2016年02月19日

◆テロでもクーデターでも半島は一触即発

杉浦 正章
            


狂気の「処刑人」に日本も警戒態勢を漏れた瞬間にぶち壊されるのが全体主義国家のクーデターだから、例え真実であったにしても現在ではもうつぶされているだろう。


私の知る限り北朝鮮でのクーデター説が最初に公に流れたのが15日早朝の文化放送「おはよう寺ちゃん」だ。ここで経済評論家・上念司が「開城協業団地からの撤退を急いだのはクーデターの可能性が高まったからだ。韓国政府は危険を察知して一刻も早く脱出させた」と語った。


次に掲載されたのが18日発売の週刊文春だ。同誌は日本政府関係者が、「韓国の情報機関が日本側に〈北朝鮮人民軍の一部に不穏な動きアリ〉との情報を伝えてきた」ことを明らかにした。


政府関係者は「韓国側はなんらかの裏づけとなる情報をもとにクーデターの可能性もあり得ると判断している。開城工業団地には通常時で八百人もの韓国人が駐在しているが、不測の事態でこれら駐在員が人質となった場合、韓国政府は手も足も出ない。速やかに韓国国内に退避させるために操業中断という措置に踏み切った」と述べたという。
 

確かにテレビで見る限り開城からの引き上げを前回と比べれば、前回は乗用車の屋根にまで物資を縛り付けて撤退したが、今回はそうしていなかった。けげんに思ったが、クーデター情報が慌ただしい撤退を強いた可能性は否定出来まい。


しかし、ジョージ・ブッシュが名付けた「悪の枢軸国家」である北朝鮮では、48年の建国以来これはというクーデターは発生していない。むしろ韓国で多発している。なぜかと言えばすべてにおいて軍事を優先する北朝鮮独特の「先軍政治」にある。軍人は特権階級であり、とりわけ将校は一般民衆に比較して裕福な暮らしを享受できる。そして幼いときから国民は最高指導者を神格化させる徹底した洗脳教育を受けてきている。
 

しかし、金日成、金正日までと比較して金正恩が常軌を逸脱した異質な人間であることがどう作用するかを考えれば、いつクーデターが発生してもおかしくないのではないか。


北朝鮮の専門家によれば金正恩は経験不足から党幹部や軍幹部に対して強い引け目を感じており、これが100人を超えるという粛正に直結しているという。就任時に80`だった体重も、現在では130`にまで及んでいると言われる。この太り方が意味するところは精神疾患の可能性があり、それもそううつ病である可能性が高いという。その薬の副作用もあって肥満しているのだという。


病んだ指導者による処刑執行は日常茶飯事であり、朝日によると46階建ての高層ツインタワーに喜んだ金正恩は「同じものを十数棟建てろ」と指示した。資材不足から難色を示した平壌市の建設担当書記は、直ちに処刑されたという。


高級幹部らに「処刑してやろうか」と述べるなど、まさにその行動は狂気の全体主義者の特質をすべて兼ね備えている。


北朝鮮軍のトップにあたる総参謀長の李永吉、李英鎬、武力相の玄永哲など軍幹部が次々に処刑されている。しかも玄永哲の場合は居眠りをしたという罪で高射砲を使っての公開処刑だ。この狂気の恐怖政治をとどまるところを知らぬ勢いで続けた場合、いくら先軍政治だからと言って、体制を維持出来るかと言う疑問は生ずる。
 


一方で韓国政府は、金正恩が、韓国に対するテロやサイバーテロのために力を結集するよう指示し、対外工作機関が準備を進めているという情報があることを明らかにした。


18日午前、韓国の国会で、与党のセヌリ党と、情報機関、国家情報院などの幹部との会議で政府側は「金正恩が@韓国に対するテロやサイバーテロの実施A韓国政府の関係者や脱北者、それに北朝鮮を批判する活動をしている人物の毒殺B地下鉄や大型の商業施設などの多くの人が集まる場所や電力や交通などのインフラ破壊ーなどを指示した」と説明した。


韓国の諜報員は北の政府に食い込んでいるといわれ、もっぱら電波傍受が中心の日本の情報収集活動とは異なる。信ぴょう性はクーデター説よりこちらの方が高い。したがって開城“脱出”の指示も、韓国人がテロで人質になることを恐れたものという見方の方が理にかなうかもしれない。
 

大がかりなテロが実行された場合、韓国は報復の攻撃を平壌に対して行う可能性が高く、事態は第2次朝鮮戦争の可能性すら内包していると見るべきであろう。クーデターが発生した場合も戦争に発展する可能性がある。


なぜかと言えばクーデター発生と同時に中国が軍事介入する可能性があるからだ。中国としては何が何でも38度線より防衛線を後退させたくないのだが、その場合米韓は黙っていないだろう。まさに朝鮮半島は一触即発状態に入ったとみるべきだろう。


対岸の火災視はできない。テロ国家の牙をむき出しにした北朝鮮が、日本でも在住の工作員を総動員してテロを巻き起こす可能性もある。政府は警戒レベルを上げなければなるまい。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月18日

◆敵基地攻撃能力が最大の課題に

杉浦 正章
 


北の体制崩壊しか拉致解決の道はない


中国国家主席・習近平は自国の「戦国策」に「賊に兵を貸し、盗に食をもたらす」ということわざがあることを知らないらしい。方法を誤って悪を助長させるたとえだ。

北朝鮮という「夜盗国家」を増長させている原因はすべて中国にあることが、金正恩が核とミサイルを誇示する度に鮮明となっている。その北朝鮮が今度は制裁を科した日本への報復として、拉致問題の再調査中止と調査を担当する「特別調査委員会」の解体を表明した。


もともと最初から筆者が指摘してきたとおり、「遺骨で資金調達」の国際的な大ばくちを打ったのが調査委であり、それがばれれば解体するしかあるまい。藁(わら)をもすがる気持ちで希望をつないだ被害者家族の苦衷は察するに余りがある。


しかし残念ながら、もはや拉致問題は完全に行き詰まった。かくなる上は秘術を尽くして北の体制を崩壊に導くしか、解決の手段はないだろう。ヒトラーと酷似する独裁者・金正恩の極東支配の野望の芽を摘まなくして、すべての問題は解決しない。また座して死を待つべきではない。北の核基地をつぶす敵基地攻撃能力の保持に動くべきだ。


筆者が拉致問題で指摘してきたレベルの話を、まさか政府が知らずに遂行するはずはない。北は金目当てであったのであり、拉致問題の解決は至難の業であることは誰でも承知している。安倍内閣も最大の課題の一つとしての看板をはずそうにも外せない構図があるが、しかしもう正直にその困難性を認めるべき時かも知れない。


日本政府が認定した拉致被害者は17人。北朝鮮政府側は、このうち13人について、日本人拉致を公式に認めており、5人が日本に帰国しているが、残り12人については「8人死亡、4人は入境せず」と主張している。


この8人死亡の意味するところは、特殊工作機関がその存在と工作の実態の漏洩を恐れて「抹殺」したのであろう。20代〜30代の若さでガス中毒、交通事故、心臓麻痺、自殺など不審な死に方ばかりであり、これははっきり言って消されたのだ。「入境しない」とは日本海に沈めた事を意味すると思う。


ここをしっかりと事実関係として受け止めて対処するしかない。拉致問題だけの進展を期待してももはや不可能となっているのだ。
 

それではなぜ1年半前に北が調査委を設置したかと言えば、すべては資金調達だ。米兵の戦死者は8000人で、その遺骨1柱につき1万ドルから3万ドルを支払っているとされる。一方で北朝鮮にある日本人の遺骨は、厚生労働省によると2万1600柱ある。そのほとんどが戦争直後の混乱で死亡した人たちであるが、1柱3万ドルを日本からふんだくれば600億円となる計算だ。


これにミニヒトラーが浅薄にも目をつけて、資金をせしめようと動いたのが調査委の実態だ。だから拉致被害者の調査などは、もともと行おうにも不可能であったのだ。
 

100人もの軍人や党幹部をを粛正する異常なる独裁者に指導される国家に対抗するにはどうすべきかと言えば、既に書いたようにヒトラーをのさばらせたチェンバレンの融和策の愚を繰り返さないことだ。その融和路線排除を鮮明にさせたのが朴槿恵の16日の国会演説だ。


朴は開城(ケソン)工業団地の操業を全面中断したことについて「我々が国際社会とともにとっていく措置の始まりに過ぎない」と述べ、北朝鮮に対しさらなる対抗措置を講じる考えを示した。その上で「北朝鮮政権が核開発では生存できず、むしろ体制崩壊を早めるだけだという事実を痛切に悟り、自ら変化するしかない環境を作るため、より強力で実効的な措置をとっていく」と強調した。


