2016年03月17日

◆米教授、首相の設定課題を次々クリア

杉浦 正章



増税“先送りカード”へ理論武装


民進党幹事長の枝野幸男が16日、「スティグリッツ氏から指摘されるまでもなく私も言っている」と得意げに発言しているが、カラスがライオンの吠え声を真似しても説得力は無い。首相でもないのに公明党の政調会長・石田祝稔が「今のところ予定を変える環境にない」と僭越にも発言しているが、これも超高度な経済判断が出来ないことを自ら露呈しているだけの話だ。


事々左様にノーベル経済学賞を受けた“権威”の発言というのは重いのだ。その重い発言をジョセフ・スティグリッツから引きだした首相・安倍晋三は、着々と消費増税“先送りカード”を切る準備に着手したかのようである。


そうでなければわざわざ「国際金融経済分析会合」などを設置する必要も無い。歴代首相と比較しても実に巧みな「政局運営」をするものである。急がば回れの政治手法なのである。
 

安倍の設定した消費増税再延期へのハードルが、次々に除去されたのが16日の会合だ。まず「リーマンショック並みの事態が起きない限り延期しない」は、スティグリッツが「2015年は08年の金融危機以降最悪の状況だったが、16年はさらに弱体化する」と述べた事によりクリアされた。


08年はリーマンショックのその年であり、現状は「リーマンショック並み」なのである。さらに安倍の条件「世界経済の大幅な収縮」についてはスティグリッツが「大低迷」と表現してクリアだ。


さらに重要なのは安倍が会合の冒頭で「伊勢志摩サミットでは世界経済情勢が最大のテーマになる。議長国として各国首脳と突っ込んだ議論を行い、世界経済の持続的な力強い成長に向けて明確なメッセージを発出したい」と発言した問題だ。


この「議長国の責任」は新たに設置したハードルだが、これもスティグリッツは「日本は非常に強い金融政策を実施して景気を刺激してきたが、それはもう限界に達しており、次に財政政策を取るということが重要だ。問題の根本的な原因の1つが総需要の不足であり、伊勢志摩サミットでは需要を刺激するような政策について各国で議論してほしい」と述べた。
 

これは財政出動の勧めであり、発言は2月に上海で開かれた主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議(G20)の共同声明に沿ったものといえる。同声明は「金融政策のみでは均衡ある成長につながらない。機動的に財政政策を実施するべきである」と強調している。


このスティグリッツ発言も、安倍にとっては、消費増税再延期を決断する後押しになるものに他ならない。消費税引き上げはまさにG20の声明に逆行するものになるからだ。サミット議長国としては世界経済の潮流を無視することはできまい。
 

スティグリッツは「現在のタイミングで消費税率を引き上げるのは間違った方向になる。世界経済がこんなに弱くなることを予想できていた人はおらず、経済情勢が変わったなら、政策もその変化に対応していかなければならない」と言明したが、これも安倍にとっては我が意を得たりの発言に違いない。


安倍は「景気が失速したら元も子もなくなる。日本を含めて世界の需要を作って行くことが重要だ」と応じている。毒づき枝野が増税再延期を「自らの経済運営の大失敗だと認めること」と批判しているが、民進党幹部は世界情勢の変化を度外視して、自ら想定すらしていなかったデフレからの脱却を安倍が成し遂げつつあることを、無視してはいけない。


誰も想定外の経済情勢なのであり、民主党政権でデフレ脱却、企業の史上最高の利益、事実上の完全雇用を実現出来たかということだ。野党は派遣と正社員の格差を突くが、派遣すら雇用できなかった自らのふがいなさを恥じるのが先決だろう。
 

こうして筆者が新年早々予言した政局展開、つまり増税再延期と衆参同日選挙に向けて安倍が着々と布石を打っている形が濃霧の中から浮き出るようになってきた。もちろん分析会合には慎重論も出ることが予想されるが、22日にはスティグリッツと同様にノーベル経済学賞受賞者で14年の消費増税延期決断に決定的な役割を演じたポール・クルーグマンが延期論を展開することになろう。


これで分析会合の流れは決まる。どこかの半可通記者が増税延期と同日選挙を「憶測」と書き立てているが、臆測とは「物事をいいかげんに推し量ること」であり、今の政治状況で使う用語ではない。教えてやれば少なくとも「観測」であろう。朝日も読売も産経も用語に注意する新聞は「観測」としている。


         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家) 

2016年03月11日

◆エネルギー政策を崩す「暴走裁判官」は左遷せよ

杉浦 正章



最高裁は司法の内部分裂を引き締めよ
 

下級審が常軌を逸した判断で原発の運転を差し止め、別の裁判官や上級審でこれを正常軌道に戻す。まさに原発稼働をめぐって司法が割れるという醜態を示している。やっと動き始めた3号機は10日夜全面停止した。


今回の大津地裁の停止命令は、稼働中の原発をストップさせるものであり、悪質極まりない。原子力規制委員会による世界最高水準の厳しい基準をクリアして、やっと稼働し始めた原発を、科学的知見ゼロの法匪の如き裁判長がストップさせる。


国家のエネルギー政策の根本概念のみならず、原発事故以来二酸化炭素を排出し続けて来た環境問題までも無視する決定だ。


大津地裁裁判長・山本善彦による独善的な暴走判断といわざるを得まい。これは司法の暴力に他ならない。人事権を握る最高裁は恐らく山本を左遷させるであろうが、はじめから原発問題を抱える地域への人事を慎重に行えば済むことである。
 

メディアの報道ぶりを分析すれば、判決大歓迎の朝日、毎日と極めて批判的な読売、産経にくっきり2分された。


とりわけ昔から放射能アレルギーとも言うべき朝日は鬼の首を取ったような紙面展開をしている。我が意を得たりの気持ちは分かるが、この仮処分決定はまず100%覆される。朝日が喜ぶ決定は必ず、否定されるのが運命なのだ。


古くは四国電力伊方原発訴訟で原告側を全面支持した朝日の主張は1992年の最高裁判決で完膚なきまでに否定された。判決は以後の原発裁判を左右する重要なもので、その内容は「原発問題は高度で最新の科学的、技術的な知見や、総合的な判断が必要で、行政側の合理的な判断に委ねられている」としている。


高度な専門性が求められる原発の安全性の判断は政府に任せて、科学的知見のない司法がかかわりすぎるべきではないとしているのだ。全国で起きている原発訴訟で、大半の地裁はこの判例に基づいた決定を下している。


山本の決定もこの最高裁判例に言及はしているものの。出した結論は「停止命令」で真逆だ。最高裁判決を事実上無視している。とりわけ噴飯物なのは決定の核心部分で「関電は説明責任を果たしていない」と断定していることだ。


愚かにも規制委の対応を根本から見誤っている。規制委は2年3か月もかけて関電が出した10万ページにもわたる申請書を詳細に検討して、ゴーのサインを出したものである。これを山本はたった4回の審尋で結論に到っているが、逆に「審査責任」を果たしているのかということになる。あまりにも軽い判断なのである。
 

全く同じ例は福井地裁が出している。福井地裁裁判長・樋口英明によるものだ。樋口は高浜3,4号機の「運転再開差し止め」を命じており、これが原因で4月1日付で名古屋家庭裁判所に左遷された。しかし継続審理のため職務代行が認められて再び「再稼働など認めぬ」という決定を下したのだ。


まるで今回同様に最高裁の判例に楯突くような決定である。その8か月後に裁判長・林潤が決定を取り消した。 


今回の大津の決定で地裁が原発稼働を差し止めたのは3回になり、そのうち2回は樋口が行った。この例から見て「原発停止」判断は多分に裁判長個人の特異な性格が反映されたものという見方が成り立つ。地裁の判事のレベルの低さ、大局観の無さをまさに露呈したものとなった。


最高裁は過去にもこうした判事を左遷してきている。最も良い例が自衛隊の合憲性が問われた長沼ナイキ訴訟だ。一審の札幌地裁は初の違憲判決で処分を取り消したが、札幌高裁は一審判決を破棄、最高裁も上告を棄却した。この事件の裁判を担当していた地裁の裁判官は最高裁事務総局によって他県の家庭裁判所へ左遷されている。


判決が上級裁判所の意向にそぐわなければ裁判官本人も高確率で下位の勤務地へ左遷されるのが通例だ。家裁への転勤が司法の場では左遷の相場になるのだ。
 

一見権威の象徴のような司法もどろどろとした、人事をめぐる確執があるのだ。したがって山本善彦も左遷必至であろう。


問題は61歳の山本が65歳の定年を前にして、なぜ暴発したかだが、「売名」を指摘する専門家もいる。つまり弁護士に転職した場合名前が知れていることは極めて重要であるからだが、こればかりは本人に聞いてみないと分かるまい。


