不可欠としている規約など修正すればよい。TPPを踏み台としてより大きな自由貿易圏へと発展させることも可能だ。


もともと日本は、将来的な構想として、TPPとRCEP(東アジア地域包括的経済連携)とを合わせた「FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)」の実現を目指している。まさに世界最大の経済圏である。中国と日本を中心に進められているRCEPは、日本・中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・インドの6カ国がASEANの10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)との自由貿易協定を束ねるものだ。交渉が難航し、年内の合意は断念したが、なお結成努力は続けられている。TPPは米国抜きでも踏み台にはなり得るのだ。
 

トランプは自らが「貿易戦争を」主張していることに気付いていない。米国が保護主義に転換し高関税政策を導入。これに各国が対抗措置を取れば、世界は完全に貿易戦争のパターンである。これによって、米国経済は2019年にマイナス成長に陥り、約480万人の雇用を失うと指摘するシンクタンクもある。


TPP採決は貿易や投資の自由化で経済を活性化させ、世界の経済成長を取り戻すという崇高な意味があり、政府・与党の対応は野党が主張するように間違っていない。安倍は17日のトランプとの会談で堂々とTPPを持ち出し、その必要性をじゅんじゅんと分かりやすく説く必要がある。TPPには海洋進出を繰り返す中国への包囲網を結成するという安保上の意義もあり、「トランプ教育」の先鞭(せんべん)をつけるべき時だ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月10日

◆安倍なら“暴走馬”トランプを調教できる

杉浦 正章



TPPは安倍イニシアチブで生存させよ
 

知日派の政治学者マイケル・グリーンがかつて「トランプ氏の発言は米政府の政策にはならないと思う。まずトランプ氏に賛同し、政策の実現を手伝う機関が全くない。裁判所、議会、シンクタンク、メディア、軍など、多くの機関が彼を妨害するだろう」と分析していたが、その通りだろう。1977年に大統領になったジミー・カーターも、自らの公約として掲げた在韓米軍の全面撤退を1年半にわたって実行に移そうとしたが、国務・国防両省と議会の反対にあってあきらめている。


大統領になったからといって、何でもできるものではない。米国は、これに司法が加わる三権分立の見本のような国である。各国首脳で、この暴れ馬のようなトランプを“調教”できるのはアジアのみならず、西欧諸国を加えても首相・安倍晋三が白眉の存在だろう。安倍にはその責任は大きい。
 

その意味で早々に「祝辞」を送ったのは適切であった。ただその中で「トランプ次期大統領は、その類い希(まれ)なる能力により、ビジネスで大きな成功を収められ、米国経済に多大な貢献をされただけでなく、強いリーダーとして米国を導こうとされています」 のくだりは、いささか褒めすぎと思えるが、安倍には安倍の理由があるのだろう。


つまりトランプは名指しで「安倍は米国経済にとって“殺人者”だ。やつはすごい」 「安倍はキャロライン・ケネディを接待漬けにしてアメリカに打撃を与えた」などと発言している。


加えて安倍はトランプが当選すると思わなかったからクリントンとだけ9月に会談をしている。ツイッターにはこの祝辞に対して「おぞましい阿諛追従(あゆついしょう)のオンパレード」という批判があるが、膨張政策の中国と、核どう喝の北朝鮮という極東の安保戦略の高見から俯瞰すれば、どうしてもトランプをまず籠絡(ろうらく)する必要があることが分かっていない。


トランプのような男は、うまくおだてて、自家薬籠中の物にしてしまえばいいのだ。相手は商売人で計算高い。自分の利益にならないと見れば臆面(おくめん)もなく方向転換する。
 

元国務副長官で日本の味方であるアーミテージは「就任最初の年は日本やアジアにとって厳しい年になるかもしれないが、安倍首相であれば日米関係の重要性をトランプ大統領に知らせることができるだろう。首相はアメとムチを使い分けてトランプと対話ができるだろう」と述べているがその通りだ。その自家薬籠中にする秘策だが、表立ってやる必要はない。