これは核開発が体制を崩潰させることをを指摘しただけではなく、体制崩壊まで「強力で実効的な措置をとる」との意思表示でもある。これを裏付けるように時事通信によれば韓国政府当局者は17日、「北朝鮮が変わらなければ、体制が崩壊し、滅亡する可能性もある」と警告した。
 

翻って日本政府は相変わらずの拉致・核・ミサイル一体処理の一点張りだ。しかしいまほど政府の「全員が生存しているとの前提で対処する」という言葉が空しく響くときはない。外相・岸田文男は「北から具体的な行動を引きだすために引き続き最大限努力する」と発言しているが、これも現実逃避のお座なりさが鼻につく。


ここはまず国際世論を喚起して、金王朝を崩壊に導くしか解決策はないだろう。それには冒頭指摘したように「賊に兵を貸し、盗に食をもたらす」中国の戦略にくさびを打ち込むしかあるまい。「北を代理冷戦」に使うというさもしい中国のやり口は、金正恩をヒトラー並みに肥大化させることに考えが及ばない。


恐らくミサイル技術も原爆製造技術も中国が小出しに漏らしている可能性が大きい。なぜなら北を対米防波堤に使うには、中国の代わりに北が核実験をやり、ミサイルを飛ばすことが何より効果を生じ、対米けん制になるからだ。中国は恥ずかしげもなく国連の制裁に消極的だが、例え最終的に賛成しても、北は中国との交易がある限り何の痛痒も感じないだろう。食料も物資もどんどん中国から入るからだ。
 

首相・安倍晋三は賢明にも安保法制を実現して、北への抑止力を増強させた。今後は北の核基地攻撃能力も備えることが課題となる。政府は一時代前から北の基地への先制攻撃は可能と答弁している。


鳩山一郎は1956年に「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とは、どうしても考えられない。他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」と政府統一見解を出している。


現在はその実行能力はない。しかし統合打撃戦闘機F-35が次期戦闘機に選定されたが、これに敵基地攻撃能力をつけることは可能だ。2013年の防衛力整備の基本方針「防衛計画の大綱」の中で、射程400キロから500キロの弾道ミサイルを開発すると明記しているが、敵基地攻撃には潜水艦に巡航ミサイル「トマホーク」を装備するのが効果的なのに、現在は搭載していない。


とにかく相手は何をするか分からない独裁者だ。抑止的攻撃能力はいくらつけても足りないくらいだ。敵基地攻撃能力が今後最大の課題となろう。野党でも民主党の元国家戦略相・前原誠司はブログで「情報収集能力を向上させ、敵基地攻撃能力を日本独自である程度持つことも検討されるべきだと私は考える」と賛同しており、早期導入に向けて国会は是非の論議に入るべきだ。

          <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)

2016年02月17日

◆領土交渉はプーチンの「地獄」が好機

杉浦 正章



「ロシア危機」と正比例する「妥協」
 

1991年のソ連邦崩壊、1998年のロシア危機の例を見れば明白なように、プーチンのアキレス腱は原油安である。今回はこれに米・欧・日本による経済制裁とルーブル安が加わりプーチンは三重苦のまっただ中にある。


もはや「天才プーチン」はメッキが剥がれ、いくら背伸びをしてもGDP10位の国相応のリーダーに落ちぶれつつある。古来「隣りの不幸は鴨の味」というが、日本の場合北方領土があるからこの「隣りの不幸」のチャンスをを活用しない手はない。

しかし大局を俯瞰した場合まだ「取引」には早いような気がする。またとないチャンスが到来しうるが、安倍は“親交”を重ねながらも、プーチンが「地獄」を見て譲歩に転ずる時を待つのが得策だろうと思われる。
 

ロシアは去年6年ぶりにマイナス成長となった。今年も厳しい財政運営を迫られており、先に指摘したようにバレル50ドルを想定した国家予算は油価が30ドル前後へと暴落して成り立たなくなっている。


プーチンが製造業の要と位置づけてきた自動車製造も、去年GMが工場閉鎖。販売台数は35%の減だ。原油のおかげで高い成長率を維持してきたプーチンは厳しい政権運営を迫られ青息吐息だ。物価高で国民の不満が高まる中、国の基金を取り崩して財政赤字を補てんし続けているが、外貨準備高は2005年に2.6兆ルーブル減少し、前年の半分以下となった。やがて底を突く可能性も否定出来ない。
 

このプーチンの苦境の背景には米国とサウジアラビアの思惑が間違いなく存在する。原油安に導いて、ロシアをけん制して、弱体化を図ろうとしているのだ。過去においても原油安がソ連とロシアに大きく作用してきたことは史実から見ても明白だ。


1991年のソ連邦崩壊は1990年に米国が原油価格の引き下げを主導したことが、ソ連の財政破たんの大きな原因となっている。1998年のロシア経済危機は、ロシアの輸出の8割を占める天然資源、なかでも原油価格が下落したことにより、国際収支が悪化し、それまでの財政の悪化にさらに拍車をかけた結果だ。ロシアはデフォルトに陥った。
 

オバマが二度あることは三度あると、にっくきプーチンをおとしめる戦略に出たことは十分考えられることである。そしてこのロシアの苦境は領土問題へと発展する傾向を過去に示している。1世紀半前にやはりクリミア戦争で疲弊したロシアが米国にアラスカを売却した例があるし、北方領土問題でも例外ではない。


ソ連崩壊後1992年にロシア外相・コズイレフが来日して提案したのが「歯舞、色丹の2島+α」である。

当時ロシアはソ連崩壊後の後遺症に苦しんでおり、財政的にも日本の極東開発など経済支援は垂涎(すいぜん)の的であった。コズイレフ提案は@56年の日ソ共同宣言に基づき歯舞、色丹を日本に引き渡すA国後、択捉に関しては何らかの形で交渉を継続するーというものであった。この時は4島全面返還論の外務省が反対して日本は断った。
 

一方で1998年には日本側から「川奈提案」がなされている。


時の首相橋本龍太郎はエリツィンと川奈での首脳会談を行い、新たな提案をした。内容は@択捉島とウルップ島との間に両国の最終的な国境線を引くA日露政府間で合意するまでの当分の間、四島の現状を全く変えないで今のまま継続することに同意するBロシアの施政を合法的なものと認める、という内容だ。


この提案の注目点は56年宣言第9項にいう平和条約締結後の歯舞・色丹の返還を直ちに求めていない点だ。いわば返還前の沖縄の状態にまず北方領土を置くというものだ。日本が出来る最大限の妥協案を提案したということだ。
 

歴史的に見てロシア側も日本側も妥協案を考えるときは「2島+α」の傾向を帯びることになるが、恐らく安倍も何らかの「2島+α」を考えているものとみられる。

官邸は国家安全保障局長・谷内正太郎も同様の考えであるといわれている。しかし外務省当局は伝統的な、「がちがちの4島返還論」に徹しているようであり、安倍も手を焼いているといわれる。日本の首相でロシアの大統領と親交を結んでいる例は珍しく、今後4月の外相・岸田文雄と外相ラブロフの会談を経て、5月の首相訪欧の機会に保養地ソチで開かれる安倍・プーチン会談の展開が極めて興味深い。
 

柔道家のプーチンは就任直後に審判の言う「始め!」と領土交渉を宣言、その後「私たちは何かしらの勝利を求めるべきではない。 この状況で受け入れられる妥協を求めていくべきだ。 それは“引き分け”のようなものである」と述べた。柔道の判定には「一本」「技有り」「有効」「効果」の4種類がある。


安倍は「引き分け」よりせめて「効果」に持ち込みたいところであろうが、その可能性はロシアの窮状と正比例する。すべては5月までにプーチンが「地獄」を見ているかどうかにかかることだろうが、危機的状況にはまだ時間がかかるものとみられる。
 

昨年9月の段階では岸田に対して外相ラブロフは「第2次大戦の結果、北方四島は戦勝国ソ連のものになった。敗戦国日本には、口を出す権利はない」という趣旨の論理を展開、強硬姿勢を崩さなかった。ラブロフは記者会見で、ウクライナ問題で日本が対ロ制裁に踏み切ったことが両国間の雰囲気を損ねたという考えを強調している。


問題はロシアがこの強気の姿勢をいつまで続けられるかにある。もちろん安倍はこの間米国に手を貸して、米欧諸国と足並みを揃えて「プーチン追い込み」に加担すべきであることは言うまでもない。

       <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2016年02月16日

◆消費税延期へ内堀まで埋まってきた

杉浦 正章



安倍側近らが一斉に延期に傾斜


 もはや消費税先送りへの外堀は埋まった。内堀も埋まりつつある。流れは筆者が新年4日に誰よりも先駆けて予想したとおり「消費税先送り、ダブル選挙」へ一段と加速しているかのように見える。