思うに最高裁は、司法の醜態をさらけ出す前に、エキセントリックな裁判官を原発のある県や隣接県に赴任させないことが重要だろう。


国の政治の根幹を阻害するような判決が次々に出されるようでは、司法による行政の妨害だけが目立つことになる。これでは3権分立が危うくなり、ひいては民主主義の根幹を脅かす事態へと発展しかねない。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月10日

◆朝鮮半島に火薬のにおいが充満

杉浦 正章



一触即発のまま推移している
 

朝鮮王朝の統治理念として用いられた儒教の学問体系・朱子学について司馬遼太郎が的確な指摘をしている。「朱子学というのは大義名分を論じ始めると、カミソリのような薄刃を研ぎにといで、自傷症のように自らを傷つけ、 他を傷つけたりもするイデオロギーだ」というのだ。


最近の北朝鮮の“舌戦”とその“口撃”ぶりを見ていると、まさにまず論戦で勝つという儒教の影響を受けた朝鮮民族の特性を見事に言い当てていることが分かる。労働新聞が韓国大統領・朴槿恵を「老いぼれの気の狂った雌犬」。オバマを「戦争怪獣」と表現するといった具合だ。

しかし、事が「核兵器の先制攻撃」に及んでは、ただならぬ様相としか言いようがない。中国外相・王毅が「朝鮮半島に一触即発で火薬のにおいが充満している」と述べる状態なのだ。


折から米韓両軍はオーストラリアやニュージランドも交えて史上最大の軍事演習を韓国で展開している。展開していると言ってもその大半は場所すら公表せずに実施しているのだ。演習の内容は@南北が戦争に突入した場合を想定したものA北朝鮮の崩壊を想定したものB核基地を先制攻撃して無力化するものC斬首作戦に分けられる。


斬首作戦とは言うまでもなく金正恩の首をはねるという物騒なものであり、米韓両軍の特殊部隊が金王朝の建造物の建物まで想定して、実戦さながらの演習をしている。ビンラディンを殺害した米海軍の特殊部隊Navy SEALsが、今度は独裁者・金正恩の寝首をかく演習をしているのだ。それも作戦開始から30分で殺害する作戦だという。明らかに金の気弱な性格を見抜いた上での心理作戦である。
 

これを伝え聞いた金正恩が、震え上がったのか、天才バカボンの拳銃を発射しまくる巡査のごとくわめき始めた。9日には「核弾頭を軽量化し、弾道ロケットに適した標準化、規格化を実現した」と発言した。


また「国家防衛のために実戦配備した核弾頭を任意の瞬間に発射できるよう常に準備しなければならない」と核ミサイル配備を公言。さらには「核弾頭をいつでも発射出来るよう準備する。軍事対応を先制攻撃的な方式にすべて転換する」と、何と核兵器による先制攻撃にまでけん制が及んだのだ。米ソ冷戦時にも見られない発言だが、このような発言は相手国の核先制攻撃を招くから、普通の国はしないが、ど素人が指導者の国はする。
 

これが儒教の“口撃”にとどまるのか、本気なのかは誰も分からない。ただ北に狂気の指導者がいて、「やるぞやるぞ」と危険極まりない発言を繰り返していることは事実だ。普段なら見過ごすが、4月いっぱい続く「史上最大の演習」の最中である。


恐ろしいのは金の発言に対して米国務省報道官・カービーが「これらの威嚇を真剣に受け止めている」と反応していることだ。これを平たい言葉に言い換えるなら、「やるならやってやるぞ」ということになる。だから一触即発なのだ。


もっとも米国は国防総省報道官・クックが「北朝鮮が核弾頭を小型化するのを見たことがない」と発言しているが、これは甘いかも知れない。もちろん米大陸に届く大陸間弾道弾に関しては、再突入技術を獲得するに到っていないから米国へのミサイル攻撃はまだ無理だ。しかし、韓国や日本に届く中距離ミサイル・ノドンなどに登載不可能かと言えば必ずしもそうではあるまい。
 

北の核開発期間は、2006年の最初の実験以来10年間あり、相当進んでいるとみられる。低開発国の核兵器開発も、中国の開発の歴史を見れば小型化は一定期間あれば可能であると見るべきだろう。核搭載のノドンはソウルはもちろん釜山に到るまで、また東京や大阪にまで到達は可能である。


金の得意用語「火の海にしてやる」事が可能となるのだ。したがって、米国はノドンによる攻撃準備が整ったと判断すれば、核基地への先制攻撃も辞さないだろう。そういう事態に陥っているのが実体なのだ。核の傘があることを明示しなければ、韓国のみならず日本まで核武装しかねないからだ。
 

とりわけ金正恩は5月に36年ぶりとなる朝鮮労働党の党大会を控えており、米国に屈しない姿勢を大会前に示しておく必用に駆られる危険がある。


ここで重要になるのは中国の態度である。王毅は「中国は隣国として朝鮮半島の安定が根本的に破壊され、中国の安全や利益が理由もなく損なわれるのを座視しない」と発言した。「座視しない」とは第2次朝鮮戦争があり得るということになる。


中国は義勇兵を繰り出して米軍を釜山まで追い詰めた。一時は釜山陥落も危惧される情勢となり、韓国政府は日本の山口県に6万人規模の人員を収用できる亡命政府を建設しようとし、日本側に準備要請を行っているほどだ。


しかし、習近平が嫌いに嫌っている金正恩が核を使用するのを食い止める米軍の先制攻撃は、まさに国際正義の遂行であり、「座視しない」と言い切れるかだ。米中が事実上結託して金正恩を暗殺する事態となれば別だ。その場合金体制は倒しても、労働党政権は維持することを密約しなければ、中国は乗らないだろう。38度線死守は中国の極東戦略の要でもあるからだ。


いずれにしても瀬戸際路線を突っ走る金正恩が、“口撃”から踏み出すかどうかをかたずをのんで見守るしかあるまい。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月09日

◆スティグリッツの「再延期論」が増税派直撃か

杉浦 正章



自民・官邸に発言への期待論高まる
 

消費増税反対派経済学者の招致はまさか推進派の根城、財務省が進める訳がないし、だれの指名かと思っていたが、やはり首相・安倍晋三本人の指名であったらしい。


事実上増税延期かどうかに決定的な影響をもたらす16日からの国際経済分析会合にノーベル経済学賞受賞者で米コロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツを招くのは、極めて政治的な意味合いが深い。


スティグリッツは従来からアベノミクスの支持者であり消費増税に真っ向から反対している。超大物経済学者を同会合冒頭に呼ぶのは、その後の論議への波及効果が大きい。まるで財務省の代弁者であるかのような東大経済学派を黙らせることが出来る。自民党内にも発言への期待が生じている。「消費増税再延期・衆参同日選挙」への弾みとなる公算も出てきた。
 

興味深いのは14年11月の10%消費増税延期の際と同じコースをたどっていることだ。同年11月6日に安倍はやはり延期論を唱える米プリンストン大教授・ポール・クルーグマンと会談している。


この席でクルーグマンは「アベノミクスを支持する。しかし今度の消費税引き上げは慎重にいくべきだ。そうしなければ景気が腰折れしてしまう。となればデフレから脱却できず、経済再生、財政再建もおぼつかない」と安倍に延期を勧めている。


安倍は熱心に耳を傾けており、事実上この発言が決定的な役割を果たしたといわれている。45人の有識者から意見を聞く点検会合も開かれていたが、同会合は過半数が賛成論だったにもかかわらず、安倍はこれを無視してクルーグマンの主張を受け入れたのだ。
 

今回の会合でスティグリッツがどう発言するかが極めて注目されるところだ。その内容は朝日の13年のインタビューからうかがえる。まずアベノミクスについては「3本の矢、すなわち大胆な金融緩和と財政出動、成長戦略を組みあわせた包括的な政策は、日本経済を立ち直らせる正しい取り組みだと思う。欧米が学ぶべきものだ」と賞賛している。


さらに巨額の財政赤字と財政の引き締めとの関連については「経済を成長させてこそ、国内総生産(GDP)に対する政府債務の比率を下げることができる。財政再建を優先し経済成長を犠牲にするやり方では、財政赤字を減らせない。歳出削減と増税を急ぐ緊縮財政は、つねに失敗してきた。弱含みの経済を悪化させ、税収を減らす」と強調している。
 

