2016年02月04日

◆空振りの岡田「TPP疑獄」質問

杉浦 正章



「オオカミ少年」が“悪魔の証明”を無理強い
 

新聞各社の予算委担当記者の目はどうも節穴らしい。肝心のやりとりを見逃している。筆者のように録画して克明に分析すると、焦点は民主党代表・岡田克也が「甘利事務所の金銭授受」をあたかも「TPP疑獄」へと直結させるかのように首相・安倍晋三への質問を展開。


これに「マジ切れ」した安倍が「無責任な誹謗中傷」と、かんかんになって怒って否定したのが質疑応答の核心部分だ。あまりの剣幕に岡田は夜のテレビで「衆院選は4月かもしれない」と、とち狂ったような予言をした。


解散については安倍のことだから何をするか分からないが、いくら何でもサミット直前の外交が慌ただしい時期に解散するだろうか。予算早期成立を目指す野党向けのブラフに過ぎまい。
 

疑獄事件とは政治問題化した大規模な贈収賄事件のこと。戦後の3大疑獄事件は、芦田均内閣をつぶした昭電疑獄事件(1948)と造船疑獄(1954)、ロッキード事件(1976)を指す。岡田の質問はあきらかに第四の疑獄事件として「TPP(環太平洋経済連携協定)疑獄」を“創作”しようとしているかのようであった。


岡田は「甘利氏が大きな権限を持ってTPPの責任者としていろいろなことをやっている。ちゃんと検証すべきだ。TPPは業界や農業に携わる人達にとって死活問題だ。生産者から見ると巨大な権限を持った人が疑いをかけられていることについて疑惑を持つべきだ。甘利氏に確認する必要がある」と、あたかもTPP関連業界や農業従事者から甘利が贈賄でも受けているかのような質問を展開した。
 

これにはただでさえ予算委員会で激高しがちな安倍が、まるで怒髪天をつくかのような反応をした。文字数にして質問の5倍ほど反論を展開したのだ。


「TPPに影響が出たというなら具体的に言ってください。私がないと言うものを1党の代表として嫌疑をかけるなら、TPP交渉においてどの品目にどの影響を与えたかについて具体的に言うべきだ。そうでなければ無責任な誹謗中傷にすぎない」と反論。


まだ言い足りないとばかりに「交渉そのものを汚すようなことを言うのはやめるべきだ。甘利大臣は命がけでTPP交渉を頑張って、結果を出してきた。いきなりそういう言いがかりをされても答えようがない」と憤まんをぶちまけた。
 

岡田は「ない、と言ったのはあなただ。本会議で断言した以上、その根拠を示す責任がある」と応戦した。これに対して安倍は委員会に響き渡る大声で「私はないと言いきった。ないことをないと説明することは悪魔の証明だ。あると主張する方が立証責任がある」と答えた。論戦技術としては「悪魔の証明」を持ち出した安倍の方に説得力があった。


悪魔の証明とは証明不可能な命題を証明すること。例えば「四国にコドモトカゲが生息する」ということを証明するとしたら、四国でコドモトカゲを一匹捕まえて来ればよいが、「四国にコドモトカゲは存在しない」ということの証明は四国全土を探査しなくてはならない。事実上不可能なことを求めることを悪魔の証明という。
 

岡田の狙いはテレビの視聴者に対して疑惑の輪を増幅させようとする意図がある。岡田は安保法制をめぐっても「徴兵制が実現する」というパンフレットを作らせたり、すぐに嘘がばれるようなオオカミ少年型プロパガンダをするが、今度も視聴者を「TPP絡みでも贈収賄があったげな」という風評が立つように誘導しようとする意図がありありと見える。


そもそも今回の甘利事務所をめぐる疑惑は、環状道路をさえぎるようにある建設会社が、民主党の大西健介の質問によれば「ごね得を狙っているようなところに秘書が加担した」ところにある。週刊誌へのリークは秘書が金銭や接待漬けにあったにもかかわらず、ごね得が実現しなかったことからの確執が原因である。


したがって、TPP交渉とは何ら関係がない。にもかかわらず岡田は、疑惑を最大限活用しようと「TPP疑獄」があるかのような質問を展開したのだ。TPPで贈収賄があれば、まさに内閣が吹き飛ぶような問題であるが、質問には全く根拠がない。


安倍が「一つも事実を挙げられないのにあるかのように言う。議論としては馬鹿げた議論である」と発言したが、もっともだ。やせたりといえども公党の代表が流行語ではないが「ゲスの極み」の三流週刊誌のような卑劣な質問を予算委の冒頭で行うようでは、野党の追及もお先が知れている。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月03日

◆「トランプ旋風」が早くも失速気味

杉浦 正章



ブルームバーグ、ルビオが台風の目


クリント・イーストウッド主演の名画「マディソン郡の橋」の舞台アイオワ州における民主、共和両党の党員集会は、その後の大統領予備選挙に大きな影響を及ぼすのが通例だ。アイオワとこれに続くニューハンプシャーで敗北して大統領になれたのはビル・クリントンだけであり、序盤を制するものが選挙を制すると言われてきた。


今回の場合はどうか。正直言ってまれにみる見通しのしにくさだ。それでもあえて見通せば共和党はトランプ旋風は失速の流れ。僅差で勝った前国務長官・クリントンはたとえ僅差でも勝ちは勝ち。民主党候補となる公算が強い。注目すべきは共和党3位の若手上院議員ルビオだ。
 

映画「馬鹿が戦車でやってくる」そっくりのトランプが失速したのは、アイオワ州民の知性を示すものであり、この傾向は今後も持続する可能性が高い。「トランプ現象」は、有権者がいわばテレビでアチャラか喜劇を見て喜んでいるのと同じで、人気がそのまま投票行動につながったのは日本の横山ノックの大阪府知事当選くらいのものだろう。

実際トランプの「奇行」は、「いくら何でも大統領候補が」という感じを強くさせるものだ。頭髪がかつらだという風評が立つと、女性2人にバケツを持たせて頭から水をかけさせて、かつらでないことを公開検証するといった具合だ。
 

その発言に到ってはそこいらの床屋談義の爺さんに輪をかけた破天荒ぶりで、発言すればするほど知的レベルの低さを露呈した。「メキシコ国境に万里の長城を築き不法移民を阻止する」「すべてのイスラム教徒の入獄を禁止する」など、人種差別と全体主義思想に貫かれており、米国憲法に違反する。日本に関しても「日本からの自動車輸入は不公平だ」と述べれば「日米同盟は不平等だ」と指摘する。


日本車は米国内で作られていることを知らない。安全保障に関しても無知丸出しだ。当選したら日本にとっては「悪夢の大統領」となることは必至だ。トランプを米軍の最高司令官である大統領に選出して、核のボタンを手渡したら、世界は崩潰する危機に直面するということになりかねない。要するに発言はスローガンを声高にしゃべるだけの「スローガニズム」の極致と言うべきであり、政策の裏付けなど皆無と言ってもよい。
 

支持率は全候補の中でもトップを走るが、トランプの場合支持率と有権者の投票行動は一致しない。最後には有権者は「核のボタン」に思いが到り、別の候補に投票する傾向を見せたのだ。こうして「トランプ旋風」は今後例外はあっても大勢としては空回りする流れとなろう。多くの州で同時に予備選挙が開催される3月1日のスーパーチューズデーが天王山となる。
 

アイオワ州における共和党党員集会はクルーズ27.7%、トランプ24.3%、ルビオ23.1%の得票順だが。問題はクルーズだ。その主張は時にはトランプを上回る過激さであり、理性に乏しい。共和党内で嫌われており、アイオワ州知事が「クルーズが勝つのだったらトランプの方がましだ」と漏らしたと言われるほど。


クルーズはオバマケアに反対して政府閉鎖事件を起こした張本人の1人だ。むしろ選挙の玄人の注目が集まっているのはトランプに迫ったルビオだ。若手の上院議員で共和党主流に属し党内の人気も高い。中国や北朝鮮とは対峙の姿勢を示しており、日本の尖閣諸島についても「日本のもの」と断言している。