問題は首相・安倍晋三が「17年の10%への増税はリーマンショックのような事態が生じない限り延期しない」と言いきっていることだ。

しかし、これは経済の現状にどこから光を当てるかで変わる。政治的には「消費税先送り、ダブル選挙」を実現するために、「今がリーマンショックのような事態」と得意の側近学者を使った“理論武装”をすれば済むことだ。このところの東証急反発などはテクニカルな反発に過ぎず、中国経済の落ち込みと原油安の構造的株価押し下げ要因に変化はない。
 

外堀が埋まったとはどういうことかと言えば、外部から延期論が出ていることだ。まずマスコミでは「安倍ちゃん命で深情け」の産経が「安倍晋三内閣はきっぱりと来年4月からの消費税再増税中止を宣言し、GDP600兆円早期実現への道筋を示すべきだ。」と報じたのが皮切りだ。


最近では証券市場に波及し急速に消費増税の先送り論が台頭してきている。「上げられない」という見方が“常識”となってきているのだ。株価の大暴落を目の辺りにして、マーケットでは「株価の暴落はリーマンショック級とみてもおかしくない。だから先送りしかない」(証券会社幹部)との見方が強まっているのだ。
 

内堀とは何かと言えば15年の消費税アップの時と同様に、側近から凍結論が出始めていることだ。「あのときと同じ手口」を使っているのだ。安倍側近の内閣官房副長官・萩生田光一がテレビで「リーマンショック並みの事態になれば延期は否定出来ない」と述べれば、内閣官房参与の本田悦朗が16日付朝日に「来年四月の消費税率10%への引き上げを凍結すべきだ。これこそ最大の景気対策となる」と明言した。


この断言は大きな意味を持つ。マイナス金利の黒田パズーカが線香花火となった以上、アベノミクスを成功させるためには、凍結は確かに最大の景気対策になる。「黒田パズーカ」よりも「安倍弾道弾ミサイル」の方が効き目があることは確かだ。
 

問題はこれらの発言を安倍が指示して言わせているのかどうかだ。いくら側近とはいえ首相の了解なしに発言するわけはないと思うのだが、そこは魚心と水心でツーカーの発言だろう。ただし意外性がなければ効果は半減だから、安倍は当分「リーマンショックがなければやらない」という路線を死守するふりをするだろう。


来年度予算案が通らなければ政策の大転換はやりにくい。考えてもみるが良い。増税凍結をやらないで来年4月から予定通り実施する選択とはどういうことかとあえて言えば、アベノミクスの自滅に他ならない。


とてもバブルの崩壊がもたらした中国の景気の失速は早期に回復する可能性はない。相手国があるためただ一つ信頼できる貿易統計は1月も14%の落ち込みだ。7.9%と発表したGDPは事実上マイナスであったとの見方もでている。消費増税を「実施できるよう景気を回復させる」(財務省・麻生太郎)などという発言は希望的観測に過ぎなくなりつつある。


内閣の看板政策であるアベノミクスを自滅に追い込んでまで、財務省の言うとおりの施策を推進すれば、そこには官僚主義があって政治がない。
 

逆に凍結すれば、どうなるかだがまず選挙対策にはもってこいだ。消費の落ち込みは去年4月の増税がいまだに尾を引いているが、このままだと来年の増税でさらに落ち込むだろう。底なしの悪循環に陥る恐れがあり、大企業の活況や失業率にも影を落とすことは間違いない。


逆に凍結すれば、国民の喝采を受けることは必至であり、国政選挙にも好影響を来す。企業の好調は税収を拡大させ、増税凍結を相殺する。アベノミクスは好調を維持出来るだろう。アベノミクスを維持さえ出来れば国政選挙は圧勝間違いない。
 

いまテレビで朝から晩までやっているのが、自民党議員や閣僚のゴミネタをさも大げさな問題であるかのごとく取り上げる「安倍貶(おとし)め報道」のやり方だ。議員辞職する不倫の宮崎謙介は度し難いが、沖縄担当相・島尻安伊子の歯舞を「歯。えー、何だっけ」くらいを、悪意を持って大げさに取り上げる話か。


環境相・丸川珠代が追加被曝(ひばく)線量の長期目標として示している年間1ミリシーベルトについて、「何の 科学的根拠もない」と発言したのは逆によく言ったと思う。1ミリシーベルトは民主党政権が朝日などの“圧力”を受けて除染の長期目標として採算度外視で決めたものであり、ポピュリズムの極みの政策に他ならない。


総務相・高市早苗の「電波停止」発言も、反安倍政権一色の民放の報道ぶりを見れば放送法違反すれすれであり無理もない。民主党政権下でも同様の閣僚発言があったのを忘れたかと言いたい。
 

こうした傾向は、すきを見せない長期政権に対して主に民放など一部マスコミが「嫌がらせ」のように展開する報道のやり方だ。まるで佐藤内閣のころにマスコミが実態の乏しい黒い霧ムードの醸成に専念したことと酷似している。


佐藤はついに怒って「黒い霧解散」をぶちかまして、血路を開いた。国民は賢明であり、安倍内閣支持率は朝日の最新調査ですら40%で横ばいだ。サミット前の外交や重要法案処理をつぶすことになる4月の解散などは荒唐無稽(むけい)だが、夏にダブル選挙をやれば、安倍長期政権は確定する。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)  

2016年02月09日

◆中国の対北融和策がもたらす極東の危機

杉浦 正章
 


北を「米中代理冷戦」の急先鋒として活用
 

テレビで北朝鮮専門家が「ニューヨーク、ワシントンが危険にさらされることが現実のものとなった。米国の核の傘は破れ傘になった」と最大級の「誤報」をしていたが、冷静に状況を見た方が良い。北が核ミサイルを戦略兵器に成長させる再突入技術確立までには、まだ年月がかかる。


問題は確定的に第1書記・金正恩が過去に登場した狂気の独裁者の兆候を示していることである。「金正恩の行動が読めない」と述べる専門家や外交官が多いが、世界制覇の妄想に取りつかれたヒトラーやスターリンに思考をめぐらすべきだ。


とりわけ側近を次々に粛正する残虐性はスターリンに、誇大妄想性はヒトラーと類似している。誇大妄想性とはヒトラーの世界制覇の野望のごとく、核ミサイル技術を確立して、朝鮮半島を制覇し、自らの手に極東の覇権を握ろうとする1点に絞られる。こうした独裁者に対処するために人類が得た教訓は「融和政策」では台頭を抑えられないということだ。
 

チャーチルは著書「第2次大戦回顧録」の中で、「大戦は防ぐことが出来た。融和策でなく、早い段階でヒトラーをたたきつぶしていれば、その後のホロコーストはなかった」と述べ、首相・チェンバレンによる融和策を批判している。


ヒトラーは、ヴェルサイユ条約を一方的に破棄して再軍備と徴兵制の復活を発表、ラインラント進駐、オーストリアの併合を経て、チェコスロバキアの要衝ズデーテン地方を要求するに到った。イギリス・フランス・ドイツ・イタリア4カ国の首脳会議がミュンヘンで行われたが、ここでチェンバレンは、平和主義のためと、戦争準備の不足からドイツの要求をのんだ。この融和主義がヒトラーを増長させて、世紀の化け物にまで成長させたのだ。
 

一方金正恩は手法こそ違えそのやり口は酷似している。まだ領土こそ拡張しようとしないが、領土拡張の代わりに、ごうごうたる世界の世論を無視して、核実験とミサイル実験を繰り返し、その軍国主義独裁路線はとどまるところを知らない。


目指すところは簡単だ、北による朝鮮半島の統一だ。そのシナリオはワシントン、ニューヨークに届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させ、核によるどう喝で米国を屈服させ、自らの力によって朝鮮半島の統一を実現する。核戦争で米国が負けるという妄想の上に、米国を手出しが出来ないようにして、韓国を併合するというものだ。
 

このために北は弾道ミサイル技術を磨き、その実現の核となる大気圏再突入のノウハウを実現しようとしているのが現状だ。現在宇宙空間で地球を周回している人工衛星めいた物体はその第一段階である。


現在の北の技術では再突入させれば核弾頭は燃え尽きて実用にならないと見られており、米東海岸の都市を狙うには再突入させる誘導技術も不可欠だ。愚かなのは米国が発射を手をこまねいて見ているわけがないことに金正恩の考えが到らないことだ。


米国は事前の発射基地攻撃はもとより、発射された場合は第一撃をかわして、北には核兵器による報復が行われ、国家が消滅することを理解していない。
 

こうしたいわば狂気の金正恩路線を抑制するために、最大の障害となっているのが、中国の融和政策である。北が度重なる国連の制裁にもかかわらず、依然核の火遊びに専念できるのは、制裁の裏で石油だろうが食物だろうが国境の鴨緑江にかかる唯一の鉄橋から、“横流し”が白昼堂々と行われているからだ。