グリーンの言う議会や政府機関などに、これまで養ってきた日本の持つ人脈をフルに活用した工作をすぐにでも展開することだ。もちろん政権移行チームに対する働きかけが必要なことは言うまでもない。大使館だけでは人員が足りないだろうから、過去に米国に駐在した優秀な外交官や政財界の人脈をフルに活用して、トランプの先手を打つことだ。その先手必勝の対象となる問題を列挙すれば、トランプの無知蒙昧から生じている軍事費分担論、日本の核武装論、TPP(環太平洋経済連携協定)などである。
 

トランプは軍事費分担について「日本が米軍駐留経費の負担を大幅に増やさなければ在日米軍の撤退を検討する」のだそうだ。トランプは在日米軍が単に日本防衛だけでなく米国の世界戦略に不可欠な存在であり、米国を利することを知らない。おまけに米軍の極東展開は5年間に9465億円の「思いやり予算」に加えて、基地周辺対策費などで年間なんと6710億円に達する日本の負担で成り立っていることを知らない。


米国防総省の報告によると日本の米軍駐留経費の負担率は74・5%で、ドイツの32・6%、韓国の40%と比べて遙かに高い。いまや日本の負担と基地提供なしに米国の世界戦略は成り立たないのだ。無知も甚だしいのである。従って防衛費のさらなる分担要求などにびた一文も応じてはならない。
 

日本の核保有論について、トランプは「北が核を持っている以上日本も核を持った方がいい」と発言したが、これも無知蒙昧の極み発言だ。安倍が仮に「それでは検討しましょう」と発言すれば、国務・国防両省は真っ青になる。日本が核大国として登場すれば、真珠湾攻撃をした国だ。いつ核ミサイルが飛んでくるか分からない恐怖感にさらされることになる。


北朝鮮の核ミサイルはホワイトハウスを狙ってもキューバに落ちるようなたぐいのものだが、日本のミサイルはホワイトハウスの大統領執務室でもを狙うことができるようになる。要するに米国の核戦略が根本から変更を迫られることになるのだ。そんなことを米国の官僚組織やシンクタンクが勧めるわけがない。「保有してもいいんでしょうか」と防衛相・稲田朋美あたりにに言わせても面白い。
 

TPPだがトランプは「私はTPPから撤退するつもりだ。TPPによってアメリカの製造業は致命的な打撃を受ける」と発言した。そうだろうか。そもそもTPPを提案したのは米国ではないか。自由貿易によるメリットは米国にとっても計り知れないものがあり、米国の製造業にとってもチャンスとなり得るのだ。


安倍が、10日に衆院を通過させる決断をしたのは正解であり、成立のめどが立つことになる。おそらく日本先行の展開はオバマとの“密約”が背景にあると思うが、今度はオバマに実行を堂々と迫る必要がある。しかし現実的にはオバマが議会で批准させることは難しいし、批准してもトランプは拒否権を行使するだろう。問題はその後だ。これで諦めてはならない。


米国抜きでもTPPを発効させるリーダーシップを安倍はその他の加盟国に発揮するべきだろう。規約を変えてとりあえず発効させてトランプがTPPの必要性に気付くのを待てばよい。見切り発車だ。70歳のトランプが激務を二期勤められるかどうかという問題がある。国内の対立は激しく、反トランプのメデイアが暴くウオーターゲート事件の二の舞のような事件もあり得る。敵を作りすぎたトランプは4年待たずに不慮の事故の可能性も除外できない。


従ってこのTPPの枠組みは安倍イニシアチブで何らかの形で生かし続けることが必要だろう。おそらくトランプは1年もたてば「反日」の旗をまず降ろさざるを得なくなるだろう。