本人は「私が指名されたら民主党がクリントン氏であってもサンダース氏であっても必ず勝てる」と発言しており、今後の台風の目だ。


 一方民主党はクリントン49.9%、サンダース49.6%でクリントンの辛勝だった。サンダースが予想外の票を集めたのは、公立大学無償化、国民皆保険、富裕層への課税強化など若年層向けのキャンペーンが成功した結果だ。


しかし本人が、米国では毛嫌いされる傾向がある「社会民主主義者」を標榜しており、国民的な人気には乏しい。年齢も74歳と高齢であり、体力的に今後8年米国を引っ張って行けるか疑問だ。やはり、メール漏洩事件などで決定的な事実が表面化しない限り、クリントンが民主党候補の本命となる公算が強い。


またニューヨーク・タイムズの報道によると億万長者で前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグが独立候補として米大統領選への出馬を検討している。現在の候補者の顔ぶれならば勝機があるかもしれないと、考えているという。同紙によると3月初めまでに決断すれば全50州の予備選に間に合うため、前市長はこれを決断の期限に定めているという。


いずれにせよ、大統領選の行方には“魔物”が潜んでいる可能性もあり、11月8日の投票日まで気を許すことは出来ない展開となろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月02日

◆鮮やかすぎて怖い安倍の“ダメージコントロール”

杉浦 正章
 


支持率“高騰”、民主の疑惑追及挫折
 

鮮やかすぎるというか、つきについているというか、すごすぎというか、安倍政権は本当に向かうところ敵なしかと思いたくなる。あまりに巧みなる政権運営には驚く。


一見地獄を見るような「甘利の逆境」報道を日銀発の「マイナス金利」で一挙に吹き飛ばすという奇想天外な“ダメージコントロール”。これが利きに利いて、内閣支持率は下がるどころか、驚異の上昇で50%を突破した。株価は1日も全面高となり、年初以来アベノミクスに逆行する「円高・株安」にくさびを打ち込んで「円安・株高」の好循環へと導きつつあるかに見える。


甘利疑惑でいきり立った野党は、さすがに支持率を見て「下手に突っ込むとやられる」(民主党幹部)と怖じ気づいたか、ろくな抵抗もしないまま国会は早くも正常化。好事魔多しなどという常套文句は使いたくないが、よほど重心を下げないと、後が怖いことは確かだ。
 

日銀が金融緩和に踏み切るであろうという予測はされていたが、マイナス金利だけは総裁・黒田東彦が1月18日に明確に否定したことから予想の外に置かれがちだった。しかし黒田は23日のダボス会議に行く前に事務当局に対して、「追加の金融緩和措置を考えておくように」と指示している。マイナス金利を含みとしたいわば「日銀究極の秘策」の指示であったようだ。


そして発表が29日の政策決定会合の後だから、28日の甘利辞任の直後。日銀が政局向けに図ったとは思えないが、そうでなければあまりにも絶好のタイミングであり、安倍を天が見放していないことになる。なぜなら「甘利」を「日銀」が新聞紙面から追い払ってしまったのだ。
 

もちろん黒田パズーカの第3弾はこの時期を除いてはあり得なかった。企業は来年度に向けて春闘の賃上げや、設備投資計画を2月に立案するからだ。この時点でやらないと次の政策決定会合は3月であり、間に合わないからだ。


しかし黒田を含めて9人の政策委員のうち5人が賛成、4人が反対に回った。4人はみな安倍政権以前の政権で任命された委員であり、民主党の政策を反映するかのようにアベノミクス反対派のようだ。3月には1人が交代するから、反対派は3人に縮小されるだろう。
 

こうして甘利辞任は29日朝刊に、日銀金利は30日朝刊でそれぞれ全面展開の報道という形になった。報道各社は30,31日に世論調査を実施したが、国民世論は景気対策に目を奪われ、「甘利辞任」は一過性で影響が生じなかった。


各社の内閣支持率は毎日が51%でプラス8ポイント。不支持は30%でマイナス7ポイント。読売が支持56%(+2)不支持34%(−2)、共同が支持53.7%(+4.3)不支持35.3(−2.9)という結果で、おしなべて50%越えだ。


この高支持率が示すものは、国民意識の動向を探る上で極めて興味深い。国民は何と言っても自らの生活向上が大切なのであり、閣僚の疑惑などは二の次三の次なのである。アベノミクスはかつてないほど政治と金融・経済が一体化した上で成り立っており、これが支持率に反映しているとしか思えない。デフレの暗い影を吹き払おうと懸命に戦う安倍の姿が好感されているのだ。


企業は史上最高の利益を上げ、12月の完全失業率は3.3%だが、これが2%まで下がるという予測もある。3.3%でもほぼ完全雇用だが、2%といえばまさに完全雇用である。失業率2%台は1980年から1994年まで続いているが、それ以来の数字となる。
 

こうして年明け以来円高・株安の悪循環が円安・株高に向かえば、アベノミクスへ、ひいては政権への追い風になるのだ。問題はこの好調が何処まで続くかだ。


とりあえずの勝負は夏の国政選挙まで続かせられるかどうかである。阻害要因がないわけではない。化けの皮がはがれたようなバブル崩壊後の中国経済の低迷が続きそうなことだ。加えて甘利の後任の経済再生担当相となった石原伸晃だ。


この政治家は失言癖がほとんど病気のように染みこんでいる。まるで言いたいことをを言って、仲間と冗談を飛ばし合っている湘南の坊ちゃんのような軽い調子で失言を飛ばす。就任後も、日銀マイナス金利への感想を聞かれて、秘書の出したメモを自分の手で払いのけて「自分の言葉で話す」と宣うたが、この自分の言葉が危機の根源であることが分かっていない。


当然野党は石原の失言に狙いをつけて、質問を展開する。公明党代表・山口那津男が「細心の注意を払って国会を乗り切っていただけるものと期待している」と、石原に異例のクギを刺した。彼ばかりは事務当局の答弁書とメモでしか発言させないようにすべきであろう。国民の信任が高いときこそ、内閣は重心を低くしないと高転びに転ぶ危険があるのだ。
 

また野党も甘利という絶好の攻撃目標を失ってもなお民主党幹事長・枝野幸男が「真相究明が必用だ」と幕引きを拒み続けている。


しかし疑惑は、既に東京地検が乗り出しているのであって、真相究明は司直の手に委ねるべき問題だ。野党も国会論議は経済を主軸に据えるべきであり、自ら疑惑解明をしようとしても無理がある。疑惑追及路線を突っ走っても国民の支持は得られまい。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月29日

◆ダメージ最小の電撃辞任、野党に肩透かし

杉浦 正章



“捨て身”の甘利に自民に同情論
 

「潔い。滅私奉公の古武士を見る思いだ」と自民党幹部が漏らしているが、前経済再生担当相・甘利明は自らを捨てて政権にとって一番ダメージの少ない選択をした。


勢い込んでいた野党は肩透かしを食わされ、前につんのめった。短期的には後産のような痛みが続くだろうが、野党は景気後退に直結する来年度予算を人質に取ることは出来まい。野党が頼みとするマスコミもさらなる追及をして政権を揺さぶる動きには出まい。


したがって早晩国会審議は安定軌道を取り戻し、首相・安倍晋三の支持率も大きなダメージを回避できるだろう。安倍はデフレ脱却の瀬戸際の経済や、サミットを軸とする外交、さらには夏の国政選挙に向けての基盤作りに専念できる。
 

甘利の突然の辞任は報道ステーションの古舘伊知郎が「私たちマスコミはもっぱら辞任しないと読んでいた。大きく外れた」と反省の弁を述べていたが、一キャスターに「私たち」などとは言ってもらいたくない。ちゃんと見通した者もいる。


それにしても朝日も読売も全国紙はおしなべて慎重な報道を続けた。というより「辞任へ」と踏み切る読みをする政治記者がいなかった。最近の政治記者はこまっちゃくれているばかりで度胸と、政治記事に不可欠な「動物勘」がない。