物資を運ぶ貨物列車やトラックがひっきりなしに行き来しており、北は痛痒を感じないケースがほとんどだった。近くこの橋がもう一つ完成する。中国南東部丹東から鴨緑江を渡るもので、物資の交流はますます増大傾向をたどる。
 

今回も中国は北への制裁に極めて慎重である。核実験に対する国連の制裁ですら一か月たっても何ら進展しない。米国連大使パワーが「国際社会の強力な対応がなければ、北朝鮮は今後緊張を高め続ける一方だ」「中国は強力で前例のない措置を国連が採択する必用を理解すべきだ」と中国を非難するのも無理はない。


最大のネックは中国の極東戦略にある。中国はいわば北を極東における「米中代理冷戦」の急先鋒として“活用”しようとしているのだ。朝鮮半島を軸に対峙する日米韓3国への緩衝材として利用するという姿勢であろう。


中国は38度線における対峙が鴨緑江にまで後退して米国との直接対峙になることを戦略上何としてでも回避したいのである。また北への物資をストップさせれば、北が暴発して第2次朝鮮戦争へと発展することへの危惧もある。北のミサイルが北京や上海に向かわない限り、代理冷戦がなり立つのである。
 

しかしこの姿勢は極東全体を見ればすぐに破たんする。前述したように金正恩は北の手で朝鮮半島を統一し、核ミサイルのどう喝により極東の覇権を握りたいのである。したがって核ミサイル完成の暁には、中国も当然どう喝の対象に含まれるのだ。中国がチェンバレンのような融和政策をとり続ければ、刈り上げ頭の独裁者は間違いなく増長して、ヒットラーやスターリンを掛け合わせたような化け物に成長する。


要するに国際社会は金正恩をテロリストに対するのと同様の対応をしなければ、独裁者の思い上がりを食い止めることが難しいのだ。したがって中国が検討しているといわれる独自制裁もどの程度効力があるか疑わしい。
 

さらに中国にとって重要な外交上の失策は、北のミサイル発射が、韓国を日米側に追いやったことだ。中国が反対して、朴槿恵が導入を躊躇していた米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「終末高高度防衛ミサイル(THAAD)」の導入を韓国政府が発表したからだ。


中国政府の慌てぶりは、直ちに韓国の駐中国大使を呼び出し抗議したことからもうかがえる。核実験とミサイル発射は日本国内の安保法制反対論者の顔色をなからしめた。法制実現に当たって、首相・安倍晋三が集団的自衛権を行使して米国領土に向かうミサイル撃墜の役割を担う必用を強調した路線の正しさが立証されたからだ。


野党は安保法制反対をぶり返そうとしているが、極東の実態を見て見ない振りをしても国民の賛同はますます得られなくなるだろう。

           <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月05日

◆キャスター降板は時代の風潮を反映

杉浦 正章



NHK会長は一刻も早く辞任せよ
 

「今日夕方、帰りにでも日刊ゲンダイでも読んでみてください。これがメデイアが萎縮している姿ですか」と首相・安倍晋三が衆院予算委で名指ししたので、ゲンダイを読んでみた。あるある。巻頭特集で「詭弁と居直りに拍手!? 喜劇的な安倍政権の高支持率」と見出しを取って「各社の世論調査の結果は、この国の倒錯ぶりを浮き彫りにしている」となんと安倍内閣の高支持率にまで噛みついている。


安倍は午前の委員会での答弁だから、当然ゲンダイを読んでいないが、予測は的中した。世論調査の結果がけしからんと書くノーテンキなメディアは世界的にもまれだが、ネットでも購読できる。読めば反安倍の急先鋒の実態とレベルが分かる。それにつけても安倍はゲンダイにまで目を通しているとは恐れ入った。
 

安倍は「毎晩の放送を見てもらえれば分かる」とも答弁したので、報道ステーションを見て見た。これも的中した。毎日が書いた「遠藤五輪相に予算化要請、創業者が献金」を取り上げている。


古館伊知郎のコメントは「我々としても相当検討しましたが法律上何ら抵触していないことで問題はないというのが現在の見方」と毎日報道を一応否定した。ところがその後がふるっている。「ぷんぷんにおうのも正直なところです」と付け加えたのだ。「ぷんぷんにおう」というのは、「疑惑が大いにある」と言っているのと同じであり、放送法で定められている公正な報道を抽象的な表現ですれすれのところでかいくぐり、安倍政権に一発食らわせている。巧妙さというか悪賢さが習い性となったコメントだ。
 

ステーションは最近、映像でも極めて巧みな反安倍姿勢を貫いている。3日の予算委初日は全部見たが、波乱はほとんどなく平穏そのものであった。ところがステーションの映像編集にかかると民主党の追及で予算委が緊迫している場面になるのだ。これも巧妙に世の中を左に誘導する映像編集技術と言うしかない。


質問者の民主党・階猛は「言論機関が権力者の意向を忖度(そんたく)し、権力者への批判を控えるようになるのではないか。現に今も安倍政権に批判的なテレビキャスターやコメンテーターが次々と番組を降板している。民主主義の健全な発展にもマイナスだ」と指摘した。
 

たしかに古館、NHKクローズアップゲンダイの国谷裕子、TBS系の報道番組「NEWS23」のアンカー・岸井成格などが次々と降板する。自民党内でこれらのキャスターへの批判が強いのは確かであり、自民党からNHKや民放幹部への「偏向報道批判」の指摘もたびたび行われている。筆者は後でも触れるがこれらのキャスターは「左傾化」の傾向が強いと見る。


とりわけ安保法制や安倍の会見発言などをめぐっての批判がキャスターやコメンテーターらから出されるが、民主党ばかりか共産党の主張や論理をそのまま踏襲しているケースが多い。
 

さらに粗暴なまでの政見批判を繰り返すのがTBSの日曜早朝番組「時事放談」だ。総じてTBSの報道姿勢を反映してか、常連は反安倍のバリバリを用意している。藤井裕久、武村正義といった爺さんたちが、理路整然と間違って、床屋談義並みの「爺放談」を展開している。


一番ひどいのが「婆放談」の経済評論家・浜矩子だ。概して経済評論家の予想は当たったためしがないが、浜はことごとく外れている。2011年に「2011年は1ドル50円時代が到来する」と予測し、『1ドル50円時代を生き抜く日本経済』を出版した。また、2012年1月にも「2012年は1ドル50円時代が到来する」と予測していたが、2016年になるのに実現していない。


2014年1月に年末の日経平均株価が1万円を割ると予測したが実現せず、15年末にも「1万円を割る」と断言。新年は株価急落を番組で「ざまあみろ」と相変わらずのゲスの極みの暴言を繰り返している。この「ざまあみろ」発言はTBS関係者によると1万円割れ予想で視聴者から批判が強かったことの裏返しだとのことだ。


しかし1万円割れにはほど遠い。アベノミクスを「アホノミクス」とこき下ろし、視聴者の笑いを取ることには長けているが、こんなレベルの評論家をおだて上げてしゃべらせるのが司会の御厨貴。最近はワンパターンでマンネリ化している。「間違ってもいいから批判してくれ」というのがTBSの報道姿勢なのだそうだが、素朴な視聴者が浜のような評論家の話をうのみにして、株を売り買いしているというところに考えが及ばないのだろうか。
 

階猛は質問で「萎縮の事例を申し上げる。NHK会長の籾井勝人が『政府が右と言うことを左とは言えない』と発言している」と例に挙げた。しかし、この籾井の発言は報道への知識ゼロからくる「自粛」であり、態度の横柄さは萎縮とはほど遠い。報道機関の出身者なら口が裂けても言わない言葉だ。国会答弁からみても、就任以来発生しているNHKの様々なスキャンダルからみても、籾井は知性も知識も乏しく、世界的にもまれな大報道機関を指揮できる器ではない。


階が籾井に面と向かって「あなたには資質がない。やめた方がいい」と発言したが、こればかりは共感を呼ぶものがあった。自民党内の空気も辞任させるしかないというムードが強い。安倍は一刻も早く会長人事に取り組むべきだ。
 

委員会質疑を見て、時の政権とマスコミの関係とりわけNHKや民放の政治報道の現実を述べてきたが、自民党はともかく、政府がNHKや民放の報道方針に直接的な介入をしたケースは極めて少ない。


過去には、民放各社に政権交代を実現するために偏向報道を促した「椿事件」くらいのものだろう。今回のキャスター交代に政府の意向が働いたと言えばもっともらしいが、長年報道に携わった経験から言ってそんなことを政府が行えばすぐに週刊誌にばらされて、言論の自由への干渉批判へと直結する。そこまで安倍もやるわけがない。


ある民放幹部が降板の理由について「視聴者の反応が変化してきている」と漏らしている。右傾化と言うより、民主党政権の羮(あつもの)に懲りて「脱左傾化」の反応が強いと分析する。にもかかわらす、古館、国谷、岸井らの姿勢は相も変わらぬ左翼至上主義であり、時代の風潮にそぐわなくなってきて降板することになると見るのが正しいだろう。要するに古くさいのだ。