まさに今年に入ってからの経済状況をも言い表しており、官邸や自民党に多い増税再延期論と軌を一にしている。そして消費増税については「だい一になすべきことは成長を回復することであり、増税はそれから考えることだ」と述べている。


かつてクルーグマンは「私としては『インフレ率が2%程度に達してから引き上げる』といった条件付きの延期の方が望ましいと考える」と述べているが、スティグリッツはこれとほぼ同様の考えのようである。自民党幹部の1人は「スティグリッツがこの時期に登場してくれることは有り難い。スティグリッツ様さまだ」と漏らしている。
 

第2回会合は17日、米ハーバード大教授デール・ジョルゲンソン、元日銀副総裁の岩田一政から意見を聞く。


ジョルゲンソンの発言は資料が乏しいが、かつては「消費税の役割を大きくしていくことも必要になるだろう」と増税に前向きな姿勢を表明している。しかし株安と消費が冷え込む現段階でも「必用」と言うかどうかは、疑問がある。岩田は増税1%論だ。1%ずつ2回に分けて行えば良いとしている。
 

恐らく今回も賛否両論が出されるだろうが、先に指摘したように5月26日からの伊勢志摩サミットは、世界経済の現状を色濃く反映したものとなるだろう。


サミットで重要なのは、10年間国際経済をリードした中国、ブラジルなどの新興国に代わって再びG7がいかに世界経済リードの手綱を握るかにある。議長である安倍の責任は重大であり、日本は8%への引き上げで生じた経済不振からの脱却を明示しなければなるまい。


G7が協調して実体経済の底上げとマーケットの安定化を図る方向を打ち出す必要がある。議長国としてはまるで「アベノミクスの断念」「デフレ回帰」となるような消費増税は再延期するしか方策がないのではないかと思われる。
 

安倍は「世界経済の大幅な収縮が起こっているかどうかだが、専門的な見地から行われる分析も踏まえて、その時の政治判断で決める事柄だ」とこれまでの「リーマンショック並み」という再延期の条件に「専門的な見地」という“新条件”を加えている。


その専門家の発言の最たるものが「スティグリッツ発言」となる可能性は大きいのだろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2016年03月08日

◆中国構造改革は丁半五分の賽の目ばくち

杉浦 正章



経済失速か構造改革達成か 
 
著名な投資家とはいえ、たかがハゲタカファンドのトップの発言に国家が総力で足掛け3か月にわたり反論を繰り返している。


ジョージ・ソロスの1月のダボス会議での「中国のハードランディング(底割れ)は不可避」「私は予想しているのではなく実際に目にしている」との発言が、中国国家主席・習近平以下中国首脳らを飛び上がらせた。


首相・李克強が自ら反論に出たのはもちろん、国営放送、新華社、新聞などをフル動員して対ソロス戦を展開。6日になっても経済政策を統括する国家発展改革委員会主任の徐紹史が「中国経済がハードランディングすることはあり得ない」と強調、「予言は必ず外れる。中国経済を合理的な範囲で運営する能力が我々にはある。中国が世界経済の足を引っ張ることもあり得ない」とかみついている。
 

中国首脳はおそらく英国イングランド銀行の悪夢の再来を感じ取ったに違いない。悪夢とは、ソロスが1992年にイングランド銀行に通貨戦争を仕掛け、同銀行は防戦しきれずに敗退したことである。


しかし、著名でいくら世界最大規模の投資家とは言え、その資金は300億ドル程度。中国の外貨準備高は15年に5000億ドル減少したもののまだ3兆ドルある。恐らく通貨戦争の経験に乏しい習近平ら中国首脳の“ナイーブ”さが、日本から見ると異常なまでの過剰反応を見せているということであろう。


無理もない、その背景には待ったなしの中国経済の落ち込みがある。全人代最大のテーマは経済失速か構造改革かという、共産党1党独裁体制の存続にまで及びかねない大勝負の推進にある。


中国政府はいよいよ構造改革の第一段として「ゾンビ企業」の淘汰(とうた)に乗り出す。習近平も昨年来明言しており、全人代はその具体化が焦点となっているのだ。李克強も「長年蓄積してきた矛盾とリスクが一段と顕在化し、経済の下押し圧力が増している」と危機的状況を認めている。


中国経済の足を引っ張っているのは、過剰な生産設備と大量の在庫、そして、実質的に破綻しているものの地方政府の補助金などで生き延びてきた“ゾンビ企業”である。この淘汰(とうた)に手をつけるのだが、鉄鋼、石炭、ガラス、セメント、アルミニウムの5業種が「ゾンビ企業」の代表格。当初は主に炭鉱と鉄鋼が焦点となる。


中国政府はとっかかりとして石炭・鉄鋼セクターで180万人をレイオフすると明らかにしたが、全体では最終的に600万人が2年以内に失業する可能性が強いとみられている。問題はこの世紀の大リストラがうまくいくかどうかだ。


出稼ぎ労働者の失業と異なり、炭鉱や鉄鋼の労働者が組織的に全国で反乱を起こせば、政権を直撃しかねない事態となる。これを回避するために政府は産業界のリストラに伴う労働移動のための費用として2年間で1000億元(2兆円)を割り当てる方針を明示した。まさに政府挙げての失業対策であるが、体制への不満が噴出しかねない要素もある。鬼が出るか蛇が出るかは予断を許さない。
 

一方で構造改革では全国で約100社ある石油、電力、航空など大型国営企業にもメスを入れる。企業の合併や買収のM&Aを展開するのに加えて、株式会社化するなどして40社程度に絞って利益を出す。スケールメリットを狙っている。


市場メカニズムに任せる問題を、国家が強権的に一種の国家資本主義的な独占体制を築く。しかしこれも多分に恣意的に決めるため、存続する企業とそうでない企業が出て、政権への反発が生じ得る要素でもある。早くも存続のために賄賂が飛び交うといううわさが生じている。
 

さらに加えて中国政府は貧困にあえぐ農民を中間層にして、消費の拡大を図るために全国で130か所にわたる「新型都市」の建設に着手した。農村部を無理矢理都市化して、農民を移住させて別の職業に就かせ消費層を拡大するのだ。


しかし農民を都市労働者にする構造改革は容易ではあるまい。農民は土地への愛着が強く、また転職しにくい職種でもある。社会不安に通ずる可能性も否定出来ない。ただでさえ中国も人口減の時代に入った。過疎化を過度に推進すれば食糧危機が生ずる可能性も否定出来ない。これも大きな不安定要素となり得る問題である。
 

こうして多くの政権直撃材料を抱えながらの構造改革だが、習近平体制が、本気でやりきれるかどうかは疑問がある。李克強は「この関門さえ突破すれば、中国経済は必ずや不死鳥のごとくよみがえり、再び光り輝くことができる」と意気軒昂な発言で強気だ。


しかしソロスの予想通りに人民元は下落基調にある。外国の資金は、海外に逆流している。国内総生産も6.5〜7%と幅を持たせた強気の目標を設定したが、目標割れを回避するための苦肉の策という意味合いが強い。アナリストの分析では「実体は4〜5%がよいところ」というのが見通しだ。


こうした状況から見て、構造改革は、のたうつドラゴンが打ち出した起死回生の策と言えるが、その結果は丁とでるか半と出るか賽の目ばくちに似た様相を呈している。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月04日

◆中国に制裁の実効性を求めても無駄

杉浦 正章



安保理決議で浮き上がる“抜け穴”


 厳しい国際情勢に対して国連に何が出来るかという疑問は1970年代前半にニューヨークで国連を担当して以来持ち続けているが、今も変わらない。北朝鮮に対する今回の国連決議も、はっきり言って米中妥協の産物であり、抜け道が多すぎて実効性を疑う。


オバマはレームダックという足元を見られて、「石油禁輸」など重要ポイントで主張を貫けなかった。北朝鮮が過去においてこの種の決議に屈したことはなく、例え米国連大使が主張するように今回の決議が過去と比較して最も厳しいものであっても、屈することはないだろう。


逆に核実験やミサイル実験などを継続して、“気勢”を上げるだろう。7日からの米韓軍事演習に際して、中距離ミサイルなどを打ち上げる可能性が高い。したがって金正恩の核とミサイル実験の暴走を止めることは出来ない。
 

決議内容を見ただけで米中折衝で何が焦点であったかなどは手に取るように見える。決議の新たな部分は@北朝鮮への航空燃料輸出禁止A北朝鮮からのチタン、レアアースなど輸入禁止B石炭、鉄鋼石の輸入制限などである。また従来の分野の制裁も強化され、港や空港などでの北朝鮮貨物の検査をこれまでは「疑いのあるものだけ」だったのが今後は「全てに義務づける」ことになった。