朝日は29日の朝刊で「数日前に辞任を覚悟」と見出しを取っているが、そんなことを知っていたらなぜ報道に反映しないかと言うことだ。読売は渡辺恒雄が安倍と本社で会食するなど極めて親しいこともあってか、最初からかったるい控えめの報道であった。
 

甘利の引退表明はさすがに第一級政治家としての矜恃と潔さを感じさせるものであった。「国政に貢献をしたいとの自分のほとばしる情熱と、自身の政治活動の足下の揺らぎの実態と、その落差に気が付いたときに、天を仰ぎ見る暗澹(あんたん)たる思いであります」は、田中角栄の首相退陣声明の中の「一夜,沛然として降る豪雨に心耳を澄ます思い」を思い起して格調が高い。


「私自身に関わることが、権威ある国会での、この国の未来を語る建設的な営みの足かせとなることは、閣僚・甘利明の信念にも反します」はまさに「滅私奉公」の思想だ。「政治不信を、秘書のせいと責任転嫁するようなことはできません。それは、私の政治家としての美学、生きざまに反します」も文学的で、説得力がある。


筆者は大和市に住んでいるが、これを聞いて次回の選挙は甘利に一票を投ずる気になった。選挙区では同情論が強く、選挙があれば大量票を獲得するかも知れない。古くは田中角栄、最近では小渕優子の大量票獲得の例がある。安倍は選挙の洗礼を経れば、再び甘利を重要ポジションに据えられる。ダブルなら甘利は半年の辛抱だ。
 

様々な裏話が出ているが、朝日の話が一番面白い。安倍が「例え内閣支持率が10%下がっても続けてもらいたい」と励まし、甘利は「この言葉にかえって迷惑をかけられないと思った」というものだ。


誰でも首相から「私の支持率が下がっても続投せよ」と言われたら、ヤバイと思うことは間違いない。自民党内の反応を探ると、圧倒的に甘利に対する同情論が強い。甘利はまさに「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある」という極限の選択をしたことになる。政治資金報告に合計100万円の記載があるのだから、議員辞職の必要は無い。
 

野党は民主党幹事長・枝野幸男が「これで幕引きというわけにはいかない。1週間もかばい続けた首相の責任は大きい」と感情論丸出しの反発をしているが、安倍は何も1週間かばい続けてはいない。逆に説明責任を求めている。それに1週間で辞任は最速の部類に属する。野党は閣僚辞任で振り上げた拳を降ろす場所がなくなったのが実態だ。


「幕引きというわけにはいかない」のなら予算を人質に取るのか。やってみるが良い。この景気の正念場で予算の早期成立は国家的な必須課題であり、野党が審議ストップに出るなら、マスコミの矛先は野党に及ぶだろう。
 

最速辞任の重要ポイントは安倍が夏の参院選挙を衆参ダブル選挙にすることが可能な選択肢を維持したことであろう。辞任しないままずるずるとダブル選挙をやれば、相乗効果どころの話ではない。衆参相殺効果をもたらし、政権を失いかねない危機に直面する可能性があった。


安倍がダブルの可能性を残したのは政局運営にとって大きなプラス材料となるだろう。なぜなら自民党衆院議員の緊張感を維持出来るからだ。
 

甘利の後任の元自民党幹事長・石原伸晃は、有能ではあるが、あの病気が再発しないかと心配である。あの病気とは「失言症」である。「胃ろう発言」や「金目発言」を繰り返せばまたまた大問題になりかねない。よほどきつく戒める必用がある。


反安倍の朝日は社説で「幕引きにはできぬ」と吠えているが、読売は社説「政権とアベノミクスを立て直せ」で野党に内政、外交両面での建設的な論戦を求めている。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月28日

◆「TPP花道」の後早期辞任しかあるまい

杉浦 正章



政権が“深手”を負う問題ではない
 

政治という猫がネズミをじゃらしているが、結局最後はネズミは食べられてしまう。これが「甘利疑惑」の本質だ。


経済再生担当相・甘利明はきょう28日夕の会見で「現金を受け取った認識が無い」などと大臣室と事務所での現金受領を否定することになろう。安倍は甘利本人の説明責任は果たしたとして、来月4日の環太平洋経済連携協定(TPP)署名式への出席を認める。しかしこれはいわば「温情あふるるはなむけ」で、最後の花道となる可能性が高い。


少なくとも秘書はあっせん利得罪など刑事責任を問われる流れとなって行く方向にあり、たとえ甘利自身が刑事責任は問われなくとも監督責任を問われる上に、世の模範となるべき閣僚としての道義的責任も浮上する。少なくとも閣僚辞任は避けられなくなるというのが筋書きであろう。
 

27日はまるで「続投」の合唱だ。しかし安倍の続投論も条件付きと言える。「今後説明責任を果たしていただきたい」は、ある意味で突き放した表現でもある。また与党も甘利の調印出席に関して幹事長・谷垣禎一が「甘利大臣に行っていただくというのがあるべき姿」と述べれば、公明党幹事長・井上義久も「今の時点で続投は当然だ」と語っている。


これら発言の背景に何があるかと言えば自公の“目配せ”だろう。「な、分かっているだろう」という無言の意思疎通が背景にあるとしか思えない。「な、分かっているだろう」をより詳しく言えば、せめて花道を作ってやろうと言うことだ。井上の「今の時点」発言は、花道の後は甘利にとって「地獄の試練」が待っているということとも受け取れる。「続投」は結局「短期続投」となる公算が高いのだ。
 

永田町に流れるあらゆる情報を分析すれば、28日の記者会見では、甘利が自らの行為と秘書の行為をくっきりと分けて説明する見通しとなっている。自らのかかわりについては「記憶にない」と現金授受を否定することであろう。


ロッキード事件以来「記憶にない」は主観的な表現であり、後々突っ込みようがないという法的な利便性を持っている。甘利は大臣室での50万円を「記憶にない」とか「認識が無い」とかの表現で否定するのだろう。羊羹の袋に金が入っていたことについて、こうした表現で否認するのだろう。その上で後で分かったので秘書に返すように指示したと言う可能性もある。
 

しかし文春の報道によれば「社長が羊羹と一緒に紙袋の中に、封筒に入れた現金五十万円を添えて、『これはお礼です』と言って甘利大臣に手渡しました。紙袋を受け取ると、清島所長が大臣に何か耳打ちしていました。すると、甘利氏は『あぁ』と言って五十万円の入った封筒を取り出し、スーツの内ポケットにしまいました」とある。あまりにも具体的であり、“所長の耳打ち”が、袋の中に現金があることを示唆したものであることが容易に想像できる。
 

一方で事務所でのやりとりについて28日発売の文春は新たな証言を掲載している。「現金入り封筒を受け取った甘利氏が『パーティー券にして』と述べると、業者側は『個人的なお金ですから』と説明し、甘利氏は封筒を内ポケットに入れた」とある。


もちろんこれらの証言が当事者たちのうさんくささからいって、ねつ造である可能性は否定出来ないが、問題は国民がどちらを信用するかだ。当然28日の記者会見ではここが焦点となるだろう。甘利が言い逃れて追及を吹っ切るかどうかは全く予断を許さない。
 

さらに同週刊誌で注目すべき新たな点は、告発者で建設会社「S」側の総務担当と言われる一色武が、甘利の父親時代から甘利家に出入りしていたことだ。


一色は「私は二十代の頃から主に不動産関係の仕事をしており、甘利大臣のお父さんで衆議院議員だった甘利正さんとも面識がありました。明氏と初めて会ったのは、まだ大臣がソニーに勤めていらっしゃった頃かと思います。正さんのご自宅には何度もお邪魔したことがあります。甘利家とは、昔からそんなご縁があり、私は清島氏が大和事務所に来るかなり前から、甘利事務所の秘書さんたちとはお付き合いさせていただいていました」と述べている。甘利が気を許した背景が見えるようである。
 