        <今朝のニュース解説から抜粋>    (政治評論家)

2016年02月04日

◆空振りの岡田「TPP疑獄」質問

杉浦 正章



「オオカミ少年」が“悪魔の証明”を無理強い
 

新聞各社の予算委担当記者の目はどうも節穴らしい。肝心のやりとりを見逃している。筆者のように録画して克明に分析すると、焦点は民主党代表・岡田克也が「甘利事務所の金銭授受」をあたかも「TPP疑獄」へと直結させるかのように首相・安倍晋三への質問を展開。


これに「マジ切れ」した安倍が「無責任な誹謗中傷」と、かんかんになって怒って否定したのが質疑応答の核心部分だ。あまりの剣幕に岡田は夜のテレビで「衆院選は4月かもしれない」と、とち狂ったような予言をした。


解散については安倍のことだから何をするか分からないが、いくら何でもサミット直前の外交が慌ただしい時期に解散するだろうか。予算早期成立を目指す野党向けのブラフに過ぎまい。
 

疑獄事件とは政治問題化した大規模な贈収賄事件のこと。戦後の3大疑獄事件は、芦田均内閣をつぶした昭電疑獄事件(1948)と造船疑獄(1954)、ロッキード事件(1976)を指す。岡田の質問はあきらかに第四の疑獄事件として「TPP(環太平洋経済連携協定)疑獄」を“創作”しようとしているかのようであった。


岡田は「甘利氏が大きな権限を持ってTPPの責任者としていろいろなことをやっている。ちゃんと検証すべきだ。TPPは業界や農業に携わる人達にとって死活問題だ。生産者から見ると巨大な権限を持った人が疑いをかけられていることについて疑惑を持つべきだ。甘利氏に確認する必要がある」と、あたかもTPP関連業界や農業従事者から甘利が贈賄でも受けているかのような質問を展開した。
 

これにはただでさえ予算委員会で激高しがちな安倍が、まるで怒髪天をつくかのような反応をした。文字数にして質問の5倍ほど反論を展開したのだ。


「TPPに影響が出たというなら具体的に言ってください。私がないと言うものを1党の代表として嫌疑をかけるなら、TPP交渉においてどの品目にどの影響を与えたかについて具体的に言うべきだ。そうでなければ無責任な誹謗中傷にすぎない」と反論。


まだ言い足りないとばかりに「交渉そのものを汚すようなことを言うのはやめるべきだ。甘利大臣は命がけでTPP交渉を頑張って、結果を出してきた。いきなりそういう言いがかりをされても答えようがない」と憤まんをぶちまけた。
 

岡田は「ない、と言ったのはあなただ。本会議で断言した以上、その根拠を示す責任がある」と応戦した。これに対して安倍は委員会に響き渡る大声で「私はないと言いきった。ないことをないと説明することは悪魔の証明だ。あると主張する方が立証責任がある」と答えた。論戦技術としては「悪魔の証明」を持ち出した安倍の方に説得力があった。


悪魔の証明とは証明不可能な命題を証明すること。例えば「四国にコドモトカゲが生息する」ということを証明するとしたら、四国でコドモトカゲを一匹捕まえて来ればよいが、「四国にコドモトカゲは存在しない」ということの証明は四国全土を探査しなくてはならない。事実上不可能なことを求めることを悪魔の証明という。
 

岡田の狙いはテレビの視聴者に対して疑惑の輪を増幅させようとする意図がある。岡田は安保法制をめぐっても「徴兵制が実現する」というパンフレットを作らせたり、すぐに嘘がばれるようなオオカミ少年型プロパガンダをするが、今度も視聴者を「TPP絡みでも贈収賄があったげな」という風評が立つように誘導しようとする意図がありありと見える。


そもそも今回の甘利事務所をめぐる疑惑は、環状道路をさえぎるようにある建設会社が、民主党の大西健介の質問によれば「ごね得を狙っているようなところに秘書が加担した」ところにある。週刊誌へのリークは秘書が金銭や接待漬けにあったにもかかわらず、ごね得が実現しなかったことからの確執が原因である。


したがって、TPP交渉とは何ら関係がない。にもかかわらず岡田は、疑惑を最大限活用しようと「TPP疑獄」があるかのような質問を展開したのだ。TPPで贈収賄があれば、まさに内閣が吹き飛ぶような問題であるが、質問には全く根拠がない。


安倍が「一つも事実を挙げられないのにあるかのように言う。議論としては馬鹿げた議論である」と発言したが、もっともだ。やせたりといえども公党の代表が流行語ではないが「ゲスの極み」の三流週刊誌のような卑劣な質問を予算委の冒頭で行うようでは、野党の追及もお先が知れている。

        <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月03日

◆「トランプ旋風」が早くも失速気味

杉浦 正章



ブルームバーグ、ルビオが台風の目


クリント・イーストウッド主演の名画「マディソン郡の橋」の舞台アイオワ州における民主、共和両党の党員集会は、その後の大統領予備選挙に大きな影響を及ぼすのが通例だ。アイオワとこれに続くニューハンプシャーで敗北して大統領になれたのはビル・クリントンだけであり、序盤を制するものが選挙を制すると言われてきた。


今回の場合はどうか。正直言ってまれにみる見通しのしにくさだ。それでもあえて見通せば共和党はトランプ旋風は失速の流れ。僅差で勝った前国務長官・クリントンはたとえ僅差でも勝ちは勝ち。民主党候補となる公算が強い。注目すべきは共和党3位の若手上院議員ルビオだ。
 

映画「馬鹿が戦車でやってくる」そっくりのトランプが失速したのは、アイオワ州民の知性を示すものであり、この傾向は今後も持続する可能性が高い。「トランプ現象」は、有権者がいわばテレビでアチャラか喜劇を見て喜んでいるのと同じで、人気がそのまま投票行動につながったのは日本の横山ノックの大阪府知事当選くらいのものだろう。

実際トランプの「奇行」は、「いくら何でも大統領候補が」という感じを強くさせるものだ。頭髪がかつらだという風評が立つと、女性2人にバケツを持たせて頭から水をかけさせて、かつらでないことを公開検証するといった具合だ。
 

その発言に到ってはそこいらの床屋談義の爺さんに輪をかけた破天荒ぶりで、発言すればするほど知的レベルの低さを露呈した。「メキシコ国境に万里の長城を築き不法移民を阻止する」「すべてのイスラム教徒の入獄を禁止する」など、人種差別と全体主義思想に貫かれており、米国憲法に違反する。日本に関しても「日本からの自動車輸入は不公平だ」と述べれば「日米同盟は不平等だ」と指摘する。


日本車は米国内で作られていることを知らない。安全保障に関しても無知丸出しだ。当選したら日本にとっては「悪夢の大統領」となることは必至だ。トランプを米軍の最高司令官である大統領に選出して、核のボタンを手渡したら、世界は崩潰する危機に直面するということになりかねない。要するに発言はスローガンを声高にしゃべるだけの「スローガニズム」の極致と言うべきであり、政策の裏付けなど皆無と言ってもよい。
 

支持率は全候補の中でもトップを走るが、トランプの場合支持率と有権者の投票行動は一致しない。最後には有権者は「核のボタン」に思いが到り、別の候補に投票する傾向を見せたのだ。こうして「トランプ旋風」は今後例外はあっても大勢としては空回りする流れとなろう。多くの州で同時に予備選挙が開催される3月1日のスーパーチューズデーが天王山となる。
 

アイオワ州における共和党党員集会はクルーズ27.7%、トランプ24.3%、ルビオ23.1%の得票順だが。問題はクルーズだ。その主張は時にはトランプを上回る過激さであり、理性に乏しい。共和党内で嫌われており、アイオワ州知事が「クルーズが勝つのだったらトランプの方がましだ」と漏らしたと言われるほど。


クルーズはオバマケアに反対して政府閉鎖事件を起こした張本人の1人だ。むしろ選挙の玄人の注目が集まっているのはトランプに迫ったルビオだ。若手の上院議員で共和党主流に属し党内の人気も高い。中国や北朝鮮とは対峙の姿勢を示しており、日本の尖閣諸島についても「日本のもの」と断言している。


本人は「私が指名されたら民主党がクリントン氏であってもサンダース氏であっても必ず勝てる」と発言しており、今後の台風の目だ。


 一方民主党はクリントン49.9%、サンダース49.6%でクリントンの辛勝だった。サンダースが予想外の票を集めたのは、公立大学無償化、国民皆保険、富裕層への課税強化など若年層向けのキャンペーンが成功した結果だ。


しかし本人が、米国では毛嫌いされる傾向がある「社会民主主義者」を標榜しており、国民的な人気には乏しい。年齢も74歳と高齢であり、体力的に今後8年米国を引っ張って行けるか疑問だ。やはり、メール漏洩事件などで決定的な事実が表面化しない限り、クリントンが民主党候補の本命となる公算が強い。