学者は「決定という言葉をかってなく多用しており、これに加盟国が従わなければ国連憲章違反になる」などと馬鹿な指摘をしているが、「決定」であろうとなかろうと現実の国際外交は別次元で動く。国連憲章違反など中国もロシアも意に介するわけがない。事実上、実効性のすべてのカギを握るのが中国である。その中国は過去の制裁と同様に「抜け穴」作りに懸命であった。
 

中国は日本や韓国は相手にせず事実上米国とのみ交渉した。そしてまず米国が主張した石油取引の禁止を一蹴した。ついで米中折衝は北の輸出の50%を占める鉱物資源の輸出をめぐって激しいやりとりがあったようだ。米国は全面輸出禁止を主張したが、中国は「北の暴発を招く」としてこれに応じなかった。この結果鉱物資源については、端的に言えば中国の“裁量”に委ねられることになった。


民生目的なら許可し、核・ミサイルの製造に利益をもたらす輸出なら禁止することになった。国連独特のワーディングによる妥協である。誰でも感ずることだが、一体どのようにして中国は鉱物の「輸出」が民生目的であるか、核・ミサイル製造目的であるかを識別するのだろうか。


これは極めて恣意的に判断出来ることであり、金正恩が中国の言うことを聞かなければ「核・ミサイル製造」となり、言うことを聞けば「民生」とすることも可能だ。米国連大使は「この20年間で最も強力」と自分の手柄のような発言をしているが、その実体はこの点一つをとっても中国に手玉に取られた形だ。
 

北朝鮮貨物の「全面検査」にしてみても、これは“手心”を加えることの出来ることの最たるものである。北朝鮮の貿易は90%が対中貿易であり、一方貨物検査は中国の主権に属する問題である。たしかに国境の鴨緑江は丹東から北に到る丹東大橋が物流の中心となっており、たもとには双方の税関があるが、中国の税関は中央政府の言いなりで動くのは常識である。


最初のうちは衛星監視への“ジェスチャー”で、貨物トラックを渋滞させても、月日がたつうちにゆるゆるになるのは火を見るよりも明らかだ。おまけに既に完成して北側の税関整備を待つ新丹東大橋は、片道2車線なので中朝貿易も渋滞なくどんどん活発化する方向だ。
 

航空貨物の検査といっても北唯一の国営航空会社・高麗航空の就航先は中国とロシアだけであり、その2国が制裁に消極的であったことからすれば、チェックをしても最初のうちだけという構図がすぐに見えてくる。貨物船も中朝間の往来がほとんどである。


したがって、例え日米韓が完全検査を行っても北が痛痒を感ずるような効果は出ないだろう。加えて北と中国は1300キロにわたる国境線があり、闇ルートでの物流がかなりあることは周知の事実だ。
 

要するにダダ漏れとまではいわないが、今回も過去と同様に抜け穴だらけの安保理決議なのである。また決議は中国にとって「使える」手段でもある。貨物検査にしても、鉱物の輸入にしても中国の“裁量”である以上、北の刈り上げ頭の独裁者をコントロールすることに使えるのである。


言うことを聞かなければ検査を厳しくすれば良い。したがって当面は厳しくするかも知れない。しかし従順になれば、手を緩めることができるのだ。他の国連加盟国の検査もアフリカなどは北との貿易の利益を考えて見て見ぬ振りをする可能性もある。
 

北は自らの存在が中国の極東戦略にとって必要不可欠であることをよく理解しており、中国が金王朝崩壊にまで導くことはないと確信している。北は中国にとって対米防波堤なのであって、北の政権が滅びれば、極東の勢力関係は一挙に中国が不利となる。習近平は金正恩を小憎らしい小僧と思っても、とことん追い込んで崩潰に導けば確実に自らの地位に跳ね返ってくることをよく理解している。


こうして独裁者・金正恩は日本だけでなく極東の安全、しいては米国の安全にとって危険性を増す一方となるのである。野党の「安保法案破棄」はこうした国際感覚が全くないことを物語っている。
 

今回の決議は確かにかってなく強いものであるが、日米韓にとっては、仮にも中国とロシアが安保理で一致した決議を軽んずれば、外交上の攻撃材料と、国際的批判へと主導する道筋を獲得したことにはなる。外交的なアドバンテージは日米韓が握ったことになる。


いずれにしても北の核・ミサイルの開発は安保理決議では解決出来ない。これを政治的、外交的解決への出発点と出来るかどうかは、日米韓の結束維持にかかっていることでもあろう。しかし6か国会議すら開催できないようでは、前途は厳しい。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年03月03日

◆安倍のボルテージが三段上がった

杉浦 正章
 


岡田、小沢が急きょ秘密会談
 

予算が年度内成立の流れとなって、首相・安倍晋三の発言のボルテージが「一段」どころか「三段」上がった。その際たるものが「憲法改正を在任中に成し遂げたい」と2日言い切ったことだ。


さらに「参院選は自公対民共の対決」と断定、保革決戦を表明した。半世紀以上現役政治記者をやっていれば選挙を前にした政治家の「闘志」を本能的にひしひしと感ずる感覚が身につくが、安倍から伝わるものは強すぎる。どうも参院選だけでは治まらないような勢いを感ずる。


本人は口が裂けてもまだ言う段階ではないが、衆参同日選狙いでなければ感じないような高揚感がある。野党幹部筋によると警戒感を強めた野党は、民主党代表・岡田克也と生活の党代表・小沢一郎が2日夜極秘裏に会談、ダブル選対策を練った。


この時期の政治家の発言は一字一句見逃してはならない。筆者だけが発信した安倍の「世界経済の大幅な収縮」発言を「消費増税先送りへの新条件」ととらえ、解散に結びつけた見方は、全紙が2日遅れで追いかけて政界に定着した。


政局への感性を持って分析すれば、2日の発言も怪しい。自民党内は同日選をにらんで党内各派のすべてが政治資金パーティーを予定しているが、その先頭を切った額賀派のパーティーで「7月に参院選がある。何としてでも勝利して、安定的な基盤のうえに政策を前に進める」と発言したのだ。


駆け出し記者は見逃すが、この「7月に参院選」と述べたのが怪しい。これまで7月とつけたことはなかったと思うからだ。参院選は6月でも8月でも可能だが7月と特定したことは、日程上通常国会会期末6月1日の解散があり得ることを意味する。


発言でミスしたことのない安倍はダブル選を考慮に入れていることなどおくびにも出さないが、注意深く観察すれば心中がぽろりと漏れて出ることがあるのだ。心の片隅にダブルの選択があるから出た言葉だ。
 

さらに怪しいのは冒頭に挙げた「在任中の改憲」発言だ。2018年9月までの任期中に改憲を成し遂げるには、参院でも改憲発議に3分の2が必用でありそれをどう達成するかだ。3分の2議席を達成するには自民、公明、おおさか維新などで78議席が必用だ。2013年には自公だけで76議席を獲得しているから通常ならまんざら不可能ではないが、今回は野党統一候補に共産党の「2万票」が付く。
 

おまけに今回の参院選は自民党の慢心に「お灸」が据えられかねない要素が山積している。政権選択に関わりない参院選では有権者が「お灸」の選択をする可能性があるのだ。したがって任期中に改憲をするには今回の参院選で極めて達成が困難な3分の2を達成しなければならない。


しかしそれが出来るかというと至難の業だ。だからダブルで野党共闘を粉砕してしまうことが必要になるのだ。任期中ということはそういう事を意味する。安倍は事務当局が用意した文書でなく、アドリブで「任期中」を挿入しており、これはダブルもあり得るという気持ちがなくてはなかなか出てこない言葉であろう。


閣僚の国会答弁でもこれまで慎重だった環境相・丸川珠代が被ばく線量1_・シーベルト発言で開き直るような姿勢に転じており、安倍の意向が働いている可能性が強い。要するに安倍は完全に「戦闘モード」に入ったのだ。
 

こうした中で野党は、かねてから行われるとささやかれていた「岡田小沢会談」が参院副議長・輿石東を交えて行われた。岡田は維新との合流にあたって生活などとも合流したい意向を表明している。会談で岡田と小沢は、安倍が同日選を狙っている可能性が高いとの見方で一致した。


小沢は共産党委員長・志位和夫と最近深いつながりを持つが、その共産党票をいかに野党統一候補に効果的に作用させるかが、具体的選挙区名をあげて話し合われたという。また野党選挙協力の効果が参院選単独ならともかく、安倍がダブルに打って出てきたら雲散霧消しかねない点についても話し合われた。