今日の会見で確定的なのは甘利が秘書の行為まで完全否定しないことだろう。おそらく「第三者を含めた調査が完了し次第発表する」で逃げるだろう。したがって記者団も深い追求は困難だろう。


いずれにしても甘利は既に「一連の秘書の行動は半信半疑で嘘ではないかと思った。全く私の指示ではない。報告もない」と古典的な“秘書切り捨て”論を展開している。この結果法律専門家の間では「秘書に関してはあっせん利得処罰法違反が成立する公算が高い」という見方が強い。
 

問題はこの調査がいつ終了するかだ。これが甘利辞任と密接に連動し得るからだ。ここは当初から指摘しているように安倍は「短期決戦」しか選択肢はない。野党は甘利の留任が長引けば長引くほど喜ぶ。政権追及の材料に事欠かないからだ。


逆に長引くほど安倍の支持率は下がり、政権への打撃が大きなものとなる。28日の甘利の会見を契機に新聞論調は次第に甘利辞任を求めるものに変わっていくだろう。問題は一政治家のスキャンダルが国家とか政権の有り様(よう)に対する批判に発展するのを手をこまねいていてはならないということだ。甘利の早期辞任へと事を運ぶしか手立てはまずない。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月27日

◆“政局の人”小沢が動き始めた

杉浦 正章



狙うは「9年周期の参院選大波乱」
 

たまに新聞に名前が出ると「懐かしい」と思われる政治家がいるが生活の党代表・小沢一郎がその右代表だろう。2009年の総選挙で民主党の地滑り的な圧勝を受け、議員会館の同じ階に当選した“小沢美女軍団”をはべらせ、「今太閤」そのものだった小沢だが、現在は、政党要件ぎりぎりの衆参議員5人の党首にすぎない。


その小沢がなにやら息を吹き返して動きが活発だ。「政局波乱」のにおいを動物本能で感じ取ったのか、元旦からメデイアへの「発信」を増幅させている。甘利疑惑が発生すれば、さすがに“疑惑の通”だけあって、「犯罪を構成するような類いの事実だ」と東京地検の捜査を促すような発言をしたり、まるで水を得た魚のように動きはじめた。ジンクス好きの小沢が狙うのが「9年周期の参院選大波乱・安倍退陣」だ。
 

小沢の最近の目立つ動きは、「共産党シロアリ」論で、民主党代表・岡田克也の共産党接近をけん制している元外相・前原誠司との極秘会談だ。メデイアの気が付きにくい24日の日曜日を選んで会談した。発生したばかりの「甘利疑惑」が政権を直撃する事態を最大限活用して、野党の結集をはかるのがその戦略だ。


会談で、小沢は参院選比例代表を野党の統一候補で戦う「オリーブの木」構想が「必ず実現する」との見通しを述べた。前原は共産党との共闘にアレルギー症状を示しているが、両者は「野党勢力の結集が不可欠」との認識では一致したという。また小沢は参院選で自公を過半数割れに追い込めば、「安倍は必ず退陣する」との見通しを述べたという。
 

小沢が「安倍退陣」の根拠にしているのが2007年の参院選だ。自民党の獲得議席数は37議席と歴史的大敗を喫し、結党以来初めて他党に参院第1党の座を譲った。小沢を代表とする民主党は追い風を受け60議席を獲得し、参議院で第1党となり野党は参議院における安定多数を確保したのだ。これが結局は第1次安倍内閣の退陣に直結して、2009年の総選挙でも自民党の敗北につながり、ついに政権交代のきっかけとなったのだ。 
 

09年に限らず自民党にとってツキが落ちるのが9年周期の参院選だ。


その9年前の1998年の参院選はメディアの分析では現状維持か、少し上回る60議席台前半と推測されたが、自民党の獲得議席は44議席と予想を大きく下回る敗北を喫した。首相・橋本龍太郎は敗北の責任を取って退陣した。


さらにその9年前の89年も首相・宇野宗佑の女性問題やリクルート事件の余波などがたたって、自民党が惨敗。社会党党首である土井たか子が「マドンナ旋風」と呼ばれるブームをまきおこし、「山が動いた」と述べたほどの逆転劇であった。自民党は36議席しか獲得できず、参議院では結党以来初めての過半数割れとなる。


これ以降現在に至るまで自民党は参院選で単独過半数を確保できていない。自民党は9年ごとに大敗を喫し、首相が交代してきたのだ。3度あることは4度あるというわけだ


要するに小沢の狙うのはこのジンクスでもあるのだ。小沢は新年会で「何としても野党の連携、大同団結を果たして、そして、参院選で自公の過半数割れを現実のものとする。すなわちそれは安倍内閣の退陣である。直接、参院選で政権が変わるということはありえないが、安倍さんが退陣せざるをえなくなることだけは間違いのないことだと思う」と断定している。


そして自らの野党糾合への動きを「すぐ『野合』だとか『数合わせ』だとか、あるいは『選挙のためだ』とかいうことを言われるわけだが、選挙のためで何が悪い。選挙というのは、主権者たる国民が判断をくだす唯一の機会であり、最終の決定の機会だ」と“正当化”している。
 

ただ、この小沢戦略にとって、1番の懸念材料は首相・安倍晋三がダブル選挙に踏み切るかどうかということだ。公明党が700万票の創価学会員の票の動きが複雑化するとして反対しているが、小沢は「創価学会は結局ダブルを受け入れざるを得ない」と漏らしている。


その根拠として官房長官・菅義偉と学会幹部の秘密裏の接触を挙げる。事実菅は政権発足以来、創価学会副会長の佐藤浩と急速に関係を深めており、独自に公明党・学会サイドの内情を探っている。小沢はおそらく菅と佐藤の会談でダブル選挙が話し合われているとみている。ダブルとなった場合、共産党まで含めた選挙共闘が極めて困難になり、「安倍一強」が続きかねないというわけだ。


こうして政界仕掛け人・小沢は73歳の年齢をものともせずに、あらゆる機会を捉えて「政局大展開」を狙い続けるのだ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月26日

◆「辞任なし」は政権直撃、野党が欣喜雀躍

杉浦 正章
 


甘利は事実上“死に体”だ


詰まるところ野党の欣喜雀躍を一週間で止められるか、半年続けさせて夏の国政選挙で大敗北を喫するかの選択だ。


戦後の閣僚辞任は117人。そのうち吉田内閣は最多の17人の閣僚が辞め、佐藤内閣は10人。その多くがトカゲのしっぽ切りでしのいだ。「安倍長期政権」は単に自民党の願望だけでなく、その支持率から言って国民大半の期待である。この期待を裏切るかどうかの瀬戸際が「甘利事件」である。

大局から見た場合、経済再生担当相・甘利明の進退は窮まったかに見える。本人も十分分かっているだろうが甘利は、自ら辞任して「自民党政権」に“寄与”するしか選択肢はあるまい。ここは一刻でも早くその選択をすべき時だ。
 

今回の事件を政治的に俯瞰(ふかん)すれば、まず野党を限りなく勢いづけた。これまで外交・経済・安保で、向かうところ敵なしの状況でまい進する政権の追及に、野党は手をこまねいていたというのが実態だ。そこに願ってもなき僥倖が飛び込んだのが「甘利事件」だ。それも通常の閣僚をめぐるスキャンダルは「疑惑」の形でスタートするが、今回は最初から「真相」が表に出て、これを突き崩す手段が見当たらないことだ。


辛うじて自民党副総裁・高村正彦が「録音されたり、写真を撮られたりそのわなの上に周到なストーリーが作られている」と分析しているが、そこには「わなにかかったから仕方がない」とわずかながら甘利に救いの手を差し伸べるかのような姿勢が垣間見える。甘利自身も記者会見で「相手は隠し録音が目的。最初からいろいろな仕掛けを行っている」と述べ、これに同調している。
 

しかし「わな」論は事の本質を突いているだろうか。甘利が大臣室と事務所で2回にわたり現金を受け取ったとされる場面はあまりにも生々しく、写真も残っている。それも3年前の13年から「わな」を仕掛けるつもりで接近したかにも疑問が残る。