またニューヨーク・タイムズの報道によると億万長者で前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグが独立候補として米大統領選への出馬を検討している。現在の候補者の顔ぶれならば勝機があるかもしれないと、考えているという。同紙によると3月初めまでに決断すれば全50州の予備選に間に合うため、前市長はこれを決断の期限に定めているという。


いずれにせよ、大統領選の行方には“魔物”が潜んでいる可能性もあり、11月8日の投票日まで気を許すことは出来ない展開となろう。

      <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年02月02日

◆鮮やかすぎて怖い安倍の“ダメージコントロール”

杉浦 正章
 


支持率“高騰”、民主の疑惑追及挫折
 

鮮やかすぎるというか、つきについているというか、すごすぎというか、安倍政権は本当に向かうところ敵なしかと思いたくなる。あまりに巧みなる政権運営には驚く。


一見地獄を見るような「甘利の逆境」報道を日銀発の「マイナス金利」で一挙に吹き飛ばすという奇想天外な“ダメージコントロール”。これが利きに利いて、内閣支持率は下がるどころか、驚異の上昇で50%を突破した。株価は1日も全面高となり、年初以来アベノミクスに逆行する「円高・株安」にくさびを打ち込んで「円安・株高」の好循環へと導きつつあるかに見える。


甘利疑惑でいきり立った野党は、さすがに支持率を見て「下手に突っ込むとやられる」(民主党幹部)と怖じ気づいたか、ろくな抵抗もしないまま国会は早くも正常化。好事魔多しなどという常套文句は使いたくないが、よほど重心を下げないと、後が怖いことは確かだ。
 

日銀が金融緩和に踏み切るであろうという予測はされていたが、マイナス金利だけは総裁・黒田東彦が1月18日に明確に否定したことから予想の外に置かれがちだった。しかし黒田は23日のダボス会議に行く前に事務当局に対して、「追加の金融緩和措置を考えておくように」と指示している。マイナス金利を含みとしたいわば「日銀究極の秘策」の指示であったようだ。


そして発表が29日の政策決定会合の後だから、28日の甘利辞任の直後。日銀が政局向けに図ったとは思えないが、そうでなければあまりにも絶好のタイミングであり、安倍を天が見放していないことになる。なぜなら「甘利」を「日銀」が新聞紙面から追い払ってしまったのだ。
 

もちろん黒田パズーカの第3弾はこの時期を除いてはあり得なかった。企業は来年度に向けて春闘の賃上げや、設備投資計画を2月に立案するからだ。この時点でやらないと次の政策決定会合は3月であり、間に合わないからだ。


しかし黒田を含めて9人の政策委員のうち5人が賛成、4人が反対に回った。4人はみな安倍政権以前の政権で任命された委員であり、民主党の政策を反映するかのようにアベノミクス反対派のようだ。3月には1人が交代するから、反対派は3人に縮小されるだろう。
 

こうして甘利辞任は29日朝刊に、日銀金利は30日朝刊でそれぞれ全面展開の報道という形になった。報道各社は30,31日に世論調査を実施したが、国民世論は景気対策に目を奪われ、「甘利辞任」は一過性で影響が生じなかった。


各社の内閣支持率は毎日が51%でプラス8ポイント。不支持は30%でマイナス7ポイント。読売が支持56%(+2)不支持34%(−2)、共同が支持53.7%(+4.3)不支持35.3(−2.9)という結果で、おしなべて50%越えだ。


この高支持率が示すものは、国民意識の動向を探る上で極めて興味深い。国民は何と言っても自らの生活向上が大切なのであり、閣僚の疑惑などは二の次三の次なのである。アベノミクスはかつてないほど政治と金融・経済が一体化した上で成り立っており、これが支持率に反映しているとしか思えない。デフレの暗い影を吹き払おうと懸命に戦う安倍の姿が好感されているのだ。


企業は史上最高の利益を上げ、12月の完全失業率は3.3%だが、これが2%まで下がるという予測もある。3.3%でもほぼ完全雇用だが、2%といえばまさに完全雇用である。失業率2%台は1980年から1994年まで続いているが、それ以来の数字となる。
 

こうして年明け以来円高・株安の悪循環が円安・株高に向かえば、アベノミクスへ、ひいては政権への追い風になるのだ。問題はこの好調が何処まで続くかだ。


とりあえずの勝負は夏の国政選挙まで続かせられるかどうかである。阻害要因がないわけではない。化けの皮がはがれたようなバブル崩壊後の中国経済の低迷が続きそうなことだ。加えて甘利の後任の経済再生担当相となった石原伸晃だ。


この政治家は失言癖がほとんど病気のように染みこんでいる。まるで言いたいことをを言って、仲間と冗談を飛ばし合っている湘南の坊ちゃんのような軽い調子で失言を飛ばす。就任後も、日銀マイナス金利への感想を聞かれて、秘書の出したメモを自分の手で払いのけて「自分の言葉で話す」と宣うたが、この自分の言葉が危機の根源であることが分かっていない。


当然野党は石原の失言に狙いをつけて、質問を展開する。公明党代表・山口那津男が「細心の注意を払って国会を乗り切っていただけるものと期待している」と、石原に異例のクギを刺した。彼ばかりは事務当局の答弁書とメモでしか発言させないようにすべきであろう。国民の信任が高いときこそ、内閣は重心を低くしないと高転びに転ぶ危険があるのだ。
 

また野党も甘利という絶好の攻撃目標を失ってもなお民主党幹事長・枝野幸男が「真相究明が必用だ」と幕引きを拒み続けている。


しかし疑惑は、既に東京地検が乗り出しているのであって、真相究明は司直の手に委ねるべき問題だ。野党も国会論議は経済を主軸に据えるべきであり、自ら疑惑解明をしようとしても無理がある。疑惑追及路線を突っ走っても国民の支持は得られまい。

          <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月29日

◆ダメージ最小の電撃辞任、野党に肩透かし

杉浦 正章



“捨て身”の甘利に自民に同情論
 

「潔い。滅私奉公の古武士を見る思いだ」と自民党幹部が漏らしているが、前経済再生担当相・甘利明は自らを捨てて政権にとって一番ダメージの少ない選択をした。


勢い込んでいた野党は肩透かしを食わされ、前につんのめった。短期的には後産のような痛みが続くだろうが、野党は景気後退に直結する来年度予算を人質に取ることは出来まい。野党が頼みとするマスコミもさらなる追及をして政権を揺さぶる動きには出まい。


したがって早晩国会審議は安定軌道を取り戻し、首相・安倍晋三の支持率も大きなダメージを回避できるだろう。安倍はデフレ脱却の瀬戸際の経済や、サミットを軸とする外交、さらには夏の国政選挙に向けての基盤作りに専念できる。
 

甘利の突然の辞任は報道ステーションの古舘伊知郎が「私たちマスコミはもっぱら辞任しないと読んでいた。大きく外れた」と反省の弁を述べていたが、一キャスターに「私たち」などとは言ってもらいたくない。ちゃんと見通した者もいる。


それにしても朝日も読売も全国紙はおしなべて慎重な報道を続けた。というより「辞任へ」と踏み切る読みをする政治記者がいなかった。最近の政治記者はこまっちゃくれているばかりで度胸と、政治記事に不可欠な「動物勘」がない。


朝日は29日の朝刊で「数日前に辞任を覚悟」と見出しを取っているが、そんなことを知っていたらなぜ報道に反映しないかと言うことだ。読売は渡辺恒雄が安倍と本社で会食するなど極めて親しいこともあってか、最初からかったるい控えめの報道であった。
 

甘利の引退表明はさすがに第一級政治家としての矜恃と潔さを感じさせるものであった。「国政に貢献をしたいとの自分のほとばしる情熱と、自身の政治活動の足下の揺らぎの実態と、その落差に気が付いたときに、天を仰ぎ見る暗澹(あんたん)たる思いであります」は、田中角栄の首相退陣声明の中の「一夜,沛然として降る豪雨に心耳を澄ます思い」を思い起して格調が高い。


「私自身に関わることが、権威ある国会での、この国の未来を語る建設的な営みの足かせとなることは、閣僚・甘利明の信念にも反します」はまさに「滅私奉公」の思想だ。「政治不信を、秘書のせいと責任転嫁するようなことはできません。それは、私の政治家としての美学、生きざまに反します」も文学的で、説得力がある。


筆者は大和市に住んでいるが、これを聞いて次回の選挙は甘利に一票を投ずる気になった。選挙区では同情論が強く、選挙があれば大量票を獲得するかも知れない。古くは田中角栄、最近では小渕優子の大量票獲得の例がある。安倍は選挙の洗礼を経れば、再び甘利を重要ポジションに据えられる。ダブルなら甘利は半年の辛抱だ。
 