小沢は野党が事前に詳細な衆参で選挙協力の調整をしておけば、ダブルでもしのげる可能性があることを主張したと言われる。民主党内にアレルギー反応が強い小沢のカムバックについては、岡田が認めたのか、「申し訳ない」と断ったのかは、まだ不明である。
 

こうして予算成立がせきを切ったかのように、与野党対決のボルテージが上がりつつある。安倍が「自公対民共」の戦いと定義づけたのは、有権者に自公が極左との戦いに臨んでいるとのイメージをもたらすことを狙ったもので、実にうまい戦略だ。


安倍は年初来の金融市場の急変を受けて「国際金融経済分析会議」を開催すると表明したが、ここで専門家が「世界経済の大幅な収縮」を確認すれば、消費増税の見送りとダブルは確定的となる。


どこかのコメンテーターが「死んでもラッパを話しません」と言うがごとく「ダブルはない」とラッパを吹きまくっているが、主要紙の紙面はその逆で構成されてきた。朝日「同日選・改憲、にらむ首相」、読売消費「増税、先送りの兆候?…首相の発言に変化」、産経「永田町はダブル選に照準」、日経「消費増税先送りと衆参同日選」といった見出しが躍っている。


安倍の心中はまだ分からないが、潮流はナイヤガラ瀑布のようにとうとうとダブルへと向かっているかのようである。

      <今朝のニュース解説から抜粋>      (政治評論家)

2016年03月02日

◆本選挙ならクリントンが有利の傾向

杉浦 正章



トランプ、クリントンが勝利へ:スーパーチューズデー
 

米大統領選の行方を占う天王山とも言うべきスーパーチューズデーで大きな流れが見えてきた。共和党の指名争いは異端の・実業家ドナルド・トランプが圧勝の流れとなった。

一方民主党は前国務長官・クリントンが南部7州で全勝の勢い。この勢いで行くと両者が指名を獲得して11月8日の本選挙の決戦に臨む公算が強まっている。しかし、本選挙でどうなるかの世論調査ではヒラリー・クリントン有利の流れが生じており、米国民の理性が働く可能性が強い。
 

今回の大統領選挙を俯瞰すれば、既成の政治エリートに対して独自の思想を持つアウトサイダーとの戦いの潮流が強く出た。共和党はトランプがそれであり、民主党はクリントンに対抗する社会主義者バーニー・サンダースが部外者的な戦いで一定の成果をおさめている。

わずか1%の資産家が残りの米国民と同等の資産を有するという貧富の差への不満、米国社会の持つ構造的な歪みへの失望感、毎週のように発生する銃器による大量殺人などがアウトサイダー候補の原動力となっているかのようである。

とりわけトランプ支持の流れは、日本で言えば“一揆”や“打ち壊し”の側面を持っている。既成の政治秩序に対する米国民の不満が噴出しているのであろう。加えて共和党の既成の政治家にカリスマ的な人気を有する候補がいなく、共和党員は二重三重の失望感を味わってまるで破れかぶれのような投票行動に出ているのかもしれない。
 

それにしてもトランプ旋風はとどまるところを知らない。日本としてみれば「同盟国にも投票権をくれ」と悲鳴を上げたくなるのが、その主張である。まず絶望的なのは安全保障に関する感覚が全くないことである。シリア問題にしても「爆撃せよ」といったり「ロシアに任せよ」と言ったり、支離滅裂だ。


マルコ・ルビオは尖閣諸島の主権まで日本のものだと主張しているが、トランプは島の名すら知るまい。おまけに日米同盟は、微妙な安保観の違いを認め合う関係で成り立っているが、トランプが大統領になれば土足で座敷にずかずかと上がるような態度で登場し、「自衛隊を上海に上陸させよ」「北にミサイルを撃ち込め」などと言いかねない。
 

最大の危惧は世界最強の軍隊の指揮権をトランプが握るだけでなく、核のボタンを彼が押すことが可能となることだ。要するに何をするか分からない男が大統領になることへの不安は日本だけでなく、同じ同盟国のNATO諸国も同様であろう。


北京もモスクワも恐らく今回ほどかたずをのんで選挙の行方を見守るケースはないだろう。生涯に3回結婚し、4回倒産しており、ルビオが「希代の詐欺師」と呼ぶような男がこともあろうに米国の大統領になるのはまさに悪夢である。

しかし最大のポイントであるテキサス州では、テッド・クルーズの地元であるにもかかわらず肉薄しており、ここでトランプが勝てばもちろん、たとえ互角の勝負でも共和党の候補選びはゲームオーバーになるのだろう。


一方クリントンは夫のビル・クリントンが「最初の黒人大統領」と言われたくらいに、黒人層への浸透が深く、南部での戦いを有利に進めている。南部7州で全勝する可能性が出てきている。


遊びで出馬したとは言わないが、軽い気持ちで出馬したサンダースは学生層や貧困層の支持が高く、資金も豊富で善戦している。全く予想外の健闘であるが、地元のバーモント州では圧勝、ミネソタ、マサチューセッツ両州で接戦が予想されるものの、ここに来てクリントンの巻き返しが激しく、全体ではクリントンの勢いを止められないだろう。


問題は、クリントン対トランプの一騎打ちの本選挙になった場合、どっちが大統領になるかだが、恐らく米国人は「トランプ催眠術」からはっと我に立ち返るのではないか。早くもその流れが世論調査に現れてきている。

CNNテレビは1日、本選ではトランプが不利となるとの世論調査結果を発表した。クリントンに投票するとの回答は52%、トランプに投票するとの回答は44%だった。

一方、共和党の指名候補がルビオ上院議員やクルーズ上院議員になった場合は、クリントンが僅差で敗北するとの結果だ。共和党員が冷静ならトランプは選ばないだろうが、もうどうにも止まらない様相が強まっている。クリントンにしてみれば、トランプが出てくれば一番戦いやすい相手であろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)


2016年03月01日

◆キャスターよ「私たちの方が怒っている」

杉浦 正章



電波全体主義の暴力を慎め
 

「私たちは怒っている」と民放テレビ札付きのキャスター、司会者らが総務相高市早苗の電波停止言及発言に噛みついたが、「私たちの方が朝、昼、晩と左傾化キャスターに怒っている」と言いたい。


最近の一部民放テレビの報道姿勢は甘えがあるとしか思えない。どうせ政権側は何もできまいと言う甘えだ。近年、著しく偏向報道されたのが安保法制と秘密保護法をめぐる「反自民・安倍」キャンペーン報道だ。「戦争法だ」「知る権利を脅かす」と言いたい放題の報道を繰り返したが、今でもその報道に踊らされている国民がどれだけいるだろうか。

左寄りの共同通信の調査ですら安保法を廃止すべきでないが47・0%で、「廃止するべきだ」の38・1%を10ポイント近くも上回っている。この傾向は北の核・ミサイル実験でさらに強まろう。
 

その「私たちは怒っている」というお偉いキャスター様らの先頭を切っている岸井成格は、昨年9月に「メデイアとしても安保法制の廃案向けて声を上げるべきだ」と発言、明らかに政治的公平性を求められる放送法違反と指弾された。


過去にテレ朝幹部が行った発言とそっくりである。報道局長の椿貞良は「なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないか」と他局に偏向報道を働きかけたのである。


郵政省は厳重注意する旨の行政指導を行うとともに、1998年のテレビ朝日への再免許の際に、政治的公平性に細心の注意を払うよう条件を付した。放送法違反として電波法第76条に基づく無線局運用停止がありえた事例である。しかしその後もテレ朝は“改心”どころではなかった。2009年にはコメンテーター・吉永みち子が「我々も鳩山政権を支えている」と驚くべき偏向発言をしている。
 

「怒っている」キャスターらにルーピー鳩山政権だったら、公共の電波を使っていくら支持を表明してもよいのかということを聞いてみたい。そもそも高市早苗の発言は当たり前のことを言っただけだ。高市は衆議院予算委で、放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法4条違反を理由に、電波法76条に基づいて電波停止を命じる可能性について言及した。

誰が判断するのかについては、「総務大臣が最終的に判断するということになる」と明言した。野党が繰り返ししつこく問いただした結果の答弁である。
 

これを民主党や民放が鬼の首を取ったように問題視しているが、ブーメランによる直撃必至だ。菅直人内閣時代の平成22年11月、総務副大臣・平岡秀夫は参院総務委員会で、「放送事業者が番組準則に違反した場合には、総務相は業務停止命令、運用停止命令を行うことができる」と答弁してる。