なぜなら事件の焦点は1度目に2億2000万円の保証金の取得に成功したあと、さらなるより巨額な補償交渉に向けて建設会社と甘利の秘書が動き、これが実現しないところから生じた“あつれき”と“内部分裂”にあるように見えるからだ。高村は「わな」説を述べた後、「わなだからあいまいな記憶で甘利氏が答えていれば理解してもらえる話ではない。1週間後に記憶にないという話が帰ってくることはあるまい」と突き放した発言もしている。


「わな」だけでは抗しきれる話ではないことを承知している証拠だ。「わな」論は、政権側がいかに反撃材料に事欠いているかの左証ではないだろうか。維新の柿沢未途の「わなだと言い張れば、受け取っても不問にできるのか」という反論が利いてしまうのだ。
 

火付け役の文春が何か「新事実」として2度目の攻勢をかけるかどうかも注目される。今週号の発売は28日だが、第2弾があれば27日にも漏れるのが通常だ。これがとどめを刺すかどうかだ。それでは今後の展開はどうなるのかだが、政権にとって1番いい選択肢は、甘利の自発的閣僚辞任だろう。


閣僚を辞任して、政治資金収支報告を修正して、政治資金規正法違反を逃れる選択だ。後は例によって「秘書のやったことは関知しない」で、あっせん利得処罰法違反は秘書にかぶせる方式だ。安倍政権としてはいったん閣僚を辞任してしまえば、関知しない形を整えられる。


国交省局長への商品券問題は残るが、大きな論点は辞任と同時に追及の行き場を失う。また安倍の任命責任は問われるが、甘利が閣内にとどまったままの追及とくらべれば天と地の差がある。
 

最悪なのは理屈をつけて決着を先延ばしにすることである。これは野党が1番喜ぶ方式だ。なぜなら通常国会の半年間政権追及の材料に不足しないからだ。ことあるごとに「甘利事件」で国会をストップすれば良い。審議は各駅停車となって、予算や法案にも重大な影響が及ぶ。内閣支持率はじり貧となり夏の国政選挙を直撃する。これでは世論の傾向から言って、安倍が本会議で強調した内政外交にわたる“挑戦”が、国民感情への“挑戦”になってしまう。


あまりにも大きなお荷物を抱えたままでは、安倍内閣の身上である軽快なる国会運営は不可能になる。要するに総理大臣たるもの、私情を捨て去ることが何よりも肝要だと言うことだ。経済再生担当相の代わりなど、自民党にはいくらでもいる。答弁に窮すれば安倍が代わりに答えてカバーすれば良い。
 

それにつけても安倍政権が不祥事による閣僚辞任が多いのはなぜだろうか。長期政権では冒頭述べた吉田の場合が17人中不祥事は1人。佐藤も10人中不祥事は1人。小泉は4人中1人。中曽根内閣、池田内閣は不祥事辞任ゼロだ。それに比べて安倍政権は1次から3次までで8人中6人が不祥事辞任だ。

おそらく政治資金規正法の改正やあっせん利得罪の新設、マスコミの風潮などが作用しているものとみられるが、内調などの事前調査が甘いことも原因かも知れない。 

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)  

2016年01月22日

◆甘利は自発的に辞任すべきだ

杉浦 正章



安倍は“短期決戦”で収拾を図れ
 

まるで敵軍を散々に打ち破ってきた真田丸が冬の陣の終了後、破壊されつつあるかのようである。環太平洋経済連携協定(TPP)の締結など内閣でも官房長官・菅義偉と並んで「殊勲甲」に値する功績をあげてきた経済再生担当相・甘利明が、週刊文春の報道で息も絶え絶えとなっているのだ。


週刊誌報道と言っても今回の金銭授受疑惑は、おおむね真実に近いとみられ、秘書はもちろん疑惑が甘利自身に及ぶことは避けられない。「泣いて馬謖(ばしょく)を斬る」という言葉がある。予算の本格審議を控えて首相・安倍晋三は短期決戦で態勢を立て直す必要がある。甘利は進退窮まった。ここは自ら閣僚を辞任して、本丸を生かすときだ。
 

疑惑の粗筋は、千葉の建設会社が道路建設をめぐる都市再生機構との補償交渉で甘利側に「口利き」を依頼し、補償金2億2000万円を得た見返りに総額1200万円を献金。しかし甘利側の政治資金収支報告には一部しか記載されておらず、政治資金規正法違反かあっせん利得処罰法違反が問われるというものだ。


とりわけ焦点は2013年11月に大臣室で、また2014年2月に甘利事務所で甘利自身がそれぞれ50万円を受け取ったとされる点だ。
 

21日の国会審議でも取り上げられたが、甘利は建設会社社長らとの面会については認めたが、金銭の授受については「記憶があいまい」と答弁した。「記憶にない」はロッキード事件以来の国会答弁の定石だが、甘利の場合面会は記憶して金銭授受は「記憶にない」ではつじつまが合いにくい。この場合明確に否定出来ないものがある証拠だろう。 
 

週刊誌報道はいいかげんなものが多いが、今回の文春の調査報道は最初から完結しているような見事さである。これは「対甘利工作」に当たった張本人である建設会社「S」側の総務担当と言われる一色武からの直接情報に基づいているからだ。


一色はいつ誰と会ったかなど膨大な資料やメモ、50時間以上にわたる録音データなどあらゆる証拠を文春に提供しており、文春はこれに基づいて記事を構成している。甘利との会談についても写真や録音内容を証拠として添付しており、極めて真実性が高いものとみられる。
 

甘利はこの報道が行われることを19日の段階で安倍に報告しており、21日の国会答弁はかなり練り上げた上でのものと想像される。この中で甘利は前述のように2回にわたる会談は認めたが、50万円の授受については「記憶あいまい」にとどめた。その一方で秘書については「なんでこんなことをウチの秘書がやったのか。話を聞いて驚いた」などと全く関知しない姿勢を取り続けた。


この“作戦”を分析すれば、最終的には自らが政治資金報告書の訂正で対応し、秘書についてはこれまで政治家がやってきたように「秘書が秘書がのなすりつけ」で対応しようとする両面作戦のように見える。複数の専門家が秘書の場合はあっせん利得罪が成立し得るとみている。
 

しかし、建設会社社長らから50万円を2度にわたって受け取り、その“カネの性格”を知らなかったでは済まされまい。秘書が危ない橋を渡っているならこれにブレーキをかけるべきところだが、自分自身も金銭を受け取ったのでは、責任を問われるのは避けられまい。


こうした“好餌”を前にして、野党はチャンス到来とばかりに勇みだっている。安倍にしてみれば、来年度予算の成立、TPPの調印と国会審議、5月のサミット、7月の国政選挙という重要政治日程の流れを前にして、この場面は私情を捨てた判断をすべき時だろう。
 

事実関係の明白さからいって、かばってもかばいきれないのが実態だからだ。加えて文春は国交省の局長への商品券の流れにまで言及している。事実ならば単に甘利本人と事務所の問題だけでなく、内閣全体の姿勢が問われる問題にまで発展しかねない。


甘利本人は国会で「職務を全うする」と辞任を否定しているが、最近では珍しく与党内から甘利辞任論が出始めている。こともあろうに「TPP国会」で答弁の中心となる甘利はまず進退窮まったのであって、安倍はとりあえず早期の辞任を求めるのが正しい。遅くても29日頃とみられる衆院予算委前には自ら辞任するようにすべきであろう。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月21日

◆ロシアの窮状は領土問題前進の好機

杉浦 正章



安倍は“石油暴落”の事態を活用せよ
 

昨日はチャイナリスクというドラゴンがのたうち回っていると書いたが、ユーラシア大陸の北ではロシアのクマがこれまた、「熊の胆」程度では治らない重症で七転八倒の状態にある。