様々な裏話が出ているが、朝日の話が一番面白い。安倍が「例え内閣支持率が10%下がっても続けてもらいたい」と励まし、甘利は「この言葉にかえって迷惑をかけられないと思った」というものだ。


誰でも首相から「私の支持率が下がっても続投せよ」と言われたら、ヤバイと思うことは間違いない。自民党内の反応を探ると、圧倒的に甘利に対する同情論が強い。甘利はまさに「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある」という極限の選択をしたことになる。政治資金報告に合計100万円の記載があるのだから、議員辞職の必要は無い。
 

野党は民主党幹事長・枝野幸男が「これで幕引きというわけにはいかない。1週間もかばい続けた首相の責任は大きい」と感情論丸出しの反発をしているが、安倍は何も1週間かばい続けてはいない。逆に説明責任を求めている。それに1週間で辞任は最速の部類に属する。野党は閣僚辞任で振り上げた拳を降ろす場所がなくなったのが実態だ。


「幕引きというわけにはいかない」のなら予算を人質に取るのか。やってみるが良い。この景気の正念場で予算の早期成立は国家的な必須課題であり、野党が審議ストップに出るなら、マスコミの矛先は野党に及ぶだろう。
 

最速辞任の重要ポイントは安倍が夏の参院選挙を衆参ダブル選挙にすることが可能な選択肢を維持したことであろう。辞任しないままずるずるとダブル選挙をやれば、相乗効果どころの話ではない。衆参相殺効果をもたらし、政権を失いかねない危機に直面する可能性があった。


安倍がダブルの可能性を残したのは政局運営にとって大きなプラス材料となるだろう。なぜなら自民党衆院議員の緊張感を維持出来るからだ。
 

甘利の後任の元自民党幹事長・石原伸晃は、有能ではあるが、あの病気が再発しないかと心配である。あの病気とは「失言症」である。「胃ろう発言」や「金目発言」を繰り返せばまたまた大問題になりかねない。よほどきつく戒める必用がある。


反安倍の朝日は社説で「幕引きにはできぬ」と吠えているが、読売は社説「政権とアベノミクスを立て直せ」で野党に内政、外交両面での建設的な論戦を求めている。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月28日

◆「TPP花道」の後早期辞任しかあるまい

杉浦 正章



政権が“深手”を負う問題ではない
 

政治という猫がネズミをじゃらしているが、結局最後はネズミは食べられてしまう。これが「甘利疑惑」の本質だ。


経済再生担当相・甘利明はきょう28日夕の会見で「現金を受け取った認識が無い」などと大臣室と事務所での現金受領を否定することになろう。安倍は甘利本人の説明責任は果たしたとして、来月4日の環太平洋経済連携協定(TPP)署名式への出席を認める。しかしこれはいわば「温情あふるるはなむけ」で、最後の花道となる可能性が高い。


少なくとも秘書はあっせん利得罪など刑事責任を問われる流れとなって行く方向にあり、たとえ甘利自身が刑事責任は問われなくとも監督責任を問われる上に、世の模範となるべき閣僚としての道義的責任も浮上する。少なくとも閣僚辞任は避けられなくなるというのが筋書きであろう。
 

27日はまるで「続投」の合唱だ。しかし安倍の続投論も条件付きと言える。「今後説明責任を果たしていただきたい」は、ある意味で突き放した表現でもある。また与党も甘利の調印出席に関して幹事長・谷垣禎一が「甘利大臣に行っていただくというのがあるべき姿」と述べれば、公明党幹事長・井上義久も「今の時点で続投は当然だ」と語っている。


これら発言の背景に何があるかと言えば自公の“目配せ”だろう。「な、分かっているだろう」という無言の意思疎通が背景にあるとしか思えない。「な、分かっているだろう」をより詳しく言えば、せめて花道を作ってやろうと言うことだ。井上の「今の時点」発言は、花道の後は甘利にとって「地獄の試練」が待っているということとも受け取れる。「続投」は結局「短期続投」となる公算が高いのだ。
 

永田町に流れるあらゆる情報を分析すれば、28日の記者会見では、甘利が自らの行為と秘書の行為をくっきりと分けて説明する見通しとなっている。自らのかかわりについては「記憶にない」と現金授受を否定することであろう。


ロッキード事件以来「記憶にない」は主観的な表現であり、後々突っ込みようがないという法的な利便性を持っている。甘利は大臣室での50万円を「記憶にない」とか「認識が無い」とかの表現で否定するのだろう。羊羹の袋に金が入っていたことについて、こうした表現で否認するのだろう。その上で後で分かったので秘書に返すように指示したと言う可能性もある。
 

しかし文春の報道によれば「社長が羊羹と一緒に紙袋の中に、封筒に入れた現金五十万円を添えて、『これはお礼です』と言って甘利大臣に手渡しました。紙袋を受け取ると、清島所長が大臣に何か耳打ちしていました。すると、甘利氏は『あぁ』と言って五十万円の入った封筒を取り出し、スーツの内ポケットにしまいました」とある。あまりにも具体的であり、“所長の耳打ち”が、袋の中に現金があることを示唆したものであることが容易に想像できる。
 

一方で事務所でのやりとりについて28日発売の文春は新たな証言を掲載している。「現金入り封筒を受け取った甘利氏が『パーティー券にして』と述べると、業者側は『個人的なお金ですから』と説明し、甘利氏は封筒を内ポケットに入れた」とある。


もちろんこれらの証言が当事者たちのうさんくささからいって、ねつ造である可能性は否定出来ないが、問題は国民がどちらを信用するかだ。当然28日の記者会見ではここが焦点となるだろう。甘利が言い逃れて追及を吹っ切るかどうかは全く予断を許さない。
 

さらに同週刊誌で注目すべき新たな点は、告発者で建設会社「S」側の総務担当と言われる一色武が、甘利の父親時代から甘利家に出入りしていたことだ。


一色は「私は二十代の頃から主に不動産関係の仕事をしており、甘利大臣のお父さんで衆議院議員だった甘利正さんとも面識がありました。明氏と初めて会ったのは、まだ大臣がソニーに勤めていらっしゃった頃かと思います。正さんのご自宅には何度もお邪魔したことがあります。甘利家とは、昔からそんなご縁があり、私は清島氏が大和事務所に来るかなり前から、甘利事務所の秘書さんたちとはお付き合いさせていただいていました」と述べている。甘利が気を許した背景が見えるようである。
 

今日の会見で確定的なのは甘利が秘書の行為まで完全否定しないことだろう。おそらく「第三者を含めた調査が完了し次第発表する」で逃げるだろう。したがって記者団も深い追求は困難だろう。


いずれにしても甘利は既に「一連の秘書の行動は半信半疑で嘘ではないかと思った。全く私の指示ではない。報告もない」と古典的な“秘書切り捨て”論を展開している。この結果法律専門家の間では「秘書に関してはあっせん利得処罰法違反が成立する公算が高い」という見方が強い。
 

問題はこの調査がいつ終了するかだ。これが甘利辞任と密接に連動し得るからだ。ここは当初から指摘しているように安倍は「短期決戦」しか選択肢はない。野党は甘利の留任が長引けば長引くほど喜ぶ。政権追及の材料に事欠かないからだ。


逆に長引くほど安倍の支持率は下がり、政権への打撃が大きなものとなる。28日の甘利の会見を契機に新聞論調は次第に甘利辞任を求めるものに変わっていくだろう。問題は一政治家のスキャンダルが国家とか政権の有り様(よう)に対する批判に発展するのを手をこまねいていてはならないということだ。甘利の早期辞任へと事を運ぶしか手立てはまずない。

       <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月27日

◆“政局の人”小沢が動き始めた

杉浦 正章



狙うは「9年周期の参院選大波乱」
 

たまに新聞に名前が出ると「懐かしい」と思われる政治家がいるが生活の党代表・小沢一郎がその右代表だろう。2009年の総選挙で民主党の地滑り的な圧勝を受け、議員会館の同じ階に当選した“小沢美女軍団”をはべらせ、「今太閤」そのものだった小沢だが、現在は、政党要件ぎりぎりの衆参議員5人の党首にすぎない。


その小沢がなにやら息を吹き返して動きが活発だ。「政局波乱」のにおいを動物本能で感じ取ったのか、元旦からメデイアへの「発信」を増幅させている。甘利疑惑が発生すれば、さすがに“疑惑の通”だけあって、「犯罪を構成するような類いの事実だ」と東京地検の捜査を促すような発言をしたり、まるで水を得た魚のように動きはじめた。ジンクス好きの小沢が狙うのが「9年周期の参院選大波乱・安倍退陣」だ。
 