民主党政権の方が先ではないか。要するに放送法に違反すれば電波法に基づき電波停止処分があり得ると法律に書いてあるのだ。キャスターらも文句があるなら法改正が達成されるよう運動をすべきであり、本末転倒とはこのことだ。
 

言うまでもなく日本は法治国家であり、閣僚の国会答弁は法律に基づいて行われる。その答弁を野党やマスコミが否定しては法治国家を自ら放棄することになり、より危険な国家へと変容する。


それにつけても最近の民放の報道の偏向ぶりは見るに堪えないものがある。28日のTBSテレビの時事放談はもはや手がつけられなくなってきた。偏屈爺さんならまだいいが、偏向爺さんが公共電波を使っていることなど全く意に介さぬがごとく言いたい放題。しかも「誤報」の連続だ。
 

藤井裕久が「本当のことを言うと私は反安倍なんです」というのは勝手だが「安倍政権は末期的症状であると思う。(不祥事が)これほどまとまって出るのはめずらしく、歴代内閣もこれで終わっている」という発言は誤判断もいいところだ。


マスコミが取り上げているゴミネタをを大げさに誇張してとらえているが、もうろくしたのか支持率を忘れている。「末期症状」というのはNHKの調査で鳩山由紀夫の支持率が21%、菅直人が16%、野田佳彦が20%で野垂れ死にしたような状態を言うのであり、支持率50%の政権に言う言葉ではない。 


藤井は民主党政権が愚かにも除染の長期目標に掲げた「年間1ミリシーベルト以下」をめぐり、環境相・丸川珠代が「何の科学的根拠もなく時の環境相が決めた」と発言したとされる問題について「丸川発言はめちゃくちゃ。国際機関の1_シーベルトから20_シーベルトの範囲で一番厳しいものを取った」と自慢げに発言した。

これこそハチャメチャ発言だ。IAEAは「標準人が被ばくする年間実効線量は、通常、1〜20_シーベルトの範囲内とする」としている。20_で十分なのだ。民主党政権は当初野田佳彦が「年間の追加被曝線量20_シーベルト」としていたが、朝日などの反対で細野豪志の「年間1_・シーベルト以下」答弁に至るのだ。


1_・シーベルト以下がどういうことかと言えば、まさに莫大(ばくだい)な国税を投入して達成不能のシーシュポス神話を行っていることになるのだ。そもそも日本人が浴びている放射能は太陽など自然に降り注ぐものが1.5_シーベルトあり、これにレントゲン検査を平均すると4_シーベルト。丸川の発言に科学的根拠があって、逆に藤井は科学的無知をさらけ出したのだ。読売新聞社説もかつて「1ミリ・シーベルトへのこだわりを捨てたい」と指摘している。
 

時事放談では民主党政権下で民間で初めて中国大使となった丹羽宇一郎が、これまた言いたい放題。安倍政見批判を繰り返し得意の論語を引用し、「信なくして国立たず。国会議員が信用なくしているから、総理の話も半信半疑で聞いている」と断定したまではご立派だったが、「国会議員の皆さん。ご自分発言で綸言糸の如しという言葉を考えて欲しい」と知ったかぶりの発言をしてつまずいた。


綸言糸の如しは、天子の口から出るときは糸のように細い言葉が、下に達するときは組み糸のように太くなる意味だ。天子の言葉や天皇の仰せごとを言うのであって陣笠代議士に使う言葉ではない。無知から来る浅はかな用語だ。


丹羽はかつて衆議院議長・横路孝弘と国家副主席・習近平と会った際、都知事・石原慎太郎による沖縄・尖閣諸島の購入表明を支持する意見が国民の多数を占めることについて「日本の国民感情はおかしい、日本は変わった国なんですよ」と、臆面もなく媚態を示してひんしゅくを買った。


この程度の知性の人物の巧言にだまされて大使に起用したのが、外相であった岡田克也だ。史上最大のミスキャスト人事であった。こうした人物を使ってTBSは政見批判ばかりを繰り返しており、これで「私たちは怒っている」の輩(やから)が指摘するようにメディアは萎縮しているのだろうか。むしろ電波至上唯我独尊の全体主義の方が心配になる。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月26日

◆「新党」結成と言うより「旧党」への復帰

杉浦 正章



民・維の背後に共産党の選挙協力の影
 

戦後の政党の離合集散史と比較しても、最も“野合色”の強い合流である。民主と維新両党が来月の合流を26日合意する。合流と言っても何の政策合意もなく、基本的には離党した民主党議員が復党するだけである。「新党」結成どころか「旧党」への復帰に過ぎない。


民主党代表・岡田克也は「自民党に対抗できる民意の受け皿になる」と胸を張るが、駄目と駄目が合流しても駄目の二乗になるだけのことだ。これに生活、社民が加わっても駄目の4乗だ。維新代表・松野頼久はまずいご飯に乗せたまずい沢庵のようなもので頂けない。
 

とにかく合流協議の過程においては松野の自己主張が異様に見えた。対等合併を主張し、党名も「民主の文字を入れるべきでない」と岡田に迫った。ところがNHKの世論調査で自民党支持率が37.6%なのに対して民主党は9.6%と低迷。もっと低いのが維新でわずかに0.8%だ。


この0.8%という数字は世論調査では普通誤差の範囲であり、まさに「誤差の範囲政党」の代表が金切り声を上げても国民への説得力はない。この合流の真の姿は誰が見ても「出戻り」であり、松野はその格好悪さを隠すかのように、自己主張を繰り返したのだ。

筆者は「民主」の文字は残すべきだと思う。良きにつけ悪しきにつけ人口に膾炙(かいしゃ)しているのであり、党名を変えれば政権を取れるものでもあるまい。立憲民主党、になろうが民主自由党、日本民主党などになろうが、選挙やマスコミの略称は民主党となる可能性が高く、事実上変化はない。支持団体・連合にも党名を残すべきだとの声は強い。
 

ここに来て合流が急展開したのは、共産党の動きが背景にある。もともと共産党は「国民連合政府」構想の旗印の下に参院選挙を戦う方針だったが、民主党右派がこれを嫌い、結局押しかけ女房的に32小選挙区での候補を降ろして野党統一候補を応援する方向に転じた。


これが民主、維新の背中を押したのである。影で生活の党代表・小沢一郎と共産党委員長・志位和夫の個人的関係が大きく作用しているものとみられる。
 

合流が固まったあと、岡田、松野が口裏をあわすかのように生活や社民との合流を口にしたのが怪しい。岡田は「2党が軸になって他の野党も合流を」と訴えれば松野は「共産党以外のすべての政党会派に声をかけるべきだ」と唱えた。


他の野党には当然小沢の生活や極左の社民も含まれる。民主党内には小沢一郎が消費増税に反対して分裂して以来小沢アレルギーが強いが、それにもかかわらず岡田が呼びかけるのはなぜか。それは「小沢・志位連合」からの圧力があるからだ。共産党が候補を降ろすにあたって、他の野党との合流を主張しているに違いない。
 

ただでさえ「野合」(自民党幹事長・谷垣禎一)の見方が強いのに、民主党政権で連立に失敗した社民党や、庇(ひさし)を貸して母屋を取られた小沢まで取り込めば、新党は参院選までは一致できてもその後は再び党内抗争が発生するのは火を見るより明らかである。


まるで馬糞を集めて筏(いかだ)を作っても、すぐにバラバラになるのは目に見えている。これを称して馬糞の川流れという。とりわけ首相・安倍晋三が衆参同日選挙を馬糞に打ち込めば雲散霧消してしまうだろう。
 

合流ははっきり言えば悪あがきであり、悪あがきが国民の支持を得て政権を取れるかと言えば、無理だろう。


民主党政権誕生の例を見ればすぐに分かる。当時の自民党は「消えた年金」という史上まれに見る「大失政」に加えて、財務相・中川昭一の泥酔事件や閣僚の数々の不祥事がひしめいて、国民もあきれ果てた体たらくであった。これがアンチテーゼとしての民主党に票がなだれ込んだ最大の理由である。


しかし今度は民主党政権3年3か月の連続大失政が、改心した自民党に票を集めた。したがって小選挙区制においては政権交代が容易になるのではなく、「大失政」や「大疑獄」が発生してやっと政権交代になるのだ。
 

だから悪あがきや共産党票まで当てにした「野合」路線が国民の支持を受ける可能性は少ない。ただ選挙技術的に参院選単独なら自民党が厳しい結果となることは間違いないだろう。