12月に着任した駐ロシア大使・上月豊久が19日、「北方領土交渉ではロシア内政の正確な把握が非常に重要だ」と指摘したが、至言である。これを有り体に解釈すれば内政が行き詰まったプーチンが苦し紛れに領土交渉で前向き姿勢に転ずるかどうかを見極めるということになる。


1世紀半前にやはりクリミア戦争で疲弊したロシアが米国にアラスカを売却した例もある。石油暴落でロシアに残されたものはあの広大な領土だけという現実を前にして、その“有効活用”は、首相・安倍晋三にとってチャンス到来になり得るものだ。
 

2014年10月から下がりはじめた石油価格は、ここに来てナイヤガラ瀑布のような急降下を示し始めた。一時30ドルの大台を割って28ドル台となった。12年4か月ぶりの安値だ。プーチンが記者会見で「値下がりは一時的なもので必ず値上がりする」「少なくとも危機のピークは過ぎた」という発言を悲鳴のように繰り返しているのを、市場はまるであざ笑っているかのようである。市場には「バレル20ドルが10年は続く」といった見方すらある。
 

ソ連は1970年代に石油の高騰が続いて息を吹き返し「石油国」となった。ロシアになってからも2000年代の価格高騰を追い風に国力をつけ、プーチンは政権基盤の重心を迷わず石油高騰の上に乗せて「強いロシアの復活」を標榜してクリミア併合、ウクライナ干渉と言った強圧的な軍事行動を展開した。


ナショナリズムをくすぐって支持率は、恐らく官製ではあろうが、90%に達したが、最近の国民の窮状からすれば支持率の実態はまず暴落の一途だろう。賃金の不払いが続出しており、ルーブル安がインフレ率の高騰を招き、国民の生活は厳しくなる一方だ。労働者のプラカードには「プーチン、どう生きていけばいいの」といった切実なものが現れている。
 

背景にはサウジアラビアと米国の対露戦略がある。端的に言えばサウジはロシアを石油市場から追い払いたいのであり、米国はその国際戦略から目の上のたんこぶであるプーチンを叩けるだけ叩いておきたいのだ。石油王国の米国とサウジが期せずしてロシア叩きで一致して、ロシアの弱い脇腹にドスを突き付けているのである。


米国は議会が原油の輸出を本格的に解禁する法案を成立させ、ロシアをさらに追い込む条件は整った。これに石油大国イランへの経済制裁が解かれ、同国は石油市場に参入、ロシアはまさに四面楚歌の窮地に陥っているのだ。
 

石油輸出が原油と精製石油の合計で全輸出額の55%を占めてきたロシアは、16年の政府予算でも大誤算をしている。何とバレル50ドルを前提に組んでしまったのだ。これが20ドル台になれば単純計算でも石油による収入半減と言うことになる。


もし原油価格の低迷が続けば、国家予算は年金など社会福祉予算の削減にまで及ぶ可能性がある。プーチンは石油高を背景に年金増額など国民うけする政策をとってきたが、完全に行き詰まった。プーチン支持層の中核が崩れかねない状況でもある。
 

プーチンのやせ我慢は限界に来ているはずだ。そこで安倍外交だが、国際外交では「困ったときの友こそ真の友」は通用しない。筆者は「困ったときの友を見捨てるのが真の友」という厳しい局面をたびたび目にしてきた。見捨てる必要は無いが、利用する手はある。ここは北方領土問題を打開するまれにみるチャンスが来たととらえるべきであろう。


プーチンはサミット前の安倍の訪露をモスクワでなく地方で実現したい意向を示している。おそらく極東方面の都市が念頭にあるのだろう。場所は何処でも良いが、どうも対露外交が受け身になっていないだろうか。会いたいというから会ってやるというプーチンの姿勢が場所ひとつとっても鼻につくのだ。
 

会談を繰り返すことには意義があるが、別に会ってくれなくてもG7サミットの議長国としての立場が損なわれることもない。ロシアの意向がG7に反映されないだけのことである。ロシアの閣僚の居丈高な北方領土をめぐる発言や国防相・セルゲイ・ショイグの「国後・択捉で軍事基地建設」発言などに対して、政府は通り一遍の反応でなく、厳しい反論を展開すべきであろう。


プーチンにとって領土で日本にいい顔をすれば、確実に支持率が下がる。クリミア併合で爆発的に支持率を上げたことからいえば、国民のナショナリズムを刺激することは目に見えているからだ。しかし、自国の経済が息も絶え絶えになってくれば話は別だ。ここは背に腹は代えられないところまでロシアが弱るのを見極める時だ。その時期はそう遠くはないと思う。


安倍は北方領土で物欲しげな顔をせずに、領土を返して平和条約を締結すれば極東から“夢”が生じて来るような構想を提示するのだ。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月20日

◆相次ぐ安倍シンパの再増税延期論

杉浦 正章



上海株下落が日本経済直撃の構図
 

昨年夏のバブル崩壊後巨大なるドラゴンが、地響きを立ててのたうち回っている。チャイナリスクというドラゴンだ。そのあおりを一番受けているのが日本の株式市場だ。19日は中国のGDP発表と連動した上海株への当局の介入もあってやや持ち直したが、下げ基調は代わらないという見方は強い。


首相・安倍晋三は消費増税の再延期について「リーマンショックや大震災級のショックがない限り引き上げる」と突っぱねているが、いまや年初来の株安は10営業日で一時2000円を超え、08年のリーマンショックの3616円、00年のITバブル崩潰の2698円に迫りかねない流れも出てきた。


そもそもの原因は消費増税の8%への引き上げに根ざしているという見方が強いが、これをさらに10%にしたらどうなる。安倍は「増税に耐えうる経済を作る」と強気だが、だれがみてもアベノミクスは再度の増税には耐えきれないという見方が強い。
 

奇妙なことに安倍のシンパほど消費増税再延期論が強い。昨年の延期に関しては安倍側近が事前誘導の先陣を切ったが、今度は外部から延期論が出ている。


まずマスコミでは安倍大好きの産経が15日の朝刊一面トップで「安倍晋三内閣はきっぱりと来年4月からの消費税再増税中止を宣言し、GDP600兆円早期実現への道筋を示すべきだ。」と報じた。さらに加えて安倍政権とはツーカーの大阪府知事の松井一郎は18日、消費税再増税について「増税の時期は今ではない。デフレを完全に脱却するためにも、来年4月に増税する必要なしとの立ち位置でいく」と明言した。


シンパの再延期論は安倍の胸中をおもんばかって“誘い水”を流しているのだろう。おおさか維新は夏の参院選挙の公約に増税延期を掲げる方針だ。


筆者も安倍シンパではなく中立だが新年早々にトップを切って「安倍は、『消費増税再延期』で国民の信を問え」と書いた。このままでは安倍が好むと好まざるとにかかわらず消費増税再延期問題が夏の選挙の最大の争点の一つに浮上する可能性がある。
 

専門家の間でも「現在の株価が下落を続ければリーマンショック級になると思う。消費再増税は躊躇せずに延期した方が良い」「先送りすべきだ。間違いなくファンダメンタルズが悪化している」といった声が強まっている。


そこで上海株の下落が続くかどうかだが、ウオール街筋のみかたでは「現在2900ポイントの水準が少なくとも均衡水準の2500ポイントまでは下げる」という見方が強い。下げ続ければ日本株も影響を受けざるを得まい。
 

その原因には中国の実態経済の悪化と原油安がある。19日発表のGDPは6.9%で国家統計局長の王保安は「6.9の数字は際立って秀でており、世界でも上位に位置するものだ」と胸を張ったが、その姿がどこか馬鹿げて見えたのは筆者だけではあるまい。この数字をそのまま信用して「政府目標にほぼ達した」などと社説に書いているのは親中国の朝日新聞だけだ。


専門家の間では「大本営発表を額面通りに信じている人は市場では極めて少ない。実勢は4〜5%ではないか」とする見方が圧倒的だ。専門家によっては「市場暴落の先送り策だ」という厳しい見方すらある。


事実相手国があってごまかせない2015年の中国の貿易総額をみれば前年比8.0%の減であり、これはリーマンショックで落ち込んだ09年以来6年ぶりの前年比マイナスだ。