<今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月09日

◆北方4島帰属に玉虫色決着説台頭

杉浦 正章



「返さずぶったくり」の危険も内在


 北方領土交渉が鼎(かなえ)の沸くごとき状態となってきた。ロシア経済分野協力担当相・世耕弘成は訪ロで経済協力を協議。国家安全保障局長の谷内正太郎が8〜10日の日程でロシアを訪れ、プーチン側近のパトルシェフ安全保障会議書記とモスクワで会談、日露首脳会談に向けての最終的な詰めを行っている。首脳会談は18日からのペルーのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談の際と、12月15日の山口会談の2回行われる。


 極秘で進められている日露交渉の内容は明確になってはいないが、大きな潮流は4島のうち国後・択捉については継続協議とし、歯舞・色丹を先行返還させ平和条約締結に結びつけることができるかどうかに絞られているかのようだ。その際「国後・択捉の帰属は日本」とできるかどうかが最重要ポイントだが、日露の主張は激突しており、玉虫色決着説も台頭している。


 日ソ、日露交渉の概略は56年の歯舞・色丹返還に関する共同宣言のあと、93年は「4島帰属の問題を解決して平和条約を締結する」と東京宣言が出されたがそのまま。98年には橋本龍太郎がエリツインに「4島の北に国境線を引き、当面はロシアの施政を認める」 という「川奈提案」を提示。2001年に森喜朗がプーチンに歯舞・色丹と国後・択捉を分けて話し合う同時並行方式による段階的な返還を提案して今日に至る。


 一連の会談で注目すべきは森・プーチン会談であろう。内容は極秘となっているが、@歯舞・色丹引き渡しの協議を進めるA国後・択捉の主権は日本にあるかロシアにあるかについて継続協議をするーの2点にあるようだ。首相・安倍晋三は当時、官房副長官として関与しており、これを起点とする交渉を進めているに違いない。


 ところが最近になってロシア側による対日けん制が激しくなってきた。プーチンが「条約交渉の締結期限を決めるのは不可能で、有害だ」と発言すれば、来日した露上院議長マトビエンコは安倍との会談後「日露間で島を引き渡すような議論はしていない。法的な根拠がないからだ。ロシアの主権は変わらない」と述べたのだ。


 明らかにプーチンは日本のペースでことが進展すれば、自らの80%にのぼる支持率に影響が生じかねないことを危惧しているのだろう。したがってマトビエンコ発言もプーチンの意向を受けたものに違いない。


 こうした発言から見れば水面下の交渉の焦点は、4島の帰属を日露いずれとするかに絞られていると見ることが可能だ。日本側の建前は4島の主権(帰属)は日本にあるという線を何としてでも貫きたいのである。ソ連が終戦のどさくさに紛れて日ソ中立条約の有効期間中に、一方的に破棄して4島を略奪した歴史的経緯を見れば当然だ。


 ロシア側は現実に主権はロシア側にあり、日本に渡すことはあり得ないという立場である。従って56年宣言以来の2島返還も、歯舞・色丹の主権を維持しつつ日本側に「贈与」する立場だ。 


 国後・択捉に至っては返還どころか軍事基地化の様相を強めている。中国が東・南シナ海に加えて北極海にも進出し始めているからだ。中国の戦艦が最近頻繁に大連から日本海を抜け千島を横切って北極海経由でヨーロッパに向かうケースが生じている。これを安保上の問題ととらえてロシアは、千島列島中部のマトゥア島(日本名は松輪島)で新しい海軍基地の建設を今年中に着手する方針を決めている。


 国後・択捉に3500人駐屯させている軍隊も増強する方向のようだ。中国の覇権へのけん制が主目的であるとみられている。従って国後・択捉の主権を認めるどころか、自ら主権の“強化”に取り組んでいることになる。


 従って国後・択捉返還などは夢のまた夢であるのが現実であり、首相・安倍晋三は交渉を進めるにはもっぱら「歯舞・色丹返還+α」に基点を置かざるを得ないのが実情だ。その歯舞・色丹すら主権はロシアにあるが「贈与」するというのでは、日本のメンツは全く立たない。