民主党政調会長・細野豪志が「合流により国民が喝采(かっさい)するとか、支持率が抜きん出て高くなるなど、大きく変わることはないだろう。将来の政権の選択肢を国民に示すことに意義がある」と述べているが冷静な見方である。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月25日

◆微妙に変わった首相の再増税発言

杉浦 正章



同日選含みの新条件
 

まだ1年そこそこしかたっていないから「この道はいつか来た道。ああそうだよ」と誰でも思いつく流れだろう。消費増税再延期と解散への動きだ。


14年末も消費税延期で首相・安倍晋三は国民の信を問うた。今回も同じ側近らから中止論が出始め、それを理由に信を問うという説が流布され始めているのだ。それを裏付ける2つの新たな兆候が官邸から出始めた。

そのだい1の兆候は首相・安倍晋三の答弁の流れが変わったのだ。馬鹿な委員会担当記者たちは「リーマンショック並みの事態が起こらない限り延期しない」発言を重視して、相変わらず増税延期せずなどと判断しているが、安倍の新たな答弁の変化を見逃している。75歳の感性はそれをとらえる。


24日に安倍は「世界経済の大幅な収縮が起こっているかどうかだが、専門的な見地から行われる分析も踏まえて、その時の政治判断で決める事柄だ」と付け加えている。これは「リーマンショック並みであるという専門的な見地」を重視し、それが出されれば「その時の政治判断」があり得るという“新条件”をほのめかしたのだ。これまでの「再延期しない」一点張りから微妙に踏み出しているのである。
 

第2の兆候はその専門的見地で14年に1年半の延期を理論武装した内閣官房参与・本田悦朗を安倍が久々にマスコミに登場させている。側近が安倍の意向の忖度(そんたく)なしに発言するわけがないから、安倍が認めて登場させているのだ。千両役者の再登場である。


24日夜の報道ステーションで本田は水を得た魚のように再延期論をぶちまくっている。焦点である「リーマンショック並みの事態」であると言っているのだ。本田は「ある意味でリーマンショック並みのショックが襲いつつある。世界経済は年初から株価が下落、そして円高。このスピードを見ているとリーマンショックの直後より激しいものがある」と断言。


続けて「例えば中国経済の減速は我々が想定したのより激しい。原油価格の下落も想定以上に大きく、上昇の見込みがない」と説明。さらに「来年4月の増税実施はまさにデフレ脱却の道半ばで増税することになるので、消費が落ち込みアベノミクスという政策パッケージの信頼が損なわれる可能性がある。やるべき時ではない」と強調した。
 

まさに安倍の言う「専門的見地」の官邸自家製造である。この発言に比べると、反対論の陳腐な言葉はもはや聞くことすら馬鹿馬鹿しくなる。同じテレビで中央大学教授・森信茂樹が「国際公約がおろそかになる」などと述べていたが、今世界経済は危機的な様相が強まっており、律義に国際公約など守っている国はない。


むしろ5月のサミットで重要なのは、10年間国際経済をリードした中国、ブラジルなどの新興国に代わって再びG7がいかにリードの手綱を握るかにある。議長である安倍の責任は重大である。世界経済は金融緩和依存症候群のような病状を示している。その副作用も出始めており、G7は協調して実体経済の底上げとマーケットの安定化を図る必要があるのだ。


そのためには日本の場合は議長国の責務としてもアベノミクスを推進してGDPを上げるしかない。GDPを上げれば税収は必ず上昇するのであって、増税がなければ年金が下がるなどと言うのは財務省の戯言だ。
 

逆にただでさえ、8%増税の後遺症が消えずに消費が活発化しない状況が続いているのであり、ここで打つべきはカンフル注射であって、「アベノミクス断念増税」の劇薬ではない。10%に増税すれば必ず、景気はより深い落ち込み場面へと移行する。日本経済はさらに10年デフレを彷徨(ほうこう)する。


逆に凍結や延期をすれば、市場は好感するし、安倍が久しぶりに取り戻した国民のやる気や笑顔があふれる国を維持することになる。G7が日本に求めるのは増税による停滞ではさらさらあるまい。
 

増税推進論者は2012年の3党合意を金科玉条のように掲げるが、そもそも3党合意は民主党政権下で同党幹事長・輿石東、自民党幹事長・石原伸晃、公明党幹事長・井上義久が密約してはじまったものだ。三流政治家とは言わないが一流政治家とは言えない面々の合意が、いつまでも安倍政権の経済運営を縛るのも馬鹿げているなどという暴言は吐かないが、ちょっとだけそんな気がする。
 

それに夏には国政選挙が控えており、戦略的にもダブル選挙は不可避の潮流となって来つつある。安倍のことだから意表を突いて4月解散が脳裏にあるかも知れないが、サミット前の外交の重要なときに選挙に血道を上げてはなるまい。議長国として6か国を歴訪して根回しをした上で落ち着いた雰囲気の中で、「世界経済巻き返しサミット」を成功させるべきであろう。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月24日

◆安倍の訪露外交は中露分断に不可欠

杉浦 正章



オバマの言うことばかり聞くことはない
 

外相・岸田文男がカンカンになって怒っている。中国外相・王毅が電話会談にも応じないからだ。この事態が象徴するのは2014年の首相・安倍晋三と中国国家主席・習近平との会談以来徐々に良好になっていた日中関係が冷却化しつつあることを物語っている。


原因は慰安婦問題解決で日韓が急接近。さらに北朝鮮の核・ミサイル実験で極東安全保障情勢は米国を中心に日米韓が結束し、中朝にあたる図式が鮮明化してきたことにある。

韓国内のメデイアではこれを「日米韓対中朝露」の構図ととらえる見方が強いが、日本から見ると間違っている。韓国は安倍とプーチンの関係を知らないからだ。


安倍は領土問題もさることながら、プーチンとの会談で中露分断に比重を置く必要に迫られることになった。24日付読売のスクープによると、安倍がオバマの日露会談中止要請を突っぱねたといわれるのは大局的に見れば正しい。独自外交でも極東の安全に資すれば良いのだ。
 

とにかく中国は自分に都合が悪いと、他国首脳との接触は電話にも出ないという国柄らしい。安倍が習近平と電話会談しようとしても応じないし、岸田が王毅に電話しても出てこない。言うまでもなく北の暴挙を安倍や岸田が指摘しても、返答に困るからだ。


ただオバマや朴槿恵の電話には応じており、小憎らしい対応だ。中国の北寄りの構えは、基本的には1961年に締結された軍事条約・中朝友好協力条約にある。北が攻撃を受ければ中国は自動介入する軍事同盟だ。ロシアと北は親善条約はあるが軍事同盟ではない。この基本的関係を中国は未来永劫(えいごう)変えることはないと見るべきだろう。
 

なぜなら北は米国に対する防波堤であるからだ。したがって北の政権はどのような愚者がなろうとも維持せざるを得ないのだ。


北と中国の貿易は総額で55億ドルに達しており、北の貿易総額の90%以上を占めている。世界がたとえ石油の禁輸措置を取っても、丹東の石油基地から鴨緑江の地下を通るパイプラインを通じて中国産原油がどんどん入っているから無駄だ。

米国が原油の禁輸をしようとしても、まさにだだ漏れで効果がない。もっと悪いことには、北のミサイルも核開発も中国が技術を小出しに出して、あおっているといわれることだ。まさに確信犯であり、米国主導の制裁に中国が賛成するわけがないゆえんである。
 

その中国が、恐怖で顔が引きつったのが韓国による終末高高度防衛システム(THAAD)導入検討である。THAADは超高性能レーダーと迎撃システムを合致させたもので北の中短距離ミサイル防衛に役立たせるためのものだ。米国の度重なる要請に朴槿恵はこれまで迷いに迷っていたが、核実験とこれに次ぐミサイル実験でやっと導入に前向きとなった。


THAADのレーダーは北朝鮮どころか中国の奥座敷まで見通せる能力があり、導入されたら朝鮮半島しいては極東の安全保障の構図に決定的とも言える有利さをもたらすからだ。中国は慌てふためいて韓国大使を呼びつけ抗議した。


中国は、東シナ海だろうが南シナ海だろうが自分はどんどん軍事的進出を繰り返し、周辺国の痛みなどどこ吹く風としてきたが、THAADで初めて人の痛みを知ったかのようである。またTHAADは防衛的色彩の高い兵器であり、文句があるならミサイルを設置しなければ良い。
 