加えて「元安」は底が知れないという指摘があり、中国政府は介入するが外貨準備は減少の一途だ。まだ3兆3000億ドル程度あるから通貨危機になる気配はないが、不安材料であることは間違いない。
 

この中国の景気低迷がもたらす原油需要の減少などが、原油安を直撃しており、産油国は資金不足となってオイルマネー回収に出るという悪循環をもたらしている。日本の株価の下落はこうみてくるとすべて「のたうつドラゴン」に起因することになり、そののたうちはそう簡単にはやむことがない。


中国経済は危険水域に入りつつあるとみるべきであろう。したがって安倍はこれまでやってきたように日銀を促して金融緩和政策を早めに打ち出すのはもちろん、リーマンショックになるのを待たずに、“準リーマンショック”の段階で消費増税を再延期して、筆者が新年に書いたように「消費増税延期」をテーマに衆院を解散してダブル選挙を実施すべきではないか。


そうでもしない限りGDP600兆円の達成は夢のまた夢になりかねない。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月19日

◆岡田の急旋回で共産党の思惑破たん

杉浦 正章



重鎮引退で民主右傾化の兆候
 

酔って肩組んで一緒に歩いていると足をかけられると言うのが永田町だが、こともあろうに共産党委員長・志位和夫が民主党代表・岡田克也に引っ掛けられ、仰向けにすっ転んだ。


昨年までは誰がみてもちょっと薄気味悪い“秋波”を志位に投げかけていた岡田だが、急旋回して共産党から離れた。岡田は共産党の主張する国民連合政府はもとより、その前提になる参院選での選挙協力にもつれない姿勢を示しはじめた。


18日で代表就任1年目を迎えた岡田に袖にされて、志位の立場はない。もともと危うい小沢一郎の口車に乗って「岡田氏を信頼している」と「選挙協力路線」を突っ走った志位は、党内的に路線転換の責任を問われる恐れがある。
  

しびれを切らしたのが共産党書記局長・山下芳生。18日「前提条件なしにとにかく協議を開始すべきだ」と“逆秋波”を送っているが、岡田からは芳しい返事はない。むしろ岡田は協議開始に慎重だ。岡田が一段と右傾化路線に戻りはじめたのは16日放映のBSテレビだ。ここで「野党統一候補が共産党の支持を受けた結果、票を減らす可能性もある」とまで言い切った。


もともと民主党内には右派から「共産党の支援を受ければ2万票もらって3万票が逃げる」という批判があった。岡田は昨年の安保国会直後は、共産党でなければ夜も日も明けない姿勢を取っていただけに、この豹変ぶりはあっけにとられるほどだ。


岡田は選挙協力について「市民団体が呼びかけて候補を立て、我々が推薦する。共産党が推薦するかどうかは言う立場ではない」と、素っ気ない。要するに2009年の総選挙では、民主党躍進を感知した共産党が自主的に候補擁立を控えた例があり、これに戻ろうというわけだ。共産党の自主的な降板方式だ。
 

志位が怒り心頭に発しているだろうと言うことは想像に難くないが、安保法制反対で国会前で一緒に手をつないだからと言って、小沢の口車に乗って自民党政権打倒のための国民連合政府と選挙協力をぶち上げた共産党も甘い。通常国会では異例の開会式に出席するという柔軟路線まで示してみせたが、今からみると、まさに「いじましい」限りであった。
 

岡田が方針転換した背景は大きく言って三つある。


一つは党内の右派の攻勢である。元国家戦略相・前原誠司は、共産党との選挙協力について「私は選挙区が京都なので、非常に共産党が強いところで戦ってきた。共産党の本質はよく分かっているつもりだ。シロアリみたいなものだ。ここと協力をしたら土台が崩れる。」と“共産党シロアリ”論を展開して反対。政調会長・細野豪志は「解党要求」をぶち上げ、元外相・松本剛明にいたっては離党した。松本の離党は岡田にとって相当なショックだったようだ。
 

第二の理由は左派の長老、重鎮の相次ぐ引退表明だ。日教組で参院副議長の輿石東、リベラル系の江田五月、労組出身の直嶋正行らが引退表明したのだ。とりわけ、輿石は小沢と近く、陰に陽に民主党に左傾化圧力をかけ続けてきた。この重圧が取れるのはもともと右寄りだった岡田にとって、都合の良いこと限りがない。
 

第三の理由は民主党最大の支持団体・連合からのブレーキだ。岡田と15日に会談した会長・神津里季生は「最初から共産党が応援の輪の中にあるというのは違う。候補者を後から共産党が応援することはあるかもしれないが」と岡田の共産党との共闘にクギを刺した。岡田と神津は「共産党のイニシアチブ排除」で一致したのだ。


さらに両者は首相・安倍晋三がこの夏ダブル選挙に打って出る可能性が濃厚であるとの見通しで一致。「ダブルをやられたら野党共闘はぐちゃぐちゃになる」との判断でも合意した。
 

ただし、民主党は2009年の方式を共産党が進めるように促してゆく方針だ。民主党躍進をもたらした原動力の一つが共産党がかなりの選挙区で候補を立てなかったことにある。共産党の支持者の8割程度が民主党に投票すると言う結果を招いているからだ。


したがって、「共産党の自主的立候補辞退」方式が成功すれば、参院選だけのシングルでは、自民党が大きな影響を受けることは確実だ。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月15日

◆こんな質問で臨時国会を要求する資格はない

杉浦 正章



民主共産は味噌汁で顔を洗って出直せ
  

一瞬耳を疑ったばかりか、あまりの節度と品格の無さに怒りがこみ上げるのを抑えることが出来なかった。衆院予算委で首相・安倍晋三に「拉致を使ってのし上がったのか」とただした民主党の緒方林太郎の質問である。


半世紀国会質疑を聞いていてこれだけ悪意に満ち、人間を落としめる質問に遭遇したことがなかった。年を取るとテレビに向かって怒鳴っている人が多いが、思わず「黙れあほう!」と怒鳴った。


民主党はこんなことをただすために臨時国会の開催をを要求したのだろうか。それならば、開催などせずに安倍が慰安婦問題の解決や外交に専心した事の方がよっぽど正しかった。通常国会序盤の質疑は、おしなべて民主党や共産党の質問のレベルが低すぎて聞くに堪えないものが多かった。


とりわけ緒方質問の場合は、予算委理事が即座に委員長に対して質問の停止を求めてもおかしくない程の質の悪さであった。自民党理事たちも、何のために委員会に座っていたのだ。ぼけたのかと言いたい。
 

緒方の質問は拉致被害者の蓮池薫の兄で家族会元事務局長の蓮池透の著書「拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々」(講談社)を引用した。本の記述をそのまま使って「今まで拉致問題はこれでもかと言うほど政治に利用されてきた。その典型例が安倍首相によるものである」などと「拉致のし上がり」論を執拗(しつよう)に展開した。


聞いていて異様だと思ったのは自分の言葉を使わずに本の引用で質問を繰り返した点である。安倍が父晋太郎の秘書当時から拉致問題の解決に必死に取り組んでいたことは、国民の多くが知るところである。とりわけ小泉内閣の官房副長官時代は、いったん帰国させた五人の被害者を絶対に北に戻さないと言う一線で尽力したことも有名である。
 

にもかかわらず事実無根に満ち、まるで北の宣伝と日本の世論分断に乗ったかのようなレベルの低い本を、鬼の首でも取ったかのように取り上げて質問を繰り返したのだ。他人が書いた悪質な文章を金科玉条にして質問するのなら、小学生の作文をネタに、国会で質問することがまかり通ることになる。


さらに緒方は安倍が慰安婦問題で朴槿恵に陳謝したことも取り上げて、委員会でも陳謝の言葉を述べるように要求した。安倍が「今後何回も取り上げられれば、終わる事がない」として、拒否したのは当然である。この質問にも安倍をおとしめる意図が見え、聞いていて「嫌らしさ」が先に立った。