 従って日露交渉は「決裂」の危機すら内包しているのが実情だろう。プーチンが平和条約の締結交渉の期限を切らないのは狙いが経済協力の先取りにあるからだ。「やらずぶったくり」ならぬ「返さずぶったくり」の様相すら垣間見える。


 こうした中で様々な打開構想が生じている。安倍もプーチンも国内的なリスクを抱えることでは立場は同じであり、リスクを回避するには、会談では帰属問題に深い言及を避け、国内的にはそれぞれが独自の説明で切り抜ける方策だ。歯舞・色丹については日本は国民に「返還」と説明し、ロシアは国民に「贈与した」と説明するという便法だ。


 これなら異論は封じやすいかもしれないが、高度の政治決断が必要となる。まさにラクダが針の穴を抜けるような困難さを伴うものだが、もう一つある。日露専門家筋によると、合意項目の中に「今後合意した場合以外は国境線は変更しない」などの一文を挿入することだ。この文言についても日本側は、合意した場合には国境線を国後・択捉以北とすることが可能と受け取れるが、ロシア側は合意しない限り国境線は変化しないと説明出来る。


 これらの構想は、大きな会談成功に向けてのものだが、忘れてならないのはやはり「返さずぶったくり」である。日本が経済協力をてこにすることは、対露交渉の定石だが、過去に成功したケースはない。今回は規模も過去とは比べものにならないものとなるが、狡猾なるプーチン外交で先進7カ国首脳会議(G7)の分断を図られては元も子もなくなる。


安倍が押し出しすぎると、その力を利用されてともえ投げを食らいかねない。4島に固執するあまりに、安易な妥協をすべきでない事は言うまでもない。もちろん総選挙などを意識するのは相手に隙を与えることになる。まさに安倍は正念場を迎える。 

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年11月08日

◆年金削減で高齢者層が総選挙直撃の構図

杉浦 正章



新法案は「消えた年金」並みのインパクト
 

第一次安倍政権退陣の原因となった「消えた年金」と酷似した構図ができあがりつつある。野党が「年金カット法案」として反対する年金改革関連法案である。政府は気づいていないが、高齢者層に怨嗟の声が満ち始めている。


NHKの討論を聞いたが、視聴者に対する訴求力において自民党幹事長代行の下村博文と公明党幹事長代行の斉藤鉄夫は、民進、共産などの主張に、首を並べて討ち死にのていたらくであった。与党はいくら理屈で練り上げても、結局は法案が高齢者の年金を減らす法案であることを露呈してしまったのだ。生活直撃マターは直ちに投票行動となって現れる。


衆院選挙で常に8割近くが投票をする高齢者層を敵に回すことになる。これを知ってか知らずか下村は先月24日、次期衆院選の小選挙区で自民党の獲得議席が、前回より86減る可能性があるとの見方を示した。これはのほのんとしている若手議員らへの“脅し”だけではなく、実感であったのかもしれない。
 

新法案は年金財政の悪化を食い止め、現役世代が将来受け取る年金の給付水準を維持する狙いがある。新たなルールは、物価や現役世代の賃金に合わせて年金給付額が変わる「賃金・物価スライド」を徹底するものだ。物価よりも賃金が大きく下がった場合、これまで物価の下落に合わせて年金支給額を下げていたが、新ルールでは、賃金の下落に合わせて支給額を下げる。


野党は「年金カット法案」と主張するが、安倍は「年金水準維持法案」と反論する。民進党の試算では、年金支給額は現在よりも5.2%減少。これが正しければ国民年金は年間約4万円減、厚生年金では年間約14.2万円減る。既に安倍政権は公的年金を3.4%減らし、医療面でも70〜74歳の窓口負担を2割に引き上げるなど高齢者に厳しい政策を打ち出している。筆者の友人らも会合ではもっぱら年金問題が話題に上がり、感情的反発がまず先行するようになった。
 