こうして、米韓の安保の構図は強化される流れとなった。また慰安婦問題の前進は、日韓関係に根本的な好影響をもたらした。韓国は日本との軍事情報包括保護協定にも前向きになってきている。既に日米関係は安保関係法の成立で一段と良好なものとなっており、極東の安全保障地図は日米韓による対北、対中抑止強化の流れとなってきたのである。


中国の対日冷却化の動きは、これに何とか棹さしたい気持ちの表れと見るべきである。とかく割れやすい日本の世論分断も狙っているのだろう。中国は昨年9月の軍事パレード以来、ロシアとの関係改善に重点を置いており、習近平には韓国のメディアが見るようにできれば中朝露で日米韓に対抗したい気持ちがあるのだろう。
 

しかし中露は長い国境を接しており、基本的には対立を常に内包している。そう簡単には仲良くなる国同士ではないのだ。


ここで役立つのがプーチンと度重なる会談で個人的にも良好な関係を築いてきた安倍が、5月連休にもソチで会談する流れとなっていることだ。もちろん領土問題が主要議題になるが、重要なのはロシアを極東で中朝側に追いやらないことだ。


読売によるとオバマは2月9日の安倍との電話会談で、安倍の訪露に懸念を示したと言われる。理由はウクライナ紛争の停戦をきめたミンスク合意をロシアに履行させるため、共同歩調で追い込む必要があるというのだ。

しかし安倍は「日本にとってはロシアとの平和条約も大事だ。ロシアと対話を続けていくべきだ」と突っぱねたという。オバマには中東重視の余り極東情勢への観点がかけている。安倍は中露接近にくさびを打ち込めば良いのである。領土問題が一歩でも半歩でも前進すれば、極東情勢の安定には寄与する。


さらに日露首脳が朝鮮半島の平和維持の必用と半島の非核化で合意すれば、結果は米国の戦略にもつながることである。なにもオバマの言うことだけを聞くのが日本外交のすべてではない。日本がウクライナより極東を優先するのは当然だ。別に安倍はロシアを経済援助して、息を吹き返さそうとしているのではない。


ドイツ首相のメルケルが対露外交で独自色を出し勝ちだが、日本も時には堂々と独自色を出すべきだ。弱虫オバマも同盟国にばかりに要求しないで、やるべき事をやらねばならない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月23日

◆野党の安保廃止闘争は「亡国」の戦い

杉浦 正章



与党は安保論争再燃でダブル選に持ち込め
 

「国民連合政府」を「横に置く」とはよく言った。恐らく共産党委員長・志位和夫は徹夜で考えたに違いない。民主党内の反対を考慮して、事実上の「棚上げ」または「断念」を「横に置く」と格好づけたのだ。政策は棚上げにして何が何でも「あの夢」よもう一度ということらしい。


あの夢とは国政選挙の前に去年の夏国会前で10万人を集めて安保法制反対のシュプレヒコールをとどろかせた大衆動員だ。志位はあれに興奮したのだ。61歳の志位は安保反対闘争を全く知らないから、興奮するのも無理はない。


しかし安保闘争に見られた革命前夜を思わすムードなどさらさら今の大衆運動にはない。共産党の狙いはそば屋でトロのにぎりを求めるが如しだ。虚構を追っているのだ。
 

しかし志位には横に置かないものがある。それは参院選で共産党候補を、ひき降ろして、民主党に候補を絞るという戦術だ。2009年の総選挙で民主党に308議席を取らせる原動力の1つとなった「候補者降ろし」を参院選でも展開して、にっくき安倍政権を窮地に陥らせようというわけだ。主義主張の異なる政党が手を組むことを野合と言うが、まさにその路線を臆面もなく進んでいる。


おまけに選挙運動を進めている自党の候補をひきづり降ろすのだから、ヒトラーもびっくりの全体主義路線だ。民主主義政党は国民と政治をつなぐ組織であり、選挙において候補を当選させることが大きな使命だ。ところが共産党は地方支部の意向などあってなきが如し。党首の思惑でどうにでも出来るのだ。個人のすべては全体に従属する全体主義政党であり、末恐ろしさを感ずる政党でもある。
 

赤旗を読んでいれば分かるが、今最大の狙いは「若者を組織化して誘導する」動きだ。18歳選挙権実施を目当てにナイーブな高校生らを誘導して、野党票に結びつけようとしている。生き馬の目を抜くような動きであり、このところ選挙などどこ吹く風と、だれまくっている自民党など足元にも及ばぬすばしっこさだ。


近ごろ力を入れているのは戦争法に反対する高校生グループ「T.nsSOWL(ティーンズ・ソウル)」への肩入れだ。しんぶん赤旗でデモを大々的に取り上げ、コラム「きょうの潮流」では「全国いっせいに立ち上がった高校生。日本の政治に春を呼ぶデモです」と扇動している。


これでは純粋な高校生まで共産主義イデオロギーの毒牙にかかりそうで心配である。新有権者への働きかけを自民党は根本から見直した方が良い。もともとネトウヨなど保守化が強いのが若者の傾向である。“毒牙排除”へと動くべきだ。
 

野党5党の結集は「国民連合政府」の挫折で、空中分解するかと言えばそうでもない。むしろ「野合路線」が強まった。憲法観が異なろうが、消費税で食い違おうが、なりふり構わぬ参院選挙共闘を推し進めようとしている。


言ってみれば志位は押しかけ女房のように民主党代表・岡田克也にすり寄って、ぎょろ目の岡田を秋波でしびれさせている。その背後には遣り手婆さんのごとき小沢一郎がいる。これもなりふり構わぬどころか、ふんどしをしめて土俵に上がりたがっているのだ。こうして野党5党の選挙協力路線がまがりなりにも出来上がりつつある。
 

加えて野党は、志位の夢の通り国会前に10万人集めるために、2段階で安保法破棄に動く。野党5党が足並みをそろえた安保法廃止法案で、まず集団的自衛権の限定行使を撤回。そのうえで、民主、維新による現行憲法の枠内で自衛隊活動を拡充する法制の二段構えの対応だ。


ここでも自民党は「審議に応じないから廃案になる」と楽観視しているが、もともと野党は成立など考えてもいない。狙いは院外闘争、選挙闘争にあることに着目しなければなるまい。
 

それにつけてもはっきり言って野党は「亡国の戦い」を恥ずかしげもなく実行に移すものである。


極東情勢に目を向けるがいい。北朝鮮による原爆とミサイル実験は安保法制の正しさをまさに立証している。野党が主張し、プラカードを圧倒的に占めた「徴兵制反対」と「戦争法案反対」のプロパガンダは、成立後半年を経た今でも成り立つだろうか。政府部内を見渡してもその兆候どころか気配すら見えないではないか。


逆に北朝鮮の「必殺刈り上げ頭」の思考は危険極まりない。夏の国会で焦点となった日本のイージス艦がアメリカに飛ぶ北のミサイルを迎撃できる場所にいながら、迎撃せずに見送った場合どうなるか分かっているのか。米国は日本に裏切られたとして、東京、大阪に向かう北の核ミサイルを迎撃することを躊躇するかもしれない。


躊躇は核攻撃の場合致命的である。まさに安保法は極東の安全保障の要であり、これを廃案に導く法案は、国家の安全保障の基本を知らない「国賊法案」に他ならないのだ。その抑止性が重要なのであり、「徴兵制」「戦争法案」のプロパガンダは当初から破たんしていたのだ。


政府・自民党は野党法案の審議に入らないのは良いにしても、予算委などの議論を通じて正々堂々と「安保論争」を展開して、その是非を国民に問うべきであろう。支持率が高いからと言って油断すると、足元から崩されるのだ。


選挙でも「北のミサイルが飛んできてもいいのか」を問えば良い。こうみてくると与党は野党の選挙協力と安保法案を逆手にとって、国民の支持を得る絶好の機会が到来したと言える。ダブル選挙のチャンスである。
 

公明党代表・山口那津男が依然「衆院選も一緒にあるのではという人がいるが、この参院選にしっかり臨み、政治を安定させるのが本命だ」などと慎重論を述べているが、事態を正確に掌握していない。参院選単独では野党共闘で自民党苦戦が必至なのである。ダブルにすれば参院32小選挙区のかなりの部分で野党共闘が成立しても、衆院295の選挙区では共闘にねじれが生じて野党が不利になるのだ。


結果的に衆参で自民が勝つ構図が山口には読めないのだ。創価学会幹部の中で今年に入って「どっちみち年内に2度国政選挙をやるなら、一回で終わらせる方が手間暇かからない」という見方が強くなっていることを山口は知らないのだろうか。学会から干され始めたのかと思いたくなる。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)