いやしくも日本政府のトップに対して、「朴に謝ったのなら国会でも謝れ」は、侮辱と屈辱を絵に描いたような発言だ。やくざのゆすりのような質問であった。民主党政権では手も足も出なかった問題が、ようやく解決にこぎ着けたことはさておいて、首相に「謝れ」はない。総じて緒方の質問には病的なまでの異様さと執拗さが感じられ、なぜか史上最低の首相ルーピー鳩山を思い出した。
 

このような質問者を立てる民主党のレベルの低さは、山尾志桜里の質問でも目立った。安倍が「妻の収入が25万円の場合の家庭」を例に挙げたことに噛みついて「妻の収入が25万円というのはパートの実態が分かっていないと」何度も繰り返したが、安倍は別にパートの収入の例などとして挙げていない。


自らの妻が働いていたことを仮定して計算の土台としたのであり、質問はまさに“いちゃもん”である。山尾は検察官だが、検察官のレベルというのはこの程度かと思わせた。安倍が「こうした質疑ばかりでは民主党の支持率は上がらない」と嘆いたのももっともだ。
 

共産党の笠井亮の質問でも北の核実験について「軍事対軍事の悪循環は危険だ。安保法制は廃案こそ重要だ」と発言したから、当然安保関連法を追及するかと思ったが、なぜか答弁は求めず、そそくさと次の質問に移った。明らかに北の核実験が安保法制の正しさを証明するものであることから、深く追及すれば安倍に逆手を取られると思って逃げたのだ。共産党らしい卑怯なやりくちだ。
 

総じて国会論戦序盤の質疑は野党のレベルの低下が目立った。昔の社会党は安保問題で岡田春男、石橋政嗣、飛鳥田一雄など「安保七人衆」が活躍して自民党政権を追い込んだものだ。とくに「おかっぱる」と呼ばれた岡田春男は自衛隊による「三矢研究」の極秘文書をすっぱ抜き政権を震撼とさせた。まるで「出ると負け」で、えげつない今の野党質問とは雲泥の差があった。
 

これに対する安倍は、徹底的な反論を冷静に展開している。茶の間からみれば素人が聞いても安倍の主張に利がある事が分かる。時々脱線して辻元清美に「早く質問しろよ」と言ったかと思うと、閣僚の献金問題を追及する野党議員に「日教組どうするの」とヤジで切り返したりするが、これはこれで面白いと思う。


首相だってヤジを飛ばしてもいい。首相のやる気が伝わるし、国会論議が活性化する。だいたい議会政治の源流であるイギリス議会ではキャメロンがしょっちゅうヤジっている。さすがに野党議員を「ぶつぶつ言うバカ」とヤジった時は、撤回させられたが、首相の人間味が表れて面白い。
 

日本で「バカヤロー」とヤジった吉田茂は解散に追い込まれたが、安倍も時期が来たら緒方などを「バカ」とヤジって、ダブル選挙に持ち込んだら面白い。国会議員は憲法51条で国会内での演説では免責特権が認められている。


一方で国会法第百十九条には「 無礼の言を用い、又は他人の私生活にわたる言論をしてはならない」とある。緒方は明らかに「無礼の言の人」であり、懲罰の対象とすべきではないか。

            <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月14日

◆台湾親日政権は極東安保に大きなプラス

杉浦 正章



第一列島線の防備強化につながる


「ようこそ鎌倉へ。東日本大震災での大きな恩は永遠に忘れません。ありがとう、台湾!」。江ノ島電鉄鎌倉駅に掲げられた貼り紙を台湾からの観光客が見つけ、フェイスブックに投稿。台湾のネットユーザーが「泣きそうになった」と感激の反応。次々に感動の輪が広がっている。


台湾からの義援金は何と200億円に上ったが、あまり知られていない。中国と韓国は戦後反日教育を徹底して重視してきたが、台湾では行われていない。外交関係にとって率直に隣国との関係を大切にする教育の重要性を、改めて痛感する事例ではなかろうか。


その親日的な台湾の総統選挙で16日、中国からの独立志向が強い民進党主席の蔡英文候補が独走のまま、圧勝することが確定的となった。反日的と指摘された国民党の馬英九総統に代わって、初の女性総統が5月に就任する流れだ。


台湾の政権交代は単に日台関係の緊密化にとどまらず、膨張政策をとる中国の海洋進出を抑止する安全保障上の意味合いが大きい。日米による沖縄・台湾・フィリピンを結ぶ太平洋の防波堤・第一列島線での中国封じ込め戦略に大きなプラス効果を及ぼすことになろう。
 

台湾ケーブルテレビ大手のTVBS の調査によると民進党の蔡英文支持が42%で、対立候補の国民党主席・朱立倫の25%を振り切った。民進党は立法院(定数113)でも議席数を現在の40から大幅に伸ばし単独過半数を狙う勢いとなっている。より独立色の強い若者の政党「時代力量」とも連携しており、同党は比例も含め最大7議席を獲得し議会進出を果たすという見方も有力だ。議会がこの流れとなれば台湾議会の勢力地図は一転して独立色の濃厚なものになろう。
 

ただし蔡英文が就任後直ちにドラスティックな政策変更をする可能性は少ない。選挙中も「現状維持」をキャッチフレーズに掲げており、独立志向を前面に打ち出すという見方は少ない。


馬英九政権は1つの中国の原則を認めたとされる中国との「1992年合意」を対中関係の基礎としてきた。昨年11月の習近平と馬英九会談でも「92年合意」を確認している。民進党はこの合意を承認しておらず、就任後の蔡英文の出方が注目されるが、合意の認否はしないまま、中国との交流の糸口を模索するものとみられる。
 

しかし蔡英文の外交・経済・安全保障路線が対日、対米重視に比重を移すことは避けられないだろう。例えば環太平洋経済連携協定(TPP)についても合意の直後から台湾政府は加盟の意向を表明しており、蔡英文の最初の仕事の一つが加盟になる可能性も強い。


TPPメンバー国への昨年の輸出額の合計は1030億米ドル規模で、輸出額全体の3分の1を占める。日本にとっても台湾との貿易額は大きく、日本は台湾にとって第3の貿易パートナー、台湾は日本にとって第4の貿易パートナーとなっている。ここは首相・安倍晋三が率先して加盟に向けて尽力すべきであろう。


TPPは戦略的にも中国を意識した側面があり、台湾の加盟は安全保障上の意義も大きい。安倍と蔡英文は昨年10月に訪日した際に秘密裏に会談しており、この場で日台関係の将来が語り合われたことは間違いあるまい。
 

安全保障上の見地から言えば、まず米国は台湾を国家として承認していないが、台湾関係法によって安全保障上の関係は堅持しており、沖縄の基地を中心に台湾海峡ににらみを利かせているのも事実だ。日米安保条約もその効力が及ぶ極東の範囲をフィリピン以北と解釈されており、台湾有事の際は効力が及ぶこともありうるという見方が強い。


とりわけ3月に施行される安保関連法が大きな力となって作用して、台湾問題への中国の出方を抑制する効果を持つことになろう。中国の海洋戦略へのふたとなる第一列島線突破にむけて、今後中国は様々な対応をする可能性がある。


軍艦のペンキを塗り替え海警局の公船と称して尖閣諸島に侵入するなどという姑息(こそく)な手段は序の口であり、南シナ海での滑走路、東シナ海でのミサイル基地となり得る海底油田建設などあの手この手で隙あらば突破しようとするだろう。政府は中国軍艦が尖閣諸島の領海に侵入した場合に自衛艦に海上警備行動を発令する方針を明らかにしたが当然である。
 

こうした中で台湾の新政権が親日、親米であることは中国の膨張路線を食い止める上で心理的にも戦略的にも大きな役割りを果たすことになることは期待できるところであろう。


一方中国側からみればただでさえチベットやウイグルにおける独立運動の過激化に悩まされているところであり、台湾の政権交代がこれらの動きを加速させないかといくら警戒してもしたりない思いであろう。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)