それではなぜNHKで与党が完敗したかというと、人の懐に手を突っ込む法案に、理屈を先行させたからだ。野党幹部からは「スリがへりくつを述べるようなもの」 との批判の声が聞こえるが、うなずけなくもない。下村は「『年金カット法案』という主張は受給者に対するポピュリズムそのもの」と反論したが、多くの高齢視聴者はこの発言に不快感を覚えたに違いない。


ポピュリズムと言うより死活問題であるからだ。また斉藤は「年金カットというが全く違う。いまは若い人が将来受け取るべき年金を取りくづしているが、将来の年金を確保する法案だ」と述べたが、民進党幹事長代理の福山哲郎は、「年金減少が発動されないのならこんな法案は必要ない」 と切って捨てた。
 

共産党や社民党の主張は信用がおけないから、文字の無駄で滅多に紹介しないが、今度ばかりは視聴者への訴求力があった。共産党書記局長の小池晃は「物価スライドでないと生活を維持出来ない。今度は物価がいくら上がっても賃金が下がったら年金を下げる。高齢者は生きていけない。」 と感情に訴えた。


社民党副幹事長吉川元も「見れば見るほど年金カット法案と言うほかにない。生活水準が低下する」と述べた。この「生きていけない」「生活水準が低下する」という感情的表現が選挙戦では高齢者に最も通りやすく、年金制度の問題については理性的に反応しにくいのだ。
 

一方で民放でも年金法案たたきが始まった。時事放談で元内閣官房長官武村正義は「年金はシリアスだ。老後の年金をあてにして一生懸命支払ってきた年寄りが納得できるか」と自らの年金にも言及して批判。民進党幹事長代理の玉木雄一郎はしめたとばかりに「確かにもらえると思って払ってきたのに約束が違う。ぎりぎりの生活者にとって年金確保は重要だ」と同調した。


これが皮切りとなって年金問題は朝テレ、TBSなど左傾化民放のワイドショーの絶好の餌食となることは確実である。消えた年金問題は高齢者に実質的な影響はほとんどなかったが、今回は高齢者の所得を直撃する問題であり、自宅でワイドショーばかり見て世間話のネタにしている高齢者層への影響は甚大なものがあろう。
 

投票率を見れば高齢者パワーは一目瞭然である。高齢者人口は3186万人で過去最多。総人口に占める割合は25.0で過去最高となり、4人に1人が高齢者。その高齢者のうち60歳から79歳までの投票率はすべて70%台を超えており、中でも年金が始まる65から69歳は77.15%で8割に迫る。これらの老人パワーは安倍の対中国、北朝鮮政策に賛同する保守層が圧倒的だが、これが敵に回ったらどうなるか。


産経の調査によれば4野党が全295選挙区に統一候補を擁立した場合の、自民、公明両党は、ただでさえ計47選挙区で「野党統一候補」に逆転されることが判明した。前回衆院選で与党は3分の2(317議席)超の大勝を収めたが、野党共闘により47選挙区で当落が逆転すれば、与党は279議席で3分の2を大きく割り込むとの予想だ。これに年金問題の逆風が吹いた場合の早期解散は、大敗に輪をかける敗北を喫しかねない。


唯一食い止めるのが12月15日の安倍・プーチン会談で北方領土が前進するかどうかだが、中途半端では勝てない。したがって安倍は年金を強行採決して1月解散・総選挙を含めた早期解散を完全に断念するか、年金を先送りするかの判断を迫れることになる。しかしほとぼりが冷めるのを待っても、引かれるたびに、怒りが増幅するのが年金削減であり、これは選挙戦に常時不利に働く。法案の内容も一挙に賃金にスライドさせることは避け、例えば5分の1くらいから始めるという、妥協策も必要となろう。


     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

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