小沢の最近の目立つ動きは、「共産党シロアリ」論で、民主党代表・岡田克也の共産党接近をけん制している元外相・前原誠司との極秘会談だ。メデイアの気が付きにくい24日の日曜日を選んで会談した。発生したばかりの「甘利疑惑」が政権を直撃する事態を最大限活用して、野党の結集をはかるのがその戦略だ。


会談で、小沢は参院選比例代表を野党の統一候補で戦う「オリーブの木」構想が「必ず実現する」との見通しを述べた。前原は共産党との共闘にアレルギー症状を示しているが、両者は「野党勢力の結集が不可欠」との認識では一致したという。また小沢は参院選で自公を過半数割れに追い込めば、「安倍は必ず退陣する」との見通しを述べたという。
 

小沢が「安倍退陣」の根拠にしているのが2007年の参院選だ。自民党の獲得議席数は37議席と歴史的大敗を喫し、結党以来初めて他党に参院第1党の座を譲った。小沢を代表とする民主党は追い風を受け60議席を獲得し、参議院で第1党となり野党は参議院における安定多数を確保したのだ。これが結局は第1次安倍内閣の退陣に直結して、2009年の総選挙でも自民党の敗北につながり、ついに政権交代のきっかけとなったのだ。 
 

09年に限らず自民党にとってツキが落ちるのが9年周期の参院選だ。


その9年前の1998年の参院選はメディアの分析では現状維持か、少し上回る60議席台前半と推測されたが、自民党の獲得議席は44議席と予想を大きく下回る敗北を喫した。首相・橋本龍太郎は敗北の責任を取って退陣した。


さらにその9年前の89年も首相・宇野宗佑の女性問題やリクルート事件の余波などがたたって、自民党が惨敗。社会党党首である土井たか子が「マドンナ旋風」と呼ばれるブームをまきおこし、「山が動いた」と述べたほどの逆転劇であった。自民党は36議席しか獲得できず、参議院では結党以来初めての過半数割れとなる。


これ以降現在に至るまで自民党は参院選で単独過半数を確保できていない。自民党は9年ごとに大敗を喫し、首相が交代してきたのだ。3度あることは4度あるというわけだ


要するに小沢の狙うのはこのジンクスでもあるのだ。小沢は新年会で「何としても野党の連携、大同団結を果たして、そして、参院選で自公の過半数割れを現実のものとする。すなわちそれは安倍内閣の退陣である。直接、参院選で政権が変わるということはありえないが、安倍さんが退陣せざるをえなくなることだけは間違いのないことだと思う」と断定している。


そして自らの野党糾合への動きを「すぐ『野合』だとか『数合わせ』だとか、あるいは『選挙のためだ』とかいうことを言われるわけだが、選挙のためで何が悪い。選挙というのは、主権者たる国民が判断をくだす唯一の機会であり、最終の決定の機会だ」と“正当化”している。
 

ただ、この小沢戦略にとって、1番の懸念材料は首相・安倍晋三がダブル選挙に踏み切るかどうかということだ。公明党が700万票の創価学会員の票の動きが複雑化するとして反対しているが、小沢は「創価学会は結局ダブルを受け入れざるを得ない」と漏らしている。


その根拠として官房長官・菅義偉と学会幹部の秘密裏の接触を挙げる。事実菅は政権発足以来、創価学会副会長の佐藤浩と急速に関係を深めており、独自に公明党・学会サイドの内情を探っている。小沢はおそらく菅と佐藤の会談でダブル選挙が話し合われているとみている。ダブルとなった場合、共産党まで含めた選挙共闘が極めて困難になり、「安倍一強」が続きかねないというわけだ。


こうして政界仕掛け人・小沢は73歳の年齢をものともせずに、あらゆる機会を捉えて「政局大展開」を狙い続けるのだ。

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)

2016年01月26日

◆「辞任なし」は政権直撃、野党が欣喜雀躍

杉浦 正章
 


甘利は事実上“死に体”だ


詰まるところ野党の欣喜雀躍を一週間で止められるか、半年続けさせて夏の国政選挙で大敗北を喫するかの選択だ。


戦後の閣僚辞任は117人。そのうち吉田内閣は最多の17人の閣僚が辞め、佐藤内閣は10人。その多くがトカゲのしっぽ切りでしのいだ。「安倍長期政権」は単に自民党の願望だけでなく、その支持率から言って国民大半の期待である。この期待を裏切るかどうかの瀬戸際が「甘利事件」である。

大局から見た場合、経済再生担当相・甘利明の進退は窮まったかに見える。本人も十分分かっているだろうが甘利は、自ら辞任して「自民党政権」に“寄与”するしか選択肢はあるまい。ここは一刻でも早くその選択をすべき時だ。
 

今回の事件を政治的に俯瞰(ふかん)すれば、まず野党を限りなく勢いづけた。これまで外交・経済・安保で、向かうところ敵なしの状況でまい進する政権の追及に、野党は手をこまねいていたというのが実態だ。そこに願ってもなき僥倖が飛び込んだのが「甘利事件」だ。それも通常の閣僚をめぐるスキャンダルは「疑惑」の形でスタートするが、今回は最初から「真相」が表に出て、これを突き崩す手段が見当たらないことだ。


辛うじて自民党副総裁・高村正彦が「録音されたり、写真を撮られたりそのわなの上に周到なストーリーが作られている」と分析しているが、そこには「わなにかかったから仕方がない」とわずかながら甘利に救いの手を差し伸べるかのような姿勢が垣間見える。甘利自身も記者会見で「相手は隠し録音が目的。最初からいろいろな仕掛けを行っている」と述べ、これに同調している。
 

しかし「わな」論は事の本質を突いているだろうか。甘利が大臣室と事務所で2回にわたり現金を受け取ったとされる場面はあまりにも生々しく、写真も残っている。それも3年前の13年から「わな」を仕掛けるつもりで接近したかにも疑問が残る。


なぜなら事件の焦点は1度目に2億2000万円の保証金の取得に成功したあと、さらなるより巨額な補償交渉に向けて建設会社と甘利の秘書が動き、これが実現しないところから生じた“あつれき”と“内部分裂”にあるように見えるからだ。高村は「わな」説を述べた後、「わなだからあいまいな記憶で甘利氏が答えていれば理解してもらえる話ではない。1週間後に記憶にないという話が帰ってくることはあるまい」と突き放した発言もしている。


「わな」だけでは抗しきれる話ではないことを承知している証拠だ。「わな」論は、政権側がいかに反撃材料に事欠いているかの左証ではないだろうか。維新の柿沢未途の「わなだと言い張れば、受け取っても不問にできるのか」という反論が利いてしまうのだ。
 

火付け役の文春が何か「新事実」として2度目の攻勢をかけるかどうかも注目される。今週号の発売は28日だが、第2弾があれば27日にも漏れるのが通常だ。これがとどめを刺すかどうかだ。それでは今後の展開はどうなるのかだが、政権にとって1番いい選択肢は、甘利の自発的閣僚辞任だろう。


閣僚を辞任して、政治資金収支報告を修正して、政治資金規正法違反を逃れる選択だ。後は例によって「秘書のやったことは関知しない」で、あっせん利得処罰法違反は秘書にかぶせる方式だ。安倍政権としてはいったん閣僚を辞任してしまえば、関知しない形を整えられる。


国交省局長への商品券問題は残るが、大きな論点は辞任と同時に追及の行き場を失う。また安倍の任命責任は問われるが、甘利が閣内にとどまったままの追及とくらべれば天と地の差がある。
 

最悪なのは理屈をつけて決着を先延ばしにすることである。これは野党が1番喜ぶ方式だ。なぜなら通常国会の半年間政権追及の材料に不足しないからだ。ことあるごとに「甘利事件」で国会をストップすれば良い。審議は各駅停車となって、予算や法案にも重大な影響が及ぶ。内閣支持率はじり貧となり夏の国政選挙を直撃する。これでは世論の傾向から言って、安倍が本会議で強調した内政外交にわたる“挑戦”が、国民感情への“挑戦”になってしまう。


あまりにも大きなお荷物を抱えたままでは、安倍内閣の身上である軽快なる国会運営は不可能になる。要するに総理大臣たるもの、私情を捨て去ることが何よりも肝要だと言うことだ。経済再生担当相の代わりなど、自民党にはいくらでもいる。答弁に窮すれば安倍が代わりに答えてカバーすれば良い。
 

それにつけても安倍政権が不祥事による閣僚辞任が多いのはなぜだろうか。長期政権では冒頭述べた吉田の場合が17人中不祥事は1人。佐藤も10人中不祥事は1人。小泉は4人中1人。中曽根内閣、池田内閣は不祥事辞任ゼロだ。それに比べて安倍政権は1次から3次までで8人中6人が不祥事辞任だ。

おそらく政治資金規正法の改正やあっせん利得罪の新設、マスコミの風潮などが作用しているものとみられるが、内調などの事前調査が甘いことも原因かも知れない。 

         <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)